連載ユナイテッド株式会社
「国策」と「スタートアップ」は密な関係──ユナイテッド・PoliPoliが示す、ソーシャルビジネス成功に必須の“知られざるグロース術”
Sponsored社会課題の解決は、スタートアップだけの使命ではない。
政治や行政も日々、奔走している。しかし、その複雑さや情報アクセスの難しさから、多くのスタートアップにとって政治や行政は「遠い」存在だ。
「国がいつ、どの領域で、どんな施策を打ち、スタートアップにどんな支援をするのか」。これが手に取るように分かり、国策と密接にアラインした事業展開が可能になれば──。そんな夢のような話を現実のものとしようとしている二社がある。
ユナイテッド株式会社と株式会社PoliPoli。この二社が手を組み、「国策 × 善進投資」という新たな取り組みを開始した。これまで、ユナイテッドは「善進(ぜんしん)投資」という独自の投資哲学で社会課題解決と経済的リターンの両立を目指し、PoliPoliは政治・行政と市民をつなぐプラットフォームを運営してきた。
両社は今、国の政策方針に沿った事業を展開するスタートアップを発掘・投資・支援し、社会課題の解決と経済成長の両立を図ろうとしている。
本記事では、ユナイテッド代表取締役社長の早川 与規氏と、PoliPoli代表取締役CEOの伊藤 和真氏の対談を通じて、両社の協業がもたらす可能性と、日本のスタートアップエコシステムの未来像に迫る。
国策とスタートアップ。一見すると相容れない二つの概念の融合が、日本の社会課題解決にどのようなブレイクスルーをもたらすのか。新たな投資モデルの誕生と、それが切り開く未来の姿をぜひご覧いただきたい。
- TEXT BY SHUTO INOUE
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY TAKUYA OHAMA
あの有名企業も!?
国策・政策とスタートアップの意外な“近さ”
インターネット領域におけるベテラン経営者・ユナイテッドの早川氏と、次世代の若き経営者・PoliPoliの伊藤氏が向かい合う。
二人の眼差しには同じ熱量が宿り、その視線の先にあるのは、日本のスタートアップエコシステムの未来だ。
伊藤多くの人は、「国策」とは防衛や大型のインフラ整備など、大規模なテーマをイメージされるかもしれません。しかし、僕らが考える国策というのは、女性の社会進出や地域の活性化、再エネ、有機農業など生活に身近なものまで含みます。つまり、スタートアップにとっても、実は国策とは身近な存在で、多くのチャンスが隠れているんです。

伊藤氏の言葉に早川氏が頷く。二人の表情には、この「誤解」を解くことへの期待が垣間見える。実際の国策とは我々の想像以上に細分化され、日常生活に密接に関わる領域にまで及んでいるのだ。
伊藤例えば、ネットショップ作成サービスの企業では、個人事業主保護の観点から「特商法の規制緩和」を提言し、2021年の運用変更につながりました。これにより、事業オーナーに課されていた「自宅住所の公開」に対する懸念がなくなり、多くの事業主がECに参入しやすくなりました。
また、インフルエンサーマネジメント企業やプラットフォーム企業なども、クリエイターエコノミーの発展に向けて政府との対話を重ねています。その結果、2022年度には経産省の補正予算でコンテンツの海外展開支援に約50億円が計上されるなど、具体的な成果も出てきています。
このように、皆さんの身近な領域でも、実は国策との連携によって新たなビジネスチャンスが生まれているんです。スタートアップだからこそ、機動力を活かして政策提言を行い、自ら事業環境を改善していくことができるんです。
これほど魅力的な機会が存在するにも関わらず、なぜスタートアップは国策を積極的に活用できていないのだろうか。その答えは情報の非対称性にありそうだ。

