エンプラセールスは「ラッキーな大型発注」に気をつけろ──RAKSUL×ユーザベース×RightTouchが語る、エンタープライズセールスたちの失敗とノウハウ

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登壇者
橘高 康浩

大学卒業後、CBC株式会社に就職し、メーカー部門で国内営業・海外営業両方を経験。中堅企業からエンタープライズまで幅広く対応し、世界各国でベンダーとのアライアンス構築や、M&Aプロジェクトへの参画。2016年、アマゾンジャパン合同会社へ入社。Amazon Pay事業部にて日本参入期のセールスとして市場開拓・組織作りを担う。入社1年後にはセールスマネージャーへ就任し、その後は急速なグロースを遂げるAmazon Payのセールス組織全体の統括責任者となる。2024年、ラクスル株式会社へ参画しエンタープライズ事業部のセールス責任者としてビジネスリードを担う。

野村 修平

北海道大学大学院卒業後、ERPパッケージソフトウェア導入を主力事業とするIT系ベンチャー企業のワークスアプリケーションズに新卒入社。最年少で新規開拓法人営業チームのマネージャーへ昇格。その後同社の柱となる既存顧客専任の営業チームを新規事業として立ち上げたのち、アメリカ事業の立ち上げを牽引。帰国後、2018年よりSaaS型の顧客体験プラットフォーム『KARTE』を主力プロダクトとするプレイドに入社し、エンタープライズセールスの立ち上げを担う。2021年12月に社内起業でRightTouchを立ち上げ、現在は同社代表取締役としてビジネス全般をリード。

作田 遼

大学卒業後、日本ヒューレット・パッカードへ入社。アカウントマネージャーとして大手製造メーカー、エネルギー関連企業を中心に担当。2012年、Salesforceへ入社。大企業向けの営業を経験した後、2016年には当時最年少でコマーシャル営業の部長に就任。中小企業や成長中のベンチャー企業に対する新規顧客開拓、既存顧客深耕、チームメンバーの育成に携わる。2020年2月よりコマーシャル営業 ストラテジック営業本部本部長を務め、営業戦略の立案から実行を担当。2022年から執行役員に就任。2024年5月、ユーザベースの執行役員に就任。

あらゆる業界・企業において、“セールス”は顧客開拓の最前線を担うポジションだ。ただ、その中身は多岐に渡る。役割や定義は会社により異なり、当然キャリアの描き方も千差万別だ。

では、“スタートアップにおけるセールス”は、どのようにキャリアを切り拓いていけばよいのだろうか。今回は、2024年12月に開催されたイベント「市場価値の高いセールスキャリアの作り方」の様子をお届けする。登壇企業は、いずれもエンタープライズセールスに注力するRAKSUL、ユーザベース、RightTouchの3社。セールス戦略を司るキーパーソン3名が集まった。

登壇者3名それぞれの挑戦や失敗の軌跡から、キャリア開発の実践論を学んでほしい。

  • TEXT BY WAKANA UOKA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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10倍以上の事業グロースを牽引してきたセールスキャリアに迫る

現在の役割には「エンタープライズセールスにおける戦略」という共通点がある3名。まずは各社の事業の状況や特徴について紹介してもらった。

作田ユーザベースの作田と申します。今は『スピーダ』担当の執行役員を務めています。

作田ユーザベースの『スピーダ』は、扱っている情報が高度なので、すべての人が使うというよりは、大企業の経営戦略や事業開発の方、あとは営業の本部長といった方に使っていただき、成長戦略を立て、それを事業戦略や顧客戦略につなげていくという、ハイレベルなことに使っていただくケースが多いということです。

当たり前の話ですが、大企業の経営戦略の方は本当に優秀な方ばかり。こういう方々に対して、付け焼刃のような営業で商品を紹介しても絶対に買ってくれません。いかにして、それぞれのお客様のニーズを紐解き、仮説を立ててしっかり提案していくのか。この点を突き詰められるのが、ユーザベースの面白さなのかなと思っています。

