【FastGrow厳選5社】拡大する市場で急成長するベンチャー/スタートアップ
「伸びている業界、市場で事業経験を積みたい」──。当然だろう。
ここに、同じ能力を持った者同士が二人いたとする。一人は成長市場へ行き、もう一人は衰退市場へ。結果、数年後に事業家としての力が身についているのはどちらだろうか?いささか暴論であることには目を瞑ってほしいが、我々は、いつだって前者を志向してきた。
今回はそんな読者に、拡大市場で急成長するベンチャー/スタートアップ・2022年5月Ver.を紹介しよう。読者もよく知るあのベンチャーから、これから間違いなく脚光を浴びるであろうスタートアップまで、一挙に5社をピックアップしてみた。
「それを言うならこのスタートアップも載るべきだ」「いやいや、あのベンチャーこそ今最もホットな企業だよ」など、通な読者からのコメントも期待しつつ、楽しんでもらいたい。
ではいこう。
- TEXT BY KIICHI MURAKAMI
- EDIT BY TAKUYA OHAMA
ラクスル
もはや説明不要の急成長ベンチャー、
次なる新規事業への期待大
ラクスル株式会社
ラクスルといえば、複数の事業を展開していることはご存じだろう。とはいえ、その実態を詳しくは把握しきれていないという読者のためにも、改めて解説したい。今回は以下の3つの事業に着目する。
1つ目は、同社の代表事業である、印刷・広告のシェアリングプラットフォーム『ラクスル』。
全国の印刷会社が保有する印刷機の非稼働時間を可視化し、最適な受発注のマッチングを図るプラットフォームだ。設備の非稼働時間、すなわちアイドルタイムは、ものづくりに携わる事業者にとっては大きな悩みの種。その課題の解決策を提示したラクスルは、まさに市場を創造したと言えるだろう。
ただ、「印刷市場は拡大していないのでは?」という疑問が浮かぶかもしれない。確かに、出版印刷は縮小を続けている。しかし『ラクスル』が創造した“ネット印刷”の市場は、約10%の成長率を見せているのだ。そしてコロナ禍でも成長を続け、最新の公表数値である2022年7月期第2四半期決算でも、過去最高額の売上高と売上総利益を記録している。
当事業は同社の売上の57%を占めており、文字通り核たる事業とされている。
2つ目は、物流プラットフォームの『ハコベル』。
こちらはコロナ禍以降、明確に拡大しているとみる読者も多いだろう。矢野経済研究所の調査によると、2020年度から2021年度にかけて物流総市場規模は7.7%の増加を見せている。
事業モデルは『ラクスル』と同様。全国の提携運送会社の非稼動時間を有効活用し、モノを運んで欲しい人と、運びたい人のマッチングを支援するサービスだ。こうした再現性ある事業展開は同社の魅力を語る上で外せないポイント。加えてSaaSビジネスモデルを取り入れたプロダクト『ハコベルコネクト』も展開し、利益率を高める。増収基調かつ、ARPU(Average Revenue Per User)も継続的に拡大させている。
3つ目は、広告プラットフォームの『ノバセル』。
こちらのサービスは、同社のCMOであり、マーケティング界隈でも著名な田部 正樹氏の肝いりの事業となっている。テレビCMの効果を可視化するという、今までになく、かつ広告出稿クライアントが切に臨んでいた要望を具現化したサービスである。
ここでも「テレビCMの市場は、成長が止まっているのでは?」という疑問があるだろう。それに答えるとするならこうだ。「“運用型テレビ広告市場”は、すでに急速な成長を始めている」。実際にこの事業は『ラクスル』に次いで2番目に高い収益をあげており、売上高は10億円を突破。飛ぶ鳥を落とす勢いとはこのことである。
同社は他にも、ITデバイス&SaaS統合管理クラウドの『ジョーシス』、ホームページ作成サービスの『ペライチ』、日本全国の工場をネットワーク化した段ボール激安販売・通販サービスの『ダンボールワン』なども手がける。
ここまで読んだ読者の中にはお気づきの者もいるだろうが、ラクスルは共通して“新たな成長市場”を創造し、”プラットフォーム事業”を展開しているのだ。産業の隙間や余白といったポイントに目を付け、今までになかった急成長事業を創り出し続けている。
そんな事業創造ベンチャー・ラクスルだからこそ、今なお優秀な事業家人材が集結し続けているのだ。
CUC
行政、医療機関、民間企業、
その全てを巻き込み40兆円の市場を切り拓く
株式会社シーユーシー
医療課題解決の急先鋒企業といえば、エムスリーグループのCUCだろう。
“Change Until Change”の頭文字をとってCUCとする社名の通り、40兆円という巨大な医療市場には変えるべき課題が山積みの状態。その要因としては、昨今の高齢化に伴う医療需要の増加や、医療現場の人的リソース減などが挙げられるだろう。こうした事態は、これまでのような医療サービスの提供を困難にしているのだ。そのなかで、我が国が迫られている選択肢は2つある。
1つめは、医療機関のサービスレベルを最適化すること。超高齢社会に属する日本において、量質共にこれまでと同等レベルの医療環境を実現するには、シンプルに人手が足りない。
