連載FastGrow Conference for SUSTAINABILITY

“脱炭素”は今や、利益も投資も生み出す?──ビジネスパーソンが知るべき、環境問題とビジネスの「未来の関係」を、アスエネ西和田・エフアイシーシー森に聞く

登壇者
西和田 浩平
  • アスエネ株式会社 代表取締役CEO 

慶應義塾大学卒業、総合商社の三井物産にて日本・欧州・中南米の再生可能エネルギーの新規事業開発・投資・M&Aを担当。ブラジル海外赴任中に分散型電源企業出向、ブラジル分散型太陽光小売ベンチャー出資、メキシコ太陽光入札受注、日本太陽光発電ファンド化などを経験。2019年アスエネ株式会社を創業。

森 啓子
  • 株式会社エフアイシーシー 代表取締役 

米マウント・ホリヨーク大学 BA(文学士)、米マサチューセッツ芸術大学大学院 MFA(美術学修士)課程修了。米国デザイン・広告会社で勤務後、2005年、FICCに入社。2019年、代表取締役に就任。ブランド・マーケティングを専門とするFICCの経営戦略のコアに「学際的リベラルアーツ」を掲げ、個人の想いや学びから価値を創造し続けるイノベーティブ組織を目指す。

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世界的にESGやSDGsへの関心が高まり、企業もまた気候変動や環境問題に対する責任を問われている。特に、Z世代をはじめとした若い世代は、企業がどのように事業や製品を生み出しているかというプロセスに意識を強く向けている。

一方で企業の経営陣はといえば、同様に気候変動問題に対して関心はあるものの、実際には何から取り組めばよいかわからないことも多いようだ。そこで、世界で注目すべき潮流や、気候変動問題に対して先進的に取り組んでいる国内外の企業について最新の情報を得られるイベントセッションを企画した。

2021年7月に開催した「FastGrow Conference for Suainability」において「なぜ企業が脱炭素に取組まないといけないか?世界・日本の気候変動問題、アプローチ手法と先進的なケーススタディを学ぶ」と題したセッションを用意。登壇したのは、アスエネ代表取締役CEOの西和田浩平氏だ。同社は、「次世代によりよい世界を」をミッションに掲げ、再生可能エネルギー100%のクリーン電力サービスを運営している。モデレーターは、エフアイシーシー代表取締役の森啓子氏が務めた。

なぜ企業は脱炭素に取り組むべきなのか、一体、どのように取り組むべきなのか。気候変動問題に対する現状や、海外・日本の企業による取り組みなどさまざまな角度から、西和田氏と森氏に話を展開してもらった。

  • TEXT BY OHATA TOMOKO
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温室効果ガス排出の約80%は「企業活動」が原因

世界的に注目が集まっている気候変動問題。日本では、2020年10月に菅義偉首相が「2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする」ことを所信表明演説で宣言し、カーボンニュートラルな社会の実現が目標に定められた。まず初めに、温室効果ガス排出に関する現状について西和田氏が説明した。

西和田2018年時点で、世界では約330億トンものCO2が排出されていると言われています。排出量が最も多いのは、中国・アメリカ・EU・インド。日本は全体の約3%にあたる年間11億トンです。

では、日本のCO2はどこから排出されているのか。産業・運輸部門が約50%を占め、商業・事務所が17%。かなり多くの温室効果ガスが企業活動による原因となっており、重要性は非常に高い。家庭は15%相当。

実際に、ハリケーンや森林火災、記録的豪雨など、世界各地で気候関連の災害規模は年々大きくなっている。保険損害額では、2000年頃は最大約500億米ドルだったのに対し、2015年以降は1,500億米ドルと、約3倍に増加。CO2削減に向けた世界の取り組みが欠かせない。

西和田2021年4月に政府が発表した2030年の新たな目標では「2013年度から46%の温室効果ガスを削減する」ことを掲げました。つまり、14億800万トンから7億6,000万トンまで削減することになる。日本にとっては非常に野心的な目標をようやく掲げた形です。

しかし海外の実際の動きを見ると、2030年までにアメリカが52%、欧州が55%。2035年までにイギリスは78%削減を予定。日本は他の先進国と比べて、決して高くはない数値目標となるため、世界水準で考えると、日本の気候変動の取り組みにはまだまだ取り組むべきことが多い状況です。

ここまでが、昨今非常によく聞くようになった「脱炭素」の背景にあたる話だ。

「脱炭素」とは、気候変動を引き起こす温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にしようという取り組み。その中でも特に「カーボンニュートラル(ネットゼロ)」という言葉は、温室効果ガス排出量から森林に吸収される量を差し引いた合計をゼロにした状態のことを意味する。2021年1月時点で、日本を含む124か国と1地域が、2050年までの実現を表明している。

