8か月で3回の資金調達に成功したタイミー・小川氏が語るその裏側──若手経営者3名が語った起業の本音
若手起業家の活躍が連日話題となっている。10代で資金調達を成功させる者もおり、スタートアップ業界を盛り上げる彼らには期待が集まっている。
そのような中、F Ventures主催のイベント「TORYUMON TOKYO」で、若手起業家3名を集めたトークセッションが行われた。
登壇者は、株式会社PoliPoliの伊藤和真氏、株式会社タイミーの小川嶺氏、ecbo株式会社のワラガイ ケン氏の3名だ。モデレーターは、プロトスター株式会社の栗島祐介氏が務めた。
イベントでは資金調達の成否を分けた要因や、サービスのスケールに関するノウハウなどが話され、若手起業家が明かす本音に会場は盛り上がった。当日の様子をレポートしていく。
- TEXT BY MIKI OKAMOTO
- EDIT BY TOMOAKI SHOJI
彼らはどんなサービスを手がけるのか
一人目の登壇者である、PoliPoli代表取締役CEOの伊藤氏は、現在大学2年生。18歳で初めて選挙の投票へ行ったとき、情報の得づらさに疑問を感じ、政治コミュニティアプリ「PoliPoli」の開発を始めたという。PoliPoliでは気になる政治トピックについて議論するだけでなく、コミュニティに参加している政治家へ質問や提案もできる。
特徴は、コミュニティの「荒れ」を防ぐ仕組みだ。実名制で、コミュニティを荒らすユーザーはスコアが下がる仕組みを実装。上質なコミュニティ形成を目指している。
二人目の登壇者は、タイミー代表取締役CEOの小川氏だ。大学1年生のときに、ビジネスコンテストで優勝し起業。試着をすると割引クーポンが手に入る女性向けファッションサービスの開発などに取り組んできた。
その後、労働市場の人手不足に注目し「その時間に働きたい人」と「仕事をしてほしい人」をつなぐワークシェアリングアプリ「Taimee」のサービス提供を開始。2019年1月には、3億円の資金調達を実施した。株式会社サイバーエージェント代表取締役の藤田晋氏による通称「藤田ファンド」の再開後、初の投資先となったことでも話題を集めた。
最後の登壇者は、ecbo共同創業者でCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)としてプロダクトのクリエイティブ周り全般を担当するワラガイ氏。同氏は、大学卒業後、広告代理店に入社。裁量のある立場になるまでに十数年かかる環境にもどかしさを感じていたところ、ecbo代表取締役社長の工藤慎一氏と出会い、参画を決めたという。
ecboでは、「荷物を預けたい人」と「荷物を預かるスペースを持つお店」をつなぐ荷物預かりシェアリングサービス「ecbo cloak」を運営している。現地でコインロッカーを探さなくてもオンライン上で預け先の店舗予約が可能。ロッカーに入らない大型の荷物を預けることもできる。
資金調達の極意
イベントで盛り上がったのは、資金調達に関するエピソードだ。PoliPoliの伊藤氏とタイミーの小川氏は「チャンス」を見極めて逃さないこと、ワラガイ氏はうまくいかなければビジネスモデルを根本的に見直す重要性を語った。
2019年1月にサイバーエージェントなどから総額3億円の資金調達を行うなど勢いに乗るタイミーだが、当時は他では語られていない苦労もあったようだ。
小川直近8か月で3回の資金調達をした「最速の男」です(笑)。とはいえ、3回目はかなり難航して、あと1か月で資金がショートするところまで追い込まれていましたね。
売上が20万円程度しかなく、バリュエーションが10億円にも満たなかったんです。でも、15億円に設定していたので、訪れたVC40社全てに断れました。調達をしていなかったら倒産していた危ない状況でしたが、だからこそ「やりきる力」はついたと思っていて。
会社をいかに大きく見せられるか、ロジックを立てて説明して投資家に納得してもらえるかという勝負は、面白いですよね。資金調達のたびに自分の能力が上がる気がしています。
(サイバーエージェントの)藤田さんとはどのように会ったんですか?
小川藤田さんと十数名の若手起業家が集まる会があったんですよね。でも、そこで出資の依頼をしても、これだけの人数がいると絶対に忘れられてしまう。とにかく印象に残ろうと「1億円ください」と繰り返し伝えたんです。そして、終了後すぐに「1億円の男です。検討してください」と藤田さんにメッセージをして、投資してもらうことが決まりました。
藤田さんに直接メッセージを送るのは推奨されていなくて、藤田ファンド担当の「はやまり。さん」に連絡してと言われたのですが(笑)、常に目的意識を持つことは重要だと思います。そして、状況に応じて一瞬のチャンスを逃さないことが大切ではないでしょうか。
伊藤私はPoliPoliの創業前に(今回のイベントを主催した)F Venturesでインターンをしていたことがあり、TORYUMON TOKYOの運営もしていました。大規模イベントをゼロから作り上げて成功させたことで、代表の両角さんは「やりきる力」を認めてくださったようです。結果、シードラウンドでF Venturesから投資をしていただきました。
起業は絶対うまくいくとは限らないから、難しい局面でもやり続けられるかどうかを見ているVCも多いと感じます。与えられたチャンスをつかんでやりきることが大切なのかなと。
ワラガイecboは2018年2月に、東日本旅客鉄道株式会社、株式会社JR西日本イノベーションズなどから資金調達をしました。荷物預かりサービスは駅を利用する人の需要が高いので、拠点となるJR各社と連携したいと以前から考えていましたね。
ecboはスタートアップにも関わらず、大企業との提携や資金調達を多く実施していますよね。成功要因は何なのでしょうか?
