AIはあくまで手段、"顧客密着"こそが競争優位・高利益を生む──後発SaaSのTOKIUMが「BPaaS時代」を先取りできた理由と、「社会インフラ級」のプラットフォーム戦略とは

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黒﨑 賢一

1991年生まれ。筑波大学在学中に家計簿アプリ「Dr.Wallet」の開発を始め、在学中の2012年に株式会社TOKIUMを共同創業。2021年末から2024年にかけて約66億円の資金調達を行い、法人の支出管理業務における課題解決に取り組む。今後も、人々の無駄な時間を減らし豊かな「時を生む」サービスの展開を目指す。

松原 亮

1991年生まれ。東京大学を卒業後、新卒でドイツ証券に入社。投資銀行業務に携わる。2020年にTOKIUM参画。 入社当初は請求書受領クラウド「TOKIUMインボイス」の事業責任者として事業を推進したのち、2021年ビジネス本部部長就任。2022年4月より取締役。

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「SaaSプロダクト」と「プロフェショナルサービス」の組み合わせが今、テックスタートアップの勝ち筋として注目を集めている。kubell(旧Chatwork)などが注力しているBPaaS(Business Process as a Service)戦略がその代表例と言える。

そんなBPaaSがビジネストレンドとなる以前から、ほぼ同じ構想を2016年頃から先駆けて実現し、着実な成長を遂げてきたスタートアップが実は存在する。法人支出管理プラットフォームを展開するTOKIUM(旧BearTail)だ。同社は、バックオフィスの要ともいえる「支出管理」の領域を、“IT×人力”で置き換える独自ソリューションで席巻。大手から中堅・中小まで2,500社以上に導入が広がっている。

ドイツ証券という畑違いな外資企業からTOKIUMに転じ取締役となった松原亮氏は、成長実績の裏で一貫する「顧客密着主義」に、これからの事業インパクト増大を感じると力を込める。支出管理という一見地味な事業領域には大きな成長可能性があり、地道な取り組みを徹底して続けるだけでも、広く産業を変革させることができるというのだ。いったい、どういうことだろうか?

しかもTOKIUMは今、事業成長の“本番”を迎えようとしているのだという。Primary発表の『SaaSスタートアップ 従業員数ランキング』でも増加人数で6位にランクインするなど、急成長への準備は着々を進む。なぜ今TOKIUMがこれから急成長しうるのか、その背景や取り組みに、刺激を受けること間違いない。

  • TEXT BY MAAYA OCHIAI
  • PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
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バックオフィスSaaSの新潮流、図らずも先駆けていたTOKIUM

近年、BtoBビジネス界において注目を集める「BPaaS」という言葉。SaaSプロダクトとBPOを組み合わせたビジネスモデルを指す。kubell(旧Chatwork)などが注力するBPaaS戦略は、その代表例と言えるだろう。また、近いものとして「SaaS+プロフェッショナルサービス」という言葉も多く使われるようになってきた。

しかし、こうした潮流が注目を集め出す遥か以前から、同様の構想を実現し、着実な成長を遂げてきた企業がある。支出管理領域に特化したプラットフォーマー、TOKIUMである。

「SaaS市場は今、非常に大きな過渡期を迎えていると思います」

TOKIUM代表の黒﨑氏はこのように指摘する。

黒﨑氏

オンプレミスのシステムからSaaSへの移行が進み、1つの企業で複数のSaaSを導入することも当たり前になりつつある今、新たな課題が浮き彫りになってきている。人口減少が進む中、特に専門性が高いバックオフィス業務では人材不足に陥りやすく、多岐にわたるSaaSの運用・管理を自社内で抱えきれないという問題だ。

松原私たちのお客様にも多く含まれる中堅中小企業には、経理部門の多くが2~3人で、誰かが退職や異動をしてしまうと業務が回らないような状態になっています。導入前のフェーズでは「担当者が変わると運用が立ち行かなくなりそう」といった声を、私たちも現場で日常的に聞いています。

