「大抵のことでは潰れないし、生きていけます」──入社2年でVP/事業企画開発。『menu』運営のレアゾンHD中西氏に学ぶ、圧倒的チャレンジ精神
創造性を発揮し、新しい価値を形づくろうとする人たちを“Shaper”と呼ぶ(詳しくはスローガン創業者・伊藤豊の著書『Shapers 新産業をつくる思考法』にて)。
Shaperはイノベーターやアントレプレナーに限らず、誰もがなり得る存在だ。一人ひとりがShaperとして創造性を発揮し活躍すれば、新事業や新産業が次々と生まれ、日本経済の活性化を促す原動力となるだろう。
今回は「新しい“当たり前”を作り続ける。」というミッションを掲げて、多種多様な新規事業を作り上げているKDDI社とレアゾン・ホールディングス社のジョイントベンチャーmenu株式会社にて、入社2年目でVP/事業企画開発に任命された中西 結乃氏を紹介しよう。
配達オペレーションの自動化と人的対応の最適なバランスを追求し、まずは社員15名体制で手厚い支援の仕組みを構築し、その後に自動化できる部分を見極めることで社員2名体制へと大幅なコスト削減を実現。事業成長への貢献と共に、配達クルーの働きやすさも両立させている。
VP/事業企画開発に就任後も、フードデリバリー配達を行ったり配達クルーにインタビューしたりするなど、配達クルーにとって働きやすい環境にするためのアップデートに余念がない。『menu』を牽引する中西氏の思考や行動に迫った。
- TEXT BY KANA ASHIHARA
- EDIT BY TAKASHI OKUBO
フードデリバリー戦国時代を勝ち抜き“転換期”を牽引
現在、日本のフードデリバリー市場を牽引しているのは『Uber Eats』『出前館』『Wolt』、そして『menu』の4社だ。
コロナの影響により、2020年頃からfoodpandaやDiDi Foodなど外資系のフードデリバリーサービスが続々と参入し、フードデリバリー戦国時代の幕が開けた。熾烈なシェア争いと買収合戦が繰り広げられ、dデリバリー(ドコモ)や楽天デリバリー(楽天)すらも撤退。冒頭の4社が残った。
レアゾン・ホールディングスが提供する『menu』が支持される理由は、食のこだわりが強い日本人向けにサービス開発されていることだ。
『menu』は商品単位で詳細な口コミ評価が可能で、実際の見た目や味、ボリュームなどの生の声を参考にできるため、想像と異なる商品が届くリスクを軽減できる仕組みを備えている。また、オンラインガチャやオリジナルグッズの提供、人気キャラクターとのコラボレーションなど、エンターテインメント性の高い企画も展開。世界的グルメガイドで紹介されている予約困難な店の味を自宅で楽しめる“至高の銘店”とあわせ、従来のフードデリバリーの枠を超えた新しい体験を提供している。このように、市場を牽引するUber Eatsや出前館とは異なる独自の領域を確立している。
ローカライズが上手く新たな価値を創出できる事業として期待が寄せられて、2021年にはKDDIと資本業務提携した。
国内トップのデリバリーサービス実現を目指す「menu」、au経済圏でKDDIと連携強化 - グルメ Watch https://t.co/U6c5WXlqVN #menu #デリバリー #auスマートパス pic.twitter.com/2IKh4xBCI2
— グルメ Watch (@gourmetwatch) May 22, 2023
フードデリバリー戦国時代を勝ち抜き“転換期”までを牽引してきたのが、入社2年でVP/事業企画開発に任命された中西氏だ。同氏は『menu』の強みは意思決定のスピードだと語る。
中西日々何が勝機になるのか模索しながらサービス開発しているのですが、『menu』の強みは2つあります。1つは意思決定のスピードの速さ。非上場企業のため説明責任が少なく意思決定が極めて速く、それをアプリ開発やデザインの見直しにもダイレクトに活かせています。
もう1つは、メンバーのコミットメントの強さです。メンバー全員が競合サービスも自社サービスも徹底的に使い込むことで、改善のヒントを常に見出しています。
このような強みを活かしながら、食事の中身はもちろん、食事の様式や求めるものなど、独自の食文化を持つ日本にローカライズしたデリバリーサービスを素早く開発していけば、付け入る余地はあるのではないかと感じています。
『menu』は2024年上期において、デリバリーアプリ新規ダウンロード数第1位を初獲得した。躍進を続ける『menu』にて、新卒2年目でVP/事業企画開発に任命された中西氏とは、いったい何者なのか。サービス変遷を起点に紐解いていこう。
熾烈な競争が続く中、『menu』の強みを支えたのはオペレーションの確立だ。その中核を担ったのが、中西氏だった──。
デリバリーアプリ『menu』ローンチ後のオペレーションを構築
中西氏は、2020年4月にレアゾン・ホールディングスに入社している。そして同年にテイクアウトアプリ『menu』はデリバリー業界へ本格参入。もともとアルバイトで配達クルーを担っていたが、ギグワーカーによる配達網を立ち上げ始めたタイミングでもあり、当時、役員の二ノ宮氏(2025年現在、代表取締役副社長兼CEO)が1人で事業を切り盛りしていたが、中西氏を含めた新入社員3名を配属し、ギグワーカーの配達クルーの募集やオペレーション構築するための体制を整えた。
