「修羅場を越えられた理由が、リーダーとしての軸になる」
多様な事業戦略を駆使するユナイテッドが説く、不確実性の高い時代のリーダー論とは
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変化が激しいインターネットビジネス界において、事業のピボットは珍しくない。常に強みやアセットを活用し続けながら、20年近く生き残っている企業がある──ユナイテッド株式会社だ。1998年創業のネットエイジにルーツを持つ同社は、広告配信プラットフォームやメディア運営、アプリ開発、事業投資といった多様な手段を活用し、「インターネット界のコングロマリット」として業界で地位を確立してきた。
ユナイテッドでは昨年、2022年に向けた中期経営戦略として「UNITED2.0」を発表。同社のビジョン「日本を代表する企業」を達成するための道筋が示された。その中には、若手人材を積極的に育成していく「UNITEDエンパワーメントプラットフォーム」(以下、UEP)構想が盛り込まれている。
彼らが激しい変化に耐えうる「しなやか」な組織となれたのはなぜか。また、そうした柔軟性の高い組織の一員となるためには、どのような素養が求められるのか。インターネットの歴史とともに20年以上キャリアを歩んできた代表取締役CEOの早川与規氏、同COOの金子陽三氏に、これまでの歩みと共に、どのような人材育成を志向するのか、話を伺った。
- TEXT BY MONTARO HANZO
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY MASAKI KOIKE
「次世代リーダー」に必要な3つの要件
ユナイテッドは日本を代表するインターネット企業になるべく、これからの時代のリーダーに必要な「3つの要件」を提示している。
1つ目は、変化に対して前向きであり、果敢にチャレンジしようとするマインドセットを持つこと。産業構造を一変させてしまうようなテクノロジーによるディスラプションや、ベンチャー・大企業問わず競合の参入が著しいネットビジネス界では、常に時代の先を読み自分の手でビジネスをしようとするメンタリティがなければ、インパクトあるビジネスなど生み出すことはできない。
2つ目は、複雑で変化の著しい環境の中でも仮説を立て、ビジネスチャンスを抽出できること。変化のスピードが早く、複雑な因果関係が渦巻いているネットビジネスにおいて、ロジカルに機会や脅威を見出して戦略を構築できなければ、組織を正しい方向にうまく導けない。
3つ目は、自身の専門ではない異なるプロフェッショナルを巻き込むチームリーダーシップを持つこと。エンジニアやデザイナー、カスタマーサクセスなど、ネットビジネスではさまざまな職種とチームを組んで物事を進める必要がある。これからのリーダーには、異なる領域のプロフェッショナルでも、強み/弱み、価値観を把握した上でメンバーをエンパワーメントしていく能力が求められる。
多くの企業は今でもジョブローテーションを経験させ、「ジェネラリスト」を育成する傾向にある。しかしこれからの時代、職種は細分化され、全ての領域を「そつなくこなす」ことはほぼ不可能。むしろ、全く知らない領域のプロフェッショナルを巻き込めるコミュニケーション能力にこそ焦点を当てるべきだとユナイテッドは考えている。
ネットバブルから20年、社会に「大樹」はなくなった
代表取締役CEOの早川氏が大学を卒業したのは、1992年。バブルが崩壊しつつあったものの、依然として大企業に就職することが大勢を占めていた時代だった。早川氏は当時を「起業やベンチャー企業に入るという選択肢はなく、知っている大企業の中からどこに就職するかということしか考えていなかった」と回顧する。そのうえで、当時から現在にかけての変化として「ここへ入っておけば一生安泰だ、というような企業はもはや存在しないことが明らかになった」ことを挙げる。
早川安定を決定付けてくれ、人生を預けられる「寄らば大樹の陰」の「大樹」がなくなりましたね。終身雇用が崩壊していく時代で、企業の名前より個人ひとりひとりの持つ力量にフォーカスが当たるようになっていきます。残酷な側面もありますが、個人として、しっかり一人のビジネスパーソンとしての力を身につけなる必要がある世の中になっていく流れは変わらないと思います。
代表取締役COOの金子氏が大学を卒業した1999年も「就職氷河期」と呼ばれ、学生の多くが安定志向だったという。しかし、翌年にはネットバブルが勃興し、ソフトバンクをはじめインターネット関連企業の株価が急上昇するなど、インターネットをきっかけに時代の端境期に差し掛かりつつあることを実感していた。
