日本初、“スタートアップ専門の投資銀行”という未来図──ベンチャーデットファンド設立を皮切りに、Funds Startupsが描く新たな金融エコシステムの全容に迫る

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小島 崇
  • Funds Startups株式会社 執行役員/Funds Venture Debt Fundパートナー 

1996年上智大学 経済学部卒業、2001年ジョージタウン大学 修士課程終了、2008年中央大学大学院 専門学位課程終了。1996年三井信託銀行株式会社(現三井住友信託銀行株式会社)に入社。その後、2001年ゴールドマン・サックス証券株式会社東京支店に入社し、株式資本市場部にて複数のグローバルオファリング案件に関与。2002年フェニックス・キャピタル株式会社に入社、NPL案件、事業再生案件、スピンオフ案件等への投資を多数経験。2013年株式会社新生銀行(現株式会社SBI新生銀行)に入社、ベンチャー企業への投融資と成長支援、銀行内のオープンイノベーション業務に従事。2022年株式会社デジタルガレージに入社、事業部長として新規フィンテック事業の立ち上げに尽力。2024年4月にFunds Startups株式会社執行役員/Funds Venture Debt Fundパートナーに就任。

田中 慶一朗
  • Funds Startups株式会社 Funds Venture Debt Fund プリンシパル 

2014年大阪大学 外国語学部卒業。2014年みずほ証券に入社以来、香港への駐在期間を含め、エクイティシンジケーション部にてIPOなどの株式引受関連業務に従事し、海外機関投資家への案件紹介や販売といった業務を中心に担当。2021年からは、同社にてオルタナティブファンドへの自己資金投資業務に従事し、国内外のPrivate EquityやPrivate Debtファンドとの関係構築や投資実行を担当。2024年5月にFunds Startups株式会社に参画/Funds Venture Debt Fundプリンシパルに就任。

小原 満美
  • Funds Startups株式会社 Funds Venture Debt Fund プリンシパル 

State University of New York at Buffalo (B.Sc. in Finance)卒業。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。大学卒業後、あおぞら銀行に入社し、個人向け資産運用商品の企画業務に従事。その後、プライベートエクイティ・デットファンドや非上場企業の投融資審査およびリスク管理を経験し、2021年よりあおぞら企業投資にてベンチャーデットファンドのキャピタリストとして従事。その後、デロイトトーマツベンチャーサポートを経て、2024年7月よりFunds Startups株式会社に参画し、Funds Venture Debt Fundのプリンシパルに就任。

日本の金融界に、静かながらも確実に新たな潮流が生まれつつある。「ベンチャーデット」──この言葉を耳にしたことがあるだろうか。急成長するスタートアップ企業に対して資金を提供するこの金融手法は、従来のベンチャーキャピタルや銀行融資の枠を超えた新たな可能性を秘めている。そして今、この潮流の最前線に立ち、さらなる革新を目指す組織がある。ファンズの子会社として設立された「金融機関共同研究型ベンチャーデットファンド」を運営するFunds Startupsだ。

しかし、同社が見据えるのは、ベンチャーデットファンドという枠にとどまらない、「スタートアップ専門の投資銀行」という、日本の金融界に前例のない存在の確立だ。ベンチャーデットもその多彩な武器の一つに過ぎない。スタートアップの成長段階に応じたこれまでにない金融商品やサービスの開発に日々挑戦しているのだ。その姿勢は、ファンド名に冠された「研究型」という言葉にも如実に表れている。

Funds Startupsには、銀行、証券会社、ベンチャーキャピタルなど、多彩なバックグラウンドを持つ小島氏、田中氏、小原氏(詳細は上述のプロフィール欄を参照)。そして、ファンズ取締役CFO前川氏や、業界のルールメイキングに精通する取締役CLO髙尾氏といった専門家たちが集う。

なぜ、これほどのプロフェッショナル人材たちが、一つのスタートアップに引き寄せられるのか。彼/彼女らは何を目指し、どのような未来を描いているのか。そして、その挑戦は日本の金融システムにどのような変革をもたらすのか。

本記事では、Funds Startupsが描く金融の未来像と、そこに向かって躍動するメンバーの姿を余すところなく伝える。金融の歴史に新たな1ページが加えられようとする瞬間の、貴重な証人となるかもしれない。

