日米のイノベーターつなぐVCファンドWiLが注目!
契約審査、WEB面接、社内ナレッジ共有のAIスタートアップ──FastGrow Pitchレポート
「イノベーターの成長を支援し、未来社会を共創する」をミッションに掲げるFastGrowが、「この会社、将来大きなイノベーション興しそうだ!」と注目するスタートアップをお呼びして、毎週木曜朝7時にオンライン開催する「FastGrow Pitch」。
登壇するスタートアップが目指すビジョンや事業内容、創業ストーリー、どんな仲間を探しているのかなどをピッチ形式で語るイベントだ。
今回は成長期を迎えたテクノロジーベンチャーへの投資を行うVC・World Innovation Labとのコラボレーション企画として、World Innovation LabのAIに特化した投資先のみが集まる限定回を開催した。
本記事では、ピッチの模様をダイジェスト形式でお届けする。登壇したのは、株式会社LegalForce、株式会社ZENKIGEN、ストックマーク株式会社の3社(登壇順)だ。今回は、World Innovation Labでパートナーを務める難波俊充氏も登壇し、各スタートアップの事業の魅力を語っていただいた。
- TEXT BY OHATA TOMOKO
- EDIT BY HARUKA MUKAI
World Innovation Lab
日米を拠点に次世代を担う起業家を育成する
World Innovation Lab(以下、WiL)は、2013年に設立された、シリコンバレーと東京に拠点を置くVCだ。日米問わず、成長期を迎えたテクノロジーベンチャーへの投資、グローバル進出・拡大のサポートを行う。
国内大手企業の変革により、起業家精神の普及とスタートアップ産業の拡大を目指す同社は、ベンチャーキャピタル投資に加えて、大企業におけるイノベーター人材育成や新規事業創出、オープンイノベーションも支援する。
今回は、日米合わせて100社以上の投資先のなかでも、特にAIを事業に活用している注目スタートアップを紹介いただいた。
株式会社LegalForce
AIによる契約審査で「リスクを制御可能に」するプラットフォーム
最初に登壇したのはLegalForce代表取締役CEOの角田望氏。「全ての契約リスクを制御可能にする」をミッションに掲げ、AIによる契約審査プラットフォーム『LegalForce』を開発・運営している。
角田氏は企業法務に特化した法律事務所で弁護士として働いた後、2017年にLegalForceを創業した。自身が「大量の契約書をレビューした経験」から事業の着想を得た。
角田契約書のレビューは、人間がペンを片手に持ち、一枚一枚、確認するやり方が主流です。また、共通の基準があるというよりも、各々が知識や経験に頼って、確認をしていくことも多い。労働集約的かつ属人化しやすい。私自身、日々契約書のレビューに追われていました。
そのなかで、ふと「果たしてこれは人がやるべき業務なのか」と考えたんですね。できることなら、AIに任せたいな、と。
自動化すれば負荷も下げられますし、審査の質自体も高められるかもしれない。そう考え、AIを活用した契約審査プラットフォームを構想していきました。
LegalForceでは、契約書をアップロードするだけで、契約書に潜むリスクや修正すべきポイント、条文例などが、自動的に表示される。条文検索機能も備わっているため、過去にLegalForceへアップロードした契約書や、LegalForceに搭載されている契約書ひな形から欲しい条文をキーワード検索できる。
また、2020年1月には、AI契約書管理システム『LegalForceキャビネ』の正式版を提供開始した。締結済みのPDFやWordの契約書をアップロードするだけで、全文をテキストデータ化、AIが管理台帳を自動生成すると言う。
これらのプロダクトを通し、「契約の作成から管理に至るまで、契約のライフサイクル全体」を支援している。
角田氏は「契約は、企業や個人、個人事業主、業態問わず、だれもがビジネスを行う上で必要になる」ものであり、マーケットは大きいと考えている。現在は、国内中心に事業を展開しているが、「将来的には海外進出も検討している」という。
展開するにあたっては、競合として「海外のメガプレイヤー、後発のリーガルテック企業、大手法律事務所」を想定している。それぞれのプレイヤーに対し、どのように競合優位性を築いていくのか、角田氏はこう語る。
角田まず海外のメガプレイヤーが参入する場合。日本語という言語や、日本の法律が参入障壁になるため、一定の優位性は保てると考えています。
次に、後発のリーガルテック企業が参入した場合です。リーガルテック領域は、ドメイン知識が求められます。弁護士を含め、知識のある人をどのくらい巻き込めるのかが鍵になります。
また、AIサービスでは、早く始めれば始めるほど、データが蓄積され、優位性が高まっていきます。
そのため後発サービスが参入したとしても、ドメイン知識や集まっている人材、蓄積されたデータなどの点では、簡単には負けない自信があります。
