連載ユナイテッド株式会社

事業は「詳しい」より「やりたい」奴に任せるべし──“意志ある人”に知恵と機会を与えるユナイテッド、M&A後の事業統括は全て若手が担う!?

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金子 陽三

慶應義塾大学総合政策学部卒業後、リーマン・ブラザーズ証券会社投資銀行本部にて金融機関の資金調達や事業法人のM&Aに従事。その後、米国シリコンバレーのVCドレーパー・フィッシャー・ジャーベットソンを経て、2002年、インキュベーション・オフィスを運営する株式会社アップステアーズを設立し代表取締役に就任。2004年に同社をネットエイジキャピタルパートナーズ株式会社(現ユナイテッド株式会社)へ売却。2007年、ngi group株式会社(現ユナイテッド株式会社)取締役兼執行役COO兼投資事業本部長を経て、2009年2月代表執行役社長に就任。2012年12月スパイアと合併、ユナイテッド株式会社代表取締役社長COOを経て、2022年4月より代表取締役 兼 執行役員に就任(現任)。

脇谷 光多

2019年にユナイテッド株式会社に新卒入社し、各グループ会社が保有している複数プロダクトの新規営業を経験し、その後、DXコンサルティング部門にてインサイドセールスチームを立ち上げ。現在は、ユナイテッドグループの株式会社リベイスにて、事業統括/プロダクトマネージャーを担当。

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経営者視点を持った若手を育成したい──。

企業の永続性や組織の発展を考えた時、多くの経営者に共通する願いであろう。しかし同時に、現場においてはリソースが足りず、教育に手が回らないというのが正直なところ。その結果、中途採用による即戦力採用で、専門性の高い人材を採用するほかないという対症療法に多くの企業が陥ってしまうのではないだろうか。

そんな中、新卒2〜3年目から自社のグループ企業のM&AやPMIを任され、事業責任者を務めるほどの若手人材の育成に取り組む企業が存在する。さらに驚くべきは、入社した若手全員に同様の機会が与えられているということだ。

その企業とは、もはやFastGrowにおいては説明不要、インターネット業界を代表するユナイテッドだ。今回は、若手人材への果敢な機会提供によって事業を拡大する、同社の人材育成手法に迫る。

ゲストは、新卒入社2年目からM&Aのプロジェクトにアサインされ、グループ会社リベイスの経営に携わっている脇谷 光多氏。さらに、前回に引き続き、代表取締役 金子陽三氏を招聘し、若手人材育成に魂をこめる理由を紐解いていく。

ユナイテッドの3つのコア事業の全貌を解き明かす、全10回に渡る本連載。1〜4記事では同社のコア事業の一つ「投資事業」の全貌が明らかとなった。そして前回5連載目に3つのコア事業の残り2つのピース、「教育事業」と「人材マッチング事業」も明かされた。

今回は、そのうち「人材マッチング事業」の具体事例を紹介したい。リベイスにおける脇谷氏の活躍事例をもとに、同社の事業の魅力、そして若手の育成手法を明らかにしていこう。

  • TEXT BY MISATO HAYASAKA
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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積極的なM&Aが、自社の「コア事業」を確立させた

ユナイテッドは2022年4月に“パーパス”を策定し、注力事業を投資、教育、人材マッチングの3つに定めたことは前回の記事にて述べた通り。コア事業間でのシナジーを創出することで、成長を加速させ、社会をより豊かにしていくという考えだ。

まずは、ユナイテッドのパーパスと、それに紐づく3つのコア事業の概要を簡単に振り返っていこう。

「意志の力を最大化し、社会の善進を加速する。」これがユナイテッドが掲げるパーパスである。

これまで、成長するインターネット産業と共に歩みを進め、勃興し続けるトレンドを逃すことなく成長を遂げてきた同社。設立10年目を節目に、「時代に即した会社としての指針が必要だ」──と、今後も継続的な成長を遂げるための支柱を定めるべく、経営陣が1年間議論を重ねてこのパーパスが生み出された。

また、パーパスの策定に合わせて、「意志ある人に、知恵と機会を。意志ある事業に、資金とノウハウを。そして、両者が出会い、互いの成長が、さらなる成長を生む。成長の連鎖で、社会を満たしていく。」というステートメントも定められている。

このパーパスを起点として、同社が今後注力していくコア事業として定められたのが「投資事業」、「教育事業」、「人材マッチング事業」であった。

「投資事業」はこれまで同社が20年以上に渡って培ってきた豊富なノウハウや知見が多分に活かされている。また、「意志ある事業に、資金とノウハウを」というステートメントに合致するものだ。

