【悩める起業家、求む】売却かIPOか。
2度の起業と企業買収の経験を持つCFOが語る、起業家の人生設計論
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スタートアップ界隈では、いわゆるイグジットの手法が多様化している。選択肢が増えたからこそ、悩みを抱える起業家も多いのではないだろうか。
IPOを目指すべく資金調達をするか?はたまたバイアウトという道を選ぶか?起業家としての人生設計を考える上では、避けては通れない選択である。そんな状況のなか、クルーズ社のCFO稲垣佑介氏(@yinagaki777)のもとには、起業後の確度を高めるため、または行き詰まった事業を立て直すため、M&Aを視野に入れた相談を含めて起業家が殺到している。なぜ起業家は稲垣氏にアドバイスを求めるのか。話を伺った。
- TEXT BY TOMOMI TAMURA
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
18歳から3社を立ち上げ、2013年クルーズにバイアウト
稲垣さんはクルーズにジョインするまで、連続起業家としてキャリアを積んできたと伺いました。まずはその経歴から教えてください。
稲垣少し遡りますが、私は幼い頃からモノづくりが好きで、小学校3年生のときにプログラミングを始めました。18歳の頃にはフリーランスのエンジニアとして開発の仕事を受けるようになりました。そこで出会った方が起業したいと言っていたのですが技術力がかけていたので「私が手伝いましょうか?」ということでご縁が生まれ、結果的に創業CTOのようにその起業に関わりました。大学1年の時で、それが私の最初の起業経験です。
当時つくったのは携帯電話の非公式サイト、いわゆる「勝手サイト」のランキングと検索サービスです。勝手サイトはURLを知らないと辿り着けなかったので、ランキングがわかって検索もできるサイトは大ヒットしました。
それまではプログラマーとして大成しようと思っていたのですが、起業の世界に触れたことで、「意外とビジネスの世界の方が競争が少なくチャンスも多い。これはプログラマーとしてNo.1を目指すよりずっと面白いかも?」と感じたんです。そこで大学2年時に自分の会社を作ろうと思い、携帯電話専門の技術会社を起業。2003年のときでした。
そこから携帯電話に関わる周辺領域まで事業を広げ、2009年の頃には売り上げが10億円にまで拡大。その勢いでIPO準備を開始し、証券・監査法人を付け、あと一歩のところまでチャレンジしたのですが、市況のタイミングもあり敢え無く断念しました。ただ、大学1年からずっとビジネスの世界に身を投じてきたこともあって、一つ区切りも感じ、これからの人生も改めて考えようと売却を決意。会社からは離れる決断をしました。
もう一度大学に行こうか、何をしようかと考えていたのですが、退任後すぐのタイミングで、ゲーム会社でIPOを目指したい、という気概のある後輩と意気投合。想定外の展開で共同経営者として再度IPOへのチャレンジのステージに立つことになります。
その後、ゲーム会社は順調に伸長。売上は9億、利益も3億を超えるまでに成長しました。さらなる拡大を目して1年で100名規模を採用し開発ラインを増設。もちろん今回も証券会社・監査法人を入れてIPO準備も本格準備し始めたんです。しかし、ゲーム業界そのものの競争も激化していたこともあり、その後はヒット作に恵まれませんでした。
稲垣競争が激化する環境下で、小資本のベンチャーでIPO出来るだけの再チャレンジをこのまま続けるべきか、あるいは集ってくれた100名のクリエイターを活かしてくれる会社へのバイアウトをするか。その2択で悩みぬき、売却先を推敲した結果、当時ゲーム事業の採用に熱を入れていたクルーズへの売却を選びました。
個人的に代表の小渕とは最初の起業時に提携の話をしていた縁もあり、私自身、今回はバイアウト後に売却先から離脱することは想定していなかったので、”ここなら絶対私が新しいステージに立ち、大きな成長が出来る”と確信できたことが、クルーズへの売却の決め手でしたね。
クルーズに参画してからはCTOを1年、その後CFOになって4年となります。過去は起業家としてVCからの資金調達やIPO準備、M&Aにおいては売り手の立場だったところから、現在は資金は投資側の立場に、M&Aでは買い手側の立場にとなりました。
起業家を10年程やり、社長業を長年やってきた総論として、「起業は成長ハードルを自ら設定しハングリー精神を満たしてくれる手段だった」と私個人としては結論付けています。ゆえに、いわば雇われ経営者となった現在のポリシーは、「どのような立場であっても起業家らしく生きていく事」。ここに強いこだわりを持っていますね。クルーズでそれが実現できており、満足しています。
バイアウトを検討している起業家には、Postバイアウト起業家の立場として、色々とこういった、起業家のキャリアといいますか、人生戦略について凄く聞かれるんです。大概は私に対する最初の質問は”次はいつ起業するんですか?”なんですが、その必要性は全く感じていません。
起業家と経営者は全くの別物。売却も買収も経験したからこそ、起業家の人生設計アドバイスができる
いま、稲垣さんの元には、月に30件を超えるM&Aに関する相談が起業家から寄せられると聞きました。具体的に、どんな相談が多いですか?
