連載事業成長を生むShaperたち

現場の声を、革新的プロダクトへ──エンジニア未経験からPdMとして躍進するtebiki中山氏が挑む“デスクレスワーク”の変革

中山 結花
  • Tebiki株式会社 PdM/カスタマーサクセス 

新卒で石油元売に入社し、数年間は営業や本社での企画業務に従事。その後は新規事業開発に携わる。2023年7月、Tebikiに転職。製造業向けのクラウドサービス「tebiki現場分析」のPdMとして、現場改善を支援する機能開発を行っている。

創造性を発揮し、新しい価値を形づくろうとする人たちを“Shaper”と呼ぶ(詳しくはスローガン創業者・伊藤豊の著書『Shapers 新産業をつくる思考法』にて)。Shaperはイノベーターやアントレプレナーに限らず、誰もがなり得る存在だ。一人ひとりがShaperとして創造性を発揮し活躍すれば、新事業や新産業が次々と生まれ、日本経済の活性化を促す原動力となるだろう。

連載企画「事業成長を生むShaperたち」では、現在スタートアップで躍動するShaperたちにスポットライトを当て、その実像に迫っていく。

今回は、「現場の未来を切り拓く」をミッションに、デスクレスワーカー(デスクを持たない働く人)が働く現場の変革を目指すtebikiにて初のエンジニア未経験PdMとして活躍する中山 結花氏だ。石油企業にて、営業に従事したのち企画にも関わり、転職を経てtebikiのPdMになったという異色のキャリアを持つ。

顧客の声を丁寧に拾い上げ、100を超える機能をリリースしてきた彼女は、エンジニア未経験ながらPdMとして同社の成長を牽引。前職での企画経験と現場への深い理解を武器に、製造現場のDXに独自のアプローチで挑んでいる。毎週50~100件のユースケースを収集し、その声を製品開発に活かす──。顧客と開発チームの架け橋となって新しい価値を創造する、中山氏の“Shaper”としての顔に迫る。

  • TEXT BY ENARI KANNA
  • EDIT BY TAKASHI OKUBO
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複数のプロダクトによって、デスクレス産業の統合プラットフォームとなることを目指す

日本のデスクレス産業(デスク以外での業務が主となる産業)は今、大きな転換点を迎えている。人手不足や技能伝承の課題に直面するなか、現場へのDXの期待は高まる一方だ。しかし現実は、多くの企業で、いまだに紙の帳票や手書きの記録が主流である。

そんななか、製造業から小売、介護まで幅広いデスクレス産業を支援するtebikiは、着実な成長を遂げている。2024年1月には製造業向けの新プロダクト『tebiki 現場分析』をリリース。TOTOやアサヒ飲料などの大手企業の導入も進み、2023年にはあおぞら企業投資株式会社、株式会社日本政策金融公庫などから8億円の資金調達も実施した。今後は、現場の開発プロセスを変革するプロダクトも開発していく方針だ。

プロダクト展開図<Tebiki株式会社CompanyDeckから転載>

その成長を支える重要な役割を担うのが、同社のPdM(プロダクトマネージャー)たちである。tebikiのPdMは、単なる製品開発を行うだけでなく事業開発(BizDev)の視点も持ち合わせている点が特徴的だ。CSやフィールドセールスとエンジニア・デザイナーの橋渡し役として機能開発の優先順位づけや機能仕様の策定を担当しつつ、新規プロダクトの企画立案まで幅広い役割を担う。

そのなかでも中山氏は、エンジニア未経験ながらPdMとして活躍する異色の存在だ。

中山実はPdMを担う3名のうち、技術的な知見が浅いのは私だけ。それもあって、CSを兼任しつつプロダクトマネジメントを行っています。私が主に担当するのは『tebiki現場分析』ですが、今後ローンチする新しいプロダクトの要件を考えることや、そのための市場調査といった事業開発に近いものも担当業務の一つです。

特に事業開発に近い部分は、お客様の声を直接伺える立場だからこそできることだと感じています。CSとして現場の課題に向き合い、その声をプロダクトの形にしていく。エンジニアの方々との協業で最初は戸惑うこともありましたが、むしろ現場視点を持っているからこそ、お客様の本質的なニーズを製品に反映できるのではないかと思うようになりました。

スタートアップにおいては、このように一人の人間が多くの役割を担うことは珍しくない。このある種スタートアップらしいともいえる環境のなかで、中山氏はどのように動き、いかなる実績を出してきたのだろうか。

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毎週50〜100件のユースケースを蓄積し、インサイトを導き出す

エンジニア出身ではないにもかかわらずPdMとして活躍する中山氏。その強みは、現場の声を丁寧に拾い上げ、プロダクトの形に昇華させる力にある。その実践的なアプローチを具体的な事例から見ていこう。