昨今、SaaSを複数導入することが中堅中小企業でも当たり前になっており、それらを管理し切る難度も高まっています。バックオフィスには、とにかくさまざまな悩みが山積されていく状況なんです。

なので私たちは「使いやすく、運用しやすい(≒細かく運用しなくてもいい)プロダクト」を提供することに注力しています。

提供企業側としても、SaaSプロダクトが市場にあふれる中で、ソフトウェアの機能による差別化が難しくなっているという課題がある。そのような状況において、SaaSプロダクトだけでなく、BPOやプロフェッショナルサービスといった事業を付け加えることの重要性が高まってきたことはうなずける流れではある。

「そもそも各社が、個別機能を担うSaaSを別々に導入している状況には違和感がある」と黒﨑氏。この視点は、TOKIUMの事業戦略の本質を表しているといえる。現在、契約管理、経費精算、請求書管理などをSaaSの導入で効率化しようとする企業がどんどん増えているが、このアプローチには限界があると以前から感じていた。そこで同社が目指してきたのが、支出管理業務をいわば「社会インフラ」として集約し、SaaS以外の手法も当然のように絡めることで、スピーディーに処理することである。

実際、TOKIUMは支出管理領域において、すでに上場企業250社を含む2,500社以上の導入実績を持つ。その要因こそ、「SaaSへのこだわりのなさ」だった。

黒﨑ソフトウェアの機能は、時代とともに各社の差異が薄れていきます。圧倒的な差分をつくるには、ソフトウェアの枠を超える必要がある。それが人力であれ、ハードウェアであれ、ユニークネスのある事業をつくり、残したいというのがTOKIUMの前提にはあります。

松原外から見れば、私たちもSaaS企業の一つとして見られると思いますが、実際にはSaaSへのこだわりはほとんどないんですよね……!

目の前のお客様が何に困っているかを正確に把握し、それをSaaSで解決できればそれはそれで良いですし、SaaSだけでは解決できないのであれば人力のオペレーションを組み合わせてでも解消しようという姿勢にこだわる。実は私がこの会社に関して一番面白いなと思ったのは、この「SaaSにBPOが付属している」ところでした。

松原氏

黒﨑ちょっとデザインがいいとか、ちょっと価格が安いといった差別化には興味がなかったんですよ。圧倒的な差分をつくるとなると、ソフトウェアという考え方から出なければいけないと思いました。

松原私が深く携わった『TOKIUMインボイス』の立ち上げの際は、全国のお客様に対して直接営業していました。導入いただいた後には、必要に応じてお客様の取引先に電話をしたりメールをしたりもしていました(*)。

その際、メールアドレスを持っていなかったり、そもそもITサービスのアカウントをつくるという概念自体に馴染みがなかったりという方々に多く会いました。それで改めて、「ソフトウェアだけで解消できる範囲って本当に少ないんだな」と感じたんです。ソフトウェア企業に転職してきたのに(笑)。

それであればこの周辺の部分を、人力を使ってでも徹底的に巻き取る。この戦略が実は非常に有用なのだろうと感じました。テクノロジーを起点に起業していると、なかなか取り組みにくいことだとも思うので、やればやるほど真似できない強みになりそうだと感じています。

*……『TOKIUM』の導入に伴い、取引先との請求書等の送付/受領フローにTOKIUM社が入り込むという仕組みとなる。そのため、導入企業の取引先とのやり取りが発生する

TOKIUMは、領収書や請求書の受け取り、保管、データ化といった作業を、全国に配置するオペレーターの工数を駆使し、型化して一括で請け負っている。この部分に着目すれば、一般的にイメージされるSaaSスタートアップとは全く異なる攻め方をしているとすぐにわかるだろう。

なおこのようなBPaaSが指すような業務形態は、その言葉が登場する以前から他の事業領域には存在してきたと二人は指摘する。たとえば複合機メーカーは、「複合機そのもの」を売っていたのではなく「いつでも印刷・コピーができる状態」を売っていた。オフィスに複合機が設置されるだけでなく、定期的なメンテナンスやトナーカートリッジ交換を、人手も介して行うところまで一体のサービスにすることで、継続的な収益を生むビジネスモデルを実現していたのだ。

