連載ユナイテッド株式会社

元祖CtoC企業「エニグモ」を創業期から支えた、ユナイテッドの嗅覚

インタビュイー
金子 陽三

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、リーマン・ブラザーズ証券会社投資銀行本部にて金融機関の資金調達や事業法人のM&Aに従事。その後、米国シリコンバレーのVCドレーパー・フィッシャー・ジャーベットソンを経て、2002年、インキュベーション・オフィスを運営する株式会社アップステアーズを設立し代表取締役に就任。2004年に同社をネットエイジキャピタルパートナーズ株式会社(現ユナイテッド株式会社)へ売却。2007年、ngi group株式会社(現ユナイテッド株式会社)取締役兼執行役COO兼投資事業本部長を経て、2009年2月代表執行役社長に就任。2012年12月スパイアと合併、ユナイテッド株式会社代表取締役社長COOを経て、2022年4月より代表取締役 兼 執行役員に就任(現任)。

須田 将啓
  • 株式会社エニグモ 代表取締役 最高経営責任者 

慶應義塾大学院を卒業後、2000年に博報堂入社。2004年に株式会社エニグモを設立し、代表取締役に就任。2013年に代表取締役 最高経営責任者に就任。海外在住のパーソナルショッパー(出品者)から世界中のアイテムを購入できるソーシャルショッピングサイト「BUYMA」を運営。

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「日本を代表するインターネット企業になる」をビジョンに掲げるユナイテッド。現在の事業の柱は、アドテクノロジー、コンテンツ、インベストメントの3つ。加えて、EdTechやバーティカルメディアなど、多様な事業を展開する8社がグループ会社にある。

多様な事業・組織で構成される「ユナイテッド流 事業の作り方」とは。ユナイテッドの「今」を全5回で紐解く最終回は、2005年から投資し、共に成長の道を歩んできた、CtoCビジネス「BUYMA」を運営するエニグモ代表取締役 最高経営責任者 須田将啓氏と、ユナイテッド代表取締役社長COO 金子氏の対談をお届け。多様な事業・人を育てる考え方の原点はここにある。

  • TEXT BY TOMOMI TAMURA
  • PHOTO BY DAISUKE OKAMURA
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個人的な縁で、エニグモの監査役に

まず、須田さんと金子さんの出会いについて教えていただけますか?

須田金子さんはエニグモ創業メンバーの、大学の後輩でした。

エニグモは、僕を含め博報堂から3人と、電通国際情報サービスから1人の4人で2004年に立ち上げた会社です。僕は「30歳になったら起業しよう」と考えていて、共同創業者の田中がエニグモのサービスであるBUYMAの構想を考えていた。タイミングとアイデアと人が揃ったことで「とにかくこのサービスを立ち上げたい」と思ったのが始まりです。

金子当時、大企業から違う領域のベンチャー企業を立ち上げる人は珍しかったから、注目を集めましたよね。

須田まったく畑違いでしたしね。立ち上げに当たって、誰か監査役になってくれる人を探そうという話になりました。信頼できて、金融系に造詣が深くて、相性が良さそうな人……そこで名前が挙がったのが金子さんでした。創業メンバーの一人が、「大学の後輩で金融経験のある人がいる」と。

須田メンバーに紹介されて初めて金子さんに会ったときは、「ひょうひょうとしているけど、安定感のある人だな」と思いました。

金子須田さんは、一見クールに見えますが、話すとアツくてヤンチャなところもある方です(笑)。

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縁がたぐり寄せた、ユナイテッドからの投資

その後ほどなくして、エニグモはユナイテッドから投資を受けることになります。その経緯について教えてください。

金子監査役になって数カ月後、僕は経営していた会社をユナイテッド(当時:ネットエイジキャピタルパートナーズ株式会社)に売却して子会社化し、その子会社社長とユナイテッドの投資部門を兼務することになりました。投資するベンチャー企業を探し始める際に、まず頭に浮かんだのはエニグモ。須田さんの人柄もよく知っているし、事業もその後大きく成長するだろうと思っていたので、すぐに当時の上司に紹介しました。

金子紹介後、僕は投資の検討や意思決定には一切参加しませんでしたが、担当者も僕が感じたのと同じように、エニグモの事業のポテンシャルと人に魅力を感じてくれました。

エニグモの事業「BUYMA」は、海外在住のパーソナルショッパー(出品者)から、世界中のアイテムを購入できるショッピングサイトです。当時はなかったCtoCのサービスで、かつグローバルにやり取りができる構想。とても可能性があり、CtoCで世界がつながる世の中になるなら面白いと、2005年にユナイテッドからの投資が決定しました。

それからは、取締役会に顔を出させてもらうようになり、個人的に監査役をしていた頃よりもお付き合いは濃くなりましたね。

須田投資を受けた後金子さんには、出資先などを集めたミートアップによく誘ってもらいました。これは、ディスカッションや懇親会のイベントなのですが、それをきっかけにネット業界の人脈ができたんです。

今でこそ、そういったイベントは多くありますが、当時はほとんどなかった。まして、僕らは畑違いの業界から参入してきたので、ネット業界に知り合いは一人もいない。このイベントに誘ってもらったことで、ネット業界に引き入れてもらったように思いました。

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「ここぞ」のとき以外は、口出しをしない

投資を機に、事業成長にアクセルを踏まれたと思います。事業や組織を作るにあたって、金子さんからに言われた印象的なアドバイスはありましたか?