金子山一證券をはじめ、大手金融機関が相次いで倒産していた時期でした。「どんなに大きな会社でも、あっという間になくなってしまう」と鮮烈に印象付けられたのを覚えています。
その直後にネットバブルが起こったことも、企業の勢力図が変わる「変化の時代」を予感させるものでした。そして、大企業が終身雇用への見切りをつけたいま、一気に予感が現実のものとなっている感覚がありますね。
20年前は「新興企業」だったソフトバンクが今や世界のインターネット・通信業界をリードしているように、10年〜20年後には、いま私たちが想像もしていなかったような世界が訪れているはず。いまの若い人には、会社という「船」に乗るのではなく、変化を楽しみ、自ら船を漕ぎ出す感覚を身につけてほしいと思っています。
では、VUCA時代ともいわれる変化の激しい現代において、これから就職活動を迎える学生はどのような“変化”を認識しなければならないのだろうか。そんな疑問をぶつけると、早川氏はインターネットによって引き起こされる“変化”を、端的に説明してくれた。
早川ひとつは、“スピード感”の変化。「ユニコーン」に代表されるように、ベンチャー企業の成長スピードが格段に上がり、大企業があぐらをかいていられる状況ではなくなりました。
もうひとつは“振れ幅”の変化です。インターネットによって、一見すると既存の領域とは関連性のない事業にチャレンジする企業が増えてきました。若手人材にも、インターネットによってどのようなビジネスチャンスが起こりうるのか、柔軟に発想しながらも、強固にロジックを組み立てる能力が求められると感じています。
「安定的な成長」など、存在しないのがインターネット業界
近年は、一つの事業やプロダクトをスケールさせることに集中する企業が多く見受けられるが、ユナイテッドの事業ポートフォリオは多彩だ。広告プロダクトからコンシューマー向けアプリ開発にメディア運営と、インターネットに関わることは「なんでもやる」勢いを感じる。その理由を「生存戦略」として複数の事業領域を拡大させる方針からだと、両者は口を揃える。
早川もし、将来100億円、1,000億円の売上が期待できる有望なサービスが完成したとしても、明日にはGAFAが参入し、市場シェアを一気に奪っていくかもしれない。スマホのような、ディスラプティブなデバイスが現れるかもしれない。
実際ユナイテッドも、元々フィーチャーフォン(いわゆるガラケー)の広告ビジネスを主軸に伸びていたのが、iPhoneの台頭で一気に窮地に追い込まれ、事業をゼロから作り直しました。インターネット上で事業を考える大前提として、単一サービスが10年、20年もの間、安定的に生き残ることは「不可能」だと認識しています。
メディアには「成功者の言葉」しか載りませんが、我々はこれまで、既存事業に固執しすぎたために、視野を広げられずに変化に対応できなかった企業を数多く見てきました。弊社はインターネット全体の潮流を見極め、可能性のある領域には先行投資をしていくことで、変化の激しい世界を生き抜こうとしています。
金子私たちだって、単一事業でユニコーンになる企業(未上場企業で時価総額1,000億円以上の企業)を見て、経営資源の効率的活用という観点で企業経営の魅力を感じます。一方で、単一事業の成長を追求しすぎる結果、その事業で利益をあげることに企業構造や組織が最適化されてしまうのは、テクノロジーや社会変化によるディスラプション(急激な環境変化)が起きたときに次善の策を打てなくなってしまうリスクを孕んでいると考えます。
私たちのビジョンは「日本を代表するインターネット企業」になること。このビジョンを見失わず、1つの事業に固執するのではなく、社会変化と共にニーズが顕在化する領域にはどんどんチャレンジしていきたい。「どんな社会になっても事業を創り続ける」のが、ユナイテッドのコアバリューです。
早川とはいえ、ユナイテッド自体が、ユニコーンとなるような事業創造を目指していないわけではありません。むしろ、それぞれの事業について、個別に明確な戦略を持ち、ユニコーン級のビジネスに成長させようとしています。決して「小さな事業をたくさん創っておけば安泰だ」などと考えているわけではありません。
また、多くの事業を運営している分、撤退の判断にも多くの時間をかけません。良くも悪くも一度始めた事業に「執着しすぎない」ことが、ユナイテッドのカルチャーです。
まさに「インターネットそのもの」のように柔軟な変化を実現させているユナイテッド。そんな同社には、多様なミッションや信念を持った社員が集まっている。金子氏は「多様性こそがユナイテッドの強みであり、変化に対応できる組織たる所以だ」と強調する。