ワラガイまずは代表の工藤に、未来のビジョンを描き、その世界観に相手を巻き込む才能があることが大きいと思います。また、スケールの見通しが立ち、説得力のある提案ができるようになったことも要因のひとつですね。
ecboは以前、長期間にわたり荷物を預かる倉庫ビジネスを検討していたんです。しかし、なかなかスケールの見通しが立たず、ビジネスモデルを現在の一時預かり型に変更。そこから話が進むようになりました。
壮大なビジョンが人々を引き付ける
次に、それぞれのサービスがどのように初期ユーザーを獲得し、スケールさせたかについてのノウハウが語られた。そして、各企業が描く未来の話でイベントは締めくくられた。
ワラガイ現在、ecboの提携店舗数は1,000店舗以上となりましたが、初期のころは渋谷を中心に100店舗ほどしかありませんでした。スケールさせるために気を付けたのは、店舗側の負担を極力減らすことです。導入コストや運用表を0円にするだけでなく、預かり可能時間や個数の設定も店舗側にしてもらい、オーナーが負担を感じないようにしています。
小川タイミーでは、飲食派遣会社に登録しているところを洗い出して営業に行き、既存サービスとの差をアピールしましたね。初期費用はいただかず、通常30%かかる手数料も初月は0%にして導入ハードルを下げることで、良さを実感してもらうことに力を入れました。
伊藤PoliPoliの場合、賛同してくれる人を増やすために「アンバサダー」という制度を設けています。アンバサダーは、地方選挙の際にイベントの開催を手伝ってもらったり、地元の政治家を紹介してもらったりする仲間です。
公開前の情報をオープンにしたり、シナジーがあれば起業したい学生や団体に協力するなど参加のメリットをつくり、現在は250名程度まで増えました。
最後に、サービスがスケールした先にどのような未来を描いているか教えてください。
ワラガイecboのミッションは「モノの所有を、自由に」すること。現在は、一時的な荷物の預かりがメインですが、将来的には、ほしいものを、ほしいときに、ほしい場所で取り出すことのできる「4次元ポケット」のようなサービスを目指しています。
まず初めのステップとして、2025年には世界500都市でecbo cloakを展開し、世界のどこにいても荷物を預けて取り出せるようにしたいですね。
小川僕が、なぜタイミーという「時間」を扱う会社を始めたかというと、祖父が亡くなったときに「自分もいつか死ぬ」と実感したから。残されている時間は有限だからこそ、一人ひとりの時間を豊かにするサービスを作っていきたいですし、自分自身もそう生きたいと思います。
せっかく時間があっても、その時間で「一体何ができるか」という選択肢が現在の社会では可視化されていません。タイミーは、その時間内にできる選択肢を増やして見せていくことで、一人ひとりの時間を豊かにするチャレンジしたいと思っています。
伊藤PoliPoliに登録してくれている政治家の方も増えてきたので、「政治家に声が届けば思っていたより簡単に世界は変わる」ということをサービスを通して伝えていきたいです。
長期的なビジョンとして目指すのは、国家システムを再構築すること。上記のような議論だけでなく、PoliPoliで政治家が支援を集め、投票自体もできるようにしていきたいです。
資金調達や、優秀な人材の確保など、立ち上げ期のスタートアップは難易度の高いハードルを次々と超えていかなくてはならない。しかし、イベントに登壇した3名からは、困難を乗り越えることを楽しみ、さらに高きを目指す様子が伝わってきた。挑戦し続ける若き起業家たちは、次にどのような飛躍を見せてくれるのだろうか。
こちらの記事は2019年04月08日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
1991年生まれ。児童養護施設での学習支援ボランティアを通して、貧困・格差問題に興味を持ち、東京大学大学院で教育社会学を専攻。発達障害等のお子さまをサポートする学習教室LITALICOジュニアで指導員・教室長を経て、現在はフリーライターとして活動。
編集
庄司 智昭
ライター・編集者。東京にこだわらない働き方を支援するシビレと、編集デザインファームのinquireに所属。2015年アイティメディアに入社し、2年間製造業関連のWebメディアで編集記者を務めた。ローカルやテクノロジー関連の取材に関心があります。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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