また、SIerにおいても、システム構築の売り切りではなく、その後に数年スパンの運用・保守までを人が継続的に担うのが一般的だ。SaaS企業の現場でもそれらと同様の展開が見られ始めたのが最近というわけだ。

ノンコア業務をアウトソースするという概念も、決して新しいものではない。製造業で事業の収益構造を表す「スマイルカーブ」という言葉で、黒﨑氏は説明する。

顧客企業のバックオフィスにとって、「KPI策定」「戦略作成」や「調達」「分析」がコア業務であり、「経費精算」「データ集計」はノンコア業務だと整理できる、このノンコア業務を一気通貫で担おうとしているのがTOKIUMのプロダクトの特色だ(提供:株式会社TOKIUM)

黒﨑スマイルカーブはもともと、製造業の戦略策定時などで多く使われていた概念です。ビジネスのプロセスを上流(企画・開発)、中流(製造・組み立て)、下流(販売・保守サービス)に分類し、自社にとって付加価値の高い部分(=コア業務)は自社で行い、付加価値の低い部分(=ノンコア業務)はアウトソースすることで、プロセスを最適化するという考え方です。

私たちはこの概念を借り、提供価値を整理しています。企業にとってノンコア業務である「支出管理」という領域でアウトソースの受け皿になろうとしています。専門企業だからこそ、新しいテクノロジーを導入し、大規模な投資を伴う整備を実施する価値があります。

「書類の一掃」「業務効率化の幅広さ」に特色がある。いずれも、SaaSプロダクトだけではなかなか実現しにくい部分と言える(TOKIUM会社紹介資料から転載)

黒﨑通信インフラとも似ていますよね。基地局を建設するのは、あくまで通信の専門企業と建設企業であり、その通信インフラを使って事業を行う携帯キャリア企業が自ら手を動かして建設するわけではありません。

そのためにインフラに対して専門企業が集中投資を行い、それを他の企業が共有する。

TOKIUMはこのようなイメージで、すべての企業に必要となる「支出管理のインフラ化」を目指しています。

TOKIUMは「未来へつながる時を生む」という志を掲げている。次章以降で紹介する同社のビジネスモデルや成長は、マクロな市場環境から分析的に解を導き出したというよりはむしろ、「無駄な時間を減らして豊かな時間を創る」というビジョンのもと、地道で泥臭い顧客との対話から生まれた実務的な知見に裏打ちされたものだ。黒﨑氏や松原氏がどのように成功モデルを構築してきたのか、ここから見ていこう。

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成功モデル確立の肝は、優秀な人材によるロジカルな戦略ではなく、泥臭く顧客と向き合うこと

「ほぼ偶然だったと思います。ただし、偶然であっても、そうなる必然性はあったように感じます」

そう黒﨑氏は振り返る。バックオフィスSaaSの後発として市場に参入したTOKIUMが、「IT×人力」の強みを築き上げた背景には、偶然とも必然ともいえる経験があった。きっかけはコロナ禍にまで遡る。

黒﨑コロナ禍では経費の利用が一気に減りましたから、当時提供していた『TOKIUM経費精算』がほとんど使われなくなってしまったんですね。でも私は「お客様を失いたくない」という思いから、既存のお客様にひたすら電話をかけたり、自ら商談に出たりしていました。

当時のプロダクトはこれだけでした。「月3万円であれば、削らないでおいてもらえないだろうか」なんて思いで、とにかく“密着”しようと必死でした。

この時黒﨑氏は、新規顧客の開拓も試みている。しかし結果は散々。敢えて新たに経費精算プロダクトを導入しようなどと考える企業は見つからず、既存顧客へのアプローチよりも明らかに困難であると実感したという。そうして既存顧客との関係の深化に注力することになった経緯がある。

この「必死さ」から生まれた行動が、現在のビジネスモデルの礎を築くことになった。「既存顧客の声に徹底的に耳を傾け続けたことで、気づけば追加でご利用いただくことで満足度が更に向上していく環境が生まれていた」と黒﨑氏は話し、「今でもその文化は引き継がれている」と松原氏は応える。

