インキュベイトファンドの投資先9社が語る、キャリア、SaaS、急成長マーケットの歩み方──FastGrow Pitchレポート
「イノベーターの成長を支援し、未来社会を共創する」をミッションに掲げるFastGrowが、「この会社、将来大きなイノベーションを興しそうだ!」と注目するスタートアップをお呼びして、毎週木曜朝7時にオンラインで開催している「FastGrow Pitch」。彼らが目指すビジョンや事業内容、創業ストーリー、採用したい仲間などをピッチ形式で語るイベントだ。
今回は創業期のスタートアップを中心に、起業家にとっての「最初かつ最大の応援団」として、積極的な経営参画と多面的な支援を実施しているインキュベイトファンドとのコラボレーション企画。同社が投資する企業が集結した。
登場したのは、センセイプレイス、ユアマイスター、TENTIAL、iCARE、オープンエイト、BearTail、アスエネ、M&Aクラウド、bitFlyer Blockchainの9社だ。
本記事では、イベントの模様をダイジェスト形式でお届けする。メガベンチャーからスタートアップへ転じるキャリアやSaaS事業の差別化ポイント、急成長市場におけるタイムマシン経営……幅広いテーマでのディスカッションが展開された。
- TEXT BY RYOTARO WASHIO
挑戦者たちが、未来をつくる
イベントは、インキュベイトファンドで起業家や支援者たちを巻き込んだコミュニティ構築に従事する清水夕稀氏のオープニングキーノートで幕を開けた。同社は2020年に創業10周年を迎えた独立系ベンチャーキャピタル。創業期のスタートアップ支援に力を入れ、シードラウンドの資金調達におけるリードインベスターとして、事業の成長にコミットすることをモットーにしている。2020年7月には5号ファンドを設立し、運用総額は620億円を超えた。
これまでの投資実績は525社以上。大きな投資のテーマは、既存産業のデジタルトランスフォーメーションと、先端技術の社会実装だ。今後は教育や医療など、人々の生活に不可欠であるものの、デジタル化が進んでいない領域に一層注力していくと方針を語る。
清水優秀な人材が、スタートアップを目指すことを当たり前にしていきたいと考えています。未来は挑戦者たちによって作られます。「挑戦者」とは、まさに今、起業やスタートアップに飛び込むことを考え、今回のイベントを視聴してくださっているみなさまのこと。みなさまと私たちで、この国の未来を切り拓いていきたいと思っているんです。
スタートアップエコシステムをさらに盛り上げ、多様な産業を変革していくためには、まだまだ人材が不足していると感じています。今日は私たちが応援している企業のお話を通じて、スタートアップの魅力に触れていってください。
メガベンチャー出身起業家が語る、環境の上手な“使い方”
イベントは参加企業によるピッチおよびパネルディスカッションのパートに移った。3部構成で、1部ごとに3社が登場していく。
第1部に登場したのは、大学受験生向けのオンラインコーチング事業を展開するセンセイプレイスの代表取締役である庄司裕一氏、スポーツメディアとD2C事業を展開するTENTIAL代表の中西裕太郎氏、クリーニングや修理の職人とユーザーをつなぐECプラットフォームを展開するユアマイスターでコーポレート部部長を務める小森清孝氏だ。
3名に共通するのは、これまでのキャリアにおいてメガベンチャーでの勤務を経験している点。庄司氏はリクルートやエス・エム・エス、中西氏もリクルート、小森氏はアメリカで公認会計士として現地の監査法人に勤務した後、楽天にジョインした。
メガベンチャーでの経験は、スタートアップの経営や事業にどのように活きているのだろうか。
庄司メガベンチャーで働いたことによって得た人とのつながりがあったからこそ、現在があると思っています。資金調達やマーケティング支援などの大事な局面で、両社を通じたご縁をきっかけに突破口が見つかったことが何度もありました。
「人脈をつくろう」と意図してメガベンチャーを選んでいたわけではありませんが、結果的には、そこで得た多くの縁が今につながっていると感じますね。
小森庄司さんの言う通り、コネクションや人脈を得られるのはメガベンチャーを経験する大きなメリットでしょうね。
あとは、コンプライアンスや業務の進め方に関する“当たり前”の感覚が身についた。スタートアップの創業期にはマニュアルやガイドラインなんてないじゃないですか。そういった環境だと、事業成長にコミットする中で「どこまでやっていいのか」を判断しづらいですよね。
でも、メガベンチャーでの経験があったからこそ、「これ以上は踏み込むと良くないぞ」といった感覚や、物事の判断軸が得られたのではないかなと。
中西氏は、メガベンチャーからスタートアップに飛び込もうと考えている人へのアドバイスを送った。
中西いまメガベンチャーに勤めている方は、「1→10」「10→100」で事業を成長させる方法を意識的に学ぶと良いのではないでしょうか。「0→1」フェーズはスタートアップでもたくさん経験できるかもしれませんが、「1→10」「10→100」はそうもいきません。
僕自身、TENTIALの事業をグロースさせることに、リクルートで「1→10」「10→100」を手掛けた経験が大いに活きました。その経験がなければ、さまざまな施策が後手に回ってしまっていたのではないかと想像しています。
SaaSビジネスのオペレーション構築は、結局「泥臭い」努力が大事
続く第2部は「SaaS」関連の企業が顔を揃えた。登壇したのは、AIによるサポート機能を実装した動画編集クラウド『Video BRAIN』を展開しているオープンエイト取締役・CFOの澤田裕貴氏、企業向け健康管理システム『Carely』を提供するiCAREの代表取締役CEO山田洋太氏、クラウド型経費精算システム『Dr.経費精算』などを手掛けるBearTail代表取締役の黒﨑賢一氏。