  • TEXT BY SHUTO INOUE
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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金融の常識を覆す、「スタートアップ専門の投資銀行」への船出

2022年12月、金融業界に新たな風を巻き起こすプロジェクトが静かに動き出した。Funds Startupsの誕生である。ファンズ取締役CFO前川寛洋氏の頭の中で描かれていたのは、従来の金融の枠組みを超越する、全く新しい金融サービスの姿。「未来の不安に、まだない答えを。」──このファンズのミッションが、同社の新たな挑戦の原動力だ。

しかし、その道のりが平坦でないことは明らか。ベンチャーデットファンドの立ち上げでは、通常の投資ファンド以上に高いハードルが存在する。その理由の一つは、ベンチャーデットという金融商品自体がまだ日本では馴染みが薄く、リスクとリターンの評価が難しいことにある。

ベンチャーデットは、急成長するスタートアップ企業に対して負債性の資金*を提供する金融商品だ。しかし、これらの企業は往々にして従来の財務指標では評価が困難であり、将来の成長性や技術の革新性といった定性的な要素こそが重要となる。さらに、リターンの一部が新株予約権などのエクイティ性の要素を含むため、デットとエクイティの中間的な性質を持つ。この複雑性が、リスクの評価とそれに応じたリターンの設計を一層困難にしているのだ。

*負債性の資金:有利子負債(利子を付けて返済しなければならない負債)による資金

小島ファンドの立ち上げは、外部から見ている以上に困難を伴います。先人たちの多くの試みが途中で頓挫する中、我々のファンドは特に難度が高いものでした。機関投資家から、前例のないベンチャーデットという金融商品の、そして一般的に難度の高い1号ファンドへの出資を募ったからです。

さらに言えば、20代のCFO(前川氏)が率いるファンドに数億円の出資を仰ぐという、業界では考えられないような挑戦でしたね。

小島氏

小島氏が紡ぎ出すその言葉からは、Funds Startupsが挑んだ領域の困難さがひしひしと伝わってくる。ベンチャーデットという新概念の金融商品に対し、多くの投資家が二の足を踏む中、ファンド立ち上げの道のりは決して平坦ではなかった。

特に、機関投資家からの資金調達は大きな壁となる。チームは2023年9月末までのリードLP獲得という、自ら課した厳しい撤退基準とも戦っていた。果たして同社は、この困難を乗り越えることができたのか?

答えは「Yes」だ。期限ギリギリにも、同社は目標を達成し、2024年3月には第一号ファンドの設立、1st closeを成し遂げたのだ。

この表で示すように、それぞれが個性を持ち、それらを融合させている。ただし、プロ向けファンドの組成経験を持つ者はいなかったという点にも注目したい

そんな中、CFOである前川氏の自由な発想力、アイデアが何度もチームに新たな可能性を示したと言う。

田中前川さんの自由な発想力は、我々の常識を覆すものばかり。例えば、とある上場企業の子会社へのベンチャーデット案件において、その上場企業の株価に連動したリターン設計を提案するなど、スタートアップ融資としては前例のないアプローチです。そのアイデアをそのまま実現することは難しいですが、多くの議論を重ね、実現可能な形に落とし込んでいくのが我々の役目。この過程自体が、非常に刺激的でクリエイティブなものでしたね。

田中氏

2024年3月、国内唯一の「金融機関共同研究型ベンチャーデットファンド」を設立。注目すべきは、「研究」という言葉をファンド名に入れるという、業界では前例のない試みだ。

小原私は前職でベンチャーデットファンドのキャピタリストとしての経験がありますが、Funds Startupsは従来のデットファンドをさらに進化させるような、柔軟かつ革新的なアプローチを採用しています。我々はスタートアップの実情に即した、真に価値のある金融サービスは何かということを常に追い求めています。

小原氏

Funds Startupsは、設立からわずか半年で約100件の案件を精査、そのうち既に3件のベンチャーデットを投資委員会で承認。その中には、病院や医師向けの人工知能技術(AI)関連医療機器の開発を行うアイリスへ4億円のベンチャーデットを実行といった大型案件の他、不動産テック領域のすむたすへのベンチャーデットの実行が含まれる。さらに最近では、経済産業省が提供する「ディープテックベンチャーへの民間融資に対する債務保証制度」の指定金融機関に独立系ベンチャーデットファンドとして初めて指定されるなど、領域やビジネスモデルに制限なくさまざまな企業を支援対象としているのも特徴だ。

