日本のビジネスパーソンも、自身の価値を「デューデリ」しよう──市場価値を最大化させる“投資家的”キャリア思考法を、日米の比較に学ぶ【対談:STUDIO ZERO仁科&渡辺千賀】
Sponsored日本とアメリカのスタートアップシーンを見比べると、生まれてきたイノベーションの数や規模に、まだやはり大きな差が存在している。その背景としてよく指摘されるのが「失敗を恐れず突き進む文化」だ。日本の多くの企業や個人は、一度の失敗で人生が決まるかのように捉える傾向が強いと言われてきた。「失われた30年」と揶揄される経済低成長の背景にこうした文化の違いや、デジタル化の遅れを指摘する声は多い。
では、日本からイノベーションが起こることは、もう期待できないのだろうか?いや、そんなことはない。今からでも、ビジネスパーソンたちを取り巻く文化を変えていくことはできるはず。
たとえば、キャリア意識の面における「投資家視点」の違いに目を向け、新たな挑戦を増やそうとすべきでは──?そう語るのが、シリコンバレーで日米企業の提携支援を中心とした経営コンサルティングを行う渡辺千賀氏だ。
本記事は、同じく「日本のビジネスパーソンたちに、キャリアへの向き合い方を改めて考えてほしい」という想いを抱える仁科奏氏(プレイドの社内起業組織『STUDIO ZERO』代表)との対談である。イノベーションの根幹を成す視点を見出すとともに、渡辺氏からは公教育も含めたシリコンバレーのエコシステムが、いかにして投資家や起業家の土台づくりに寄与しているかについても言及された。日本でキャリアを送る我々は、今後どんな身の振り方を考えるのがよいのか、日米の事例から得られる“次の一手”のヒントが満載だ。
- TEXT BY MAAYA OCHIAI
アメリカでは、各業界のトップ企業がデジタル変革を当然のように進めてきた
渡辺アメリカでは実は、もともとのサービスレベルが低かった。このことが、日本よりも早くデジタル化が実現されてきた背景の一つです。
たとえば、電話の取り付けや水道修理などのサービスが約束した日時に来ない。オフィスビルの共用部で飲み物をこぼしてしまったときになかなか掃除の人が来ない。
そこで「雇った人間を信じて任せ続ける構造」をなんとか洗練させるのではなく、「抜け漏れが発生することのないシステム」を導入することで、サービス品質の向上を実現しようとしてきたわけです。
もちろん、アメリカでもこうした動きがすぐにうまくいったわけではない。だが、早い時期からデジタル化を仕込んできたからこそ、AIを含めた技術革新が著しく進んだここ数年の間に、一気に形になってきた。
渡辺一方、日本では、現場で働くパートタイマーやシフトワーカーと呼ばれる方々が、真摯に高い質の働きをしてくれると言われています。そのため皮肉にも、テクノロジー導入の必要性が相対的に低くなってしまっていたのだと思います。
日本のビジネスシーンでここ数年の間、重要なテーマになり続けてきた「DX」という言葉。その背景として、「デジタル化やテクノロジー活用を進めなければ」という切迫感に、日米の間で大きな差があったのだと渡辺氏は指摘する。
DXも含めた手法を用いて大企業や行政団体を多面的に支援する『STUDIO ZERO』の仁科氏も、同様の所感を持つ。「産業と社会の変革を加速させる」というミッションの実現に向け、アメリカの大企業の事例も普段からよく学び、参考にしているという。
仁科日本でも、業務効率化を進められるSaaSプロダクトは増えてきたので、一部のデジタル化は進んできたと思います。ですが、産業構造やビジネスモデルを大きく変えるようなデジタル化(デジタル変革)はなかなか起きていないと思うんです。
