大企業の新規事業が、日本を変える──「失われた30年」を乗り越えていく提案を、新規事業家・守屋実とSTUDIO ZERO・仁科奏が語り合う

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インタビュイー
仁科 奏

早稲田大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。NTTドコモにて営業企画職、セールスフォース・ジャパンにて営業職とカスタマーサクセス職を経験後、プレイドに参画し、営業をリードしながら事業成長に貢献。その後PR Tableに執行役員CFOで入社し、CPOなどを兼務しながら事業成長を実現。再度プレイドに復帰し、事業創造・事業共創を行うSTUDIO ZERO事業を立ち上げ、管掌している。

守屋 実
  • 新規事業家 

新規事業家。ミスミを経てミスミ創業者田口弘氏と新規事業開発の専門会社エムアウトを創業。2010年守屋実事務所を設立。ラクスル、ケアプロの創業に副社長として参画。2018年ブティックス、ラクスル、2か月連続上場。博報堂、JAXAなどのアドバイザー、東京医科歯科大学客員教授、内閣府有識者委員、山东省人工智能高档顾问を歴任。近著に、新規事業を必ず生み出す経営、起業は意志が10割、DXスタートアップ革命など

「失われた30年」を乗り越え、日本企業の変革を加速したい──。

事業開発や大企業支援のプロフェッショナルとして第一線で活躍する2名、新規事業家の守屋実氏と、プレイドの社内起業組織『STUDIO ZERO』代表仁科奏氏。共通するのは、日本の大企業が持つ可能性への確かな手応えだ。「GAFAMなどの時価総額と比較されてしまうことも多いが、大きな社会インパクトを生み出し得る大企業が日本にも非常に多い。問題は、その力を最大限発揮できていないこと」と二人は指摘する。

では、どうすれば良いのか?そのためのキーワードとして語られたのが、「本業の汚染」(守屋氏)と「アントレプレナーシップ」(仁科氏)。

守屋氏はJR東日本スタートアップに参画し、JR東日本とさまざまなスタートアップとの共創を通じて、5年間で51もの事業の立ち上げに携わってきた。仁科氏も同様に「プロダクト×ヒト」で複数事業を展開するプレイドにおいて社内起業家集団を率い、各方面での事業開発・組織開発を同時展開している。これらの実践から見えてくるのは、「大企業/スタートアップ」という二項対立を超えた、全く新たな社会価値創出の可能性だ。

本対談では、「そもそも事業とは?」という話題に始まり、新規事業創出における大企業特有の課題から、その解決に向けた具体的アプローチまでを探っていく。20代の若手から経営層まで、新規事業に関わるすべての人に示唆をもたらす内容となっている。

  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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人は誰もが「新しい景色」を求める──生物としての根源的欲求

守屋新しい事業って、みんなつくりたいんじゃないですか?人間は。

仁科そうかもしれません(笑)。

大企業/スタートアップという二項対立から離れた立ち位置で、さまざまな領域の事業開発現場に携わるこの二人。まず投げかけた「そもそも新規事業が、なぜ必要?」という問いに対する答えに、それぞれのキャラクターが見えつつ、さっそく同調した掛け合いが展開された。

守屋氏

守屋海から陸に、そして森から平野に出てきて、農耕をして、みたいに進化してきたのが生物であり人間ですから、そういう風に新しい景色を見たいんじゃないですか?細胞レベルで。

仁科はい、「見たことがない新しい景色を見てみたい」「行ったことがない新しい場所に行ってみたい」という感覚ですね。

守屋新しいことをしてより良い社会とか新しい生活とかをつくりたい。それを現代風に言うと、資本主義下における「事業」なんだと思うんです。

仁科「自分の生きた証を残したい」という意識はみんな多かれ少なかれ持っていると思うんですよ。そのために自分にしかできないことを何かしらの形で日々の仕事の中で表現してみたいと考えるのは、自然な現象だと思います。