しかし、同社が目指すビジョンはさらに大きい。単なるベンチャーデットファンドの運営ではなく、「スタートアップ専門の投資銀行」として、日本の金融システムそのものをアップグレードすることを目指しているのだ。スタートアップエコシステムにおける資金循環の円滑化、ミドル・レイターステージのスタートアップへの資金調達手法の多角化──その壮大な挑戦に、今、業界の熱い視線が注がれている。

Funds Startupsは、日本の金融に新たな地平を切り開くことができるのか?それとも、前例のない挑戦の前に立ち尽くすことになるのか?同社の挑戦は、まだまだ始まったばかり。しかし、その船出が、日本の金融の海に大きな波紋を広げていることは、もはや誰の目にも明らかだろう。

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銀行、証券会社、VC、多様なバックグラウンドを持つ専門家が一堂に会する場所

そんなFunds Startupsでは、銀行員、インベストメントバンカー、ベンチャーキャピタリストといった多種多様の金融のバックグラウンドを持つメンバーが一堂に会し、日々白熱した議論を交わしている。ファンズというスタートアップがそもそも、多様な個性・強みを持つメンバーを集めて多事業に取り組んでいるわけなのだが、その中の一つの事業においても、このように一見、見慣れない組み合わせがある。こうした点こそが、同社のユニークネスであり、最大の強みだ。

小島氏は、三井信託銀行(現三井住友信託銀行)、ゴールドマン・サックス証券、フェニックス・キャピタル、新生銀行(現SBI新生銀行)と、金融業界の様々な現場を渡り歩いてきた。

田中氏は、みずほ証券でIPOなどの株式引受販売業務に従事し、海外機関投資家への案件紹介や販売を担当。香港駐在の経験も持つ。

小原氏は、あおぞら銀行でプライベートエクイティ・デットファンドや非上場企業の投融資審査を経験し、その後、あおぞら企業投資が運用するベンチャーデットファンドのキャピタリストとしてキャリアを積んできた。

この多様なバックグラウンドが一つのチームに集うことこそ、Funds Startupsの強みとなっている。

小原私たちのチームの最大の強みは、その多様性にあります。異なるバックグラウンドを持つメンバーが集まり、多角的な視点からリスクとリターンを議論できる点が、従来の金融機関とは一線を画しています。

例えば、ある案件を検討する際、私がVCの目線で成長性を評価すれば、小島さんがバイアウトファンドの経験から財務の健全性をチェックし、田中さんが証券市場の動向を踏まえた出口戦略を提案してくれます。

また、代表パートナーの前川さんは現役CFOでもありますので、調達サイド(スタートアップ側)の目線感を補ってくれる事もあります。このように、各メンバーが専門的な視点からディスカッションを行うことで、バランスの取れた意思決定が可能になり、他の金融機関にはない価値を生み出す源泉になっていると思います。こんな議論が日常的に行われているんですよ。

この多様性は、スタートアップならではの機動力と組み合わさることで、より大きな力を発揮するようだ。

小島我々は、スタートアップとしての機動性を活かし、規制環境の変化にも迅速に対応しています。例えば最近、金融庁が国会に提出し可決成立した「事業性融資の推進等に関する法律案」に対して、法律は未施行ながら、我々は即座に体制を整え、新商品の検討にも着手しました。これは、大手金融機関ではどうしても難しいスピード感です。

田中Funds Startupsの面白さは、スタートアップエコシステムへの理解と熱意を持ちつつ、同時に金融のプロフェッショナルとしての冷静な視点も持ち合わせていることです。例えば、私の場合、証券会社時代に株式引受やVCへのファンド投資の経験を積んできましたので、スタートアップの成長フェーズにおける資金需要のタイミングについて理解があります。

一方で、金融商品としてのベンチャーデットの可能性にも強い関心を持っています。個別の投資案件のリスクとポテンシャルを見極め、十分なリターンが取れる設計にどのように落とし込むか。