たとえば、世界最大の小売企業と言われるWalmart(ウォルマート)のDX事例に、リテールメディア*事業があります。「2023年に34億ドル(5,100億円)に達する」と予測されていました(正確には「グローバル広告事業の収益」)。数十年にわたって仕込んできたものが、今になって大きく花開いているんですね。
*……たとえば食品スーパーの実店舗に設置されたモニターで広告動画を放映するなど、「小売事業者が独自で端末を設置し、顧客データを活用しながらマーケティングを行う手法」を総称したもの
渡辺そうですね。長く取り組んできたからこそ、これだけ大きな売上創出につながる動きになります。
ちなみに、ウォルマートだけでなくアメリカの企業のほとんどが、DXという言葉を使っていません。IBMやDeloitte(デロイト)ぐらいですね。他の企業は自然にデジタル変革を進めてきたし、今も進めています。
ウォルマートの リテールメディア 事業が急成長。収益の多様化とターゲティング強化でAmazonの脅威から脱却https://t.co/QEHx5rxKG3
— DIGIDAY JAPAN (@DIGIDAYJAPAN) December 4, 2024
ウォルマートのリテールメディアは、業界内外の注目を集め続けている
そもそもウォルマートが1980年代からPOSシステムとマーケティングを連動させ、販売データから売上予測や生産管理を緻密に進めてきたことをご存知の読者もいるだろう。30年経った現在では、以前から存在したシステム担当チームとは別に、オンライン販売に特化した部隊をシリコンバレーに置き、数千人規模でオンラインチャネルを強化・運用している。
なおこうしたデジタル変革の動きはウォルマートだけの特別なものではなく、他企業・他業界でも多くの事例が生まれているのだと渡辺氏は言う。
渡辺Goldman Sachs(ゴールドマン・サックス)では、アメリカで働く従業員約46,000人のうち10,000人以上がITエンジニアです。日本の金融機関でこれだけのITエンジニアを抱える企業はないのではないでしょうか。
ウォルマートやゴールドマン・サックスだけでなく、従業員としてITエンジニアを多く抱えたり、ITベンチャーを買収したりするなど、業界のトップ企業がデジタルへの取り組みをしているのが当たり前です。こうした環境だと、他企業も当然のようにデジタル化を進めますよね。アメリカでは特に2000年代にIT化が進み、このときに日米の差が大きく開き始めたと感じます。
また、シリコンバレーで生まれたスタートアップのプロダクトを、エンタープライズ企業が昔から当然のように多く導入しています。この点も、日米差が広がる大きな要素だと言えるでしょう。
仁科それが当たり前になっているのは、過去数十年のDXの取り組みの成功体験が根付いているからですか?
渡辺そうですね。なお、ポイントは「大企業の社内にテクノロジーを理解できる人材、特に優秀なエンジニアを抱えていること」です。そうでなければDXもなかなか進みません。
なお、そういった人材を集めるためには、テクノロジー活用に対する経営者の理解も同時に必要です。
そうした条件がそろっていれば、新しい技術を活用したスタートアップの製品も適切に評価することができます。
アメリカでは、小売企業や金融機関もITエンジニアを高く評価し、組織に多くの人数を抱え、テクノロジーで事業にレバレッジをかけようとしてきている。冒頭で挙げたGoogleやNetflixのようなソフトウェア企業はさらに力を入れているはずで、ITエンジニアが新卒でも高い給与を受け取るのにもうなずける。
大企業でもスタートアップでも、ITエンジニアの給与水準は日本でも上がっており、多職種を含めた賃上げに積極的な企業もいる。しかし、社会全体にそうした傾向があるとまでは言えず、格差の広がりを指摘する向きもある。この現実を前に、アメリカの事例から、私たちは何を学ぶべきなのだろうか?
