急成長企業の5つの鉄則──隠れテック企業・出前館に見る、挑戦と革新の舞台裏

なぜあの企業はここまで急成長を遂げられるのか──。

市場のポテンシャル?優れた戦略や、それを実行する優秀な人材?はたまた…と、疑問は尽きない。そこで今回は、もはや知らない読者はいないであろう、デリバリー市場の国内リーディングカンパニー・出前館に協力を仰ぎ、その急成長の裏にある真実を紐解いていく。

FastGrowはこれまで、同社代表の矢野氏や執行役員の森山氏へのインタビューを通じて、出前館の“今”を追ってきた。本記事では、これらの取材も振り返りながら、読者の明日の事業経営、事業運営に活きるエッセンスを抽出したいと思う。

結果見えてきたのは、テクノロジーカンパニーとしての本質や、持続的な成長を可能にする5つの「型」、いや「鉄則」であった。

「自社に当てはめてみると、この点はどうだろう?」「いやいや、ウチの場合はこうだ」と自問自答や思考も交えながら楽しんでもらえたらと思う。

  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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技術とは、人々の生活に寄り添ってこその価値

「技術は目的ではない。それは、人々の生活をより豊かにするための手段に過ぎない」。 矢野代表のこの言葉は、出前館のテクノロジー戦略の本質を言い表している。フードデリバリー市場で最前線をひた走る同社だが、その競争力の源泉は、テックカンパニーとしての技術力の高さだけではない。現場の声に耳を傾け、それを革新的なソリューションへと昇華させる力にある。

その代表例が、2024年夏に新たに配達員向けにリリースされた「ダブルピック」とよばれる配達方式だ。複数の店舗から近隣の届け先の商品を同時に受け取り、それぞれに配達するこの仕組みは、一見シンプルに見えるが、その裏には緻密な配送アルゴリズムと、現場からのフィードバックの蓄積がある。

また、更なるサービスの柔軟化に向けて、現在開発を進めているのが「ダイナミックプライシング」システムだ。

「天候が悪い日は配達が大変……」「この時間帯は注文が集中して……」。こうした現場を支える配達員の声に応えるべく、需要や天候などの変動要因に応じた配達送料を設定することが、サービス価格の最適化を実現し、更なるユーザー体験の向上につながるだろう。

そして、これらの機能開発にはある共通点がある。それは、現場の“声”(=課題)を起点としている点だ。出前館・執行役員の森山氏は次のように語る。「出前館では、配達員や加盟店のフィードバックを製品開発の中心に据えています。改善のサイクルを素早く回すことで、現場の課題をスピーディーに解決していく。それが私たちの強みです」。

さらに同社は、クイックコマース領域への挑戦も加速させている。「生活必需品を最短30分で届ける」という野心的な目標の背後には、配送経路の最適化や在庫管理の自動化など、数々の技術革新が存在する。それは利便性の向上だけにとどまらず、人々の生活様式そのものを変革する可能性を秘めているのだ。

他にも、自動運転やドローン配送など、次世代技術の可能性にも積極的に投資しているということも押さえておきたい。例えば直近では以下のような取り組みだ。

吉野家、出前館、パナソニックHDが自動搬送ロボットによるフードデリバリーサービス実証を実施

出典「出前館プレスリリースより」

「技術は、人々の生活に寄り添ってこそ意味がある」。

そんな想いが汲み取れる出前館では、開発の現場でも確かな形となって表れていることがわかる。競争が激化するデリバリー市場において、テクノロジーと人間性の調和こそが、持続的な成長への道筋を示しているのだ。

急成長企業としての第一の鉄則

「テクノロジーは、顧客と現場の声を起点に進化させるべし」

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ビジョンの真価は、日々の業務に意味を与え、組織全体の方向性を示せるかどうかにある

「ライフインフラ」の構築──。多くのベンチャー / スタートアップが掲げる多様かつ壮大なビジョンの中で、なぜ出前館は有言実行できているのか。

その答えは、矢野代表の言葉に隠されている。「フードデリバリーは、私たちの事業における重要な起点です。しかし、それは通過点であって、最終的な目的地ではありません」。この発言からは、現状に満足することなく、より大きな価値創造を目指す強い意志が伝わってくる。

しかし、そこである疑問が生まれる。壮大なビジョンは、ともすれば現場との乖離を生み出しやすい。では、出前館はどのようにしてこの課題を克服しているのか。その答えは、日々の事業展開の中に見出せる。同社が2022年に新設した「CX(カスタマー・エクスペリエンス)本部」の構築は、その好例だ。

コロナ禍の最中は管轄部門が分散していたり最優先課題として掲げられていなかったオペレーションやアフターサービス面を、CX本部が全面的に統括。ここでは出前館を通じて商品を注文するユーザー、レストランなどの加盟店、そして配達を担当する配達員の3者の体験価値を「CX」として定義し、彼らの生の声をプロダクトやサービスづくりに反映させる役割を担う。