「教育事業」を牽引するのは、グループ会社のキラメックスが提供している『テックアカデミー』だ。プログラミング、Webデザイン、マーケティング、統計など50種類以上の多様なカリキュラムを提供することで、今後の社会で求められるスキルを重視したデジタル人材の育成・輩出に取り組んでいる。こちらも、「意志ある人に、知恵と機会を。」というステートメントを体現するかのような事業である。

そして、コア事業の三つ目こそが、今回メインテーマとして取り上げる「人材マッチング事業」だ。前回の取材にて金子氏は、この「人材マッチング事業」を「投資事業と教育事業、この2つの事業をさらに活かすための掛橋のような存在」だと語った。

そして本記事でスポットを当てるリベイスは、この「人材マッチング事業」に属するグループ企業という位置付けとなる。

「教育事業」により意志ある人に“知恵”を提供し、「人材マッチング事業」を通じて、その人々に“機会”を与える。そして、「投資事業」を通じて意志ある事業に資金とノウハウを提供するとともに、意志ある人の活躍機会も提供する。この3つの事業が循環することで、成長が加速し、社会をより豊かにしていくことができるのだ。

パーパスと三つのコア事業の接続が理解できたところで、いよいよ「人材マッチング事業」の一つに位置付けられているリベイスに迫っていきたい。

リベイスは、通過率5%という厳しい審査をくぐり抜けたトップデザイナー150名以上が在籍する、デザイナー特化型クラウドマッチングサービス『JOOi(ジョーイ)』の提供を行っている。

そんなリベイスがユナイテッドにグループインしたのは2021年7月のこと。勘の鋭い読者は気がついたであろうが、ユナイテッドがパーパスとコア事業を定めた2022年4月より前にこの買収が実施された事になる。

何を隠そう、「このリベイスの買収があったことで、3つのコア事業がはっきりと浮かび上がることになった」のだ。早速その背景を金子氏に伺ってみたい。

金子パーパスの策定に合わせて、コア事業を定める際に考えなければならなかったことは、「ユナイテッドが蓄積してきた経営資源やアセットが活かせる領域はどこか」ということでした。

「投資事業」は言うまでもなくユナイテッドの事業の主軸であり実績も豊富でしたのでコア事業に相応しいと考えました。

「教育事業」に関しても、グループ会社のキラメックスが『テックアカデミー』を展開しており、既に十分な事業運営実績がありました。ただし、当時世の中には様々なプログラミング・Webデザイン教育サービスが存在していましたが、「出口」としての実践経験を積む機会が提供できていないという課題があったんです。

プログラミングスクールで学ぶだけでは、実際にIT企業に転職するために十分なスキルを身につけたり、フリーランスや個人事業主として案件を獲得できるケースは少ないですからね。そこで、スクールで学ぶだけでなく、しっかりと実践経験を積むことで、滑らかにキャリアシフトを実現してもらいたいと考え『テックアカデミー』の卒業生向けに、『テックアカデミーワークス』という企業の開発案件が受けられる機会を提供していたんです。

ここで、“教育”と“仕事のマッチング”は非常に相性がいいことに気付き、さらに教育系の企業や、人と仕事のマッチングビジネスを行う企業をユナイテッドグループにお迎えできればと考えました。そこで、私が何社かピックアップし、そのうちの一社がリベイスだったというわけです。リベイスのグループインをきっかけに、ポートフォリオを拡充していく中で徐々に「人材マッチング事業」の輪郭が定まっていきました。

「人材マッチング事業」は、キラメックスやリベイスのグループインを経て、金子氏が手応えを感じた領域だったのだ。その後ユナイテッドは人材マッチング事業のポートフォリオを拡充していくこととなる。

人材マッチング事業のポートフォリオ(すべてM&Aによるグループイン)

・オンラインプログラミングスクール『テックアカデミー』卒業生と企業のマッチングを行う『テックアカデミーワークス』を運営するキラメックス

・デザイナー特化型クラウドマッチングサービス『JOOi』を運営するリベイス

・ジョブ型複業人材マッチング事業『ハッシュミー』と即戦力人材シェアリング事業『即戦力くん』を運営するココドル

・ダイレクトリクルーティング媒体のスカウト代行サービス『offerBrain』を運営するイノープ

・副業・転職マッチングプラットフォーム『Kasooku』を運営するカソーク

ユナイテッドはなぜここまで「人材マッチング事業」のポートフォリオを拡充するのだろうか?これは、ただ「教育事業」⇔「人材マッチング事業」間の接続、つまり『テックアカデミー』の受講生の出口戦略を目的にしただけのものではない。「投資事業」において、ユナイテッドの投資先はこれらのサービスを活用し、事業成長を加速することが可能となるのだ。