この二つの視点が融合し、正しいリスク評価のプロセスがブラッシュアップされれば、新しい金融商品が市場に定着するものと期待しています。

しかし、同社の挑戦は順風満帆というわけではない。規制の壁、投資家の理解、リスク管理...乗り越えるべき課題は山積みだ。

それでも、その目は輝いている。なぜか?それは、今まさに、日本の金融の新しい地平を切り開こうとしているからだ。

その挑戦は、果たしてどこまで行くのか。Funds Startupsが従来の金融の常識をどのように覆そうとしているのか、その具体的な取り組みに迫ってみよう。

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銀行以上にシビアなリスク評価×常識の枠を超えた商品開発力を武器に

Funds Startupsのオフィスに一歩足を踏み入れると、従来の金融機関とは一線を画す空気が漂う。ラフながら洗練された装いのメンバーたちが、熱を帯びた表情で議論を交わす。

「既存の枠組みを超えて、新しい金融の形を創り出すんだ」

「他の金融機関では手を出せない案件こそ、我々の仕事」

「前例がないからこそ面白い」

難解な金融理論や複雑な規制の話題が飛び交う中、メンバーたちの表情は不思議なほど明るい。話が難しくなるほど笑みを浮かべる。

そう、ここでは、リスクは恐れるものではなく、むしろ挑むべき対象なのだ。

こうした思考を持ち得るのは、基幹事業『Funds』での圧倒的な実績があってのものだろう。2024年10月16日現在、330ファンドの運用を無事終了させ、元本毀損は一切なし。累計ファンド募集金額は約765億円に達する。*

この数字を聞いて、誰もが驚きの声を上げるだろう。同領域で、これほどの実績を積み上げたスタートアップは稀有なのだから。

しかし、そんなファンズ率いるFunds Startupsの真骨頂は、単にリスクを回避することではない。

*将来の運用成果等を保証するものではありません

小島我々のリスク評価は、ある意味で銀行以上にシビアかもしれません。案件ごとに徹底的な分析を行い、リスクとリターンのバランスを細かく見極めていくんです。時にはマーケット平均を上回るレート設定も辞さない。ただし、それはリスクに見合うリターンが期待できると判断した場合に限ります。

我々の強みは、スタートアップのニーズに合わせて柔軟にファイナンススキームを組み立てられること。例えば、成長ステージに応じて金利を変動させるスキームも構想中です。初期は低めの金利で負担を軽減し、成長に伴って段階的に引き上げていく。これにより、スタートアップの資金繰りを助けつつ、我々も適切なリターンを確保できると考えています。

また、業績に連動させる型でファンドへリターンを返すスキームという可能性もありえますね。従来のスキームでは、株式持分を提供するとともに、業績が低迷している時期でも一定額の返済が必要でしたが、このスキームでは、株式持分の希薄化を避けつつ、スタートアップの不確実性の高い収益構造に適した仕組みといえるでしょう。

もちろん実現には、精緻な財務モデリングや契約面での工夫が必要ですが、成功すればスタートアップのCFや希薄化へ負荷を与えずに資金を供給する新たな方法として、スタートアップ企業へのデットファイナンスの在り方を変える可能性がありますよ。

Funds Startupsのリスクリターンの評価手法は、一般的なVCや銀行とはやや異なるものだ。案件の個別性がより高く、検討スピードも求められる中で、どのようにリスクリターンを計算しているのか。その複雑さは、外部の人間には理解しがたいものがある。

田中氏は、この複雑なリスク評価プロセスについて、熱を込めて解説する。

田中我々のリスク評価のアプローチは、単純な「高リスク高リターン」、「低リスク低リターン」という二元論では説明できません。ベンチャーデットの特性を活かし、リスクとリターンのバランスをとれた投資条件を、様々な手法で設計することができる。

例えば、ある案件では融資部分単体では我々が必要とする期待リターンを下回る利回りで設定し、同時に新株予約権などのエクイティ部分で高リスク高リターンの要素を組み込む。あるいは、小島さんが今話した通り、業績に応じて返済条件が変動する仕組みを入れることで、企業の成長結果に応じて一定のリターンを確保する。このように、様々な設計を組み合わせることで、案件全体として最適なリスク・リターンの設計を目指しています。

リスク評価とリターン設計のバランスは、アセットの現在価値評価がベースにあると思います。ベンチャーデットは、融資とエクイティ(新株予約権)が合わさったプロダクトですから、それぞれの期待リターンを要求リターンで割り引いて現在価値を算出する。ただし、リスクの見極めと適切な要求リターン水準の設定が鍵となり、ここが最大の難関なわけですが(笑)。

