連載株式会社in3
【事例】個人ではなく、組織を変革する。
パーソルキャリアの「現場を巻き込む組織開発プロセスのあり方」とは
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株式会社in3の連載の最終回では、現在、「“最も活躍する”自分らしさあふれる組織風土」の創造に挑むパーソルキャリアの事例を紹介。企業とin3がどのような関わり方でプロジェクトを進めるのか、組織開発の現場のリアリティに迫る。
- TEXT BY YASUHIRO HATABE
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
変化の激しい時代に必要な組織文化
転職サービスの「DODA」、アルバイト情報サイト「an」などさまざまな人材サービスを手がけるパーソルキャリアでは2016年から新たな組織文化を創造するプロジェクトを進めている。
なぜ、全社を挙げて組織開発に取り組むのか。戦略人事統括部エグゼクティブマネジャーを務める加々美祐介氏は、「今回のプロジェクトが始まる数年前にも一度、組織文化を見直す機会があった」と振り返る。
加々美リーマン・ショック前の当社は、極めて“仕組みで回す”経営スタイルでした。業績が上がる仕組みを作り、KPIを日々管理しながら確実に売上目標を達成するマネジメントです。
しかし、パーソルキャリア(当時は商号変更前のインテリジェンス)もリーマン・ショックのあおりを受け経営危機に陥った。
加々美そこで一度、自分たちを省みました。結局、リーマン・ショックは経営危機のきっかけではあったけれども要因ではなかったんです。実際、その前から退職率は高まっていましたし、顧客満足度も急激に落ちていましたから。
そのことに気付いてからは、経営陣全員で何を成すためにこの会社が創られたのか、どういう存在意義で経営してきたのか、原点に立ち返って企業アイデンティティを確認した。
そこで経営陣が出した一つの答えが、2013年に打ち出された「顧客親密経営」だ。サービスコアバリューを定め、“顧客に支持される”サービスを一心に提供していけば、業績という結果につながり、ひいては社員の働きがいを生む。そう確信したそうだ。
加々美それまでのパーソルキャリアは、決まった計画・予算に使命感を持ってコミットすることに長けた組織でしたし、それをよしとする文化でした。しかし、これからの成長を考えたとき、このままの文化で良いのかと、経営陣が自らに再び問い直したのです。
やがて「顧客」をすべての中心に据える考え方が組織に浸透し始めたころ、パーソルグループ全体の新ビジョン「人と組織の成長創造インフラへ」を策定。
そのビジョン実現のためには、社員一人ひとりが自らを変革することで、“未来を創り出す力”を高め続けること。そして、変化に素早く適応するために、自ら学び・創造し・進化することが必要であり、それを促進する組織文化を創造することで、社員の働きがいも高まっていくという考えに至る。
加々美そうして私たちは、主体性と成長意欲を沸き立たせる人であふれる組織になるために、目指すべきカルチャー像を『最も活躍する自分らしさあふれる組織風土』と定めて、新たな組織文化の創造を始めたのです。
では、具体的に組織文化の創造をどのように進めているのだろうか。現在進行形でプロジェクトを率いるコーポレート人事統括部の小松由氏と、その取り組みに伴走するin3のディレクター・森井市彦氏に伺った。
全社員があるべき組織文化について「対話」する
プロジェクトはどのように進めてきたのでしょうか?
