「経営管理だけがCFOの役割ではない」
起業・売却を経験したクルーズ稲垣が語る、“攻めのCFO”の要諦
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「CFOはあくまで経営管理を行うポジション。事業を推進し、直接的な売上アップをもたらすことはできない」といった声を聞くことがある。
一方で、CFOの立場を存分に活かし、事業成長にコミットする男の存在を知っているだろうか。クルーズ株式会社取締役CFOとして、グループ全体のIR、財務・ファイナンスといった経営管理全般から、M&A、ベンチャー投資までを管掌する稲垣佑介氏だ。
本記事では稲垣氏に、CFOがベンチャー・スタートアップの事業成長に貢献する方法を問う。CEOやCOOと異なる領域でお金を生み出すアプローチである「M&A」と「PMI」を中心に、稲垣氏が培ってきた“攻めのCFO”としての考え方に迫った。
- TEXT BY TAKUMI OKAJIMA
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
会計・税務経験ゼロでCTOからCFOになって気づいた、
「事業経験」の重要性
稲垣氏がCFOに就任したのは、約5年前。
入社してから1年間はCTOを務めていたが、他に適任者がいなかったためCFOに就任。クルーズに入社する前、約10年にわたってIT起業家として未上場企業の経営に携わってきた経験はあるものの、会計や税務についての専門知識に長けていたわけではない。「当時の知識量は、原価と販売管理費や、営業利益と経常利益の違いも分からないレベルだった」と振り返る。
通常の業務と並行して勉強し、短期間で税理士資格を取得した稲垣氏。目の前の仕事をさばき続けて2年ほどが経つと、「会計や税務の専門性は武器にはなるが、それだけではCFOとして戦えず、事業経験が必要」だと気づいた。
稲垣会計や税務の経験を持つCFOは、どうしても専門性を突き詰めるマインドになりがちですが、専門知識はオペレーションを組むための手段でしかありません。CFOを務めるうえで最も大切なのは、ボードメンバーの一人として売上や利益を伸ばし、企業価値を高めていく気概を持っていること。企業成長につながらなければ、アウトプットとして価値がないと思っています。そのためには、事業や、事業を創っている人(起業家・経営リーダー)のことをよくわかっている必要があるんです。
CFOとして企業価値を高めていくためのアプローチを問うと、「今ないものをゼロからつくる“以外”のやり方で、新しい価値を生み出すこと」だと続ける。
稲垣CEOやCOOがゼロから事業を伸ばしていく一方、CFOが取るべきアプローチは、すでにある価値を掛け合わせてお金を生み出すこと。つまり事業推進や新規事業立ち上げとは異なる、M&Aや投資、アライアンスといった領域です。
僕は「クルーズの持っているキャッシュやノウハウ事業基盤を活用すれば、格段に事業を伸ばせる」と思える企業を見つけ、投資やM&Aを行っています。
CEOの「なんとなくこんな感じにしたい」といった抽象的なアイデアを、具体的に実現するのもCFOの仕事だ。
クルーズは2018年5月に全ての事業を子会社化し、 純粋持株会社としてグループ経営をスタートした。「グループ経営を行いたい」といったアイデアが起点だが、それを実現する場合、子会社の社長に納得してもらう必要がある。
これも、外部の優秀な起業家や経営リーダーとクルーズのインフラを組合わせている点で、「すでにある価値を掛け合わせてお金を生み出す」取り組みの1つだ。
しかし一般論として、自ら起業して成功できるほどの能力を持ち合わせている起業家や経営者であれば、わざわざ上場企業の子会社の経営を担うモチベーションは湧きにくいだろう。そうした状況下で、実力ある起業家・経営リーダーがグループ入りしたくなるスキームを具体的に設計し、組み立てるのは、CFOならではの仕事といえる。
稲垣たしかな実力のある経営者であれば、自分で起業して、キャピタルゲインを得ることができる。そうした人たちにグループに加わってもらうためには、経済面を含め、相応のメリットがなければいけません。
数あるテクニカルな選択肢を全て検証し、税務面を含め、起業家側が実際に受け取る手取りにも配慮した形で、最も優れたスキームを作る必要があります。こうしたインセンティブを設計する仕事も、CFOの腕の見せ所です。
起業家からもらう事業計画書は「参考資料」。
自分で事業計画を組めなければ、評価はできない
稲垣氏はM&Aを「事業経験がなければ難しい仕事」の最たる例として挙げる。「M&A後、自分がCEOになって成長させるほどの覚悟が必要」だからだ。
稲垣バックオフィス出身のCFOがM&A業務を手がけると、デューデリジェンスやスキームづくりまでは取り組めても、その後は「経営陣にレポートを渡し、意思決定してもらおう」といったスタンスになってしまうことが多い印象です。
