AIは“効率化”でなく“共進化”に使え──次の時代をつくる「AI SaaS」で高成長を実現するPKSHAから学ぶ、技術の社会実装論
SponsoredARR60億円、顧客数はエンプラを多く含む2,674社。これが、SaaS企業としてのPKSHA Technologyの姿だ。もしかしたらR&Dやコンサルティング型の事業のイメージが強いかもしれないが、あえて言おう。これから新たに、同社の高成長をSaaS事業が牽引していく可能性は非常に高い。
その理由は単純明快、「AI」の力によるものだ。SaaS事業において、AIの力は大きなレバレッジとなる。と言っても、多くのSaaS企業が「AIを活用しています」と語り出している中、PKSHA Technologyの優位性を正確に捉えるのは、やや難しいかもしれない。
そこで、この記事では改めて、同社のSaaS事業、名付けて「AI SaaS」が、他のSaaSとどのように異なるのかを解説する。
なおこの記事は、2024年2月に開催したFastGrow Conferenceでのセッション内容を整理・編集したものである。前提情報を多く付加し、「AI SaaS」の全貌ができるだけイメージできるよう構成した。キーワードは「共進化」。耳慣れない言葉かもしれないが、これを理解することで、「新たなSaaSの姿」が感じられるかもしれない。
- TEXT BY TERUNARI KATO
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
「これからのSaaS」の本命とは?AIをどう活用すべき?
AIを活用したSaaSが日本でも増えてきた。だが、「AIをどのように活用すべきか」を考え抜いたことはあるだろうか?国内のAIリーディングカンパニーとも呼べるPKSHAに言わせれば、AIを単に「効率化」に使うようでは、そのポテンシャルを活かし切れていないということになる。どういうことだろうか?
山本AIは物事を学習し、人に合わせて進化することができます。しかし、それだけではなく、それを利用する人間も進化し続けられるプロダクトこそが、「AI SaaS」です。
「AIを活用したSaaS」とは、全く異なると考えています。
この記事では、具体的な事例も交え、国内で唯一と呼べるであろう「AI SaaS」というソフトウエアのユニークさを探る。
だがその前にこのセクションでは、PKSHAのSaaS事業の成長度合いを確認しよう。
2012年の創業以来、AIのR&DとSolutionという二大事業に加え、ここ2~3年はSaaS事業を中心にさらなる成長を生み出している。重要指標とされるARR(年間定期収益)は約60億円と国内SaaSの上位に位置しており、顧客数はエンタープライズを多く含む2,674社(前年同期比+387社)となっている。
AI SaaSプロダクトは、上図でシェア1位として示される3つに加え、業務自動化を行うPKSHA RPAや、音声書き起こしを行うPKSHA Speech Insight等、 そのバリエーションは増え続けている。下図の中央に描かれる円の中に記載があり、『PKSHA Chatbot』や『PKSHA Voicebot』を先駆けとしたプロダクト群の形で展開。2024年3月19日付プレスリリースで<岩手銀行がAI対話エンジン「PKSHA Chatbot」と「PKSHA FAQ」を同時導入>と示すように、複数のプロダクトを合わせて導入することで大きな業務変革を生み出そうとする例が増えている。
PKSHAは「AI SaaS」を「AIエージェント」とも表現している。導入企業では、24時間常にこの「AI エージェント」が働き、現場の業務をこなしながら進化させているのだ。
2024年3月時点で、約6,000体の「AIエージェント」がさまざまな領域で稼働している。導入件数が増え、それぞれの創出価値もじわじわと大きくなっていく。その結果が、PKSHAのさらなる事業成長として数字に表れていくことになる。
井上オーガニックに始めた『PKSHA Chatbot』や『PKSHA Voicebot』に加え、アシリレラというRPA企業やPRAZNAというFAQソフトウエア企業などがグループにジョインする形で、成長を重ねてきました。
M&Aは今後も検討しますし、一方で社内からオーガニックにプロダクトを生み出す動きはもちろん続きます。さらなる価値創出と事業成長のためには、適切な手段を組み合わせていくというカルチャーです。
さて、前提をある程度、確認できただろうか。それではここから詳細に、「AI SaaS」について同社メンバーがセッションで語り合った様子に耳を傾けていこう。
「AIを使ったSaaS」ではなく「AIの力で人間と共進化するSaaS」こそ、未来をつくる
イベント全体で見れば、他のSaaSスタートアップの登壇も多かった2024年2月のFastGrow Conference。そのうちこのセッションでは、まず「AI SaaS」の定義や考え方が語られた。
