連載ユナイテッド株式会社
もはやVC・CVCではくくれない!?──ユナイテッド×ventusに学ぶ、ハンズオン支援のリアル
Sponsored定期的に耳に入る、スタートアップの“○○億円調達”プレスリリース。“資金調達”と聞いてFastGrow読者が第一に想起するのは、VC(ベンチャー・キャピタル)からの投資ではないだろうか。もちろん近年ではシード・アーリーステージでもデットファイナンスを柔軟に活用するなど、その資本政策は多様化している。
とはいえ、やはり“Jカーブ”と呼ばれる成長曲線を描くスタートアップ経営者にとっては、VCからの資金調達が一番身近な存在ではなかろうか。そして、そんなVC一つとっても、実にその種類は千差万別。具体例を挙げれば、独立系VC、事業会社系VC(CVC=コーポレート・ベンチャー・キャピタル 、以下:CVC)、金融系VC、政府系VCなどが代表的なところだ。
そして、今やその数も年々増加傾向にある。こうした状況は、起業家にとって資本政策の選択肢が広がることを意味し、喜ばしいことである反面、新たな悩みも生み出しているのかもしれない。「結局、どの投資家に投資を受ければいいのか?」と。
そんな起業家らの悩みを解決すべく、FastGrowはあるベンチャー企業との連載企画を打ち立てた。その企業とは、インターネットビジネスの黎明期から20年以上に渡り投資事業を行っている、ベンチャー投資のプロフェッショナル、ユナイテッド。
全10回にわたる本連載では、ユナイテッドの投資事例から紐解く同社の投資家としてのユニークネスや、各事業で活躍するメンバー事例を通じた人材の豊富さをお伝えする。読者は本連載を読めば、「ユナイテッドから投資を受けるとどのような支援が得られるのか?」、「どんなキャピタリストたちが伴走してくれるのか?」、そして「そもそもユナイテッドはなぜ存在し、何を目的に事業活動をしているのか?」といったことを深く理解することができるだろう。
初回となる本記事では、ユナイテッドの“ハンズオン支援”について紹介したい。これから解説する同社の“3つのコア事業”のなかでも、重要な立ち位置となる投資事業。この事業に関するユナイテッドの知られざる実態を、今まさに投資を受けている起業家の生の声と共に見ていこう。
- TEXT BY MISATO HAYASAKA
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY TAKUYA OHAMA
「投資事業×人材マッチング事業×教育事業」3つのコア事業。コア事業間のシナジー創出によるスタートアップの支援
ユナイテッドは、VCでも、CVCでもない──。
そんな唯一無二の存在だと、インタビューを終えたFastGrow取材陣は感じた。何故なら、ファンドの制約に縛られるVC、本社事業とのシナジーを目的とするCVC、そのどちらとも似つかない投資スタイル、いや両方の良いとこ取りをしながら独自の事業モデルを組んでいるのがこのユナイテッドという組織だからだ。
ユナイテッドは3つのコア事業の1つとして投資事業を掲げている。独立系VCと同様にキャピタルゲインを主目的としつつも、ファンドの制約(償還期限や投資対象の線引きなど)はなく、柔軟かつスピーディな意思決定ができる。また、事業会社としてCVCのような形態をとりつつも、事業シナジーの有無を問わない純投資、すなわち同社のパーパスに合致する、社会の“善進”を加速する人や事業に投資を行っているのが特徴だ。投資組織としての物理的な構造や形態こそ世のVCやCVCと同じかもしれないが、目的と手段が明確に他社のそれとは異なっている点に、ユナイテッドの独自性が垣間見える。
