今、超大手のキャリア採用が面白い3つの理由。商船三井・住友商事・丸紅・三菱地所の4社合同キャリア採用説明会(株式会社Bloom 主催)レポート

登壇者
伊藤 隆之
  • 株式会社商船三井 環境・サステナビリティ戦略部 環境戦略チーム サブチームリーダー 

大学卒業後、自動車メーカー・航空会社を経て2021年10月に商船三井へキャリア入社。入社後は環境・サステナビリティ戦略部に所属し、環境戦略の企画、進捗のモニタリングや実行のフォローを担当。商船三井グループの環境目標・アクションを社内外に示し、気候変動を始めとした環境課題に取り組んでいる。

山下 千尋
  • 住友商事株式会社 事業金融部 

大学卒業後、2011年に新卒でメガバンクに入行。法人向け融資業務経験後、プロジェクトファイナンス部(当時)に配属。主に電力インフラ関連のプロジェクトファイナンス組成やファイナンシャルアドバイザリー業務を経験。2020年に住友商事にキャリア採用として入社。事業金融部にて、主にインフラ関連の事業会社やプロジェクトの資金調達に係るサポート業務に従事。

東野 康明
  • 丸紅株式会社 海外電力プロジェクト第一部 部長代理 

大学卒業後、日揮株式会社でプラント営業、電力インフラ・バイオ燃料製造事業開発を経験後、2008年に丸紅へキャリア入社。入社後は中近東にてラービグIWSPPコジェネ案件、スワイハン太陽光発電事業を担当後、2016年より現職のAPEC地域所管部に異動し、ランタウデダップ地熱発電事業などを担当。現在は同地域の新規案件開発の管理・指導を行うとともに新エネルギー開発推進部と兼務。

田中 康司
  • 三菱地所株式会社 DX推進部統括 

大学卒業後、ソフトバンク株式会社にて携帯電話の電波改善・ロボット関連業務を経験後、2018年に三菱地所へ入社。入社後はTOKYO TORCH事業部に所属し、街区の開発業務やビル竣工後の施設管理運営・企画業務を担当後、2023年よりDX推進部にて、来街者向け商業アプリのマーケティングやテナント就業者サービスの企画・開発を担当。

転職を考えたとき、最初から超大手企業を目指そうとする人は恐らく少数派だ。昨今はメガベンチャーやスタートアップへの転職も盛んで、「転職して新たなチャレンジを」と聞けばそちらを思い浮かべる人もいるかもしれない。

しかし、近年は超大手企業もキャリア採用に力を入れている。商船三井・住友商事・丸紅・三菱地所というまさに超大手企業に転職して活躍する現役メンバーがその内情を語り合うイベントが、大手企業向けに特化したキャリア採用のWEBサービス『Bloomキャリア登録株式会社Bloomが運営)』の主催・運営によって2024年10月に開催された。新たなチャレンジの赤裸々なエピソードはもちろん、各社のキャリア採用への熱量が飛び出したこのイベントセッション。

「超大手企業への転職」という発想がなかった読者にこそ知ってほしい内容が詰まっている。今の時代だからこそ面白い、超大手企業での新たなキャリア開発について紐解いていこう。(2024年10月に行われたイベントの模様を抜粋・編集した記事です)

  • TEXT BY HANAKO IKEDA
SECTION
/

超大手への転職が面白い3つの理由

最初に少しまとめよう。FastGrowがこのイベントから感じたのは、3つの観点での面白さである。

1.“傍流”では全くない

超大手企業と聞くと、新卒採用が主流でキャリア採用はほとんど行っていないイメージが強いかもしれない。しかし近年はキャリア採用を重視する大企業が増えており、その力の入れようには驚かされた。

ビジネス環境が目まぐるしく変化する時代だからこそ、キャリア採用で様々なバックグラウンドを持つ人材を積極的に採用し、多様な価値観や経験値を取り入れていくことが事業成長につながるのだという。例えば住友商事では、採用数全体のうち47%(2023年度実績)がキャリア採用だ。

日経新聞が2024年4月に公表した調査結果で、国内の主要企業2,242社の回答から「2024年度の採用計画に占める中途採用比率は過去最高の43.0%と5割に迫る水準になった」とされている。

