全ては理想的な患者体験のため。真の“シームレス”実現に向け、現場の業務設計から作り込む、Linc'wellのPdMによる妥協なき挑戦【FastGrow副編集長のプロダクト体験談あり】
Sponsoredいまや2人に1人以上が花粉症と言われているが、FastGrow読者は今年の花粉シーズンをどう乗り切っただろうか。
以前、ヘルスケアIT企業・Linc’wellを取材した際、同社が支援するクリニックフォアは「とことんDXが進んだ最先端の医療を提供するクリニックである」と聞いた。その取材以来、次の花粉シーズンにはお世話になろうと決めていたFastGrow副編集長の田中は、満を持してクリニックフォアのアレルギー科を受診。その際の「あまりにシームレスな患者体験」を元に、Linc'wellのプロダクトマネジメントの裏側を今回、じっくりと覗かせてもらう。
詳細は後述するが、どのようにプロダクトをつくり込めば、“医療”というものをこれほどシームレスに提供できるのか。そもそも、「シームレスな医療」を提供する理由はなんだろう。そこで通院後、クリニックフォアChief Medical Officer(以下、CMO)の村丘氏、Linc’wellのプロダクト部門を統括する原氏、PdMの岩佐氏に取材する機会をいただいた。
この3氏は口を揃えて「理想の患者体験を提供する」と言う。どうやら、シームレスな医療には、両者の関係性と、その裏に通底する「徹底した患者ファースト」がカギのようだ──。
Linc’wellのミッションは、「テクノロジーを通じて、医療を一歩前へ」だ。まずは副編集長・田中が体験した一歩前の医療を、ぜひ読者とも共有したい。FastGrowとしては珍しく、体験レポートからお読みいただこう。
- TEXT BY REI ICHINOSE
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
数分で診察予約、15分で受診、薬は翌日自宅に届く。検査結果はアプリで……
ここ数年、花粉症の症状が出ていたものの、混雑する病院に通うのが面倒で放置していたFastGrow副編集長・田中。取材のため数カ月前にインストールしていたアプリ「クリフォア」でクリニックフォアの「オンライン花粉症診療」の予約を進めてみる。
なんと最短で当日の枠もあり、さっそく驚く。翌朝の出勤前に済まそうと、朝8時15分からの診療枠を選択し、いくつかの質問に回答。ここまで、所要時間はたったの数分程度。
そして翌日、指定時刻になるとビデオ通話がかかってきた。診察はとても丁寧で、通話終了後に届いたSMSの案内に基づきクレジットカードでオンライン決済。ここまで、受診当日の所要時間はたった15分程度だ。
翌日には郵送で自宅に4種類の薬が届いた。通院前後の移動時間や待ち時間がなく、薬を受け取るまでの過程が正味20~30分程度で済む満足感は予想以上だった。今回は郵送を選択したが、2024年2月以降、診療科によっては薬局での当日対面受け取りも可能とのこと。薬が手元になく、すぐ服用したい場合にも対応できるようになっており、さまざまな患者のニーズに寄り添おうと改善が進んでいる。
せっかくなので血液アレルギー検査で原因も特定したいと考え、同じアプリ上で数日後の対面受診を予約。全く同じUXですんなり予約が完了した。
診察当日、受付に到着するやいなや、マイナンバーカードを機械に乗せるよう指示を受ける。カメラに顔を見せた後、スタッフに名前だけを告げると、受付は完了。1分程度のこのやりとり、保険証と連携させたマイナンバーカードを持っているという前提だったのも印象的だった。そして待合室にいるのは数人程度というのも安心感を覚える。
そして医師との簡単なやり取りの後、すぐに採血を実施し、キャッシュレスでの会計を終えるまでわずか20分ほど。検査結果は後日アプリに届き、解説が聞きたい場合はオンライン診療/対面診療を選べるという。
オンライン診療と対面診療、いずれも億劫に感じることはないどころか、非常に満足度の高い患者体験となった。自宅近所の耳鼻科もオンライン予約を導入しており、決してサービスが悪いわけではないのだが、「待合室の混み具合」や「調剤薬局に足を運ぶ手間」などを考えると、患者体験全体には大きな差を感じる。
これなら、忙しいビジネスパーソンでも合間を縫って通える、いや、オンラインであれば平日7時から24時まで受診可能*なので合間を縫う必要さえないかもしれない。なんとも気軽に通える医療サービスだと実感した。
どうすれば、こんなにスマートな医療を提供できるのだろうか──?
