VCも起業家も、“常識外れ”な挑戦がまだ足りない!大企業コンサルやデータ基盤提供に加え、ビルや街まで構想する「欲張り」なVC・HAKOBUNE木村・栗島の構想とは
Sponsored多くの企業がCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)活動を通じてイノベーション創出に挑戦している今、さらなる協業価値を引き出すために新たな視点が求められている。
オープンイノベーションの重要性が高まる中、スタートアップ投資は企業の成長戦略における重要な選択肢として注目されている。CVCによるスタートアップへの投資件数も年々増加し、多くの成功事例が生まれ始めた。しかし、課題も残る。
もちろん昨今は素晴らしい協業事例も多く生まれているが、本質的な協業価値の創出や、自社発イノベーションの継続創出に向けては、高い壁が立ちはだかる。その壁を乗り越えるため、どうすればいいのだろうか?
「一見すると荒唐無稽に思えるようなアプローチをする者こそが、本当のイノベーションを生む。」
この信念を掲げるのが、新進のベンチャーキャピタル(VC)、HAKOBUNEだ。彼らが注目するのは、大企業の組織に少なからず存在するこうした「組織のはみ出し者」と呼ばれる人材である。
グリー、LINEといった事業会社での戦略投資の経験とシードVCでの純投資の経験の両方を持つ木村正博氏。教育系VCの経営から日本最大級の起業家コミュニティを育てた栗島祐介氏。同じく、「組織のはみ出し者がもつ、既存の評価軸では測ることが難しい創造性や独自の視点に、イノベーションを加速させる種がある」との確信を持っていた。
そんな2人の出会いから生まれたのが、「街ごとつくる」という異色のビジョンを掲げるHAKOBUNEなのだ。
目指すのは、既存の枠組みの中に眠る「組織のはみ出し者」たちの可能性を解き放つこと。そして、そうした従来の枠組みにとらわれない人材が起業家として集い、化学反応を起こすことでさらなるイノベーションが生まれるようなコミュニティを築くこと。
すでにキヤノンマーケティングジャパンやサザビーリーグとの協業を通じて具体的な成果を上げており、6,000件を超える独自のデータベースを基盤に、投資人材の育成から、事業開発、さらには組織変革まで──包括的なケイパビリティ支援を実現しているのだ。
単なる投資リターンを超えて、イノベーション創出の仕組みそのものを再定義する。「組織のはみ出し者」を増幅させ、イノベーションの創出に挑むHAKOBUNEの新しい取り組みとは。
- TEXT BY SHUTO INOUE
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
欲張りな2人が描く、“街づくり”からの社会変革
ファンド業界には、社名にも作法がある。
VC・CVCといった投資ファンドの多くは、「○○キャピタル」や「○○ベンチャーズ」といった、この業界で広く認知されたスタイルの社名を採用することが一般的だ。そんな業界の慣例にとらわれず、新しい可能性を模索するベンチャーキャピタルが登場した。
栗島そもそもHAKOBUNEの創業時に、私と木村さんが合意した方向性というのが、「街ごとつくっちゃおう」なんですよね。
なので、ただVCをつくるっていうところがメインではなくて、そもそもエコシステム自体をつくりに行こうっていう方向性があった。だからHAKOBUNEもベンチャーキャピタルっぽくない名前を選んだんです。
木村ベンチャーキャピタルから始めるのですが、ファンド以外のこともやりたいと考えていました。ですので、自分たちをベンチャーキャピタルとして定義するような名前にはしないようにしました。
一般的なVCは、有望なスタートアップを見出し、投資リターンの最大化を目指す。しかし、2人が見据えていたのは、もっと本質的な課題だった。それは、大企業まで含めた日本のスタートアップ・エコシステムに関わる構造的な歪みである。
特に注目したのが、大企業の商慣習という枠組みの中で、その力を十分に発揮できていない人材たち。彼らが「異端児」「はみ出し者」と呼ぶ存在だ。
木村我々がこの人であれば投資したいと考えるような“異端児”が、実は日本の大企業の中にはまだまだいると思っています。
