次のユニコーンは「暇の解消」から生まれる?──「Fortnite」を舞台に世界的IPと次々と手を組むNEIGHBORとHAKOBUNEの対談にみる、「日本発プラットフォーム」幻想からの脱却論
Sponsored「メタバースは、便利じゃないんです」
Fortniteを舞台に世界的IPとの協業を次々と実現してきたスタートアップ・NEIGHBORのCEOノトフ氏は、自身も1日数時間をメタバース空間で過ごすヘビーユーザーだが、そう言い切る。
一体どういうことだろうか。
2022年、メタバースブームに沸いた市場は、わずか2年で冷めたかのように見える。VRゴーグルを装着し、3D空間を自由に行き来する未来像は、まるで幻想だったかのように、人々の記憶から薄れつつある。
しかし、この「メタバース=VR」という固定観念こそが、本質を見誤らせているのかもしれない。VRはあくまでも手段の一つに過ぎないのだ。大切なのは、メタバース空間を魅力的なコンテンツで彩り、そこに滞在する間に“思い出”が生まれていくことだ──そう考えているのが、NEIGHBORというスタートアップだ。
スマートフォンとSNSは、確かに私たちの生活を便利にした。だが、その先にあるものは何か。テクノロジーは、本当の意味で人々を幸せにできているのか。あるいは、現代人が失いつつある大切な何かがあるのではないか。そんな問いにも向き合いながら活動するベンチャーキャピタルのHAKOBUNEが、NEIGHBORへの投資を決め、その可能性に無限の期待を寄せている。
メタバースという言葉が独り歩きを始めて久しい今、その本質的な価値を問い直す時が来ているのかもしれない。NEIGHBORとHAKOBUNEによる対談から見えてきたのは、人類の永遠の課題「暇」に対するゲーム事業の意義、そして「メタバースプラットフォームでこそ、多くの外貨を稼ぐことができる」という実態だった。
- TEXT BY SHUTO INOUE
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
メタバースは不便、でも“思い出”を生む──テクノロジーで見失った「本当の豊かさ」こそ、新たなビジネスのカギ
2020年代初頭、私たちはテクノロジーの頂点に立っているかのように思えた。スマートフォンは生活の隅々まで浸透し、AIは人間の能力を超え始め、あらゆるサービスがクラウド化されていく。より速く、より簡単に、より効率的に──。テクノロジーは、確かに私たちの生活を便利にしてきた。
しかし、その先にある本当の価値とは何なのか。NEIGHBORのCEOノトフ氏は、まさにその問いと向き合い続けてきた。

ノトフよく「メタバースは何を便利にするんですか?」と聞かれるんです。でも、メタバースは便利じゃないんですよ。むしろ、不便かもしれないです(笑)。
例えばメタバースでの買い物は、絶対にAmazonより便利じゃない。Amazonや楽天市場のように、スマホの画面をぱぱっとスクロールして、ワンタップで注文できる方が、圧倒的に効率的です。メタバースは買い物以外の機能もさまざまにあるので、簡単に注文できる場にはなりえません。
でも、友達と待ち合わせをして、一緒に商品を見て回って、「これいいよね」って会話しながら買い物をすることができます。リアルな買い物に近いわけです。その体験自体が楽しい。ここに本質的な価値があるんです。
この「不便さこそが価値になる」という逆説的な視点は、自身もヘビーユーザーとしてFortnite空間で過ごすノトフ氏だからこそ気づけたのかもしれない。デジタルネイティブ世代におけるメタバース空間の認識は着実に変化しているのだ。
ノトフ子どもたちは今、FortniteやRobloxを代表とするメタバース空間を「ゲーム」としてではなく、「居場所」として使っているんです。宿題が終わった後に「ちょっと集まろう」って。面白いのは、そこで新しいコミュニティが自然と形成されていくことです。
そのコミュニティの広がり方は、従来のソーシャルゲームやソーシャルネットワークとは大きく異なるものだろう。友達の友達が気軽に参加し、知り合い、見知らぬ者同士が共通の体験を通じて親密になっていく。バーチャルな空間でありながら、どこか懐かしい「たまり場」の雰囲気がそこには存在しているのだ。