作田加えて、『NewsPicks』というメディア事業におけるブランド広告もあります。例えばユーザー企業において顧客戦略を推進するフェーズでは、「この市場のリードを獲得するために、我々のブランド広告としてこういうことをやっていきましょう」といったブランディング支援もしています。このように、本当に幅広い価値提供をしています。

組織としては、2025年1月から営業組織がLarge Enterprise DomainとSales Domainの2つになります。ですがどちらも、いわゆるエンタープライズへの営業ばかりです。

作田横軸組織として、カスタマーサクセス、マーケティング、IS、ソリューションといったものがあります。あとはイネーブルメント&ストラテジーという形で、営業戦略を考え、そのイネーブルを落とし込んでいく組織もあります。

野村RightTouchの野村です。直近は、プレイドでエンタープライズセールスチームの立ち上げに従事してきました。

プレイドの社内起業で立ち上げたRightTouchは、ようやく4年目というところなので、やるべきことが多くあるという状況です。現在のプロダクトは直近リリースしたβ版のものを含めると5つになります。我々は割と珍しく、創業当初からエンタープライズ向けの事業展開をしており、かなりいい企業ロゴが獲得できているのではないかなと思っています。このあたりは、エンジニアとビジネスサイドの両方でエンタープライズを経験してきた人間が創業したからだとも言えますね。

野村SaaS型の事業ですが、組織をTHE MODEL型の分業にはしておらず、複数の職種を兼任するかたちにしています。3兆円という大きなマーケットにプロダクトやサービスを複数展開していくために、特にビジネスチームのメンバーは事業の芽を発掘するためにも市場への解像度が必須で、このような組織のつくり方が最適だと考えました。

そのため、主務がセールスでもインサイドセールスでもマーケティングでも、一旦カスタマーサクセスをやってみてお客様に直に触れ、業界課題やプロダクトの価値が何なのかをより顧客に近いところで経験したあと、個々のスペシャリティを強めていくようなキャリアになっているメンバーばかりです。

橘高RAKSULの橘高です。現在はエンタープライズ事業部のセールス責任者を務めています。

RAKSULは「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」というビジョンのもと、様々なレガシーな産業をデジタルの力でDX化・効率化を図っていく事業を行っております。現在は祖業である紙ものの印刷事業だけではなく、グッズ・ノベルティ・アパレル・梱包資材・印鑑と、様々な領域へと内製立ち上げ・M&Aを通じて事業拡大をしてきています。

その中において、我々エンタープライズ事業部は「何を提供している存在であり、どんなミッションを担う組織なのか」をお話しさせていただきます。それは『ラクスル』事業が提供しているECプラットフォームでできる価値を最大限に発揮し、お客様に寄り添い、企業課題を発見し、解決していくことが重要なミッションであると考えています。

“印刷そのもの”だけを取り上げれば、企業の経営課題とまでは至らないケースがほとんどですが、販促・マーケティングの“コスト”と捉えると決して小さくない場合が多いのも事実です。そこで我々が顧客の業務フロー・営業フローへと入り込んでいき、内情を分析・把握します。そして、「〜〜な課題はございませんか」とフィードバックをしながら、ゴールに向かって伴走していく。ある種のコンサルに近いような観点からソリューションサービスを提供しています。

橘高個人のお客様よりも、法人のお客様の方が、サービスに対して求めるクオリティの要求水準が高く、そのバリエーションも様々です。そうした法人のお客様から「こういった機能、ソリューションがあればいいな」というニーズをいただき、我々は日々、プロダクトの改善・開発も積極的に行っております。おかげさまで現在(イベントを実施した2024年12月時点)の導入企業数は3,000社を突破し、事業としてここから一層のグロースを目指すフェーズになっております。

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“ユーザー目線に立ち返る” “手を抜かない”
──経験から培った三者三様の知見