私の師にあたるNTVP(日本テクノロジーベンチャーパートナーズ)の村口さんがよく語っていた言葉があるんです──「お前の核融合反応は何なんだ?」と。
「寝ても覚めてもずっと熱中して考え続けられる対象を持っているのか?飯を食うよりも睡眠よりも夢中になって考えるぐらいハマっていることはあるのか?そういう起業家が、チャンスを引き寄せ、モノにしていくんだ!」と何度も言っていました。これが脳に刷り込まれています。
栗島もちろん、私たちが“はみ出し者”と呼ぶのは、単なる組織不適合者のことではありません。前提として、その事業領域に対する深い知見と経験を持ち、業界構造への本質的な理解がある。その上で、既存の枠組みを超えたことをやっていきたくてたまらないというような人たちのことを指しています。そういう意味では“大人起業家”という表現の方が正確かもしれません。でも“はみ出している感”というニュアンスを大事にしたくて(笑)。
木村こうした人材の特徴は、他とは異質なその取り組み方にあります。普通に考えれば、QOLの高い生活、例えばちゃんとご飯を食べて、睡眠を取って、友達といっしょに遊んで……なんていう生活のほうが個人の満足度は高いはずなんです。でも、そんなことはわかった上で、うまくいくかどうかわからない事業に没頭する。そんな人材が、起業や新規事業において常識を超えた価値を生み出せるんです。
そして、2人が描く究極のビジョンは、さらに大きい。ベンチャー投資のかたちでキャピタルゲインを蓄積していくというのはあくまで手段の一つ。物理的な“場”の創造まで進めようとしているのだ。
栗島最終的には街を、ですね。そして本当はもう、現時点でもビルのように“住む場所”をつくれていてもおかしくないくらいのイメージでした。100~200人ぐらいの“はみ出し者”×大人起業家が集まって住めるような場所を。
もちろんこれはただの夢物語ではありません。各方面、東京都やデベロッパーの方々に、この10年ほどひたすら提案し続けている。実現するのもそう遠くない未来かもしれません。
木村なぜそこまでするのか。それは、世の中を変えるイノベーションが単純な足し算で生まれるものではないからです。
従来の枠組みにとらわれない人材が一定程度を超えた密度で集まると、不思議な現象が起きる。普通の人をそんな4〜5人の間に入れると、その人も感化されていくんです。まるでオセロのように、次々と変わっていく。そうやって異端児たちの持つ変革への情熱が伝播し、増幅していくと、全く新しい価値を生み出すチームとなり、イノベーションが起こる。
やっぱり、物理的な場としての“密度”はとても重要なんです。異端児の存在を増幅させ、イノベーションへの挑戦自体を爆発的に増やしていきたいんです。
一見、途方もない夢想のようにも思える。しかし、この構想は決して一朝一夕に生まれたものではない。
栗島俗にいう“ホットスポット”──イノベーションが集中的に生まれる場所が、日本でも各所で芽生え始めています。我々が目指したいのは、そうした動きを“意図的”に加速させ、持続的なエコシステムとして確立すること。まだまだやりきれていない部分も多いですが、確実に前進している実感がありますね。
しかし、なぜそこまでの確信が持てるのか。彼ら自身も、まさにその「はみ出し者」としての原体験から、この投資哲学を見出したのだ。
異端児を見抜く目は、自らの“はみ出し経験”から
スタートアップ投資の難しさ──それは、まだ何もないところに「実現したら世界が変わる可能性」を見出すことだ。
シード期の投資では、投資判断に必要な材料が、ほとんどないといえる。事業の実績も、ビジネスモデルの検証も、市場の確からしさも──。裏打ちするものがまだ何もない段階で、その可能性を見抜き、資金を投じる。
木村正博氏は、LINE、グリーという日本を代表するインターネット企業で、事業を経験。また、投資についてはフェムトグロースキャピタル、LINE Ventures、DEEPCOREといったVC・CVCにおいて幅広い領域を見てきた。栗島祐介氏は、教育系VCの経営者として、freeeが買収したサイトビジット、コクヨが買収したCLEAR(旧アルクテラス)など、複数の成功案件を手がけた。