早川国策に関する情報にアクセスし、適切に解釈することはスタートアップにとって難しいかもしれません。なぜなら、現状では政策情報が複雑で、取得できる媒体も分散しており、その中から自社に関連する情報を見つけ出し、正確に理解することは容易ではないからです。
そこに対し、PoliPoliの政策分析力や政治・行政とのコネクション、そしてユナイテッドの投資実績や幅広いネットワークを掛け合わせることで、スタートアップの皆さんに国策と連動したビジネスチャンスを提供し、その実現をサポートすることができるのではないかと考えているんです。

提供:株式会社PoliPoli
伊藤その通りですね。国策という言葉が持つイメージと、その実態の間にある大きなギャップを埋めることが、我々の目指す「国策 × 善進投資」の第一歩です。政策情報のモニタリングから、政策提言のためのロジック整理、さらには政策担当者とのマッチングまで、幅広いサポートを提供していきます。
ユナイテッドの投資ノウハウと、PoliPoliのルールメイキングの知見を組み合わせ、社会課題の解決と経済的リターンの両立を目指していく。
二人の対話からはその可能性への大きな期待が感じられる。国策とスタートアップを結びつけるこの革新的なアプローチは、どのようにして社会課題の解決と経済的リターンの両立を実現するのだろうか。
国策にアラインした事業への投資で、社会課題の解決に貢献
本取り組みの鍵は、ユナイテッドが掲げる「善進投資」の哲学と、PoliPoliが提案する「国策投資」のコンセプトに隠されている。
まず、ユナイテッドの「善進投資」哲学に注目してみよう。この哲学は、本連載で何度も取り上げられてきた、ユナイテッドの投資アプローチの核心だ。
善進投資の詳細については、本連載の過去の記事をご参照いただきたい。
早川我々の「善進投資」哲学の核心は、「意志の力を最大化し、社会の善進を加速する。」というパーパスにあります。具体的には、社会課題の解決と経済的リターンを同時に追求する、新しい投資のあり方を示しています。

提供:ユナイテッド株式会社
早川社会性の高い事業に取り組む起業家や経営者の方々は、素晴らしい志と情熱を持っています。しかし、ビジネス観点で見ると商売気が足りないなと感じることも多いのが実態です。
その志を大切にしながらも、投資先の経営メンバーの一員となったつもりでビジネスとしての成功も支援していく。例えば、マーケティング戦略の立案や、収益モデルの構築、資金調達のサポートなどですね。つまり、社会性と事業性のバランスを取るお手伝いをする。これがユナイテッドの役目だと捉えています。

一方、PoliPoliの「国策投資」のコンセプトは、政策立案プロセスに革新をもたらす取り組みだ。
そもそもPoliPoliとは、政治家・行政機関・企業・国民をつなぐ5つのサービスを展開しているスタートアップで、政治や行政に市民の声を届けるウェブサイト、企業向けのルールメイキングサポート(政策立案や規制緩和などの支援)など、多角的なアプローチで政策立案・推進の新しい仕組みづくりに取り組んでいる。
そのユニークなポジションも相まって、2021年に政策共創プラットフォーム『PoliPoli Gov』をリリースして以来、PoliPoliは急速な成長を遂げてきた。(現在では5つの省庁・18の自治体での導入実績があり、さらに8つの自治体と連携協定を結ぶなど、官民共創の取り組みを加速させている)

提供:株式会社PoliPoli
伊藤PoliPoliが掲げる「国策投資」とは、国策にアラインした事業に投資し、必要 に応じてルールメイキングの支援を行っていくということを意味しています。
我々は政治や行政の現場に近く、より詳細な情報にアクセスしているからこそわかるのですが、テレビや新聞で報道されている政策は氷山の一角に過ぎません。毎日、膨大な政策文書や審議会の議事録を分析し、そこから2、3年後の政策の方向性を予測しています。どの分野にどれだけの予算がつくか、そしてどの規制が変わりそうかを見極め、その情報を基に、スタートアップに対して国策にアラインした事業展開の機会を提案しているのです。
スタートアップにとっては新たな成長機会を、政府にとっては政策実現の加速を、そして社会全体にとっては課題解決促進の可能性をもたらす。そんな三方よしの世界を実現できたらと考えています。