稲垣資本政策や組織の話についての相談に来られる起業家が多いですね。IPOを目指すべきか、バイアウトするべきか、バイアウトするならどのタイミングなのかなどもよく質問されます。
いずれも共通しているのは、事業に伸び悩んでいるか、サービスやプロダクトグロースに集中したいのに、資金調達に疲れていること。「いっそのことバイアウトして事業に集中したい」という起業家も少なからずいますね。
というのも、起業家と経営者は根本的に職種が違います。求められる素質も、業務内容も全く別物なのに、多くの起業家は創業時にそのイメージができていません。組織が20〜30名規模になると、プロダクトに真摯に向き合い続けるPMやプロダクトオーナーとして生きていきたいのか、会社の成長に向き合う経営者として生きていきたいのか、という壁にぶつかりやすい。
プロ経営者の道を選ぶならIPOという選択肢もいいでしょうし、PMとしてゼロイチの事業を作りたいなら、組織が大きくなったら売却してまた0からプロダクトを作る、という選択肢を取るのも良いでしょう。
私はこれまで、たくさんの起業家を見てきましたし、クルーズグループにたくさんいるバイアウト後の起業家の様子もわかります。何より、私自身もバイアウトした身。だから、いろんな目線で会話してます。
なぜなら、殆どの起業家の皆さんにとって「等身大の会話」が出来るからです。私の起業又は創業に関わった会社は3社とも10億前後の規模で売却、又は合併という結末を迎えています。そういう意味では、僕自身は大成功したわけではないので、殆どの起業家の皆さんにとって「等身大の会話」で、寄り添える立場だと思っています。
バイアウト時の悩みとは、たとえばどういったことでしょうか。
稲垣起業家と対峙すると、最終的にその人の人生観やキャリアプランの話になるんですね。売却したら資金は手に入るけど、子会社社長になります。言ってしまえば、オーナー株主からサラリーマンになるわけですから、「君は何をしたいのか、これからどうしたいのか」について話し合います。
イグジットはゴールではなくスタート。私は実体験として同じ道を通っているからこそ、先のことまで親身にアドバイスができる。売却して代表を退くことと、その会社でさらなる成長を個人として目指すこと。このどちらが正解なのかは、起業家の人生戦略によりますよね。
私のようなイグジットも買収も体験している起業経験者が、いままさに悩んでいる起業家に先輩としてフラットに人生についてアドバイスできることは多いのではないか、と思っています。
ベースは事業計画。でも一番大切なのは起業家の情熱
伸びる事業と伸びない事業、稲垣さんはどこに差があるとお考えでしょうか。
稲垣 たとえば、まったく同じビジネスモデルの事業をAさんとBさんが立ち上げようとしたとき、365日24時間ずっと事業のことを考えて追求できる人が伸びます。そういう人なら、仮にそのビジネスがうまくいかなかったとしても、別の事業にスイッチすればうまくいきます。クルーズ本体も、これまでメイン事業を5回以上変えていますからね。
ただ、肌感覚ですがこうした起業家は全体の1割に満たないように感じます。「ゆとり起業家」が増えている気がするんですよね(笑)。スタートアップの調達環境が良くなったのはいいことですが、一方で、金遣いの荒い人が増えた気がします。
例えば、プロモーションをするにしても、十分な効果測定や競合他社の事実データ集めが不十分であったり、1円でも大切にしなければならないフェーズなのに、仕入先・外注先への金額交渉をほとんどせず支払いサイトへの執着がないなど、言えばキリがない。
事業相談にしても、私が投げかける質問に対して、すでに何千、何万通りも思考を巡らせ、ひとつの解を導き出しているような人は強いです。どんな角度からも質問に答えられる人の事業は伸びるでしょう。私から、「これはどうなってるの?」と聞かれたときに、「調べないとわかりません!」と返す起業家なんて、もっての外です。
事業相談からクルーズ社でのM&Aの検討に発展する場合もあると思います。稲垣さんは何を見て買収可能性を判断されていますか?