積極的なM&Aにより「人材マッチング事業」のポートフォリオを拡充。それが「投資事業」の成果にダイレクトに還元され、コア事業全体の成長に繋がる。このようなコア事業同士のシナジーや循環を通じて社会の善進を加速させていくのがユナイテッドの狙いだ。

同社のパーパスとそれぞれのコア事業の接続をご理解いただけただろうか?もちろんこれまでの道のりには、まだまだ本記事では語られていない秘蔵エピソードが多くあったわけだが......。

「堅牢な指針と、柔軟な事業ポートフォリオで挑め」──ユナイテッド・金子氏に訊く、不確実な時代を生き抜くパーパス経営と3つのコア事業戦略とは

さて、少々前置きが長くなってしまったが、いよいよ次章からは新卒3年目にしてリベイスで事業責任者を務める若手の奮闘日記から、ユナイテッドの育成手腕を明らかにしていこう。

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1年目はLv.5の環境。
2年目で突如Lv.100のステージへ!?

リベイスの一連の買収プロセスで大活躍を果たしたのが本記事の主役を務める脇谷 光多氏である。同氏は2019年にユナイテッドに新卒入社。同社の各グループ会社が保有している複数プロダクトの新規営業に配属された後、ユナイテッドのDXコンサルティング部門にてインサイドセールスチームの立ち上げを遂行。そして、新卒3年目にはユナイテッドグループの子会社となるリベイスのM&Aプロジェクトに参画し、その後に事業統括を任されることとなる。

今では、リベイスにて大車輪の活躍を見せる脇谷も、就職活動時は特に起業や経営に興味があったわけではなく、「幅広い経験を積んでビジネススキルを高めたい」と願う“普通”の大学生であった。

“若いうちから挑戦機会を得られる企業”を軸に、IT・広告を中心に勢いのあるベンチャー企業に数多くエントリー。最終的にユナイテッドを選んだ理由は、「直感だった」とまっすぐな眼差しで語った。そんな脇谷氏のビジネスキャリアは憧憬の念と焦燥感とともに幕を開ける。

脇谷入社前から、若手にどんどん挑戦させるカルチャーがあることは聞いていました。しかし、いざ実際に入社してみると、想像以上に年の近い先輩たちであっても既にビジネスの最前線で活躍していることを目の当たりにしました。

また、僕は学生時代にインターンをした経験もなく、ビジネスは完全素人。既にインターンを通じて事業経験を積んでいた同期と比較しても「完全に遅れをとっているな」と実感せざるを得ませんでした。先輩たちに早く追いつきたい、そんなギラギラした想いを胸に、毎日もがき続けていました(笑)。

入社後に配属されたのは新規営業。ただがむしゃらに新規受注を獲得すべく、電話機を握り続ける毎日であった。そんな脇谷氏の努力が報われたのは入社から3ヶ月ほど経過した頃。社会の厳しさ、自身の至らなさを痛感し、何度も挫けそうになりながらも追い込み続けた結果、新規受注を叶えることができたのだ。脇谷氏にとっては、初めて達成感が得られた瞬間でもある。

迎えた2年目。脇谷氏は次なる経験を積むべく異動によりDXコンサルティング部門のインサイドセールスチームに配属される。ここで大きな衝撃が彼に走った。そう、新チームのマネジャーは代表の金子氏だったのだ。つい先日まで、一学年先輩の若手マネジャーと仕事を進めていた脇谷氏は、この大きな環境の変化に戸惑いを隠せなかったと言う。そんな当時の脇谷氏の様子を、金子氏は懐かしげに口にする。

金子今でこそ頼りがいのある存在に成長してくれていますが、当時はまだまだ甘かったですね(笑)。威勢よく「やります、頑張ります」と言ってくれるのですが、いざ蓋を開けてみると、物事を表面的にしか理解していなかったり、もっとやれることがあるのに、中途半端なコミットで終えてしまったりと。

脇谷当時は、背景を理解せず、また深く考えないまま任された業務を進めようとしていました(笑)。

例えば、アポの獲得率や受注率を上げるためには、様々なアプローチが存在する、なんてことは今では当たり前のことですが、当時はひたすらに“量”のみで解決しようとしていました。

また、自分なりに金子さんからのフィードバックを理解したつもりで、「分かりました」と返事をしていたのですが、業務に対する解像度がものすごく低かったんですよね。

言うなれば、物事の表層だけを捉えてわかった気になって、核の部分においては真に理解できていなかったんです。金子さんからは、何度も貴重なフィードバックをいただきました。