そして2つめは、生産性を上げること。昨今、各業界においてDXが叫ばれているが、この医療業界においてもそれは例外ではない。高齢の患者は増えていくが若手の医療従事者は減っていく日本において、打開策は生産性を上げる仕組みづくりしかないだろう。
上記の岐路に立たされた時、医療を提供する立場としては当然、“医療のサービスレベルを下げる”という選択肢は取りづらい。しかし、医療費を含め自分たちだけで解決するには課題が多すぎる。そうした背景から、今こそ、CUCを筆頭に“民間企業からの救世主”が求められているのだ。
“Change Until Change”──変わるまで、変える。この言葉が示す通り、CUCは変えるべきと判断する医療課題にはすべて取り組む姿勢を見せているのも特徴の一つだ。一般的にはベンチャー/スタートアップといえばワンプロダクトで特定の領域に切り込むケースが多い。例えば、医師の人材紹介であったり、カルテの電子化、医療現場の効率性を上げるSaaS提供といった具合にだ。しかし、同社は特定の領域に留まらず、問題の大きさ、緊急性、実現性、市場性などの観点で“解決すべき”課題があれば、領域を問わず事業開発していくのだ。
具体的には、在宅医療、病院、透析を運営する国内外の医療機関への経営支援に加え、訪問看護事業、ホスピス事業、新型コロナウイルスワクチン接種の運営サポート事業及び新薬開発のための治験事業の展開など、これを見るだけでも同社の事業ドメインが医療業界全体を対象としていることがうかがえるだろう。そして、そのための豊富なアセットもエムスリーグループという立ち位置だからこそ兼ね備えることができているのだ。
拡大する市場で急成長するベンチャー、これをCUCと言わずして他に何があろうか。
より詳しい情報は、コチラを読みたい。
ACROVE
新規性×市場性×成長性の三拍子が揃う、
ECロールアップの大本命
株式会社ACROVE
以前、FastGrowでECロールアップ特集を組んだことがあるが、その際に当領域の専門家としてコメントを頂戴したのがこのACROVE。同社はEC事業者向けのBIツール『ACROVE FORCE』をSaaSとして提供しており、その他自社ブランドの展開はもちろん、他社ブランドを買収・統合してグロースさせるといったECロールアップも事業の柱として展開しているスタートアップだ。
このECロールアップ領域、すでに世界では数百億円〜数千億円の規模で調達が行われている程、市場の勢いは急加速している。実例として、ECロールアップの代表格・米国のセラシオは、創業わずか2年で評価額が1,000億円を超えるユニコーン企業となったことも押さえておきたい。そんなECロールアップ市場が、いよいよ日本でも本格的に拡大する兆しを見せているのだ。
まずは定量的な数値から見ていくと、日本の小売市場は140兆円を超える巨大な市場であり、2020年における物販系(家電や衣類、食品、書籍、雑貨など)のEC化率は約8%、現在は約10%に到達すると言われている。つまり、日本はEC市場だけでも単純計算で14兆円の市場規模があるということになる。この規模感を他業界との比較で見ると、2021年の日本の総広告費が約6.7兆円であることから、いかにEC市場、そしてそこから生まれるECロールアップ市場が大きなポテンシャルを秘めているか分かるだろう。
そして、このECロールアップ領域の国内リーディングカンパニーとして市場を牽引するACROVE、改めてその事業優位性を整理していきたい。
同社の要である独自のBIツール『ACROVE FORCE』は、各種ECプラットフォームでのマーケティング施策とその結果の分析や、事前に売れるカテゴリーの予測、ブランドごとの商品の売上日時、各購入率など、ECにまつわるすべての情報を把握することができる。これはECロールアップ企業の目線で見ると、“次に買収すべきカテゴリーや企業が手に取るようにわかる”ということだ。
また、同社の強みはそれだけではない。元々ACROVE自身がブランドを展開しグロースさせてきた経験から、ブランド買収時の目利きにおいても他を寄せ付けない地位を築いている。具体的には、200項目にわたる徹底した独自のDD手法だ。これはACROVE自身がブランドをグロースさせてきたからこそ分かる、買収先のEC事業者さえ気づいていないブランドの潜在的なポテンシャルを精緻に評価していくもの。これは単に事業買収、M&Aが得意だという企業がECロールアップに参入しても、到底真似することはできないだろう。
EC市場の成長と共に拡大するこのECロールアップ市場。そのなかで確固たる事業優位性を築き、急成長するACROVE。まさしく本記事のテーマにふさわしい正真正銘のスタートアップだ。
アソビュー
コロナ禍が明けた世の主役、此処に見参
アソビュー株式会社
遊び・体験の予約サイト『アソビュー!』で著名な同社だが、ここ直近で同社がBtoB・SaaSを展開していることはご存じだろうか。
具体的には、観光、レジャー・文化施設の事業者向けに『ウラカタチケット』『ウラカタ分析』『ウラカタ予約』といった3つのプロダクト(通称:『ウラカタシリーズ』)を提供。主たる要素としては、チケットの電子化、購買分析、顧客管理などが挙げられ、これら事業者の事業拡大を下支えしている。
