CFO経験者2名が語る 士業キャリアはベンチャー経営・ファイナンスにどう活きるのか──FastGrow × M&Aクラウド共催イベントレポート

登壇者
稲垣 佑介

受託開発事業(個人事業主)を経て、早稲田大学2年時に学生起業、携帯電話向け技術ベンチャーを8年間創業社長として担い、同社を売却・退任後、2度目のチャレンジとしてソーシャルゲーム事業のベンチャー企業を経営。2013年4月にクルーズ株式会社に同社を売却するに伴いクルーズに参画。その後CFOとしてIR・法務・財務等の経営管理全般とM&Aやベンチャー投資を担当。2017年税理士登録。

石倉 壱彦
  • 株式会社アカツキ  Investment&Co-Creation担当 執行役員 /Heart Driven Fund 責任者 
  • 株式会社WARC 取締役 

公認会計士・税理士。2005年よりKPMG 有限責任 あずさ監査法人国際部にて会計監査業務やアドバイザリー業務等に従事。その後独立し、複数のスタートアップを支援。2013年より株式会社アカツキの経営管理部長として、大型ファイナンスやIPO業務に従事後、2014年監査役に就任。東証マザーズや東証1部への上場に貢献。2015年より株式会社3ミニッツの取締役CFO兼経営管理部長に就任し、コーポレート部門統括の他、事業立上げ・組織設計に従事。2017年にグリー株式会社との大型M&Aディールを成功させ、2018年6月に同社を退任。2018年11月アカツキ監査役を退任し、「Heart Driven Fund」責任者として、Investment&Co-Creation担当執行役員に就任。2018年11月より、株式会社WARC取締役就任。個人としても多数のスタートアップ企業に投資を行っている。

及川 厚博
  • 株式会社M&Aクラウド 代表取締役CEO 

大学在学中にマクロパス株式会社を創業。東南アジアの開発拠点を中心としたオフショアでのアプリ開発事業を展開し、4年で年商数億円規模まで成長。別の事業に集中するため、2015年に同事業を数億円で事業譲渡。その際に、売却価格の算定と買い手探しのアナログな点に非常に苦労した。また、自分自身が事業承継問題の当事者であり、中小ベンチャーのM&Aに興味を持った。これらの課題をテクノロジーの力で解決したいという思いから、株式会社M&Aクラウドを設立。Forbes NEXT UNDER 30選出。

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2019年1月25日、スローガン株式会社(南青山)にて、FastGrow x M&Aクラウド共催のイベント「CFOとしてのキャリアパス/士業を活かしたベンチャー経営・ファイナンス」が開催されました。

モデレーターには、国内唯一の「買い手が見えるM&Aプラットフォーム」を運営するM&Aクラウド代表 及川厚博氏を、登壇者には、ソーシャルゲームベンチャー経営を経て、現在クルーズ社CFOとして経営管理全般、M&Aやベンチャー投資を担当する稲垣佑介氏、および株式会社3ミニッツの取締役CFO兼経営管理部長として、グリー社への大型M&Aを実現し、現在は、株式会社WARC取締役、株式会社アカツキ執行役員を務める石倉壱彦氏をそれぞれお迎えし、士業キャリアはベンチャー経営・ファイナンスにどう生かせるのか、CFO経験者ならではの視点でディスカッションしていただきました。

※このコンテンツはM&Aクラウド社により制作されたものです。

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テーマ1: ベンチャーCFOとしてのキャリアを選んだ経緯

及川ベンチャーのCFOというキャリアが一般的になってきたのは最近だと思います。投資銀行出身の人、士業出身の人など、さまざまなバックグラウンドを持つ人がいますが、お二人はなぜベンチャーのCFOを選択されたんですか?

稲垣僕は、実は自分で選んだわけではありません。自分たちで立ち上げた会社がクルーズ株式会社にM&Aされた後、1年目はCTOをやっていました。2年目に入るときに前任のCFOが辞め、ほかにできる人がいないというので、自分がやることになったんです。

今でも覚えていますが、CFOを交替したのは、通期決算発表の5営業日前でした。当時の僕は、財務に関して何も知らない知識レベルでした。交替してすぐ、財務経理部長から「決算短信を確認してください」と言われましたが、僕は決算短信の見方も知らなかったので、「これ何?」という状態でしたね。

最初にした質問が、「これ、右上に“東”と書いてあるけど、“西”もあるの?」という(笑)。

石倉相当やばいですね(笑)。

稲垣でも、CFOになってしまった以上、やるしかない。そこで何か間違えれば上場会社として致命的なので、必死に勉強しました。無事決算発表を終えた後も、有価証券報告書の提出、株主総会の準備と、すべてスケジュールが決まっていて、日々待ったなしの猛勉強をしました。