もちろんまだ完璧な正解は存在しないので、常にPDCAを回しながら各案件の特性や企業の成長ステージを細かく分析し、柔軟にストラクチャリングを行っていく。この単なるデットでもエクイティでもない、その中間に位置する新しいアプローチと継続的な改善プロセスこそが、我々の専門性と付加価値の源泉だと考えています。

小島大手金融機関では、審査や条件設定のプロセスを標準化することで、効率性を高めていますよね。これは大規模な組織運営には不可欠なアプローチですが、その結果、どうしても個別の状況に応じた柔軟な対応が難しくなる場合があります。我々は、そこに新たな可能性があると考えているんです。

また、従来の銀行の慣行だと、どうしてもダウンサイドをヘッジしてしまいがち。リスクヘッジを目的に担保を取る考えには至るのですが、アップサイドを取ることを目的にファイナンススキームを組み立てることは不得意だと感じます。本来、金融の根本はリスクとリターンの両方のバランスを見ることなんですが、銀行はどうしてもリスク側をより重点的に見てしまう。結果的には、本当に意味のある案件を拾いきれないんじゃないかと、私自身銀行にいた頃からずっと感じていたことなんです。

しかし、Funds Startupsのこのアプローチにも課題があると小島氏は率直に打ち明ける。

小島我々のLPには大手の銀行もいらっしゃいます。仮に、我々のファンドの半分が元本毀損し、半分が大勝して、トータルでプラスになったとしても、「はい、いいですよ」とすんなり評価してもらえるかというと、難しいかもしれませんね。この考え方をどうトランジションしていくか、あるいは次のステージでは全く異なる投資家から資金を集めるべきか、そういったことも考えていく必要があります。

従来の銀行融資対象は、相対的に元本が回収できないリスクが低いため要求リターンも抑制的である一方、VCによるエクイティ投資は高いボラティリティを前提とし、数年で投資額の10倍以上のリターンを目指す場合もある。このように、伝統的な金融商品には確立されたリスク・リターンの指標が存在する。

しかし、ベンチャーデットは、これらの既存金融商品の中間に位置する新しい金融手法であり、確立されたリスク評価モデルが存在しない。そのため、リスク評価や適切なリターン設定には高度な専門性とその都度ごとの慎重な判断が求められるのだ。

特に、機関投資家である銀行をLPに持つFunds Startupsにとって、リスクの適切な管理と透明性の確保は極めて重要である。これらの課題を乗り越えるため、リスク管理体制を慎重に構築することが必要不可欠なのだ。そしてその中核を担うのが、ファンズの基幹事業である貸付投資のオンラインマーケットプレイス『Funds』においてサービス開始当初より最前線で同社の審査業務を支えてきた、リスク統括本部審査部長/公認会計士の杉原氏だ。

小島杉原部長は、Fundsにおいて資金調達を希望する取引先候補企業のクレジット評価を数々担当してきました。Fundsを介したファイナンスは、一般的な銀行融資と異なり原則無担保となるため、財務諸表から読み取れるクライアントの資産性だけでなく、事業性・成長性といった観点も重視した多角的な評価が必要となります。

会計士として監査法人やFASで事業再生や企業買収に携わってきたバックグラウンドを活かした深く網羅的な分析を繰り返し、同社の審査ロジックを構築してきた彼の存在は、我々の信頼性の象徴といっても過言ではありません。彼の分析力には、本当に舌を巻きます。ファンズのプラットフォームビジネスで330ファンドの運用を無事に終了し、元本毀損0%を達成できた*のも、彼の見識があったからこそです。

*2024年10月16日時点の実績。将来の運用成果等を保証するものではありません。

ここで注意すべきは、Funds Startupsがスタートアップだからといって、安易にリスクを取るわけではないということだ。

小原我々はスタートアップとして事業を運営していますが、だからといって安易に過度なリスクを許容するわけではありません。小島や田中が話した通り、適切にリスク評価やリターン設定を行い、その個別性に応じた慎重な判断を行っています。

むしろ、金融機関として高い信頼性を維持することが、今後さらに革新的な取り組みを続けるための前提条件だと考えています。そしてファンズ本体のプラットフォームビジネスで培った元本毀損0%という実績。*この信頼性は、Funds Startupsの前衛的な取り組みを支える大きな基盤になっています。