最後に大手法律事務所が参入した場合。これは事業開発やエンジニアリングの知見を有していることが、私たちにとって大きな強みになるはずです。
事業面だけでなく研究開発面においても抜きん出るために、LegalForceでは自然言語処理などの研究に注力してきた。
角田創業時から、自然言語処理技術において高い知見と実績を有する、京都大学の森信介教授と共同研究を行ってきました。
また、2020年12月には研究開発部門のなかに、先端技術に特化した「LegalForce Research」を新設し、元Google Brainの小田悠介氏がチーフリサーチャーに就任しました。
今後も、自然言語処理や機械学習といったAIにまつわる先端技術と法務の知見を掛け合わせて、プロダクトの質を高めていきたいですね。
累計調達額42.5億円に達し、「リーガルテック領域のリーディングカンパニー」へと着実に歩みを進める。World Innovation Labの難波氏も「着実に業績を伸ばしておりリーガルテックで突出した存在。また幹部のコミットメントも高い。注目すべき企業です」と期待の声を寄せた。
採用情報
株式会社ZENKIGEN
「人が持つ能力のすべてを発揮できる社会」を目指すAI面接サービス
続いて登壇したのはWEB面接サービス『harutaka』を開発・運営するZENKIGEN 代表取締役CEOの野澤 比日樹氏。
野澤氏は、創業期のサイバーエージェントに携わった後、2011年にソフトバンクアカデミア第一期生として参加、孫正義氏のもとで新規事業立ち上げに従事した後、2017年にZENKIGENを創業した。
参考記事:https://www.fastgrow.jp/articles/zenkigen-nozawa
社名は「人の持つ能力のすべてを発揮する」という意味をもつ禅の言葉「全機現」に由来するという。
野澤世の中において全機現できている大人が少ない状態を変えたいと、ずっと考えていました。特に働いている人ほどストレスを抱え、疲弊している。
人の働き方をアップデートするため、まずはHR Techの領域でプロダクトをつくろうと決めました。
そうして開発されたのがWeb面接サービス『harutaka(ハルタカ)』だ。応募者とオンラインで面接を行える「ライブ機能」や、質問に対して動画やテキストで回答してもらう「エントリー動画機能」を備えている。
さらにエントリー動画での選考において、応募者の印象をAIで定量化するサービス『harutaka エントリーファインダー(以下、EF)』も提供している。
野澤人気企業であれば、1万を超えるほどのエントリーが集まり、従来の書類選考のみでは学力や経歴以外を判別することは非常に困難である。
harutake EFでは、顔の表情や声など、動画から得られるデータを定量化し、応募者の印象を客観的に評価します。
AIによる解析で印象を定量化することで客観的で公平な選考を実現する。それにより応募者、企業双方にとってより生産的でより人間的な選考を目指します。
さらに、2021年夏頃を目処に、オンライン面接を録画した動画を解析する『harutaka インタビューアセスメント』も実装予定だ。
これは、応募者が面接官にいだく印象を380項目以上の情報から分析、可視化し、面接官へフィードバックを行うサービスだ。候補者の良さを引き出し、学びのある候補者体験の高い面接を誰もが実現できることを目指す。
現在はPoCを進めており「熟練した面接官ほど発話量が少なく、かつ信頼と尊敬スコア、応募者のアンケートの結果も高い」など、興味深い結果得られているという。
AIを活用するというアイデアは、ソフトバンクで働いていた頃、孫正義氏が口にしていた言葉から得たものだという。
野澤「これからの時代は、AIだ。AIにはビッグデータが欠かせない」という言葉を、在籍中何度も耳にしていました。
HR Tech領域でどのようなビッグデータがあるかを考えてみると、現状のプレイヤーが蓄積しているものは、テキストに偏っていると気づきました。それならば、動画のビッグデータを集めていけないかと思ったんです。
導入企業が増えるに従って、採用面接のビッグデータは順調に集まっている。それらを活用した研究にも力を入れている。人間の感情を分析する「アフェクティブコンピューティング」や、言語や感情など多面的な情報を処理するAI「マルチモーダルAI」などの研究を重ねている。
開発したAIは、採用プロセスだけでなく、1on1など、広く職場のコミュニケーションを改善するために活用していく予定だ。
野澤1on1のデータをAIで解析し、上司との関係や相性などを可視化、フィードバックするようなサービスを検討しています。実際にいくつかの企業で実証実験を行なってきました。
そうやって組織において、関係や相性の可視化ができてくると、人間が最も能力を発揮できるチーム配置なども可能になるはず。それが社名でもある「人の持つ能力のすべてを発揮する」につながると考えています。
World Innovation Labの難波氏は「人を活かすためのAI活用に真っ向から勝負しており、ビジョンに真っ直ぐな会社です」とZENKIGENのユニークさを強調した。