早川伊藤さんやPoliPoliのすごいところは、単に政策文書を読み込むだけでなく、実際の政治家との強いつながりを持ち、政界に深く関わっていることですね。与野党問わず幅広い政治家の方々と交流し、一次情報を取得している。これは非常に貴重なポジションですよね。
この両社のタッグは、国策にアラインした事業へ投資することで、社会課題の解決に貢献する──、そんな新しい投資モデルの誕生を意味する。

提供:株式会社PoliPoli
行政の意図をスタートアップの言葉に翻訳し、逆にスタートアップのアイデアを政策に反映させる。この双方向のコミュニケーションを通じて、社会課題の解決と経済成長の両立を目指すのが、彼らの描く未来図なのだ。
自社も該当?
「国策に資するスタートアップ」の具体事例
国策とスタートアップの意外な親和性について論じてきたが、理念を語るだけでは現実は変わらない。では、実際にどのような企業がユナイテッド×PoliPoliによる「国策 × 善進投資」の恩恵を受け、どのようなイノベーションが生まれる可能性があるのだろうか。これまでの実例を交えて見ていこう。
まず注目したいのは、空き家管理サービスを展開するL&Fの事例だ。
早川L&Fは、今の高齢化社会で増え続ける「空き家」の管理をしています。彼らはスタートアップにありがちな都心の派手な立地を避け、郊外で地道に、かつ真面目に事業を展開してきました。一方で、事業を伸ばすための人材採用やマーケティングなどの観点では伸び代があった。
そこでユナイテッドとしてリスクマネーを投入し、積極的な採用やマーケティング投資を促し、事業拡大に伴走してきました。このように、経済性を追うことで社会課題の解決が加速するということは往々にしてあります。
他にも、国内の生産年齢人口の減少や女性の社会進出問題に切り込む、リスキリングとプログラミング教育を手がけるMs.Engineerの事例も紹介したい。
早川Ms.Engineer代表の山崎さんとお話をしていた際、「一般的なデジタルプロモーションを打っても、一人のユーザーを獲得するのに高額な費用がかかってしまうことがあるんです…」と相談を受けたことがありました。この方法だけでは事業として採算が合わないですよね。
しかし、今や政治家も自治体も女性の社会進出支援を強化している真っ最中ですから、ニーズのある適切なところにアプローチすれば、必ずこの領域は伸びるはず。そう信じてご支援をさせていただいています。
さらに、革新的な農業技術の例として、アクアポニックスの可能性にも注目したい。
早川例えば、アクアポニックスという事業は革新的な農業に取り組んでいます。
具体的には、大きなビニールハウスのような施設で“チョウザメ”をたくさん飼っているんです。そのチョウザメのフンを利用して葉物野菜を育てています。また、チョウザメからは国産のキャビアが産出されます。
面白いのは、チョウザメのフンが葉物野菜の肥料になり、その過程で水が浄化されてまたチョウザメの水槽にもどるという循環システムです。これは有機農業と水産業の融合とも言えるでしょう。完全に無農薬、無化学肥料で、環境負荷が非常に少ない。
ところが、現時点においては、この方法、つまり水耕栽培で育てた野菜は有機JAS認証が受けられないんです。
政府は2050年までに有機農業の比率を25%に引き上げる目標を掲げていますが、こういった革新的な取り組みが認められないようではその目標達成は難しいでしょう。このようなスタートアップの挑戦こそ、政策との連携が必要不可欠。規制を適切に見直し、イノベーションを後押しする。そこに我々の取り組みの意義があると考えています。
ユナイテッドとPoliPoliは、政府とスタートアップの橋渡し役
ここで重要になってくるのが、企業や団体が政策立案者と対話し、自社の利益や業界全体の発展のために働きかける活動、つまり「政策渉外」という活動だ。
伊藤政策渉外には、「機会」と「脅威」の両面があります。
例えば、新たな補助金制度の創設や規制緩和といった機会もあれば、事業を制限するような新規制の導入という脅威もあります。我々の役割は、これらの動きを早期に察知し、スタートアップが適切に対応できるよう支援することです。
具体的には、政策立案者との対話の場を設けたり、業界団体を通じて意見を集約したり、時には、新技術の安全性や有効性を示すデータを行政に提供することで規制緩和を促すこともあります。