さて、この3名、その出自や経験はさまざまである。それぞれのキャリアの変遷を詳しく語ってもらった。

ラクスル株式会社 橘高康浩氏

橘高2016年以降、アマゾンジャパンにジョインしてからのところにフォーカスして話します。まず非常に長く勤めた1社目からアマゾンへ入社した決め手は、“TOPの熱量”です。

当時のAmazon Payは日本でローンチしたばかりで、まだまだ売上が小さい状態でした。しかし、TOPのビジネスに向かう熱さとビジョンに深く共感したことを覚えています。またそこで徹底的に学んだのは、行動指針であるOur Leadership Principles(OLP)でした。16個掲げられているのですが、印象的なのはカスタマーオブセッション、そしてオーナーシップですね。特に、オーナーシップを持ってビジネスをドライブしていかないと、自分も事業も成長していかないのだと本当に感じておりました。このオーナーシップというのは、ラクスルでもとても大事にしている価値観・言葉で、両社には似た雰囲気を感じています。

そして数年が経過した2019年、“地獄”にはまることになります…。YoYでは大きく成長していたのですが、目標に対しては未達だった。ここで強く学んだのが、ゴール設定とメンバー育成の重要性です。当時はバランスがまったく取れておらず、「こうなればこうなるよね」と単純に“数字のロジック”だけで考えたゴール設定になってしまっていたんです。人的リソースと組織という観点についての検討が完全に抜けてしまっていたんです。

橘高次に2020年。同じ過ちを繰り返さぬよう、ゴールに向かう道筋を考え直すにあたり、“テネッツ”(Tenet、協議・信条≒考え方の基礎)が重要だと感じました。

中でも何より「ユーザー目線に立ち返ること」が大切なのだと再認識し、徹底したことで少しの光が見えてきたんです。そこで見えた光にフォーカスを絞り、ひたすらにユーザーに向けた施策を打ち、PDCAを高速に回すことを愚直に繰り返していきました。この頃の組織・顧客への着眼からの成功体験を元に、2022年以降も新たな成長分野へのトライをさせてもらいました。

そして2024年、個人のキャリアとしての挑戦・成長を模索した中で、ラクスルへジョインしたという流れですね。振り返ってみると、グロース事業・組織における成果に向けて重視したことは、一言で言えば、「仕組み」ですね。売り方の仕組みもそうですし、イネーブルもオペレーションも、どれだけ仕組みに投資できるかというところです。ここを属人的にではなく、継続的かつテコの効く仕組みに落とし込めるかが、大事だったように思います。

株式会社ユーザベース 作田遼氏

作田私は自分の成長キャリアについて書いてきました。自分のキャリアを振り返ると、モチベーショングラフみたいなものがあるじゃないですか。それについてお話させてください。

ご覧の通り山と谷で、仕事の手ごたえを感じることがいろいろとあったのですが、リーマンショックでモチベーションが急落します。製造業の街なので、影響が大きく、自分の努力不足も相まってボーナスももらえないほどになりました。

そこからは気を引き締めて取り組み、成果も上がってきました。実力をもっと試したいと思い、Salesforceへ転職しました。

登壇時のスライド

作田当時のSalesforceはゴリゴリの営業集団で、いろいろな人から「Salesforceだけはやめとけ」と言われました(笑)。そしたらこのグラフにあるように、もうめちゃくちゃ売れなかったんですよ。会社は売れているのに、私だけ売れなかったんですね。

それでも1年半ぐらい苦しさに向き合うことで、良い転換点になりました。コツをつかんで、トップセールスになりました。

ですがマネージャーになってからはまったくうまくいかず、一度「ちょっと私は降ります」とお願いするまでになりました。一から出直すことで、また成果を上げられるようになり、営業本部長というポジションにも就けるほどになりました。