配達クルーのチームに与えられたミッションは、「配達員の確保」と「配達品質の向上」の2点だった。
中西フードデリバリーは「注文するお客様」「商品をつくる加盟店」「商品を運ぶ配達クルー」の3者のマッチングプラットフォームなので、どれか一つでも欠ければ事業は立ち上がりません。まずは配達員の確保から着手し、その後、商品がきれいな状態で時間内に届くようにと、配達品質の向上に取り組んでいきました。
『menu』はデリバリー開始記念として到着予定時間より“1秒”でも配達が遅れた場合は全額返金と大々的なキャンペーンを打ち出していたことが記憶に新しいが、オペレーションに自信がなければ、このようなプロモーションを打ち出すことはできない。つまり、オペレーション構築はエース人材が担うべきである。入社したばかりの中西氏は、このオペレーションチームに配属された。
しかし、コロナ特需もあり、デリバリー業界へ本格参入した直後のオペレーションは予想外の出来事の連続となった。
中西役員と新卒3人でオペレーション構築を行っていましたが、コロナの影響で想像以上に需要が伸びて、配達クルーの手配が追いつきませんでした。雨の日や寒い日、猛暑日などに配達クルーのアサインが見つからない場合は、私たちが直接、お客様の元へ商品の配達をしに行っていたこともあります。
また、配達クルーからのお問い合わせや採用審査も、外注せず自分たちで全て対応し、役員など関係なく必死に対応している状態でした。配達クルーの人数も数千人、数万人と急激に増えたため大変でしたね。
全て手作業で行い続けるとグロースしないため、新卒3人でマニュアルを作成してアルバイトに運用を引き継いでもらい、私たちは業務効率化を目指しました。
中西氏はお客様の元へ商品を配達する中で、“配達クルーが働きやすい環境を作りたい”という強い気持ちが芽生えたという。
中西配達クルーを体験してみて、すごく大変な仕事だなと思いました。フードデリバリーが認知されていないタイミングということもあり、自転車で料理を配達していると車に幅寄せされたり、お店の人からも新興サービスだからか冷たい態度を取られたりもありましたね。また、新卒ながら生意気なのですが、自分たちがつくっているプロダクトの使いにくさや分かりにくさにも正直驚いてしまいました。
一方で、お客様の満足度はとても高かったんです。そのような経験を通じて、商品を届けてくれる“配達クルー”という仕事を率直にかっこいいと思うようになりましたし、自分がサービスをつくっていくなかで、配達クルーの目線や立場をブラさないようにしたいと思うようになりました。
社内でデータを見ているだけでは分からないことですし、実際に現場に出てみて配達クルーという役割に対する私自身の認識が変わったことは大きな転換期だったと思います。
“配達クルーが働きやすい場の実現”への執念で、新たなカタチを作る
サービスのグロースにはオペレーションの自動化が欠かせない。他社が配達クルーの問い合わせなどのオペレーションをAIで完全自動化する中で、中西氏は配達クルーは働く仲間であるため心を込めて対応したいと葛藤し始めた。AIによる完全自動化は、配達クルーと関係を深められなくなるのではと感じ、苦悩したと話す。これは、ギグワーカーの存在感が増していく時代を見据えた判断でもあった。
中西私は配達クルーも“共に働く仲間だ”という強い想いがあり、全てのオペレーションを自動化することにジレンマがありました。
このジレンマを解消する際、エンジニアやデータサイエンティスト、デザイナーといった異なる職種の仲間の意見が大いに役立ちました。それぞれの専門性を活かした議論を通じ、新しいアイデアが生まれることが広がってより効率的な仕組みを構築することができたんです。
みんなから意見をもらうことで、例えば、メールテンプートは人が作りつつもその送信フローは自動化する、アプリの挙動の条件分岐は人が考えるようにするなど、自動化とうまく組み合わせつつ、人の手や頭を使うべきところに使えるようになっていきました。
オペレーションチームをマネジメントする立場となってから、データサイエンティストとエンジニアと共に精度の高いオペレーションを作り上げた。
中西データを分析すれば「どの曜日に注文が多いか」「どの時間に注文が多いか」などのトレンドも見えてきます。「〇〇のエリアで、たくさんお客様が待っています」と連絡し、配達クルーの適切な人員配置をしました。また、食事を扱うサービスである以上、1分1秒の精度が求められる中、エリアごとのリアルタイムな配達状況の可視化やそれに応じた施策の発動するシステムをエンジニアと1から作りました。
配達クルーの中には、配達スピードが早い人がいてコツなどをインタビューしてナレッジ化しました。このような取り組みの結果、オペレーションが効率化でき、当時社員15名で回していたところを、2名で回せるまでになりました。