このような変化は、一過性のブームなのだろうか。それとも、人類の新しい文化の萌芽なのか──。そんな問いを共有し、ともに歩んでいるのが、同社にシード投資したHAKOBUNEだ。
「人類に影響を与えるインパクト領域」「既存産業構造を変える産業革新領域」「Japan Culture to Global領域」──HAKOBUNEが掲げる3つの投資テーマは、いずれも既存の枠組みを超えた「変化」を追求している。その土壌があったからこそ、一見すると逆説的なNEIGHBORの事業内容にも、大きな可能性を見出すことができた。

ファンド紹介資料(提供:HAKOBUNE株式会社)
栗島人類の大きな課題の一つが、「暇」です。命の存続や仕事の効率化ももちろん重要ですが、「暇」も死に至る病になりうるんじゃないかと本気で思っています。この課題を捉え、テクノロジーで挑むという視点を持つのがノトフさん。ユニークすぎる構想に、投資家として惹かれたんです。
ノトフさんもおっしゃった通り、「便利」を目指すフェーズは、もう終わったと思います。インターネットとスマートフォンでできることは、ほとんど出尽くしたと言えるのではないでしょうか。
これからは余暇時間を、いかに楽しく幸せに過ごすかという「体験」の価値を追求する時代です。言語の壁も、距離の制約も超えて、誰もがまったく新しい体験を共有し、人生を彩のあるものにできる。その入り口として、今のFortniteは大きな可能性を秘めているんですよ。
インターネットやスマートフォンは、確かに私たちの生活を便利にした。しかし、その「便利」は、必ずしも人々の幸福には直結しなかった。むしろ、人々は新しい孤独を経験することになったのではないだろか。
NEIGHBORは、そんな価値の転換点における時代の逆説に、正面から向き合おうとしているのだ。
YouTube以来の革命が、ゲーム業界で始まっている──世界中の6億人が集う新たな実験場「Fortnite」
ここまで当たり前のようにFortniteについて語ってきたが、詳しく知らないという読者もいると思う。ここでしっかり解説させていただこう。
2020年にはすでに世界で3億5,000万人以上のユーザーを抱えていた人気ゲームが、Fortniteだ。当時までは「100人が同時に戦う『バトルロワイヤル』形式のシューティングゲーム」として人気を博していた。
それが2021年~2023年ごろ、「自由にゲームを作成し、世界中に配信できる自由なプラットフォーム」への大転換を果たした(Fortniteの変化や、初心者向けの説明は、こちらのノトフ氏のnoteが非常にわかりやすいので、合わせてお読みいただきたい)。
ノトフ2021年のある日、Fortniteのトップページが、突然Netflixのような画面に変わったんです。それまでは公式が配信するシューティングゲームが中心でしたが、そうではなく、一般ユーザーが作った大量のゲームコンテンツが同列で並ぶようになった。
YouTubeが一般の人々に動画投稿の場を提供したように、Fortniteが誰もがゲームを作れるプラットフォームへと進化、つまり「UGC(User Generated Content:ユーザー生成コンテンツ)」化を遂げたんです。
任天堂の「スーパーマリオメーカー」が、一般ユーザーにマリオのコースをつくる楽しみを提供したのをご存じの読者もいるだろう。まさにそのように、Fortniteも独自のゲーム制作環境を用意した。しかし、その規模と自由度は、マリオとは比較にならないほど大きかった。
ノトフ例えば、かくれんぼゲームをつくる人もいれば、謎解きアドベンチャーをつくる人も。他には、音楽ライブの会場をつくったり、ファッションショーの空間をつくったり。しかも、つくったコンテンツは世界中に広がる数億ユーザーに向けて、無料で公開できるんですよ。
これは、ゲーム業界の常識を根本から覆す出来事だった。従来のゲーム開発では、大手企業が数年の歳月と数十億、時には数百億円という資金を投じて一つの作品をつくり上げていた。そのリスクの大きさから、個人の柔軟なアイディアから生まれる突飛なチャレンジは難しく、既存の人気シリーズの続編が中心となりがちだったからだ。
Fortniteというプラットフォームの進化が、その常識を覆そうとしている。