Funds Startupsの取り組みは、日本のスタートアップエコシステムの金融市場全体を変える可能性を秘めている。しかし、その道のりは決して平坦ではない。規制の壁、投資家の理解、市場の反応...乗り越えるべき課題は山積みだ。

果たして、Funds Startupsは日本の金融に新たな地平を切り開くことができるのか。次のセクションでは、同社が解消せんとする現状の日本のスタートアップ金融の課題と、その解決に向けた取り組みにもう少し迫ってみたい。

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「スタートアップ専門の投資銀行」と「研究型組織」の二足の草鞋で挑む金融革命

日本の金融界に、吹き始めた新しい風。その中心にいるFunds Startupsが掲げた「スタートアップ専門の投資銀行」というビジョン。そもそもなぜ、スタートアップを専門とした投資銀行が日本に求められているのだろうか。みずほ証券でI株式引受やファンド投資の経験を持つ田中氏は、日本の資本市場の現状について指摘を行う。

田中私が香港に駐在していた時、日本と海外の資本市場の差を肌で感じました。日本企業の資本市場での調達規模は、海外と比べて圧倒的に小さいんです。例えば、香港や米国では、一件あたりの株式引受の取引規模が日本の数倍以上。上場企業の平均時価総額も、桁違いに大きい。年間のIPO調達額を見ても、その差は歴然としています。

中でも特に問題だと感じているのが、未上場マーケットのレイター部分の薄さです。日本では、時価総額が1,000億円を超えるようなユニコーン企業の輩出が少ないと言われますが、スケールアップに必要な大型の資金調達が難しいことが一因だと考えます。ここを厚くすることで、より大型のIPOが可能になり、結果として日本の資本市場全体の底上げにつながるはずです。

この課題に対し、Funds Startupsはベンチャーデットという新しい金融手法を通じてアプローチしている。しかし、それだけではない。小島氏は、さらに広い視野を持っている。

小島我々は、ベンチャーキャピタルの流動化ニーズにも目を向けています。現在の日本のスタートアップエコシステムにおいて、VCファンドにおける投資案件の流動性不足は深刻な問題です。典型的なVCファンドは10年程度の運用期間を想定していますが、近年のスタートアップの成長サイクルの長期化により、この期間内でのExitが困難になっていますよね。

これは、ファンドのパフォーマンス低下やLPの期待リターン実現の遅延につながり、結果として日本のベンチャー投資市場全体の停滞を招く恐れがあります。また、有望なスタートアップへの継続的な支援も制限されかねません。

VCファンドの出口戦略の多様化は、エコシステム全体の健全性につながるはず。セカンダリー市場の活性化や、新しい流動化スキームの開発など、我々がやれることは多い。

これらが実現すれば、単なるVCファンドの流動性向上だけでなく、スタートアップへの長期的かつ安定的な資金供給、そして投資家にとっての魅力的な新しい投資機会の創出にもつながります。まさに、「スタートアップ専門の投資銀行」としての機能と言えるでしょう。

言うは易く行うは難し、これらのチャレンジは決して容易ではない。ひとえにベンチャーデット市場自体がまだまだ黎明期にあるからだ。ここで重要になるのが、Funds Startupsのもう一つの特徴、「研究型組織」としての側面だ。

小原ベンチャーデット市場では、リスク評価モデルがまだ確立されていません。我々は、スタートアップ特有の成長曲線を考慮した評価方法や、技術の革新性を数値化する試みなど、従来の金融機関では考えられなかったアプローチを日々“研究”しているんです。このベンチャーデットという商品をどう成り立たせるか。それは単なる金融商品の開発ではなく、新たな金融エコシステムの構築と言えます。

この「研究型組織」としての姿勢は、LPとなる金融機関との関係性にも如実に表れている。

小島我々とLPである大手の金融機関との関係は、単なる資金提供者と被提供者ではありません。我々は、ベンチャーデットに関する日々の取り組みやノウハウを積極的に共有し、共に学び、成長していく関係を築いていきたいんです。

我々が実績を出して、科学して、「ベンチャーデットとはこういうものだ」というのを、市場に示していく。そうすることで、ベンチャーデット市場全体の底上げにつながるはず。言い方を変えれば、LPへの啓蒙活動をしていく必要があるんです。