クリニックフォアCMOで医師の村丘氏に問うと、「質と速さを極めている」と返ってきた。次章ではその詳細に迫る。
シームレスな患者体験は「患者・医療提供者・社会への3方良し」のため
「医療の原点に立ち返り、患者・医療提供者・社会が「3方良し」になる医療の実現を目指します。」
これはクリニックフォアグループが掲げるミッションだ。CMOの村丘氏からお聞きした話からクリニックフォアについて一言で表現するなら、まさに「クリニック界のベンチャー」だろう。同グループは2018年10月に「クリニックフォア田町」をオープンすると、2024年4月時点で都内を中心に11院まで急拡大。2020年4月以降のオンライン診療等の診療実績は300万件(*)を超える。
村丘氏は、3方良しを叶えるには「患者起点で理想的な医療体験」をつくることがカギだと語る。
村丘患者ファーストな理想的な医療体験、すなわちベストな患者体験とは、「質の高い診療を速く提供すること」です。
「医学的な判断・治療・コミュニケーションの質をどれだけ高くできるか」、そして「待ち時間や煩わしさなどがなくどれだけスムーズにその医療を提供できるか」を徹底的に追求しています。
これまでに、Linc’wellのクリニックDX支援、オンライン診療システム提供により、まずはわかりやすい部分として「スマホアプリやWEBブラウザを活用したオンライン/オフラインのシームレスな予約・診察・処方」の提供を実現できています。
Linc’well共同創業者で代表取締役の山本氏は以前の取材で、「患者が通院しやすい世界を叶えることが、行政、医療従事者、患者の3方良しに繋がるのです」と語った。
このように、Linc’wellとクリニックフォアは同じ志を持っている。その出会いは、村丘氏が自ら医院を開業しようというタイミングだった。
村丘医学研究や大学病院での臨床医を経て、「理想とする医療を実現したい」といった考えがあったことから、開業の意志を固めました。
実際に個人で医院を始めるとなると、診療の質・医師の腕・患者さんとのコミュニケーションなどの「本質的業務」以外にも、経営・オペレーション・マーケティング・人事・労務などの「非本質的業務」が発生します。
このうち、非本質的業務を効率的な形で立ち上げる部分の一部をLinc’wellに支援してもらっています。具体的に開発してもらっているのは、対面・オンラインともに予約から診察実施に至るまで、そして診察後の決済や処方に関する部分で、クリニックDXの推進に当たります。
これまでに「この開発はおかしい」と感じたことはほぼありません。Linc'wellはとても信頼できるパートナーです。なので、私たち医師や看護師は、本質的業務である「診療の質向上」と「診察のスピードアップ」に専念できています。
信頼できる開発のおかげで、クリニックフォアは「医療提供そのもの」のクオリティ向上に邁進できると話す。
村丘本質的業務の質向上という観点で注力しているのは次の2点。1点目は、医師のクオリティ。一人ひとりのことを信じながらも、クリニックフォアとしてのレベルアップは欠かせません。そして2点目は、私自身が医師として、その模範的な存在であり続けることです。
このように、クリニックフォアとLinc’wellはそれぞれの得意分野において、質の高い診療を速く提供することに注力しているというわけだ。
村丘特に「スピード」という観点は、自分たちも重視していますし、Linc'wellとも意識を共有しているところです。質の高い診察が短時間でできるよう、あらゆる面から弛まぬ努力をしています。
患者さん一人ひとりの診察を、時間をかけて丁寧に行うのが良いと考えられるかもしれません。でも、そのアプローチですべての患者さんの満足度を高められるわけではないんです。時間を使いすぎてしまうと、診察が終わるのを待つ次の患者さんの満足度は下がるかもしれない。
全体の満足度を上げるための最適な時間配分があります。そのために、「必要に応じてスピードを速められる」ということが重要なんです。
だが、「うまい、安い、速い」ではないが、医療業界でなくとも、儲けるための手段として質と速さを追求することはある。せっかくの機会なので、失礼ながら「そちらのほうが回転率が上がり、利益が増えるから、ということですか?」と聞いてみた。
村丘いえ、あくまでも「理想の患者体験」のためです。
すでに、他に類をみない速さを追求しているクリニックだという自負はあります。でも、今のスピードはまだ最低水準というくらいの認識。クリニック全体でまだまだスピードアップを追求できます。
