阿部 慎平
スマートキャンプ株式会社
取締役COO新卒でデロイトトーマツコンサルティングに入社後、大手企業の戦略案件に多数従事。2017年3月にスマートキャンプに入社。事業戦略・組織戦略の策定、SaaS業界・インサイドセールス業界レポートの執筆、SaaSカンファレンスの主催、インサイドセールス代行・コンサルティング『BALES』、インサイドセールスマネジメントシステム『BALES CLOUD』、オンライン展示会『BOXIL EXPO』の立ち上げなどを推進。セールスフォースユーザー会インサイドセールス分科会2019年度会長。2019年11月よりマネーフォワードグループへ参画。
理想的な「追客」のステップがあれば、教えてください。また、時間をかけたお客様が商談に至らなそうな場合、すぐ諦めるべきですか?
契約を頂くというゴールから逆算することが重要で、契約に向けてお客様の課題を理解し、製品・サービスの価値を理解いただき、意思決定者から支持をいただくといった代表的なステップを進めていくのが良い「追客」のステップだと思います。メールやウェビナーによる情報提供などはその手段という位置づけで、製品・サービスの特性やお客様の属性に合わせて柔軟に設計していくべきです。
時間をかけたお客様の追客判断に関しては、上記で設計したステップを進めていく上でどうしても乗り越えられないハードルがある場合は諦めるべきですし、乗り越える手段が見出だせるのであれば諦めずに追いかけ続けるのも良いと思います。
なお、今では契約の先のオンボーディング(定着)をゴールとしてインサイドセールスの段階からお客様とコミュニケーションをしていくべきだとも言われています。目先の契約ではなく中長期のLTVが重要ですので、LTVの最大化を意識した追客ステップを設計できると良いでしょう。
阿部 慎平氏の回答
ご自身のバイブルとなっているような、何度も読み返す書籍はありますか?
前職の経営コンサルタントの時から元ミスミグループCEOの三枝匡氏の「戦略プロフェッショナル」「経営パワーの危機」「V字回復の経営」「ザ・会社改造」が好きで読み返しています。
いずれも三枝氏の実体験をもとに小説形式で描かれたビジネス書で、主人公が会社や組織を改革していく内容です。改革にあたってどのような意思決定をし、どのように周囲を巻き込んでいったのかという点が非常にリアルで勉強になり、特に中長期の戦略や施策を考える際に本を見にいったりします。
インサイドセールスのオペレーションやスキルに直接的に役立つ内容ではありませんが、ビジネスパーソンとして戦略や施策を考える方法や姿勢を学ぶことができますのでインサイドセールスの領域でも戦略や施策検討で役立つと思います。
阿部 慎平氏の回答
インサイドセールスとセールスの役割が変わる軸として、顧客企業規模があると思います。超エンタープライズ企業向けには、営業とISがタッグを組んで個社深耕を図るなどあると思いますが、みなさんはこのISの対応が変わる規模のラインはどこだと思いますか?(従業員数1000名以上など)またそれはなぜですか?
前提として、売上に対して営業とインサイドセールスにどれぐらい投資できるかといったROI(投資対効果)の目線でラインを設けるのが良いと思います。製品やサービスのコスト構造にも依りますが、たとえば売上に対してマーケティング・営業全体に20%、そのうち半分(売上に対して10%)を営業・インサイドセールスの費用として投資できて、営業とインサイドセールスの人件費が合わせて1ヶ月あたり100万円であれば、1,000万円の売上が作れればOKです。
上記のケースで言えば1,000万円の売上を1社から頂ける可能性が高いのであれば、たとえ100名前後の企業でも個社深耕を図るべきで、結果としてその可能性が高いのが500名や1,000名以上の企業になるということだと思います。1ユーザー月額500円のSaaSであれば1,000名に20ヶ月利用してもらえれば1,000万円の売上になりますし、1ユーザー月額1,000円のSaaSであれば500名に20ヶ月利用してもらえれば1,000万円になりますので、どちらも個社深耕の対象にして良さそうです。
なお、顧客規模が小さくても事例として利用してもらいたい企業(たとえば影響力のあるスタートアップ企業、有名な中小企業など)については個社深耕の対象にすべきです。事例はマーケティングやPRの効果がありますので、その効果まで見据えてROIが見合うのであれば個社深耕するのが良いでしょう。
阿部 慎平氏の回答
インサイドセールスはセールス部門とマーケティング部門の調整という対内的な工数がかかるイメージがあります。皆さんはどのように対内的な調整工数をどのようにして削減していますか?