「スタートアップ専門の投資銀行」と「研究型組織」というユニークな立ち位置を確立しつつあるFunds Startups。同社の視野は既にグローバルに向けられている。

田中我々は、グローバルな影響力を持つ組織を目指しています。スタートアップエコシステム全体を見渡したとき、ベンチャーキャピタルやスタートアップだけでなく、様々なプレーヤーがどんなソリューションを求めているのか。それを包括的に提供できる存在になりたいんです。

Funds Startupsの挑戦は、まだ始まったばかりだ。しかし、同社の取り組みは確実に、日本の金融・経済の未来を変えつつある。眼前に見据える「スタートアップ専門の投資銀行」の姿は、単なる夢物語ではない。それは、日本の金融に新たな地平を切り開く、具体的かつ現実的なビジョンなのだ。

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「来て、見て、実際に触って」人材には、「水を得た魚」のような環境

Funds Startupsが描く金融の未来像は、従来の枠組みを大きく超えている。その実現には当然、これまでの常識を超越するユニークな視点と専門性を併せ持つタレントの存在が不可欠だ。どのようにして金融イノベーションを担う人材を集めているのか。そのアプローチにも迫ってみよう。

まず、小島氏は目を輝かせながらFunds Startupsが求める人物像について語り始めた。

小島我々が求めているのは、「来て、見て、実際に触って」を体現できるような好奇心旺盛な人材です。従来の金融業界では、どうしても既存の枠組みにとらわれがちですが、ここでは全く新しいチャレンジができる機会が豊富にあります。これまで培った専門性を武器に、そういった環境で自己実現を果たしたい人にとっては、まさに理想の舞台となるでしょう。

小島氏の言葉には、従来の金融機関とは一線を画す人材観が滲み出ている。では、具体的にどのような人材が集まっているのか。小島氏が挙げたのが同社CLOの髙尾氏の存在だ。弁護士というバックグラウンドを持ちながら、その活動は社内の法務業務にとどまらない。

小島髙尾さんの存在は我々にとって非常に重要です。彼は弁護士としての専門性を活かしつつ、業界全体のルールメイキングにも積極的に関与しています。これは、我々のようなスタートアップにとって極めて重要な活動なんです。

髙尾氏の活動は、従来の企業法務の枠を大きく超えている。Fintech協会の理事を務めながら、政治や行政へのロビイング活動も精力的に行っているのだ。

小原髙尾さんのこれまでの業界への貢献度は、本当に目を見張るものがあります。例えば、2019年に「転換期を迎えた融資型クラウドファンディング 規制の展開とこれからの課題」という論考を発表しました。これは、当時まだ新しかった融資型クラウドファンディングの課題を明確にし、業界に大きな影響を与えたんです。

その後も、とある融資型クラウドファンディング事業者の不祥事をきっかけに、業界全体に影響を及ぼしかねない規制強化の動きがあったとき、髙尾さんの真価が発揮されました。

髙尾さんは、当局や自主規制機関に積極的にコンタクトを取り、業界の健全な発展のために必要な規制と、過度な規制のバランスについて理解を求めたんです。その結果、審議会の報告書にも軌道修正が反映されました。これは、スタートアップならではのスピード感と行動力があってこそ成し得た成果だと思います。

小島氏は、髙尾氏の活動の意義をさらに掘り下げる。

小島髙尾さんの活動は、Funds Startupsだけでなく、フィンテック業界全体の健全な発展に寄与しています。彼は、官公庁のウェブサイトで公表されている審議会の資料や議事録を徹底的に分析し、言い回しに込められた微妙なニュアンスや行間まで読み取ることができるんです。そして、そこから得た洞察を基に、業界の未来を左右するような政策提言も行う。

これは、従来の金融機関では考えられないような、スタートアップならではのアプローチです。自ら足を使って情報を集め、時には泥臭く動きながら、業界全体のために尽力する。彼のような人材がいるからこそ、我々は業界の中で独自のポジションを確立できているのだと思います。