2.社内キャリアが多様化している

キャリア採用なら当然即戦力が求められると思いきや、全く経験のない分野で活躍することが可能な会社もあった。大企業は多角的に事業展開している分、辞令に従って与えられたポジションを全うすることが期待されるのでは?という印象もあったが、最近は大企業であっても柔軟なキャリアプランを描けるようになってきているという。ぜひこの後、各社での動きを具体的に確認してほしい。

3.ウェットでウェルカムな雰囲気が広がっている

転職が増えているとはいえ、半分以上は新卒入社の環境だと馴染みにくいのでは?と思ったが、どの会社も良い意味でウェットな人間関係を築くことが可能なようだ。社内の部活動や交流活動も盛んで、部署を超えた繋がりも作りやすい環境が整っているらしい。

どうだろうか?ではここから、実際にイベントで話された内容を一つずつ見ていこう。

SECTION
/

実は世界でも珍しい「総合海運企業」商船三井

イベント実施時点で、商船三井はグループの船隊規模が日本一、世界でも第2位の海運会社。タンカー・自動車船・ドライバルク船など、幅広い種類の船を取り扱う「総合海運企業」だ。特定の種類の船舶のみ専業で扱う企業が多い中、総合海運企業という事業スタイルは世界でも珍しい。近年ではエネルギー事業にも領域を拡大し、洋上風力発電など脱炭素時代に合わせたビジネスにも手を広げている。

まずは商船三井 環境・サステナビリティ戦略部の伊藤氏が、これまでのキャリアと商船三井での挑戦について語った。

伊藤私は3年前に商船三井にキャリア採用で入社し、現在は環境・サステナビリティ戦略部でグループの環境戦略の立案・実行を主に担当しています。新卒で自動車メーカーに入社し物流企画を担当、2社目では航空会社のコーポレート部門で業務改善を経験しました。

見ていただくと分かる通り「環境」という分野はまったく経験がありませんが、今は非常にチャレンジングでやりがいに溢れた仕事ができています。キャリア採用といえば「専門性を活かして活躍する」というイメージが強いですよね、確かにそういうケースも多いのですが、一方で転職であっても新卒採用のように、これまで経験がなかった分野にチャレンジできる環境があります。これは当社キャリア採用の特徴のひとつです。

登壇時のスライド

商船三井では、2050年までにグループ全体でのCO2排出量を実質ゼロにすることを環境ビジョンとして打ち出している。海運業ではCO2排出削減の障壁が高いとも言われる中、日々奮闘しているという伊藤氏。過去に環境分野での経験はなかったというが、商船三井に転職するまでの経緯も語った。

伊藤コロナ禍で当時所属していた業界が大きな影響を受け、新たな環境にチャレンジしたいと思うようになったのが転職のきっかけでした。

前職ではコーポレート部門で業務改革を推進することにやりがいを感じていたので、コンサルティング会社で業務改革を学んで自己成長を目指すことも考えました。ただ、中長期的なキャリア形成と「より主体的に動けるのはどちらか」を考え、最終的に事業会社を選択しようと決めました。商船三井への入社を決断したのは、海運業が果たす社会インフラとしての役割と「海運」のダイナミックさに惹かれたからです。

海運業に必要不可欠な「大型船」は、化石燃料で動くものなので、実はそもそも非常に環境負荷の高い事業。それでもグループの環境ビジョンとして「2050年までにネットゼロ・エミッションを達成」という高い目標を掲げ、大きな転換点を迎えています。

例えば現在取り組んでいるのが「ウィンドチャレンジャー」という装置で、風の力を船の推進力に変えることができます。他にも船の効率的な運航や燃料をクリーンなものに変えていくなど、海運業のCO2排出量を減らすプランを実行するフェーズに入っていく段階です。今はこれらの環境戦略を企画する部門にいますが、今後は実行する部門にも興味がありますね。

商船三井では非海運事業も展開しているので、これらの事業でも現在取り組んでいる環境分野での経験は活きてくると思います。「環境」という軸を持ちながら視野を広く持って、様々な部署で会社に貢献できたらという気持ちです。