ノトフ2023年3月、さらなる革新が訪れたんです。新しい開発環境『UEFN(Unreal Editor for Fortnite)』の登場です。いわば「Fortnite専用の開発環境」がオープンになり、そのノウハウも世界中で共有されるようになったということ。
これにより、開発の自由度がそれまでの比にならないくらい劇的に向上しました。従来はゲーム会社の中でしか実現しえなかったような3Dモデルやゲームシステムが実装できるようになり、個人やスモールチームでも、ほんの数週間で高いレベルの作品を公開できるようになったんです。
そして、成功すれば、収益の一部が直接クリエイターに還元されることになります。

その市場規模は、驚くべき速度で拡大している。Fortniteと、同じくユーザー生成コンテンツで急成長を遂げているRoblox(月間アクティブユーザー4億人を誇る、ゲームプラットフォーム)を合わせると、2024年にはクリエイターへの還元額が2,000億円規模に達するとの予測もある。
これらはあくまで還元額、つまりその数倍以上の兆円規模の売上が、FortniteとRobloxそれぞれに上がっている可能性が高い。任天堂の2024年3月期の年間売上高は1.67兆円ほどになり、遜色のない規模にまで拡大していると言えそうだ。
栗島他にも市場成長が予想される領域はいくつもあります。ですがこの領域の面白いところは、まさに“今”変革期を迎えているということ。
すでに世界的な人気バトルロワイヤルゲーム「PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS(PUBG)」も、他の人気ゲームプラットフォームも、UGCでさらなる拡大を進めるという方針と実装を発表しています。YouTubeが動画を民主化したような革命が、今、ゲーム業界で始まろうとしているんです。

この“ゲームの民主化”とも呼べる変化は、すでに新しい経済圏も生み出し始めている。かつてYouTubeの登場が、それまでテレビ局や映像制作会社の専門職だったクリエイターやプロデューサー、編集の仕事を、誰もが挑戦できる新しいキャリアへと変えた。それと同じように、Fortniteのプラットフォーム上でも、独自のキャリアが形成されつつあるのだ。
ノトフゲーム配信者がいて、その配信を支えるマネージャーがいて、サムネイル作成を専門とするデザイナーがいて...。まるでYouTubeの黎明期のような、新しいキャリアが次々と生まれています。面白いのは、その多くが10~20代の若者たちだということ。彼らは学校が終わった後、夜な夜なFortniteやDiscordに集まって会話しながら、新しいコンテンツのアイデアを議論しているんですよ。
一見すると小さな変化に見えるかもしれない。しかし、これはデジタルコンテンツの創造と流通の仕組み自体が、根本から変わろうとしている証左なのだ。その変革の最前線にいるのがNEIGHBORであるというわけである。
リリースわずか1ヶ月で世界120万人を魅了した、日本発の「お化け屋敷」
そんな波をいち早くとらえたノトフ氏による創業からわずか2年。NEIGHBORは、Fortniteというプラットフォーム上で、一般的なスタートアップでは考えられないようなスピードで実績を積み上げてきた。
その最初の大きな転機は、驚くべきことに創業1年目で実現した、Netflixとの協業だった。世界最大級の配信プラットフォームが、なぜ設立間もないスタートアップを選んだのか。
ノトフ最初の転機は、Netflixアニメとのコラボレーションでした。「伊藤潤二 マニアック」(アニメの公式サイトはこちら)という作品の世界観を、メタバース上のお化け屋敷として再現したんです。実は、これは相当チャレンジングな内容だったんです。
ホラー作品をゲーム化するのは、意外と難しい。緊張感とか不気味さって、どうやって演出すれば伝わるんだろう。しかもFortniteという、基本的に明るい雰囲気のプラットフォーム上で。でも、その分、成功した時のインパクトは大きいと考えました。
その読みは的中する。2023年1月にリリースされたお化け屋敷は、公開1ヶ月で120万プレイを突破。世界中のホラーファンの間でも話題となり、“単なるアニメの宣伝コンテンツ”を超え、“Fortniteならではの新しいホラー体験”として評価されたのだ。