伊藤先ほどのアクアポニックスの例で言えば、この農法による環境への貢献度や生産効率の高さを示すデータを集め、「有機」認定の基準見直しを提案するといった活動が考えられます。
このように、政策渉外を通じてスタートアップの機会を最大化し、逆に脅威を最小化する。多くのスタートアップにとってこうした活動はリソースや経験の面で難しいため、我々が補完したいと考えているんです。
確かに、スタートアップが渉外機能を持つというのはなかなか現実的ではなさそうだ。そこで、VCのような外部組織が政策渉外の支援をまとめて請け負うといったモデルが昨今、台頭してきたのだ。
伊藤VCが投資先のスタートアップの政策渉外をまとめて支援するモデルは、非常に効率的かつ理想的だと考えています。
個々のスタートアップが単独で政策を動かそうとすると多大なリソースとコストがかかってしまう。第一、事業推進に集中すべきということで、政策渉外活動は後回しになってしまう。また、PoliPoli社としてもリソースなどが少ないスタートアップ個社をサポートすることは事業上も厳しいです。
しかし、上述のモデルであれば、VCが支援の一環としてPoliPoli社と契約し、投資先のスタートアップの政府渉外活動を都度サポートすることで、スタートアップは事業推進に集中しつつ、時代にあった規制や政策にアップデートしていける。
ある業界の規制緩和が実現されると、その分野のスタートアップ全体が恩恵を受けられますよね。このように、VCを中心とした政策渉外のアプローチは、個々のスタートアップの負担を減らしつつ、業界全体の成長を加速させる合理的で美しいモデルだと言えます。
早川今の日本では、スタートアップと政策が連携できているケースがまだ少ないですからね。地方によくみられる現象ですが、イノベーションを起こすはずのスタートアップが政府の支援金に依存して現状維持に留まっているケースも見受けられます。予算もつけて人員も割いているのに、これでは勿体無い。
伊藤政策の実行と想定には常にギャップがありますよね…。
スタートアップ支援策なのに、結果的に大企業が予算の大部分を獲得してしまうなど、本来のターゲットに届いていないことも残念ながらあります。また、社会が複雑多様化しすぎて、政府側もスタートアップの現場ニーズを正確に把握できていないといった問題もあります。
例えば、政府が考える「スタートアップ支援」は往々にして補助金などのファイナンス支援に偏りがちですが、現場が求めているのは事業の障壁となる規制の緩和であることも多い。
ここで重要になってくるのが、政府とスタートアップとの間の橋渡し役です。スタートアップの真のニーズを政府に伝え、逆に政府の意図をスタートアップに分かりやすく説明する。このような双方向のコミュニケーションを円滑に行える仲介者が今こそ必要なんです。
これらの事例や課題を見るに、ユナイテッドとPoliPoliが切り開く可能性の大きさが見えてきたのではないだろうか。社会課題の解決と経済的リターンの両立、そして国家の発展まで。多面的な価値創造が期待できる取り組みと言えるだろう。
では、このような取り組みはどのようにして生まれたのだろうか。
レジェンド経営者と若き革新者、晩秋の六本木ヒルズで出会う
2023年秋、東京の澄んだ青空の下、六本木ヒルズの高層ビル群が輝きを放つ昼下がり。ここでユナイテッド代表・早川氏とPoliPoli代表・伊藤氏の初対面が実現した。
早川2023年の秋、六本木でのランチでしたかね。年末ではなく、紅葉の季節が始まる頃だったと思います。伊藤さんとの初めての出会いはとても印象的でしたね。