そんなユナイテッドは現在、レシピ動画サイト『クラシル』を手がけるdely、ピルのオンライン診察サービス『スマルナ』を提供するネクイノ、オフィス家具のサブスク事業等を運営するソーシャルインテリア、メタバースプラットフォームを展開するクラスターなど、界隈でもその名を知らない者はいない多くの急成長企業への投資実績を持つ。
さて、そんな前置きもほどほどに、ここからユナイテッドの投資スタイルや起業家の支援体制を語ってくれるのが、ユナイテッド投資事業本部にて本部長を務める井上 怜氏だ。同社の投資事業本部では、国内のシード・アーリーステージのベンチャー・スタートアップ企業を主な投資対象としている。直近の投資はすべて自己資金で行っているため、先に記した通り、柔軟かつスピーディーな意思決定が可能だ。
井上僕らはファンドではないこともあり、ポストシードやプレシリーズAでは平均2,000~3,000万円から、リード投資の場合等は8,000万円程までチケットサイズ(1回の投資金額)を柔軟に決めています。また、事業ステージに厳しい縛りを設けているわけでもないので、シード・アーリーステージへの投資が中心ですが、ミドルステージ以降の案件でも1億~数億円単位での投資をすることもあります。
さらに、EXITまでの期間も事業特性に合わせて柔軟に判断することで、事業成長に比較的時間が掛かる企業へも投資可能です。決議についても、投資委員会を原則毎週、少額投資の場合は都度開催できるようにしており、スピーディーな意思決定が可能なことも特徴的と言えます。ここまでがわれわれの、投資を実行するまでの紹介です。
そして投資後には、長年の事業運営・投資経験により培った事業・組織運営ノウハウの提供、及び資金調達・EXIT支援等を行っています。加えて、コンサルティングサービスを提供するユナイテッドDXソリューション本部と連携し、事業戦略立案から実行に至るまで一気通貫の支援を行います。さらに、人材マッチング事業と連携し、投資先企業とプロ人材とのマッチング機会も創出する。これらのハンズオン支援を行うことにより、投資先企業の企業価値最大化に貢献しているのが他社との違いです。
20年以上に及ぶ豊富な事業・投資経験からくるノウハウや知見の共有。そして、それを投資部門単独で行うのではなく、投資以外の部門やグループ会社も総出で行い、投資先のバリューアップに取り組んでいく。どうだろう?なかなか他に類を見ない、手厚い支援体制と言えるのではないだろうか。
これだけでも他社VCやCVCとは一線を画する印象を受けるが、同社の支援はそれだけに止まらない。「投資側なのに、そこまでやるのか!?」──。そんな驚きすら与えてくれる、ユナイテッドの投資スタンスを紐解いていこう。
スポーツ×トレカに目をつけた、生粋のスポーツファン
ここからは、もう一人のゲストである起業家・梅澤氏に注目する。彼はスポーツ・エンタメ業界でファンビジネスを展開するスタートアップ・ventusの経営者であり、このventusは、現在ユナイテッドからの投資を受けているスタートアップの1社なのだ。“大学2年で起業した経営者”と聞くと、荒削りだが勢いのある人物を想像するかもしれない。しかし、取材陣の前に現れた梅澤氏は、驚くほど“大人”だった。
梅澤本当は、起業家になりたかったわけではないんです。幼少期からサッカーに没頭していたので、「スポーツに関わるビジネスがしたい」という想いだけは強くありました。
でも、スポーツ業界に新卒で入り込むのは至難の業であると判明し…。それでも「スポーツに触れたい」という想いは消えず、協力してくれる仲間も集まってくれたので、自分たちでビジネスを始めることにしました。
「経営者になりたいから起業する」のではなく、「やりたいことを叶える手段として経営者になる」。ロジカルで冷静沈着。それでいて、少年のような瞳を宿す梅澤氏。