いろいろなことにチャレンジさせてもらって、いろんな苦しさがあった中、今振り返れば、この苦しさが自分の成長の本当に礎だったなということですね。

株式会社RightTouch 野村修平氏

野村私はリーマンショックの3年後ぐらいにカスタマーセールスチームの立ち上げをやらせてもらったという感じです。ワークスアプリケーションズは新規の営業に重きが置かれている会社で、当時の売上約200億円のうち、既存顧客からのアップセル / クロスセルはたった8億円ほど。極端な会社だったんですね。

この異常な状態にチャンスがあると感じ、誰もやっていない既存セールスチームの立ち上げを企画し、担わせてもらったという感じですね。

登壇時の資料

野村この時のチームに「トラブル対応なら任せろ!」という先輩がいました。「何が楽しいんですか?」と彼に聞いたら、「トラブル対応をやったあとが1番売れるんだ」と言われて、「なるほどな」と思い、同じように苦手なトラブル対応の現場に出てみました。

最初は悪戦苦闘しながらでしたが、とにかくチーム全員で顧客に向き合った結果、数年して顧客からの信頼も獲得でき、実績のない新規プロダクトも積極的にご契約いただくくらい劇的な変化がありました。それに伴い自然と売上は8億円から40億円ほどの売上を出せるほどになりました。

プレイドにジョインしてからも、「どこにどんな営業をすべきか?」を考え、エンタープライズセールスをやりながら探索し、既存顧客に向き合い続けた結果、大きな事業の芽を見つけて、社内起業の機会を掴んだわけです。

苦しくても何とかなるでしょうみたいなマインドと、迷ったら絶対やることがキャリアとして重要だと感じています。

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失敗・成功の過程は、ヒントの宝庫

ここからは「失敗と成功」というテーマで、登壇者3名がそれぞれで準備したトピックに沿って話を展開。いずれもセールスパーソンにとっては気になるキーワードが続出した。

橘高ビジネスを進めていくうえで、よく「再現性ある?」と聞かれると思います。当たり前ですけど、再現性がないと数字は継続的には伸びないですよね。

ただエンタープライズセールスをやっていると、非常に大きなスポットでの発注が突然来るんですよね。そこをしっかり取りにいくのがいいのかどうか、毎回悩ましい判断があると思います。

ここでお伝えしたいのは、「その結果、何が残るのか」にフォーカスすべきだということです。たとえ受注額が小さくても、そのプライシングや納品の過程がスキーム化できそうなのであれば、その後のビジネス強化につながるので、なんとしても実現すべきです。

そうして橘高氏は、「短期的な受注額狙い」に対し、明確に警鐘を鳴らす。

橘高とはいえ、「スキームもナレッジもソリューションも何も残らないけれど、短期的な数字を上げにいくためにはこの受注も必要だ」と判断した覚えが誰しもあると思います。ただ、私はできるだけそのような受注をしないようにしています。短期的な“実”だけを追わないように心がけています。

再現性を見出すためには、失敗事例と成功事例からそのエッセンスを学ぶことが大事です。たとえば値下げ交渉が過去にどのように進められ、その結果として利益がどうなったのか。どのステークホルダーを巻き込めたことが、結実したのか等、発生した成果ではなく、何がその構成要素だったのか。これを常に明確にしておくことが重要だと考えています。

作田実は以前、まったく売れず、鬱状態になり、土日が来るのが怖いという1年半がありました。このとき、なぜ売れなかったのか、今ならよくわかるんですよ。それがまさしく「伝える」と「伝わる」の違いにあると思っています。

Salesforceにいた頃、まだクラウドという言葉が走り出したばかりで、CRMの重要性なんて全然浸透していなかったんです。商談で話しても「Excelで十分」という反応になる。

