AI特化型VCが選ぶ!住宅ローンのマッチング、データドリブンな材料開発の注目スタートアップ──FastGrow Pitchレポート
「イノベーターの成長を支援し、未来社会を共創する」をミッションに掲げるFastGrowが、「この会社、将来大きなイノベーション興しそうだ!」と注目するスタートアップをお呼びして、毎週木曜朝7時にオンライン開催する「FastGrow Pitch」。
登壇するスタートアップが目指すビジョンや事業内容、創業ストーリー、どんな仲間を探しているのかなどをピッチ形式で語るイベントだ。
今回は、AI領域に特化し、起業家育成を行うインキュベーター兼ベンチャーキャピタル・DEEPCOREとのコラボレーション企画として、DEEPCOREの投資先のみが集まる限定回を開催した。
本記事では、ピッチの模様をダイジェスト形式でお届けする。登壇したのは、株式会社MFS、MI-6株式会社の2社(登壇順)だ。DEEPCOREでSenio Director,Investmentを務める木村正博氏、左 英樹氏も登壇し、各スタートアップの事業の魅力を語った。
- TEXT BY OHATA TOMOKO
- EDIT BY HARUKA MUKAI
DEEPCORE
技術開発と産業課題への応用を支援する。
AI特化型インキュベーター兼VC
DEEPCOREは、シード及びアーリーステージのAI領域のスタートアップに特化し、投資を行うインキュベーター兼ベンチャーキャピタルだ。なかでもディープラーニングや周辺領域の技術をビジネスに応用する企業への投資に注力している。すでに、AI技術が実装されているプロダクトを持たなくても、解決したい産業課題とアプローチが検討段階で持ち込まれ、事業化に至った事例もあり、ハンズオンで投資先を支援している。
また、AI特化型インキュベーション施設『KERNEL HONGO』を拠点に、技術者・研究者を産業界や研究機関とつなげて、世界で戦う起業家を輩出することを目的としたコミュニティを運営。コミュニティのメンバーは、GPUや作業スペースを利用したり、輪読会・勉強会などイベントや、企業・研究機関との共同実証実験に参加したりと、互いに切磋琢磨できる環境を用意している。
ディープラーニングなどの技術のビジネスへの応用や社会実装をサポートする存在として、期待されている。
株式会社MFS
独自のクレジット分析で、新しい住宅ローン比較サービスを実現する
最初に登壇したのはオンライン型住宅ローン比較サービス『モゲチェック』を開発・運営するMFS取締役COOの塩澤崇氏。
『モゲチェック』は、住宅ローンを新規で借り入れたい・借り換えたいユーザーと、住宅ローンの貸し出しを増やしたい金融機関を仲介するサービスだ。
立ち上げの背景には、多くの消費者が割高な金利の住宅ローンを借りている現状への問題意識があった。
塩澤国土交通省の調査では、現在900万世帯が住宅ローンを抱えており、残高は160兆円に上ります。
その巨大な市場において、多くの方が、割高な金利のローンを借り続けています。現在はマイナス金利なので、ローンの乗り換えによって支払う額を安くできるにもかかわらずです。私たちの試算では、100万円以上お得になる人が半分以上いるという結果も出ています。
また、新たに住宅ローンを組む方のなかにも、どのくらい審査が厳しいかを把握しないまま、とりあえず金利の低い金融機関に申し込み、審査に落ちてしまう方も多いです。
いずれも消費者と住宅ローンが適切にマッチングされていない状態です。モゲチェックでは、テクノロジーの力で消費者が最適な住宅ローンと出会えるよう手助けし、住宅ローンの選び方を変えていきたいと考えています。
モゲチェックでは、ユーザーが年収や自己資金などの情報を登録すると、審査の通る可能性の高い住宅ローンを閲覧できる。そのままサービス上で住宅ローンの仮審査も申し込める。
融資確率の判定は精度に優れ、融資確率の高い住宅ローンの仮審査でユーザーが落ちることは、ほとんどないのだという。
また、モゲチェックは住宅ローンを借りる側のユーザーだけでなく、金融機関にとってもメリットがあるサービスだと塩澤氏は説明する。