守屋で、僕はそれが単純に楽しい。最初にかっ飛ばした経験として、ミスミでの動物病院向け通販サービス(*)の仕事が楽しかった。事業は成長していたけれど本業から距離があったので売却になっちゃったんですが、いまだにたくさんの動物病院にご利用いただいています。

最近改めて聞いたら、アクティブなクライアント数が11,000くらいだそうです。動物病院って全国に、12,000件くらいなので、すごいシェアですよね。今でも動物病院の人と話をすることがあると「あなたがつくったんですか!?」と言われたりもするので、やっぱり嬉しいですよね。

*……NewsPicksなどで当時の事業の話が読めるので是非合わせて確認してほしい

仁科私もとにかく楽しいですね。今は四六時中、自分が信頼している仲間たち、つまりはプレイドやその創業者たちが掲げるミッションや、私自身が中心となって掲げたSTUDIO ZEROが決めたミッションの達成のために動いているのが楽しい。

たとえば私は、保育園に登園しながら子どもとの会話を楽しみつつ、並行で同時にSlackを見ながら事業に関する重要な意思決定を進めることもありますね(笑)。子どもと過ごすことと、仕事を前に進めることの2つに優劣はなく、どちらも全力で楽しみながら取り組んでいる感覚ですかね。

仁科氏

この二人が共通して感じている「事業の楽しさ」。純粋なこの想いを抱きながら、日本社会の閉塞感を打破しようと取り組んでいるところも共通している。

では、それぞれが得意な領域において、閉塞感をどのように打破していこうとしているのか。現代社会についての認識を確認し、それから過去・現在・未来という軸で対談を追っていこう。

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“失われた30年”は言霊となり、大企業の挑戦心を縛りつける

守屋何よりも強く感じるのは、「失われた30年間」ってそこらじゅうで言われて、あまりにも言い過ぎて言われ過ぎて、そうしているうちに本当に全部だめな社会に見えてしまい、委縮した思考になってしまっていると思うんです。そういった状況を私は「日本病」と呼んでいるのですが。

仁科そうですね、“言霊”みたいな感じで、隅々にまで広く影響してしまっていますよね。

守屋日本企業はもっといろいろな新しい価値を生み出せるのに、そこまで出せていない状態になってしまっていると感じます。

守屋氏は「日本病」についてデジタル書籍としてもまとめている

「日本病」により萎縮してしまった企業。一方で日本の大企業こそが持つ大きなポテンシャルについて話が盛り上がる。

仁科私は、以前在籍していたNTTドコモという大企業で、資本力のある企業が生み出せる大きな価値を肌で感じていました。体力や資本力があり、産業に対する影響力も大きく持っている。そういう存在として、各産業や各企業で取り組むべきテーマがあるはずですから、しっかり取り組んでいけばより良い社会がどんどん実現されていくと思うんです。

大企業が持つポテンシャルは資本市場の原理からも説明できます。例えば、時価総額という一側面から見たときに、ここ数年は大企業の方がスタートアップよりも時価総額を堅調に伸ばし続けているようにも見受けられます。伸びしろが大きいと期待されているスタートアップのほうがむしろ乱高下があって、上場後に急成長をし続けている企業は稀です。社会に与えるインパクトという観点では、大企業のほうがわかりやすく大きいはずなんです。

確かに、日本の大企業の時価総額を2010年代から2020年代にかけて見てみると、2倍以上に増額している企業がいくつも見受けられる。世界の時価総額ランキングの規模ばかり見ていると日本企業の影響力低下が印象強くなってしまうが、実際に個別銘柄を見れば、着実に存在価値を高めている。

仁科ちなみに私が今、大企業の支援につながる事業をしているのは、BtoB×エンタープライズという事業領域が個人的に得意だったというのが出発点ですが、実際にやっていく中で強く手ごたえを感じるのは「巨人の一歩が社会を変える」という点ですね。