それなのに、お客様から「今、案件管理に困っているんだよね」「顧客管理に困っているんだよね」と言われたらすぐに「じゃあCRMですよね、Salesforceですよね」と言ってしまっていたんです。「案件管理がしたい」というお客様の現場メンバーに対する提案としてその場では伝わっても、その後の社内相談や稟議が同じように進むとは限らない。エンタープライズでは特に、導入検討や稟議において伝言ゲームのような状態にもなるので、「お客様の会社内でしっかり伝わるように説明する」というのが重要だと気付かされました。

当時売れていた先輩や上司から言われていたのが、「言葉に飛びつくな」。なぜお客様が案件管理を必要としているのか、一旦立ち止まって考えるべきだ、と。多くの場合、実は案件管理が必要なのは手段であり、その先に本当にやりたいことがあるんです。

「伝える」というのはこちらが主語になっているじゃないですか。そうではなく、伝えたあとにお客様が腹落ちし、自分の言葉で社内を説得してくれて初めて「伝わった」となる。エンタープライズセールスをやっていく上で、本当に鉄則となる部分だなと思いました。

ここで大事なのは、「お客様に対して本当に興味を持てているかどうか」かもしれません。そうでないと、言われた言葉に飛びついてしまうんだと思います。「こう言っているけど、本当にそうかな?」といった疑問が自然と浮かんでくるようになれば、本質的な課題にたどり着くと思います。

野村ちょっとイメージしにくい言葉かもしれませんが……これをきっかけに、セールスにとどまらずさまざまな活動を始めることになった言葉です。

もうだいぶ前のことですが、「会社を辞めます」とワークスアプリケーションズ代表の牧野さんに言いに行ったんです。当時29歳ぐらいで、外資のコンサルティングファームへとキャリアチェンジしようという感じで。そしたら「お前、何やりたいんだ?」と聞かれたんですね。

そこで、「コンサルタントとして経営を学び、起業したい」といった説明をしたら「無駄だからやめろ。コンサルが事業をつくれるわけじゃない」と丁寧に伝えてくれたんです。それでも私は、「ワークスアプリケーションズには、セールスの力を付けるために入ったとしか思えていなかった」と率直に伝えたら、「おれ、お前に制限したか?」と言われたというわけなんです。確かに、セールスの仕事しかやらせてもらえなかったわけではなく、ハッとしました。

しかもその後は、牧野さんから「こういう話があるけど、お前やるか?」と。他のソフトウェア企業との提携など、セールスに閉じないさまざまな仕事を振ってもらえるようになったんです。今の事業領域であるカスタマーサクセスにたどり着いたのも、これがきっかけです。

今いる環境を最大限使う、というのをもっとみんな意識していいと思います。それがサラリーマンにとっては1番じゃないかなと。そのおかげで、アメリカに行ったりプレイドで社内起業したりと、いろいろな挑戦ができていると感じます。

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成長に伴い、難度は上がる。
“営業戦略”に踏み込もう

次のテーマは「急成長するセールス組織での“最大のハードシングス”」。こちらも3名それぞれが、これまでの経験に即したキーワードで語り合う。

橘高撤退ラインとしてわかりやすい話だと、例えば「値下げ要求に対するライン」ですよね。仮に目の前にある受注のチャンスについて、撤退ラインが明確化されていないと、どこまで食い下がるべきか…とずるずると考えてしまいます。そうなると、お客様との間でのコミュニケーションコストもどんどん大きくなっていき、次のチャンスへのアクションを取ることがますます難しくなってきます。

Amazonでは、全てのチャレンジに対して必ず撤退ラインがありました。例えば、「何カ月以内にユーザーがこれだけ増えなければやめる」とか「投資回収を24カ月でやろうと思っているところが36カ月計算になってしまうならやめる」とか。明確に決めているので、新しい施策の展開スピードも速いんです。

一見ネガティブに映る言葉かもしれないですし、“やめる”という判断をするのはとてもハードな瞬間です。しかし、限られた時間とリソースの中で最大の価値創出をするためには、とても大事なスタンスであると考えています。

