連載急成長スタートアップを探せ!

【Vol.3:スマレジ】“調子に乗らない経営”で、ARR81億円──CEO宮﨑氏が実証する、BtoBソフトウェアビジネスの「正解」とは

「まだあまり知られてはいないが、急成長しているスタートアップやベンチャーがどこか知りたい」「なぜ急成長しているのか、少しでも秘訣を知って自社に活かしたい」

スタートアップやベンチャーに関わるビジネスパーソンであれば、一度はこのような想いを抱いたことがあるのではないだろうか?

そんな期待にお応えすべく、「まだ知名度が高いとはいえないが、急成長がゆえに、これから注目を集めていく」ホットなスタートアップをFastGrowが厳選して紹介する特集「急成長スタートアップを探せ!」。(掲載希望企業・情報提供はこちらから)

連載第3回となる今回は、クラウド型POSレジを提供する株式会社スマレジ(以下:スマレジ)を取り上げる。

「POSレジの会社?」と思った読者もいるかもしれない。しかし、スマレジの成長戦略は単なる業務効率化ツールの枠を超えている。競合には大手IT企業や長年市場を支えてきたPOSベンダーがひしめく。そのなかでスマレジは、売上高前年同四半期比30.3%増、ARR81億円超という驚異的な数字を誇りながら、店舗の業務システムを支える存在へと進化を遂げてきた。

スタートアップの成長戦略としては、資金調達を行い、その資金をもとにテレビCMのような積極的なマーケティングや大掛かりな採用、プロダクトの磨き込みに取り組む手法が一般的だ。しかし、スマレジが選んだのは「堅実さ」を武器にすることだった。創業者や経営陣がエンジニア出身であることを活かし、技術とプロダクトの力で市場の信頼を勝ち取ってきた。そしてその裏には、徹底したコスト意識や規律を重視する組織文化がある。

なぜスマレジは成長を続けられるのか。その理由を探るべく、代表取締役CEOの宮﨑龍平氏に話を聞いた。

  • TEXT BY ENARI KANNA
  • EDIT BY TAKASHI OKUBO
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【2分解説】単なる「POSレジ」ではない。
数字で見るスマレジの急成長とは

「BtoBビジネスには、多くの場合正解がある」と宮﨑氏は話す。

BtoBビジネスにおいて、顧客は何かしらの課題を抱えていて、その解決のために企業に相談する。たとえば、いくら顧客となり得る企業の経営者と自社との間にコネクションがあったとしても、そのシステムを使う部署の人が「このシステムでは業務を円滑に進められない」「課題を十分に解決できない」と考えれば、その企業での導入は難しい。きちんと課題を解決できていてはじめてスタートラインに立てるのだ。

スマレジでは、顧客の持つ課題に対して、表面的、いわば対症療法的な価値ではなく、問題の根本にアプローチできる本質的な価値を提供するべく、プロダクトを磨くことに心血を注いできた。この根底には、経営陣がエンジニアであり、「いいものを作れば必ず売れる」との思想を持っていることがある。

この想いのもと、堅実に、「なんとなくかっこいいプロダクト」「キラキラしている」といった表層の華やかさよりも、「顧客の課題にどれだけ貢献できているか」という目に見える形での価値提供を重視し、これまで歩んできたのだ。

その質実剛健な姿勢をもって、BtoB商材で求められる基本的な要素を忠実かつ堅実に実行してきた。それによって成し遂げた急成長がこちらである。

まず売上高は78億7600万円。さらに前年同四半期比+30.3%と、前年からの伸びも大きい。しかし売上が高いだけでは真にうまくいっている企業とは言えない。皆さんもご存知のように、企業において重要なのは利益だ。その営業利益は、18億3100万円。こちらも前年同四半期比+42.7%と、伸長している。そのほかの指標も、ARR(年間経常収益):81億9800万円(前年同四半期比+48.6%)アクティブ店舗数:48,392店舗(前年同四半期比+15.7%)と、文句のつけどころがないような成長具合だ。