なお栗島氏の経験として特筆すべきは、日本最大級の起業家コミュニティ「StarBurst」の運営だ。そこからは、製造業のDXを推進するアペルザ、建設業界に革新を起こすPOL(現LabBase)、宇宙ビジネスに挑戦するインフォステラなど、既存産業の構造を変えようとするスタートアップの創業期に、成長を支援してきた。
栗島当時を思い返すと、本当に手探りでした。コミュニティから次々と意欲的な起業家は生まれていましたが、その価値が広く一般社会で理解されるまでにはなかなか至らない。新たな評価軸のもと、大きな投資を受け、大きく伸びるべきはずの才能が、放置されていると感じる機会も少なくなかった。
業界の構造そのものを見つめ直す中で、栗島氏は新たな確信を得ていた。
栗島今、VCや企業の新規事業開発の世界は、重大な岐路に立っています。このままでは業界全体がシュリンクしてしまう。それを避けるには、桁違いの規模感での挑戦が必要なんです。
私たちがコミュニティを通じて実証してきたように、本質的な価値を持つ事業は、必ず支援者と仲間を集めることができるはずなんです。
木村だからこそHAKOBUNEでは、これまでの常識に反するような大きな挑戦をする起業家ばかりを、徹底的に支援していこうと決めたんです。
二人に共通するこの“欲張り”な哲学は、HAKOBUNEの運営にも徹底的に反映されている。感覚や経験則に頼るのではなく、投資判断を緻密な仕組みとして昇華させようというのだ。
HAKOBUNEではこうした目利きの再現性を担保するため、徹底的なデータベース化に取り組んでいる。活動開始から1年半で6,200件のデータを蓄積。さらに1,300件を超えるスタートアップとの面談を実施し、その詳細をデータベースに登録している。このデータベースには、代表者の経歴から、検証フェーズ、マネタイズ方法、さらには面談動画まで詳細な情報が記録されている。
栗島基本的に、このデータベースに登録されていないと面談が登録できなかったり、投資判断ができなかったりする仕組みにしています。Salesforceに似た形でCRMのように運用していて、私たちの投資活動をしていく上で、これに入力しないとそもそも投資委員会にあげられない。つまり、根性論ではなく、データドリブンな形でやれる環境を整えているんです。
このアプローチが実を結び、HAKOBUNEは次々と独自性の強い投資先を見出している。この一見相反する要素──「情熱を持って伴走する」という人間味と、「データドリブンな判断」という冷徹さ。しかし、それこそがHAKOBUNEの真骨頂なのかもしれない。
では、この独自の投資哲学は、具体的にどんな領域で革新を起こそうとしているのか──。
“変化”に投資する──日本社会の課題と向き合うVCの野心
投資哲学とデータ基盤。しかし、それだけでは説明がつかない。HAKOBUNEの独自性は、むしろ投資領域の設定にこそ顕著に表れている。特定の成長産業やステージに特化するといった手段を選ぶのではなく、まったく異なる視座で投資機会を捉えようとしているのだ。
栗島私たちが注目しているのは、「人類へのインパクト領域」、「産業革新領域」、そして「Japan Culture to Global」という3つの領域です。これらは、時代の象徴を創るための“変化”への投資、と表現できそうです。
この投資領域の設定には、綿密な時代認識が反映されている。HAKOBUNEが「大挑戦時代の始まり」と呼ぶ現代。そこには3つの大きな変化の波が押し寄せているという。
第一の波は、人類社会が直面する構造的な転換点だ。
栗島今、社会は大きな構造的転換点を迎えていますよね。特に人類目線での転換点が、同時多発的に訪れている。例えば、生成AIの普及による労働市場や文化市場の劇的な変化。これは単なる技術革新ではなく、人々の働き方や生活様式を根本から変えうる変化ですよね。さらに、バーチャル空間による生活様式の変容、宇宙開発の本格化といった、人類の可能性を拡張する変化も起きています。
木村そして、より切実な課題も山積しています。労働人口の減少はもちろん、環境問題に取り組みカーボンニュートラルを実現しなければなりません。これらは持続可能な社会にかかわる課題であり、避けては通れません。ここには大きな投資機会があると考えています。
第二の波は、産業構造そのものの変革可能性の高まりだ。