稲垣いろんなケースがありますが、事業がまだない場合は起業家の人となりを見ます。今まで何をやってきたか、起業家として何を目指しているのかなど、いろんな会話から「この人ならこんな世界を作れる」と確信が持てるかどうか。もちろん、ベースとなるのは事業計画ですが、本当に情熱を持って立ち上げられる人なのかが重要です。
すでに事業がある場合でも、事業計画を細かく見直し、ディスカッションを重ねながら、結果的に事業計画の強度があがるので、M&Aに至らなかったとしても「新しい視点を得られ、気づきにつながった」と起業家に言っていただくことが多いですね。
売却するか?IPOを目指すか?起業家にとっての水先案内人でありたい
クルーズに売却するという選択肢を取った場合、起業家の未来はどうなりますか?
稲垣買収後の株主はクルーズになりますが、それ以外は何も変わりません。代表者もオフィスも事業内容も社員も。クルーズは「100億の事業を創る100人の起業家プラットフォーム」を目指しているので、ジョインした起業家にとって変わるのは、いろんなグループ会社とクルーズ本体のヒト・モノ・カネ・情報の4つをフル活用して、今までより高い業績、社会へのインパクトを目指せること。
私自身がクルーズに参画して想定外のメリットだったのは、”付き合う層”が格段に上がったことです。視座が高く、各分野でエッジの立ってる経営者がグループ内に多数いるので、あらゆる意味で圧倒的な成長につながりました。経営的な意味においても、事業的な意味においても、です。
クルーズは2018年5月に純粋持株会社に移行してまして、言わば事業を持たず、1投資家の立場で、各社を支援する格好です。これにあたって、代表の小渕と凄まじい時間数の激論を交わしながらできたのが、現在クルーズが目玉として推進している“CROOZ永久進化構想”。 自分で創業し、会社を大きくできる起業家であれば、上場会社の子会社でサラリーマン社長なんてシンプルにやらないですよね。「じゃあどうしたらそんな人がたくさん集まってきてくれるか?そしてバイアウト後も情熱を無くさず、これまで以上のテンションで経営していってくれるか?」を考え抜いてできた仕組みです。
実際のところ、スタートアップの実情やVCの立場として取れる統計、例えば経営陣のイグジットの額って実際にはこのくらいだよねとか、凄まじい数の調査の上に作られた構想で、良くあるグループ経営の発想とは根本が異なります。
加えて、私自身が起業家だったので、シンプルに「僕だったらこれに参加するかな?」というように自分の身に置き換えて、得られる経済的なメリットを含め、とことん追求して考えた超大作なんです。
もちろん、起業家出身者として、中立的な立場でスタートアップのエコシステムに貢献したいという気持ちを強く持っていますから、相談に関しては個人的な相談でも全く構いません。
そもそも起業家って、社内には自身のキャリア・進路を相談できる人っていませんよね。私はそんな方々にとって、人生の相談に乗れる水先案内人の役割を果たせたらいいのかな、と思っているんです。
ですから、少しでも起業家としての人生設計に悩みがある人がいれば、ぜひ気軽に相談に来てください。それこそ、相談はタダですから(笑)。
稲垣氏のつぶやきはこちら
こちらの記事は2018年11月19日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
田村 朋美
写真
藤田 慎一郎
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