【Vol.2:TableCheck】飲食領域なのにコロナ禍でも売上2.6倍、11の海外拠点。Day1からグローバル市場席巻を目指す日本発テックカンパニー
「まだあまり知られてはいないが、急成長しているスタートアップやベンチャーがどこか知りたい」「なぜ急成長しているのか、少しでも秘訣を知って自社に活かしたい」
スタートアップやベンチャーに関わるビジネスパーソンであれば、一度はこのような想いを抱いたことがあるのではないだろうか?
そんな期待にお応えすべく、「まだ知名度が高いとはいえないが、急成長がゆえに、これから注目を集めていく」ホットなスタートアップをFastGrowが厳選して紹介する特集「急成長スタートアップを探せ!」。(掲載希望企業・情報提供はこちらから)
連載2回目で取り上げるスタートアップは、一度はプロダクトの利用ユーザーとして名前をきいたことがあるかもしれないTableCheck。
レストラン向けのオンライン予約システム(SaaS)じゃないの?日本の飲食店に浸透しても海外に広がるイメージはないな……?そもそも、飲食店のSaaSやITシステムの導入予算は多くなさそうだからスケールしなさそう。
そんな読者の声もきこえてきそうであるが、改めて本記事の前半ではTableCheck社のミッション、ビジョン、ビジネスモデル、そして急成長の実態を、拝借したスライドも多く活用しながら把握していこう。
そして記事の後半では、その急成長の背景や要因について、代表である谷口氏の取材からも推測していく。
- TEXT BY YUSUKE JOHNNY NISHIKAWA
【2分解説】もはや「飲食店の予約管理SaaS」ではない。
スライドでわかるTableCheckとは?
創業は2011年、つまり10年以上の歴史を持つスタートアップ。飲食業界に逆風が吹いたコロナ禍以降も勢いは衰えず、2020~2023年の4年間で売上高は2.6倍に急成長させてきた。なおメルカリ創業者の山田氏、DNX Ventures、コロプラネクスト、みずほキャピタルなどがその成長に期待し、出資している。
ファーストプロダクトである飲食店向け予約・顧客管理システムの導入店舗数は11,300店を超える。加えて注目すべきは顧客や従業員の国籍ダイバーシティである。創業者・谷口氏の「創業当初からグローバルマーケットを獲る前提です」「日本発のグローバル市場を席巻する初のテック企業を目指す」という強い想いが、数字として明確に表れているのが同社の凄さである。
急成長を遂げた要因として、訪日客の観光・日本食需要を捉えていることにも注目したい。円安に代表される金融市場の動向も相まって増加する訪日客の外食需要を、的確にとらえるプロダクトになっているのだ。コロナ前の2019年と比較して、約3倍にのぼる来店予約件数を2023年に記録している。
さらに詳しく谷口氏が説明するには、「GoogleとMetaが飲食店予約市場に参入したことにより、ポータルサイト経由よりも、オウンドメディアや公式サイト経由での予約比率が急速に高まっている」のだという。そしてそれら巨大勢力と連携を図り、「18か国語もの言語に対応し、訪日客を含む飲食店予約インフラを押さえている」と胸を張る。
導入が進む背景にあるのが、同社のミッションである「Dining Connected レストランとゲストをつなぐプラットフォーム」に込められた考え方にあるようだ。「私たちは、飲食店の業務改善ツールという視点ではなく、レストランとゲスト双方にとって最適なプロダクトを設計してきた。また、マーケットや消費行動がどのように変化していくかをかなり長期的な視点で分析し、プロダクトを作っている。創業した当初は、飲食店のオンライン予約に対して誰もが懐疑的で受け入れなかった。今はすでに電話予約の割合を超えて6割以上がオンライン予約になった。ほかにもインバウンド需要の高まりもそういった長期的な視点による将来予測の結果」(谷口氏)と説明する。これが、飲食店の導入数が増え続ける大きな理由だ。
