COOの流儀は、彼らから学べ──ラクスル福島氏、カンム知久氏など。フォローすべき、急成長企業のCOO 5選
「事業は人なり」経営の神様とも称される松下幸之助の言葉だ。事業を創るのも、会社を大きくするのも、そこには「人」がいる。そんな「人」に焦点を当て、次代を担うイノベーターたちをピックアップ。成長のエッセンスをお届けする。
今回は、COO(Chief Operating Officer)の中でも、FastGrowが特に注目するキーマンを5名厳選してご紹介。
事業の全体価値を高めるために、必要であれば「何でも屋」となり、非連続な成長を目指すことが求められる同ポジション。その役割は企業によって全く異なり、キャリアのバックグラウンドも様々であることから、なかなかその実態を掴みにくいのではないだろうか。
急成長企業の第一線で活躍する、現役のCOOたちは、日々何を考え、どう行動しているのか?これらのナレッジを日々収集するために、ウォッチしておくべきキーパーソンと、彼らのマスターピースをお届けしていく。
- TEXT BY HARUYUKI HIROSE
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
福島 広造氏(ラクスル COO)
福島氏から学ぶべき理由
福島氏は慶應義塾大学卒業後、ITコンサルティング会社を経て、ボストンコンサルティンググループ(BCG)に入社。プリンシパルとして、トランスフォーメーション(企業変革)/テクノロジー・アドバンテッジ領域を担当してきた。
2015年7月、ラクスルへ入社し、経営企画部長、SCM部長を経て、現在は取締役COOを務めている。
FastGrowで企画した、事業の悩みをエキスパートに質問して答えがもらえるFastGrow Answers。その中で福島氏がCOOの役割について語った言葉は、多くのスタートアップパーソンにとって、パンチラインとなった。
これまで見聞きした中で最もしっくりくるCOOの定義 by ラクスル福島さん。「役割の三遊間」は個人的パンチライン、というかもはや名言。
— 相良俊輔@Genesia Ventures (@snsk_sgr) October 16, 2020
翻って自分自身も非連続な成長を志向する新興VCにおいて常に経営と実行の隙間を縫うCOOでありたいと願う。タイトルがなんであれ。https://t.co/PPEj97xZfI pic.twitter.com/QNmlnUoYjZ
10X矢本氏との対談では、これまでのラクスルの成長を振り返りつつ、非連続な成長を遂げるための必要条件や、そのための組織構成などについて語っており、示唆に富む内容がやはり多い。
ラクスルで連続じゃなくて非連続を起こせる人とか、それをちゃんとやれる人の特徴って、逆説的なんですけど、実は短期の連続をちゃんと仕上げてくれる人。
そこが結構仕上がったり、自分のアンダーコントロールになってくると、思いっきり非連続にチャレンジしていける。という中でいくと、やっぱり自分たちの短期と連続を、堅くモデルにし切るというところが、非連続への必要条件。
プロ経営者(CxO)への登竜門として、BizDevキャリアの関心が高まっている昨今。その役割や、キャリアステップについてまとめたnoteは、COOを目指す人はもちろん、全事業家必見だ。
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知久 翼氏(カンム COO)
知久氏から学ぶべき理由
- 「バンドルカード」を提供するカンムでCOOを務め、事業の成長を牽引
- ソフトウェアエンジニア出身のCOOとして、守備範囲の広さが強み
- 「カンムでマーケティングチームがやってるユーザーインタビュー」、「数値感」など横断的にTIPSを公開
アクセンチュアにて大手GMSや大手アパレルSPAの基盤構築プロジェクトを経験後、2013年にカンムにバックエンドエンジニアとして入社した知久氏。
2017年の年末にカンムCEOの八巻渉氏から「COOになってみないか」と声をかけられ、就任。アプリから誰でもすぐに発行できるプリペイドカード『バンドルカード』の成長を支えてきた。
ソフトウェアエンジニアとしてのバックグラウンドを持ちながら、CTOではなくCOOとして活躍する理由や、COOの役割について語っている「ぜんぶ俺がケツを持つ。採用もマーケもCSも、愛と数字で受け止めるCOOの話」は見逃せない。
少なくともスタートアップの100名未満の企業において「COOはこうあるべき」みたいなものはない。会社にいま必要なことを全力でやるべきだと思います。
ただ、あえて挙げるとするなら「最後にCEOと一緒にケツを持つ存在であるべき」ってことですね。ぼく自身も、最後の砦的な役割は猛烈に意識しているポイントです。
N=1インタビューを大切にしている、カンムのユーザーインタビューのTIPSや、CEOとの役割分担について語っているPodcastも、ぜひ聞き逃しなく。
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長村 禎庸氏(元ハウテレビジョン COO、現EVeM CEO)
長村氏から学ぶべき理由
- ハウテレビジョンでは、取締役COOとして停滞する同社をターンアラウンドし、2019年東証マザーズ上場に導いた実績を持つ
- ベンチャー企業のマネージャーに必要な行動の型・知識をまとめた「ベンチャーマネージャーのマニュアル」を公開
- 「急成長を導くマネージャーの型 ~地位・権力が通用しない時代の“イーブン"なマネジメント」著者
3人目はすでにご存知の方も多いだろう。複数のベンチャー企業の成長をリードした実践知をまとめあげた「【スライド約300枚】ベンチャーマネージャーのマニュアル」著者、長村禎庸氏だ。
新卒でリクルートに入社後、ディー・エヌ・エー(DeNA)に転職。子会社取締役や、採用、経営企画マネージャーなどを担当。ぺロリ出向後、社長室長兼人事部長として事業・組織の拡大に貢献。その後転職したハウテレビジョンでは、取締役COOとしてマザーズ上場の大きな力となった。