塩澤通常、金融機関には年収や勤務先が様々な方々から審査の申し込みが届きます。そのため、審査にはかなりのオペレーションコストがかかります。
モゲチェックでは、ユーザーは融資確率の高い銀行を選ぶ傾向にあるため、銀行にとってみては審査に通りやすいユーザーを獲得できる集客チャネルであり、審査コストを大幅に引き下げることができます。
また、審査否決を出すユーザー数も減らせます。「審査に落ちた」体験は、ユーザーにとってネガティブなものですし、金融機関の印象を悪くすることにつながりますから。銀行に対する評価を高く維持する効果もあります。
精度の高いマッチングを可能にしているのは、5,000件以上の審査結果をもとに開発した、独自のクレジットスコアの分析技術だ。
この技術を用いて「ユーザーが自身のクレジットスコアをコントロールする世界」を実現したい」と語る。
塩澤これまでローンを借りる側は、審査基準や自身のクレジットスコアもわからず、闇雲に申し込むしかなかった。モゲチェックでは、審査の承認確率を明確にすることで、審査ロジックを透明化し、ユーザーと金融機関の橋渡しを担っていきたい。
その先で実現したいのは、銀行がユーザーを選ぶのではなく、ユーザーが銀行を選ぶ世界です。ユーザーが自分のクレジットスコアを把握できており、どうすればより審査に通りやすいかもわかっている。そして、最も条件のいい銀行を選ぶ。そうした状態を目指していきたいです。
また、今後はクレジットスコアの分析技術を用いた不動産売買事業など他領域への展開も検討しているという。「CMOやCTO、デザイナー、エンジニアなど、幅広く募集している」とピッチを締めくくった。
ディープコアの木村氏はMFSへの投資理由として、プロダクトのコンセプトだけでなく、組織における「グリット(※)の強さ」を挙げた。
※グリット・・・困難に出会ってもくじけない、やり抜く力
木村投資を検討する際、事業などについて一通り話を聞いて、最後にグロービス・キャピタル・パートナーズの湯浅エムレ秀和さんから「MFSにはグリットがありますよ」と言われたんです。
創業当初からずっと、経営陣は毎朝6時には出社し、毎朝8時から経営会議を実施しているのだ、と。それを聞いて、なぜMFSがこのタイミングで急成長を遂げているのか、自分のなかで腑に落ちた気がして、その瞬間に投資を決意しました。
MFSは、2021年2月に総額6.3億円の資金調達を実施。3月には総額6.5億円の追加調達を行うなど勢いを増している。
採用情報
MI-6株式会社
材料開発にデータサイエンスの力で変革をもたらす
続いて登壇したのはMI-6代表取締役 木嵜基博氏。ITベンチャー企業で事業開発などに携わった後、オリックスやモバイク・ジャパンを経て、2017年にMI-6を創業した。
MI-6は国内唯一の「MI」専業のベンチャー企業だ。MIは「マテリアルズ・インフォマティクス」の略。機械学習や数理最適化などのデータサイエンスを活用した、より効率的な材料開発を指す。
MIに取り組む理由について、木嵜氏は「エジソンの時代から変化していない材料開発のアプローチに革新をもたらしたい」からだと語る。
木嵜世界中のイノベーションの約70%には素材・材料が関わっていると言われています。
しかし、素材・材料開発には、膨大な時間とコストがかかるという課題が、常に存在しました。例えば、一昨年ノーベル化学賞を受賞した吉野彰氏は、リチウムイオン電池の研究開発に20年以上かけたそうです。
なぜそうなるかというと、開発の現場では、経験と勘が中心となる試行錯誤をひたすら繰り返すアプローチが採られてきたからです。エジソンが1000年以上前に電球を発明したアプローチと未だ変わっていないわけですね。
もちろん、その試行錯誤は研究開発の本質です。ただ、近年は素材・材料の開発も高度化・複雑化しています。以前にもまして環境負荷の軽減なども必要になりました。さらに市場のニーズも変化が早まっており、従来の開発スピードでは追いつけなくなってきている状況です。
これらのマクロ環境の変化に対応するため、従来の研究開発プロセスを見直し、革新する必要があるのです。
また、中国ユニコーン企業での経験も、MI領域で起業するきっかけになったという。