また、先に挙げた、日用品や医薬品まで取り扱うクイックコマースサービス『Yahoo!クイックマート』の展開は、フードデリバリーの枠を超えた、まさにビジョン実現に向けた挑戦の表れだ。

「私たちはフードデリバリーで培ったノウハウを活かし、生活必需品を迅速に届けることで社会課題解決にも貢献していきたい」。クイックコマース事業の展開に向けた森山氏の想いは、ビジョンが机上の空論ではなく、実践的な指針として機能していることを示しているだろう。

さらに注目すべきは、出前館のビジョンが、極めて具体的な目標へと落とし込まれている点だ。「最短30分での配達」「24時間365日のサービス提供」──。これらは見方によっては「サービス品質の指標」にも見えるかもしれない。しかし同社において、それらは「ライフインフラ」というビジョンから必然的に導き出された目標なのだ。

ビジョンの真価は、その壮大さではない。日々の業務に意味を与え、組織全体の方向性を示せるかどうかにある。出前館の事例は、ビジョンこそが成長の原動力となりうることを証明していると言えよう。

急成長企業としての第二の鉄則

「ビジョンは、顧客体験を起点に明確化し、組織全体で共有するべし」

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スピード重視のベンチャーこそ、組織文化を醸成せよ

急成長企業において「カルチャー」は、ともすれば二の次になりがちだ。スピード重視の事業経営において、組織文化の醸成に時間を割いている余裕はない──。そんな声も聞こえてきそうだ。

しかし、出前館の成長曲線を描く背後には、矢野代表が描く組織文化が明確に存在する。その特徴は、「挑戦」と「楽しさ」の両立に現れていた。

「部署内でのイベントの他、全社横断でのイベントも随時催されており、そこでは役職も部署も関係なく一同で盛り上がっているんです(笑)」と、ある若手社員は笑顔で語る。一見、単なる社内イベントに見えるこの取り組みにも明確な意味がある。そこには、「部門を超えたコミュニケーションを生み、新たなアイデアや協業が芽生えてほしい」、そんな想いがあるのだ。

さらに興味深いのは、トップ自らが「挑戦する姿勢」を現場で体現している点だろう。なんと、矢野代表は定期的に配達パートナーとして実際の配達を担当している。「経営者が現場に立つ」という行為は、ともすれば表面的なパフォーマンスに終わりかねない。しかし、出前館に至ってはその心配は無用。

「社長自ら配達に出るなんて、最初は驚きました」と、あるエンジニアは振り返る。「でも、その経験から得られたフィードバックが、翌週のプロダクト改善ミーティングで議論されているんです。トップが率先して挑戦する姿勢に、私たちも触発されますね」。

この「実践からの学び」という考え方は、組織全体に浸透している。出前館は副業制度(許可制)も導入し、矢野氏自身が実践するように、自サービスの配達員としての活動も奨励。ユーザー体験の向上を目指す中で、自らが体験者となることで得られる気づきは大きいだろう。

そしてまた、同社の「失敗を恐れない文化」も特筆すべき点だ。出前館では、新しい挑戦の過程で困難に直面したとしても、「すべては成功への過程」と捉えている。そう言うと、読者の中には「表面的にはどこもそう言うだろう……」と感じるはず。しかし、出前館では事実としてそうした文化が存在しているのだ。

森山 次々と芋づる式にタスクが増えていく中、開発における人員の稼働が予想以上に膨らんでしまって…。この部分のハンドリングは反省点です。しかし、経営陣、特にCFOの矢野(2024年9月1日に代表取締役に就任)が最後まで鼓舞してくれたことが大きな励みとなりました。

本来はプロジェクトの進捗や管理に対して厳しい指摘があるのが一般的ですが、矢野はサービス自体に期待感を持って「ワクワクしますね」と励まし続けてくれたんです。そのおかげでチーム全体の士気が高まり、無事にリリースまで漕ぎ着けることができたと言っても過言ではないですね。

FastGrow『隠れテック企業「出前館」。第2の柱は32歳執行役員から──LINEヤフーとの新機軸「クイックコマース」に続く、第3の新規事業は誰の手に?』より抜粋

矢野氏自身が先の取材で述べたように、「メンバーが安心して挑戦できる環境を整えている」と言うのも、信憑性高く理解できるのではないだろうか。

もちろん、すべてが順風満帆というわけではない。急成長に伴う組織の歪みや、コミュニケーションの課題も様々存在することだろう。しかし、それらの課題もまた、全社員で知恵を出し合い、楽しみながら解決していく──。そんな企業文化が根付いているのだ。

急成長企業としての第三の鉄則

「カルチャーは、挑戦と楽しさを両立させるべし」

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リーダーとは、「ビジョンと現場をつなぐ存在」であれ

変革期にあるデリバリー市場。テクノロジーの力、明確なビジョン、そして挑戦を楽しむカルチャー。これまで見てきた出前館の強みは、実は深く結びついている。その接合部となっているのが、同社特有のリーダーシップの在り方である。