須田エニグモは創業時から一貫して、BUYMAを運営しています。ただ、初めはうまくいっていなかったんですね。会社である以上、利益がないとどうしようもないので、社内で議論した結果、一時期だけ、前職の博報堂や電通の強みを生かして、広告ビジネスを並行して行っていました。

その広告ビジネスを始めようとしたとき、金子さんに言われたのが「営業メンバーをたくさん採用すると会社のカルチャーは変わるよ」というアドバイス。これは、カルチャーが変わるのが良い悪いではなく、変わる前提での意思決定が必要だということ。

それまでのカルチャーを崩したくないという思いもありましたが、背に腹は代えられない状態だったので、広告ビジネスに踏み切りました。

すると言われた通り、広告営業のメンバーが増えるとカルチャーは変わっていったのですが、最初にアドバイスをもらっていたので、変わることに動揺しなかったんですね。逆に、新しいカルチャーをしっかりと作っていこうと思えた。

もしあのときのアドバイスがなかったら、今のエニグモは存在しないかもしれません。

金子僕は投資先に、「あれをやるな、これをやれ」と言うつもりはまったくなく、むしろ相談されたらお答えする程度です。でも、自分の会社や他の投資先を見てきた経験から、組織が変わるタイミングや判断ポイントが分かるので、そういった局面ではアドバイスをするようにしていました。

須田きっと、事業がうまくいっていない時期は嫌味のひとつでも言いたい局面はたくさんあったと思うんです。だけど、そういうのは一切なく、むしろ、「そういうこともあるよね、ははは」って(笑)。金子さんには一貫して抜群の安心感があり、僕の安定剤のような存在でした。

金子ちなみに、エニグモは起業したときの事業で上場して、上場後も成長している。その過程にはいろいろあったけれど、創業時からビジネスが変わらないのはとてもレアなケースです。

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スッと入ってくる言葉で作ったバリュー

創業時から伴奏されている金子さんから見て、エニグモの組織作りに特徴はありますか?

金子須田さんは、とにかくカルチャー作りがうまい。

たとえば、バリューは創業前から作り、途中でバージョンアップさせているのですが、何よりその言葉のセンスがいい。みんながスッと受け入れられるような、共感できるリアルな言葉で作っているんですね。浸透しやすいバリューだから、外から見ていても「言うこととやっていることが合致した組織だ」と思っていました。

須田もともと博報堂で、ブランド広告やブランディングを経験していたことが活きていると思います。会社をつくるときの一番大事な部分はバリューだと思ったので、創業前に作りました。でも、実際に経営をすると、抽象的だった言葉が現実とかい離してきたので、6年目に生々しくリアルな言葉で作り直して、バージョンアップさせました。

金子それから、須田さんは判断がしっかりしていると思います。事業をやめることも、組織体制を変えることも。いろんなポイントでバシッと決めていますよね。

須田ありがとうございます(笑)。

僕は、小さな違和感が少しでもあったら、必ずその正体を探り当てるようにしているんです。細かいですが、いつも元気な人に元気がなさそうだったり、普段使わないような言葉遣いがメールのやり取りに出てきたり、少しでも「あれ?」と思ったら見に行きます。

実はこれ、過去の反省からなんです。権限移譲をして完全に任せていたら、自分にはよくわからない組織ができていたんですね。すると、何かが起こっていたとしても経営者としての感覚が働かなくなった。たとえるなら、ハチの大群が体中を刺しているのに、厚手のコートを何枚も着ていてまったく気が付かない、というような。

だから、権限移譲はするものの、誰からでも生の声が届くようなフィードバックの仕組みを作り、組織の末端まで神経が行き渡るように変えたのです。

金子気付けるかどうかと、気付けたときに放置せず対応できるかどうかは、すごく大事ですよね。僕もそこには気を配っています。小さな違和感が、取り返しのつかない問題になることもありますから。

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ユナイテッド×エニグモは、刺激し合える仲間

創業から約13年間、お二人はほどよい距離間で支え合い、刺激合ってきたのだと思います。

金子僕は、須田さんの存在自体が刺激になっています。須田さんが頑張っている噂を聞いたり、現場を見たりすると、純粋にうれしいし、自分ももっと頑張らないと、と思います。

須田僕も同じです。しかも、今でも変わらず金子さんは安定剤ですよ。飲みに行くと本当に楽しいですし(笑)。

金子それは、ここでは言えない話ですね(笑)。

最後に、今後のエニグモの展望について教えてください。

須田これから立ち上げようとしているのは、BUYMAに関連した複数の周辺サービスです。約500万人のユーザーデータが集まっているので、それを活用したサービスを提供したいと思っています。

金子そもそも、エニグモはCtoCの先駆者だから頑張って欲しい。

須田そうなんです。先駆者としてやってきたプライドはあるので、頑張っていきたい。

テーマは、「エニグモの存在により、個人の力を最大化する」こと。BUYMAがあったから、世界中にパーソナルショッパーという新しい職業が生まれ、世界で10万人・400億円の雇用を生んでいるという現実があります。

たとえば、タイに住んでいる主婦が華やかな水着をBUYMAで売ったところ、じわじわと人気が出てヒット商品になった。そんな事例は山ほどあるんです。そういった、個人が持っている能力やポテンシャルをうまく活用したサービスを作っていきたいですね。「BUYMAで、世界が変わる流れをつくる」というミッションを、必ず実現させたいと思っています。

金子これからもお互いに刺激を与え続ける関係でいられるよう、頑張りましょう。

こちらの記事は2018年04月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

田村 朋美

写真

岡村 大輔

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