Netflixオリジナルアニメ「伊藤潤二『マニアック』」からの依頼を受けて、メタバースお化け屋敷「Junji Ito Maniac Haunted house」をフォートナイトクリエイティブで制作しました。
— NEIGHBOR JAPAN (@NEIGHBOR_FNJP) February 1, 2023
1~4人プレイ
マップコード:9800-8851-4190#フォートナイトクリエイティブ#FortniteCreative@netflix pic.twitter.com/RYsn2r4J0R
しかし、この成功は決して運任せの“当たり”ではない。プロフェッショナルなクリエイター集団として、NEIGHBORは開発の裏側で、緻密なデータ分析と地道な改善の積み重ねを続けていた。
ノトフ従来のゲーム開発では、リリース後の改善サイクルに数ヶ月かかることも珍しくありません。でも、Fortniteのような急速に変化するプラットフォームで、それでは遅すぎる。NEIGHBORでは、プレイヤーの行動を細かく分析し、数週間単位で大きなアップデートを重ねてるんですよ。
この実績は、Fortniteの開発元であり、世界有数のゲームエンジンUnreal Engineを手がけるEpic Games本社の目にも留まることになる。2023年、Epic Gamesからの直接のコンタクトを受け、月1回のペースでオンラインミーティングを行うまでの関係を築くことに成功したのだ。
そして、NEIGHBORの真価が最も発揮されたのが、オリジナルIP「ミニ忍者」シリーズの開発だった。アスレチック系のゲームとして展開されたこのコンテンツは、230万アクセスを突破。Fortnite公式のおすすめ欄に掲載され、同時接続3,400人という驚異的な数字を記録した。
ミニ忍者 障害物競走の「Ninja Rumble Sprint」
— ノトフ/NEIGHBOR (@notf) June 28, 2023
EPICおすすめ掲載!ありがとうございます!
マップコード:0895-9857-8195#UEFN #フォートナイトクリエイティブ pic.twitter.com/h8KekmpwKx
栗島この数字の持つ意味は大きい。Fortniteのような世界的プラットフォーム上で、設立2年目のスタートアップが、独自のIPでここまでの成果を出せることを証明したんです。

その評価は、2024年にさらなる形で結実する。Epic Gamesが世界中の開発者を集めて開催する年次カンファレンス「Unreal Fest」。シアトルで開催されたこの業界最大級のイベントで、Epic Games幹部による基調講演において、NEIGHBORが「理想的なアプローチ」として紹介されたのだ。世界的プラットフォーマーから、このような公式の評価を得た日本のスタートアップは極めて稀少であろう。
グローバル進出は、毎日の「Awesome!」から始まる。
英語ができない人のグローバル展開術
「技術さえあれば、グローバルで勝負できる」
「今や日本のコンテンツは世界で人気だから、チャンスは広がっている」。
確かに、それは間違いではない。しかし、その「常識」は、グローバル展開の本質を見誤らせる危険性をはらんでいる。
現実は、はるかに泥臭いのだ。NEIGHBORの急成長の裏には、一見遠回りにも見える、執拗なまでの努力の積み重ねがあった。
ノトフ英語は正直、得意ではありません(笑)。でも、創業してすぐにX(旧Twitter)で英語のみのアカウント(@notef_fn)を作成し、毎日欠かさず現地のFortniteのコミュニティの人たち向けに投稿をしていました。始めは「Awesome!」というリプライをひたすら送り続けるだけでしたね(笑)。
当初は「この人、なんなんだろう」って思われたかもしれない。でも、そこから少しずつ会話が生まれていったんです。
一見すると単純な、しかし決して途切れることのないその発信は、確実に実を結んでいった。年に3~4回は必ず海外カンファレンスに足を運び、現地のクリエイターとDiscordで深夜まで議論を交わす。その姿勢は、グローバルコミュニティの中で、確かな信頼を築いていった。
栗島これは、実はメタバース業界の本質に関わる重要な点です。このマーケットって、意外なことに「地域社会」的な性質を持っているんです。いくら優れた技術や魅力的なコンテンツがあっても、コミュニティに溶け込めなければ、単なる「よそ者」で終わってしまう。ノトフさんの取り組みは、まさにその壁を地道に、しかし確実に突き破っていった例だと言えます。