登壇時のスライド

キャリア採用ではそれまでの経験を活かした即戦力としての役割を期待されることが多いが、全く経験のなかった環境分野で大きなやりがいを感じているという伊藤氏。大手企業ながらキャリア採用の割合が高く、周囲と打ち解けやすかったのも魅力だという。

伊藤陸上勤務社員は903名ですが、昨年度は81名がキャリア採用で入社していますので、転職だと片身が狭いといったことは全くありません。

ベトナムの事業所を訪問して環境の取り組みについて意見交換したり、所属している社内テニス部の活動で土日は同僚とテニスをしたり、同僚と一緒にマラソン大会に出たりしています。同じフロアの方とゴルフに行くこともありますね。オンオフともに充実した日々を送っています。

登壇時のスライド

伊藤こう聞くと、かなりウェットな環境なのでは?と思った方もいるかもしれません(笑)。もちろん業務とプライベートは分けたいという方もいらっしゃいますし、その意見も尊重されますのでご安心ください。

SECTION
/

メガバンクでの法人融資経験が、住友商事の投資事業で大きな価値に

日本を代表する総合商社である住友商事の名前を知らない読者はいないだろう。鉄鋼・自動車・資源など9つの事業領域を有し、65カ国・地域で連結7.9万人の社員を擁する超大手企業だ。

新卒入社のイメージが強い総合商社だが、近年、住友商事はキャリア採用を積極的に実施中。2023年度は新卒の採用人数100名に対し、キャリア採用は88名で、採用数全体に対するキャリア採用の割合は47%。「思ったよりもかなり高い」と驚いた読者も少なくないのではないだろうか。

トレーディングと事業投資の2軸で事業展開する住友商事からは、銀行出身の山下氏が登壇した。

山下私は新卒でメガバンクに入行し、社会人10年目の年に住友商事にキャリア入社しました。現在は事業金融部に所属し、弊社が出資する事業会社やプロジェクトに対して財務面でのアドバイスや金融機関との交渉等を含めた資金調達のサポートをしています。

学生時代は、経済学部国際経済学専攻でファイナンスを学び、もともとプロジェクトファイナンスに興味があり、新卒ではグローバルでも幅広く展開しているメガバンクを選びました。最初の2~3年は大阪の支社で法人向け融資を担当し、財務分析や営業としてのいろはを学びました。その後東京本社に異動し、プロジェクトファイナンス部(当時)で7年ほど過ごした後、2020年に住友商事に入社しています。

転職のきっかけは、大きく2つありました。

まずは案件に関わるタイミングです。銀行ではスポンサー側に立って、プロジェクトファイナンス組成支援をするファイナンシャルアドバイザリー業務にも従事していましたが、それでも案件化が決まってから「どうファイナンスを組んでいくか」の段階で関わることが多く、もっと前の初期段階で、事業者がどのようなことを考えながら案件を採り上げて、創り上げていくのか知りたい想いが強くなっていきました。

2つ目は関わる立場に関する葛藤です。銀行として資金を融資する立場から、投資サイドである事業会社として事業を推進する側に自らが行ってみたい気持ちが生まれました。

銀行での経験を通して、事業会社では採算性はもちろん、さまざまな関係者が幅広い検討ポイントについて議論しながら事業を進めていることを肌で感じました。自分も「どのように事業を推進していくか、その裏にはどういった戦略やリレーションがあり、社内でどう議論がなされ、どのように決断を下していくのか」に興味を持ち、であれば自分が事業会社に行って学ぶしかないという想いで転職を決意しました。

銀行時代はファイナンスのプロとして、スポンサー側の立場でファイナンスを考える立場にいたという山下氏。現在は住友商事の事業金融部で、住友商事が出資する事業会社や新規プロジェクトに対する財務面の支援を担当しているという。財務部で経験を積んだうえで、次の場所として希望した現職に移動した形だ。

山下商社ならではかもしれませんが、キャリア採用で入社した当時は、新卒採用時に配属された部署がそのまま自分のキャリアになるといった雰囲気も残っていました。ただ、それも現在、大きく変わったと感じます。

最近は社内公募も活発化されていますし、新卒採用においては入社時に部署を選択できる「WILL選考」という選考形式もあります。キャリア採用においては、募集組織に対して応募する形式ですので、入社時に自分の希望を選択したうえで選考に進むことができます。「やりたい」という希望を聞いてもらえる職場で、かなり柔軟にキャリアプランを描けるようになってきていますね。自分も現在は希望していた業務が担当できているので、思い切って転職を決断して良かったなと感じています。