山本先ほどもお伝えしたように、AIが人の入力をもとに学習して進化するだけでなく、人もAIから学び行動変容を起こす。そしてそのフィードバックサイクルがぐるぐると回って共進化が行われるものを我々はAI SaaSと定義しています。
アルゴリズムの力により、プロダクトやコンピュータ自身が「人の世界」をより深く理解していくのはもちろん、そのプロダクトを利用する人間も学んでどんどん進化していくという点が重要になります。
日本では特に、「業務効率化」を提供するSaaSが主流だ。日常業務をより早くこなせるようになれば、その分、もっと価値の出る仕事に時間や工数を振り向けることができる。このようなイメージでSaaSを活用している人が多いのではないだろうか。そしてAIも同じく、効率化のために活用する例が多くなっているように感じられる。
だが、PKSHAが開発している「AI SaaS」は、こうしたものと少し違う。「未来のソフトウエア」を実現すべく、AIならではの価値創出に向き合っている。
山本たとえばコールセンターという事業領域で、我々は「対話型チャットボット」のプロダクトを提供しています。エンドユーザーが問い合わせを行うと、登録済みのFAQから回答を自動で返したり、オペレーターから回答してもらったりすることができます。同時に、回答への満足度をユーザーに確認したり対話内容を解析したりすることで、次回以降の対話品質を改善するロジック改善を自動で行っていきます。
その回答の精度がどんどん高まるので、受け取り続けているうちに、人間の方もきっと行動が変容していきますよね。さらに、エンドユーザーへの対応を考える他の従業員の行動も変容していくはず。「人の力でAIが進化する」だけでなく、「AIに伴って人も進化する」というサイクルが回るんです。
このサイクルがぐるぐると回っていくことを我々は「共進化」と呼び、「AI SaaS」が必ず生み出すべき価値だと考えています。つまり、SaaSの機能の一部を強めるためにAIを使う、といった考え方では全くないんです。
SaaSの形で日常に組み込まれたAIが、人間や事業から新たなデータをどんどん学習し、進化していく。そのAIから新しい視座が得られて、人間にも変容が起きる。そうして人間が担う事業も進化していく。こうした景色を描いているのが、「AI SaaS」なんです。
「AIのおかげで日々の業務が楽になった」では終わらせない。人間の思考や行動が進化し、事業や企業まで進化していく。そんな未来を見ているのだ。
そして足元では、まず「顧客接点」と「従業員接点」という、大きく二つに分けた事業領域を設定し、それぞれにプロダクト群の提供を進めている。
池上SaaSプロダクト群を提供する主体として、PKSHA CommunicationとPKSHA Workplaceという二つのグループ会社を置いています。いずれも主力プロダクトは「チャットボット」のような似た形で提供していますが、PKSHA Communicationの営業先はカスタマーサクセスやカスタマーサポート関連の部署、PKSHA Workplaceの営業先は情シスや人事/経理などの部署になっています。これらの「エンドユーザー向け」と「従業員向け」で、活用例が大きく異なります。
たとえば、「顧客から出てくる質問」と「従業員から出てくる質問」をイメージしてみると、それを聞く目的や意図は異なるはずですよね?基盤は共通化できますが、それぞれのドメインで最適なAIを、SaaSとしてのUXでどのように提供すべきかを洗練させるためには、ドメインごとにフォーカスする必要があると考えているんです。
PKSHA Communicationは文字通り「エンドユーザーとのコミュニケーション(=カスタマー・サクセス)」を進化させるSaaS企業、そしてPKSHA Workplaceは「社内コミュニケーション(=エンプロイー・サクセス)」を進化させるSaaS企業ということだ。
そして「SaaS」でありながら、「人間が能動的に活用する」だけにとどまらない。「AIの力で、プロダクト自体が常に活動し、従業員の業務を支援する」という点も特徴だ。つまり、単にPC上に存在するソフトウエアではなく、「現場業務で介在し、従業員やその業務自体を進化させていくAIエージェント」という存在なのだ。
「エンプラ向けカスタマイズ」も柔軟に。
妥協せず顧客価値を追及できるプロダクト群
抽象的な話が続いてしまったので、ここで具体事例に触れ、「未来のコミュニケーション」がどのように実装されるのか、イメージを湧かせていこう。なお、すべてエンタープライズの導入事例であり、現場では非常にダイナミックな活用がなされている。
まず語られたのはPKSHA CommunicationのNTTドコモとの事例。
池上私自身も非常に思い出深い事例です。「人とボイスボットの共進化」をテーマに、インターネットサービスプロバイダー事業のコンタクトセンター部門を大きく変革していこうという取り組みでした。