中長期的な人生ビジョンに向け、今どこに身を置くべきか
アメリカのソフトウェア企業では、ITエンジニアがまさに花形の仕事で、給与水準は非常に高い。ストックオプションも含めたトータルの新卒入社での年収が、Googleではソフトウェアエンジニアが20.3万ドル(3,045万円)にのぼる一方で、セールスは13.5万ドル(2,025万円)だ。Netflixでも同様に、ソフトウェアエンジニアは22.3万ドル(3,345万円)、セールスは12.7万ドル(1,905万円)となっている(2025年2月12日時点、アメリカの給与比較サイト『Levels.fyi』を参照)。
仁科日本のスタートアップや大手企業を広く見ても、ソフトウェアエンジニアの新卒初任給は500万~700万円程度のものが多いように思います。これでも昔に比べるとだいぶ上がっていて、ほかの職種や業界の水準に比べると相対的に高い数値だと思いますが、単純比較で4~8倍の差があります。昨今は物価の差も大きいので、この数値をそのまま真に受けてはいけませんが……。
渡辺物価の差も、最近はかなり気にかかるところですね。
だが、賃金だけに目を向けても仕方がない。一人ひとりにとって重要なのは「本当の市場価値」である。アメリカの事例から学ぶべきは、「中長期的な人生ビジョンに向け、今どこに身を置くべきか」という考え方になるだろう。まずは渡辺氏が特に詳しい「起業家のキャリア」についての事例から聞いていきたい。
渡辺いきなり学生から起業するケースは、実は少ないんです。最近話題になった例で、マイクロソフトに長年勤めた50代の方が起業したベンチャー企業がありました。シリコンバレーの起業家コミュニティとして最も有名なY Combinator(スタートアップアクセラレータープログラム)でも、30代後半以上の応募者もいます。
著名企業ではマクドナルド、IT企業ではCisco(シスコ)は50代の創業者が設立した。日本でも同様の事例はあり、たとえば出口治明氏がライフネット生命を創業したのは58歳の時である。
日本のスタートアップシーンでは「本当に起業して成功したいのなら、とにかく早く起業をしよう」とよく言われる。だが、スタートアップの本場・シリコンバレーで見聞きしている実情から渡辺氏が語るのは「必ずしも、若くして起業する必要はない」ということ。
仁科私自身、「インフラになるような事業を、経営者として自ら興したい」というビジョンから逆算して、「そのためには、少しでも早く経営者にならなければ!」と考えてきました。でも、50代で起業に至るというキャリアが合理的な場合も当然あるのだということには、確かにハッとさせられますね。
一定のキャリアを積んだ上で、企業勤めを続けるか、起業に挑戦するか、それとも全く別の道を探るか。個人の人生プランに応じて、それぞれのタイミングでさまざまな選択肢をフラットに検討していくべきだということですね。
渡辺そうです。たとえばGoogleのようなビッグテックに在籍していたこと自体やそこで得た経験が、強い信用や期待となって、資金調達の際にも大きなプラスになります。企業に勤める中で蓄積したビジネス経験が、投資家からの信頼につながることも大いにあるわけです。
それに、今は日本でも、スタートアップを起業して、たとえ失敗しても、次の仕事がないということは全然ないと思います。むしろ大企業でも、そういうチャレンジ精神を持った人材を求めるようになっていると思います。
この「一度ダメでも大丈夫」という価値観を、もっと日本全体に浸透させていく必要があると考えています。
この価値観は今後、起業家にとってだけではなく、すべてのビジネスパーソンにとって大事なものになるだろう。日本でも転職が当たり前となり、ひとつの企業でキャリアを終える人はどんどん減っていく中、「選択肢を持ち、フラットに比較すること」の重要性は間違いなく高まる。 とはいえ、海外の価値観をそのまま取り入れようとしてもうまくいかないだろう。こうした違いの根源にもしっかり目を向けたい。互いにこの点が気になったからか、話題は自然に「教育」へと移った。
アメリカのアウトプット型教育、日本のインプット型教育
仁科ここまでお聞きした日米の価値観の違いは、「教育システム」の影響も受けているのではないかと思いました。子育て中でもあるので、気になります。日本の学校とはだいぶ違うと思うのですが、シリコンバレーの教育シーンで、特徴的な取り組みだと感じるものはありますか?