パネルでは、数多くのプレイヤーがひしめき合うマーケットで、いかに差別化を図っているのかが問いかけられた。
澤田最大のポイントは、市場選定です。インターネット上の動画コンテンツのリッチ化は不可逆の流れですし、それを疑う人はいないでしょう。そういった流れがある中で、誰でも簡単に動画をつくれるようになるサービスのチャンスは大きい。CFOとして投資家と話す機会も多いのですが、マーケットとしての魅力は評価していただいている大きなポイントの一つですね。
山田SaaS事業によって集められた健康に関する情報を活用して、ソリューションビジネスを展開しているのは、医療・健康情報マーケットで僕たちだけかなと思っています。
実際に手や足を動かしてBPO業務やコンサルティング業務を提供しているんです。クラウドサービスを提供するだけではなく、クライアント企業のメンバーのみなさんがより健康になるためにはどんな施策を打つべきなのか、担当者と共に考えることに注力しています。
黒﨑人とテクノロジーの力を融合している点が、うちのサービスの特徴だと思います。2,000人ほどのオペレーターを抱え、伝票の手入力など必要な処理を行っています。より効率的に、より正確にサービスを提供するためには、テクノロジーだけに頼らず、人の力を適切に組み合わせることが重要だと考えています。
黒﨑氏の話を受け、話題はオペレーション構築へと移った。「SaaSビジネスはオペレーション構築が肝」とされるが、澤田氏と山田氏は異口同音に「泥臭くやること」とポイントを明かした。
澤田セールスオペレーションだけを考えるチーム、データ分析のオペレーションだけを考えるチームをつくり、より良いオペレーションをつくるために日々努力しています。オペレーショナル・エクセレンスに至るための「ウルトラC」なんてありません。結局、改善のサイクルを回しながら、コツコツやっていくしかないと思います。
山田同感ですね。僕たちの事業領域には、アナログな部分が多く残っています。たとえば、健康診断の結果はまだ紙で返ってくるじゃないですか。僕たちのサービスではこれをデータ化しているのですが、その際にAIのOCR(光学文字認識機能)を活用するなど効率化を図っています。
アナログなマーケットだからこそ、改善の余地は大きいですし、健康にまつわる機密性の高い情報を扱うからこそ、絶対にミスをしてはいけない。ほんの少しのミスもしないよう、愚直にPDCAサイクルを回し続けるしかないですね。
たとえ「詐欺師」呼ばわりされても、自分が描く未来を信じる
第3部に登場したのは、再生可能エネルギー、M&A、ブロックチェーンと、活況を呈するマーケットでビジネスを展開する3社だ。
ディスカッションのテーマは、「激しく変化するマーケットの変化をいかに読み解くか」。まず口を開いたのは、CO2排出量ゼロの再生可能エネルギーを提供する電力小売事業『アスエネ』を提供するアスエネ代表取締役CEOの西和田浩平氏だ。
西和田海外の類似サービスと日本のサービスのギャップを見ることが重要だと考えています。前職の三井物産では、メキシコやブラジルなどで再生可能エネルギーにまつわる新規事業開発などを担当していました。メキシコやブラジルでは、再生可能エネルギーがとても安く提供されていた一方、日本ではまだまだ価格が高かった。ここにチャンスがあると思ったんです。
安く再生可能エネルギーを提供できている国の事業者は、いかに価格を抑えていったのか。そこを深掘っていけば、日本でも安価に再生可能エネルギーを提供する事業に繋がるヒントが見つかるのではないか。そう思ってリサーチしたことが、いまのアスエネの事業に活かされています。
西和田氏の言葉に応じたのは、M&Aマッチングプラットフォーム『M&Aクラウド』を提供する、M&Aクラウドで代表取締役CEOを務める及川厚博氏。「アスエネさんのように海外に同じビジネスモデルの先行例がある場合は、西和田さんがおっしゃったようなタイムマシン経営が有効」とする一方、海外に先例が存在しない場合は「アナロジー思考が重要」だとする。
及川『M&Aクラウド』のようなビジネスモデルは海外には存在しないので、M&Aに近そうな業界、すなわち不動産や人材業界の変化を見るようにしています。海外も含めて、不動産業界や人材業界でどんなテクノロジーが使われているのか、いまどんな企業が台頭してきているのかを知り、そこから僕たちが属するM&A市場に何が起こるのかを予測するようにしています。
最後にマイクを取ったのは、『miyabi』などブロックチェーンを活用したプロダクトの開発を行うbitFlyer Blockchainや、仮想通貨取引所を運営するbitflyerで社長室マネージャーを務める肥田直人氏。ソフトバンクグループ社長室での勤務経験もある肥田氏は、孫正義氏とbitFlyer BlockchainのCEOである加納裕三氏は、「市場の先を読む力が突出している点で共通している」とする。
肥田2人とも“詐欺師”呼ばわりされていた点が一緒だなと思っていましたね。先を読む力が強すぎる人は、世間からすると「何を言っているんだ」と相手にされない時期があります。だけど、両者ともそれぞれの分野でトップクラスの実績を上げている。世間から相手にされなくても、来たるべき未来を信じて、その未来を実現することにコミットしている経営者の視点や行動から、学ぶべき点は多いと思います。
こちらの記事は2020年10月15日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
鷲尾 諒太郎
1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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