守屋「巨人の一歩」って、本当にそうですよね。特に新規事業という観点でポテンシャルは大きいですよ。

JR東日本は、5年間で総勢10人で1,077もの案件を揉んで108個の実証実験をして51個を事業として生み出しました。JAXAも同じで、6年で20人くらいのコアメンバーが、宇宙という大きなテーマで200人くらいの仲間を巻き込みながら数十のプロジェクトを生み出してきました。

これだけの規模の事業を生み出していけるのは、間違いなく大企業ならではのことです。

JR東日本やJAXAとの事例は、守屋氏の支援エピソードとして他のメディアなどでも語られることが多い(JR東日本での奮闘記はこちら)。その規模感が象徴的だ。そして直近、守屋氏の心を捉えているのが“静脈産業(*)”という領域。つまり、大企業が音頭を取って社会を変えていける領域なのだと強調する。

*……リサイクルやリユースといった言葉で表現されてきたような、「販売され使用されたのち、不要となった製品たちを扱っていく流れ」を指す。具体的な事業としては収集運搬、中間処理(解体や選別)、資源化などがある。対する概念として“動脈産業”という言葉も使われるようになっており、こちらは「原料を新たに生産し、それらを組み合わせて製品を完成させ、販売する流れ」を指す

守屋デンソーとの事例も面白いのでぜひ紹介したいです。最近、「Car to Car」と名付けた新静脈エコシステム事業に挑戦しています。これは、車の総重量の90%を次の車にしましょうという取り組み。廃車となったあとで、部品を精緻に分解して、新たな車の製造に利用していくわけです。

これ、そもそも一生懸命つくってきた「どんな過酷な環境で使っても壊れないクルマ」を、丁寧に壊して再利用するという話で、いわば“矛盾”なんですよね。はがれないように接着したものを、手早くはがしたりしないといけないわけです(笑)。

仁科面白いですね(笑)。

トヨタグループの主要会社、デンソーが牽引するからこそ、「廃車の部品活用」というこれまでにない大きなインパクトを生み出し得る事業が実現に近づいているというわけだ。その実行フェーズにおける特徴について、守屋氏が力説する。

守屋この動きの中で、デンソー社内だけでは実現不可能だとわかった6つの技術について発表したんです。「できる人来てください!2027年までにデンソーのラインに入れます!」と(実際の募集内容はこちらを参照)。

そしたら、ちゃんと技術と人が集まり始めたんですよ。

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「大企業のやるやる詐欺」と「スタートアップの出来る出来る詐欺」による「オープンイノベーションごっこ」に終止符を

仁科その事例、すごく面白いですね。ピュアに事業に取り組んでいると感じました。全く異なった例として、少し前に「間違ったオープンイノベーション」という言葉も流行りましたよね。

仁科氏が即座に反応したように、デンソーの事例はまさにイノベーションの理想形であるといえよう。オープンイノベーションという言葉にまつわる疑問を呈しながら、守屋氏が補足する。

守屋「オープンイノベーションごっこ」という言葉が広がっちゃってますよね。その要因が、「大企業のやるやる詐欺」と「スタートアップの出来る出来る詐欺」。

大企業側がまず手段先行で、「オープンイノベーションをやるんだ」と決めた上で動いてしまっている。それで突然「威勢のいいスタートアップを募集!」と言い始めます。するとスタートアップ側も大企業さんとの協業実績がほしいから、なんとなく応じてしまう。これじゃ何も良いものが生まれない。

さっきご紹介したデンソーの事例はそうじゃなくて、「廃車を適切に解体して再利用するんだ!」と言っています。やりたいことが明確にある、でもグループ企業内ではどうしてもできないとわかったので、そのための手段を持っている相手だけに絞って募集したわけです。「液状ガスケットで固着されたエンジンの基盤を外したい!」のように専門用語をはっきりと使い、課題を明確化しているので、液状ガスケットに関する技術を持った相手しか来ないんですよ(笑)。そうなれば事業競争も着実に進みやすい。