早川氏の穏やかな口調からは、この出会いが彼の記憶に鮮明に残っていることが伺える。一方、伊藤氏にとってこの出会いは衝撃的な体験であった。
伊藤早川さんはインターネット業界におけるレジェンド経営者ですからね。正直、緊張しました(笑)。
また、PoliPoliの事業ドメインは政治行政領域と、スタートアップの中では特異なポジションでして、それゆえ、これまで多くの経営者、特に地方企業の経営者の方々に自社の説明をすると、「何それ?」といった反応をいただくことが多かったんです。しかし、早川さんは違いました。
伊藤氏が感じていた緊張感は、対話が進むにつれて徐々に薄まり、和やかな雰囲気へと変わっていった。早川氏は伊藤氏の話に熱心に耳を傾け、頷きや問いかけをみせながら共感する。その姿勢に、伊藤氏も次第に心を開いていったのだ。
早川ちょうどその頃、ユナイテッドとしても「善進投資」のコンセプトを磨きこもうと模索していたんです。
そんな時にPoliPoliさんの投資担当であった弊社・井上たちから伊藤さんの話を聞いて、「これは今後のユナイテッドにとって何かしら接点がありそうだ」と直感的に感じましてね。正直、事業として儲かるかどうかはその時点では判断ができていませんでしたが…(笑)、PoliPoliさんがやっていることは非常に面白く、何より高い社会性を感じたんです。
そう。実はユナイテッドとPoliPoliの関係は、この出会いが初めてではなかったのだ。

伊藤ユナイテッドさんとの関係は、2018年のPoliPoli創業前から始まっているんです。
当時、私がF VenturesというVCにいた頃、ユナイテッド投資事業本部長の井上さんと交友があり、PoliPoliの構想について好評をいただきまして。その時のご縁がきっかけとなり、2019年にユナイテッドさんから1度目の出資をいただくことになりました。
立ち上げ当初は本当に時間がなくて。そんな中、井上さんをはじめユナイテッドさんの方々はスピーディに事業計画の策定や各種伴走をしてくださったことを覚えています。
こうした信頼関係を基盤に、今回の「国策 × 善進投資」という新しい取り組みは生まれたのだ。
提案を受けるまで、追加の資金調達は考えていなかったPoliPoli
また、伊藤氏は本取り組みにおけるユナイテッドのビジョンだけでなく、同社の投資アプローチそのものにも強い共感を示す。
伊藤ユナイテッドさんの投資アプローチは、いい意味で『変態的』なんです。社会課題の解決を謳うVC・CVCは他にもいますが、ユナイテッドさんが狙う領域は尖っているというか、独特の投資の癖のようなものに魅力を感じています。

提供:ユナイテッド株式会社(「ユナイテッド2025年3月期第1四半期決算説明資料」)
伊藤氏の率直な表現に、早川氏は温かみのある笑顔を浮かべる。そこには、従来の投資の枠にとらわれない新しいアプローチへの自負が感じられた。
早川そうですね。伊藤さんがおっしゃるように、我々の「善進投資」は社会課題の解決を軸にしています。日本の現状を見てみると、確かに便利で豊かな社会を実現しました。しかし、その一方で新たな課題も浮き彫りになっています。
例えば、人口減少による地方の衰退、高齢化に伴う社会保障の問題、環境問題など。これらは一見、ビジネスチャンスとは捉えにくいかもしれません。しかし、私たちはここにこそ、次の大きな市場があると考えています。
これらの社会課題は日本だけでなく、世界中の先進国が直面している、あるいは将来直面する問題です。その意味で、日本は課題先進国と言えます。日本で解決策を見出せれば、それは世界に通用するソリューションとなり、日本が再び世界をリードする産業の創出につながる。そう考えると、いま日本が直面している社会課題の解決に取組むことは単なる慈善事業ではなく、大きな経済的可能性を秘めているんです。逆説的には、これくらいマクロなテーマでなければ、この国から大きな事業は生まれないんじゃないかとさえ感じています。