一方で、一つひとつの診察をすべてハイスピードで進めれば良いと考えているわけでもありません。速さを求める患者さんもいれば、じっくり相談したいという患者さんもいます。それぞれが求める医療を届けることこそ、「理想の患者体験」です。
クリニックという場所は、ハイパフォーマンスでもそうでなくても、患者さんが一定数訪れてくれます。たしかに、社会にもwinを与えるために利益創出が必要ですが、それを直接追い求めては歪んでしまう。そうではなく、「理想の患者体験となる医療を提供し続けた結果」として利益も現れる、という状態を目指すべきだと思うんです。
患者体験のブラッシュアップに欠かせない、濃い「現場の声」
クリニックフォアとLinc’wellが、「患者起点で理想的な医療体験を提供すること、それにより3方良しをもたらすこと」という同じ志を共有していることを、ここまでの内容から感じていただけただろう。
このセクションでは、クリニックフォアとLinc’wellが徹底して注力している「理想の患者体験」について詳しく追う。
村丘私たちが目指すのは、「マンパワーでこなしていたことをLinc’wellのシステムで代用できるようになった」というような単純なデジタル化ではありません。患者さん一人ひとりの体験が最高のものになるために、DXというアプローチをしていくという気概があります。
たとえば、予約をキャンセルしたのに、なぜかできていなかった、という患者さんがたまにいらっしゃいます。ほとんどの場合、気づかないうちに二つの診療用アカウントをつくっていたといったことが原因です。
アカウントを複数つくらないようにする改善は、してもしなくても、ほとんどの患者さんには影響がありません。でも、そうした細かな点も私たちは改善していくんです。この積み重ねが、患者さん一人ひとりの体験の最適化につながり、経営の効率化も進んでいきます。
たしかに、プロダクトは最大公約数に向けた改善を行うことが多い。しかし、「最大公約数からはずれた事象でも見逃さず、改善を検討する」というのだ。オンライン診療部分のPdMを務める岩佐氏は次のように補足する。
岩佐複数のアカウントを作ってしまうユーザーは、約5%と少数です。しかし、この5%の方達の使い勝手の悪さと不安は無視できるものではありません。こういった方々を蔑ろにせず追及し、根気強くアップデートしています。
原将来に向けて一貫した良質な患者体験を構築するためには、数値だけで開発優先度を考えず、現場の様子から判断していくことが必要だと考えているんです。
原氏は、クライス&カンパニー社のPodcastに出演した際にも「Linc’wellは最高の医療体験のために、患者さんが困っていることがあれば、どんなに小さいことでも見逃さず、向き合うことを大切にする文化がある」と語っていた。このような形で体現されているのだ。
では、実際にどのように課題を捉え、改善を進めているのだろうか?ここで活きてくるのが、Linc’wellの現場課題抽出力だ。
クリニックフォアで働く医療従事者は「最近鼻の症状で通院する患者が増えている」「◯◯というお薬について聞かれることが増えた」など、日々の医療行為のなかで感じた患者変化・トレンドを捉えやすい。こうした変化はマーケティングへの活用として情報連携をしている。
その一方で、PC画面に向き合うバックオフィス作業や、すでにマニュアル化された作業に対しては、医師も看護師も「やらざるを得ない」と思い込んでいる隠れた負担・不満がある。
その負担・不満を見つけ、解消することで患者体験のブラッシュアップに繋げるのがLinc’wellのPdMだ。
岩佐たとえば、オンライン診療のフローに組み込まれている架電業務に関しての改善があります。ビデオチャットでの診察を始める前に、架電によってスムーズに進むようなフローを取っているのですが、この時、医師・看護師が患者さんの電話番号を手入力していたんです。もし診療件数が数件であればそこまで大きな負担にはならないかもしれませんが、診療件数が増えれば増えるほど、この手入力業務がミスの原因になり、精神的な負担にも繋がります。デザイナーとともにその様子を見て「すぐに改善できる」と思いました。
そしてLinc'well社内に持ち帰り、チームで内容を詰め、翌々週ぐらいにはクリニック向けにQRコード機能をリリースしました。架電の際iPhoneのカメラでQRコードを読み取ることで、スムーズに一連の作業ができるようにしたんです。
打ち間違いも減りますし、数字を確認する細かな手間も減りますよね。現場からは、看護師のみならず医師の負担も軽減され、「まさか電話番号の入力の手間が省けるなんて思ってもいなかった」という言葉をいただきました。