繰り返しになりますが、「手段先行」が悲劇を生んでいると思います。

守屋氏が苦々しく思う「手段先行という考え方からの悲劇」。いわば、目的と手段の逆転が起こりやすくなってしまっているわけだ。似た観点から、仁科氏は自身の経験を基に「サラリーマンシップ」の課題を指摘する。

仁科私がこれまでの事業を通して感じたのが、サラリーマンシップとアントレプレナーシップの間のギャップです。ちょうど10月にあった社内イベントで、社外取締役の方からも近い話を聞き、改めてこの意識的な区分は大切だなと。この二つの言葉で「手段先行」の悲劇を整理して説明できると思うんです。

サラリーマンシップに囚われていると、手段先行になりやすい。「上司から言われたことに対して自分の思考や仮説を介さずに淡々とこなしていく」という、受動的な仕事の進め方に陥ってしまいますね。ただ、事業規模が大きくなっている組織の勝ち筋として、誰がやっても一定の結果を出せるオペレーション構築が大事なので、サラリーマンシップも必要ではあるんですよね。

一方でアントレプレナーシップというのはその正反対ともいえる態度を指します。「上司から指示があったけど、この進め方が目標達成に最短経路で行けそうなのか?もっと自分なりに工夫できることはあるのだろうか?」と疑問を持ち、新たな道を思考しながら動いていく仕事の進め方ですね。

守屋さんが過去のイベントで話されていたように「役員、リーダー、現場の3層構造」がつながればそれぞれのアントレプレナーシップの相乗効果が生じて、新しい動きが一気に加速すると思うんです。

守屋大企業って必ず、大きな基幹事業を持っていますよね。NTTドコモなら通信キャリア事業、トヨタ自動車なら自動車メーカー事業がある。

トヨタに入社して「あれ、つまり俺は車をつくる会社に入ったってことか」と驚く人なんていないはず(笑)。インダストリーも顧客もプロダクトも定まり切っている世界なわけです。それどころか、例えば、レクサスの工場でエンジンの組付け業務に従事することになったら、100%を超える120%完成度の業務マニュアルがあり、まずはそれを覚えて正確に作業を行えるようになることが大事なわけです。それが当然であり、そこに疑問を抱く暇があったら早く業務を習得し一人前になることが大事なんです。

でも新規事業って、インダストリーも顧客もプロダクトも、それぞれに対して自ら大きな問いを持ちながら新たに考え続ける必要がありますよね。そして、その実現のための人やお金をどう調達すべきかについても考えていく必要がある。これらを同時に全部やらないといけないわけなので、サラリーマンシップに囚われた人たちとは大きく異なる動き方や思考法が必要になるんです。だから、なかなかうまく進められない。私は「本業の汚染」という言葉でこれを呼んでいます。

仁科そうした「本業の汚染」が起きてしまうもう一つの理由に、「オペレーションエクセレンスの引力の強度」があると感じています。

大企業における本業では、その規模の大きさから、ほんのちょっとの現場改善だけでもとてつもないインパクトが出る。だから手段先行の考え方で、成果を出し続けられることも少なくない。

そんな現場では、「構造やマニュアルの在り方自体を変えよう」とか「人やお金の在り方を最適化しよう」とか考えるアントレプレナーシップがなかなか許容されにくい。

守屋そういうことをいざやってみると、途端にまわりから「そんなのは無理だ」「失敗したらどうするんだ」だなんて言われてしまうんじゃないですかね(笑)。

それぞれの経験を基に、あくまで冷静に、新規事業が進まない難しさについての分析を語り合う。使う言葉は微妙に異なるが、同じ本質を捉えて語り合っている様子だ。

では二人とも大企業が持つ構造に対して絶望を覚えているのかと言えば、まったくもってそんなことはない。この点は冒頭でも強調した通りであり、むしろ大企業内のキーパーソンたちを焚きつけることに取り組んできた。