マーケティングオートメーションやCRMを始めとしたテクノロジー活用、マーケティング部門やセールス部門との必要な会議の定例化などにより、できる限り仕組み化しておくことが調整工数の削減において重要です。仕組み化されておらず都度確認や調整が発生してしまうと、電話やメールなどの実務の時間が少なくなってしまい、結果としてインサイドセールスのKPIが達成できなくなってしまいます。
また、それでも調整工数が発生してしまったり、意図的にインサイドセールスがマーケティングやセールスを一部兼務する場合には、それらの工数を見越して予めインサイドセールスのKPIを低く設定しておくのも有効です。ただし、電話回数やメール送信数など行動量もKPIとして設定しておくことが重要で、インサイドセールス以外の業務に時間を割いてしまい行動量が担保できず商談数が未達になるといったリスクを抑えることができます。
阿部 慎平氏の回答
インサイドセールスのプロ人材を外注で担う場合、外注先とグリップを握っておくべきことは何だと思いますか?成果はもちろんですが、それ以外にもあれば教えて頂きたいです。
まず成果に関して言えば、どれぐらいの時間軸でどのように成果を高めていくのかという期間とゴールの認識合わせが不可欠です。インサイドセールス組織立ち上げの人材要件でも回答した通り、外注パートナー側でもPDCAを回していくことになるため、始めのうちは成果が中々出ないといった場合も多く、どう改善し、どれぐらいの期間をかけて想定の成果まで到達するのかのイメージが合っていないと失敗してしまいます。
また、どう改善していくかという部分について、どれぐらいの頻度で、どのような内容の定例会議やコミュニケーションを取っていくのかという具体的なオペレーション部分も認識合わせしておくべきです。発注元以上に外注パートナー側が成果主義で、改善部分の定性的な情報共有やコミュニケーションが少ない場合もあります。
阿部 慎平氏の回答
インサイドセールス組織の立ち上げ時、どのような人を採用すべきでしょうか?
経験者採用のハードルが高い為、その他皆様が重要と考える採用条件等あれば見解を教えて頂きたいです。また、今回は外注のプロ人材に手伝って頂きながらの立ち上げを検討しており、ゆくゆくは内製化していくための人材採用を検討しております。
マネージャーの素養・スキルに関する質問への回答に近いですが、インサイドセールス経験者でなくとも泥臭く新しいチャレンジをし続けられるマインドがある人材を採用、あるいはアサインすべきです。インサイドセールスはまだまだ答えがない領域ですので、過去の経験があるのはベストですが経験がなかったとしても自ら情報収集しながら新しい施策にチャレンジし、PDCAを回していける方であれば成功します。
また、上記のマインドを持つ人材と外注・アウトソーシングは非常に相性が良いです。知識・経験を有する外注パートナーと取り組むことで立ち上げスピードが格段に上がります。ただし、外注パートナーとしても各社の条件(取り扱っているサービスやターゲット、価格帯など)をもとにPDCAを一定期間回さなければ立ち上げには至らないため、始めから成果が出ると思わず一緒にチャレンジするという考え方を持つことが非常に重要です。
インサイドセールス組織の規模拡大にあたってもリソースや外部客観性などの観点から内製×外注のハイブリッド型で組織構築するというのも主流になってきていますので、立ち上げから外注パートナーを活用し、そのままハイブリッド型インサイドセールス組織を構築していくのもおすすめです。
阿部 慎平氏の回答
インサイドセールスにおいて、どのように未経験者(新卒や営業未経験など)を育成していますか?OJTといってもどういったことをしているのか、またまず教えるスキルなどあれば、教えていただけると幸いです。
まずはインサイドセールスの実務に慣れることが大切ですので、サービス理解やコミュニケーションの基礎を押さえたら、実際に電話やメールなどの実務を始めてみるのが良いと思います。電話のトークやメールの文面に関しては、都度フィードバックし改善していくことが重要ですので、メンターがついて密にサポートします。
インサイドセールスの実務に慣れてきたら行動量や商談数などのKPIの管理、お客様との関係構築などに挑戦することになりますが、これらは目標に対する差分を埋めるイメージ(たとえば目標の商談数に対して不足分をどう補うのかという考え方)でフィードバック、議論していくことで目標からトップダウンで考える癖をつけるようにします。
インサイドセールスをはじめとした営業マネジメントの現場では、一つ一つの電話や商談のログに対して気になる点をフィードバックしていくという光景をよく見ますが、これではボトムアップ型で場当たり的になってしまいますのでスキルとして蓄積しづらいです。
阿部 慎平氏の回答
どんな素養・スキルを持った人が、インサイドセールスに向いているのでしょうか?プレイヤーとマネージャー(リーダー)、それぞれ教えていただきたいです。
まずマネージャーに関しては、泥臭く新しいチャレンジをし続けられるマインドが重要だと考えています。インサイドセールスはここ2-3年で大きく注目されるようになったばかりで、世の中全体としてもまだまだ正解を模索している段階です。このような状況でインサイドセールス部門を立ち上げ、そしてリードしていくためには、なかなか成果が出ず周囲から疑問に思われても諦めずに試行錯誤し続けるマインドが必要不可欠です。インサイドセールスへの挑戦は、新規事業への挑戦に近い感覚だと思っています。
プレイヤーに関しては、一つ一つの施策のPDCAを回す力とBtoBマーケティング・セールスのプロセスを俯瞰的に見る力が求められます。インサイドセールスでは電話のトークやメールの文面などの細かいブラッシュアップがすごく重要ですし、またマーケティングとセールスの中間を担う場合が多いためマーケティングやセールスについて理解し、一歩踏み込んだ改善ができることが理想です。これらに加え、多くのお客様と時間をかけて関係構築していく仕事ですので、コミュニケーションとアクション管理も大事な要素だと思います。