社会人2年目。多くの新卒社員がそうであるように、脇谷氏もビジネスの荒波に揉まれながら、日々成長を遂げている最中だった。しかし、脇谷氏が他のライバルたちと異なっていたのが“上長”の部分であろう。新卒2年目と上場企業の代表。一般的な企業では交わることのない役職の2人が直接の上司-部下という関係で合間見えることとなったのだ。

しかし、これもまだ序章に過ぎない。翌年にはM&Aプロジェクトのオーナーに抜擢されPMI後のグループ企業の事業統括を任されることを、当時の脇谷氏は知る由もなかった。

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「領域に詳しい人」よりも
「意志ある人」にバトンをわたす

金子氏直属のチームにて、「まだまだ甘かった」と評されながらも、日々がむしゃらにインサイドセールスとしての業務に食らいついた脇谷氏。新卒3年目を迎えたある日、脇谷氏に運命の日が訪れる。そう、前回の記事でも語られた、金子氏による1on1での抜擢MTGだ。

前回の記事ではユナイテッドの新卒入社後のキャリアプランが明かされた。新卒入社メンバーは、主に投資先企業の成長に向けたハンズオン支援を行う部門にまずは配属。その後、2年目から3年目にかけて、新しくM&Aを行ったグループ会社のPMI〜事業グロースや、新規事業創出などにアサインされるのだ。

とはいえ、このキャリアプランをユナイテッドが公に明示したのは、パーパスを策定した2022年4月以降。当時、脇谷氏はこのようなキャリアプランの存在をまだ知らされていなかったのである。リベイスの事業統括を任せる若手候補として、脇谷氏を抜擢した背景とはどのようなものだったのだろうか?

金子当時、買収後に事業責任者候補として事業に取り組んでもらう若手候補として、脇谷ともう一人のメンバーに声をかけたんです。「こういう機会があるんだけど、チャレンジしてみる?」と。すると脇谷は「ぜひ自分にやらせてください」と即答してくれました。

もう一人、別で声をかけたメンバーは脇谷よりもデザイン領域に詳しかったのですが、自身の描くキャリアパスとの兼ね合いで「コミットできるか分からない」という反応でして。

領域に詳しい人よりも意志ある人を選ぶのがユナイテッドのアサイン時における決定方針なので、それなら脇谷に任せようと考えました。“どちらが適正か”ではなく、あくまで“意志”が判断基準です。他人から言われてやるのではなく、自分でやると決めることが大事。そのほうが、結果的に事業に対する本人のコミットメントも高くなり、成長スピードも早いですからね。

ユナイテッドのパーパスは先にも述べた通り「意志の力を最大化し、社会の善進を加速する。」だ。ここで注意したいのが「パーパスにある“意志”とは、決して顧客だけを指すものではない」ということ。ユナイテッドで働くメンバーの“意志”も、同様に重視されるのだ。

もちろん、新卒入社からわずか2〜3年足らずで、1つの会社の事業を責任者として担うことに対して、実力不足な感は否めないだろう。しかし、「意志の力を最大化させる」ためには、なるべく早く経験を積んで欲しいというのが、金子氏をはじめとしたユナイテッド経営陣の願いなのだ。

─引用─(ユナイテッド連載4記事目

僕や代表取締役の早川、取締役の山下などは、若い頃、勃興するIT業界のどさくさに紛れて(笑)、いろいろな経験をさせてもらえて、業界や諸先輩方に育ててもらった感覚があります。

ところが、今はIT業界もかなり成熟してきて、自分で事業にチャレンジできる余地が減ってきているように思うんです。なので、挑戦の機会をユナイテッドでは創り続けたいと考えています。

前回の記事でも述べられた通り、IT産業の勃興期には、そこら中に新規事業や会社経営を担うチャンスが転がっていた。成熟期を迎えた昨今のIT産業においても、これまで通り、いやこれまで以上に意志ある若者に挑戦の機会を与え続けることを、ユナイテッドは固く決意している。そんなユナイテッドの若手育成に懸ける想いを全面に託されたのが脇谷氏なのだ。

脇谷率直に「チャンスが来たな」と感じました。一切の迷いなく、「挑戦したいです」とお伝えしたのを覚えています。

正直なところ、自分自身ビジネスパーソンとしては営業経験しかなく、事業を成長させることへの解像度はもちろん、事業というもの自体の解像度も低かったと思います。しかし、だからといって飛び込まない理由はありません。もちろん、これまでも仕事のやりがいは感じていましたが、これまでよりも何倍もレベルの高い仕事に携われるんだという期待でいっぱいでしたね。