他方、このように、協力して困っている箇所を見つけ合い、改善していけば、患者体験のブラッシュアップに繋がる……かというとそうではないのが医療の難しいところだと岩佐氏は続ける。
岩佐難しいのは「時間を省く=無駄なことをしない」、「必要なコミュニケーションだけをする=ハイパフォーマンス」と言い切れないことです。
医師側が「正確な医学的判断を下すために整理したコミュニケーションを取った」つもりでも、患者さん側は「淡白なコミュニケーションだ」と不満や不安を感じることがあります。この点も、プロダクトをつくる側としての工夫で改善を図っていきたいんです。
たとえば、先ほど話したようなユーザー登録の改善もそうですし、患者さんから見たUIを“あたたかみ”や“手厚さ”を感じられるようにするなど、感情面もプロダクトを通じてフォローすることができると考えています。
村丘そうなんですよね。「診察の場で、短時間で十分なコミュニケーションが取れたから良い」というものではありません。診察の前段階の予約や待合のタイミングから、プロダクト面で不安を取り除けるようにすることも大事です。
そして診察自体もどんどんブラッシュアップできるようにしています。患者さんは何かしら悩みを抱えて受診してくださっているわけで、たいていは「こんな回答が欲しい」と思っています。野球に例えれば、キャッチャーミットを構えているようなイメージです。たとえば、そこにズバッとストライクになる返答を投げ返せたら、短時間の診察だったとしても満足していただけると思うんです。
そのため、グループの医師には「ストライクの球を返す技術」を磨くよう伝えています。
そういえば冒頭で紹介したクリニックフォアのオンライン診療においても、鼻うがいについて聞くと、「意味はある」と端的に答えつつ、「鼻うがいが流行りすぎて患者さんが減ったと知り合いの医者が言っていた(笑)」とユーモラスな話があった。
村丘私自身も、次の診察までにゆとりがあるときは患者さんと雑談のような会話をする時間が長くなります。
一方でクリニックフォアの特性上、夕方以降が混み合うのですが、そんな時は雑談を省ける部分も考えるようにしています。傾向として、夕方に受診されるのは短時間で済ませたい患者さんが多いんです。こうした判断をしながら、より良い患者体験を追求しているんです。
些細なことでも現場の声を拾い、改善案を検討することが患者体験のブラッシュアップに繋がる、とわかってきた。きっと現場の声の拾い方にもポイントがあるはず、と話を振ってみた。
岩佐「今月は何を何件達成しないといけないからこんな機能が必要」という数字やデータばかりに目を向けていては、“ちょっとした使い勝手の悪さ”を大切にすることができなくなります。
クリニックフォアの現場の医師や看護師、医療事務スタッフのみなさんとは、ほとんど毎日、Slackでコミュニケーションを取っています。毎週のように現場にも伺い、小さい課題を拾える関係づくりを心がけていますね。
「どれだけ些細な課題を拾ってプロダクトに反映できるか」こそが、Linc’wellが提供できる「質向上」です。
原プロダクトありきで、現在の機能の良し悪しや新機能のヒアリングを行っているケースも世の中にはありますが、私たちはそれをよしとしていません。「オンライン診療システム提供サービス」のPdMを務める岩佐をはじめ、各PdMが現場に行くことで課題を見つけ、PdM間だけでなくLinc'well社内の複数チームを横断して課題解決を行っています。例えば、クリニックフォアの現場の皆さんが最近困っていることはなにか、気づいたことはあるか、これらをPdMがヒアリングするなかで見つかった課題が、オンライン診療の範囲でないこともあります。その場合は、Slackの社内PdMグループで共有し、解決する体制が整っていますね。
そもそも、これだけ同じ方向を向いて議論できる関係性は稀有で貴重なんです。
たしかに、もはや医療機関とシステム提供者、という関係ではない。次章ではこの点に深く切り込んでいこう。
現場の医師や看護師も「プロダクトで改善するんだ」という意志を持つ
原多くのシステム提供者は「どうやったら現場がこのプロダクトを使ってくれるか」を追求しているのではないかと思います。一方で私たちは「どうやったら患者さんの課題を解決できるか」を追求しています。
とはいえ、受付で、診察室で、会計で、いろんな課題が発生する医療現場。社内に医師が何人も在籍するLinc’wellでさえ、患者さんの課題を解決する手段を推し量ってプロダクトに反映させるのは至難の業です。