今は事業金融部で、住友商事が出資している事業会社や新規プロジェクトに対して資金調達含む財務面のアドバイスを行っています。例えば為替ヘッジや借入の際の銀行選定のポイント・銀行との交渉のアドバイスなどです。単体の資金調達以外の財務・ファイナンスに関するすべての相談を受けますので、銀行時代に得た知識や経験も使いますし、新たに勉強することも多く、知識の幅がさらに広がっています。

また現在は主にインフラ関連の組織を幅広く担当しているので、国内外の洋上・陸上風力発電などの再エネや鉄道などのインフラ関連における、プロジェクトファイナンスに携わる機会が多いです。将来は海外の財務拠点や事業会社で、主に資金調達を含む財務観点でのアドバイスをすることを通じて、住友商事及びその事業会社のバリューアップに資する存在を目指したいですね。

人財マネジメントの面でも進化を続けている住友商事。総合商社というビジネスモデルにおいては事業を成長させるのは社員一人ひとりの力であり、その力を解き放てるような制度・仕組みづくりを企業としても大切にしているのだという。

山下キャリア採用の割合が採用数のほぼ半分を占めることもあって、人と人との関係性においてはキャリア採用と新卒採用の違いは特に感じません。むしろキャリア採用ならではの視点やスキルはプラスになると言ってもらえるので、相乗効果を生み出していると思います。

日々の働き方においても、個人の働きやすさを重視してくれています。男女ともに時短勤務や育休を選択している方がいますし、在宅勤務も認められています。一人ひとりのライフスタイルに合った働き方ができるのも大きな魅力ですね。

登壇時のスライド

SECTION
/

多様な価値観を求める総合商社、丸紅

続いては同じく総合商社の丸紅。全世界で130の拠点を持ち、グループ連結で5万人の従業員が働く大企業だ。しかし、実は単体従業員数は約4千人と、総合商社の中では少数であり、若手やキャリア入社問わず「まずは仕事を任せる」という風土がある会社でもある。また、海外駐在者の割合も多く、グローバルに活躍している人が多いことも特徴だ。

「できないことは、みんなでやろう。」というスローガンにも表れている通り、グループの強みや社内外の知、ひとり一人の夢と夢、志と志、さまざまなものを縦横無尽にクロスさせて新たな価値を創造することをあるべき姿としている。ビジネスにおける意思決定にも多様な価値観を取り入れていかなければ、時代の変化に対応できないという危機感から経営戦略としてキャリア採用を推進しており、採用全体の女性比率50%も目標に掲げる。2024年3月期の実績は42.7%で、管理職の女性比率も年々上昇しているという。

登壇時のスライド

丸紅からは、2008年入社の東野氏が登壇。キャリア入社16年目のベテランの立場から、今まさに転職を考えている若手へのメッセージも交えながら語った。

東野私は新卒で日揮という建設・エンジニアリングの会社に入社して、医薬品プラントや海外LNGの営業などを担当していました。8年ほど在籍し、当時担当していた事業開発に注力している企業でキャリアを積みたいと思い、丸紅に転職しました。

新卒では大きな社会インフラを作る会社に的を絞って就職活動しましたが、入社してみると文系社員としての業務スコープは限られていて、ある程度の裁量を持てるまでは一定の時間がかかることが分かったのも転職理由のひとつです。

丸紅に入社してからは主に発電事業に関わっておりまして、サウジアラビアでの駐在も経て、現在は部長代理としてアジア環太平洋地域の電力ビジネスの案件開発の管理・主導をしています。

丸紅は世界で約80か所の発電所を運営しており、発電事業はグループの事業ポートフォリオの中でも重要なもののひとつ。再生可能エネルギーやガス火力など、原子力以外のほぼ全ての発電技術を取り扱うという。そんな発電事業も、「脱炭素」の大きな転換期の只中にある。