躊躇うことなくチャンスを掴み取りに行った脇谷氏。そこには一握の不安も感じなかったのだろうか?若手がいきなり営業の現場から事業統括への異動など、躊躇う者が少なくないはずだが──。

脇谷当然、“懸念”はありました。でも、“不安”は全くなかったですね。僕の性格的なところもあるかもしれないですが(笑)。それに以前から金子さんには仕事の進め方に関して密に相談に乗っていただき、フォローもいただいてきたので、100%手放しで崖から突き落とされることはないだろうと踏んでいたのもあります。何かあったら頼れる方がいるというのは、心の支えでしたね。

こうして脇谷氏は、今回のチャンスに喰らいつく決断をした。「いつでもベテラン経営陣に相談できる」という安心感が、脇谷氏の背中を押したのだ。

もちろん、新卒2、3年目のメンバーに事業を任せるのは容易なことではない。手取り足取り教えることが前提であるため、上司にも相当な覚悟が必要だからだ。

しかしながら、ユナイテッドは「新卒入社後、遅くとも3年目以降は事業リーダーとして事業立ち上げや事業グロースに携わる、あるいは投資事業におけるキャピタリストとなる。30歳頃までには、ユナイテッド全体の経営に携わる人材へと成長していってほしい」と若手人材育成に関するポリシーを明言している。そう、事業家人材を“育てる覚悟”を、全社に向けて表明しているというわけだ。

そしてその根本土台として、金子氏や早川氏をはじめとした経験豊富な先輩事業家によるサポート体制が敷かれているのだ。彼ら経営陣による「この失敗によりこれくらいの損失が発生するかもしれない。しかし、若手の成長のためであれば許容できる範囲だ」という鋭いリスクマネジメント。それに加えて、グループ会社含めた組織体制というケイパビリティ。若手が果敢に挑戦できるフィールドを、ユナイテッドは意識的に作り上げているのだ。

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通過率5%のプロデザイナー集団、『JOOi』

果敢にリベイスのM&Aプロジェクトに挑戦することを決意した脇谷氏。ここからリベイスでの奮闘に迫るには、まずリベイスがどのような事業を行っているのかについての理解が必要だろう。

デザイナー特化型クラウドマッチングサービス事業を展開するリベイスは、業界トップクラスの評価と実績を持つフリーランスや副業のトップデザイナーが150名弱在籍するプラットフォーム『JOOi』を提供していることは先にも述べた通り。

現在、リベイスの正社員は3名のみで、業務委託のほうが多いチームだという。少数精鋭であるため、セールス、マーケティング、CS、バックオフィスなど、事業に関わるさまざまな業務を掛け持ちしてる。まさに、スタートアップらしい経営体制だ。

デザイナーとのマッチングサービスは世の中に複数存在するが、他のサービスと比べてどのような特徴があるのだろうか、早速、事業統括を務める脇谷氏に訊いてみよう。

脇谷『JOOi』は登録するデザイナーを審査制で選抜しているので、誰でも登録ができる業界大手のクラウドソーシングと比べて、デザイナーのスキルや制作物のクオリティが明らかに高いんです。

具体的には、デザイナーの審査通過率は5%で、多数の応募から厳選された一流のデザイナーのみが在籍しています。さらに、無駄なコストを省いているため、大手のデザイン制作会社と比較しても約1/2程度で済む場合もあるという、コストパフォーマンス的にも優れたサービスです。

デザイナーを探し、選ぶ、という工数がなく、コストも比較的抑えた状態で質の高い制作物を提供できるといった点が「JOOi」の強みですね。業界トップクラスのデザインサービスを、業界平均コストよりも安価に受けることができるといった点が『JOOi』の強みですね。

審査通過率5%というのは驚きである。登録人数が多くなればなるほどプラットフォームは拡張していく反面、クオリティには課題も生じうる。しかし、このクオリティ担保をサービスの事業価値として重視し、あえて審査制をとっているというわけだ。

脇谷ここ20年ほどのインターネット産業の成長に伴って、デザイナーやエンジニアといった、IT業界には欠かせないプロダクトづくりに携わる人材の市場価値は高まっています。そしてインターネット産業の成長とは相反して、そもそも日本の生産年齢人口は年々減ってきています。それに伴う慢性的な人材不足を解決する手段としても、このサービスは好評をいただいていますね。

実際にサービスを活用いただいたお客様からは、「アサインまでの連携がスムーズで、素早く要件に合ったデザイナーが見つかった」という声が多数寄せられていて、その中で気をつけているのはまさに上記のようにコミュニケーションコストをいかに下げるかということです。