その姿勢は、チーム構築の場面でも遺憾なく発揮された。2023年、Epic Gamesで大規模なレイオフが発表された時のことだ。多くの企業が業界の未来を憂い静観する中、ノトフ氏は即座に動いた。
ノトフグレイスは、世界中のクリエイターとの窓口を担当していました。もちろん、彼女の実力からすれば、どの企業からもオファーが殺到するはず。でも、NEIGHBORには世界トップレベルの技術力はもちろんのこと、「毎日コミュニティと向き合い続けてきた」という実績もある。その真摯な姿勢を評価してもらえたんだと思います。
その判断は的確だった。グレイスが加入し、BizDevというポジションで世界中のコネクションを活用できるようになり、オンラインゲーム開発コミュニティとの距離がさらに近づいた。そうしてさまざまな案件を獲得できるようになり、NEIGHBORの事業成長は急速に加速したのだ。

提供:株式会社NEIGHBOR
栗島面白いのは、ノトフさんのこの業界において「あの英語があまり得意じゃない日本人が、世界中のビッグネームと次々とコラボしている」という、ある種の象徴になっていることです。
なぜそれが可能なのか。答えは単純です。技術やアイデアは確かに重要ですが、それ以上に、コミュニティへの真摯な貢献が評価されているんです。
この観点は、日本企業の多くが見落としている重要な示唆を含んでいるのかもしれない。

ノトフ特に、「日本のIPは世界で人気だから」という理由だけで、メタバースに参入しようとする動きを見かけます。でも、それだけでは難しい。コミュニティの中に入って、一緒に価値をつくっていく。その覚悟がないと、本当の意味でのグローバル展開はできないんだなと日々身にしみて思いますね。
栗島私たちが投資を決めるにあたって、この覚悟と、泥臭い動きは、大きな評価につながりました。ほかの投資家も同様に期待している部分だと思います。
ノトフ氏の言葉には、確かな重みがある。なぜなら、それは机上の空論ではなく、日々のアクションから紡ぎ出された経験則だからだ。グローバル展開の成功は、実は最も地域に密着した、泥臭い努力の先にあるのかもしれない。
ディズニーも2,200億円を投入。
世界のIPホルダーが注目する“新しい市場”
人も投資も集まり始めたNEIGHBOR。期待が高まる背景には、そもそもFortniteのさらなる拡大見通しがある。
2024年2月、エンターテインメント業界に新たな衝撃が走った。ディズニーがEpic Gamesに約2,200億円の出資を発表。さらに、マーベルやスター・ウォーズといった人気IPを活用したFortnite専用ワールドの構築計画も明らかになったのだ。この動きは、デジタルコンテンツ産業における歴史的な転換点となるかもしれない。
ノトフ最近、ミュータント・タートルズのIPがFortnite上で自由に使えるようになったんです。これまでは、有名キャラクターを使ったゲームをつくるには、企業間での長期的な交渉や、高額なライセンス料が必要でした。でも、今回の仕組みは全く違う。個人のクリエイターでも、忍者タートルズのキャラクターを使ってゲームをつくれる。その収益の15%がIP保有者に還元される。シンプルだけど、革新的なんです。
なぜ、この変化が画期的なのか。従来のIP管理の常識を知る栗島氏は、その意味をこう解説する。
栗島これまでのIP管理は、徹底的な“制限”が基本でした。無許可での使用は即座に差し止め、利用料も高額。生み出したブランドを守ろうとする力学が強かったわけですね。
この考え方では、いくら協業を検討したところで、結果として、IPビジネスの可能性を狭めてしまう。
でも、デジタル時代のコンテンツ消費は違います。ファンがつくったコンテンツが、むしろIPの価値を高める。その認識が、ようやく広まってきたんです。
ノトフあのディズニーですら、ミッキーマウスやダースベイダーといった超有名IPをUGCで利用できるようにする検討を進めていると噂されています。すでにEpic Gamesに多額の投資をしているという事実が、この噂に強い信ぴょう性を与えています。
#フォートナイト起業日記
— ノトフ/NEIGHBOR (@notf) February 8, 2025
ディズニーのメタバースに動きがあったようです!