そんな梅澤氏が東京大学在学中に創業したのがventusだ。ventusは、スポーツ・エンタメ領域でファンビジネスを展開するスタートアップ。現在のメイン事業はプロ野球や大相撲などの電子トレーディングカード事業。“トレカ”と聞いて、子ども時代を懐かしく思う読者も多いかもしれないが、実は大人も夢中になる、急成長中のマーケットなのだ。日本玩具協会の発表によると、2021年度で特に伸び率の大きかった商品分野はカードゲーム・トレーディングカード。その市場規模は前年度比45.6%増というから驚きだ。
この“ファンビジネス”、まだ耳慣れない読者も多いことだろう。まずはそのマーケット概要について、梅澤氏に解説してもらった。
梅澤 一般的に、スポーツにおける“ファン”と言えば、例えば“野球やサッカーの球場に足を運ぶ人”というイメージが強いかと思います。しかし、実はその裏に、球場には足を運ばない“在宅ファン”も大勢いるんですよね。
コロナで試合ができなくとも、“ファン”は“ファン”であり続ける。にも関わらず、これまでスポーツ関連事業者がこうした“ファン”たちに適切なデジタルコンテンツやサービスを提供できていたかと考えると、必ずしもYesとは言えない現状があります。そこの供給を僕らventusが担えれば、各種球団にとっても、チケットやスポンサー収入以外の新たな収入源を確立できる可能性があるんじゃないかと。
それに、スポーツというものは不思議なもので、試合に負けて「バカヤロー」とチームや選手らに怒りながらも、何十年もファンであり続ける人たちって大勢いますよね。そんな、言葉にはできない求心力がスポーツにはある。ファンであることが、一つのアイデンティティになっているとも言えます。
梅澤氏が語るファン心理には納得感があるが、その一方で、「ファンとはいえ、デジタルのトレーディングカードを欲しがるものなのか?」と純粋な疑問も残る。そこで梅澤氏は、自社が展開する電子トレカの特徴と共に持論を述べた。
梅澤結論から言うと、大変人気を博しています。電子トレカは紙のそれとは異なり、選手が動くモーションがついていたり、音声が出たりするなど、デジタルならではのコレクション性を重視しています。
さらに即時性も重視していて、できる限りファンの熱量が高いタイミング、例えば、サヨナラ勝ちした直後や“プロ初勝利”などの “記録”が出た数時間以内には記念カードを販売開始するなど、リアルなカードではできないようなファン心理をくすぐる仕掛けをいくつも取り入れています。
井上スポーツビジネスと聞くと華やかに見えるかもしれませんが、実態としては相当泥臭いですよね。
大きなイベントや記録更新などが起きると、週末だろうが昼夜も関係なく、その日のうちにデータを集めてカードを作って…これを愚直にやり続けているventusはすごいなと。なによりその背景にある、メンバー一人ひとりのスポーツに対する熱量が凄まじいんですよ。
梅澤メンバーみんな、スポーツマニアなんです(笑)。
井上スポーツ業界は、コネクションを持たないスタートアップがいきなり入り込むのが非常に難しい領域のはずなのに、ventusはしっかりと懐に入って受注できている。そんな手強い大人たちを動かす力を持っていることにも驚かされるばかりです。
「経営者になりたかったわけではない」と語る梅澤氏だが、一般的に経営者に必要と言われるGRIT(やりきる力)を、既に20代前半のうちから持ち合わせていたのだ。
グループ全体のアセットを用いて、不確実な事業も“確実”なモノに昇華する
では、そんなventusになぜユナイテッドは投資決定をしたのか。背景にあるストーリーを見てみよう。
井上最初に梅澤さんにお会いしたのは、新型コロナウイルス感染症が流行り始めた2020年の春先ごろでした。20代前半という若さでventusの事業領域であるスポーツに深く精通しており、将来的に事業をどうしていきたいかのビジョンも明確。初対面から好印象を抱いたものの、一度投資を見送る判断をせざるを得なくて。