「再来週ヒアリングします」などという時間軸では患者起点で理想的な医療体験を提供できません。「この時期はこの業務とこの業務が重なり、このタスクがくると非常に大変になる」といった現場の生の声を素早くキャッチできる関係性は大変ありがたいです。
村丘開発スピードが早いことは非常にポジティブです。「患者起点で理想的な医療体験を提供すること、それにより3方良しをもたらすこと」がしっかり共有できているからか、これまでの開発・施策が私たち医療従事者側にとって大きなブレとして感じるようなことは起きていません。
岩佐村丘先生をはじめ、クリニックフォアスタッフの一人ひとり、そして当然クリニックフォアという医療機関からは、「患者に理想的な医療体験を提供する」という思いを強く感じます。それにより、私たちシステム提供側も、「患者さんのためになるのか」そして、「医療従事者」がより患者さんのために時間を使えるか」を考えて開発ができています。
これまでの話を聞くと、クリニックフォアの医師や看護師にとって、真っ当な医療を提供し続けるためにプロダクトを活用するのは当然のことだということがよくわかる。思い返せば、取材で訪れたクリニックフォアのバックヤードには、紙がまったく見当たらず、その代わり一人ひとりのMac Book Airが置かれていた。さながらスタートアップのオフィスのようでもあった。仕事を進める姿勢や環境も、従来の医療機関とは異なる様子である。
クリニックフォアとLinc'wellの間で、「なぜ運用を効率化するべきなのか」あるいは「新たなシステム導入をわざわざする必要性があるのか」という必要性の部分については、確認し合うことは少ない。だから、プロダクト開発においても常に「貢献価値の高い部分」にフォーカスできているのだという。
岩佐2020年4月、新型コロナウイルスによる初めての緊急事態宣言下、クリニックフォアでは1日10〜20件のオンライン診療を実施していました。その予約管理は、ある医院の医療事務スタッフさんが優先順位のロジックに従って手作業で担っていました。ですが、今後オンライン診療がもっと普及して行ったとき、このままでは大変で、これ以上診察数を増やすことができないという理由から、自動化の開発に着手しました。
この時、スタッフさんが細かなヒアリングに付き合ってくれただけでもありがたかったのですが、リリース後に問題が生じた際にも自発的に確認して「○○がエラーになる」といった情報を共有してくださったんです。
原クリニックフォアのみなさん一人ひとりが、新しい試みに対する許容度合いも協力度合いも非常に高いですよね。
たとえば、「今週中にこんな機能を試してみたい」と伝えたとします。すると「もちろん、いつでも!」という返事もあれば、「花粉症の患者さんが多く混雑しているので◯週間後だとありがたいです」と先回りした代案をいただくことも。できるだけトライしようとしてくださるんです。
Linc’wellは目的達成を支えるプロダクトを提供しブラッシュアップを重ねる。クリニックフォアはそのプロダクトをブラッシュアップするために現場のリアルを補完する。Linc’wellがクリニックフォアにシステムを提供するだけの関係性なら、ここまでの患者体験は磨かれなかった。この関係性は原氏の言う通り、稀有で貴重に思える。
医療全体が良くなるスパイラルを、Linc'wellとクリニックフォアで生み出す
ところで、以前の取材でLinc'wellのCSO三宅氏がオンライン診療について次のように語っていた。
日本でのオンライン診療は、海外と比べるとまだまだ浸透していないんです。コロナ禍でオンライン診療の機会が増えたとはいえ、私達はまだまだ、デジタル化の拡大に貢献していくフェーズです。まずはクリニックフォアへのシステム提供を通じて、サービス品質向上に寄与したいと考えています。
村丘氏も、日本の医療でDXが進まない現状に対しては苦々しく思うことがあるようだ。
村丘国内には電子カルテやレセコン(診療報酬明細書を作成するシステム)などを取り入れ、デジタル化に着手している病院もたくさんあります。しかし、そこから本質的なDXを推進しようとしても、現場の声に基づいた最適解を提案してくれるパートナーはいません。それぞれのシステムがつながる必要があるのですが、ベンダー同士の連携はなかなか起き得ません。
その結果、患者体験のうち特定の部分だけが分断されて電子化されるだけ。これでは、患者体験全体のDXはなかなか進まないでしょう。
だからこそ、Linc'wellのDX支援には、大きな意味があるのだ。冒頭の体験レポートでも語ったように、すでに非常にシームレスな患者体験が実現されているようにも思う。Linc'wellのプロダクトとしても十分な完成度があるのではないだろうか?そう問いかけると、原氏は「待ってました」とばかり、食い気味に否定する。