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ジャパニーズドリーム──既存事業と新規事業の「いいとこ取り」

大企業の中に、アントレプレナーシップを持つ人は当然、少なからずいる。つまり課題は、そうした人たちが実力を発揮する機会が少ないことにある。逆の言い方をすれば、この課題を少しずつ解消していくことで、大企業の新たな強みは発揮されていく。

そんな考えを持った二人は次に「組織」の中で、ミドルリスク・ミドルリターンの挑戦環境を整えるのが良いのではないかと語り合う。

守屋出現確率が低いだけで、大企業の中にアントレプレナーシップを持つ人は当然、存在します。ただし「本業の汚染」があるため、きちんと取り組まなければ、なかなかその素質を発揮できません。

でも先ほど仁科さんが紹介してくれたように、役員とリーダー、そして現場という3層にアントレプレナーシップを持つ人が揃えば、途端に新しい動きが起こるようになります。“惑星直列”のような奇跡的な確率でしか、これまでは起こっていないのですが(笑)。

仁科だからこそ、本業に基づいた既存ルールも活用しながら、大企業ならではの強みをレバレッジしていく新規事業を起こしたいと思うんですよね。そうすれば、この社会に新たな素晴らしいインパクトを生み出せるんじゃないかと。

守屋そういうのをミドルリスク・ミドルリターンという言葉で捉えたいと考えています。独立起業のようなハイリスク・ハイリターンでもなければ、大企業の本業におけるローリスク・ローリターンでもない。その間をうまくつくることでジャパニーズドリームと呼べそうな大きな夢を得られそうですよね。

たとえば、あくまで想像に基づく話ですが……セブンイレブンの中の『セブンカフェ』だけを捉えると、あれは間違いなくユニコーン級の事業/ビジネスですよね。

仁科間違いないですね(笑)。

守屋でもその『セブンカフェ』という事業を生み出して牽引した創業社長のような人の存在は、たぶんあまり知られていないじゃないですか。もちろん社内で出世されているかもしれませんが、ユニコーン企業で株式保有比率がたった1%だったとしても同じようにやっていたとしたら報酬にどれだけ違いがあるのか……。

仁科そう考えてみると、すごい報酬になり得ますよね(笑)。

守屋これこそジャパニーズドリームのような話だと思うんです(笑)。全国規模で等しく価値を生み出しているセブンイレブンというプラットフォーム上で起業し、成功したみたいな話です。こういう動きを生み出せるようにする必要がある。

となると、事業開発を考える前に人材開発や組織開発を考えるべきなんです。本業における論理やルールをそのまま使っていては、立ち上げた後になってリターンがちゃんと生まれなかったり、担い続ける人を充てられなかったり、という悲劇になっていく。

仁科誤解を恐れずに表現すれば、やはり本業の枠組みがあるために、『セブンカフェ』だけの利益や価値を基にした大きな報酬は発生しにくいかもしれませんよね。

守屋実は先ほど紹介したミスミでは当時、自らが担当した事業が生み出した利益の一部を、そのチームメンバーで分配するという成果主義的なボーナスの仕組みがありました。しかも、新規事業が投資期間(赤字)を経て黒字化した際には、「単黒ボーナス」という特別なボーナスが配布されるという仕組みになっていて、独立起業的な要素さえ含んだ制度となっていたのです。実際に、それらのボーナスが合わさることで「1億円プレーヤー」が生まれました。

成果を生み出せば、その成果に応じて青天井に報酬を得ることができる。これを見て、社内の他のメンバーも皆、目の色を変えて、新規事業について考えるようになりましたよね。