なかでも特筆すべきは、0.46%という解約率の低さだ。ただ低いだけでなく徐々に低下しており、同社の堅実にプロダクトを磨いていく姿勢とその成果がここからもみて取れる。

これにより、サブスクリプション売上高比率70.5%という安定した収益構造を実現できており、それが上記のような売上高や営業利益につながっているのだろう。

同社がiPad/タブレットを活用したクラウド型POSレジシステムの提供に取り組み始めたのは、約15年前。今では「お店を元気に、街を元気に!」というミッションに基づき、レジにとどまらず、在庫管理や勤怠、給与計算など店舗運営に関わる他分野でもサービスを提供している。特に、小売・アパレル分野に強く、ターミナルPOSレジを提供する大手企業が競合となることが多い。

宮﨑スマレジでは、サービス提供開始した頃から、APIを積極的に公開してきました。それは僕たちがマーケティングや営業に詳しくなかったゆえ、サービスを成長させるために見出した活路だったのですが、これによりシステム連携の選択肢が豊富になりました。他社さんのサービスでは連携が難しい会計システムなどとも、スマレジであれば比較的簡単に連携できるんですね。この強みを評価いただいて、本格的なシステム部門を持っている企業ほど、連携の観点からスマレジを選んでいただくことが多いです。

決済系サービスの買収も行い、キャッシュレス業界にも本格的に乗り出したスマレジ。この成長を支えた組織文化にはどんな秘密があるのだろうか。

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「調子に乗らない」経営が成長を支える。
代表宮﨑氏に訊く、スマレジが急成長できたワケ

取材中、スマレジの組織文化について尋ねる中で宮﨑氏から何度となく出てきたのが「ちゃんとする」という言葉だ。仕事なんだから、ちゃんとするのは当たり前。そう思う人もいるかもしれない。しかし、この当たり前のことを徹底して行っていることこそが、同社が成長している要因なのだ。

同社では、これまで複数の企業とのM&Aを経験している。決済領域やEC領域など、同社とシナジーが大きいと思われる分野でプロダクトが魅力的な企業を取り込んできた。こうして積極的に着手したい領域に強みを持つ企業と手を結んできたことも、同社の成長要因のひとつだ。こうしたM&Aから、宮﨑氏は多くの企業の内情に触れる機会を得てきた。

宮﨑M&Aした企業との統合プロセスのなかで、経営実態を目の当たりにしてきました。経営者が部署ごとのKPIなどの数字を把握しきれていなかったり、経営陣の現場への解像度が低かったり、エンジニアの給与が必要以上に高かったり、営業がやるべきことをやりきれていなかったり。どんな企業であっても、どこかしらに隙があるものだと感じていました。

同社では、凡事徹底を貫くことで、油断すると生まれてしまう隙を絶え間なく埋めてきた。成長のためのウルトラCなどなく、目の前のことをコツコツやっていくこと。成長の秘訣はそれに尽きる。

「ちゃんとする」を社員に実行してもらうためには、まずは代表から。

数ある企業のなかには、代表が会社の経費をある種、私物化してしまっているように見受けられることもある。そうしたなか、宮﨑氏は自らストイックなコスト感覚を持っており、結果、社員へも強いコスト意識が伝播しているのだろう。インフラに関わる1,000円の決裁であっても、本当にその値段に見合う価値があるのかを社員が考える文化が根付いている。このような姿勢が、利益につながっているのだ。

そして「ちゃんとしている」のは、コスト意識だけではない。

宮﨑部下の週報は毎週見ています。プロジェクトの進捗がなければ「その後どうなっているのか」と尋ねるし、重要なことをやってくれていたら一声かけるし、困っていることの欄に何か書かれていればそれにきちんと答える。代表という自分の立場を使って解決できる問題であればどんどん自分を使って欲しい、そんな想いで社員と接しています。