ventusがちょうど、事業対象をアマチュアスポーツからプロスポーツへとピボットするタイミングだったこと。また、コロナによって今後のスポーツ業界の変化を見立てにくくなったこと。この2つの出来事により、投資時期については熟慮する必要があったんです。
梅澤氏に対し経営者としての魅力を感じていた井上氏だったが、これらの事象が重なり、当時は投資に踏み切ることができなかった。しかしその一年後、意外なルートで井上氏と梅澤氏は再会する。
梅澤スポーツ系ベンチャーの先輩格にあたるLink Sportsさんという会社から、ユナイテッドさんのグループ会社であるインターナショナルスポーツマーケティングさん、通称“iSM”をご紹介いただいたんです。
梅澤僕らと同じくスポーツ分野で事業展開されている企業ということで、今後の事業計画を相談させてもらったんです。その際、「増資したいんですよね」とポロッと打ち明けると、iSMの高木社長から「うちの親会社が気に入るかもしれない」との返事がありまして。そこで再度、ユナイテッドさんにお繋ぎいただく機会を得ました。
井上梅澤さんと再度お会いした時、もともと“プロ野球の一球団と契約ができる予定”という状況だったventusが、プロ野球の別球団や他団体とも手を組み、売上やユーザー数も飛躍的に増加するほど成長していたんです。
出会った当時から非常に優秀な起業家だとは思っていましたが、入り込むのが容易ではないプロスポーツ団体複数社と契約に至っており、ビジネスとしてもしっかり成長させていた。そして何より解像度の高い将来構想を持っていて、今後の成長シナリオを一緒に描くことができました。それを踏まえ、ユナイテッドの“イチオシ”として、投資を決定しました。
ここまでのストーリーを見ると、ユナイテッド側の“棚ぼた”のように映るかもしれない。「成長したタイミングでまた偶然出会ったのだから、ラッキー投資のようなものだ」と。しかし、そうではない。成長したはずのventusだったが、その実、資金調達には大きな苦労をしていたのだ。
梅澤それまで多くのVCから、「事業の成長性が見えない」という言葉をもらっていました。そもそもファンの方々って、経済的合理性があってファンをしているわけではないですよね。
ロジックでは語れない対象者だからこそ、不確実性も高いし、再現性もない。VCの方々からすると、ファンビジネスというもの自体が掴みきれないという判断だったようです。中には「投資委員会が困る」という声もありました。
そんな厳しい判定を下されるventusに対して、握手を求めたのがユナイテッドだった。
井上われわれは、「ventusのプロダクトは、ファンにとって確実に使い続けてくれるサービスになる」と見込んだんです。
ventusは既にプロスポーツ団体と複数連携していますが、今後、プロ野球の他球団も獲得が進んでいくだろうと。もちろん肝心のプロダクトの質も良いと感じましたしね。先ほど梅澤さんも言っていたように、選手が動くモーションや音声など、電子トレカでしか実現できない演出にこだわっていて、新規顧客獲得やユーザーが使い続けてくれるイメージは十分に持てた。そして、「この事業を通じて世の中を善くしていきたい」という真摯な想いを持つ“梅澤さんが経営者である”というのも、やはり大きな決定打となりましたよね。
ある種、“縁”を感じさせる話であるが、ユナイテッドのキャピタリストには、スポーツ経験者が多かった。何を隠そう、井上氏もアメフト経験者なのである。つまり、“ファンビジネス”に対するポテンシャルを、他のVCたちよりも解像度高く、手に取るように理解できたのだろう。そしてさらに、ユナイテッドグループとしての支援の幅の広さという観点でも、投資の後押しが効いたとのこと。