仁科すごいお話ですね。そういう見本が存在することが、本業とは違う新規事業を生み出していく鍵になる。

新規事業が生まれる場所は自社内だけではない。プレイドは、三井物産、博報堂と共同でドットミーという新会社を立ち上げており、これにはSTUDIO ZEROも関わっている。同社が展開するウェルビーイングブランド『Cycle.me(サイクルミー)』は全国のセブンイレブンを中心に飲料や食品を販売販売しており、先述のセブンカフェにも近い事業を仕掛けることが、企業共創の文脈でも可能になってきていることがわかる。

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大企業の「当たり前」を疑え──新規事業には異なる思考が必要だ

このように大企業ならではの課題を一つひとつ捉え、解消していけば、次々と新規事業が生まれていくだろう。そんな印象を持ち始める読者もいるのではないか。

だがその一方で「口で言うのは簡単だが、実際に進めるのは難しい」と感じてしまう読者もいることだろう。

そんな読者にこそ、守屋氏の十八番でもある次の言葉を届けたい。

守屋私はよく、「どうせ新規事業は十中八九うまくいかない。ということは裏を返せば、10個やれば1個か2個は必ずうまくいく」と強調しています。そこまでやり切り続ける体力や資金力が、大企業にはあります。スタートアップだと体力が続かなくて、企業として撤退したり受託に偏ったりピボットしたり、となってしまう。

仁科大企業は本当に優位だと思いますよ。企業体力があるため、失敗に対する許容範囲や失敗からの価値創出可能性も高いはずなので、本来であれば挑戦しやすいと思うんですよね。営業現場もバックオフィスも含めてみんなが優秀で、事業立ち上げ初期から社内メンバーたちのクオリティがある程度担保された状態で物事を進めることができる環境があります。

守屋その代わりに、初期からリスク管理だなんだという議論が入り込んでしまって、スピード感や柔軟さが失われてしまうこともあるんですけどね。そういうのは本業の論理であり、新規事業は違う考え方をしないといけないんですよね。

仁科まさにイノベーションのジレンマの話ですよね。

守屋事業現場での進め方も、本業とは異なるんです。正解を教えてもらってその通りに進めることで成果を出すのが、大企業の本業。そこに染まると「間違った手段を選びたくない、答えがほしい」というスタンスになりがちです。そうじゃなくて、答えはわからないけれどやってみて、現場で必要だったり重要だったりと感じることをひたすらやって、失敗して学んで進めていく。

どうしたら泳げるようになります?と聞いて、呼吸の仕方を教えてもらったら、泳げますかね?違いますよね、水に入ってみないと泳げるようになれない。

仁科そういう論理を伝えて、一緒に現場にどっぷりと浸かって走りながら正解を見つけていく、というのは我々STUDIO ZEROが強く意識して実践していることでもありますね。

最近は大企業の中で事業部長や人事部長を担ってきたような、アントレプレナーシップの強い人たちを私が直接スカウトし、何人も参画してもらっています。

守屋大企業にいる人たちも、ずっとそのまま頑張るというよりも、今までになかった社内外のキャリアを考えて動くようになっていますよね。そうやって人がいろいろなところに流れていくことも通じて、大企業の持つ力がより大きく発揮されていく動きが加速していくと面白いと思います。

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これから必要なのは「考え方の根っこ」の変革

仁科最後に2点、守屋さんのご意見をぜひお聞きしたいです。まず1点目は、若手で将来起業したい、経営者になりたいと思っている方に対するアドバイスです。

守屋若いビジネスパーソンのみなさんが、よく間違っちゃっていることがあると感じていて、ぜひこのことを伝えたいですね。

一つは、「いきなり大きなことをやろうと考えてしまう」ということ。「絶対にそこはのぼれないでしょ」という高さの階段をのぼろうとしちゃって、何も成果が出せないという状況に陥る人たちがいます。そうじゃなくて、まずはちゃんと手が届いてのぼれる階段を一段のぼろうと考えるべきです。そしてのぼったらすかさず二段目をのぼる。もちろん、三段目、四段目と、さらに加速をしていく。慣れてくれば、段抜かしも自然と出来るようになります。学びのJカーブ。複利の恩恵は大きいです。量稽古は裏切りません。