渡辺はい、アメリカで子育てをしてきた中で印象的だったのが「人前で発表する機会が多いこと」ですね。
中でもユニークだと感じたのが、小学校中学年での「物語を自分で創作する」といった授業ですね。まず、「物語とは何か?」という定義やフレームワーク、例えば「導入があって、展開があって、クライマックスがあって、その後に説明が入る」ということまで教わります。この内容を踏まえ、生徒達が自由に創作し、発表するという授業があるんです。
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イメージ:アメリカの小学校で教わる「物語構造」(FastGrowにて作成)
自由に物語を創り、人に対して語る「アウトプットの力」は、起業や事業開発の場面でも大いに活きそうだ。「自らのビジョンや想いを魅力的なストーリーとして紡ぎ、聞き手の心をつかむ」という経験を、自然と積み重ねているわけだ。
仁科日本ではビジネスパーソンでも、「自分なりのオリジナルな考えを発信し、フィードバックを受ける」という機会は意外と少ないですよね。小さい頃からそういった経験を積み重ねることで、その後の人生やキャリアにも違いが出ているように感じます。
それ以外にも、学校教育の中で「読む」よりも「書く」、「聞く」よりも「話す」という形で、アウトプットの機会が多いのだという。例えば歴史の授業でも、説明が書かれた教科書の内容を聞くわけではない。歴史上の人物について各自で調べたうえで、衣装を自作してその人物に扮し、歴史に残っているものごとについて発表するのだ。
一方で、シリコンバレーの教育が万能というわけではないだろうと、渡辺氏は持論を述べる。
渡辺算数や理科など、正解とされる計算法が決まっているような領域では、圧倒的に日本の教育の方が優れていると感じます。そうした領域で、さまざまな生徒を一定水準まで引き上げる力も、日本の方が断然上だと思います。
多くの情報を、教科書に網羅的かつ端的にまとめてあるので、子どもたちが全体像を理解しやすいのでしょう。いわば「インプット」が強い。
一方で、アメリカで使われる教科書はとても分厚く、余計な内容も多いので、何からどう理解すべきかを子どもたちがつかみづらいんです。実は基本的な引き算ができないという大人も一定数いたりするんです。
仁科その違い、面白いですね。
これから『STUDIO ZERO』が「産業と社会の変革を加速させる」というミッションにより一層取り組んでいく中で、日本で生まれ育った人たちのメンタリティを深く理解することが重要になります。教科書の違いがどのようなメンタリティにつながるのか、もっと深く考えてみようと思いました。
「この社会をよくするんだ」という想いこそ、新世代からの共感や協力を得るために不可欠では?
仁科ところで、教育の特徴はここ数十年ほど、大きくは変わっていないと思うのですが、世代によってキャリアについての考え方は変わっていますよね。「アメリカでは、Z世代が社会貢献といった文脈で新たな感性を発揮している」とよく聞きますが、渡辺さんはどのような変化を感じていますか?