日本のスタートアップ・エコシステムの発展により、従来は限定的だった成長戦略の選択肢が、大きく広がりつつある。LayerXを始めとしたコンパウンドスタートアップの台頭、newmoが大型調達で注目を集めたプライベートエクイティ的なロールアップモデルの普及、そしてM&Aを活用して進める垂直統合による業界構造の変革──。
かつては考えられなかったようなスタートアップの成長戦略が、「調達できる金額の大規模化」と「起業・経営モデルの一般化」により、現実的な選択肢となってきている。
栗島取りうる手段が変わってきたことで、産業への切り込み方も変化してきています。特に注目すべきは、既存の業界構造そのものを変えていくような挑戦が、現実的な選択肢になってきたことです。この変化は、私たちの投資アプローチにも大きな影響を与えています。
そして第三の波が、Japan Culture to Global領域の台頭だ。一見すると、前述の人類社会の課題とは異質に思えるかもしれない。しかし、データが示す成長性は驚くべきものがある。
栗島コンテンツ産業の海外展開はこの10年で3倍に成長し、4.7兆円規模になっています。すでに鉄鋼産業に匹敵する日本の基幹産業に育ちつつあるんです。さらに、農林水産物・食品の輸出も2012年から約6.5倍に伸び、いまや1,344億円規模。日本発の産業やサービスが、グローバルに価値を生み出せる土壌が整い始めているんです。
しかし、HAKOBUNEがこの領域に注目する背景は、市場の成長性以外のところに本当の理由がある。
木村今の社会は、効率化やサステナビリティといった点が注目されやすいですよね。もちろんそれは重要です。でも、ただ効率化されただけの社会や生活はもったいないじゃないですか。夢中になって楽しめる対象が人それぞれにあって、誰かとそれを共感できたらいいですよね。
そう語る木村氏の表情は、急に少年のように輝きを帯びる。
木村目指したいのは、10年前よりも、もっと楽しいコンテンツが溢れる世界。夢中になれるようなエンターテインメントを社会に増やしていく。それこそが、Japan Culture to Global領域に賭ける我々の本心かもしれないですね。
効率化と夢。相反するように見えるこの2つの要素を両立させることこそ、HAKOBUNEが描く未来図なのかもしれない。
栗島私たちが投資をする際に重視するのは、顕在化している課題ではありません。なぜなら、そういった課題にはすでに多くのプレイヤーが取り組んでいるからです。むしろ、まだ課題として認識されていない、あるいは取り組みが難しいと思われている領域にこそ、真の機会がありますし、私たちが支援する価値も大きいものだと考えています。
木村例えばフード・アグリ系。一般的には時価総額が大きく上がりにくい領域と思われがちですが、循環型の社会への移行が求められている中で、食品や農業には新しい潮流が必要とされ始めています。今後急成長するかもしれない新しい市場のひとつです。
このように、これから大きく伸びる可能性のある領域を見極めようとしています。
HAKOBUNEの投資哲学は、人類社会の課題から具体的な投資戦略へと昇華されている。では、こうした野心的な取り組みは、実際の投資先でどのように実を結んでいるのだろうか。
“異端児”たちが描く、日本の産業地図を塗り替える未来
3つの投資領域への注目。しかし、それは単なる理念にとどまらない。実際のHAKOBUNEの投資先には、その哲学を体現する独創的な起業家たちが揃っている。
例えば、HAKOBUNEの投資先である日本GXグループの吉岡氏と細目氏。企業のサステナビリティ戦略の策定支援から、カーボンクレジットの流通プラットフォーム構築まで手がける同社は、日本の環境・社会課題解決に挑む新興企業として注目を集めている。2人は、まさに"組織の異端児"としての経験を、産業変革の原動力に変えようとしている。
栗島日本GXグループの代表、吉岡さんの原点は、高校生の頃から続けるユニークな趣味にあります。四季報の改訂のたびに全部熟読する。その習慣を今でも続けている。なぜそこまでするのか。それは自分で新しい金融商品を生み出したいという情熱があるから。既存の株式市場や為替市場があり、最近では市場も生まれた。ここにさらに、本当に新しい金融商品をゼロからつくり出したい。そんな“狂気的”とも言える熱量を持った方なんです。