『JOOi』を活用いただくお客様の大半は、自社のリソース不足に悩みを持たれているケースがほとんど。つまり、依頼の背景や依頼内容、期待するアウトプットなどを何度も発注先のデザイナーとMTGを重ねてじっくり進める時間はないわけです。

そのため、お客様1社ごとに専属のコーディネーターをつけて、ご依頼要望を聞いた後、そこに合致するアウトプットが出せるデザイナーを瞬時に探せる仕組みを設けるなど、お客様の事業成長を足止めしないような価値提供を心がけています。これは、ユナイテッド自身が事業会社として広告出稿におけるLPやバナー制作などを行ってきたからこそ重視できる点でもあるかと思います。

ここで、リベイスについて語る脇谷氏の目の輝きを取材陣は見逃さなかった。脇谷氏自身に対する質問には、時に沈黙も交えながら淡々と答えていた印象だった。しかし、リベイスの事業について問われると突如として饒舌になるのだ。「ん?人でも変わったのか?」とは言い過ぎかもしれないが、それほど前のめりになってサービスについて語る脇谷氏からは、隠しきれない事業への自信や情熱が垣間見えた。

とはいえ、この自信は一朝一夕で身についたものではないだろう。もちろん脇谷氏がいくら優秀であっても新卒3年目が子会社の事業責任者を務めることの難度の高さは言うまでもない。どんな苦難が待ち受けていたのだろうか次章で明らかにしていこう。

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計画よりも進捗がビハインド…。
しかし経営陣はお見通し

M&Aと一言に言っても、その実行には、財務・法務・ビジネスデューデリジェンスの実施、買収後の事業計画の策定、社内決議を進めるための各種プロセスの進行、買収後の定例会議や経営合宿など、さまざまなフローが存在している。

必要に応じて金子氏がサポートに入るものの、基本的にはこれら全てを脇谷氏が主体となって行う。もちろん、M&Aの経験などない脇谷氏にとって、どれも自分のキャパシティを超える挑戦であったことは想像に難くない。

脇谷右も左も分からない状態で自分を奮い立たせる日々でした。今回のM&A案件は企業買収で、旧リベイスの社員は誰も残らないという形でした。つまり、引き継ぎ期間が過ぎたら100%自分たちだけで運営しなくてはいけません。なので正直、色々な壁にぶち当たりましたね。

もともとは他社の事業だったわけですから、自分がオーナーとなって事業をコントロールできるようになるには一定の期間が必要です。特に、僕の場合はまだ事業家として途上の段階にも関わらず任せてもらっているので尚更…。

そのため、例えば事業自体は伸び続けているものの、当初の事業計画からビハインドしたことがあり、金子さんを始めユナイテッド経営陣に対して申し訳ないという気持ちと、自身の力不足を痛感して本当に悔しい思いをしました。

金子側で見ていて大変そうだったのは、とにかく、何もかもが分からないこと。例えば、リベイスに限らずM&Aした後はそこからユナイテッドとしてどのような事業戦略を描いて成長させていくのかを考えますよね。その際に事業計画を作るんですが、もちろん脇谷は一度も作ったことがないわけです。

例えば、当然といえば当然ですが、会計項目自体もよく分かっていないんですよね。言うなれば、リベイス前後で業務において使う筋肉がガラリと変わったという具合です。とはいえ、我々がやっているのはボランティアではなく事業。限られた時間軸の中で事業を前に進めるための意思決定をして、取締役会で決議ができる状態まで持っていくのは本当に大変だったんじゃないかと思います。

金子氏をはじめ、経験豊富な先輩事業家によるサポート体制が敷かれているとはいえ、初めてのことばかりで苦労も絶えなかったという。しかし、脇谷氏はそんな状況の中でも、思考を止めることはなかった。

脇谷フィードバックから学ぶだけでなく、常に金子さんの考え方やスタンスを盗もうとしていました。金子さんは、変化に対して非常に前向きで、改善し続けることを惜しまない方です。その姿勢は事業にとっても大事ですし、僕個人にとっても欠かせないものだと感じました。

実際に経営に携わることで、脇谷氏は実に多くのことを“実体験として”学んでいくこととなる。そしてその多くは、FastGrow読者のように勉強熱心な人であれば「当たり前のこと」と突っ込みたくなるような事業ノウハウだったりする。

しかし、知識として“知っていること”と実体験として“理解していること”には大きな隔たりがある。世に溢れるノウハウも、実際に自分が課題に向き合いもがき苦しんだ後で初めてその有用性に気づくのである。御多分に漏れず脇谷氏も多くの“当たり前”を学んだ。