松原既存のお客様を訪問して、「今、何に困っているのか」というミクロな一次情報を大量に浴びることで、世の中のマクロトレンドを実感できるのです。それが新しいサービスやオプションにつながっています。

これは最近も当然のように継続しています。私も直近3~4カ月で100件以上のお客様に直接お伺いし、多くの一次情報を得ることができました。

実は黒﨑氏、松原氏はともに事業失敗の経験を持つという共通点がある。松原氏は起業して1年で撤退、黒﨑氏も創業からしばらく、支出管理領域にたどり着くまでの間、複数のプロダクトをリリースしてはピボットすることを繰り返してきた。そうした経験が、地道な顧客との対話の価値を見出すことにつながった。

松原以前、自分で起業した時に、なぜ上手くいかなかったのか。それは顧客理解という観点にあると今ならはっきりと言えます。

TOKIUMで実際にお客様の声を聞きながら、「ここなら役に立てそうだ」という感触を得ていくプロセスの中で多くの気づきがありました。私が頭で考えて「こうだろう」と思うものと、お客様が現場で求めていることの間に、たいてい何らかの乖離があるものです。思いもよらないところに、顧客のニーズやサービスとしての価値が眠っているんですよね。

お客様だけでなく、その取引先にも葉書を出し、メールを送り、電話をかけるといった作業は、キラキラした仕事に見えないかもしれません。しかし、一度失敗を経験しているからこそ、むしろそういった地道な仕事でお客様の真のニーズを拾っていくことには大きな価値を感じられました。起業して失敗した時とは何もかもが違います。もっとテクノロジードリブンなSaaS企業に入っていたら、こうしたことには気づけなかったかもしれません(笑)。

前述した松原氏の「ソフトウェアだけで解決できる課題は本当に少ない」という実感は、現場での経験なしには得られなかったものである。そんな松原氏を見て、黒﨑氏は「偶然だが、同じような経験から、同じ価値観を共有できているんですよね」と話した。互いに事業がうまくいかない時期を経験しているからこそ、「顧客の声を聞くことの大切さ」に気づいたのだろう。

黒﨑松原さんはおそらく「求められるものをつくりたかったのだろう」と思います。そこは同じ気持ちだった気がします。私も以前はBtoCのアプリを提供していましたが、当時はApp Storeにレビューが書かれても深い理解には至らず、なぜユーザーが使い続けるのか、なぜ解約するのかなどの理解が浅いままでした。

でもBtoBに舵を切り、多くのお客様からお話をお聞きする必要性が高まると、深い悩みや求めていることを聞けるようになり、見える世界がガラッと変わりました。目の前で「ありがとう」とまで言ってもらえる。嬉しいですし、直接声を聞ける楽しさまで今は感じていますね。

目の前の顧客に徹底的に向き合い、泥臭い業務を続ける。それは「アプリ300万DL!」など数字のボリュームが出やすいBtoCサービスの華やかさとは無縁の作業だ。しかしTOKIUMの経営陣は、それぞれの持つ背景から、そのような地道な部分にこそ価値があると信じることができた。そしてそれはいつしか、競合他社が容易には模倣できない強みとなっていたのだ。

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組織に異質な要素が入ると事業成長力は増す

なお、これまでの成長を支えてきたのは、地道に顧客の声を聞くプロセスからなる「IT×人力=TOKIUM流BPaaS」とでも呼べそうなこのビジネスモデルの強さだけではない。松原氏にTOKIUMの成長の秘訣を問いかけると、迷うことなく「人・組織が良い」という答えが返ってきた。この強みは、松原氏、黒﨑氏が語るエピソードの中に垣間見える。

松原「○○さんだから信用して導入する」という事例が多いのです。もちろん、そもそも「IT×人力」というプロダクト自体の差別化で、商談が進んでいる中での話ですよ。

実際に一つひとつの受注の現場では、プロダクトがどれだけ魅力的だろうと、最後の決断を後押しするのは「人」だと思うんです。弊社のメンバーは皆、あまり社内向きにならず、本当にお客様の役に立ちたいと思っている。そのことがお客様にも伝わって、信用をいただけるのだと思います。