今はあのディズニーもIPの自由化の道へ進んでいます。ディズニーは1年前にフォートナイトに出資し、ディズニーメタバースを作ることを発表しました。おそらく今年の夏までには具体的な発表があります。 https://t.co/soLg53Kdjk
この流れは、すでに市場で大きな影響を及ぼしている。特にRobloxでは、著名IPの非公式な“オマージュ作品”が次々とヒットを生んでいるという。
ノトフ実はRobloxの年間売上100億円規模のコンテンツの中には、日本の有名アニメや漫画を“参考にした”作品が含まれています。有り体に言えば“海賊版”です。私自身、良くない動きだと思っているのですが、一方で面白いことに、IP保有者側も複雑な立場なんです。確かに権利は守りたい。でも、そのコンテンツによってIPの認知度が上がり、関連商品の売上も伸びている。かといって絶対に公認するわけにもいかず...。多くの企業が、このジレンマに直面しているんです。
ここに、NEIGHBORは新しいビジネスチャンスを見出した。
ノトフ この“グレーゾーン”を正規の市場に変えていきたい。Epic Gamesが用意する自動化された仕組みを待つのではなく、私たちが最初の一歩を踏み出そうと考えたんです。
確かに契約や収益配分、品質管理など、手間のかかる作業は山積みです。でも、誰かがやらなければ、この市場は永遠に“非公式”のままなんです。
実際、2025年1月にNEIGHBORは「日本IP収益化サービス」のリリースを発表。「フォートナイト上でのIP管理と収益化の仕組みづくりに着手。IPホルダーの権利を守りながら、クリエイターたちが正規にIPを活用できる環境を整備し始めている。
すでに、YouTubeチャンネルの登録者4,500万人を誇る人気コンテンツ「Skibidi Toilet」との公式ライセンス契約という事例も生まれているという。これまでRoblox上で非公式(海賊版)コンテンツが氾濫していた中、NEIGHBORとの協業によってFortnite上では正規のコンテンツ展開を進めることになったわけだ。この協業相手に選ばれた意味は大きいと、栗島氏は語る。

栗島今、Fortniteプラットフォーム全体でクリエイターへの支払いは年間500億円規模。その中で、非公式にIPを使用しているコンテンツが2~3割は存在すると言われています。
まずはこの100億円規模の“海賊版市場”を、公式ライセンスに基づいたクリーンな市場に転換していこうとしているわけです。NEIGHBORがメタバースプラットフォーム仕様の適切な管理の仕組みを新たに創り、広げることで、IP保有企業も、ゲームのプレイヤーも、Fortniteのようなプラットフォーマーも、皆がウィンウィンのかたちで、メタバース市場をさらに大規模にできるはず。
これは、日本のコンテンツ産業全体にとっても、見逃してはいけない機会だと考えています。NEIGHBORが、日本企業と世界をつなぐ“商社”になろうといっているのは、まさにこの観点からですね。
ディズニーやレゴまで、大手エンターテインメント企業が次々とFortniteというプラットフォームに参入する中、NEIGHBORは日本発のIPに特化した独自の展開を模索している。この、まるで“メタバース界の商社”のような販路開拓支援の動きがユニークで、日本のコンテンツ産業に新たな可能性を示すことになるという期待を栗島氏は抱いている。
「日本発のプラットフォーム」は諦めるべきなのか──。
韓国から学ぶ、新たな戦い方
先ほど言及したように、“商社”の役割を果たす点が、NEIGHBORが持つユニークな魅力である。読者の中には、「NEIGHBOR以外にも、メタバース関連事業を手がけようとした日本のスタートアップがいたはず」と思った者もいるだろう。そう、たしかに存在した。だがその多くは厳しい現実に直面している。なぜなのか。答えは、数字が如実に物語っている。
ノトフFortniteやRobloxといった世界的プラットフォームは、数千億円規模の投資を集め、グローバルな組織をつくって大々的に開発を行ってきました。赤字覚悟で、です。
