行動の「量と質」管理で、メンバーをエースに
個々のメンバーをどのように育成していくか?困っているメンバーに対してどのように介入していくか?という点は、組織・育成ナレッジの蓄積されていない創業期のチームにおいて、特に属人的になってしまう点ではないだろうか。そのような育成の属人化を防ぐために大事になるのが、「メンバーが今どの状態にいるのか」を理解すること。
今回は、プロセスマネジメントを軸にした「状態の可視化」の方法を見ていこう。
メンバーの状態を行動の量と質で整理する
前回の記事では、成果を上げるための営業会議について解説しました。今回は、もう少し時間軸を長く捉えたメンバー育成をテーマにお話していきます。
予実管理を行い、日々のメンバーの活動に介入しながら、営業会議でPDCAを回していくことで、順調に成長していくメンバーもいますが、一方で、どうしても育成に苦労するということもあるかと思います。そのような場合、特定のメンバーに対してどうやって関わっていくかの方針が必要です。
特にスタートアップでは、社内の研修や育成の仕組みが整っているわけではないので、入社後にあっという間に現場に放り込まれ、そこでつまずいてしまうと離脱してしまうこともあります。せっかく採用したメンバーに活躍してもらうためにも、今回はプロセスマネジメントを軸にした人材育成について考えてみたいと思います。
SFAなどを活用して情報が効果的に把握・管理できてくると、営業マネジャーの課題としては、「なかなか数字が伸びないメンバーに対してどう介入し、育成していくか?」ということのウェイトが大きくなってきます。
例えばここで、メンバーの状態を行動の量・行動の質でマトリクスに整理してみます。
横軸が「行動の量」(コール件数、訪問件数、提案件数など)、縦軸が「行動の質」(案件化率や受注率、平均単価など)の概念を表しています。縦軸と横軸の真ん中にある境界線は、どういう基準で考えるかにもよりますが、「中央値(業績を上から順番に並べたとき、ちょうど真ん中に位置しているメンバーの指標)」や「達成しているメンバーの平均値」など、ある程度PDCAを回しながら徐々に定めていくとよいでしょう。あるいは、事業トップの「決め」でも良いかと思います。
原因を見極めて、スモールステップで次のゾーンを目指す
Dゾーンは、行動の質も量も不足しています。まず、こういったメンバーについては、現在の状況に陥っている原因を把握しましょう。商談記録や日々の報告を細かめに書いてもらうなど、状況を把握するための情報が必要になってきます。
そして、見極めるべきは能力の問題なのか、意欲の問題なのかです。もし、これが能力の問題であるならば、ある程度達成可能な「手前の目標」を設定し、業務の優先順位をつけた上で、「直近の目標は、行動量を増やしてBゾーンを目指そう」という成長の道筋を提示していきます。色々やろうとしてしまったり、高すぎる目標に対して的確なスモールステップが踏めていない場合がありますので、ブレイクダウンしていきます。
一方、「仕事に対する意欲」の問題であるならば、もう少し慎重な対応が必要です。仕事に対して何か集中できない要因があるかもしれません。ここについて、面談とヒアリングをしながらつかんでいきます。
「行動量が課題」の場合、どのように介入するか?