中山製造業では、多くの現場がデータの収集や分析に課題を抱えています。でも、ただ闇雲にデータを可視化すればいいというわけではありません。私たちが目指しているのは、現場の方々が本当に必要としている形でデータを活用できる仕組みづくりです。

その一例が、中山氏がCSとして担当する顧客でもある、ある金属加工会社での取り組みだ。オーダーメイドの高品質な製品を提供する同社では、品質を担保する上で、加工時に使用する各種条件管理が非常に重要な要素だった。

中山この企業様は、もともと『tebiki 現場教育』を導入してくださっているクライアントでした。それをきっかけにtebikiのプロダクトを気に入ってくださり、『tebiki 現場分析』も導入することに。導入後は、これまでは手書きで行っていた記録のデジタル化を進めていきました。

最初に取り組んだのが、必要な数値をシステム上で管理できる仕組みづくりだ。そして顧客や現場へのヒアリングを重ね、数値をグラフ化できる機能を追加。これにより、現場にいない人でも数値が確認できる状態を実現した。その結果、ある日、たまたま数値を確認していた社員が異常を発見。早期に対処でき、製品不良を防げたという。

こうした異常は、知見がある人がグラフを見ればすぐにわかることだ。しかし、四六時中グラフを確認できるわけではない。そのため、異常が発生してから発見までの間にはどうしてもタイムラグが生まれることがある。問題は、その間にも製品製造は行われるということ。

タイムラグの間に生産される不良品を最小限にするためにも「できるだけ早く異常を見つけたい」との顧客ニーズに見事に応えることができた。

中山お客様にも「導入していてよかった」との声をいただき、まさに『tebiki 現場分析』の価値貢献を象徴するようなケースでした。この事例がきっかけとなって、別の工場への導入も決定しました。

このような成功事例を生み出す秘訣は、徹底的な情報収集にある。中山氏は毎週50以上の顧客要望を集め、社内ツールに登録。そこから共通項やインサイトを導き出し、プロダクト開発に活かしている。

中山私の役割は、顧客の声に潜む本質的な課題を理解し、それを機能として具体化することです。お客様からいただく声は一見、個別具体的な要望に見えることが多いんです。例えば「この数値をグラフにしたい」という要望。でも、その裏には「異常を早期発見したい」「部署間で情報共有をスムーズにしたい」といった、より本質的な課題が隠れています。その本質を見抜き、プロダクトとして形にしていく。それが私のPdMとしての責務だと考えています。

私にとって顧客の声は貴重な意思決定の根拠です。技術的な知見がないぶん、なおさら大切だと思っています。CSやフィールドセールスから得られる情報をもとに機能を企画し、エンジニアやデザイナーの方々と何度も対話を重ねて実装していく。その過程で、情報をもらうだけではなく、その情報を受けてどのような決定をしたか、どんな風に進め方が変わったかをきちんとフィードバックする。このサイクルを回し続けることで、より良いプロダクトが作れると思っています。

中山氏が、派手ではないことにもコツコツと地道に取り組む力と、創造的なアイデアを生み出す力を持つ人物であることを感じられるエピソードだ。こうした力は、どこで培われたのだろうか。次のセクションで、中山氏のキャリアを紐解いていこう。

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新卒時から根底にある、現場を支援したい想い

冒頭にも述べたが、中山氏の前職は石油会社だ。大学時代に中小企業研究に携わっていた中山氏は、地場の中小企業が担うガソリンスタンドへの支援に魅力を感じ、「石油会社での仕事を通じて現場を支えたい」との想いで入社を決めたのだという。

この「現場を支える」という想いは、入社後の経験でさらに強くなっていく。入社後最初の2年間は営業として特約店を担当。現場の声を直接聞き、その課題に向き合うなかでより広い支援の可能性を考えるようになった。

その後、本社に異動し、ガソリンスタンドへの支援をより対極的に考える企画業務に携わることになる。セルフ洗車機のメニュー設計やガソリンスタンドのブランド設計、さらにはカーシェアやカーリースなどの新規事業企画と、幅広い業務を経験。なかでも、予算やビジネスモデルの収益構造や事業計画の組み立てなど、数字にまつわることを多く担当していた彼女は、コンサルティング企業の作成した資料や計画を検証することもあったという。

中山数々の業務に携わるなか、ブランド統合プロジェクトが特に印象的でした。半年という短期間で、ブランドのコンセプトから店舗の外観、サービスのルールまで全てを作り直すこととなり、大変ではありましたが、やりがいのあった仕事でした。

このプロジェクトで特に注力したのが、ブランド思想の現場への落とし込みです。ブランドの価値観を明文化し、それを現場で実践できるガイドラインにする。その過程においては、現場で働いてくださっている特約店の方々の目線で考えることを特に意識しました。