小松「人と組織の成長創造インフラへ」を達成するために、あるべき組織文化についての対話から始めました。ただ、いきなり4000人を超える社員が対話するのは難しいので、現在の組織文化の状態を把握するために、全社に対してサーベイを実施したんです。
その結果を元に、ゼネラルマネジャー・マネジャー陣に新たな組織文化とは何かを対話してもらい、それを自分のグループに持ち帰ってメンバーと対話をする建てつけです。
森井サーベイは、経営が現場の状況把握を目的としたいわゆる診断型ではなく、現場の社員の皆さんが主体的に組織開発に取り組むことを目的としたものです。
パーソルキャリアが目指すべき組織文化と現状を社員の皆さんに受け入れてもらわなければ意味がありませんから、プロジェクトがスタートする前の段階で、ゼネラルマネジャー・マネジャー陣にヒアリングを行ってサーベイを作成し、プロセスを設計しました。但し、その段階ではあえて、あるべき組織文化の具体的な定義は明示せずに行いました。
なぜプロジェクト運営側から明確に説明しなかったのでしょうか。
小松先にこちらから答えを示してしまうと、なぜそのような組織文化を創る必要があるのか、「Why」を自分で考えなくなってしまうからです。
森井「『What』を示せば着実にそれを実行する文化」から「『Why』を主体的に考える文化」へ変えたいわけです。まさに「自分で」考える機会を提供していくことが一つの重要なポイントでした。
サーベイは、現場が自ら新たな組織文化を考えるための素材集め
サーベイの内容について教えてください
森井「関係性を築く」「やる気を育む」「自律を促す」「変革を受容する」という4つのカテゴリに各5問、全部で20問の設問で構成しました。
たとえば、日頃からオープンに対話しやすい関係性のチームなのか、トライアンドエラーしやすい活動プロセスがあるかなどの設問で構成されています。
このサーベイは、簡易的な調査を短期間で繰り返し実施するもの。回答をスコア化して、その時の組織の状態を把握でき、回を追うごとに状態の変化が分かります。狙いは、サーベイの結果を刺激物としてチームの現状と目指すべき組織文化について対話することです。
スコアが徐々に良くなるのが理想的ですが、それが目的ではありません。サーベイから分かったチームの状態を踏まえて、メンバー自らが「なぜ今自分たちはこうなっているのか」を考え、対話し、その先に何をすべきかを導き出すことが目的なのです。
小松最初にサーベイを行なった後は、全社のゼネラルマネジャー・マネジャーが参加するワークショップを実施。サーベイの結果を踏まえて、なぜ今、この新たな組織文化の創造が必要なのか、その意義を考えていただきました。
「なぜ今、新たな組織文化の創造が必要か」に対してどんな答えが導き出されましたか?
森井将来、「最も活躍する自分らしさあふれる組織風土」になると、自分たちの会社が具体的にどんな状態になるのか、何が起こるのかをまずは話し合いました。
すると、今の組織文化との差が明確になり、「このままの状況ではまずい」「将来こうなったら組織がもっと良くなる」ということを感じとってもらえるようになるんですね。
小松あるゼネラルマネジャーは、「自分のマネジメントは、社員の主体性や成長意欲を阻害しているのではないか」という気付きを話してくれました。これまでのマネジメントは「管理」だったので、やればやるほどメンバーの主体性を削いでしまう。
森井「自分のしていることが組織にとってマイナス」と認めることは簡単ではありません。でも、新たな組織文化を創る上では、今までの信念や前提を疑ってみることがとても重要で、そこに気付けるからこそ、実践につなげられるわけです。
メンバー同士の対話を活発化することが組織開発のスタート
小松ゼネラルマネジャー・マネジャーが参加するワークショップの後は、チームに戻り、対話セッションを行います。マネジャーがファシリテーターになって、メンバー全員での対話をしてもらいます。まず、サーベイの項目と同じ「関係性を築く」「やる気を育む」「自律を促す」「変革を受容する」に関連した、会社の中で起こりそうな場面を4つ例示し、その場面での反応や言動を想像して書き出します。
次は、それに対して、「なぜこういう反応になるのか?」「どうなればいいのか?」などをディスカッションし、最終的には「どういう行動を増やすか/減らすか」という具体的なアクションに落とし込みます。
その流れの中で自分たちのチームのサーベイ結果も共有するので、現在の状態を全員が知り、全員が同じ目線でチームの未来を考えていくことができるわけですね。
その結果、どのような手応えがあったのでしょうか?