木嵜モバイク・ジャパンでは、自転車に関する素材の研究開発に携わる機会がありました。
そのなかで素材業界について調べていると、日本が高い競争力を有していることを知るとともに、危機感も覚えました。今後、海外でデータ駆動型の開発が進むと、経験や勘にもとづく研究の蓄積だけでは、競争力を維持できないかもしれないなと。
決して昔から素材業界に詳しかったわけではないのですが、日本から世界で勝負できる事業にチャレンジしたいと考えた結果、起業にいたりました。
MI-6では大きく3つのサービスを展開している。
『Hands-on MI』は、MIに取り組んでいきたい企業に対し、ハンズオンでデータ解析や技術コンサルティング、研究教育などをサポートするサービスだ。
『miHUB』は、ハンズオン支援で得た知見を活かして開発されたSaaSだ。統計やプログラミングに馴染みのない研究者でも、材料開発に必要なデータ解析を行えるという。
『MI×ロボティクス』では、人間が材料に手を触れずに自動合成・開発ができるサービスを提供している。
これらのサービスを通して「研究者が持っている能力を最大限発揮し、素晴らしい素材をどんどん開発できるようにしたい」と語る。ピッチではデモ動画をもとに実現しようとしているソリューションについて紹介してくれた。
木嵜私たちのソリューションでは、材料研究者がコンピューター上で「こういう素材を開発したい」と指示を出すと、解析が行われ、どのような条件で何を実験すべきか、絞り込みます。それをもとにロボットが実験をし、そこで得たインプットとアウトプットを解析し、再び実験内容を最適化する、といったサイクルを回せます。
もちろん、最終的には、人間の研究者が仮説検証を行う必要がありますが、工程全体で見るとコストと時間を大幅に短縮できる。それによって、仮説検証の回数が増えれば、自ずと発見の数も増えていくはず。
よく野球に例えて説明をしています。野球でヒットを多く打つには、打率×打数それぞれを上げる必要がありますよね。どのようなMIで解析してくのかが「打率」を上げるアプローチ。ロボットを活用して実験を高速化し、同時間での実験回数を増やすのが「打席数」を増やすためのアプローチ。その両方に取り組んでいきたいと考えています。
MI-6は、材料開発の専業ベンチャーとして創業4年目を迎える。ディープコアの左氏は投資を決めた理由について、素材産業への想いや事業改善への姿勢を挙げた。
左木嵜さんは、材料開発の領域に対して、アカデミックなバックグラウンドがないなか、ビジネスやアカデミック問わずキーパーソンを見つけて、巻き込んでいく。その熱い姿勢や事業開発の能力は非常に素晴らしいと感じます。
今後も、材料開発とデータサイエンスのハブとなり、研究者のポテンシャルを引き出していきたいと語る木嵜氏。「絶賛、一緒に働く人を募集中です。知的好奇心がある方は特に向いていますので、ぜひご連絡ください」と語った。
採用情報
第41回目となったこの日は、住宅ローンや材料開発の領域において、AI技術を活用し、変革をもたらそうとするプレイヤーが登壇した。
今後も毎週木曜朝7時の「FastGrow Pitch」では、注目スタートアップが登壇し、自ら事業や組織について語る機会をお届けしていく。ぜひチェックしてほしい。
こちらの記事は2021年05月18日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
大畑 朋子
1999年、神奈川県出身。2020年11月よりinquireに所属し、編集アシスタント業務を担当。株式会社INFINITY AGENTSにて、SNSマーケティングを行う。関心はビジネス、キャリアなど。
inquire所属の編集者・ライター。関心領域はメディアビジネスとジャーナリズム。ソフトウェアの翻訳アルバイトを経て、テクノロジーやソーシャルビジネスに関するメディアに携わる。教育系ベンチャーでオウンドメディア施策を担当した後、独立。趣味はTBSラジオとハロプロ
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