私から見ても、素直で良い人が多いですね。私もこのチームのメンバーが好きで、チームの役に立ちたいという思いがあったことが、業務委託から入社するという決断を後押ししてくれました。

お客様が何か困ったときに、「この人は信頼できるから相談しよう」「逃げずに助けてくれるだろう」と思ってもらえる企業文化が築けているのが今のTOKIUMです。これは意外と、成長要因として無視できない部分ではないかと思います。

事業成長の背景には、顧客からの厚い信頼を生み出す組織の文化がある。興味深いのは、TOKIUMという組織に「異質な要素」が入ったタイミングで、大きく成長してきた点だ。

たとえば、2018年には現CFO・堀地氏が加入してすぐに立ち上げに関わり、経費精算サービスの新プラン(「Dr.経費精算 ペーパーレスプラン」)をリリース。圧倒的な差別化が進み、事業成長が加速した。2020年には松原氏の参画で現『TOKIUMインボイス』が立ち上がり大きく成長するなど、新しい風が入ることで、新しい発見や新しい文化が生まれ、それらが混ざり合うことで事業を進化させてきた。

TOKIUM会社紹介資料から転載)

TOKIUMの経営陣は出自が完全に異なる。学生起業でそのまま国内で共同経営を行ってきたエンジニア畑出身の黒﨑氏と西平基志氏、外資証券会社を経た松原氏、日系大企業や外資系コンサルティングファームを経た堀地氏、執行役員の篠原啓輔氏は米国公認会計士であり金融機関や日系大企業の経歴を持つ。経験してきた組織の文化やカラーは多くの違いがありそうだが、入社以降のアクションについて、黒﨑氏は「感謝している」と話す。

黒﨑自分の考え方に完全に染めようとしないのです。外資系企業は「アップ・オア・アウト」と言われるようにプロフェッショナリズムを重視する傾向があると思います。もちろんTOKIUMでも、組織として生産性を追求していきますし、お客様にも生産性を販売しているような面があります。

ただ一方で私は、「この仲間と長く一緒にやっていきたい」という想いも持っている。松原さんを始めとして皆、外資系企業の価値観に触れながらも、それを押し付けることはなかった。プロフェッショナリズムと温かみという二面性を内包できているのがこの組織の強みです。

アメフト経験者である松原氏を筆頭に、チームスポーツ経験者が増えてきたことも、組織文化に影響を与えているという。ほとんどスポーツ経験のない黒﨑氏が、ならではの視点で分析する。

黒﨑これは半分ネタですが(笑)、私は運動部経験がないんです。将棋部で、一人で黙々と将棋を指して過ごしてきました。

そんな私から見ると、アメフト経験が松原さんたちの動きの中に見えて面白いんですよ。役割を明確に分けて、持ち場を全うすることで、チーム全体に貢献していく。この価値観が自然と根付いている。

松原確かに、部活のような感覚を思い出すことが多いです。1つの大きな目的に向かってチームのメンバーがお互い努力して切磋琢磨する雰囲気がありますよね。1人のスタープレイヤーが引き上げてあげるというよりも、チームとして切磋琢磨して成長していくという感じです。

「プロフェッショナリズム」と、個々人の人柄や誠実さ、組織の「温かみ」の両立などが、支出管理という業務を「社会インフラ」として展開していく上での重要な競争力となっている。

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あえて人力を使う事業に、成長余地はあるのか?