狙いは二つあり、一つは電話をかけるエンドユーザーの体験向上、もう一つは運営コストの削減でした。単純に考えればトレードオフになりそうなことを同時に実現するプロジェクトだったんです。しかも、問い合わせは毎日10万件以上届く大規模な現場でした。
ですが、『PKSHA Voicebot』というプロダクトと、Solution事業で蓄積してきた知見やモジュールを柔軟に活用することで、大きな成果が得られました。
わかりやすいのが「たらい回しの防止」です。従来は電話でのお問い合わせをすると、「〇〇のご用件の方は〇〇をしてください」という自動アナウンスを聞かされ、やっと担当者につながったと思って相談を始めたら「私では答えられないため別の担当に回します」みたいなことを言われる。そういった経験、ありませんか?このたらい回しをなくすことが、かなりできるようになっています。
具体的には、最初に電話を受けるのを「数パターンしか対応できない自動音声」ではなく、「対話できるAIエージェント」にしたんです。これにより、自然な言葉で問い合わせに対応しつつ、初めから的確に担当につなげられるオペレーションを実現できました。
また、この過程で見つかったほかの課題にも対応していった結果、「従業員による電話対応」を2割も一気に削減することができたんです。
そもそも、多くのSaaSプロダクトではすでに、解ける課題が決まっている。現場に合わせたカスタマイズは最小限となり、場合によっては、SaaSプロダクトのUIに合わせて業務フローを変える必要が出てくる。
だがこの事例では、従来のコールセンターの流れをほとんど変えることなく、個別カスタマイズを施しながら全体最適を図っていったわけである。
そしてこのうち、「対話できるAIエージェント」については、SaaSプロダクトだけですべて構築できるものでもない。PKSHAグループのR&DやSolution事業で培った知見や、開発済みのモジュールを駆使し、新たな価値提供を可能にしたのだ。こうした対応を柔軟にできるのも、「AI SaaS」の特徴だという。
同様に全国規模のエンタープライズに対してPKSHA Workplaceが対応した事例にも触れよう。
大西PKSHA Workplaceで、アルティウスリンク様に『PKSHA AI ヘルプデスク』というプロダクトを導入いただいています。
従業員数が5万人以上と非常に多く、拠点も全国各地に点在しているので、働き方や利用しているシステムが多様な企業です。そこで先方と話しながら、「現場での悩みをソフトウエアの力で自己解決できるような環境」をつくることを目指しました。
複雑な社内の電話問い合わせを『PKSHA AI ヘルプデスク』に移行していただき、段階的に固定電話を完全撤廃していきました。まさにAI-SaaSにより、全社的に行動変容を促す成功事例をつくれたと捉えています。
それぞれの事例で、簡単ではない場面が多くあったことが推察される。そんな感想を抱いていると、大西氏は「PKSHAだからこそ乗り越えられる難しさだった」と語り続けた。
大西やはりエンタープライズでの導入ではさまざまな要望をいただき、ともすると個別最適な対応になってしまいそうになります。ですが、あくまでSaaSであることも大切なので、いかにして汎用的な価値に落とし込み、SaaSとしての形にしていくか、非常に難しいですね。
なおかつそこにAIを最適な形で組み込まなければ意味がないので、異常な高難度の開発が複数かけ合わさっていくような部分もあります。そこで、R&DやSolutionといった他の事業で培った知見が活きます。活かすのも簡単ではありませんが(笑)。
ただ、難しい点と、だからこそ面白いという点、その両方があることをお伝えしたいです。
キャリアも業務も「未来志向」で価値を生み出す
難しいチャレンジについて笑顔も交えながら語っていく池上氏と大西氏の姿も印象的だ。最後に、この事業を進めていくメンバーはどのような特徴を持つのか、そしてどのようなカルチャーが醸成されているのか、そのディスカッションを聞いてみよう。
池上「未来のソフトウエアを形にする」という思想に共感してジョインした人がすごく多いですね。ただ、「未来のソフトウエア」という言葉にものすごく固執しているというわけでもありません。
何か新しい事業を立ち上げたいとか、自分が今まで体験してきた不の解消だとか、そんな想いを持ってオーナーシップを強く持つ未来志向なメンバーが多いと感じています。
大西本当に多様ですよね。実は面談や面接でよく「AIがバックグラウンドの人じゃないと入れないんですか」「起業の失敗経験がないと入れないんですか」という質問をいただくのですが、全然そんなことはありません。入ってからキャッチアップできればいいんです。
井上キャリアパスも柔軟なのが面白いところですよね。さまざまな志を持ってPKSHAに入ってきてくれるのですが、キャリア形成が思った通りになりそうでならない会社でもあるんです(笑)。
これはネガティブな意味ではなく、みんなが柔軟に検討しなおしているということです。山本さんも、ソフトウエアエンジニアとして入ったけれど今はPdMですよね?