「才能ある人材が存分に力を発揮できる環境をつくりたい」。矢野代表のメッセージからは、同社のリーダーシップに対する在り方が凝縮されている。

その上で注目すべきは、同社の「抜擢文化」だ。年齢や経験年数にとらわれない権限委譲は、組織に新しい風を吹き込んでいる。先の取材で登場した森山氏の執行役員抜擢はもちろん、CX本部・本部長の守屋氏も象徴的な例だ。

提供:株式会社出前館

守屋 経験があるから全てが上手くいくかというと、そうでもないのが仕事だと思っています。(中略)本質的な課題を捉えて正しいアクションをしていれば、良い結果は出るものだと私は感じています。「これに取り組んだら絶対に良い結果になる」という推測のもと、本当に結果が出てくれば、仕事は面白くて仕方なくなるんですよね。

出前館 HR BLOG『次世代型コンタクトセンターを目指す、CX本部の歩みとこれから

コンタクトセンターのアフターサービスや加盟店の出店の領域は経験がなかった守屋氏。しかし結果として、加盟店やコンタクトセンターに問い合わせたステークホルダーの満足度調査では、CX本部発足前と比べ、20%もの満足度向上が見られたとのこと。

こうした「抜擢」は、まさしく前述した「挑戦を楽しむカルチャー」を体現する象徴的な取り組みでもある。実際、守屋氏の下でCX本部は、従来の顧客サポートの枠を超えた革新的な取り組みを次々と実現。テクノロジーを活用した新しいサービス体験の創出にも成功している。(詳しくは出前館 HR BLOGより)

出前館では、各部門のリーダーたちが、高次のビジョンと日々の業務をシームレスに接続する役割を担っていることがわかるのではないだろうか。

実は、ここまで見てきた「テクノロジー」「ビジョン」「カルチャー」という三つの要素は、それぞれが独立して機能しているわけではない。リーダーたちは、テクノロジーを通じてビジョンを実現し、その過程でカルチャーを強化している。こうした事業経営を可能にしているのが、同社独自のリーダーシップスタイルなのだ。

急成長企業としての第四の鉄則

「リーダーは、現場とビジョンをつなぐ存在であるべし」

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「越境」を奨励する人材配置で、才能を開花させる

「私たちの最大の資産は人材です」──。多くの企業がこう語る中で、出前館の人材戦略には、ある特徴的な哲学が垣間見える。それは、「多様性」と「柔軟性」を軸とした成長機会の創出だ。

例えば、部門間の異動。先ほどCX本部の守屋氏を例に挙げたが、他にもバックオフィスである管理部門からサービス側のオペレーション本部を統括するなど、現在、9名の本部長のうち6名が当初の採用部門とは異なる新たな領域で成果を上げている(2024年12月時点)。

興味深いのは、この「越境」によって得られる学びが、前述した「挑戦を楽しむカルチャー」と見事に共鳴している点だ。新しい領域への挑戦は、個人の成長機会であると同時に、組織全体の革新性を高める触媒としても機能している。

一例として、出前館入社当初は企画・ディレクションを担当していた若手が、その後PdMとして活躍し、Googleのテックカンファレンスで登壇し、トッププレゼンターとして評価されたという実例もあるそうだ。

これらの柔軟な人材育成、人材配置の姿勢は、実はテクノロジーカンパニーとしての競争力とも大いに関係している。多様な経験を持つ人材が増えることで、より幅広い視点からのイノベーションが生まれやすくなるためだ。

「最も重要なのは、人材の可能性を信じること」。矢野代表の信念は、同社の人材育成に対する揺るぎない信念であり、これが個々の社員の成長と、組織としての進化を支えているのだ。

急成長企業としての第五の鉄則

「人材育成は、柔軟な挑戦機会と多様性を前提に設計すべし」

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成長を継続させる5つの鉄則

デリバリーという競争激化市場において、出前館はなぜ持続的な成長を実現できているのか。その答えは、本稿で見てきた5つの鉄則の中にあるのではとFastGrowは捉えている。

それは、現場の声を起点としたテクノロジーの進化であり、顧客体験を軸としたビジョンの共有だ。挑戦を楽しむカルチャーと、それを支えるリーダーシップ。そして、多様性を重視した人材育成──。

これらの要素は、決して独立して機能しているわけではない。テクノロジーはビジョンを実現するための手段となり、カルチャーはイノベーションを促進する土壌となる。リーダーシップがそれらを有機的につなぎ、人材育成がその持続可能性を担保する。

では最後に、改めて出前館から学ぶ急成長企業の5つの鉄則を整理しよう。

読者諸君も、ぜひ自身の組織やキャリアに照らし合わせて考えてみてはいかがだろうか。市場環境が激変する中で、持続的な成長を実現するためのヒントが、必ずや見つかるはずだ。

また、今回取り上げた出前館の成長要因をより詳しく理解したいという読者は、以下の記事も熟読してもらうと良いだろう。

こちらの記事は2024年12月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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