それともう一つが、「やっていることが仕事じゃなくて勉強になってしまう」ということ。たとえば国語辞書を隅から隅まで読んで勉強する人なんていませんよね?わからないことがあって初めて辞書を引きますよね。でもビジネスにおいてはなぜか、いま必要じゃないことも含めて、とにかく網羅的に順番に勉強しようとしちゃう人たちがいます。

そうじゃなくて、まず目の前の仕事に全力投球すべきかと。実際に生身の事業を手掛けたら、その瞬間からわからないことが目の前に山ほど現れるはずです。そしたら、そのわからないことを放置せずに徹底的に必死にくらいついていく。その方が100倍、生きた力が身に付きます。そして、ミスミのようなボーナスの仕組みがあったらという前提付きですが、実際に手掛けた事業が成功すれば、成功に応じた経済的なリターンも手に入るので。

仁科改めて、そのエピソードが刺さります(笑)。内容も結果も伴っている見本があることで、次の挑戦が生まれていくのは間違いないですよね。

もう1点が、メッセージを伝えるターゲットを変えて、経営層・マネジメント層へのメッセージです。何か感じていることはありますか?

守屋私は今55歳なんですが、まさに“働かないおじさん”と呼ばれている世代なんですよね。なので気を引き締めて頑張っています(笑)。

ただ、同級生たちの話を聞くといろいろと驚くことがあります。たとえば「世間はリスキリングだと言うので、自分も今からプログラミングでも習おうと思っているんだ」なんて言うんです。

その同級生を悪く言うわけではないのですが、「リスキリング」という言葉に踊らされて、深く考えることもなく、そしておそらく徹底的な強度を伴うこともなく、なんとなくやり過ごそうとしているというのが気になっています。そうではなく、“考え方の根っこ”をリスキリングしないといけないと思うんですよね。

仁科なるほど、そうですね。そういう根っこを変えていかないといけないですね。深く幅広いご経験をされてきた皆さんの知見や感覚を、これから新しい動きにどのように生かしていただくのが良いか。この点は私たちも改めてじっくり向き合って考えてみたいです。間違いなく、新規事業で日本を強くしていくために必要な経験だと思います。

私個人のパーパスは「『善く生きる』人を増やしたい」なんです。ここでいう「善く生きる」人とは、個人の自己実現と、集団における調和の両立を意味します。そのために、日本の大企業それぞれの中に「自己効力感が高い人」を増やしていくことが大事だと考えているんです。

私たちSTUDIO ZEROは「産業と社会の変革を加速させる」というミッションを掲げているくらいですから、自己効力感が高く、アントレプレナーシップを備えたメンバーをしっかりと増やして拡大していきます。そんなチームで、大企業さんたちと一緒にさまざまな挑戦をしていく中で、新たな未来をつくっていこうと考えています(*)。

*……仁科氏の経営思想や、大企業からジョインしたメンバーのキャリアなどがわかるFastGrowでの以前の記事も興味があればご一読を

世代差はありつつも、日本企業が抱える根源的な課題を捉え、日本の未来のために事業を考える守屋氏と仁科氏。アプローチは違えど、両氏はこれからも妥協することなく新規事業を含めたさまざまな事業・組織の変革に携わり、日本企業や日本社会に新たな変化をもたらしてくれることだろう。

もしあなたがこの対談を通して、新たな気付きや迷いにたどりつけたとしたら、それは何よりも嬉しいことだ。守屋氏や仁科氏が担ってきたことは、何も他人事ではない。大企業でもスタートアップでも、意志を持って一歩ずつ取り組み続ければ、必ず新たな未来が開ける、そんな話であるはず。さっそく今日から、新たな可能性の模索を始めてみてはいかがだろうか?

こちらの記事は2024年12月05日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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藤田 慎一郎

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