脇谷事業を自ら進めていく中で学んだことは非常に多いです。例えば、一人で事業をスケールさせることの限界、つまりいかにして周りを巻き込んで、いかにして助けてもらうのかが大事だということ。実際に向き合ってみて初めて、自分でボールを持ち過ぎないことなど、主に「時間の使い方や重要性」に気づきました。

僕の場合、意思決定に迷った際に周囲に相談するタイミングが遅くなりがちで、一人で抱え込んでネガティブになってしまう癖があったんです。また、スピード感を持って成長させることが事業にとって何よりも大切だという当たり前のことも、経営に携わって初めて実感しました。

競合が1年かけて新サービスを出すなら、それを3ヶ月で作り出すことができれば競争力が高まるばかりか、人件費などのコストも削減できますからね。金子さんのような経営者からすれば至極当然のことですが、実際に経営する側の立場にならなければなかなか理解できないことがとても多いです。僕のような若手であればなおさらです。

一見すると「そんなの当たり前のことでしょう」と感じる読者もいるであろうが、再度言おう。「知っている」と「失敗を通じて腹落ちする」ではその価値はまったく異なる。

“実践・挑戦から得られる学び”に重きを置くユナイテッドの育成方針。そしてこのチャレンジには常に“失敗”というリスクが付き纏うことを忘れてはいけない。そうであるからこそ、ユナイテッドは若手メンバーの失敗を咎めることはない。

思い返せば代表取締役社長 兼 執行役員の早川 与規氏も、以前のインタビューで「『将来は事業責任者になりたいです』と若手が言うならば、自分で決めて自分で失敗する経験を積まないと、何が正解で何が不正解なのかも学べない」と語っていた。

ユナイテッドの20代事業家育成に関する共通見解は、「良き失敗なくして一流の事業家は育たない」だ。若手が安心して失敗できる環境を整備することで、一流の若手事業家が誕生し、多岐にわたるユナイテッドの事業を牽引していくようになる。若手事業家育成の真髄は、「失敗を見込んだ上で挑戦させ、かつ失敗を許容できる場所をつくること」にあるのかもしれない。

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脇谷氏は特別じゃない。
ユナイテッドなら“誰でも”こう成れる

ここまで、経営者として成長を遂げた脇谷氏のエピソードと、抜群のサポート体制で見守り続けたユナイテッドの育成体制を見てきた。まったくのビジネスビギナーがものの数年で事業責任者と進化する過程を通じて、脇谷氏はこの環境についてどう感じているのだろうか。

脇谷一人前の経営者になるため、その時々に噴出する課題に対してクリティカルなアドバイスをいただけていると感じています。

例えば、目先の業務で手一杯になってしまい、会社の大きな地図を見失いそうになった時には「会社として何をやるべきか考えて、自分にしかできないことをやりなさい」といった具合にです。おまけに「ただ、自分にできないことは人にもお願いできないから、理解した上で依頼しなければならない」という言葉まで添えて。

さらに、ユナイテッドの方々は、単に事業成長を見るのではなく、仕事に泥臭く取り組んでいる姿勢や、人間力も見てくれているんです。例えば、事業が苦しい時に他責にしてしまうのか、「これは成長機会だ」と捉えて自身の思考癖やアクションを振り返ることができるのか。

また、事業責任者としてチームメンバーのケアをどのように取っているのかといった側面など。そういう、事業の数字だけでは見えてこない、人を評価するカルチャーが素晴らしいなと感じています。

過去のインタビューでも、ユナイテッドは「人としての誠実さ」を重んじる企業であることを紹介してきた。そこを軽んじると、厳しい指摘が入ることもある。一人のビジネスパーソンとしてどうあるべきかの前に、人間としてどうあるべきかを問われる環境なのだ。成果も大事だが、人間力も大事。その価値観を当然とする環境がユナイテッドにはある。

最後に、そんなユナイテッドの育成環境に自分も身を置いてみたいと感じる読者に向けて、どんな人材がフィットしそうかを問うた。

脇谷今の時点で「ビジネスが好き、経営者になりたい」という想いがなくても、挑戦をして、失敗を繰り返しながらも、諦めずにまた懲りずに挑戦できる人ですかね。そんな「高い山を昇り続けたい意志ある人」であれば、例え不器用であってもユナイテッドの環境を活用して楽しめるのではないかと思います。