髙尾氏、前川氏の“社外活動”を起点としたMoatの築き方は下記の記事を参照

このような動き方は、従来の金融機関では経験できないものばかりであろう。田中氏も、自身の経験を振り返りながらFunds Startupsのユニークさを語る。

田中ここでの金融商品開発のスピード感には日々驚かされるばかりですね。前職の証券会社では考えられないようなペースで、新しいアイデアが形になっていく。例えば先ほども話に挙がった、親会社の株価に連動したリターン設計など、通常なら二の足を踏んでしまうような奇抜なアイデアでも、ここでは真剣に検討され、形になっていく。このクリエイティビティとスピード感は、我々のような長く業界にいる人間にとって、まさに「水を得た魚」のような環境です。

しかし、Funds Startupsが求めているのは、単なる革新性だけではない。

田中我々が重視しているのは、「熱意と金融的視点のバランス」です。スタートアップエコシステムへの理解と熱意を持ちつつ、同時に金融のプロフェッショナルとしての冷静な視点も持ち合わせている。そんな、いわばスタートアップ界の革新者を求めているんです。

この言葉からは、Funds Startupsが単なるスタートアップ支援にとどまらず、金融の未来そのものを創造しようとしていることが伝わってくる。

小原私はこれまでもベンチャー支援を行っていましたが、常にスタートアップが大好きで、「スタートアップの支援をしたい!」という人たちに沢山囲まれてきました。私もスタートアップが好きで、このベンチャーデットキャピタリストという仕事を選んだのですが、ここFunds Startupsに来て、全く新しい視点に出会ったんです。

それは、ベンチャーデットという金融商品そのものを新たなアセットクラスとして確立させたい、リスクリターンの関連から投資妙味のあるものとして市民権を獲得させられるかを追及したい、という金融的な視点です。この両面を持ち合わせているFunds Startupsだからこそ、スタートアップエコシステムの発展と金融イノベーションを同時に推し進めることができるんだと思います。

我々は、スタートアップの成長を支援しながら、同時に日本の金融市場に新たな価値を創造している。この二つの軸が交差する地点こそが、Funds Startupsの独自のポジションであり、他にはない圧倒的な面白さですね。

Funds Startupsの真価は、常識の枠を超えた革新的なアプローチだけでなく、業界全体を巻き込む力にあると言えるだろう。大手銀行や証券会社といった従来の金融機関が軒並みビジネスモデルの見直しを迫られる時代において、Funds Startupsの存在は、協業のパートナーとしても、また競争を通じてイノベーションを促す存在としても注目されつつあるのだ。

最後に、小島氏が力強く締めくくった。

小島我々の挑戦は、まだ始まったばかり。これからが本当の勝負。日本の金融を変える、そんな挑戦に、一緒に取り組んでくれる仲間を、我々は待っています!

Funds Startupsのこの新たな挑戦は、ベンチャーデットという新しい金融商品の確立にとどまらない。それは、日本の金融システム全体を変革し、スタートアップエコシステムを根本からアップデートする可能性を秘めている。

同社が目指す「スタートアップ専門の投資銀行」は、単なるキャッチフレーズではない。ミドル・レイターステージのスタートアップに対する新たな資金調達手法の提供、VCの流動化ニーズへの対応、さらにはスモールIPO問題の解決など、具体的な施策を通じて、日本の資本市場に厚みをもたらそうとしているのだ。

今記事に登場した小島氏、田中氏、小原氏、そして前川氏、髙尾氏といった多様なバックグラウンドを持つプロフェッショナル人材たちの知見が結集したFunds Startupsの取り組みは、既存の金融機関にも刺激を与えている。同社が開発する柔軟なリスク評価モデルや、スタートアップの成長曲線に適合した金融商品は、業界の常識を覆そうとしているのだ。

今、金融の歴史に、新たな1ページが書き加えられようとしている。それは、2,000兆円超ある日本の個人金融資産を、スタートアップの成長エンジンへと転換する試みかもしれない。

もちろん、Funds Startupsの真価が問われるのは、これからであろう。同社が描く「金融機関共同研究型ベンチャーデットファンド」の成功が、日本の金融システムにどのようなインパクトを与えるのか。スタートアップの資金調達難度の高い領域への供給がどこまで加速するのか。そして、これらの取り組みが日本経済全体にどのような変革をもたらすのか。その行方から、我々は目が離せない。

ファンズ株式会社 第二種金融商品取引業
関東財務局長(金商)第3103号
加入協会:一般社団法人第二種金融商品取引業協会
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こちらの記事は2024年10月24日に公開しており、
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執筆

井上 柊斗

写真

藤田 慎一郎

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