そんな同社が属する余暇産業といえば、62兆円という巨大な市場規模を誇る。そのなかで業界を牽引してきたアソビューだが、直近のコロナ禍においては事業存続の危機にも見舞われた。
具体的には2年前のコロナ禍当初、売上成長率が95%減という未曾有の事態に叩き落とされる。日別で見れば、売上がゼロの日もあったというのだ。加えて当時、同社はVCからの資金調達総額15億円も視野に入れて動いていたが、コロナ禍の懸念により白紙撤回される。文字通り、退路の全てを絶たれたのだ。
そんな絶望の中で同社が活路を見出したのが、BtoB向けのWebサイトの受託開発や、コンサルティング事業だ。これは先にあげたBtoB SaaS事業とは別物で、レジャー産業という対象を越え、クライアント企業の事業立ち上げや集客支援、サイト開発といった支援を行うものだった。こうして事業の存続を維持しながら、裏では切り札となるBtoB SaaSを着々と育てていった。
余暇産業自体が成長しているわけではない。だが、社会変化に対応していくため、“余暇産業のデジタル化”という市場は改革待ったなし。急速な成長が約束されているともいえるわけだ。
『ウラカタシリーズ』自体は新型コロナウイルス感染症の流行前にリリースされていたが、コロナ禍で一気にその需要を高め、2020年4月には810施設に導入。その後2021年10月には約3倍の2,500施設、そして現在2022年2月時点では3,000施設を超える導入数を誇っている。一時は売上がゼロにまで追い込まれた同社だが、その後、SaaS成長率323%の大逆転を遂げてみせた。
コロナ禍もいよいよ終焉の兆しが見えてきた昨今、人々のお出かけニーズ解放と共に、アソビューの反撃開始だ。
Asobica
燃え上がる熱狂のごとく、
市場と共に急成長するCS版Salesforce
株式会社Asobica
CS版のSalesforce──。
Asobicaのキャッチフレーズである。本日はこの一言だけでも覚えていってもらいたい。
この言葉が指し示す通り、同社はカスタマーサクセスの価値提供を支援するSaaSプロダクトを提供。CS×SaaSスタートアップとして今まさにブレイク寸前の企業だ。
昨今、SaaSの隆盛によってカスタマーサクセスが重要視されていることはご存じだろう。急激に高まるそのニーズ。予算を新たに用意する企業もどんどん増えていくわけだ。しかしそんな現状に反し、未だカスタマーサクセスとしての価値提供に明確な勝ち筋は存在していない。SaaS企業に限らず、各社手探りのなかチームを立ち上げ、勝ち筋を模索しているのが現状ではないだろうか。
そんなカスタマーサクセスを擁する企業とエンドユーザーの間に、“熱狂”を生み出すのが同社の役目だ。具体的には、プロダクトを通じて企業とエンドユーザーがコミュニケーションを図れる“コミュニティ構築”を支援する。これによって、導入企業はどのエンドユーザーがどのくらい自社の商品・サービスに対して魅力を感じてくれているかといった“顧客ロイヤリティ”を数値化することができるのだ。そして、そこで取得したデータをもとに顧客体験を設計・構築しLTVを上げていくといったもの。
このCS×SaaS領域、正直まだ聞きなれない読者も多いかと思うが、世界に目を向けるとその見方は一変する。結論から言おう、世界ではユニコーンが既に複数社、存在している。代表的な企業を挙げればQualtrics、Gainsight、Khorosといった企業などだ。またその市場規模は2010年時点で既に約1,200億円あり、2025年には約3,000億円を超えると試算されている。こうした実態を鑑みるに、日本国内においても数百億円規模の市場になることは間違いないだろう。
そんなポテンシャルある市場で業界のリーディングカンパニーを目指すAsobica。代表の今田氏は2020年にFastGrowに登場し、カスタマーサクセス領域の未来を語ってくれている。そこから2年経った今──。この市場と共にAsobicaはどう進化しているのだろうか。近日中に、その足跡を追いかけたい。
いかがだっただろう。ジャンル横断で新興業界、新興市場ふくめた特集とのことで、「こことここが並ぶか」といった驚きも正直あったかと思う。そして、そうした読者の反応こそ我々の求めるところでもあった。
なぜなら、例えば「事業創造ベンチャーと言えば◯◯しかないだろう」などといった強い認知を持ってしまうと、それ以外に該当する情報に出会ったとしてもスルーしてしまう可能性が高いからだ。こうした情報収集の機会損失を防ぐべく、今回のような切り口で“知られざるあの事業の強み”や、“あの事業が急成長した秘訣”などを伝えていくのもFastGrowの役目。
引き続き、読者と企業の“めぐり逢い”にコミットしていきたい。
こちらの記事は2022年05月31日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
村上 貴一
編集
大浜 拓也
株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。
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