隔週で行うプロダクトに関するミーティングも毎回出席。前日会食でどれだけ帰りが遅くなっても、社員と同じく規定の時間にきちんと出社する。すべて小さなことではあるが、こうして「経営者が何事もサボらない」からこそ、組織全体が規律立ち、「ちゃんとした」会社になれるのだ。

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エンジニアは“要件定義”ではなく“要求定義”をするべし

スマレジの急成長を支える組織文化は「ちゃんとしている」ことだけではない。もうひとつの特徴が、エンジニアという職種への捉え方だ。同社ではテクノロジーを使うことが目的化している人材は採用しない方針を貫いている。あくまでも、「テクノロジーは顧客の課題解決のための手段である」と理解できているかを重視するのが同社のスタイルだ。

宮﨑エンジニアとは、ただプログラムを書く人でも、プログラムを使って何かを作るだけの人でもありません。技術を使って「課題解決ができる人」だと捉えています。

僕たちは、顧客の課題を解決するシステムを作って、それを顧客に使ってもらって、実際に課題を解決することで対価をいただいて会社を存続できています。エンジニアに給与が払えるのもそのおかげです。このことを理解できていないエンジニアがいいものを作るのは難しいと思い、これを理解できるかを判断軸に採用活動をしてきました。

最新技術といっても、必ず自社の開発環境とマッチするとは限らない。たとえば、新しいが故に既存のものと連携しづらかったり、便利すぎてオーバースペックだったりということもある。こうしたメリットとデメリットを理解した上で、顧客の課題解決に向けて最も適しているのはどの技術なのかを見極められるエンジニアこそが、同社が求めているエンジニアだ。

このような考えを持っており、かつ自身もエンジニア出身だからこそ、宮﨑氏は昨今のエンジニア市場については疑問を感じることも多いという。

エンジニアは技術を利用して課題解決をする職種であり、大切なのはあくまで課題解決であり、技術は手段にすぎない。しかし、高い技術力を身につけたり、複雑な技術や最新技術を使いこなしたりすることばかりに目が向いてしまうエンジニアが少なくないことも事実だ。

宮﨑こうしたエンジニアが増えたのには、SaaSバブルやITバブルなどの影響が大きいように感じます。エンジニアの市場価値が急激に高まり、採用競争も過熱している。そのようななかだからこそ、エンジニアとしての本来の役割を忘れず、「自分は顧客の課題解決ができているか」を問いながら仕事をしていくことが大切ではないでしょうか。

代表の宮﨑氏のこの考えを反映するかのように、スマレジのエンジニアは、課題解決を主眼において日々開発に取り組んでいる。この課題解決への意識をより強くするべく、昨年より全社のバリューに「要件定義ではなく、要求定義」という文言を追加。さらに開発組織のコンセプトには、「エンジニアはビジネスマン」という言葉も並んでいる。

「エンジニアはビジネスマン」というのは、これまで紹介してきたように、エンジニアの本分は課題解決であることを指す。では、「要件定義ではなく、要求定義」とはどういう意味なのだろうか。

史上初の量産型自動車を世に広めたヘンリー・フォードは、「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう」と発言したといわれている。この例のように、表面的な要望に応えるのではなく、より早く移動したいという根本的な課題を解決する「自動車を提案できる」かどうかが、真の課題解決力の差と言える。

宮﨑顧客の本当のニーズを理解して、その要求に沿って開発できるエンジニアこそが、強く、活躍できるエンジニアだと思います。

たとえば、「恵比寿から新宿に行きたい」という顧客に対して、「予算や時間の制約はありますか」「なぜ行きたいんですか」と本質的なニーズを引き出す質問ができる。そして状況に応じて、「それなら電車が最適です」「予算がないなら、時間はかかりますが、自転車という選択肢もあります」といった選択肢を提示できる人です。

こうした、要件定義ではなく要求定義に応えられるメンバーが、エンジニアを中心に全メンバーで徹底できていることも、スマレジの急成長の秘訣なのだ。

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スマレジが目指す次のステージ。
ARR 300億円のその先へ