この言葉に、伊藤氏は大きく頷きながら、ユナイテッドの変遷について興味深い見解を述べる。
伊藤ユナイテッドさんは、メルカリさんへの投資でも大きく成功された会社ですよね。いわゆるインターネットの歴史を作ってきた会社です。
かつてIT黎明期の隆盛に乗って、投資すれば高確率で当たるような時代もあったはずです。そんな環境で成長してきた会社が、今は「善進投資」を掲げている。つまり、短期的な経済リターンよりも、社会性を全面に押し出し、見方によっては採算度外視のような投資スタイルを貫こうとしている。この大きな方向転換が面白いんです。
二人の熱のこもった対話からは、両社の志の高さと互いへの敬意が伝わってくる。そして驚くべきことに、今回のタッグにあたりユナイテッドからPoliPoliへの追加投資がなされたのだが、この時期のPoliPoliは「積極的な資金調達を計画していた訳ではなかった」というのだ。

伊藤今回の追加投資に関しては、このお話を頂くまでは、明確な調達ニーズがあったわけではないんです。次の調達は2025年あたりで考えていました。
でも、ユナイテッドさんとなら面白い形でご一緒できるんじゃないかと感じました。ユナイテッドさんがいたからこそ、PoliPoliの今後の事業構想がブラッシュアップされ、それに伴い調達ニーズも生まれてきました。
この決断の背景には、単なる資金調達以上の何かがあった。それは、両社が共有する「社会をより善い方向に変えていきたい」という強い想いに他ならない。ではこの先、その想いが結実した未来とはどんな世界になるのだろうか──。
ユニコーンなのに利益は10億円程度。
それでも皆が支える企業を生み出したい
両社が目指すのは、社会的意義と経済性を両立する企業の増加だ。そのために、早川氏は投資家の意識改革の必要性を強調する。
早川「お金に色はない」と言いますが、実際はそうではありません。
ある会社の利益が10億円で、別の会社が100億円の利益を上げているとします。しかし、事業内容を客観的にみれば、10億円の利益を上げている会社の方が社会にとって必要不可欠で、尊いと感じることがあります。社会的価値のある事業を営む企業のことですね。
一方で、そのような企業でも儲けすぎると社会性との間に利益相反が生じてしまうこともあります。
例えば、子どもの貧困解決に取り組んでいる会社が1,000億円の営業利益を出したとしたら、「もっと稼いだお金を世のため、子どものために使うべきだ」という批判が出てくることでしょう。