採用情報
ストックマーク株式会社
イノベーションに欠かせない知の探索を促すナレッジ共有サービス
最後に登壇したのはストックマーク執行役員の原部智哉氏。最先端のAI技術を活用したナレッジシェアサービスを展開している。
参考記事:https://www.fastgrow.jp/articles/stockmark-hayashi
ストックマークは創業時から3つの事業を並行して開発・展開してきた。
1つ目の『Anews』は、国内外3万以上のメディアから、各部署や個人に最適化されたニュースを、AIがレコメンドするサービスだ。閲覧したニュースから得た気づきを共有したり、メンバーとコメントを交わしたりもできる。
原部氏は「レコメンドによってインプットの幅を広げるだけでなく、メンバー間の共有を促し、ナレッジを還流させるサービス」と紹介する。
2つ目の『Asales』は、社内の提案書などの資料をアップロードすると、ページ・スライド単位でタグ付けし、整理してくれるサービスだ。利用者は、ページ・スライド単位で必要な資料を検索・ダウンロードできる。また類似スライドのレコメンドで、探す作業を軽減する。
最後の『Astrategy』は、市場分析や戦略策定のための情報取集を効率化できるサービス。調査・解析をしたいトピックを検索すると、マーケットの分布や各プレイヤーの時系列での変化などを、AIが構造化して表示する。
『A series』と総称する3つのプロダクトを通して、ストックマークは「新価値創造」というミッションを実現しようとしている。
原部企業が成長していくためには、社内外の知と知を掛け合わせ、新たな価値を創造し続ける必要があります。
当たり前のことと思われるかもしれませんが、実際知の探索や共有をうまくできている企業は少ないと思います。なかなか社外情報のインプットに時間も割けず、社内のナレッジを活用しようにも、情報がバラバラで困る......私自身も前職で経験した記憶があります。
そうした価値創造のためのインプットやアウトプットをめぐる課題を、テクノロジーで支援するのが、私たちのミッション。より広く言えば、日本企業全体のイノベーション力の向上に貢献していきたいです。
どのように課題を解決していくのか。ストックマークでは3つのフェーズの変化が必要だと整理をしている。
原部フェーズ1では、個人が外部環境に興味を持ち、目の前の業務以外にも、知識の幅を広げている。チームでは情報が共有され、組織内で還流し始めます。
フェーズ2では、個人が集めたナレッジを活用してアウトプットにつなげている。チームでは、新しいチームやプロジェクトが立ち上がるなどの動きが見られます。
最後のフェーズでは、個人が自ら事業を興せる人になっており、チーム内では更にオープンなコラボレーションが起きていきます。
現状のストックマークはフェーズ1をより深めている段階です。ここから個人のアウトプットやチーム間のコラボレーションを促進し、メンバーの創造性が発揮される状況をつくっていきたいと考えています。
現在はエンタープライズでの導入が進んでおり、今後は部署単位ではなく全社的な導入を促し、事業を育てていくという。
こうした順調な成長、質も高いプロダクトを下支えしているのが、最先端の自然言語処理の技術や研究だと原部氏は強調する。
原部2019年からGoogleの自然言語処理モデル『BERT』に、日本語のビジネス文章を大量に学習させて、独自のモデルを作成しています。これによって処理の精度は大幅に向上しました。
最近ではテキストと画像を組み合わせて解析する、マルチモーダルAIの開発にも取り組んでいます。
こうした研究開発やビジネスへの応用に興味のある人にとって、弊社は非常に面白い環境ではないかと思います
World Innovation Labの難波氏は「『選択と集中』が重視されるスタートアップ界において、創業当初から3つのプロダクトを同時並行で進める、非常に器用な会社です」と、語った。
採用情報
記念すべき第42回目となったこの日は、AIを活用し、領域特化型のプロダクトを展開するプレイヤーが集った。
今後も毎週木曜朝7時の「FastGrow Pitch」では、注目スタートアップが登壇し、自ら事業や組織について語る機会をお届けしていく。ぜひチェックしてほしい。
こちらの記事は2021年05月24日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
大畑 朋子
1999年、神奈川県出身。2020年11月よりinquireに所属し、編集アシスタント業務を担当。株式会社INFINITY AGENTSにて、SNSマーケティングを行う。関心はビジネス、キャリアなど。
inquire所属の編集者・ライター。関心領域はメディアビジネスとジャーナリズム。ソフトウェアの翻訳アルバイトを経て、テクノロジーやソーシャルビジネスに関するメディアに携わる。教育系ベンチャーでオウンドメディア施策を担当した後、独立。趣味はTBSラジオとハロプロ
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