山本はい、たしかに、最初からPdMになろうと思っていたわけでは全然ありません。次第に優秀なエンジニアが増えてくる中で、自分がやるよりもみんなにお願いした方が絶対に良いソフトウエアができるだろうという未来が見えてきたんです。
そこで改めて「自分は何をやりたかったんだ?」と振り返って考え、「未来のソフトウエアをつくりたい。自分がコードを書かずとも、実現して社会に届けたい」と整理でき、自然とPdMをやるようになりました。
池上私も担務をどんどん変えてきた5年間でしたね。THE MODEL型の組織が存在しない時期にジョインし、初めはできるだけレバレッジをかけるためにパートナー企業さんとたくさん対話を重ねて、自分1人だけじゃなくても事業が成長するビジネスづくりを進めてきました。
その後、マーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスのメンバーをどんどんスカウトし、徐々にチームをつくっていきました。最初は自分ひとりで何でもやっていたんですが、次第に細かいチームを立ち上げるようになったわけです。
そのため、スキル面で言うと、特定のスキルをめちゃめちゃ伸ばしたというよりは、いろいろなメンバーと一緒に幅広い領域を見る経験を積み、各領域でスペシャリティが発揮されて一つの方向に向かっていくというマネジメント面の強みを磨いた形です。
大西私も、キャリアとしては、セールス、パートナーアライアンス、新規事業開発、プロジェクトマネージャー、事業責任者と様々な役割を経験するキャリアになりました。
井上PKSHAでは「デルタ(Δ)」という考え方を持っていまして。自分はこれが好き、これが得意、これを伸ばしていきたい、といった他の人と違いや個性をすごく大事にする価値観があります。
このデルタをどういった方向性で伸ばすかは本当に個人次第です。山本さんみたいに職種自体が変わった方もいれば、大西さんや池上さんのようにチームをどんどんつくっていくことによってマネジメント側に突き出していく例も多くあります。
このデルタの価値観に共感していただける方々にこれからどんどんお会いしたいですね。
組織の紹介から、個々人のキャリアパスの話に発展し、盛り上がり続ける4人。そしてこれからのPKSHAのフェーズに紐づける形で、今ジョインする魅力を大西氏が熱く語った。
大西PKSHAは新規事業をつくっていくことにものすごく積極的で、入社当初は「こんなにやるの!?」と凄く驚きました。しかし、だからこそ新しいポジションが生まれ、その新しいポジションに向けていろいろな人が入ってきて、リスペクトを持って全員でコミュニケーションを取る。そうして新しい仕組みや事業がどんどん生まれていくのだと思います。
PKSHA Workplaceも、私が入った当初は社員たった4人のチームでしたが、そこから現在は50人規模になりました。ここまでグロースさせていく中で、やっぱりPKSHA全体がこれまでの12年間で積み上げてきたAI領域における圧倒的なブランドだったり、積み上げてきたお客様との信頼だったりがあったお陰で、本当に良いメンバーが集まってきていますし、事業も成長していると感じます。
その環境の中で事業をつくることに携われるのは、本当に面白い。ぜひ、ちょっとでも興味を湧いていただけたなら、ご連絡をお待ちしています。
個々人の特徴としては「ミッション共感」に加え「オーナーシップ」や「未来志向」といったキーワードが印象に残る。加えて、「新規事業に積極的」というのも、これまでの立ち上げやM&Aのファクトを見て感じるのではないだろうか。
2017年の上場から7年が経ち、さらに成長を追及するPKSHA。もしSaaS事業への関心があるのなら、この刺激的な現場でAI SaaSに携わる経験を積むことを検討してみてほしい。
こちらの記事は2024年04月30日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
加藤 央也
コミュニティマネージャーとして従事する傍らライター、ファシリテーターとしても活動中。関心のあるテーマはファシリテーション、カスタマーサクセス、発達心理学。