木村もう一人の代表、細目さんの行動力にも驚かされます。日本のカーボンクレジット市場を本格的に立ち上げるには、地方自治体や農林業者の協力や共感が不可欠です。普通なら地道な営業活動から始めるところを、彼は違う道を選んだ。
宮崎大学の准教授になったんです。大学という知の拠点から地域全体を巻き込み、市場創造の土台をつくろうとしている。宮崎大学の次は中国地方や東北地方の大学も視野に入れているとか。行政や事業者との関係構築といった“定石”の進め方ではなく、教育機関から産業構造を変えていく。こういう型破りな発想と行動力こそ、私たちの求める異端児の真骨頂です。
もうひとつ特徴的なのが、HAKKI AFRICAの事例だ。「可能性をふやす人を、ふやす。」というミッションを掲げ、アフリカで金融サービスをゼロからつくる、一見すると困難に思える挑戦を続けている。
木村代表の小林さんは、ケニアに飛び込んで当初マイクロファイナンス事業を展開していました。ケニアでの事業が他のメンバーに任せられるようになった今は、その経験を活かしながらアフリカ以外も含めたグローバルな展開を始めようとしています。一般的な目線では「日本人がアフリカで成功するのか?」と理解しづらい。でも、私たちはその“わからなさ”は理解しつつも、小林さんなら実現できると考えたんです。
こうした一見リスクの高い投資判断の背景には、HAKOBUNEならではの視点がある。
栗島伝統的な産業であっても、大きな社会変革のポテンシャルがあれば、十分に投資対象になり得る。
むしろ、そういった“常識”を覆すような挑戦にこそ、価値があると考えています。日本GXグループの二人にしても、カーボンクレジットという新しい市場をつくろうとしている。これは誰もが理解できる挑戦ではない。でも、そういう“型破り”な発想と行動があるからこそ、産業構造を変えられる。それが私たちの信念です。
しかし、異端児たちの挑戦を支えるには、単なる資金提供では足りない。HAKOBUNEは、彼らの壮大な構想を実現するための独自の支援体制を構築している。その中で特に重要な役割を果たしているのが、LP企業との協業だ。
というのも、産業構造を変えるような大きな挑戦には、既存の大企業との連携が不可欠だからだ。では、彼らはどのようにして、異端児たちと大企業の架け橋になろうとしているのか。次のセクションでは、その独自の仕組みに迫っていこう。
LP企業との共創で実現する、日本型オープンイノベーションの新標準
企業がベンチャーキャピタルにLP出資を行う理由は多岐にわたる。これまでは、オルタナティブ投資の一環として財務リターンを追求するのが主な目的だった。この場合、ベンチャーキャピタルと企業(LP)は「運用者」と「出資者」という一方向的な関係にとどまる。
しかし、近年ではその関係性が大きく変わりつつある。特に事業会社においては、財務リターンだけでなく、事業拡大や人材育成といった付加価値を求める動きが加速している。ベンチャーキャピタルのネットワークやスタートアップとの連携を活用し、協業の可能性を模索する企業が増えている。
たとえば、キヤノンマーケティングジャパン(以下キヤノンMJ)やサザビーリーグといった企業は、こうした背景をもってLPとして参画し、求めていたリターンをHAKOBUNEから実現している。こうした動きは、従来の財務的な視点を超え、企業とベンチャーキャピタルが互いに価値を創出する関係へと進化していることを示す。
その鍵を握るのが、6,000件を超える独自のスタートアップデータベースだ。HAKOBUNEは『Airtable』というクラウドサービスを駆使し、徹底的なデータ管理を行っている。新規面談メモから、事業テーマ、検証フェーズ、マネタイズ方法、ピッチ資料、さらには面談動画まで。あらゆる情報がデータベースに集約されている。
しかも、このデータは単なる記録以上の価値を持つのだ。
栗島例えば、とあるVCが過去400日で公表されている案件のうち30件投資していたとして、そのうち18件、つまり6割くらいは我々も面談していた。では、投資を見送った案件は何件あって、どういった理由で見送ったのか──。そういった分析まで可能なんです。 これは具体例ではありますが、とにかくどんな施策であっても、根性論ではなく、データドリブンな形でやれる環境を整えていきたいんです。