“配達クルーが働きやすい場の実現”への執念を持つ中西氏はVP/事業企画開発就任後も配達クルーとして働いたり、配達クルーにインタビューしたりして働きやすい環境を模索しているなど余念がない。社内に蓄積されたデータだけでなく、配達クルーの声を積極的に聞きサービス開発に役立てている。その中のユニークな取り組みの1つが、配達クルーの報酬だ。
『menu』の報酬は、“基本料金+インセンティブ”となっている。他社と大きく異なる点はランクボーナスがあることだ。ランクボーナスは直近8週間で稼いだ経験値によって基本報酬が増額するシステムで、C1ランクから始まり最高ランクであるS5ランクに近づくほど、報酬が高くなっていく。また、即日払いできることも『menu』ならではだ。
2024年3月からは「連チャンボーナス」という連続配達に対するインセンティブを導入したり、2024年8月からは「経験値ミッション」というさらに経験値が稼ぎやすくなる仕組みを導入するなど、今も報酬の仕組みの改善は続いている。
異なる職種の人を巻き込むことは容易くできることではないが、中西氏は自分自身の強みを客観的に捉えていた。
中西私は単身でカナダ移住していたこともあり、事象をフラットに受け入れて、他の人にもフラットに伝えられるんです。これまで全然意識してこなかったのですが、「100の事象があったら、カテゴライズせずに100のまま捉える、全部違うことが当たり前」という見方が癖づいている感じですね。また、物事に動じないことも強みだと思っています。
上司からは、私の物の見方は、仕事をするうえで強みでもあり裏目に出る場面もあると教わりました。例えば、「これって誰向けの何のサービスなの?」の「誰」を一般化したり、違う考えを持つ人にリーダーとして自分の考えやビジョンを波及させたり、といったことが、私はまだあまり得意ではありません。今後も色んな仲間と働いていきたいと考えているので、今は、リーダーシップと採用を課題として取り組んでいます。
新しい“当たり前”を作り続ける。というミッションを掲げるレアゾン・ホールディングス。中西氏は配達クルーの地位を“当たり前”にするために奔走している。配達クルーはコロナ化の重要なライフラインとして注目を集めたが、今もいつでもどこでもモノを受け取れる便利な暮らしを支えている。そんな役割を担う配達クルーがもっと働きやすくなるように、「もっと日本社会に職業として浸透するように」と、サービスづくりを通じて挑戦を続けるのだ。
こうした姿勢の根底には、カナダでの経験が大きく影響しているといえる。慣れない異文化での生活は、好き嫌い以前に受け入れざるを得ない状況の連続だった。そこで培った「大抵のことでは自分は潰れないし、生きていける」という強さは、デリバリー業界全体の課題に向き合う際にも活きている。
例えば、デリバリー業界全体で課題となっていた就労要件管理の問題に対しても、中西氏は冷静に向き合い、取引企業と協力して就労要件チェックの仕組みを整備。このように、物怖じせず課題に立ち向かう胆力を持った彼女だからこそ、『menu』事業の数々の難題を乗り越えることができているのだろう。
VP/事業企画開発への挑戦の決め手=好奇心×環境
新卒2年目でVP/事業企画開発に就任し、「オペレーションの見直し」「報酬の改定」「労働条件の透明性の担保」に貢献してきた中西氏。異例のキャリアを築く彼女だが、VP/事業企画開発に就任に不安があったわけではなく、挑戦の決め手となったのは“好奇心”と“環境”だった。
中西上司からVP/事業企画開発の打診をされたのですが、私が自覚している経験スキルとは乖離していたので、最初は驚きましたね。私の実力が足りない中でVP/事業企画開発に就任して、周囲を混乱させたりしないか悩む一方、上司は期待を込めて背中を押してくれたのかなと思っています。
上司からは、「1年以内にVPの要件をキャッチアップしてくれると信じているし、自分も伴走してポテンシャルを引き伸ばすからやってみないか」と言われたのが大きかったです。
『menu』を牽引する中で、中西氏は、レアゾン・ホールディングスの「挑戦を許容する環境」が大きな助けとなったと語る。その環境を最大限に活かし、自身の成長へ繋げていった。
中西レアゾン・ホールディングスは東京・サンフランシスコ・シンガポール・マレーシア・ベトナムに拠点があり、さまざまな新規事業に挑戦している企業です。新規事業のアイデアも2桁ほど出ており、BizDev職はもちろん、一緒に世界一を目指してサービスづくりをする仲間をもっともっと増やしたいと思っています。
さまざまな新規事業で得た知見があり、事業企画開発する上で知りたいこと、学びたいことは、社内の誰かしらに聞けるため、チャレンジしたい方や成長したい方だと楽しく仕事ができる環境だと思いますね。
食のこだわりが強い日本人向けのサービスを開発し、配達クルーが働きやすい環境づくりで配達品質は上げたことで『menu』は2024年上期において、デリバリーアプリ新規ダウンロード数第1位を初獲得した。既に多くの企業が参入しており、競争が激しいレッドオーシャンでの中西氏の戦い方は非常に参考になるだろう。
こちらの記事は2025年01月31日に公開しており、
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