作田事業がある程度成長してくると、どこかのタイミングで急に難しくなるタイミングが出てくるんですよ。Salesforceも、CRMの市場が日本でできあがるまでは新規営業ばかりだったわけですが、その後は既存顧客のアップセル・クロスセルが必要になる。ぶっちゃけ、新規営業ばかりのほうが、失うものがないという点で、進めやすいとも言えます。市場での浸透度が上がってくるにつれて、売り方をちょっと変えるだけでは不十分な場面が増え、営業戦略そのものをアップデートしていく必要性に迫られる。このタイミングが来ると、本当に難しいんです。

たとえば、お客様の課題やユースケースを特定して、そこに対して売りにいくという「ユースケースセリング」というものがあります。まずはここに取り組み始めるべきなのですが、これもそのうち頭打ちになるので、エンタープライズセリングやプロジェクトセリング、バリューセリングなどいろいろな言い方の戦略を試していくことになります。

お客様の本当にやりたいところ、潜在的なところに入り込んでいくような営業にアップデートし続ける必要があるんです。

ユーザベースで取り組んだのは、ユースケースセリングとエンタープライズセリングの間ですね。なお、「○○セリングが悪い、今は○○セリングでないといけない」という話ではなく、大事なのはそれらの間のリソースバランスなんです。ユーザベースに入ったときは、エンタープライズセリングのバランスをもう少し広げなければいけないタイミングでした。それで、営業戦略から変えていったんです。

野村ワークスアプリケーションズでは、アメリカでの事業立ち上げを進めたのですが、なかなかうまくいかず撤退するところまで担当しました。振り返ると、当時の私は海外進出という仕事をなめていた。サラリーマンとしての仕事ではなく、自分で起業するんだという気持ちでいかないとやっぱりダメだったと思います。

特に事業撤退についてお客様とやり取りするのは、非常にハードでした。アメリカは訴訟社会なので、下手すると訴えられてしまう。いろいろと考え尽くして電話やオンラインMTGで説明をしても、「弁護士に言われているんで」といったトーンで、冷たい対応ばかりされてしまう。

でも最終フェーズで、かなり遠いところにあるお客様の本社に行ってミーティングをしたとき、「ごめんね、別にこうしたくてしているわけではないんだ」と話してくれて、握手して終われたんです。これは、カスタマーセールスとしてクレーム対応を含めてやっていた経験があったからではないかなと思っています。

(「カスタマーセールス」という概念が、SaaSの売上拡大になぜ重要か、どうやって設置するのかについては、野村氏のnoteで解説されている)

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「なりたいセールス像」を考えることがスタート

ハードシングスについての生々しい吐露に、学びや驚きを感じる参加者も多かったようだ。そんな参加者たちに対し、登壇の3名から、キャリア開発に向けたアドバイスを出してもらった。

野村作田さんもおっしゃっていましたが、「こういうセールスになりたい」という想いを持つのは結構重要だと思います。たとえば同じセールスでも、0→1フェーズと1→10フェーズでは、適性が大きく異なりますよね。その適性を見極めるためにも、どのようなキャリアを目指すのかを決めるのが重要だと思います。あとはその想いを大事にして、「やりたい」と思ったら踏み込むことですね。

それと、本当に忘れてはいけないのは、主語を常に「お客様」にすること。0→1フェーズでは特に、上手くいかないことも当然多くありますから、「お客様に最も迷惑が掛からない売り方」も含めて考えたい。自分がどれだけ成果を出すかももちろん大事ですが、時にはそれを二の次にして、「お客様がどう幸せになるのか」を突き詰めるべきだと思っています。

作田私がヒューレット・パッカード時代に名古屋配属になり苦しかったとき、名古屋支社のトップセールスだった先輩がリストラになってしまったんですね。これが私の中ですごく衝撃だったんです。

外資なら結果さえ出していればいいと思っていたんですよ。給料が高かったからか、代替が効くと思われてしまったからか、実態はわかりません。ですが、経験に応じた自分の市場価値をしっかり考えないといけないなと思い知らされました。