原おっしゃる通り、すでにクリニックフォアのスタイルに満足してくれる患者さんも多いと思っています。でも、それ自体「医療ってこういうもの」という諦めを孕んでいるんですよね。
たしかに、冒頭の体験レポでFastGrow田中の「満足感は予想以上だった」という感想の裏に、そうした想いがあったことは否めない。
原たとえば患者さんが普段使っているカレンダーと予約システムを連携できれば、予約にかかる手間はもっと減らせる。このような改善案はいくらでも思い浮かびます。世の中の当たり前が、医療現場ではまだ当たり前になっていないんです。
また、「何かあったときに受診すること」だけが患者体験ではなく、健康維持、予防や予後も含めたヘルスケア全体が患者体験であるともいえます。われわれのプロダクトのスコープはもっと広いものです。まだまだ伸びしろが大きく、私たちもワクワクしながら取り組んでいるところなんです。
岩佐真の理想を言えば、そもそも病気の疑いを持つ機会を減らし、万が一疑いがあればいつでも対面・オンラインを問わず気軽に受診でき、すぐにお薬をもらえる。かつ、その後も最適な状況で継続的なケアを受けられ、完治に至ったり、問題のない日常を取り戻したり。
そのために、これから2点の強化ポイントを考えています。
1つ目は、予約やお薬の受け取りなど、それぞれの過程で発生する時間を徹底的に削減すること。予約後に15分待つとか、会計で5分待つとか、そういった時間を徹底的になくしていきます。
2つ目は、各診療科の特性を深く理解し、プロダクトを通じた患者さん一人ひとりとのコミュニケーションを強化すること。診療科ごとに異なるペルソナに対し、まだまだ最適化できる余地があると考えています。
私たちは前例を追随するのではなく、医療という世界の理想を掲げ、その最先端を行く立場。常に自分たちで考え、つくり続けていかなければなりません。先駆者として、自力で最適解を探し続けていくのは面白いですね。この状況に面白味を感じられる人がもっとたくさんいると思うので、ぜひ仲間になってほしいです。
岩佐氏から一緒に働く人物像の話が出たので、原氏にもLinc’wellで経験できる魅力について語ってもらった。
原Linc’wellをはじめヘルスケアIT企業がこれから良い医療体験を提供すればするほど、患者さん側が医療機関に求めることも増えていくはずです。そうなれば、世の中全体で医療の質が底上げされ、それに伴ってプロダクトの質も高まり……という良いスパイラルが生まれると思っています。
良いスパイラルにむけた最初の一手を、社会へのwinを見据えて打ってきました。医療全体のアップデートのために、「患者体験のブラッシュアップから逆算する」のが近道になると思うんです。そのためにはクリニックのオペレーションを聖域扱いせず、堂々と患者さんという立場から切り込んでいく必要があります。ここを追及できる点が、クリニックフォアとのパートナーシップにあるんです。
村丘私たちクリニックフォアも、これからより一層アップデートし続けないといけません。これは何も、奇をてらったことをするという話ではありません。ただひたすら、当たり前を徹底的に追求するということです。今後もひたむきに続けていきましょう。
加えて、生成AIみたいな新しい技術の活用にもチャレンジしていきたいですね。
特に印象的だったのが、原氏の「世の中の当たり前が、医療の世界ではまだ当たり前ではない」という言葉。BtoBtoCサービスを提供する企業のうち、どれほどの企業がエンドユーザーファーストを当たり前と捉えられているのだろう。しかも、医療においては我々も、あなたも、誰しもみなエンドユーザーだ。
エンドユーザーファーストを追求すればきっと、3方良しは叶う。そして医療のイノベーションはその先にある。われわれも、エンドユーザーとしてクリニックフォアとLinc'wellが提供してくれる感動的な医療体験を享受しているうちに、医療業界にイノベーションを巻き込む一員となれるのだ。
ちなみに、Linc’wellはプロダクトマネージャー含め、各職種で現在も積極採用中とのこと。エンドユーザーとしてだけではなく、今なら当事者として参画するチャンスもあることを最後に添えておこう。
こちらの記事は2024年05月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
いちのせ れい
写真
藤田 慎一郎
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