「Dining Connected」というミッションを掲げるTableCheck。現在のメイン事業である飲食店の予約・顧客管理サービスにとどまらず、「ユーザーにとっての外食体験や素敵な飲食店との出会いも最適化したい」という方針で、事業拡張を検討しているところだ。
経営をリードするのがこの2名。幼少期に海外生活・インターナショナルスクール在籍を経験し社会人時代にも米国勤務を経験した代表取締役社長・谷口氏と、野村證券(旧リーマン・ブラザーズ・ジャパン)でアルゴリズム開発の経験があるシールズ氏。
代表谷口氏が創業する数年前、ちょうど宿泊業界で予約のオンライン化が始まったころだった。それを目の当たりにし「レストランもネット予約が当たり前になるはずだ」という経験から着想した「飲食店向け予約・顧客管理システム」が創業期のファーストプロダクト。
予約・顧客管理だけにとどまらず、国内外のパートナーと連携した飲食店向けの送客支援にも事業を拡張している。
そして新たに提供し始めているのが、ゲスト向けの体験価値向上サービス。人気店の長い行列をスキップできる有料の優先案内サービス『TableCheck FastPass』だ。このサービスを皮切りに、来年以降も大型のローンチが控えていているという。これから本格的に「飲食店予約管理SaaS企業」からの変容を遂げようとしている。
このモデル図だけを見て、よくあるマッチングサービスと侮るなかれ。利用者の急増が続いている。
時間を節約したいゲストはもちろんのこと、旅先での滞在時間がさらに限られてしまう旅行者のニーズもしっかり掴んでいる。18か国語に対応しているだけあって、同サービスの「利用者全体のうち約2割が外国人のユーザーインバウンドの海外旅行ユーザー」(谷口氏)。「有名店の行列に並ぶ時間を有料で短縮できる」同サービスの利用ユーザー数はローンチ直後から急増している。
テレビ番組をはじめマスメディアも注目するこの『TableCheck FastPass』は2024年内に300店舗以上の導入を目指している。「1万社以上のレストランにプロダクトを導入いただき、毎月300万件以上のゲストの予約に関連する種々のビッグデータを把握できているTableCheckならではの、ゲストの飲食体験を最適化するサービスをガンガンリリースできる土台が整ってきている」と谷口氏は語る。
カギは「トレンドに踊らされない必然的な社会変化の把握」。代表谷口氏に訊く、TableCheckが急成長できたワケ
読者のイメージを翻すように「もはや飲食店向けの予約(管理)サービスではない」進化と急成長を遂げているTableCheck社。その一番の要因は?と谷口氏に問うと、開口一番、返ってきた応えは非常にシンプルだった。
「プロダクトが良いからでしょうね」
多くの成長企業や事業、スタートアップのリアルを聞いているFastGrowだからこそわかることであるが、この回答を聞いた瞬間、「谷口氏はものすごく物事を突き詰めて、極限までシンプルに、かつ本質を追究する経営者なのかもしれない」と感じた。
そしてそれと同時に、「プロダクトが良い」とはどういうことか?「良いプロダクト」を作れば売れる、会社が伸びるわけでもないことは承知の上だからこそ、その真意を聞きたい衝動に駆られたのは言うまでもない。
谷口数ヶ月とか数年単位ではなく、5年、10年、20年という長期的な視点で考えて、(飲食という)マーケットにとって必要になることが必然とされる提供価値を、極めてシンプルなプロダクトとして具現化している、ということでしょうか。社会がそのプロダクトを必要としてくれれば、「頑張って売る」などということなしに広まっていきますから。
谷口氏が言う「飲食マーケットにとって必要になることが必然」といっていることの要旨は、こういうことである。