この発言から、社会課題解決と経済的成功のバランスを取る難しさが伝わってくる。しかし、両社はこの課題を乗り越え、大きな成功事例を創出することを目指している。
伊藤5年以内には、「この取り組みだからこそうまくいった」という事業や会社を生み出したいですね。
慈善事業ではなく、投資事業としても成功し、かつ社会的インパクトも大きい。そんな事例を作り出すことで、我々の「国策 × 善進投資」モデルの有効性を証明できると考えています。
早川例えば、ユニコーン企業なのに利益は10億円程度。でも、その企業がやっている事業の意義に多くの人が共感し、みんながその企業に投資をして高い企業価値がついている。そんな素晴らしい会社が生まれたら理想的です。持続可能な利益を創出しつつ、社会にとって必要不可欠な存在になる。そういった企業の企業価値が高く評価される社会を目指しています。
このような未来を実現するには、今の投資の在り方を根本から見直す必要がある。特に重要なのは、投資家の意識改革。目先の利益だけでなく、長期で社会的価値に目を向けられる投資家を増やしていくことが鍵となる。
早川私たちが目指すのは、「この会社がなくなったら困る」と多くの人に思われるような企業への投資です。
よく、「上場株式市場は人気投票だ」と言われますが、これは投資家の選好が株価に大きく影響するということです。つまり、社会課題を解決しようとする企業の価値が広く認められれば、自然とそこへの投資も増えていく。そうすれば、社会貢献を志す起業家も増えていくはずだと信じています。
国策に資するスタートアップの台頭は、安全保障にも繋がる
善進投資と国策投資が織りなす可能性と課題を見てきた今、最後に目を向けるべきは、この新しい投資モデルの主役となるスタートアップ側の姿勢やマインドについてだ。
「国策×スタートアップ」の可能性や重要性はわかったが、その“緊急性”までは掴みきれていないはず。その点も踏まえて、今後ユナイテッドとPoliPoliの支援を受けるべき未来のスタートアップ経営者たちに向け、メッセージを送りたい。
早川氏は、近年のIT技術の進化による安全保障の問題を挙げた。
早川例えば、現在、日本における農業用ドローンは海外製の使用が多いです。これは食料安全保障の観点からみて深刻な問題です。
なぜなら、これらのドローンを使用するには水田を一枚一枚細かく測量する必要があり、そのデータは“全て国外に共有”されてしまうためです。これは国家安全保障上の重大な問題になり得ますよね。
一見すると国策とは無関係に見える事業でも、実は日本にとって非常に重要な意味を持っていたり、国策と深く関わっていたりすることがあります。だからこそ、「自分の事業は国策とは関係ない」と決めつけず、気軽に我々に相談してほしいんです。皆さんの事業と国策との意外な接点を見出すお手伝いを、PoliPoliさんと共にさせていただきます。
対する伊藤氏は、自社事業と国策のアラインメントの重要性を強調する。
伊藤多くのスタートアップにとって、国の政策と自社事業を結びつけるのは簡単ではありません。日々の事業運営で手一杯な中、政策文書を読み解くなど非現実的ですよね。
ただ、完全に無視してしまうのはもったいないんです。例えば、まずは自社の事業領域に関連する省庁のウェブサイトを月に1回でも覗いてみる。そこで気になるキーワードがあれば、少し掘り下げてみる。これだけでも、政策の大きな方向性は掴めるはずです。
それでも難しいと感じる場合は、我々のような支援組織に相談するのも一つの手です。常に政策動向をウォッチしていますから、有益な情報をご提供できると思います。

その言葉には、国策を単なる規制としてではなく、新たな可能性を秘めた領域として捉える視点が込められている。それは、多くのスタートアップ経営者にとって新たな挑戦への扉を開くかもしれない。
最後に、二人は真摯な眼差しでこう語った。
伊藤皆さんの中には、「自分たちの事業で社会を、そして日本を良くしたい」という強い想いを持っている方が多いはず。でも、その実現には様々な壁があると感じているかもしれません。
そんな方々にこそ伝えたいです。あなたの志を理解し、それを政策の力で後押しできる可能性があります、と。まだ事業が軌道に乗り始めたばかりの方でも構いません。むしろ、早い段階からこの視点を持つことで、より大きな可能性が開けるはずです。ぜひ、一緒に新しい未来を創っていきたいです。
早川短期的なリターンに追われず、真正面から社会課題の解決に向かうための投資と、事業の成功確率を高めるサポートを同時に得られる本取り組み。スタートアップ経営者にとってその世界観の実現を一気に加速させる支援となるはずです。共により善い社会を築いていきましょう。
ユナイテッドの「善進投資」とPoliPoliの「国策投資」。一見異なるこの二つの概念が融合することで、日本のスタートアップ界に新たな地平が開かれようとしている。それは、単なる資金提供の枠を超え、社会課題の解決と経済的成功を両立させる、野心的な挑戦だ。
この取り組みは、まだ産声を上げたばかり。しかし、その行く末には、これまで誰も踏み入れたことのない領域が広がっているのかもしれない。そう、あなたの事業と国策との間に、思いもよらぬ接点が隠れているかもしれないのだ。その可能性に気づき、それを活かす。そんな新たな視座こそが、日本を、そして世界を変える原動力となるのではないだろうか。
「国策×善進投資」についてはコチラ
こちらの記事は2024年10月16日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
井上 柊斗
写真
藤田 慎一郎
編集
大浜 拓也
株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。
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