連載Synergy Night Fever 2019 ──国内ベンチャーシーンを牽引する経営者3名とM&Aについて語る
買収巧者3社に聞く、成功に導くM&Aの型
【M&Aクラウド主催 SNFレポート前編】
2019年6月19日、ユナイテッド株式会社(渋谷)にて、M&Aクラウド主催のイベント「Synergy Night Fever 2019── 国内ベンチャーシーンを牽引する経営者3名とM&Aについて語る」が開催されました。
「M&A買収側のリアル」をテーマとしたパネルトークには、ユナイテッド株式会社、株式会社マネーフォワード、そして株式会社SHIFTの3社より各代表が登壇。M&A経験豊富なITベンチャーのリーダーならではのホットな体験談をアドバイスや失敗談も交えて披露いただきました。
会場のM&A担当者各位からも続々と質問が寄せられたディスカッションの模様を紹介します。
成長戦略のためのM&A~ なぜ、M&Aなのか?
及川自社の成長戦略において、M&Aをどのように位置付けていますか?
辻当社のM&Aの目的は、プロダクトを増やすため、もしくはユーザーを増やすため、この2軸です。最近M&Aしたクラビス社とナレッジラボ社の場合、プロダクトも経営陣も素晴らしい一方で、営業チャネルを作ったり、知名度を上げていくには、まだ時間が必要な段階にありました。
しかしグループ入り後1、2年で急成長を遂げ、クラビスのプロダクトの導入社数は、僕らと一緒になってから5.5倍に伸び、僕らとしても優れたプロダクトをラインアップに加えることができた。
M&Aによって、優秀な経営者を仲間に迎えられるという点も大きいですね。グループ内に創業社長がどんどん増え、本体の取締役にもなってもらうことで、経営会議の議論が活発になりました。僕はよくみんなが引くような無茶を言うのですが、創業社長たちは「それ、いいですね」と乗ってきてくれるので、やりやすいです(笑)。
丹下当社は、ざっくり言うとエンジニアの人数×単価で売上や利益が出る、とても分かりやすいビジネスモデルです。毎年数百人規模で採用しており、売り上げはオーガニックに毎年100億円伸びる。日本には中小のソフトウェア開発会社が約1万5千社あるので、M&Aのオポチュニティはすごく大きいですね。会社を100個買えば、営業利益20億円分に相当します。
開発会社にとって、SHIFTグループに入ってもらうことによるメリットは3つあると考えています。
1つは営業力。さまざまなクライアントの仕事をプライムで取りに行けるようになります。
2つ目は会社のグロースのカギを握る採用力。もともと年間の採用人数が5人程度だった企業が、SHIFTグループにジョインすることで採用力が5倍も伸びたという実績もあります。
そして、3つ目はコンサルティング力。ホワイトハッカーのようなすごい技術を持ったトップがいても、それだけではスケールは難しい。その人の能力を分解して誰でもできるようにしたことで、利益率が60%増えた事例があります。当社はそうした属人化を排除するノウハウの提供にも力を入れています。
早川当社はインターネット関連事業全般を幅広く手掛けています。この領域、特にBtoCの事業は変化が速く、今、収益を上げている事業が3、5年後にどうなっているかは誰にも分かりません。新規事業を継続的に立ち上げていくことが重要です。
M&Aの目的も、1つはそれです。新規事業立ち上げに向けた取り組みは社内でも日々進めていますが、並行して自分たちではできない事業を外から買ってきて、可能性を広げたい。オンラインのプログラミング教育をやっているキラメックス社をはじめ、これまでのM&Aを通じてすごくいい事業の種を獲得できたと思っています。
もう1つ、辻さんも触れたように、外部の経営者の持つ力というのも大きいです。今、当社の執行役員のうち2人はM&Aによって加わってくれたメンバーで、20代と30代です。
アラン・プロダクツの花房社長などは27歳ですから、僕とは親子くらいの年齢差があります。彼は役員会ですごくピュアな質問をしてくれるんですよね。僕もその質問によって、確かにそうだな、と思うことがあります。
同質な人ばかりだと、トップが何か言うとシーンとなって議論が終わってしまいがちですが、多様な視点が入ることで、経営チームがより強くなると思います。
及川創業社長が集まると、わがままな人ばかりで苦労しそうな気もしますが・・・(笑)。
辻当社には今、創業社長が3人いますが、わがままという印象はないです(笑)。「こういう世界を作りたい」という熱意がすごくて、当社にとってはカルチャーフィットが大きかった。経営メンバーとして是々非々で議論しつつ、一緒に夢を追える関係です。
及川カルチャーフィットを重視するというと、人材採用とも似た感覚でしょうか。
辻僕らはまだマネジメントが未熟なので、今の時点ではそうです。ただ、今後、3年か5年に一度くらいは、ソフトバンクの孫さんのように小が大を買う案件とか、事業領域をバンと買うような案件を実行して、非連続な成長を果たしていきたいですね。
及川非連続な成長に向け、日々買いたい領域を妄想している感じですか?(笑)
辻5Gをやりたいです(笑)。まあ、いつの日か、ですね。
会場からの質問:自社のM&Aの型がありますか?