渡辺まさにおっしゃる通りで、「お金よりも社会貢献が大事」だと強く思っている人が、アメリカの若年層では非常に増えていると肌で感じていますね。身の回りでそういった発言を聞く機会が明らかに多くなっています。
ソフトウェア企業が世界的なプレゼンスを高めるここ20年ほどの間に公教育を受けた、ミレニアル世代やZ世代たち。今、その価値観には、前の世代との間で明らかな変化が見られており、アメリカの各企業もマーケティングや採用の面から着目している。渡辺氏はその変化の背景にある「格差の深刻化」について言及した。
渡辺古い歴史の教科書を見ると、「19世紀の大富豪のロスチャイルド家は、馬車の窓から銀貨を撒きながら移動していた。ただし、ロスチャイルド家のような大富豪は、もう二度と現れないだろう」と書かれていました。つまり、そのレベルの貧富の格差はもうなくなったと思われていたということです。
ですが再び、大統領選挙に関連して金銭がモノを言うという、同じようなことが起きていますよね。富裕層の資産規模はむしろ、100年前よりも数桁増えていて、起業家の筆頭格であるイーロン・マスクが資金力を使って民衆に影響を与えようとしています。
BBCニュース - 【米大統領選2024】 マスク氏、激戦ペンシルヴェニア州で毎日1人の有権者に100万ドル贈ると表明 https://t.co/xCQZFIrIaS
— BBC News Japan (@bbcnewsjapan) October 21, 2024
イーロン・マスク氏のこの動きには賛否両論が渦巻き、訴訟に発展する動きもある
渡辺この社会のあり方は正しいのだろうか?そんな疑問が、特にZ世代などの若者たちの間で強まっていますよね。
仁科まだ30名規模の『STUDIO ZERO』でも、新卒を中心とした若手メンバーから、「自分らしく生きながら、社会貢献にも携わりたい」(仁科氏はこれを「善く生きる」と表現する。その想いはこちらのインタビュー記事で詳しく述べられている)という声を多く聞きます。海外留学など、国外に出た経験を持つメンバーが多いこともあると思いますが、アメリカの若者と似たような感覚を持っているのかなと感じます。
ちなみに、アメリカのそういった若者たちは、どんなキャリアや生き方を選ぼうとするケースが多いんですか?
渡辺アメリカでは、2000年代から、コンピュータサイエンスや機械工学を専攻する人が非常に多くなっていますね。社会貢献を志向した生き方を目指す人が増える一方で、いわゆる理系人材はテクノロジー企業に進んで高給を得ようとする動きが強まっています。
仁科理想とする生き方のためには、資本力こそ重要だと考える人も増えているのかもしれませんね。資本主義のルールに則って一定の財を成しつつ、それを自己満足で終わらせずに世の中に還元していく。この両立を通じて、「生きがい」を見出しているのかなと感じました。
一方で、上の世代の生き方や価値観から学ぶべき部分もあるはず。渡辺氏によれば、大きく2つのパターンがあるのだという。
渡辺淡々と裕福な生活を“余生”として送ることを選ぶ人は、私の身の回りにも多くいます。「事業でひと山当てて、30代で引退し、それっきりビジネスの世界に戻ってこない」という知人が何人もいますね。
その一方で、一生困らないだけの資産を手に入れた後も、新しいことに挑戦し続ける人たちがいます。先ほど挙げたイーロン・マスクもそうですし、ドナルド・トランプもそうですね。彼らは良くも悪くも、「勝ちたい」という欲求や気概を非常に強くお持ちで、隠すことなくさらけだしていますよね。
日本の起業家にも、同様に「勝ちたい」という想いを原動力に、成果を残している人たちはいると思います。
仁科そうですね、「勝ちたい」というか、「絶対に成功するんだ、成功するまで続けるんだ」という気概は間違いなく重要だと思います。起業家や政治家に限らず、企業の中で働き続ける中でも、こうした気概があってこそ残せる成果があるでしょう。
ですが今はやはり、そんな気概だけでうまくいく時代でもないと私は考えています。「この社会をよくするんだ」という想いこそが、新世代からの共感や協力を得るために不可欠になっていくと思います。
仁科氏は、『STUDIO ZERO』のミッションや個人のライフミッションにおいて、「いかにして、この社会を良い方向に変えていくか」を最も重視している。この姿勢が、時代に求められる変革を実現するために不可欠だと考えているためだ。
ここまで、日米の違いをビジネス・待遇・教育といった広いテーマで考えてきた。最後に、これらを総括するかたちで、「では日本のビジネスパーソンは、よりよいキャリアのために、何をどのように参考にすべきか」を伝えたい。
日本のビジネスパーソンに伝えたい「投資家目線」「客観比較」「キャリアの試着」
仁科日米の間にはさまざまな違いがあると改めて捉えなおすことができた一方で、「成果を残すためには、“気概”が重要」という共通点も見えました。これまでの議論も踏まえた上で、日本に暮らすビジネスパーソンに対してキャリアの観点でアドバイスを送るとしたら、どういった内容が浮かびますか?