その一方で日本のスタートアップが、数億円規模の資金調達でプラットフォームをつくろうとしていた。これでは、勝負になりません。
この指摘は、単なる悲観論ではない。むしろ、より現実的な戦略が必要だというのだ。ではどうすべきなのか。そのヒントは、意外にもお隣韓国のエンターテインメント産業の成長戦略にある。
栗島韓国は、YouTubeやNetflixといった既存のプラットフォームを徹底的に活用しました。BTSやBLACKPINKは、最初からグローバルプラットフォームでの展開を前提に戦略を立てた。その結果、驚くべきスピードで世界市場を開拓できたんです。
この「プラットフォームをつくるのではなく、活用する」という発想の転換は、日本のコンテンツ産業にとって示唆に富むものだ。
ノトフ任天堂やソニーは、ハードウェアによって世界進出を進めてきました。ですがこれからは、ソフトウェアやコンテンツを軸にした戦略をしっかりと採り入れることが重要になります。
よく日本企業は「デジタル小作人」と揶揄されます。GoogleやAppleのような海外のテックジャイアントが提供するプラットフォーム上でサービスを提供するモデルを続け、利用料や手数料を支払い続けている状態を指し、「プラットフォーマーという地主に支配されている、小作人」と表現されてきたわけです。この“揶揄”という風潮は、変わるべきです。
例えばテンセントは、スマートフォンゲームで年間数兆円の売上を上げており、中国に多くの外貨をもたらすことに成功しています。さきほど言及した韓国の音楽界も同じです。手数料を払ったとしても、それ以上の外貨を稼いでいれば、国としてはプラスであり、大きな意味のあることなんです。
その視点は、かつての日本企業の海外展開と重なる部分がある。

ノトフかつて商社は、自動車や電機製品を世界に売り込むための物流網を構築しました。今、デジタルコンテンツにも同じような“商社”機能が必要とされている。プラットフォームは他社に任せても、その上でどう戦うか。そこに知恵を絞るべきなんです。
だからこそ私はまず、Fortniteというプラットフォーム上で、コンテンツの流通経路を確立する。クリエイターのネットワークを広げ、現地のトレンドを掴む。そして何より、コミュニティとの信頼関係を築く。そうした「デジタル時代の商社」のようなロールモデルを確立し、日本が本来もつポテンシャルを発揮できる土壌を整えたいですよ。
実際、日本のコンテンツ産業のポテンシャルは、驚くべき規模に達している。内閣府の「新たなクールジャパン戦略」によると、コンテンツの海外展開は4.7兆円規模にまで成長。これは鉄鋼産業に匹敵し、半導体産業に迫る規模だ。
栗島今、世界のゲーム業界で起きているのは、まさに“プラットフォーム革命”です。PUBGを始め、多くの人気ゲームがUGC(ユーザー生成コンテンツ)プラットフォーム化を発表している。この波に乗り遅れれば、日本のコンテンツ産業は再び大きなチャンスを逃すことになりますからね。
「プラットフォームをつくる」という幻想を超えて、その上で戦い方を考える。そして、新しい時代にふさわしいビジネスモデルを構築する。NEIGHBORは、日本のコンテンツ産業全体に新たな可能性を示そうとしているのだ。
人類が「暇」になる日 に備えて、メタバースが創る、次世代の当たり前
革新の連続だったインターネットコンテンツ産業において、日本のコンテンツ産業はいつしか出遅れる存在となってしまった。そう感じる読者も多いだろう。そんな中で今、ゲーム業界で起きている変化は、これまでとは明らかに異質だ。冒頭でも紹介した通り、世界的な人気を誇るPUBGが、2024年にUGC解放のロードマップを発表したことは、単なる一企業の戦略転換ではない。日本のコンテンツ産業にとって、最後の「時代に追いつくチャンス」になるかもしれない。
ノトフ新しい市場は、必ずデカコーンを生み出すチャンスです。過去を振り返れば、Facebookのオープン化からZynga(*1)が生まれ、App StoreからはSupercell(*2)が成長しました。今、まさにそのような転換点に立っているのではないでしょうか。