50代になって「ずっと営業だけやってきました!」という人は、確かにかっこよくも感じるけれど、本当にそれが正しいのか?という点を本気で考えました。

例えば50歳なら50歳として出せる価値がありますよね。そこから逆算して、じゃあ20代の今は何をするべきなのか?30代は何をするべきなのか?40代は何をするべきなのか?という成長をきちんと言語化して、それを振り返る習慣をつけるのが1番大事なんじゃないかなと思います。

橘高「どういうセールスになりたいのか」はすごく重要だと思います。なかなか想像しにくいという方もいると思うんですが、私はよく「社外にメンターを持つと良い」と伝えています。

1番ラッキーなのは、入社したときにめちゃくちゃ優秀な上司がいることなんですが、なかなかそんな幸運に恵まれることはありません。そこで、社外で信頼できるメンターを持つことが、皆さんに伝えられるわかりやすいHOWになるかなと。

他には、良く言われる話で「環境を変えるというのには、3つの選択肢しかない。友達を変えるか、仕事を変えるか、引っ越すか」というのがあります。1番簡単な選択肢は「仕事を変える」なんじゃないかと思うんです。「どうなりたいか」はもちろんですが、「今の自分がちょっと嫌だ」とか「なんか成長したい」とか思ったら、ぜひキャリア・環境を思い切って変えるという選択を考えてみてほしいですね。

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セールスの仕事は売るだけではない。
顧客主語で伴走し、積極的に新たなトライを

キャリアの話は、質問も多く出るなど盛り上がった。社会情勢も踏まえ、橘高氏を中心にさらに深く語り合う。

橘高セールスの価値は、いまや「売る」だけではないと思っています。「お客様」を主語にして考えるなら、今のサービスでは足りないものを新たに揃えるだとか、納品フェーズで徹底的に伴走するだとか、そういう顧客体験も必要だと思っています。そうした実践で、圧倒的なサクセスの経験をなるべく早く持てると良いのではないでしょうか。

圧倒的なサクセスに必要なのは、圧倒的に熱狂して、圧倒的に苦労することです。これがないといくら結果を出しても、説得力のあるキャリアの積み重ねにならず、真の意味で自分の血肉にならないのではないでしょうか。

Amazonの面接でよく聞かれていたのは、「今までで1番のサクセスケースは何ですか?」もしくは「1番の失敗ケースは何ですか?」です。これらはだいたい、その話しぶりから、本当のエピソードなのかどうかがわかります。

やはり圧倒的な情熱を注ぎ、圧倒的な失敗を経験しているような人が、セールスとしてのみならず良いキャリアの歩みができるんじゃないかなと思うんです。

作田セールスキャリアには、確かにいろいろな将来性があると思います。結局、どんな事業でもセールスって重要じゃないですか。お客様に伝えて、その言葉でお客様の心が動いて、行動につなげていく、そういう仕事なので、「単にサービスを売る」という以上の大きな拡張可能性があると思うんです。

そう考えると、「自分が何になりたいか」をすぐに明確に決めなくてもいいのではないかなと思っています。逆に、決めすぎると自分の首を絞めてしまうといいますか、狭めてしまう可能性があるかもしれない。

ただ、「何が楽しいのか」「何で心が躍るのか」は重要です。0→1なのか1→10なのか10→100なのか、などもそうですね。「ここが自分は好き」とわかっていることが、すごく大事だなと思います。

野村生成AIがセールス現場にもどんどん入り込んでくるので、どこで価値を出すのかが非常に重要な時代になってきていますよね。先ほど作田さんもおっしゃっていましたが、どれだけ売上を上げていてもリストラされることがあります。「どうなれば代替できないのか」を考えるのは重要だと思っています。

