鉄筋工・コンビニ店長からAI起業家に!?
AI acceleratorから成功する
人工知能スタートアップは生まれるか?
20万件以上の企業データと、200人超の業界ネットワークを基盤に、日本初のAI(人工知能)特化型アクセラレータプログラムを開始した、ディップ株式会社。
バズワードになりながらも事業化が難航しているAI領域のスタートアップを、なぜ同社はこのタイミングで支援するのか。
また、現在どのような起業家が集まり、いかなる点において、ディップと組むメリットがあると考えているのか。
同アクセラレータプログラムの責任者を務める進藤圭氏(Dip AI. Lab室長)、プログラム第一期生の田中仁氏(Xpresso, Inc CEO & Founder)、第二期生の宇都宮綱紀氏(GAUSS代表取締役社長)の3名に、話を伺った。
- PHOTO BY YUTA KOMA
鉄筋工・コンビニ店長から、AI起業家へ
そもそもAIは、「理系の一部の人にしかわからない」という難しい技術のイメージがあります。スタートアップにとっても、かなり敷居の高い事業領域なのではないでしょうか。
宇都宮そんなことはありません。「つくりたい」っていうモチベーションさえあれば、誰にだってできると思います。目的を追いかけているうちに習得できるもの、といいますか。
私は高校卒業後、鉄筋工になり、富士通でAI事業に従事したのちに、起業したというキャリアです。みてのとおりAIの研究室やAIの専門家になるための学校に通ったわけではありません。独学で習得してきた部分が大きいんです。
ただ、起業する段階で、「AIで競馬予想をする」サービスをつくるために、とにかくいろんな対象で「予想」を試しました。国家試験の問題とか、本当にいろんなものを使って。もちろん必要があれば、アカデミックな数学の理論も調べました。そうやって独学でAIに関して習得できたので、決して一部の人にしか習得できない特別なものではありません。もちろん「AI・人工知能」と一口にいっても、色んな「レベル」があるので一概には言えませんが。
田中私はもともと、父親が事業家だったこともあって、幼いころからビジネスが身近なものでした。小学生のときから自分で駄菓子を買ってきて(卸して)売ったり、日本酒のビンのフタを売って1本5円もらったり。今考えたら、「利益」を生み出すための行動を、比較的早い段階から起こしていた気がします。
それから千葉県のコンビニでの店長などを経験した後に、22歳で起業しました。ビジネスのことを調べているうちに、シリコンバレーで生まれた様々なビジネスヒストリーを知ってワクワクしたことを覚えています。そしてぼんやりと、「シリコンバレーに行ったらテンション上がりそうだな」って妄想したんです。そしてそのまま、事業プランもなにもないのに渡米します(笑)。
当時は「30歳までに絶対に海外で勝負したい」っていう目標があったことにも後押しされたんじゃないかと思います。
田中国内外でビジネスを展開していくうちに、「ビジネスで大きなインパクトをもたらしたいと思った時、マンパワーの限界に阻まれる」と感じるようになりました。
これは逆に言えば、マンパワーの限界を越えられたらビジネス界に大きなインパクトを与えられるということなんだ、と気づいた。そこで、「マンパワーの限界を広げるテクノロジー」であるAIに興味を持ちはじめたわけです。
興味をもってからは、私も宇都宮さんと同じで、学校に通ったわけではなく、いろんな人に話を伺いながら勉強していきました。
手堅く企業ニーズを捉えたサービスに共感
今回のアクセラレータプログラムへは、AIをキーワードに探しているなかで見つけられたのでしょうか?
宇都宮いえ、たまたま人から紹介された感じです。私が競馬予想をするAIサービスをつくっていたら、AIで人材をスカウトをするサービスをつくっている企業に声をかけていただいたんです。
その企業の方が進藤さんに私のことを紹介してくれたことがきっかけで出会いましたね。
進藤「面白いことしている人がいるから」といって宇都宮さんを紹介されました。たしかに競馬予想って、面白いというか、一見遊びのようなサービスに聞こえるじゃないですか。
ただ、よくよく宇都宮さんの話を聞いてみると「予想する」っていうすごく難しいことに向き合って、それをサービス化している。それもBtoB領域でも展開している。そんなギャップに魅力を感じました。
宇都宮さんがつくっているサービスは、技術的な難易度という側面においては、ものすごく稀有であったり、そんなに飛び抜けてエッジが効いていたりするわけではありません。しかし着実に、手堅く企業のニーズをとらえて展開されているところに惹かれました。
進藤また、宇都宮さんがROIという言葉を用いながら将来の事業展開を説明するところもいいな、と思いましたね。AIで事業をしている方って、出来なくて当然というか、ROIの概念で事業を捉えない、まだ利益が出なくてもしょうがないと思ってしまう傾向にあると感じます。ただ、宇都宮さんは違う。厳密にリスクを計った上で、事業計画やサービスを構想していた。そんな真面目さにも惹かれました。
AIに関わるきっかけは「バイトル」存亡に関わる人口構造変化
そもそも、なぜ人材事業がメインのディップ社がAIに特化したアクセラレータプログラムを運営することになったのでしょうか?