TOKIUMが顧客の声を聞くことでピンチをチャンスに変えて成長し、組織がそれを下支えしたことが少しずつ見えてきた。ただこの先の道のりはどうか。どのような成長戦略を描いているのだろうか。

目指す未来像を端的に表現すれば、「日本全体を株式会社に見立てた際の、クラウド経理全てを担う」ということになる。日本全体の支出周りの業務をすべて巻き取る。この目標に向かって、まだまだ成長余地はあると言い切る。

松原今後に向けた強みとして特に大きいのが、オペレーションです。経理に特化したオペレーションをまわし続けられる、日本の中でも特に大きな組織になっています。

別の角度から表現すれば、「ノンコア業務を細かいパーツに分解してマイクロタスク化し、『規模の経済』を活用し、高い生産性で処理する」というノウハウと実行リソースがあるということ。これは様々な領域に転用できるでしょう。

実際、TOKIUMは経費精算や請求書処理などの領域で、国内最大級のBPaaSプラットフォーム体制を構築している。これは「海外でもあまり例がない」と黒﨑氏は強調する。

だが読者の中には、「人力に依存するビジネスモデルには成長の天井があるのでは?」と懸念する方もいるだろう。特に、昨今のAIブームの中で、人力での処理は時代遅れに映るかもしれない。しかし松原氏は、それを強みに転換すると強調する。

松原AIは今もプロダクトに組み込んでいますし、更に活用を強化していきます。一方、ユーザーにとっては「AIを活用すること」自体が価値になるわけじゃないですよね。業務を集中処理するベンダー側、つまり私たちが、ひっそりと裏側で実装すれば良いと考えています。

現在私たちが緻密にオペレーションを組んで行っている人力の作業を、徐々にAIに置き換えていくというのが理想です。その変化を、お客様が全く感じないくらい自然に進めていけると最高ですね。

たとえば社会インフラの一つである「郵便」において、郵便システム上でどんなテクノロジーが使われていて、昔と今でどんな風に進化していっているのか、生活者はほぼ気にしなくても「出せば届く」んですよね。それと同じでいいと思うんです。

その一方で黒﨑氏は「企業のAIに関する言及は、マーケティングメッセージの1つ」とやや辛らつだ。「実用に耐えないものもまだまだある。数あるテクノロジーの中の一つとしてAIを使うべきところは使う」とのこと。

また、「人力の活用範囲が広い状態が続き、利益率を伸ばしにくいのでは?」という意見もあるだろう。それを率直に問うと、松原氏は明確に否定した。

松原きちんと設計すれば利益は出ますよ。私がこの会社に可能性を感じたのは、この収益構造がしっかり設計できていた点が大きかったのです。

確かに、以前から存在するBPO事業の多くは、個社の自由度をそのまま受け入れて納品する形態を採っているため、利益率が圧迫されやすい。しかしこれを共通の汎用タスクに落とし込み、タスク分解して分散処理すれば、処理ボリュームを出せますし、しっかりとビジネスとして成立する。これがこの会社の最も素晴らしい点だと思っています。

お客様はそれぞれ「自社は少し特殊なので」とおっしゃるのですが、実はパターン化して解決できることもかなり多いです。ここに、専門企業が集中処理する大きなメリットがあると思います。私が入社したときと比べると、領収書だけでなく請求書に関しても処理体制が整っている。どんどん処理スピードも上がっていますし、その仕組み自体を改善することもまだまだできそうです。

なので、これからより一層生産性が高まり、処理単価も下がっていくでしょう。そこにAIを本格活用していけば、今では考えられないほどの生産性を実現できるかもしれませんね。

人口減少というマクロトレンドの中、規模に関わらず多くの企業でノンコア業務を担う人材が不足していく可能性がある。「ノンコア業務をまとめて効率よく処理することで、マクロトレンドに乗ってTOKIUMは成長できる」と松原氏は自信をのぞかせた。

TOKIUMが描く成長戦略は、「まずは支出管理の一連のプロセスに集中する」と手堅い。しかしこれも、顧客の声を聞くからこそできる意思決定だ。松原氏は語る。

松原超大手企業ではERPでしっかりと経営管理体制が構築されていると思いますが、中堅・大企業になってくると、そういったシステムを入れている企業は少なくなります。稟議にしても、契約書にしても、紙と電子契約のツールが混在しており、経費精算、請求書はそれぞれ別のツールでカバーしている状況があります。