一部は繰り返しになるが、谷口氏の原体験となった象徴的なエピソードを2つここで紹介しよう。
米国出張時に「電話でレストランを予約しようとしたら『ネットから予約しろ』と電話を切られた」
ホテルクライアントのウェブサイトに決済機能の実装をサポートしていたときに、(予約時にクレジットカード情報の登録を必須にすることで)キャンセル料ももれなく請求できる上に、予約受付・管理の人手がほとんどかからなくなった」というマーケットの変化を目の当たりにした
【飲食業界における必然(一部)】
- 飲食店を予約したいユーザーは、電話や対面での予約に煩雑さや面倒くささを感じているはずであり、インターネット経由で予約できるならそちらの選択肢をとる
- 特に訪日客であれば言語の壁があるがゆえに、インターネット経由で多言語対応されている予約手段があればそちらを利用する
- 飲食店は、予約数は確保したいが、あわせてキャンセル時のキャンセル料もきちんと回収したい
- 飲食店は、人件費は削減したいが、それによって予約数が減る事態は避けたい
- 飲食店は、各種グルメサイト経由の送客手数料コストは抑えたい(公式サイト経由の予約が増えれば増えるほど嬉しい)
こうした「必ずいつか解消されるであろうマーケットの歪み」を解消しているのが同社のプロダクトなのである。
たしかに谷口氏に言われてみると、各種メディアやSNSではこうした「長期に起こるであろう業界やマーケットの必然」よりも、「スタートアップを急成長させるには?」といったノウハウであったり、「今伸びる事業はこれだ!」であったりといった「短期のトレンド」にフォーカスした情報が氾濫しているかもしれない。
しかしそうした状況も踏まえて谷口氏は「短期予測なんて外れるに決まっていると歴史が証明しているじゃないですか」と一蹴する。
谷口そもそもスタートアップはじめ会社や事業を始める時には皆、社会に必要な会社であろう、求められるプロダクトを創ろう、などとよく言っている割に、「今はコロナだから〜」とか、「今はマーケットの風潮が〜」とか、短期のトレンドを言い訳にしたり、気にしてピボットしたりしすぎだと思うんですよね。
歴史が証明しているとおり、どれだけ有能な方が考えても、短期予測は外れやすく、人口動態などといった長期予測ほど外れにくい(予測通りになりやすい指標である)というのは確定的な事実です。
こうした、歴史が証明している本質を創業期から捉えてプロダクト開発してきたのがTableCheck。ですから正直、『コロナだったのに(飲食マーケット向けのプロダクトで)よく耐えましたね』とか『創業以来成長し続けていて凄いですね』など言っていただくこともありますが、私としては計画通りに着実に進めているという感覚です。
「ダイバーシティこそが競争優位を生む」。グローバル市場で勝つための真にフラットでフェアな組織を創り切る
私(社長)からしたら、このくらいの成長は当然のものである──。
幼少期の海外在住経験も長く、社会人での米国赴任も経験している社長がこうした発言をしていると知ると「相当ロジカルかつドライで、ビジネスライクな社長なんだろな」と解釈したくなるかもしれない。
しかし、FastGrowとしての感覚でいうと、「本当にピュアに夢を追っている、歯に衣着せぬ、心に熱い想いを秘めている社長なんだろうな」という表現のほうが正しそうだ。
谷口今も着ていますけれど、昔作ったTableCheckオリジナルポロシャツの背中には「世界制覇」って書いてあったんですよ。自分もそうですし、TableCheckで働いてくれるメンバーももちろんですし、どうせスタートアップに関わるなら、グローバルで必要とされるプロダクト・サービスを目指したほうが、絶対楽しいじゃないですか。
そして谷口氏は熱を込めて、かつ笑顔で楽しそうに、自社がユーザーに届けたい価値を熱弁する。
谷口そもそも『食』、『食べる』という行為って、人生の幸福度に与える影響度合いが特に大きいものだと思いませんか?