このデータベースを基盤に、HAKOBUNEは各LP企業に合わせた独自の価値提供を実現している。例えば、キヤノンMJとの取り組みでは、人材育成に特化した支援を展開した。
栗島キヤノンMJさんとの取り組みに関しては、キャピタリストのノウハウの提供と、新規事業のノウハウの提供が中心です。過去3名ほど、兼業でHAKOBUNEに来ていただき、ソーシング活動からミーティング、投資判断まで、全部包括的にやってもらいました。
その後、キヤノンMJさんは、グローバル・ブレインさんと共同でファンドも設立されました。さらに、社内の新規事業支援も実施。新規事業に関する考え方の研修や講義を全数回、毎年実施し、そこからメンタリングで個別支援するというところまで発展しています。
HAKOBUNEのLP支援の特徴は、各社の状況や目的に応じて柔軟に形を変える点にある。その代表例が、サザビーリーグとの取り組みだ。
『Ron Herman』『Afternoon Tea』『agete』など、日本を代表するライフスタイルブランドを展開するサザビーリーグにとって、CVCの立ち上げは未知の領域だった。しかし、HAKOBUNEの柔軟なフォローにより、サザビーリーグにてCVC責任者を務める植村剛直氏は、スタートアップ投資とその後のスタートアップ連携のスキルを急速に獲得していった。
木村CVCの立ち上げって、本当に地道な作業の連続なんです。投資方針の策定から、デューデリジェンスの手法、さらには社内の意思決定プロセスの確立まで。植村さんとは深夜まで議論を重ねました。植村さんはスタートアップ投資は未経験でしたが、今はインナーサークルのネットワークも獲得し、自分なりの投資判断を行いながら、サザビーリーグの新規事業開発を牽引しています。
また、システムインテグレーション大手のTISとの協業では、より実務的なアプローチを採用。従来型のIT開発だけでなく、新規事業開発やデジタルトランスフォーメーションに挑戦する同社に対し、HAKOBUNEは独自のマッチング支援を展開している。
栗島私たちのデータベースには、技術領域やビジネスモデル、成長フェーズなど、様々な切り口でスタートアップ情報が蓄積されています。その中から最適な企業をマッチングし、場合によっては資本業務提携までサポートする。こういった実践的な支援が可能なんです。
地方創生の観点で特に注目されるのが、琉球キャピタルとの取り組みだ。沖縄を拠点とする同社は、地域に根ざしたイノベーション創出を目指している。そこでHAKOBUNEは、完全出向型での人材育成プログラムを提供。投資の実務からデューデリジェンス、さらには投資委員会でのプレゼンテーションまで、包括的なトレーニングを実施している。
栗島地方発のイノベーションを起こすには、現地で投資判断ができるプロフェッショナルの存在がやはり必要不可欠。琉球キャピタルの皆さんは、投資委員会でも積極的に発言され、時にはオブザーバーとして鋭い指摘もされる。こうした経験を通じて、確実にスタートアップ投資への知見を深められている。
このように支援を効果的に行うため、目的別に様々なラインナップを用意しているのがHAKOBUNE の最大の特徴である。
しかし栗島氏は、こうした支援の本質は別のところにあると語る。
栗島我々の取り組みは、コンサルティングのように見えるかもしれません。でも、それは本質ではありません。LP企業自身が自走できるようになることを目指しているんです。そのために必要な仕組みやマインド、スキルを提供し、企業文化として定着させていく。これこそが、日本型オープンイノベーションの新しい形なのではないでしょうか。
木村LP企業が自走できるようになることを目指し、このような包括的な仕組みを持つVCとなっています。こうしたチャレンジングなVCが、もっと増えてほしいと個人的には感じます。日本のスタートアップ投資額を10倍の10兆円規模まで大きくしていき、産業構造を本当の意味で変革していくためには不可欠なことだと思うんです。
栗島たとえばTISさんの場合、「5G関連のスタートアップを探している」といったかたちで、事業部門が持つニーズが非常に具体的なんです。その支援をし続けるために、当然我々だけでは力が足りない。だからこそ、投資先企業もLP企業も、同じ目線でイノベーションを生むことに取り組める仲間を増やしていきたいんです。