そのために意外と重要なのが、「新しいトライができるかどうか」。セールスの仕事って、すべて同じ案件ではなく、提案できないような難しい案件が来ることもある。それを諦めないのが重要ですよね。

というのも私の経験で昔、ある年末、お客様から「12月26日にRFPの説明会があるから来てください」とその前々日くらいに言われたんですよ。ちょっと緊張しながら行ったら、お客様がもう土下座状態で、「年明けの1月4日に提案してください」と(笑)。

そのお客様の経営判断で、給与計算のプロジェクトを4月リリースまで持っていきたいとのことで、急ぎの話になったそうなんです。この手のプロジェクトはたいてい半年くらいは最低かかるものなので、普通に考えたら無茶な話です。

私は社内に持ち帰ってすぐに「断ろう」と言ったんです。でも、当時の上司が「ちょっと待って。やれる方法を考えよう」と。実は、2カ月でプロジェクトが上手くいった前例が1件だけあったんです。それで「たぶん、他の会社では絶対にできない。うちがやれる方法を考えよう」という話になり、年末にコンサルタントとエンジニアを集めました。すると、「この条件だったらできる」という案を出せて、提案としてもお客様にドはまりして、プロジェクトもめちゃくちゃ上手くいったんですね。

この経験から、「もしかしたらやれるかもしれない」という気持ちで、新しいことに一歩でもトライしてみようという気持ちが大切だと思うようになっています。

そして最後に、3名それぞれが抱く未来への抱負が語られた。

橘高ちょっと抽象的な話をしますと、私はもう自分軸というベクトルではなく、「どれだけマネジメントに適したメンバーをつくっていけるか」に興味が移っています。

当然、自分をアップデートしていくことも最大のミッションであり喜びでもあるのですが、同時に「どれだけ人を残していけるか」にかなり興味が移ってきているんです。これから一層、この点をがんばっていきたいですね。長期的で重要なミッションかなと思っています。

野村私はやはりチームで市場に変化を起こせるかどうかにチャレンジしたいと思っています。私たちが向き合っているカスタマーサポートは3兆円ほどの市場なのですが、そこをガラッと変えたい。ただ、1人のセールスでできることには限界があるので、やはりチームで変えていかなければダメだなと。

加えて、エンタープライズセールスのノウハウって調べてもぜんぜん出てこないんですね。この状態が続くのは、スタートアップにとっての損失だと思っているので、これからどんどんノウハウを垂れ流したいと思っています。こういう登壇を二つ返事で受けるのも、そういう理由からだったりします。

エンタープライズセールスができる人をスタートアップにあふれさせることは、日本の社会をよくすることにつながる話だと思っています。たぶん私だけでなく今日の3人はウェルカムだと思うので、いろいろ相談してもらいたいと思います。

作田将来像についてはまだ明確に考えられていないのが正直なところです。キャリアの形にはいろいろなものがあって、最終的にどういう形になるのかはわかりません。

でも、私は“営業を科学する”のが好きなんです。どういう風に営業の皆さんがもっと営業しやすくなるのかとか、営業のスキルを言語化するとどうなるのかというのが好き。なので、将来的にはそういった営業コンサルを極めてみたいとも思っていて、実は起業してもう営業コンサルをやり始めています。

ただ、実際にコンサルティングをやってみて思うのは、良質なインプットがない限りアウトプットするには限界があるということです。当たり前の話ですが、3カ月もアウトプットし続けていたら、もうネタが尽きますと。そう考えたら、営業コンサルの会社1本でいくのはまだ早いなと思ったので、セールスに専念してインプットが得られる環境にも身を置いて、良いアウトプットができるように活動していきたいと思っています。

セールスに関する貴重な知見が多く披露されたこのイベント。あなたはどのような学びや刺激を得ただろうか。

3社とも、難度の高いセールスによってこれからの事業グロースを構築しようと奮闘しているフェーズだ。採用も広げている。

こちらの記事は2025年01月29日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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藤田 慎一郎

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