私が起業する前、米国在住の方を日本の飲食店にお連れすると、その接客や料理に感動されたことがたくさんありました。そりゃそうですよね、日本では信じられないかもしれませんが、昔、ある国のレストランで「サラダ」を頼んだら、本当に真っ二つのキャベツの上にドレッシングかけただけ、みたいなものを提供された経験が私にもありますから(笑)。
日本のレストランはすごいんだ!ということが言いたいわけではなく、私は多くの方々に「自身が楽しいと思える、感動できる素敵な食体験に出会ってほしい」と願っています。
これからはより一層、日本人だけでなく世界中のユーザーに対して、これまで蓄積してきた過去の飲食予約や喫食、決済データなどを活用させていただきながら、(ゲストの)皆さまが気に入るであろうお店との出会いを生み出したり、その精度を高めていったりできる体験を、プロダクトを通して提供していける会社にしていきたいと思っています。
「グローバル展開を志すスタートアップ」は日本国内に数あれど、ここまでグローバル展開の実績を積んでおり、これほど多国籍の社員がともに働き、国内にとどまらずグローバル市場で成長を続けているスタートアップが、他にあるだろうか?
グローバル拠点は11、顧客所在地は36か国・地域、従業員の国籍も28以上。谷口氏の信念は事業や組織の観点でもしっかり形となっている。
谷口氏の「グローバルテック企業」という想いを実現するために必要な組織やカルチャーについて最後に訊くと「より一層のダイバーシティでしょうね」と即答してくれた。
谷口組織・人材においても国籍や年齢、ジェンダー、思想などの観点におけるダイバーシティを拡張し続けたいですね。
お伝えしたとおり、TableCheckは長期視点で考えて来たるべきマーケットの必然を捉えてプロダクト開発をしていきたいからです。誰が言ったか、どの役職の人が言ったかであったり、誰かや特定のカテゴリの人たちからみた「今の当たり前」にとらわれずに会社やプロダクトの方向性を決めていきたい。そのためには、ジェンダーや国籍、宗教や思想、バックグラウンドなどの面において多様なメンバーからの、多様な視点が必要なはずなんです。
これからも慢心せずに、多様なメンバーからの多様な視点を取り入れて、必ずや日本発・世界でNo.1になり得るスタートアップを目指していきます。
そしてJapan as No.1じゃないですが、『日本のスタートアップってすごいよな!』とTableCheckを筆頭に思ってもらえるような時代を創っていきたいですね。
「幼少期を海外で過ごしたこともあってか、思っていることはハッキリ言うんですけれどね」とハニカミながら笑顔で話す谷口氏であるが、FastGrowが他の社内メンバーに聞いても「(谷口氏は)全社にそこまで経営情報を伝えなくてもいいんじゃない……?とこちらが不安になるくらい本当にフラット・オープンに立場関係なく情報共有したり、言いたいことを言ったりする社長ですね」と話してくれた。
「大企業と提携して喜ぶのではなくて、大企業を凌ぐインパクトを出せるスタートアップを目指そうよ!」
取材終了間際に、笑顔で、ユーモアも交えながらそう言い放った谷口氏。
TableCheckとそのメンバーが本気で「来たるべきマーケットの必然」を捉えていければ、「TableCheckこそが日本発・グローバルスタートアップ」のファーストペンギンになれるのかもしれない。
こちらの記事は2024年12月20日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
西川 ジョニー 雄介
モバイルファクトリーに新卒入社。2012年12月、社員数3名のアッションに入社。A/BテストツールVWOを活用したWebコンサル事業を立ち上げ、同ツール開発インド企業との国内独占提携を実現。15年7月よりスローガンに参画後は、学生向けセミナー講師、外資コンサル特化の就活メディアFactLogicの立ち上げを行う。17年2月よりFastGrowを構想し、現在は事業責任者兼編集長を務める。その事業の一環として、テクノロジー領域で活躍中の起業家・経営層と、若手経営人材をつなぐコミュニティマネジャーとしても活動中