そんな長村氏による「ベンチャーマネージャーのマニュアル」は、「これ読んでみて!全部書いてるから!」と言って渡せる”マニュアル”がコンセプトだという。組織も若く、事業や環境変化の激しいスタートアップ・ベンチャーがまさに求めていたものではないだろうか。
また直近では、ベンチャー企業で生まれた「イーブンな関係でマネジメントをする際に必要な型」という技術を詰め込んだ書籍「急成長を導くマネージャーの型」を執筆。ベンチャー経営者、マネージャー、マネージャーを目指す方など、あらゆるビジネスマンの決定書になるだろう。
急速に成長する組織のヒューマン/プロダクトマネジメントにおけるバイブルだった。後でもう一回読む。
— 奥原拓也 / クラシルPdM (@okutaku0507) December 28, 2021
急成長を導くマネージャーの型 ~地位・権力が通用しない時代の“イーブン”なマネジメント https://t.co/MRev71nTbV
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清水 隆之氏(オーティファイ COO)
清水氏から学ぶべき理由
- オーティファイのCOOとして、グローバルでの成長を牽引
- FiNC Technologiesの元VPoE。エンジニアリングバックグラウンドが長く、エンジニアリングxマネジメントx組織づくりに強みをもつ
- エンジニア組織のマネジメント知見をまとめた、「VPoE handbook」は必見。
清水隆之氏はディー・エヌ・エー(DeNA)に新卒で入社し、エンジニアとして複数の海外向けソーシャルゲームの開発・運用を経験。2014年12月には、FiNC Technologiesに最初の中途エンジニアとして入社。法人向けサービスの立ち上げを牽引し、後に執行役員 VP of Engineeringに就任した。
2020年7月からは、オーティファイの取締役COOに就任。ソフトウェアテスト 自動化プラットフォーム『Autify』を提供する同社のグローバルでの成長を牽引してきた人物だ。
キャリアのバックグラウンドとしてはエンジニアの経験が長く、自身がエンジニア組織のマネジメントに苦労した経験から、その実践知を集約させた「VPoE handbook」は VPoEを目指す方はもちろん、新米VPoEの方や、VPoEの役割に当たるような人材を登用したいと思う経営者やマネジメントの方々の必読書だろう。
また、スタートアップの現場で実際に経験したこと・教訓を生々しく紹介する「Learning cast」という名のポッドキャストを自身で配信しており、エンジニアリング、キャリア、マネジメント、組織づくり、経営など多岐にわたるナレッジを公開している。
中でも、業界全体で競争の激化が続くエンジニア採用について洞察している「2022年エンジニア採用戦略を考える」シリーズは必聴だ。
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秋山 洋晃氏(イチナナキログラム COO)
秋山氏から学ぶべき理由
- ファッションブランド『17kg』など複数のブランドを展開するイチナナキログラムの経営に参加し、1年で年商10億超に成長。
- 若きCOOとして、インスタ・マーケティング・経営のノウハウを公開
- イチナナキログラムの初期のグロースに関する知見をまとめた「月商1000万円から1億円になるまでにやったこと」を自身のnoteで公開
最後に紹介するのは、ファッションブランド『17kg』など複数のブランドを展開するイチナナキログラムで取締役COOを務める、秋山洋晃氏。
大学在学中に音楽イベント事業で起業し、卒業後はグリーに入社。マーケティング部に在籍後、2014年9月にTonight(グリー100%子会社)へ出向し、同社のサービス運営及びM&Aを担当した。
2018年2月にイチナナキログラムにCOOとして参画後は1年で年商を10億超えに成長させるなど、非連続な成長の立役者となっている。
イチナナキログラムが「月商1000万円から1億円になるまでにやったこと」をまとめた自身のnoteはMissionの策定、事業計画の策定、主要KPIとアクションプランの策定、採用計画の策定など、各論について触れられており、起業初期のグロースに大いに参考になるだろう。
また、自身のTwitterでも日常的にマーケティング・経営のノウハウを発信しており、これからCOOを目指したい方や、D2C・SNS領域で活躍していきたい方はフォローしておくと良いだろう。
CEOとCOOの違いを旅行の決め方で表すと、CEOが「俺来週北海道行きたい」と言い出し、COOが「北海道に行く為の飛行機はこれで、旅先の観光地やお店はここ」と返すイメージ。CEOという言い出しっぺがいないと旅行は始まらない。一方で旅行の満足度が高いか否かは、COOの手腕にかかっている部分が大きい。
— 秋山洋晃@インスタ×D2C (@akky0429) August 16, 2019
会社が急成長する→人手足りないと思い込む→採用加速する→成長鈍化する→固定費に苦しむ、というのは若手ベンチャーが陥りがちな罠。会社が急成長しても、それが長くは続かない前提で、最小人数で戦うのが基本。こういう時代だからこそ、外注できる業務を増やし、人件費を変動費化させることも重要。
— 秋山洋晃@インスタ×D2C (@akky0429) January 11, 2021
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おわりに
いかがだっただろうか?イノベーション・エコシステム発展のため、そしてベンチャーパーソンである皆さまに少しでも多く新しい学びをお届けするため、今後も「ベンチャーのプロフェッショナルから学ぶ」ことにフォーカスした情報を発信していく予定だ。
本稿でお届けした内容が、読者の皆さんの成長の一助となれば幸いである。
こちらの記事は2022年05月12日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。