東野エネルギー業界にいる方は肌で感じているかもしれませんが、発電事業は今まさに50年・100年に一度の大きなパラダイムシフトの中にあります。

丸紅の電力ビジネスも10~20年前までは「発電するまで」が仕事でしたが、電源提供から電力の小売り・サービスというビジネスモデルへの転換が進んでいます。扱うものの幅も水平的に広がっており、水素などのクリーンエネルギー燃料や、それらを扱うためのサプライチェーンも事業の一環です。

登壇時のスライド

東野電力事業の広がりの中で、アジア環太平洋地域の中でも様々な案件が生まれています。事業投資はもちろん、オリジネーション、エクイティの再構築、技術開発を伴うPoC(Proof of Concept)事業といったさまざまな展開があります。洋上風力や地熱発電など多様な再生可能エネルギーから派生するクリーンエネルギー発電の実証やエネルギーの貯蔵・輸送など、非常に多岐にわたります。

現在私は管理職という立場なので、これらのプロジェクトを現場で推進している部下の育成とトラブルシュートを中心に業務にあたっています。

丸紅に入社後も決して成功体験ばかりのキャリアではなく、入札敗退や大規模トラブルなどの挫折を何度も経験したという東野氏。特に大手企業への転職を考える場合は、「何が欲しいのか」を自らに問うことが最も大切だと語った。

東野転職するならば、ご自身の求めるリスクとリワードをよく見極めることがとても重要だと思います。現状を変えたいだけであれば、転職するだけで達成できてしまいますから。

「今得られていないもの」は大した問題ではなく、「これから自分が欲しいもの」が何なのか、どんな環境でどう努力すれば手に入るのかを考えるべきです。前進し続ける限り、後悔は発生しませんから、ぜひチャレンジしてください。

SECTION
/

まちづくりという手段を通して社会に貢献する三菱地所

最後に登場するのは、日本を代表する総合不動産デベロッパーである三菱地所。丸の内エリアの開発をイメージする読者も多いかもしれないが、国内外の商業施設・物流施設・ホテル・住宅などを幅広く取り扱っている。

グループ全体では国内外で約11,000名の社員を擁するが、単体の社員数は1,000名程度。役員を含めた社員同士の距離が非常に近く、新卒・キャリア採用も関係なくワンチームで業務を推進していく企業風土も強みのひとつだという。

「ビルを建てて終わり」ではなく、まちづくりという手段を通して立場の異なるあらゆる主体が、経済・環境・社会の全ての面で持続的に共生環境を構築できる場と仕組みを提供することを目指す三菱地所。ソフトバンク出身で現在はDX推進部にて統括を務める田中氏が、入社の背景や三菱地所のまちづくりの進め方について語った。

田中私は2009年に新卒でソフトバンクに入社し、2018年に三菱地所にキャリア採用で入社しました。

私が新卒の頃は、携帯キャリアの中でもソフトバンクの通信環境が一番悪いと言われていた時代で、通信環境を改善するよう社内で大号令が出ていたこともあり、とにかく通信環境の改善に取り組んでいました。

その後、2015年に社内公募でソフトバンクロボティクスという会社に出向しまして、ペッパーやお掃除ロボットなどのロボット製品を日本でローンチするためのプロジェクトマネジメントやアフターサービスの建付けを担当していました。

元々ソフトバンクに新卒で入社した時も、長い人生をずっと同じ会社で働くのではなく、せっかくなら異なる環境で働いてみたいと思っていました。ソフトバンクでも様々な業務を経験し、良いタイミングだと感じたので転職活動を始めることにしたんです。

実は高校時代は建築家になりたかったのですが、大学は文系の学部に進みました。社会人になって「やっぱり建築やまちづくりに携わってみたい」という後悔が出てきたときに、転職活動を通してデベロッパーという仕事を知りました。文系でもまちづくりに関われる仕事ということで興味を持ち、三菱地所にご縁があり入社しました。

前職のIT企業とは大きく異なる不動産業界で活躍している田中氏だが、三菱地所のキャリア採用では異業種からの転職が大半を占めるため、珍しいことではないという。

入社後はTOKYO TORCH事業部に配属となり、東京駅日本橋口前にあるTOKYO TORCH街区の開発を担当し、主に常盤橋タワーの開発、オフィステナントの就業者向けアプリの企画開発、街区内の広場にある「錦鯉の池」の企画開発を経験している。

Torch Towerの外観(提供:三菱地所)