経営をやっていたのでPLくらいは読めましたが、営業利益と経常利益の違いなど分かりませんでしたし、バランスシートも読めませんでした。だから、僕の場合は、士業資格を取ってからCFOになったのではなく、CFOになってから勉強を始め、税理士資格を取ったんです。

石倉僕は新卒で入社した監査法人で7年働いた後、まずは、戦略コンサルティングや金融系の会社に行き、キャリアアップを考えていました。しかし、ちょうどその時にサイバーエージェントさんからお話をいただき、同社グループの経営管理部でハンズオンでコンサルするお仕事の依頼を受けました。いざ行ってみたら、ちょうどソーシャルゲーム市場が盛り上がり、事業が急成長するフェーズだったので、現場はめちゃめちゃ忙しかった。

急成長するソーシャルゲーム業界で、ゼロから立ち上がってきた会社が、1、2年で続々と拡大していく。それを目の当たりにして、「こんな世界があったのか」と思いましたね。それまで監査法人で大企業ばかり見てきた僕にとって、毎日が刺激的でした。「ベンチャーって面白いな。ベンチャーに行くなら、僕は今までのキャリアを生かせるCFOがやりたいな」と気持ちがふくらんでいったんです。

及川CFOとして、やりたい仕事のイメージはありましたか?

石倉会計士の仕事というと、財務や経理のイメージが強いと思います。でも、僕は事業会社に行く以上、ただの財務経理部長や管理部長的な守りの仕事ではなく、事業面でもバリューをもたらすことができる人材になりたいと思いました。

アカツキでリリースしたあるゲームがヒットし、売上が一気に伸びた時期、キャッシュがそれほど無い状況で、いきなりテレビCMを打ちたい。そのために〇億円が必要だということになったんです。当時、資金調達は全く経験が無い状況でしたが、試行錯誤でファイナンスの交渉を進め、結果的にはエクイティとデッドで20億円くらい調達できました。そのファイナンスを機に会社の成長が更に加速しし、一気に上場まで駆け上がりました。

そんなふうに、ファイナンスや組織作りを通じて、コーポレート業務であっても事業に貢献できるということが楽しく、大きなやりがいを感じました。その経験から、ゼロから組織を作る経験ができたらもっと面白いのではと思っていたところに、立ち上がったばかりの3ミニッツと出会い、CFOに就きました。

及川僕が石倉さんと初めて会ったのが、そのころですね。当時、僕はアプリ開発の会社を経営しており、石倉さんはクライアント会社のCFOでありながら、発注の窓口もされていた。

石倉立ち上げ当初はメンバーがいなかったので、何でもやりましたね。広告事業で広告代理店やクライアントへのプレゼンをしたり、動画メディア事業では編集長のようなものを務めたり。D2C事業を始めたときもゼロイチ事業の立ち上げを経験しました。

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テーマ2:CFOとして活躍する人材の定義/必要なスキル

及川CFOの定義は会社によっても異なると思いますが、お二人の考えるCFOに求められるスキルについて教えてください。

稲垣一般に「取締役CFO」と呼ばれる人たちについては、僕自身は専門職というよりは、あくまでボードメンバーの一人という面が強いと感じています。

たとえば、僕のいるクルーズ株式会社でも、CFOの僕の下に、会計士や弁護士、税理士といった個別技能を持ったメンバーがおり、必要に応じてそうした人材を採用することもできます。そういう中では、CFO自身は、専門知識が豊富であることよりも、ボードメンバーの一人として、専門人材をいかに活用して、企業価値や業績を高めていけるか、つまりは経営人材としての資質を備えていることがより重要だと思います。

僕はクルーズでM&Aにも携わっていますが、会計専門職という観点では、デューデリジェンスがしっかりできるかという点が問われます。一方、CFOとしては、そのM&Aを通じてどれだけ企業価値、あるいは売上・利益を上げられるかを考えて、相手先を選定し、価格を決め、シナジーを考えていく、そうしたマインドを持っていることがまず必要だと思います。それにプラスして、専門技能集団を束ねていくうえで必須レベルの会計・税務知識を身に着けている、それが僕の考えるCFOの条件ですね。

及川経営人材として何をすべきか、自分で判断しないといけないのですね。その会社で求められる理想のCFO像を自分で定義し、実行していくマインドが求められるということだと思います。石倉さんのお考えはいかがですか?

