「人材×AIで労働人口減少に立ち向かう」 求人情報サービスのディップがAI.Acceleratorを主催する理由

登壇者
進藤 圭

早稲田大学を7年かけ卒業後、ディップに新卒入社。営業職、ディレクター職を経て、開始後3年で15億円の売上に成長した看護師人材紹介「ナースではたらこ」事業化など、20件以上のサービス企画に参加。現在は、アニメの舞台めぐり「聖地巡礼マップ」、人工知能ニュースの「AINOW」、スタートアップニュースの「StartUpTimes」等の変わり種メディアチーム責任者。その他AI研究開発、事業提案制度、採用、MA等の担当から出張講師まで、特命係長的ライフを満喫中。

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ディップ株式会社が主催する、AI特化インキュベーションプログラム「AI.Accelerator」。集まったAI関連企業や人材に対して、約3か月にわたり支援を行うものだ。出資や業務提携のほか、同社が運営する「バイトル」「はたらこねっと」といった求人サービスで得た20万超の匿名化データをスタートアップに提供。人材業界ならではの支援を行っている。

2017年4月に始まり、過去7回のプログラムを通じて採択企業は56社を超えている。今回は、2019年3月6日に開催された第7期のデモデイを取材した。本記事では、登壇したスタートアップや市場の変化、AI.Acceleratorの実績などを紹介していきたい。

  • TEXT BY HITOMI YOSHIDA
  • EDIT BY TOMOAKI SHOJI
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66社の応募から選ばれた7社

ここからは今回応募のあった66社から、デモデイに登壇した7社を紹介する。採用管理や電話業務の書き起こしなど、AIで企業の業務効率を上げるサービスが中心だ。

N2i

N2i

応募から面接日程調整の自動化に特化した、採用管理サービス「ノリスケ for リクルート」を運営。チャットボットを使った面接の日程調整機能や応募者管理、求人管理のほか、社内コミュニケーション機能なども提供している。

コンシェルジュ

コンシェルジュ

AIチャットボットサービス「Concierge U」を運営。チャットボットを構築するためのシナリオ作成エディターと独自開発の自然言語処理技術を活用して、対話型プラットフォームをつくることができる。自然言語処理エンジンは、類義語や表記揺れにも対応。業種や業界独自の類義語を個別に登録することも可能だという。

クリスタルメソッド

クリスタルメソッド

AIの導入支援などを行う企業。最新のAI技術についてリサーチを行い、学会や研究会での発表も行っているという。プロダクトとしては、事務作業を肩代わりしてくれる対話型AI「ハル」を提供。勤怠管理を自動化してくれるほか、感情も認識し、会話も可能だ。

MatrixFlow

MatrixFlow

自社でAIを構築できるプラットフォームを提供。学習データや学習済みモデルの管理機能、サービスに組み込むためのAPIの作成機能を搭載している。例えば、商品レビューの感情分析をしたり、文章を自動で要約したりといった活用事例が紹介されている。

pickupon

pickupon

インサイドセールス向けに、通話内容の書き起こしをするAI。顧客との通話を自動で録音、文字起こしし、会話の文脈と発言を確認できるという。顧客からのフィードバックの拾い上げに活かすほか、顧客の性格判断もできる。

KINDLER

KINDLER

AIによる、顔タイプ診断サービス「mira」を提供。顔写真をもとに肌や目の色、骨格から、その人に似合うメイクやファッションを5秒でレコメンドしてくれる。顔のタイプをもとに似ている芸能人を診断したり、メイクシミュレーションを活用してアドバイザーから美容レッスン(オンライン)を受けたりすることが可能だ。

ElectSheep

デザイン業務を自動化するCreativeZEROを提供。文章の内容や画像幅、色などを選ぶだけで、ECやバナーなどを作成できるという。クリエイティブの自動化により、外注にかけるコスト削減を目指す。現在は実証実験中で、終了後に営業を開始する予定だ。

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世界的なアクセラレータープログラムに採択された企業も

人材業界のディップが、AI特化型アクセラレーションプログラムを運営するのはなぜか。AI.Acceleratorの責任者である、同社の次世代事業準備室 室長の進藤圭氏はこう語る。

AI.Accelerator責任者である進藤圭氏

進藤人材業界は、若年労働力の減少との戦いです。一方、AIが仕事を代替できる部分もある。こうした状況のなかで、人材とAIを組み合わせて労働力を提供できる存在になりたいと思いました。調べていくと、AIへの投資の中心は北米であることが分かりました。日本のスタートアップへの投資はほとんどなかったのです。それならば、自分たちで投資の仕組みを作ろうとAI.Acceleratorを立ち上げました。

7回の公募で述べ522件の応募があり、支援した企業は合計56社にのぼる。成果も生まれ始めており、高品質VRと行動解析AIによる人材育成サービス「JOLLY GOOD」を提供する株式会社ジョリーグッド は、累計で約10.5億円を調達。同社が提供するVRソリューション「GuruVR Media Pro」は、テレビ業界でトップシェアを保持しているという。

海外アクセラレータープログラムへの採択の実績として挙げられるのは、ディープラーニングを用いて動画に映っている人の表情に自分の表情を重ね合わせ、リアルタイムで動かせるアプリ「Xpression」を提供するEmbodyMe, Incだ。EmbodyMeは、アメリカのトップアクセラレーター「Techstars」に採択されている。「人の顔になりきって好きなスピーチを作成できるユニークさと、それを支える技術力が評価されたのではないか」と進藤氏は語る。

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「法律や製薬関連のスタートアップへの投資を増やしたい」

AI.Acceleratorの中で興味深いのは、主催しているディップの競合かどうかに関係なく、親和性の高い企業への買収が進んでいる点だ。面接のアドバイスツール「HRアナリスト」を提供するシングラー株式会社は、ディップの競合にあたるパーソルキャリア株式会社の連結子会社となった。

進藤ディップも求人情報の会社ですが、パーソルキャリアは転職領域が強い。面接のアドバイスツールであるHRアナリストは、アルバイトの求人サイトに強みを持つ我々よりも、転職領域に強みを持つパーソルキャリアの方が親和性がありますよね。それはそれでいい。そのほか人材業界の競合にあたる企業さんにもよくピッチに足を運んでいただいています。業界横断的にAI分野のスタートアップを育てていきたいですね。

今回、進藤氏が感じるのは、応募するスタートアップの若年齢化だ。特に大学生が増えてきているという。起業する分野として身近になってきているということなのだろうか。

進藤これからは、従来の仕事のやり方からなかなか変わっていない領域をAIで代替するスタートアップを生み出したいと思っています。例えば、法律や製薬の領域はまだスタートアップが足りていません。そういった分野への投資もどんどん増やしていきたいです。

AI関連の分野には、まだまだビジネスチャンスがあるという。AI.Acceleratorのようなプログラムを活用すれば、チャンスも広がるだろう。8期の採択企業も発表され、現在は9期の募集が始まった。2019年6月~8月にかけて、3か月間のプログラムが行われる予定だ。

こちらの記事は2019年03月22日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

吉田 瞳

1994年生、上智大学文学部新聞学科卒。PR会社で働きつつ、フリーランスのライターとして複数媒体で執筆中。記事を通して、自然、体験、歴史など、「カタチのないもの」の姿を伝えていきたいです。山が好き。

編集

庄司 智昭

ライター・編集者。東京にこだわらない働き方を支援するシビレと、編集デザインファームのinquireに所属。2015年アイティメディアに入社し、2年間製造業関連のWebメディアで編集記者を務めた。ローカルやテクノロジー関連の取材に関心があります。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

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