連載拡大する市場で急成長するベンチャー/スタートアップ

拡大する超巨大産業で急成長するベンチャー /スタートアップ特集 vol.3

「成長市場で、事業経験を積む」──この選択は、決して間違っていない。

しかし、それだけでは足りない。市場の成長に身を委ねるだけでは、真の事業家は生まれない。市場と事業、この両輪が回り続けてこそ、本質的な成長力が身につくのだ。

マッキンゼーが「将来の競争アリーナ」と呼ぶ急成長市場。その中で、独自の戦略と実行力で成長を遂げる企業たちがいる。本特集では、2022年、2023年に続く第三弾として、そんな注目の5社を取り上げる。すでに存在感を示すベンチャーから、これから脚光を浴びるスタートアップまで──。彼らの戦略と、成長の軌跡を追う。

「このスタートアップこそ注目すべきだ」「いや、あのベンチャーの方が面白い」。そんな議論が生まれることも期待しつつ、未来を形作る企業たちの物語をお届けしたい。

  • TEXT BY TAKUYA OHAMA
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いつも.──「EC × 事業プロデュース」で描く、次世代マーケティングの未来

国内EC市場は2026年に約29.4兆円規模に達すると予測され、海外では2030年までに約1,200兆円規模(約7兆9,380億USドル)へと拡大する見込みだ。

さらに、世界最高峰の戦略コンサルティングファームであるマッキンゼー社が発表した報告書によれば、EC市場は2040年までに現在の約4,000億ドル規模から最大で20兆ドル規模(約2,000兆円規模)に達し、年平均成長率(CAGR)7~9%の安定した成長を続けると予測されている。この成長率は、他の成長領域と比較してもトップクラスであり、EC市場が「成長領域で1位の業界」として確固たる地位を築いていることを示している。

ECの市場規模は、その巨大さと成長ポテンシャルだけでなく、周辺産業への波及効果を含めた経済的な影響力が注目されている。新興国市場の消費増加やAI、クラウド技術といった新たなテクノロジーの導入がさらなる需要拡大を後押ししているのも特徴的だ。

その中で、商品開発からマーケティング戦略や物流、さらには越境ECまで、企業のバリューチェーン全体を支援し、お客様の事業全体をプロデュースすることで急成長を遂げているのが株式会社いつもだ。

同社はECを「売上をつくる本質的なマーケティング」と位置づけ、企業の事業成長を包括的にサポートする。単なる販促支援に留まらず、ライブコマースやAIライバーの活用など、日本初の試みにも挑戦。自社物流機能を持ち、配送コストの最適化やパッケージ設計まで含めた全体支援を実現している。

また、「ECを学ぶことは、ビジネス全体を学ぶこと」と語るのは上席執行役員の神野潤一氏。広告だけでは限界がある今、ECは商品設計から顧客体験まで全体最適の視点を養うための最前線だ。同社は中小企業から大手企業まで幅広いパートナーとともに、経営的視座を持った事業プロデュース人材の育成にも力を入れている。

急成長するEC市場において、事業プロデュースを次のステージへと進化させるいつも.。その取り組みは、事業成長だけでなく、新しいキャリアの可能性をも切り拓く挑戦だ。

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Space BD──「宇宙商社®」が描く、新産業創造への夢

誰もが一度は抱いたことのある宇宙への憧れ。その夢が、いま、ビジネスとして現実味を帯びている。冒頭に挙げたマッキンゼーのレポートによると、宇宙産業は2040年までに1.6兆ドル(約240兆円)規模へと拡大。年率7〜10%で成長するこの新市場で、日本発の「宇宙商社®」Space BDが、我々の想像を超えた未来を切り拓こうとしている。

2017年の創業以来、同社の歩みは多くの起業家の心を揺さぶってきた。JAXA初の「超小型衛星放出事業」の事業者に選定され、国際宇宙ステーション(ISS)での衛星放出事業を展開。かつて「夢物語」と思われていた宇宙ビジネスを、着実な「実績」へと変えている。

「宇宙を、次世代の基幹産業に」。

総合商社出身の永崎将利社長が掲げるこのビジョンは、単なるスローガンではない。「敬天愛人」「一生青春」という理念のもと、社員一人ひとりが持続的な成長と挑戦を重ねる。その姿は、未知の領域に挑む挑戦者たちの道標となっている。

宇宙。それは人類最後のフロンティアであり、無限の可能性を秘めた市場でもある。Space BDの挑戦は、我々に問いかける。技術革新と想像力が融合するとき、ビジネスはどこまで広がるのか。日本発のイノベーションは、どんな未来を創造できるのか。

