融資・信用・給与。
Fintechトップランナーが語る評価経済の未来
2018年3月22日 デロイトトーマツベンチャーサポート株式会社主催イベント「The FinTech〜データによるクレジット(信用)の測り方〜」が開催されました。
東京都渋谷区、三井住友フィナンシャルグループが運営するオープンイノベーション拠点hoops link tokyoに、FinTechベンチャー企業3社が集結。
従来融資審査において活用されてこなかった ”信用” データを、新たな指標として導入した株式会社クレジットエンジン、約50年間続く日本の給与支払いの慣行を覆した、株式会社ペイミー。そして、従来金融機関のみが保持してきた融資ロジックを明るみにした、株式会社MFS。
それぞれ革新的な事業を展開する3社のプレゼンテーションを、レポートします。
- TEXT BY FastGrow Editorial
レンディングサービスは、世界で注目高まるブルーオーシャン
内山私はもともと、新生銀行に勤めていました。東日本大震災を機に復興支援事業に従事し、その後、アメリカへ留学。帰国後、マネーフォワードでの営業、事業開発、金融機関提携などに従事してから、1年半ほど前にクレジットエンジンを創業しました。
クレジットエンジンは、オンラインのレンディングサービス「LENDY」を提供している会社です。ビジネスモデルとしては、レンディング自体から収益を得る仕組みをとっています。レンディング自体は無担保ローンで、トランザクションレンディング(売上データを元にして「利率」と「貸出限度額」を判断する、取引履歴・売上実績にもとづく融資サービス)にすることで、リスクを軽減しています。
レンディングサービスは、現在海外でも期待が高まっていて、米国ではすでに、多くのプレイヤーが市場にいますし、中国でも、近年注目が高まっている領域です。一方で、日本にはまだプレイヤーもサービスも少ないのが現状です。
Amazonレンディングのように、特定のプラットフォームの付加サービスとしてのレンディングサービスはあるものの、“プラットフォームに依拠しない” サービスを提供している会社は、クレジットエンジンだけです。
適切に評価されてこなかった事業者に、新たな融資の糸口を
内山プラットフォームにとらわれないことに加え、データの「連携」をすることもクレジットエンジンの特徴です。
従来、銀行などから融資をうけるためには、事業計画書など資料の作成が必要であったことに加え、融資の参考にしてもらえる情報は、BS(貸借対照表)・PL(損益計算書)そして営業担当者によるヒアリング内容に限られてきました。
この点、クレジットエンジンでは、従来銀行が融資審査において考慮に入れてこなかった、より多様で粒度の細かい情報を活用しています。具体的には、銀行の入出金データ、ECや決済サービスの売上データ、飲食店や美容室の評価サイト、などを、連携させながら与信に反映させます。これまで必要とされてきた「借りるためにつくらないといけない資料」はありません。
これによって、既存のレンディングサービス・従来の融資のプロセスでは評価されにくかった業種や人が、新たな指標によって再評価され、これまで受けられなかったような融資がうけられる可能性が生まれるところに、価値があると思っています。
名もなき、金なき人々が、声をあげられる世界をつくる
後藤従業員への感謝を即日お支払い、給与即日払いサービス。ペイミーの後藤と申します。
みなさんは、大学一年生の春や社会人1年目の春に、ATMの残高をおそるおそる覗いた経験、ありませんか。
ペイミーは、こういったお金に関する悩みを解消したいと考えています。根本的にやりたいことは、名もなき、お金もなき人々が声をあげられるようにすること。そして、資金のかたよりによる機会損失のない世界をつくりたいと思っています。ベンチマークは、グラミン銀行。目指しているのは、マイクロファイナンス2.0です。
では、そもそもお金に関する悩みをもっている人は、いまの日本にどれくらいいるのでしょうか。現在の日本の労働人口は約6600万人いますが、このうち単身世帯の二人に一人が“貯金ゼロ” と言われています。
さらに、貯金のない人たちが、「お金に困った」ときを想定したサービスはたくさんあります。フリマサイトで現金を購入。質屋アプリで即日現金化。ECサイトでツケ払い。利用率増加が著しい消費者金融。「お金に困った」人が、その場しのぎをするためのサービス利用は増える一方です。
では、このような方法とは異なる、よりよい形で、お金に困っている人を助ける方法は無いのでしょうか。
こういった問題意識から、ペイミーは、わたしたちにとって最も身近なお金である「給料」の支払いの仕組みを変えることに着目しました。