井上先ほど梅澤さんが挙げてくれた弊社のグループ会社・iSMもサポートに入ることができるという点で、シナジーも感じました。
iSMが長年スポーツ領域で事業展開しているからこそ、ユナイテッドグループとしてさまざまな知見や繋がりがある。そうした観点からも、「間違いなくわれわれだからこそventusに協力できる」と考えたんです。
「投資先には自分たちが持っているアセットをフル活用して支援する」というユナイテッドの方針が、まさに如実に現れているエピソードと言えるだろう。
左脳と右脳のバランス感覚。
ユナイテッドのキャピタリストに共通するスタンス
ユナイテッドの支援体制の魅力が見えてきたところで、ここではより具体的に、ユナイテッドに属するキャピタリストにも焦点を当てていきたい。起業家の立場からすると、キャピタリストとの相性も、投資を受けるか否かにおいて重要な基準となるからだ。
今回登壇いただいている井上氏は新卒でユナイテッドに入社。広告営業やメディア運営、さらには人事などコーポレート部門も担当してきた、“総合格闘家”のような強さを持つ人物だ。現在は同社の投資事業本部で本部長を務める。そんな井上氏に、キャピタリストとしてのスタンスを問うた。
井上シード・アーリーの比較的ステージが早い企業においては、できていることよりもできていないことのほうが圧倒的に多いです。そんな中で、われわれ投資家サイドから起業家に対して、できていないことを批評・評価するというスタンスは絶対に取りたくないと常々思っています。
そんな井上氏の確固たるスタンスを示すエピソードを、梅澤氏が自身の体験をもとに語ってくれた。
梅澤井上さんは、「もっとこうすべきだ」と押し付けるようなことを一切しない方です。僕はどちらかというと自分で意思決定して物事を進めていきたいタイプなので、その点はとてもありがたいです。答えを押し付けるのではなく、気づきを与えてくれるというスタンスで向き合ってくれます。
井上そうですね。僕自身、なるべく起業家のタイプに合わせたコミュニケーションを取るように心がけています。経営判断で悩んでいる時は、一緒にディスカッションして壁打ちする中で答えを探していく。そんな、起業家に寄り添った立ち位置でありたいんです。
事業上の判断において、一般論や他社の事例などは当然紹介しますが、それを起業家に押し付けてはうまくいきません。「この会社だったらどうすべきか」という、カスタマイズした判断が重要になってくると考えています。
井上この価値観は、自分だけでなく自社のキャピタリストに対しても日々伝えています。
また、人としての誠実さも大事にしていますね。上から目線で発言する、雑にやる、そういうものは徹底的に排除しようと。当たり前のことではありますが(笑)。
こうした「起業家たちに寄り添う存在でいよう」「キャピタリスト自身が人として誠実でいよう」といったスタンスが、ユナイテッドのカルチャーというわけだ。同社のキャピタリストは、ロジカルな左脳だけに傾くことも、感情的な右脳だけに傾くこともなく、両方が最適なバランスで稼働し続けている。これらのエピソードは、われわれが一般的な投資家に抱きがちな印象とは全く異なっているものだろう。
本来は投資家、中でもユナイテッドと組織構造が近しいCVCなどはどうしても起業家に対して本社事業とのシナジーを求めてしまうもの。つまりそれは、特にシード・アーリーフェーズの起業家のように、事業の輪郭が定まっていない状態の場合、資金を提供している本社が望むような事業に意図せず軌道修正してしまう可能性も孕んでいるということだ。
しかし、そこに対しユナイテッドはどこまでも“フラット”な面構えを見せる。「起業家の意思決定を阻む」ことを意識的に避けようとしている姿勢が、井上氏の一言一言から滲み出ていた。
二人三脚で共創!