他社の過去のM&Aで上手くいっていないと聞く事例では、デューデリジェンスを第三者や社内の専門家に依頼し、その評価を鵜呑みにしているだけにもかかわらず、「やるべきことをやり切った」といったスタンスの人も見かけます。少なくともベンチャーのCFOなら、自らがM&A先のCEOになるくらいの覚悟と責任感を持ち、検討にあたることが必要だと思います。
稲垣氏はM&Aを手がける際、売り手側企業から提出された事業計画書はあくまで参考資料にとどめ、自分でゼロから事業計画書をつくり、その過程で納得がいかないコスト面やKPIについてはとことん突き詰めた上で、買収の判断を行う。「書いてあることが嘘だとは思わないが、大抵の場合は、売り手目線の解釈が多分に含まれている」からだ。
稲垣提出された事業計画書だけを見て買収の判断をするのは、極めて危険です。売り手側が持つアセットを見て、「自分がこの事業をやるとしたら」を考えなければいけません。
だから僕は、提出された資料を手直しするのではなく、完全にゼロベースでつくるようにしています。 自らしっかりと事業計画を引くプロセスを経ると、事業計画書の詰めの甘い部分や、事業として難しいポイントが見えてくる。
あとは、そもそもの計算の間違いに気づくこともありますね。KPIも、自分が重要だと思うものを3つほどまで絞り、想定通りに行くのかどうかの根拠を集め、阻害するリスクの評価を念入りに実施します。
他にも稲垣氏は、ファーストコンタクトから株式代金の払い込みまでのディール期間における、時間配分の重要性を説く。
稲垣スキームやキーマンロック、株主調整といった大枠は、最初の2割ほどの期間で固めてしまうのが大切です。ディールに使える時間が長かったとしても、重要な決めごとは最初に急いでやってしまわないと、後からとんでもなく苦労します。
M&Aのプロジェクトが全体の80%ぐらいまで進行したあと、方向転換して再出発となることも珍しくありません。株式譲渡で進めていたディールが、事業譲渡による買収スキームに変更になると、それまでの作業のほとんどがやり直しとなったり。また経済条件の握りが曖昧なまま進んでいった結果、プロジェクトの後半戦で「その条件では進められない」と合意が頓挫したりしても、交渉のやり直しになります。重要なポイントをかっちり決めてからプロジェクトを進めることが大切なんです。
レバレッジをかけていけるイメージが湧かなければ、M&Aする意味はない
続いて、PMIを進める際に重要なポイントを問うと、「買い手側と売り手側の目線合わせが大切」と稲垣氏は答えてくれた。小資本で経営してきた起業家は、資金の使い方や事業計画のつくり方において、買い手企業の役員陣が取ろうとする目線感にズレが生じることが通常だ。
稲垣多くの場合、小資本の企業を経営してきた起業家は「今、会社にこのくらいのお金があるからこれくらいなら投資できそう」といった考え方をすると思います。VCなどから出資を受けておらず、資金が限られる会社であれば、既存のリソースを使ってできることを探そうとするのが普通です。
しかしM&A後は、使える資金・人的事業リソースが格段に増えます。そのため買い手側は、売り手側を「いかに手段を問わず業績を上げていくか」というスタンスに合わせていく必要があります。
M&Aされる側の起業家にとっても、今までできなかったことに挑戦できなければ、M&Aを実行する意味がないんです。買い手側は、例えばその会社が今までの延長で事業運営していたら10年で出すであろう成果を、3年で達成しにいけるレベルの事業プランを考えていかなくてはなりません。
とはいえ、買収した企業の経営へ過度に干渉しようとする会社も少なくないなかで、稲垣氏は「起業家に口出しし過ぎず、良さを殺さないことが大切」と最後に指摘した。
稲垣基本的に起業家は、誰かにお伺いを立てて仕事を進めることに慣れていない生き物です。僕自身も起業家人生が長かったので同じですが、過度に干渉されると“起業家人材の良さ”が失われてしまう。 はたから見ていると、時間が経つにつれて「起業家」が「大企業の雇われ社長」のようなマインドセットに変貌してしまう、もったいないケースは多いと感じます。
時には“タレントバイ”とまで言うのがM&Aなのですから、起業家の良いところをより伸ばしたり、活かしたりするために必要な支援はなにかを考えることこそが、M&AやPMIを成功させるために大切な思考であるはずです。
こちらの記事は2019年09月05日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
岡島 たくみ
株式会社モメンタム・ホース所属のライター・編集者。1995年生まれ、福井県出身。神戸大学経済学部経済学科→新卒で現職。スタートアップを中心としたビジネス・テクノロジー全般に関心があります。
写真
藤田 慎一郎
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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