丹下僕は投資家の信頼を裏切らないためにも、「EBITDA5倍以下の案件しか買わない」と決めています。しかし先方に唯一無二の技術があるとか、何か投資家を納得させられるストーリーがあれば、例外もあるかもしれません。
投資家は読める投資をしたいものですし、当社が資金調達すればそれだけ持ち分が小さくなるわけですから、「その分、バリューアップするんだよね」と言われるのは当然だと思っています。
辻早川さんは相当な案件数を手掛けられていますよね。100社くらいですか?
早川出資検討案件も含めると年間で100社以上は検討しています。そのうちM&Aを実行するのは1社とか2社です。
辻候補を絞る際は何に注目されるのですか?
早川経営チームの潜在力です。インターネット事業は先が読みづらいビジネスですが、今手掛けている事業が想定どおりにいかなかったとしても、次の事業を立ち上げられるかどうか。そのためにも優秀なトップが一人いるだけでなく、よいチームを作れていることが重要です。
メルカリに出資した時も、フリマアプリの可能性もですが、それを支える経営チームが魅力的だったので、彼らに賭けたい気持ちになりました。
会場からの質問:トップが進めたい案件でも、CFO他経営陣に反対されてあきらめることはありますか?
辻僕から「これ、いいんじゃない」と振り、CFOが「高すぎます」「じゃ、やめようか」という展開はよくあります。僕は事業内容、CFOは数字を見ており、どちらの視点も必要です。
M&A案件に限らず、経営会議ではフラットな議論をしています。僕がやりたいといった案件でも、他の役員は全員反対でボコボコにされるようなことは普通にありますよ。CEOが100%正しいことはあり得ないので、健全な議論ができることが大切だと思います。
丹下当社の場合、CFOが気にするのは減損処理にならないかという点だけ。その心配がないケースでは、相談というより報告で済ませています。
早川減損リスクもそうですし、「バリュエーションが高すぎる」と言われ続けると、自分がやりたいと思った案件でも、「確かにそうだな」と冷静になれます。そういう左脳的な判断は必要だし、言うべき立場の人は言った方がいいですね。後々感謝されると思います(笑)。
今だから言えるМ&Aの失敗談
──成功率2割のM&Aを成功させるために
及川ソーシングの失敗や「買っておけばよかった」「買ってみたら想定と違った」などのケースも含め、過去のM&Aにおける失敗談を教えてください。
早川(M&Aではありませんが)メルカリにもっと出資させてもらえばよかったというのはありますね(笑)。当時、まだアプリが正式リリースされる前で、バリュエーションが高いのではないかという意見もありました。ただ、ちょうど当社も2社が合併してユナイテッドとして発足したばかりだったので、のろしを上げる意味で、最後はメルカリの経営チームに賭けようと決断したんです。その後の同社の素晴らしい成長ぶりは想像以上でした。これ以上出資させてもらえば良かったというのは欲深い話ですね(笑)
及川次のメルカリを見つけるには何がポイントになりますか?