これらを私たちがまとめて処理することで、一連の取引を横串で管理できます。その結果、「この仕入先に対してコストが急に増えているから確認が必要」といった経営の意思決定を素早く行えるようになるのではないかと思います。

オペレーション支援があるからこそ、最適化に貢献できる。そんなプラットフォームがすでに実現しつつある(TOKIUM会社紹介資料から転載)

社内で分断されやすい、アナログな書類も含めた支出管理関連情報を、TOKIUMはプラットフォームとして統合しようとしてきた。必要な元データが、同じプラットフォームの中に統合されていることが、経営の意思決定を行う上で非常に重要となる。

「領収書や請求書といった証憑の画像データがないとExcelを改良した程度のところから先に進めない」と松原氏は話す。黒﨑氏は、「オペレーション構築は難しかったが、そのおかげで元データの蓄積があるから、これから大きな付加価値を出していけると思う」と付け加える。

最初からデータを取って事業を展開してきたTOKIUMにとってその点は競合優位性となっている。

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成長が本格化するのはむしろこれから。
社会インフラの構築に加わるチャンス

SaaSというカテゴリーは、勢いのあるスタートアップが多く出ており、一見華やかな業界に見える。しかしその市場規模は、実は産業全体から見れば極めて限定的な大きさしか持っていない。この限定性を突破しようとしているのがTOKIUMだ。

黒﨑2,000名規模であろうと5,000名規模であろうと、SaaSはそもそも産業としてまだまだ小さなセグメント。社会に対するインパクトがSaaS単体ではあまり大きくありません。その壁を超えていきたいというのが、今のTOKIUMの見据えるところです。

“やった感”はあるけれど産業全体へのインパクトが小さいSaaS事業をやりたいわけでは全くありません。地味でカッコ悪く見えるかもしれないけれど、大きなインパクトを残せる事業をひたすら追求していきたい、その一部がたまたまSaaSだったという方に賭けたいと思うんです。

バックオフィスSaaSとしては後発だからこその強みが、TOKIUMにはある。先発のSaaSプレイヤーが直面した課題を見た上で、新しいテクノロジーや収益構造を模索し、より大きくスケールさせる方法を確立していく。「先発のSaaS企業が突破できていない時価総額5兆円の世界に突き抜けるために何ができるか、良くも悪くも2番手走者としてできる面白さがある」と黒﨑氏は述べる。

実際、TOKIUMの規模感は着実に拡大している。

松原4年前と比べ、規模も基盤も大きくなって、私の知らないところで「『TOKIUM』を使っている」という声をかけられるようになりました。動かすものが大きくなっているので、そのダイナミズムを感じやすい環境にはなってきましたね。

黒﨑導入企業数がかなりの規模になってきて、「支出管理プラットフォームを入れないと経営が成り立たない」という世界を、私たちが起点となってつくれるんじゃないかと本気でイメージできるようになってきました。そんなダイナミズムをメンバーのみなさんも感じられるんじゃないかと思います。

松原日々生活していて、たとえばマンホールを見るたびに「この下に広がる下水道こそが、社会のインフラだな」と感じます。日常的に人が感謝することはあまりないと思いますが、下水処理は常に当たり前にそこにあって人々の生活を支えている。電気やガスなども、もちろんそうですね。

社会のインフラになりたいと標榜するのであれば、そういったレベルを目指さなければいけないでしょう。そのような会社をつくる礎になりたいと思っています。

多くの日本企業は早晩、深刻な人材不足に陥り、生産性を向上させなければ既存業務を維持できない状況になる。特にベテラン社員の退職が進む中小企業や、採用に苦戦している企業から、徐々にTOKIUMのような、時代に即した新たな事業モデルへの移行トレンドも強まっていくだろう。

企業が危機感を感じ始めてからがTOKIUMにとっての“本番”だ。大量のタスクを集中処理することで、インフラとして日本の産業を支える存在になる。大きな社会的変化が起きつつあり、まもなく事業成長の本番を迎えるTOKIUMに、今飛び込むことの意義は大きい。

こちらの記事は2024年12月19日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

落合 真彩

写真

藤田 慎一郎

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