一方、Cゾーンは、「行動の質はある程度高いが、行動量が少ない」タイプです。やればできるのにそこまでエンジンがかかっていないメンバーに対しては、必要な行動量の目標について合意したり、アプローチすべき顧客リストを定めるなど、行動を可視化する必要があります。
ステップとしては、
- ロジカルに必要な行動量を算出し、本人と合意する
- リストの当たり漏れをチェックする
- 行動のスケジュールを可視化し、フォローするといった3段階になるでしょう。
特に、中堅やベテランなど、ある程度の年次や経験がありながらも達成率が低いメンバーにはこのタイプが多くなりますが、「本来必要な行動量」をロジカルに導き出すことがポイントです。
また、Cゾーンは、やればできるスキルを備えているがゆえに、期末になって数字を伸ばしてくるメンバーも見られます。この場合、SFAに載ってこない「隠し玉」がないかどうか、ウォッチする必要があります。
放っておくと危険な、「行動の質に課題」ゾーン
さて、続いてBゾーンを見てみましょう。「行動の量が多いが、質が伴わない」タイプは、放っておくと危険です。なぜなら、本人はかなり頑張っているつもりなのになかなか結果が出ない人は、そのままだと心が折れてしまうからです。このBゾーンにいるメンバーについては、質が上がらない原因を、同行訪問や商談記録から見抜いて、アドバイスや指導をしてあげる必要があります。
その際、「訪問件数は多いが、お客様から決定的な情報が聞けていないのではないか」など、何がボトルネックになっているかの仮説を立てた上で、その課題を解決する打ち手を実行していきます。例えばヒアリングのロープレをやる、上司が同行して見本を見せる、などです。
ここで重要なのは、「どうすれば質が上がるのか」をきちんと提示することです。前回の記事で営業会議について触れましたが、「決着案件の分析」をすることで、接戦の受注・失注がいかにして決まるかを組織単位で学習することにより、行動の質を上げるためのヒントが抽出されてきます。
マネジャーの個人的な経験・勘のみに頼らず、客観的に蓄積されているデータをもとに、「こうすれば結果が出る」ということを示すことができれば、Bゾーンのメンバーも信じて頑張ることができます。
頼れるロールモデルを、いかに活用するか
こういった取り組みを行っていく上で、心強いのはAゾーンにいるメンバーの存在です。他のメンバーのお手本になってもらったり、相談相手やメンターになってもらうなどして、マネジャーの右腕としてチーム運営をサポートしてもらいましょう。
Aゾーンの力を借りて他メンバーのスキルを伸ばす手段としては、ロープレが有力です。
しかし、特にスタートアップの営業現場では「皆が常に忙しい」ために、重要だとはわかっていても、ついついロープレの優先度が下がりがちです。
そこで、ここでは1本15分もあれば効果的にできるロープレ方法をご紹介します。このロープレは、「客観的に見る」「気づく」ことに力点を置いているのが特徴です。
「顧客役」「営業役」「オブザーバー」というように、三位一体で行います。オブザーバーは、商談を横で見ていてフィードバックする役割ですが、何人いても構いません。
進め方としては、まず最初に、「どんな場面設定でやるか」「どんなところに営業役は気をつけるか」といったポイントを確認します。ここでは、なんとなく「初回訪問をやりましょう」といったレベルではなく、「他社を気に入っているお客様への初回訪問で、一方的に話しすぎず、他社取引状況をスムーズに聞き出す練習をします」といったレベルで具体化します。
そして、ポイントを確認したらロープレ前半をスタートです。予め確認されているポイントが浮き彫りになるようにお客様が演じていきます。ここでは、3〜4分もやれば十分になるよう、場面の区切りを工夫しましょう。
重要なのはここからです。中間コメントで、顧客役とオブザーバーから「もっとこうしたらよくなるのでは」といったフィードバックをします。このコメントをもとに、後半のロープレで営業役は「改善」や「軌道修正」を図ります。
ロープレ後半では、さっきの場面の続きからということでも構いませんし、最初からやり直してもよいのですが、重要なのは、「中間コメントをもとに、どのぐらい自分の行動を変えられているか」です。ハイパフォーマーとローパフォーマーの違いは、「自分の行動を客観的に見ているかどうか」に現れます。ロープレ後半で、皆から頂いたアドバイスをもとにすぐ改善する、ということができてくると、実際の商談でも、お客様の反応をもとに自分の行動をその場で修正することができるようになってきます。
そして、最後に、ロープレ全体を皆で振り返っていきます。特に、中間コメントから後のところで、どのぐらい軌道修正や改善ができたかをメインにします。
ここで、「オブザーバー」の存在が重要な意味を持ってきます。
オブザーバーは、思い込みにとらわれずに、ロープレを冷静・客観的に見ることができます。
普段の「営業としての自分」が、こんなこと聞いちゃいけないのではと制約条件に感じているものが、オブザーバーになると、自由な発想で見られます。
通常のロープレ練習では、「営業役」に焦点が当たりがちですが、意外と、「顧客役やオブザーバーを経験すること」から重要な気づきが生まれます。
ですので、15分ロープレは、営業役だけやるのではなく、3つの役回りを経験できるようにローテーションしていくことをお勧めします。
Aゾーンに力を借りる巻き込み方としては、顧客役をやってもらったり、営業役としてお手本を見せてもらうなどがあります。特に、Aゾーンのメンバーが営業役をやっているロープレは、録画しておくと、他のメンバーにとっても良い教材になりますし、Aゾーンのメンバーがオブザーバーに回ることで、本人のアドバイス力もアップしていきます。
さて、今回の記事では、メンバーを行動の質・量によって四象限に分け、どういった方針で育成していくか(あるいは育成に力を借りるか)について解説していきました。
次回は、これまでの記事をまとめた総集編をお送りします。
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こちらの記事は2019年06月25日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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