足りない要素を埋める存在の心強さ
ユナイテッドのキャピタリストとしての想いや在り方について概要を掴んだところで、ここではより具体的に、投資決定後の起業家との連携について紹介したい。梅澤氏は、「井上さんと僕は、二人三脚で走り切る補完バランスを保ったコンビです」と、表現する。
梅澤井上さんはスポーツでいうところの監督・コーチのような存在だと思っています。起業家がいくら焦っても、常に動じない。冷静に「梅澤さんは今、こう思っているんじゃない?」と問いかけてくれます。しかも、それはロジックに導き出された機械的な言葉ではなく、僕の想いや感情を見通したもので、驚くほど的を射ているんです。
また、例えばiSMの高木社長はventusの提案先にまで同席してサポートしてくれています。僕が提案先に懸命に想いを伝えて、高木社長が先方に論理的に、僕に足りない箇所をフォローしてくれているんです。
「昨日もユナイテッドさんと事業の将来について議論していた」と語る梅澤氏。どうやらその支援の手厚さは本物のようだ。
井上事業戦略部分でお付き合いすることはもちろんのこと、ユナイテッドは施策の実行フェーズにおいても起業家と共に考えていきます。
例えば、顧客獲得のためにどのようなKPIを追うか、ターゲットはどこにいて、どのような優先順位で施策を実施するのか、また、プロモーションを打つ場合はLPの制作ディレクション、広告設計やキーワード設定、広告会社選定なども含めて、実行フェーズまで具体的に入り込む場合もあります。
ユナイテッドの事業は多岐にわたるが、各部門との事業間連携によるシナジーを強化し、戦略立案から具体実行までを伴走し、起業家の実利に繋がる支援をしているのだ。
井上僕らもヒリヒリしながら緊張感を持って経営支援をしています。事業会社として積み上げてきたノウハウを惜しみなく提供していきたいですね。
ここで場面は変わるが、梅澤氏はユナイテッド代表取締役社長の早川氏(2022年4月より投資事業の管掌役員も務める)とランチを共にしたことがあり、その場で単刀直入な質問を投げかけたそうだ。
梅澤「ぶっちゃけ、創業期に自分の給料はどうやって決めましたか?」と。自分の給料よりも会社のほうが大事なので、どれくらいが妥当なのか分からなくて(笑)。こんなことまで聞いちゃっていいのかと思うようなことを、たくさんお聞きしました。
投資元であり、経営者の大先輩でもある早川氏は、丹念に質問に答えてくれたという。こうした率直な問いを投げかけられるほど、ユナイテッドと起業家は密な関係性を築けているのだ。続けて梅澤氏は、ユナイテッドへの強い信頼を示す言葉を口にする。
梅澤将来、ventusには事業面や組織面で必ずや成長痛が訪れるはず。そんな時、経験豊富なユナイテッドさんからは、僕らが直面するであろう課題に先回りして、色々教えていただけたら嬉しいです。
井上もちろんです。起業家が自身の脳内メモリをできるだけ事業のために使えるように、いずれ直面するであろう課題に対して僕ら投資家が先回りして潰していくことができると、その会社の事業成長を停滞させずに進めることができるようになります。避けられるリスクを予め取り除いておくということも、多くの事業経験を持つ僕らにできることですから。
二人の掛け合いを見ていると、いわゆる資金を出す投資家とそこに報いる起業家といった構図ではなく、両社が同じ目的に向け、二人三脚で事業を成長させるといった“共創”を感じざるを得ない。そんなエピソードだったのではないだろうか。
“社会を善くする”、そんな熱いミッションを掲げる起業家ならユナイテッドへ
ここまで、ユナイテッドの投資スタンスや連携方法について詳しく紐解いてきた。他のVCやCVCとは一線を画するサポート体制や、起業家を尊重した意思決定が印象的だ。しかし、魅力的な要素は多いものの、すべての起業家と相性が良いかというと、梅澤氏は「NO」だと述べる。
梅澤「ロジックとビジネスモデルで一儲けするぜ」といっただけの、社会を“善進”させるようなミッションを持ち合わせていない起業家との相性は正直、良くないと思います。じゃあどんな起業家なら相性が良いかというと、もちろん収益性も大事ですが、「自分たちの事業で社会を善くするんだ!」という熱いミッションと、それをやり切る熱量がある人であれば、ハマります。
そんな熱量ある起業家に対してこそ、ユナイテッドさんはリスペクトを持ってくれますし、「その意志をどう収益に昇華させていくのか?」といった悩みごとに対しても、真摯に、いくらでも打ち返してくれる投資家ですので。