渡辺アメリカのスタートアップで働く人たちには、「投資家目線で会社を見ている」という共通点があると感じます。日本ではあまり聞かない考え方ではないでしょうか?
その会社が将来大きく成功するかどうか、自分の目で見極めようとする意識が強いんです。だから、これまでの資金調達の時期や金額、投資家は誰かといった情報をしっかりと調べています。
仁科今のお話、すごく素敵だなと思います。自分が今いる環境を投資家目線で見るということもそうですが、自分の人生の価値に対してもデューデリジェンス*するような感覚は大事ですよね。
まずは「人生をかけてやりたいこと」「自分が得意だと感じること」をしっかり考えて、見つめる。その理想に向けて、今の自分は世の中の水準と比較してどの程度の価値を持っているのか、マーケットからの視点も交えて客観的に比較し続けることで、生き方がより主体的・能動的になっていくと思うんです。
*……企業への投資を行う際に、その価値やリスクについて詳しく調査することを指す
この「比較」という観点に、意外と違いがあるのではないか?渡辺氏はそう問いかけながら、日本の特徴を分析している。
渡辺「いろいろなものを比較して、一番良いものを選ぶ」というプロセスを、日本ではあまり経験しないまま大人になってしまう人が多いように感じます。なぜなら、日本では商品の品質が総じて高いからです。どの商品を買っても、説明書を見て操作すればちゃんと動くし、使える。だから、一つだけしか見ていなくても「良さそうだ」と感じたら購入を決める。それで不自由することはめったにありません。
一方、アメリカでは、ロサンゼルスやシリコンバレーといった都心部でも、商品の品質をすべて信用できるとは限りません。そのため、損をしないよう、複数の選択肢を常に比較検討する習慣が自然と身につきます。会社選びもその感覚で、複数を見た中から比較して、ベストなものを選ぶ。これは仁科さんがおっしゃった「自分の立ち位置を客観的に理解する」という意味でも、大事なんじゃないかなと思います。
仁科渡辺さんのお話を聞いて思うのは、特に世界から見た相対的なプレゼンスが下降傾向にある日本では、目指すべき基準自体も自らつくっていく必要があるんじゃないかということです。周りに合わせすぎると世界から見て低い基準になってしまう。なので、自ら高い基準を持とうとする欲求が、今後は重要になってくるのかもしれません。
渡辺そうですね。私は「キャリアの試着ルーム説」を提唱しています。
見たことや着たことのない服は欲しくならないので、まずはお店に行って、服を見て、買うかどうかわからなくても試着ルームに持っていくことで「意外と合う」「やっぱり合わない」と肌で感じることが大事。キャリアも同じです。
見聞きしたり経験したりしたことのないキャリアを目指すのは難しい。だからこそ、転職活動をしてみてさまざまな人と話すだけでも、新しい可能性を探る良い機会になると思うんです。その過程で比較し、基準を考えることが、その先のキャリアに活きると思います。
自分が投入できる時間やスキルを“投資リソース”と位置づけた上で、企業やプロジェクトを多く挙げて徹底的に比較し、「どこに張るべきか」を投資家目線で考える。渡辺氏がシリコンバレーで見聞きしてきたエピソードからは、そうした意識が人生を豊かにするのかもしれないと思わされる。ただし、あくまで「どう意識するか」の違いがあるだけだと考えるのが重要だ。決して「アメリカの教育を受けたほうがイノベーターになれるはず」といった短絡的な話ではない。
人生における重要な選択は一度きりの後戻りがきかないものではない。失敗したら終わりというものでもない。常に複数の選択肢を比較し、より高い基準を目指し続ける。そんな視点を持つことこそが、イノベーションを生み出すキャリア構築の鍵となっていくのかもしれない。
こちらの記事は2025年02月17日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
落合 真彩
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