日本の給料支払いの仕組みは、ここ50年間ずっと変わらず”末締め翌月払い”です。そこで、給料支払いの仕組みを、もっと自由な形に変えることに目をつけました。
そうして生み出されたプロダクトが、メールアドレスやパスワードを入れる「簡単な手続き」だけで、即日で給与が支払われるサービス。
このサービスは、「お金の価値は、時によって変わる」という考え方に基づいています。例えば、大学生にとって、ゴールデンウイークに手に入る1万円の方が、月末に支払われる1万500円よりも価値がある、というようなイメージですね。
働いた量を計算したうえでの支払いなので、貸し付けではありません。企業にとっては福利サービスとして無料で導入いただき、従業員の方から手数料をいただくかたちで運営しています。
国内外で期待高まり サービス利用者は1万2千人を突破
後藤サービスの利用状況としては、現在72社以上の企業に導入いただいていて、導入先の従業員はあわせて1万2千人を超えているという状況です。
ちなみに、給与の前払いサービスは、目下海外でも注目が高まっています。米国でも、2016年に同様のサービスであるPayActivがソフトバンクキャピタルから資金調達。翌年にも、働いたらすぐに給料を受け取れるActivehoursがシリーズAで資金調達をしています。このサービスには「Uberで働くドライバーの勤務態度」をスコアリングして、中長期的なレンディングにつなげていくという展望も見えます。
ペイミーのサービスが企業様にもたらすメリットはおもに3つ。従業員の信用情報保護、定着率UP、そして求人応募数の増加です。特に求人応募では「日払い対応」と表記することで、応募者数がおよそ3.7倍になるなど、明確に数値にあらわれるメリットとなっています。
わたしたちは今後、ペイミーのサービスをFinTech利用の入り口にしていき、そのほかのサービス利用にも、つなげていけたらと思っています。
闇に包まれてきた、審査ロジックを明るみに
塩澤住宅ローンテックMFSの塩澤です。わたしは住宅ローンにおける情報の非対称性を、テクノロジーによって解消したいと考え、銀行と住宅ローンの借り手をつなぐオンライン住宅ローンマッチングサービス「モゲチェック」をはじめました。
まず、住宅ローンはリテールのコア商品であり、かなり多くの人とお金にかかわる問題です。具体的には、利用者は1200万人でローン残高は200兆円にものぼります。ところが、現在このうち約半分以上の人が「割高な」金利を払い続けている状況なのです。
この状況を生み出す一因は、情報の非対称性にあります。金融機関は何を指標にどのようなロジックで住宅ローンの融資判断をするのか開示しないため、エンドユーザーはどうしたら融資が受けられるか、どの銀行であれば融資が受けられるか、どうしたらより良い条件で融資が受けられるかを判断できないのが現状です。
データの解析・供与で 個人が信用力をコントロールできる時代を切り拓く
塩澤そこで、わたしたちは金融機関が住宅ローンを貸し付ける際にどのように審査しているのかに関する情報・データを解析して、ユーザーに分かりやすい形にして還元するサービス(モゲスコアやモゲチェック)を提供しています。2.5万名を超えるユーザーにご利用頂いています。そして「ここだったら審査に通りそうだよ」「一番いい条件で借りられるのはここ」というアドバイスをする橋渡し役を担っています。貸し付けはしていませんので、クレジットリスクはとっていません。
塩澤住宅ローンを借り入れることを検討している方に、審査に関する10項目の質問に答えていただきます。回答を変えてみたりしながら、どのような項目が、どれくらい融資の可能性や金利の高低を左右しているのかが、スコアを通してわかるようになっています。
ここで皆さんに質問ですが、結婚をしていると住宅ローンを借りやすくなるでしょうか。それとも借りにくくなるでしょうか。既婚・独身の項目の回答を変えることで、スコアがどのように変わるのかをみれば、答えは一目瞭然です。
このようにして、住宅ローンを借りることを検討している人が金融機関の審査ロジックを理解し、自分の信用力を高めるためにはどうすればいいかがわかり、コントロールできるようになる。そうしたユーザーのエンパワーメントに、われわれのバリューがあるのではないかなと考えています。
こちらの記事は2018年04月03日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
FastGrow編集部
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