しかし、経営企画部や経営層向けの資料作成の業務が増え、現場との距離が広がっていった。そして現場から離れるほどに、「本当はもっと現場に近い仕事がしたい」という想いを持つようになっていったという。そんなタイミングで深く心に残ったのは、新規事業開発の一環として関わっていたスタートアップへの出資案件だった。

中山スタートアップの方々と関わるなかで、特に印象的だったのは意思決定のスピード感と、顧客との距離の近さでした。彼らの仕事に対する情熱や、現場の課題に向き合う姿勢に触れ、「自分もこういう環境で働きたい」という気持ちが徐々に強くなっていきました。

そうして転職を決意した中山氏が、最終的にtebikiを選んだ理由の一つが同社の現場との向き合い方だった。複数回の面談や体験入社を通じて、現場の声に真摯に耳を傾け、それを着実にプロダクトに反映していく企業文化に共感したという。

中山実際に社員の方々と話してみて、皆さんがいかに現場のことを考えているか、そしてそれを形にする努力を重ねているかを実感できました。特に印象的だったのが、エンジニアやデザイナーの方々が顧客の声に対して「技術的に難しい」で終わらせるのではなく、「どうすれば実現できるか」を真剣に考えている姿勢でした。この文化こそが、私の求めていた環境だと思ったんです。

このように、中山氏の根底には一貫して「現場を支援したい」という強い想いがある。それは大学時代から石油会社での経験を経て、現在のtebikiでの活動にも脈々と受け継がれている。

そして、その想いを形にするための実務能力──予算管理から事業計画の策定、現場への施策の落とし込みまで──も、前職での経験を通じて着実に培ってきた。まさに、現場支援への情熱とビジネス視点を兼ね備えたShaperとしての素地が、ここで形作られていったのである。

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地道な努力と学習によって支えられるPdMとしての活躍

中山氏のキャリアを紐解いて感じられた核のひとつが一貫した現場主義だ。行動量や企画力もさることながら、それを支えているのは、「現場を支援したい」という想いであるように感じる。

この取材において、未経験でも活躍できている要因を尋ねると、中山氏は次のように話した。

中山率直に言って、数をこなしたことが大きいと思います。1年でリリースした機能は約100件。それに伴って、エンジニアやデザイナーに機能仕様を伝えるためのドキュメントも大量に作成しました。最初の頃のドキュメントを今改めて見返すと「ひどい文章だな」と思います(笑)。きっとこの頃は、エンジニアやデザイナーが意図を推察してくれていたことも多かったはず。そうして周囲に支えられながら失敗を重ねて、数を担保したおかげで成長できたと感じています。

その成長過程で、大きな転機となったのがエンジニアやデザイナーとのコミュニケーションの取り方だった。

中山最初は顧客の声をそのまま伝えていたんです。でも、エンジニアから「業務では実際にどうに使われているのか」「どの程度この機能を使うことになるのか」といった質問を受けて、自分の説明が不十分だったことに気づきました。それからは、顧客の要望だけでなく、その背景にある業務フローや、想定される使用頻度など、周辺情報も含めて整理して伝えることを意識するようになりました。

コミュニケーションの改善だけではなく、エンジニアリングの知識習得にも地道に取り組んでいる。当初は技術用語の理解にも苦労したが、書籍や社内のエンジニアへの質問を通じて少しずつ知見を獲得していった。

中山PdMとして、ビジネスサイドに開発サイドの事情や技術的な制約を伝えるためには、自分が深く理解していることが欠かせません。今もまだまだ勉強中の身ですが、技術的な議論にも少しずつ参加できるようになってきました。

そんな中山氏は、今まさに新しいプロダクトについて考えている最中だ。この領域は、中山氏自身にとっても、エンジニアにとっても未経験の領域だ。

中山未知数で不安もありますが、それよりも楽しみが勝っています。tebikiはもともと開発とビジネスサイドが距離が近い会社ではあるのですが、さらに連携を強めつつ、より良いプロダクトを作っていければなと。早くローンチできる日がくるよう、開発により一層力を入れて取り組んでいきます。

そして個人的には、もっとエンジニアリングについて学んでエンジニアたちとより一層、具体的な会話ができるよう学習を続けていきます。

製造業のDX推進は、今まさに正念場を迎えている。人手不足や技能伝承の課題が深刻化する中、デジタル化による業務効率化は待ったなしの課題だ。紙の帳票からデジタルへの移行、データの活用、分析の実装など、課題は山積している。

そんななかで中山氏は、現場の声に真摯に耳を傾け、技術と人の強みを組み合わせることで、着実に現場変革の歩みを進めている。中山氏の挑戦は、まさに新しい価値を形作るShaperとしての軌跡そのものだ。

こちらの記事は2025年02月20日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

えなり かんな

編集

大久保 崇

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