すでに具体的な成果も見え始めている。では、彼らは次の10年でどんな変革を目指しているのか。最後に、HAKOBUNEが描く壮大な構想に迫っていこう。
次なる10年を見据えた、日本の産業地図を塗り替える、新たな航海の始まり
“異端児”たちへの投資。LP企業との深い協創関係。そして、6,000件を超えるデータドリブンな基盤。HAKOBUNEの1号ファンドは、さまざまな“当たり前”を覆してきた。
しかし、2人にとってこれは序章に過ぎない。なぜなら、日本のスタートアップ投資環境には、まだ根本的な課題が残されているからだ。
栗島新規事業づくりやスタートアップ投資の経験を持つ人材が、決定的に不足しています。
我々も3期目に入り、次のファンド設立を見据えたフェーズに入ってきます。そこで私たちが特に注力したいのが、CVCの内製化支援です。もっと踏み込んだ形で、企業のCVC活動をサポートしていきたい。従来型の支援にとどまらないことで、事業会社のCVC活動の役に立てることはあると思っています。
その壁を突破するため、HAKOBUNEは独自の「二人組合モデル」を実現しようとしている。これは、企業内のスタートアップ投資人材の育成と実際の投資活動を並行して行うことができるように包括的な支援を行う新しい仕組みだ。
木村CVCを始めたい、あるいはCVC活動を内製化したいと考える企業は少なくありません。二人組合を用いたCVCの設立は増えてきており、これからも更に増えていくと考えています。
しかし、人材もノウハウもない中で、すぐにCVCを立ち上げるのはあまりにもハードルが高すぎます。そこで私たちは、企業と共同で投資活動を行いながら、徐々にケイパビリティを移転していきたいんです。
このアプローチは、先に紹介した通り、すでにいくつかの企業で成果を上げ始めている。投資委員会へのオブザーバー参加から始まり、実際の案件発掘、デューデリジェンス、そして投資判断まで。段階的に経験を積み、最終的には独自のファンドを設立するまでに至ったLP企業もある。
CVCを新たに立ち上げたり、既に立ち上げたCVCを強化したり、そんなニーズが今後さらに高まっていくだろう。HAKOBUNEは、データドリブンな仕組みと、これまでの投資・事業経験を併せ持ち、これまでにないLP投資の環境を構築しているとも言えそうだ。
そして同時に、HAKOBUNEは今、新たな仲間を募っている。既存の枠組みを超えた挑戦を志す起業家たち。そして、その挑戦を支援し、共に歩もうとする企業たち。
栗島私たちは、アクティブな投資家のリストなども積極的に公開し、起業家の情報探索コストを下げる。同じ試行錯誤を何度も繰り返すのではなく、より発展的な挑戦を促す。エコシステム全体の底上げなくして、本当の産業変革は実現できないと考えているんです。
木村単なる投資の成功だけを目指すのではなく、日本の産業地図そのものを塗り替えていきたい。そのために必要な仲間を、今この瞬間も探し続けています。
産業構造の変革者たちは、すでに動き始めている。
組織の中で新たな価値創造を志す者たち。既存の常識に挑戦する起業家たち。そして、その挑戦を支えようとする企業のリーダーたち。彼らを繋ぎ、化学反応を起こし、新たな価値を生み出す場としての"街"。
HAKOBUNEという船は、そんな壮大な夢を乗せて、静かに、しかし確かな一歩を踏み出した。未来を切り拓く同志たちを乗せ、まだ見ぬ航路を進んでいく。彼らの船出が、日本のイノベーション史にどんな足跡を残すのか。
その答えは、決して遠くない未来に見えてくるはずだ。なぜなら、産業の構造を変えるということは、私たちの生活や社会の在り方そのものを変えることだから。次の10年、HAKOBUNEの旗の下に集った“異端児”たちは、きっと私たちの想像をはるかに超える変革を実現してみせるだろう。
彼らの航海は、まだ始まったばかりなのだから。
こちらの記事は2024年12月27日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
井上 柊斗
写真
藤田 慎一郎
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