早川いや、それが分かったら・・・(笑)。まあ、われわれ経営陣がインターネット業界が長いので、今日のような場にどんどん出て、人と交わることから何か生まれると思っています。M&A案件、出資案件として公になる前にいかにアプローチするかが大事ですね。
丹下僕が過去の経験から学んだこととしては、欲しい機能ありきで焦って買わないことですね。僕らは自社のメイン事業が品質保証・テストなので、その周辺で、開発会社が欲しい、セキュリティの会社が欲しい、コンサルファームが欲しい・・・などのニーズが自然と出てきます。でも、そこにドンピシャな案件があったからといって、ポテンシャルをよく見極めずに買ってはいけないなと思っています。
交渉過程の失敗だと、つい最近、コンペで負けてしまった案件があります。もともと他社にほぼ決まりかけていたのですが、それをひっくり返してほしい人たちが先方の社内にいて、僕もすごく買いたかったので、4回くらい飲みに行きました。
それが最後に飲んだまさに翌日、先方から連絡が来て「すいません、他社に決まりました」と(笑)。聞くと、買った会社は、事業成長計画をExcelでびしっと作っていた。僕は気持ちで買いに行った(笑)。僕もきちんと数字で買収後の絵を見せるべきでした。
早川両方あるといいですよね。丹下さんはガーっといき、M&Aチームが資料を作っておいてくれると。
丹下結婚と一緒ですね。気持ちがあっても、給料もよくないと(笑)。
辻僕はまだ上場して2年で、失敗といえるほどの経験もないですが、熱心に口説いていた相手から連絡がなくなったと思ったら、しばらくして「調達しました」「他社に買われました」と言われるときは切ないですね。
「連絡してくれたらいいのに・・・」と思う一方、自分のアプローチが足りなかったのかなと反省もします。日本電産の永守さんがよく言われるように、ストーカーのように定期的に連絡を取るようなことも大事なのでしょうね。
会場からの質問:こんなM&Aは失敗するというポイントはありますか?
丹下買われた側は当然、警戒心を抱いていますから、それをうまく溶かせるかどうかが、一つのカギになると思います。
僕は創業社長のいる会社を狙ってM&Aしていることもあり、夢に向かって邁進している社長の気を削がないよう、気を遣っています。売上目標なども緩めに立てて、縛りにならないように。社員に対しても交流会を早々に催したり、とにかく「僕らは敵じゃない」ことをアピールします。
あと、社名にはプライド持っているところが多いので、絶対に変えない。オフィスも基本そのままいてもらうので、みんなバラバラです。
早川そこはうちもそうです。給与体系や出社時間なども触りませんね。基本的にその会社の企業文化を尊重します。
丹下仲良くなってからなら、いいのかもしれないですけどね。あとは経理の方も、上場企業の連結先になったことで、特に最初の月次の締めでは大変な作業に追われます。そこは丁寧に必要性を説明しつつ、「その代わり、営業と採用のブーストには期待してください」と言って納得してもらっています。
辻そういう意味では、僕はM&Aした会社の経営者に「マネーフォワードのアセットで何に期待していますか」と聞くようにしています。
組織マネジメントのノウハウなども、その一つですね。毎月時間を取って、「社員が増えていくとこういう課題が出てくるので、先にこういう手を打っておくと成長痛が軽くて済みます」といったアドバイスをしたり。
丹下それは重要ですね。あと、M&Aチームが案件を進める際、四半期報告や決算報告に盛り込みたいなどと考えて、急いでまとめようとすることがあると思います。でも、そこは相手のあることですから、ぐっとこらえないといけない。
僕が最近びっくりしたのは、「M&Aが成立したので、社長、最後のあいさつに来てください」と言われて行ったら、先方は完全に身構えていて、「僕は絶対にSHIFTグループには入りませんから」と言うんです。もう取締役会も通し、ニュースリリースも用意して、あとは発表するばかりのはずが(笑)。
及川そのときはどうされたんですか?(笑)
丹下一人の人間として、すべてオープンにして話をさせてもらいました。結局はまとまったのですが、あれは焦りましたね。やはりきちんとプロセスを踏んで関係を築いていくことが必要ですし、先ほどの「M&A後にどんな支援ができるか」といったこともあらかじめ握っておくと、後々スムーズに進むと思います。
<後編へ続く>
- M&A担当者の採用&抜擢 ~ プロフェッショナルチームの編成へ
- これからの時代のМ&A ~ 経営戦略の多様化時代で戦うために
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こちらの記事は2019年08月27日に公開しており、
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