栗島私たちが投資家として注目しているのも、社会構造や価値観の根本を揺るがす転換点が同時多発的に到来しているためです。人工知能の遍在、生活空間の変容、そして新しいデジタルプラットフォームの台頭。NEIGHBORは、そのすべての要素を持ち合わせていますからね。
*1……『FarmVille』などを展開する、2007年設立のアメリカの大手ゲーム会社。175以上の国・地域で60億回以上のダウンロードを誇り、2024年の月間アクティブユーザーは3.8億人超。
*2……『Clash of Clans』などを展開する、2010年設立のフィンランドのモバイルゲーム会社。2016年にテンセントが買収。
その言葉を裏付けるように、NEIGHBORの歩みは着実と言える。Netflixとの大型協業、Epic Games公式での事例紹介、YouTube登録者4,500万人を誇る「Skibidi Toilet」との公式ライセンス契約──。わずか2年で、彼らは世界市場での確固たる足場を築き始めているのだ。
Skibidi Toiletの公式ライセンシーとして、フォートナイトにMAP(ゲームのこと)をリリースしました!
— ノトフ/NEIGHBOR (@notf) December 19, 2024
11月にSnoop Doggチームと仕事して、12月にはSkibidi Toiletチームとの仕事ができていて、グローバル最前線で勝負ができていることに感謝。チームひとりひとりが本当にがんばっています。 pic.twitter.com/mistGrc9js
当然、それもまだまだ序章に過ぎない。ノトフ氏の視線は、すでに次のステージを見据えている。
ノトフ目標は明確です。このプラットフォーム革命の中で、次の世代を代表するようなIPを日本からどんどん生み出していく。それも、最初からグローバル市場を見据えてです。既存の枠組みにとらわれない、新しいエンターテインメントの形を提示していきたいんです。
その過程で、多くの人たちに「メタバースでの“思い出”を提供したい」と考えています。もう「利便性」を追求する時代は終わります。これからは、いかにして、人それぞれに合った「幸福」を追求できるかどうかが試される。それを、ForniteやRobloxをはじめとしたプラットフォームでのコンテンツ関連事業によって実現したい。
栗島時代の象徴を創る「変化」への投資—それが私たちのテーマです。NEIGHBORが目指しているのは、まさにその体現者となること。ノトフさん自身が“Fortniteオタク”であることから、デジタルネイティブ世代の価値観も深く理解している。だからこそ、新しい文化を創り上げることができる。そこに我々としても大きくベットしたいなと思っています。

今、世界のデジタルコンテンツ産業は大きな転換点に立っている。これまで語った様々な変化は、ただビジネスモデルが進化するといった類のものではない。人々の暮らし方や価値観そのものを変えていくかもしれない。
「効率」や「便利さ」を超えた新しい価値の創造。言語や文化の壁を超えたグローバルなコミュニティの形成。そして何より、次世代の「当たり前」となる“思い出”体験の提供。それは、間違いなく私たちの想像を超える“何か”になるはずだ。
Fortniteが、App StoreやYouTubeを超え得るプラットフォームとなる可能性が高まっている今、そこを主戦場とするNEIGHBORはまさに、次世代の日本発スタートアップの代表格と言えそうだ。HAKOBUNEという型破りな投資家と共に、日本発のイノベーションの新しい形を示してくれるかもしれない。
こちらの記事は2025年02月21日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
井上 柊斗
写真
藤田 慎一郎
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