進藤ディップ社のメイン事業に関わる社会変化に対応するためですね。
これからの日本では少子高齢化が進み、若年層が減るわけですよね。すなわち、生産年齢人口が先細ることが予想されると。そのような中で、ディップのメイン事業はアルバイト求人情報サイト(「バイトル」)という、まさに減少の一途をたどる層の「働き手」を仲介している。
進藤もちろん、現時点では年間300億円ほどの売上 がありますし、売上高自体は年々増加していますが、長期的にみた場合、減り続ける「働き手」と「仕事」のマッチングでは事業成長が鈍化してくる可能性が高いんです。
特に飲食店や小売の現場での需給バランスには、比較的早い段階で成長の限界がくることが見込めます。若年層が減って、小売の現場で働けるような人がいなくなってしまう。
そこで、いま人がしている仕事を代替できる「AI」「人工知能」に着目したんです。
しかし、AIを実用化して利益をあげているビジネスはまだそんなに多くない。「だったら一緒に創っていこうよ」と、事業化を支援していく方針で開始したのがアクセラレータプログラムです。
「ハイレベル」「支援の手厚さ」の2つが特長
AI acceleratorは、日本初のAIビジネス特化のアクセラレータプログラムですよね。参加したスタートアップから見たメリットにはどんなものがあるでしょうか?
田中私は起業した後、いろいろな局面で自分の能力に限界を感じるようになりました。ただそれでも、企業として成長していきたいと思っていました。
つくったサービスにはどんどんデータが蓄積されていくなかで、このデータをつかって、技術の限界点を知りたい・探りたいというときに、自分のチームのなかにAI専門家がいなかった。
そこで、「技術的な側面における限界点」を専門家と話しながら理解していきたいと思って、アクセラレータプログラムに参加しました。つまり、AIに関する知見と人的ネットワークの獲得が参加の目的だったということになります。
AI acceleratorに参加したことで、実際にAIに詳しい方と近い距離で、質問も気軽にできるような関係値も構築できたため、その後の事業運営にも、大変役立っています。
宇都宮人工知能の専門家がメンターになってくれること以外にも、参加企業のレベルが高いことも特徴だと思います。他のアクセラレータプログラムよりも、事業フェーズが「進んでいる」印象です。
他のプログラムに参加したときは、構想止まりでアイデアベースのスタートアップが多いな(プロダクトが未だ無く、サービスの具体化・実用化に至っていない)と感じたのですが、ディップに集まっている企業の事業は、かなり構想が具現化されていて驚きました。
また、AI acceleratorはとにかく支援が手厚いですね、他のアクセラレータには場所だけ貸すようなモノもあるのですが、ディップのは違います。プロダクトの売り方まで教えてくれたり、人をつないでくれたり、なんなら一緒に営業にまで行ってくれたりする。そこまでしてくれるプログラムや運営企業は相当レアです。
プログラム中にはどのような支援をしていくのでしょうか?
進藤企業によってもちろん異なるのですが、営業や採用のアドバイスをしたり、オフィスを開設するために大家さんとの交渉をしたり。そのスタートアップが成長するためならなんでもしますよ(笑)。
私自身、起業も2回経験していますし、ディップの中でも新規事業を何度も立ち上げているため、「生みの苦しみ」は理解しているつもりです。
だからこそ、スタートアップが上手く軌道に乗るためにディップだからできることは、なんでも提供したいと思っています。
宇都宮GAUSSのケースでいえば、BtoCサービスが弱いという課題を抱えていましたので、このアクセラレータプログラム中に「エンドユーザー視点でのアドバイス」をいただきました。これはBtoCサービスである「バイトル」をうまく展開しているディップさんならではの支援の仕方だなと思いました。
この他にも、サービスを展開する中での悩みごとを毎週のように聞いてもらいながら、ディスカッションしていただいています。先日はTwitterやFacebookなどのSNS運用方法を教えてもらって。さっそくいただいたアドバイスを試したら、実際にフォロワーが増えたんです。
アクセラレータプログラムに参加して、定量的にも事業が成長したと自信を持っていえますね。
進藤これまで2期の間で16社ほどのスタートアップ企業を支援させていただいたのですが、形式的な支援期間が終わった後でも、ほとんどの会社と1ヶ月に1回の頻度で会っています。
ついこの間も、イベントに一緒に登壇したり、資金調達のためのピッチの応援にいったりしました。
私自身の「スタートアップを応援したい」というピュアな想いからこのAI acceleratorはスタートしているので、「卒業」という意識をスタートアップ自体も持たず、長期的に関係が続いていくほうが、ディップ社としても嬉しいですね。
こちらの記事は2018年02月23日に公開しており、
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