小松最初の対話セッションは、チーム自らが組織文化を創造する意識を高めること、メンバーとの対話に慣れてもらうことが目的でした。そのため、「関係性を築く」に偏ったアウトプットになりましたが、次の段階では本来のプロジェクトの目的により近づけられるようになりました。
森井通常の(エンゲージメント)サーベイだと、「関係性を築く」部分の結果だけで満足してしまうことが多いのですが、このプロジェクトが目指すのは「変革を受容する」こと。内向きの視点だけでなく外、顧客や社会へのインパクトを意識した変革行動を全員が取れるようになることです。
そのため、次の対話セッションは、メンバーが意識を外へ向けて、どのようなチャレンジをすれば、自分たちのアウトプットが高まり、顧客へより大きな価値を提供できるのか考えてもらえるような設計をしました。
小松この対話セッションはマネジャー陣から非常に好評です。つい内向きになりがちな組織文化の話を、「顧客志向」につなげられるので、流れをつくりやすかったようです。
半面、難しいテーマなので「1回では終わらない」という声もあります。そういいながら、自主的に3回も対話の場をもってくれたグループもあって。そういう話を聞くと素直に嬉しいですね。
「主体性を持て」と押しつける矛盾に陥らないために
このプロジェクトを進める上で、どこに難しさを感じますか?
小松組織文化の創造そのものを、ゼネラルマネジャー・マネジャー陣をはじめとする全社員に「主体性を発揮してもらいながら」進めていくことです。
森井現在は、組織メンバーの探求、実験、発見を促し、組織全体がさらに良い方法を探すための行動を育むフェーズだと思います。上から押しつけると「やらされ感」が出てしまう。どうすれば自分ごとと捉えて主体的にこのプロジェクトに参画してもらえるようになるか、相談しながら進めています。
小松今は試行錯誤中ですが、全般的に「こうしてください」ではなく、「このやり方を推奨します」という伝え方をしています。対話のやり方は伝えるので、あとは組織の状態に合わせてやってください、問題があればサポートします、というスタンスです。
たとえば、短期的成果を知らしめるために、サーベイでスコアが向上したグループにインタビューをして社内のイントラネットで公開したり、成果を生かしてさらなる変革を進めていくために、ゼネラルマネジャー・マネジャー向けに「こうしたらうまくいきますよ」というTipsをまとめたメルマガを配信したりしています。
個人単位ではなくチーム単位で考える
小松人事が集まる社外コミュニティでこのプロジェクトの話をすると、「新しいね」というお声をいただきます。何が新しいかというと、今までの人事系サーベイのほとんどが個人に紐付くものなんですね。360°評価にしても社員意識調査にしても、「個人に対する評価」「個人がどう思っているかの調査」であり、組織単位にフォーカスしているものは私も聞いたことがありません。
森井一般的な傾向として、個人に対して良い・悪いという評価をしてしまいがちですが、その人の能力が十分に発揮されていないとしたら、私たちは組織文化に問題があると考えます。
逆に、学習し成長する組織という視点で考えると、個人の学習や成長だけでは成し得ませんよね。だからこそ、組織文化に着目し、人材開発だけではなく組織開発を行うことが重要だと私たちは考えています。
このプロジェクトの先に、どのような成果を得たいと考えていますか?
小松「人と組織の成長創造インフラへ」というビジョンを達成すること。
その上で、組織文化に着目することが経営における新しいフレームの一つとして確立できるとよいなと思っています。
組織文化というと一見捉えどころがないように思えますが、「組織文化は可視化できる」「科学的に変えて行くことができる」という確信を社員一人ひとりが持てれば、そこに主体的に関われるようになるはずです。今は、それを証明するための“実験”のつもりで取り組んでいます。
こちらの記事は2018年08月28日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
畑邊 康浩
写真
藤田 慎一郎
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