石倉CFOとして、資金を調達してくるだけでなく、調達した資金をどのように事業に活かすか、事業をどのようにデザインし、伸び幅が最大になるように資金を当て込むか、そこを考えることが一番必要だと思っています。

事業や組織をデザインする考え方は、会社と事業の成長フェーズに応じて、変えていかなくてはなりません。起業当初に短期間で会社を成長させる能力と、上場した後に求められる能力は大きく異なります。ファイナンスに必要なスキルも、未上場のときと上場後では大きく異なります。

及川未上場ベンチャーのCFOとしては、どのようなスキルが重要ですか?

石倉まずは事業ファーストで事業と組織を伸ばすことが必須ですが、並行して、上場準備のためには、管理体制や組織体制を整える必要が出てきます。そこで、いきなり100%の管理体制を求めようとすると、会社の成長スピードが止まりかねません。組織のフェーズと事業のフェーズを見極めつつ、目指す姿を念頭に置き、現状とのギャップをどううまく消していくかという発想が大切だと思います。

ときには事業の成長スピードに組織体制が追い付かないこともあると思いますが、「この体制のまま走った方が事業が成長する!。今はリスクを取ってでも成長が必要だ」と判断するのであれば、その選択もありでしょう。未上場ベンチャーはお金がないですから、いつどこにどのようにお金をかけるべきか、CFOは頭を使っていかなければなりません。

及川CTOの場合だと、技術的負債を解消するタイミングを図ることが求められると思いますが、それと同じような話ですね。では、上場企業のCFOに必要なのはどのようなスキルでしょうか? 今度は稲垣さん、お願いします。

稲垣今の話に照らしてお話しすると、未上場なら、組織や仕組みの現状とあるべき姿に乖離が見られたとしても、最悪自分たちがそのリスクを納得できればいいと言えます。その点、上場会社では、リスクを負うのは投資家になるのでそう簡単にはいかなくなります。

他に未上場との大きな違いとしては、一つにはIRという大きな仕事があります。未上場の場合、外部株主がいる場合でも通常は特定少数が理解し期待できれば良いという形がある一方で、上場企業の場合、時に数千数万の株主様の中で、価値を評価できるストーリーを発信していくことが求められます。

また、資金調達のアプローチも、未上場と上場ではかなり異なってきます。未上場の場合、ベンチャーキャピタルや事業会社のエクイティで1対1の交渉を基礎としてファイナンスするケースが多いですが、上場になると、手段もデットファイナンスを含めさまざまな選択肢があり、エクイティの場合でも誰かと交渉して話を決めるというよりは、資本市場の中でどのようなスキームや内容で進めるかを判断していく必要が生じてきます。

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テーマ3:士業資格・キャリアはベンチャー経営/ファイナンスにどうに活きるか

及川今日は士業を持っている方、これから取ろうと考えている方が多数参加されています。実際にベンチャー経営に取り組むうえで資格がどう生きてくるのか、ぜひお聞かせください。

石倉経営上は、資格そのものよりも、ファイナンスや会計、経理の知識を持っていることが生きてくると思います。どんなビジネス、どんな会社でも、数字を紐解き、さまざまなKPIを因数分解して、経営を読み解くことが重要。そこの理解は、士業の人は比較的に速いですよね。ベンチャーでは数字が苦手な人も多いので、士業レベルの理解力を持っている人の存在は大きいです。

あと監査法人や証券会社と付き合うときに士業の肩書の入った名刺があると、言葉には出さなくても、お互い安心感はありますね。僕の場合、士業資格を持っているようには見えないらしく、ネタにしていますけど(笑)。

及川アイスブレイクにも役立っているんですね(笑)。稲垣さんは士業を持っていることでメリットを感じていますか?

稲垣経営というと広いですが、CEOになるなら、知識はあった方がもちろんいいです。CFOになるなら、知識は必須ですね。税理士や公認会計士の資格を保有しているということに関しては、石倉さんの話にもあったように、対外的には一定のベースをクリアしているという信用力、あるいは同じ苦労をしてきたという連帯感につながると思います。

及川石倉さんは会社の売却を経験されていますね。その際は士業の勉強は役立ちましたか?