スマレジの急成長を支える組織文化を紹介してきたわけだが、読者の皆さんは何を感じ取っただろうか。実際、取材を行ったものとしての所感を一言で、本当に直感的な印象をそのまま伝えると「“ちゃんと”会社経営している」だった。「何当たり前なことを?」と思われるかもしれないが、会社を経営するというのはこういうことなのだと思ったのだ。経営を学びたいなら下手にビジネス書を読むよりも、宮﨑氏の話を聞くほうがよっぽど効きそうである。さて、少し話がそれてしまったが、この文化を礎に、同社はこれからどこを目指していくのか紐解いて終わろう。

スマレジは「VISION 2031」としてARR300億円を目指す長期ビジョンを掲げ、顧客基盤の拡大と提供価値の向上を通じて実現していく構えだ。

まず短期的には、メインのPOS事業と現在大きく成長している決済事業を柱とする。POSレジと決済の親和性は抜群で、他社製品と同等の品質を備えていれば、同時に導入してもらえやすい。この親和性の高さを活かして、今後さらに伸ばしていく予定だ。今後3年ほどは、決済事業が第二の柱となる想定だという。

この期間はCAGR(年平均成長率)30%超の成長を目指しており、2023年4月期の43億円から2024年4月期には59.3億円へとARRを拡大し、2025年4月期の目標を72.7億円、2026年4月期には94.6億円を目指す計画だ。この成長を支えるのが、中規模店舗(2〜99店舗)を中心としたメインターゲット層の拡大戦略だ。従来の2〜39店舗から2〜99店舗へとターゲット層を拡大し、89万店舗という広大な市場に対してさらなる浸透を図る。

さらに、こうした積極的な成長計画の次のフェーズとしては「EC関連の事業が新たな柱となっている」ことを目指す。というのも、昨年末に、ネットショップ支援室をM&Aしたばかり。これまでは基本的にはオフライン店舗への支援を行ってきたが、これを機に、本格的にオンライン領域にも乗り出す。実店舗とECの両方をシームレスにサポートする総合的な店舗経営プラットフォームの構築を目指している。

宮﨑ゆくゆくは、現在のレジ、決済、在庫管理、給与計算などにとどまらず、店舗経営そのものを最適化できる、店舗経営におけるインフラのような立ち位置を目指していく方針です。また、業務の省力化支援から売上貢献に対するアプローチへの展開も視野に入れています。店舗の方々が自分たちで考えた方法で、自立して利益を出すために活用できるシステムづくりをしていきたいですね。

日本に小売店は、約142万店存在する。飲食店は約82万店存在しており、店舗ビジネスへの貢献は、日本経済への貢献度が大きい営みだ。同社のシステムにより、店舗が自分たちのビジネスをより最適化できるようになれば、社会へのインパクトは計り知れないはずだ。さらに、彼らが自らの本質的なビジネスに集中できるようになることは、消費者としての利益も大きい。その意味で、同社はただの「流行りのスタートアップ」ではなく、真に日本に必要な会社と言える。

宮﨑僕たちの売りは、キラキラベンチャーではないこと。一つひとつを泥臭くやる堅実さと「ちゃんとしてる」ところを武器に、「お店を元気に、街を元気に!」を目指して、これからも顧客の課題解決に取り組んでいきたいです。

同社の真の強さは、エンジニア含め全てのメンバーが顧客の課題解決を目的とするビジネスパーソンであり、そして宮﨑氏を筆頭に“ちゃんとやる”ことにある。その姿勢によって作られる地に足のついたビジネスモデルと堅実な組織運営によって、スマレジは今後も真摯に課題に向き合い、着実な成長を続けていくだろう。その「ちゃんとしている」姿勢が、どのように日本の店舗ビジネスを変えていくのか。これからのスマレジの行方に注目あれ。

こちらの記事は2025年04月11日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

えなり かんな

編集

大久保 崇

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