僕は入社した時、ベンチャーに入社した同年代と比較しても明らかにスキル・マインド共に劣っていたと思います。それでも、自分の可能性を閉ざすことなく、「まだ見ぬ世界を見たい」という好奇心をバネに、どんなことでも「やります」とトライし続けてきたからこそ、新卒から3年目で事業統括という機会を頂けたのだと思っています。

ここで読者が気になっているのは、現在の脇谷氏に対する、金子氏の評価ではなかろうか。金子氏は新卒2年目時の脇谷氏を「ビジネスの詰めが甘い」と評した過去がある。さて、リベイスでの活躍を経て現在はどのように見ているのだろうか。

金子脇谷はしっかりと事業を推進しているし、正社員や業務委託の方々を含め、メンバーの力を引き出すように取り組んでいます。その結果、事業が伸び続けている。本人の視座が上がったんだろうと感じますね。表面的な理解に止まらず、彼なりに理解が深まってきた、もしくは何かしらのセオリーを見つけてきたのだろうな、と。

事業と人材が一緒に成長し、その変化率が大きくなることで、会社は成長していきます。脇谷は自分ごととして壁にぶつかって、自分を、事業を、会社を、成長させてくれたんだと思いますよ。

なぜ脇谷氏は金子氏をも唸らすほどの成長を実現できたのだろう。その所以を脇谷氏の長所から紐解きたい。

金子脇谷の長所ですか(笑)。色々あるんですが、そうですね......とにかく、不器用ですが本当に素直なんですよね。それゆえに、みんな助けたくなるんだと思います。変なプライドもないから、真っ直ぐに成長しているんだと思いますね。

今後は、長いスパンでさまざまな挑戦と失敗を繰り返し、自身のレベルを上げていってほしいです。現在は周りのみんなのサポートのもと、市場やお客様の理解を進めている部分がありますが、どんどん一人でトライして、できることの幅を広げてくれたらと思っています。

例えば、戦略策定思考、現場を知った上で作り上げるオペレーションエクセレンス、さらにはピープルマネジメントなど。精度を上げていくことで、より大きな事業を作っていく楽しさを味わってもらいたいですね。

脇谷氏はM&Aのプロジェクトを通じて見違えるような成長を遂げた。しかし、もちろん金子氏の視点から見ればまだまだ「甘さ」は残っているだろう。そうであっても日本に新卒3年目でM&A〜PMIをやり遂げた人間がどれだけいるだろうか。「自分は至って平凡だから、努力するしかなかった」と謙遜する脇谷氏は、知らずのうちに金子氏と同様に事業家としての道を歩み始めたのだ。

金子氏は最後に、こんな一言を残した。「若手のみんなには、なるべく早いタイミングで、取締役や社長のステップを歩んでいってほしいです」。入社数年目の若手にかける言葉にしては、少々ミスマッチな印象すら受けるほどの、重みのある言葉だった。

若手に対する期待を口にする金子氏は、次世代の事業家の成長を心から楽しみに待っている様子であった。金子氏自身も、かつては業界や諸先輩方に育ててもらった、若手時代がある。脈々と続くIT業界の人材輩出エコシステムは、金子氏から脇谷氏をはじめとする若手へ、そしてまた次世代へ── 。時代とともに、新たな事業家が育てられていくのだ。そして人材輩出の先頭を走り続けるのが、他でもない、ユナイテッドなのである。

脇谷氏の奮闘と、金子氏の育成に懸ける想いを描いた本記事はこれにて終了。ここまでの連載を読み進めた読者は徐々にユナイテッドにある若手の育成環境の虜となってきたのではなかろうか。

「とはいえ、脇谷氏は同期メンバーの中でも出世頭でしょ?」「元々ビジネスセンスがあっただけでしょ?」。

おやおや、待っていましたその言葉。そんな読者の期待を裏切るよう、ここまで稀有な経験を積んでいるように見える脇谷氏でさえも、ユナイテッド社内においては全く“特別な存在ではない”のだ。

開いた口が塞がらない読者をよそ目に、連載7記事目となる次回は、脇谷氏と同様にグループ会社の責任者を務める3名の鼎談を実施。ユナイテッドが若手事業家を輩出し続けられる所以を引き続きお送りしたい。

こちらの記事は2023年02月27日に公開しており、
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スタートアップ人事/広報を経て、フリーランスライターへ。ビジネス系のインタビュー記事や複数企業の採用広報業務に携わる。原稿に対する感想として多いのは、「文章があったかい」。インタビュイーの心の奥底にある情熱、やさしさを丁寧に表現することを心がけている。旅人の一面もあり、沖縄・タイ・スペインなど国内外を転々とする生活を送る。

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藤田 慎一郎

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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