その答えを探る旅が、いま始まろうとしている。

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Liberaware──インフラDXの革新者が挑む、52億円規模の国家プロジェクト

日本のインフラ老朽化問題に、革新的な解を提示するスタートアップが現れた。狭小空間点検ドローン『IBIS』を開発するLiberawareだ。マッキンゼーのレポートによれば、ドローン配送市場は2040年までに3,400億ドル(約50兆円)規模へと成長。この潮流の中で、同社は点検・保守という異なる切り口で市場を開拓している。

注目を集めるのが、総額52億円規模の国家プロジェクト「Project SPARROW」での取り組みだ。JR東日本やKDDIスマートドローンとのコンソーシアムで、同社は鉄道施設の保守・点検業務のDXを推進。人手不足に直面するインフラ業界に、新たな可能性を示している。

同社の強みは、ハードとソフトの両輪にある。『IBIS』は福島第一原発や能登半島地震の被災地で実績を積み、撮影データのデジタルツイン化技術と組み合わせることで、現場の可視化を実現した。

「最先端技術より、現場ニーズへの対応を重視する」と語る品質保証担当の伊藤聡一郎氏。この姿勢が、国内インフラ点検市場(約5兆円)とドローン市場(3,854億円)での成長を支える。

現在、同社は鉄道分野での成功を基に、道路・橋梁への展開、さらには海外市場も視野に入れる。「誰もが安全な社会を作る」というミッションのもと、インフラDXの革新者として歩みを進めている。

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Spider Labs──デジタル広告に「真実」を取り戻す挑戦者たち

Spider Labs──デジタル広告の「真実」を守る闘い

あなたが今見ているその広告、本当に「人」が見ているのだろうか?

デジタル広告の世界では毎日、数えきれないほどのクリックやコンバージョンが飛び交っている。でも、その陰で巧妙な「偽物」が跋扈し、広告費は闇に消え、データは歪められていく。多くのマーケターが、この目に見えない敵との戦いに疲れ果てていた。

そんな不条理に、真っ向から挑んだのがSpider Labsだった。2017年、同社が世に送り出したAI搭載の広告不正対策ツール「Spider AF」は、業界に新たな光をもたらした。広告インプレッションの真贋を瞬時に見抜き、不正なトラフィックを確実に排除する。マーケターたちの「正しく評価されたい」という切なる願いに、最新技術で応えてきたのだ。

その革新性は、今や国境を超えて広がりを見せている。東京、リスボン、ニューヨークへと拠点を広げ、GoogleやYahoo!との協業も加速。「Trustworthy Accountability Group(TAG)」からは日本・APAC地域で初めてとなる認証も手にした。

マッキンゼーは、サイバーセキュリティ市場が2040年までに1,200億ドル(約18兆円)へと成長すると予測している。こうした追い風の中、Spider Labsは広告不正対策から不正転売対策へと守備範囲を広げ、より大きな挑戦へと歩みを進めている。

私たちが日々目にするインターネットの世界は、どこまでが真実なのだろう。その問いかけに、Spider Labsは革新的な技術で一つひとつ答えを示していく。デジタル空間の信頼を守る戦いは、まだ始まったばかりなのだ。

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サイバーエージェント──急成長市場で描く「ABEMA」とIP戦略の未来

デジタルエンターテインメント市場が、新たな成長の主戦場となっている。マッキンゼーのレポートでは、2040年までに世界の動画配信市場は1,000億ドル(約15兆円)、ゲーム市場は910億ドル(約13.7兆円)規模へと拡大する見通しだ。この潮流の中、サイバーエージェントが独自の成長モデルを確立している。

FY2024、同社は売上高8,029億円を記録。特に動画配信プラットフォーム『ABEMA』は週間アクティブユーザー数(WAU)3,000万人を突破し、スポーツやオリジナルドラマなど多彩なコンテンツラインナップで存在感を示す。プレミアムプランの展開により、収益基盤も強化している。

IP戦略では『ウマ娘 プリティーダービー』を軸に、ゲーム・アニメ・映画・イベントを連携させたクロスメディア展開を推進。2024年には「アニメ&IP事業本部」を新設し、次世代コンテンツの創出を加速させている。

藤田晋CEOが掲げる「エンターテインメントとテクノロジーの融合」という方針のもと、同社は生成AI活用など技術革新にも積極的だ。急成長するデジタルエンターテインメント市場で、サイバーエージェントの挑戦は続く。

サイバーエージェント決算資料:
https://pdf.cyberagent.co.jp/C4751/n85z/umVK/Iatb.pdf

こちらの記事は2024年12月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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