井上梅澤さんがおっしゃるように、ユナイテッドでは経済リターンのみでは投資判断をしません。今年度4月に制定したばかりのユナイテッドのパーパスにもあるように、やはり起業家自身が大きな志を持って、「自分はこうしたいんだ」という意志の力を最大化すべく、共に事業を創り、社会の“善進”を加速していきたいと思っています。
「社会を善くする」、「社会をより善い方向へ進める」という意気込みがある方であれば、僕らは大歓迎したいと思います。
ユナイテッドは、投資後も担当キャピタリストが一社に対し専任で伴走し続ける。だからこそ、“苦楽を共にできるか”という相性面も重要だと井上氏は語った。そして梅澤氏からは、将来ユナイテッドとタッグを組むであろう起業家たちに向けて、ユナイテッドの強みについて触れられた。
梅澤挙げるとキリがないですが(笑)、机上の空論ではない、地に足がついたアドバイスをユナイテッドさんはしてくれます。投資家さんのタイプによっては、「計数管理上やKPI上ではおっしゃる通りだが、現実的にその数値をさらに高めていくのは難しいんだよな…」と起業家側が感じてしまうフィードバックをくださる方も多いです。
しかし、ユナイテッドさんの場合は異なります。前提として、共に将来の成長に向けて大きな計画を描いてはいくのですが、ユナイテッドさんはその豊富な事業経験から、「梅澤さんが敷いてくれたこのKPI、意気込みは分かるんだけど、現実的には◯◯のほうが適切では?」などと現場感のあるコメントをくれるんです。時には「その施策、本当に実現できるの?」と、むしろ僕ら以上に現実的な見方をしてくれますしね(笑)。
このように、マクロな事業方針だけでなく、広告や営業などのミクロな戦術にまで示唆出しをしてくださり、時には顧客と向き合う現場にまで立ち会ってくれる。だからこそ、ventusが今とるべき施策の優先順位にまでアドバイス頂けて、とても心強いと感じています。もはやventusのメンバーとすら思っています。
井上起業家の方にそう言っていただけると、嬉しいですよね。僕らの投資事業本部は、“リスペクトファースト”や“リアルプロフェッショナル”というバリューを掲げています。
“リスペクトファースト”とは、「まず起業家とそのチームをリスペクトする。起業家の苦労を察し、どんなときも前向きにスピード感と愛を持ってコミット。決して逃げず、ユナイテッドがいるから大丈夫と思ってもらえるような信頼関係を築く。そして、事を成し遂げた時には、その喜びを分かち合ってもらえる真のパートナーとなる」という意味です。
次に“リアルプロフェッショナル”とは、「真のプロフェッショナルたれ。ベンチャーキャピタリストとして、常にスキル向上の努力を惜しまず、われわれ自身が継続的に進化変態するプロフェッショナルとなる。起業家と同じ視座で対等に議論ができ、クリティカルな視点で考え、議論を通じて本質的な気づきを与えられる存在となる」ということを表しています。
このようなスタンスで僕らは起業家と共に事業を創り、社会をより善く変えていきたいと考えているので、熱い想いを持つ起業家の方と、ぜひご一緒できればと思っています。
歴戦の事業、投資経験からくる豊富な支援内容とそのカバー範囲。それでいて、事業シナジーや事業の軌道修正においては起業家の意志を尊重する。ここまで包括的に起業家を支援する体制を構築している組織は、いまの日本には少ない存在なのではないだろうか。
起業家・起業家予備軍の読者が、自社にフィットした投資家と出会い、梅澤氏と井上氏のようなパートナーシップを築く日が来ることを願ってやまない。FastGrowでは引き続きユナイテッドと共に、次代の起業家と投資家の在り方を考えていきたい。次回の連載2本目では、ユナイテッドの若手キャピタリストと投資先の起業家をお招きし、さらに詳しく起業家支援の実態に迫っていこうと思う。乞うご期待を。
こちらの記事は2022年09月30日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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スタートアップ人事/広報を経て、フリーランスライターへ。ビジネス系のインタビュー記事や複数企業の採用広報業務に携わる。原稿に対する感想として多いのは、「文章があったかい」。インタビュイーの心の奥底にある情熱、やさしさを丁寧に表現することを心がけている。旅人の一面もあり、沖縄・タイ・スペインなど国内外を転々とする生活を送る。
写真
藤田 慎一郎
編集
大浜 拓也
株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。
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