田中私自身、ビルの開発部が実際に何をやっているのか、入社するまでは具体的なイメージがついていませんでした。せっかくの機会なので、TOKYO TORCH事業部での経験をもとにご説明します。

まずは企画です。どんな建物を作りたいか、建物にどんな機能を持たせるかを練っていきます。例えば、オフィステナント就業者限定の食堂機能やカフェテリア、ラウンジの設置などですね。企画が固まったら、施工会社や設計会社といった組み先を探します。その後、地権者や行政機関を交えて計画を詰めていき、工事に入ります。

建てて終わりではなく、その後も運営管理の仕事が続くことがポイントです。竣工後、利用者のご意見にどう対応するか、どう改修するかの方針を決めるのも運営管理の役割です。

例えば、TOKYO TORCH事業部では、常盤橋タワーで就業する方々のリクエストに応えて、企業対抗運動会を開催したり、街区内広場にキッチンカーを誘致したりしていました。また、意外に思われるかもしれませんが、大手町・丸の内エリアを訪れるファミリーや、近隣の幼稚園・保育園に通う子どもたちも少なくないので、街区のコンセプトに合わせた遊具スペースの企画、設置も行いました。

特に、私が常盤橋タワーで担当した「錦鯉の池」がミニマムな不動産開発の良い例なので、詳しく説明します。

TOKYO TORCH街区では、「日本を明るく、元気にする街」をコンセプトに、東京駅前から地方創生に貢献することを目的とし、全国の様々な自治体と協働した取り組みを進めています。その一環として「錦鯉が泳ぐ池」の企画が立ち上がり、錦鯉発祥の地として知られる新潟県小千谷市様にお声掛けした結果、協働させていただくことになりました。次に、錦鯉の鑑賞池の設計施工を得意とする企業様と組み、安全面や設備確認を含めて詳細を詰め、設計をまとめていきました。

錦鯉の池のパース(完成前の想像写真)と竣工後の写真を見ていただくと、パースから変更している点もいくつかあるのが分かりますよね。パースもあくまで途中経過なので、安全面を含めてブラッシュアップしていき、最終的な企画を竣工まで導いていくんです。

工事中の進捗管理も仕事のひとつです。例えば地面を掘ったら配管が出てきたがどうするかだとか、時には想定外の事象にも対応しながら工事完了まで導いていきます。最終的には池の運営体制を整備し、どのように運営管理していくかを詰めるところまで行います。

錦鯉池(撮影:川澄・小林研二写真事務所、提供:三菱地所)

田中氏はTOKYO TORCH事業部でまちづくりの一連の流れを経験した後、DX推進部に異動。現在は三菱地所が運営するビル内で働く就業者を対象としたアプリやサービスの企画・開発を担当している。

田中DX推進部では「丸の内ポイントアプリ」と就業者向けサービスの大きく2軸の業務を担当しています。

丸の内ポイントアプリは大手町・丸の内・有楽町で使えるポイントアプリで、このアプリの利用や購買を促進するためのデータ分析や施策の検討と実行を担当しています。

三菱地所は建物をいろいろと建ててはいますが、「建物というハード面だけではなく、ソフト面でも利用者の方にサービスを提供できるような接点を設けるべき」ということで立ち上がった取り組みが就業者向けサービスです。

大手町・丸の内・有楽町エリアには、合計約35万人の就業者の方々がいらっしゃるので、就業者の方々に向けたサービスや接点にはどんなものがあるかを、課題抽出から調査、企画、PoCを経て商用化するまでの新規サービス企画も行っています。

日本を代表する超大手企業で、キャリア採用で活躍する4名のエピソードをお届けした。前職での経験を直接活かしている人もいれば、全く異なる分野に挑戦している人もいる。共通しているのは、今回登場した4社はいずれも社を上げてキャリア採用に取り組んでおり、入社時・入社後もチャレンジの道が開かれていることだ。超大手企業には新卒でないと入りにくい、転職しても馴染みにくいといったイメージは既に過去のものとなっている。転職の選択肢のひとつになれば幸いだ。

こちらの記事は2024年12月09日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

記事を共有する
記事をいいねする

執筆

池田 華子

会員登録/ログインすると
以下の機能を利用することが可能です。