金子多くの領域で事業を進めていますし、ユナイテッド自体が多くの企業の合併によって生まれた企業ですから、異なる価値観を受け入れる土壌があります。「インターネットはこうあるべき」と各自の持論を押し付けるのではなく、「そういう見方もあるのか」と多様性を認め合う柔軟な思考が、変化の時代に耐えうる企業カルチャーを生み出す「しなやかさ」につながっているのではないでしょうか。
早川執行役員のメンバーを見ただけでも、外資系戦略ファーム出身者から、元々エンジニアで開発部門のトップを経て執行役員になった者まで、多様な出自の人びとが集まっています。ユナイテッドのいいところは、どんな相手であってもリスペクトを持って「学び」に転化させられる社員がたくさんいるところ。呼吸が合わない相手と仕事をすることがあったとしても、「合わない」とだけ言わず、自分の成長機会に繋げられる自責思考を持った社員がたくさんいることです。
会社の「ピース」ではなく、変化に耐えうる「エネルギー」を持った人材を
ユナイテッドは2018年8月、中期経営計画として「UNITED2.0」を発表。その中では「新卒採用」が注力領域として挙げられている。
非連続な成長を目指すのであれば、優秀な中途人材を積極採用するのも戦略に思える。同社はなぜ、新卒採用にも注力するのだろうか。早川氏は「“純粋さ”が必要だからだ」と説明する。
早川弊社は「事業は変化して当然」という前提に立っています。変化の激しい世界において、「優秀な専門家」を中途採用しても、ミスマッチとなってしまうことも多いです。
私たちが求めているのは、会社の要望に合わせて動く「ピース」ではなく、人として変化に対応し得るエネルギーを持った人材。最初から明確にスキルやミッションを持っていなくても、「自ら思考するチャレンジングな成長環境」を求めている人は、ユナイテッドに向いていると思っています。変化する時代で、キャリアの選定軸となる自分の「意思」や「こだわり」を見つけられる環境が、ここにはあります。
金子氏は、ユナイテッドで突出した成果を出している若手の共通点として、「人より多くの“修羅場”をくぐってきた経験を持っている」と指摘する。しかし、近年では「働き方改革」の流れもあり、身を粉にするような機会を会社から用意しにくくなった。だからこそ、これから入社する若手には「自らの手で課題の発見と解決を繰り返していくバイタリティ」が求められると話す。
金子社会人としての成長曲線を決めるのは、柔軟性や吸収力がある若手の時代にどれだけの「負荷=修羅場」を経験できるかに懸かっていると思っています。もちろん会社としても社員に機会を提供する努力をしていきますが、若手にはより一層自らを律し、自らで負荷をかけるマインドセットを持ってほしいですね。
修羅場における「逃げない理由」が、その人のリーダー像を表す
「UNITED2.0」には、次世代を担うリーダーやプロフェッショナルの育成を主眼に置いた「UNITEDエンパワーメントプラットフォーム」が盛り込まれている。ユナイテッドが育成したいと考えている「リーダー像」とは、どのようなものなのか。
早川リーダーの仕事は「仕事を創り、価値を生むこと」。言葉にしてみると簡単そうに見えますが、実際にやりきるとなると、そうはいかない。自分のビジョンと業務内容がマッチングしなければ、良い仕事などできません。ですから、私がリーダーに求める前提としては、自分が何にこだわりを持ち、どんなことを成し遂げたいのか。自らの内面と向き合い、そういったことに答えを出していることが挙げられます。
また、自分で仕事を作ったあとも、ブレずに高いハードルをセッティングし、チャレンジし続けられる“胆力”は必須です。自分への負荷として「高いハードル」をセッティングできるのもまた、深い内省が導いてくれるものだと思っています。
金子「リーダー」といっても、事業家、起業家、経営者と、さまざまな事業フェーズにおける、さまざまな形がありますので、一概に「こういう風になれ」「こんな人をロールモデルにしろ」と言うことはできません。
早川リーダー像に正解はなく、その人のキャラクター次第です。IT業界には20年以上関わっていますが、「この人うまくいくのかな?」と思った若手が起業し、後に大成功するケースも複数ありました。プロ野球に例えるとわかりやすいですけれども、イチロー選手も野茂選手も、誰かの真似をした訳ではなく、それぞれユニークなスタイルで一世を風靡してきましたしね。