石倉売却先の選定後、価格交渉のフェーズは交渉力次第なので、資格はあまり関係ないですが、デューデリジェンスの際はかなり役に立ちました。

会計デューデリジェンスのときは、僕一人対十何人の質問攻めにあったのですが、向こうが聞いてきそうなことも、欲しい答えも全部予想できましたから。そして、事業に関しては当然僕の方が知識があるので、常に先手を打って一貫した回答ができました。法務デューデリジェンスのときも同じで、先方の弁護士が気にするポイントや話の展開を予測して臨めた分、有利だったと思います。

及川事業と会計、事業と法務の両方を分かっていると強いですね。

稲垣僕らもM&Aは定期的に行っていますが、買い手から見ても、売り手側の役員に公認会計士がいるとすごく頼りになります。僕らの相手先はスタートアップが多く、財務管理に問題のあるケースが大半なんです。その点、公認会計士がCFOなどで入っている会社はさすがにしっかりしていますし、交渉もスムーズに進みます。

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テーマ4:財務面からみるベンチャー経営のリアル・裏側

及川ベンチャー経営の裏側を言える範囲で聞かせていただければと思います。

石倉僕はお金にはかなり苦しめられました。広告業界では、大手の代理店は今でも普通に手形取引をしているんです。一番焦ったのは、数千万円の売上が入金されず、キャッシュの支払いが差し支えたときですね。手形を現金化できるのは3か月後だというので大騒ぎになり、前倒してもらえるよう交渉しましたが、かなり難航しました。

稲垣僕は、ベンチャーに向けた投資やM&Aをしている中で、昔と比べるとベンチャー界隈の資金巡りがよくなってきている分、お金の管理をあいまいにしている会社が増えている気がしています。ここ数年、ちょっと危機感を持っていますね。

資金調達がもっと難しかった時代は、みんな1円1円を大事に、細かく資金繰りしてショートしないように頑張っていたと思うんです。何かを外注するといったときも見積もりをしっかり取り、支払方法も慎重に検討して、おいそれと前入金などしないようにしていた。そういう工夫をする人が、最近は少なくなってきたように感じます。

及川そういう傾向は確かにありますね。

石倉資金調達に関連して言うと、おっしゃる通り今は昔より調達しやすくなっていますが、エクイティ調達とデット調達では、お金を出す側のマインドが全然違います。VCなどでは成長戦略を見せることで期待を買って、投資してもらうことも可能ですが、銀行相手のときはそうはいきません。特に赤字の会社に対しては厳しいです。自信満々の計画書を見せても、「なんでそんなに自信を持てるんですか」と言われることもあるので、相手に合わせてコミュニケーションのポイントを変えていくことが大事だと感じました。

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テーマ5:CFOから見た、CEOに求められる資質

及川CFOの立場からすると、どんなCEOと一緒に働きたいか、お二人がCEOに求める資質を教えてください。

稲垣僕自身は今、とても働きやすいと感じています。僕にとって大事なのは、CFO、CEO、COO、それぞれ相手が強みを持つ領域については、信頼して任せられるということ。会社全体で目指している大きな目標を達成するために、互いのスキルを尊重し、役割分担していける関係性がマストだと思います。

たとえば、CFOの領域については、僕が一番考えているわけです。CEOの100倍、200倍の時間を使って検討し、自分の出した答えが最適だと自信を持って進めている。それに対して取締役会のチェックは当然入りますが、CEOやCOOに対して遠慮したりすることなく、思い切り力を発揮できる環境があることが重要だと思っています。

及川スタートアップに対して投資やM&Aを検討する際は、相手先のCEOのどんなところを見ていますか?

稲垣端的に言うと、そのCEOに賭けられるか。成否を決めるのは、互いの経営陣がうまくかみ合い、チームとして取り組んでいけるかどうかがすべてと言っていいと思います。結局は経営陣同士の相性とか、そのCEOがどれだけエネルギーを注いでやってくれるかにかかっているので、そういう目線で見ていますね。

石倉僕が一番重視しているのは、その人の人間性です。特に起業したばかりで、人もいない、お金もないといった状況で人やお金を集められる要素というと、人間的な魅力が大きいと思います。

アカツキも3ミニッツも社長が熱い人間で、ビジョナリー。大きな夢を語るので、そこに人はついていく。僕の仕事はその彼の強みを最大限活かすために、対外的なアピールをサポートしつつ、組織をしっかり作ってあげることだと考えていました。

こう言うと語弊があるかもしれませんが、まともな人は、経営者としては面白くないんですよ。実際、成功した起業家の中には、いい意味で個性的な人が多いですよね(笑)。僕自身、この3か月ほどで100人くらいの起業家と会ってみて感じたのは、「自分は人生でずっとこれをやってきたから、僕にはこの事業しかないんです」という人と、ピカピカのキャリアで「今はこの事業が有望だからやっています」という賢い人がいたら、前者の熱いタイプの方が僕は好きだということです。

及川本日はありがとうございました。

こちらの記事は2019年02月26日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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