金子その前提で、それぞれが目指すべきリーダー像は、修羅場に置かれたときの「立ち振る舞い」に、傾向が現れるのではないかと思っています。例えば、修羅場に置かれたときに「部下のために頑張ろう」と思える人は、部下思いの上司タイプ。「世の中に自分の価値観を伝えたい」と思って踏ん張れる人は、起業家タイプかもしれない。修羅場に置かれたときの「逃げない理由」が、その人をもっともエンパワーメントする要素ですから、「自分がどんなリーダーを目指すべきなのか」についての見極めポイントになるのではないかと思っています。
失敗しても経験が積み上がる。挑戦するだけで価値はある
コーポレート・エグゼクティブ・ボードの調査によると、人材の発掘、育成に投資する企業のうち、成功をおさめているのはたった24%だということが明らかになった。先述のように、従来型の「ジェネラリスト」育成では、将来を担うリーダーは出現しえない。
現在、ユナイテッドでは次世代の「最強の事業プロデューサー」育成を目的としたプログラム「U-PRODUCE」を提供している。2019年夏に外部開放されたこのプログラムは、ユナイテッドグループ内の役員クラスに事業アイデアを壁打ちできるという、なんとも贅沢な内容だ。
参考記事
そうしたいわゆる0から事業を生み出すような「0→1人材」の育成に焦点を当てた「U-PRODUCE」とは全く異なる、「次世代リーダーコース」も2021卒向け新卒採用から提供するというから、経営陣の若手育成に対する本気度が伺える。
このコースは若干名を採用上限とした、選抜制の狭き門である。2019年7月以降に開催されるサマーインターンシップに参加しない限り、「次世代リーダーコース」の対象者にはなれないという。サマーインターンシップでは役員陣が直接メンターとして参画するため、経営プロフェッショナルの素地を養うことができる。
選抜者となった新入社員は、既存事業の急成長や、ユナイテッドグループの成長を先導できる人材に育成する為、役員の直下に配属される。経営層として身につけておくべき専門的なスキルやマインドセットをマンツーマンで伝授してもらう。
また、役員陣のディスカッションを通じて該当の社員の成長課題や育成プランをレビューし、配置転換から特別研修まで、徹底的に個別最適化された育成プランが提供される点も特徴である。
早川氏は、「こうしたハードルの高そうな機会に臆せず飛び込めるのも、自身を急成長させられるチャンスを呼び込む要因」だと語る。たとえ役員陣も参加する選考時に厳しいフィードバックを受けたとしても、その経験を持ち帰ることが、参加者にとって何よりの「財産」となってくれるはずだ。
早川ユナイテッドは多様性を受け入れる土壌があるからこそ、意欲と能力があり、成果を出せる人であれば、何歳だろうと気にしていません。たまたま、新卒入社で役員になったメンバーはまだいませんが、これからどんどん輩出していきたいと思っています。ユナイテッドの成長について誰よりも考え、経営会議でも企業価値向上に対してインパクトある発言をしてくれるような新卒社員がいれば、積極的に登用していきたいと思っています。
金子まったく同意ですね。「どうすればユナイテッドはもっと強くなれるのか?」を語れる新卒には役員を務めてほしいですし、ユナイテッドには「もっとこうすべきだ」と提案すると「じゃあ自分でやってみてよ」と言われる企業カルチャーがあります。失敗してもいいから、どんどん経営課題にチャレンジして、今の役職者をしのぐような新卒社員がこれからどんどん増えてほしいですね。
「次世代リーダーコース」ではUNITED2.0が目指すUEPを最大限活用し、若手時代に「修羅場」を経験することができる。もし経営者、ビジネスパーソンとして成功したいと思っているのなら、「次世代リーダーコース」を覗いてみてはいかがだろうか?
ユナイテッド役員陣と共にこの夏、「修羅場」に立会うことで、「リーダーとしての核」となる自分だけの意思やこだわりが見えてくるかもしれない。
【経営陣と共に修羅場を超えよ】次世代リーダーのための登竜門、開催
こちらの記事は2019年07月11日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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姓は半蔵、名は門太郎。1998年、長野県佐久市生まれ。千葉大学文学部在学中(専攻は哲学)。ビジネスからキャリア、テクノロジーまでバクバク食べる雑食系ライター。
写真
藤田 慎一郎
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
特別連載UEP:優秀な人材が集まり成長できる仕組み
6記事 | 最終更新 2020.11.06おすすめの関連記事
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