CO2排出量や世界的な気温上昇、また海水面の上昇や動植物の消滅など、どこかで聞いたことくらいはあるような話を、丁寧に説明する西和田氏。「クリーン電力」を事業領域にしているとはいえ、こうした世界の現状をなめらかに話す姿に、刺激を受けるビジネスパーソンは少なくないだろう。

とはいえ、こうした現状が、企業経営やビジネスにどのような影響を与えるのだろうか。それがわからなければ意味がない。そこで次に話すテーマは「金融」だ。

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CO2排出量が、お金に変わる?

差し迫る気候変動に対して、企業の取り組みが欠かせないということはわかった。脱炭素に向けた動きが増える中で注目すべきものとして西和田氏が紹介したのは「ESG投資」だ。

「ESG投資」とは、「環境(Envronment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」に考慮した投資のことだ。長らく行われてきた「従来の投資」は、企業の業績や財務状況などによってその可否や成果が判断されていた。しかし、企業の長期的な成長を図るには不十分との指摘もあった。そうした背景から、サステナビリティに対する評価軸も注目され始めている。

西和田2018年に、世界では約3,350兆円のESG投資が行われました。その投資運用額の2/3を欧州と米国が占めています。

日本・アジアで再生可能エネルギー発電所の開発・建設・投資・売電事業を行っているレノバは、脱炭素銘柄として、2020年10月頃から現在にかけて企業価値が約4~5倍まで上昇しました。このように、脱炭素に取り組むことで、投資や融資がより受けやすくなるため、企業価値の向上につながる。そんな動きが明確にみられるようになってきています。

さらに、サステナビリティ経営の実践により、貸出条件の優遇を得られる「サステナブル投資」も広まっているという。

西和田最近では、日本銀行が金融機関に対して、気候変動対策に関連する融資を金利ゼロにする取り組みも始まり、民間企業向けにより低金利かつ融資枠が増えるような新たな施策が生まれています。例えば、企業が温室効果ガス削減の目標を定めてアクションを起こすことで、金融機関からの融資の金利を低下させるサステナビリティ・リンク・ローンなどの取組事例が増加しています。

サステナブル金融・投融資は大企業を中心に取り組みが目立っていましたが、中小企業にもニーズがあり、様々な金融機関が検討しています。こういった取り組みが企業にとってプラスに働く時代になりつつあります。

投資・融資以外のお金の動きとして、西和田氏は脱炭素に向けた取り組み事例の一つ「カーボンプライシング」にも触れた。CO2排出量に対して価格をつけ、排出量に応じて企業にお金を負担してもらうことができる仕組みだ。日本では一部の低価格の仕組みしか導入されていないが、今後、国を挙げて検討が進むと予測される。

西和田この将来の規制や制度に先駆けて、企業内部でCO2排出量に対して独自の炭素価格を導入する「インターナルカーボンプライシング(ICP)」という取り組みも起きています。部門ごとにCO2の排出量を計算。企業が費用を徴収することで、省エネの推進のみならず、プロジェクトや案件の稟議が通りやすくなります。

マイクロソフトなどの企業では、温室効果ガスの排出量1トン当たり5,000円〜10,000円の価格を定め、部門ごとに支払いを行っています。徴収したお金はその企業の再生可能エネルギー導入・投資や、気候変動の研究開発に使われることで、さらに社会に対してよい影響を生み出します。

マイクロソフトは、2030年までに自社のCO2排出量を削減し、最終的にはゼロにする「カーボンネガティブ」計画を発表。CO2排出をゼロにするだけでなく、創業以来、排出してきたCO2による環境への影響を2050年までに完全に排除する。非常に先進的な取り組みを行っている。

有名企業の動きからもわかりますが、ICPを導入・経営指標にすることで、経営サイドとしてもビジネスモデルの見直しにつながりますよね。その取り組み自体も新たなビジネスを創出する起点につながっていくのではないでしょうか。

株式会社エフアイシーシー代表取締役 森啓子氏

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“サプライチェーン全体”へ、動きを広げよ

気候変動問題に対する取り組みが様々なところで生まれていることがわかった、しかも、誰もが知る有名企業の事例も出てきた。少しずつ、身近に感じられてきたのではないだろうか。となると気になるのが、「どういう企業は実際に動くことができ、どのような企業はなかなか動き始められないのか」という疑問だ。

ところで国内でも海外でも、実際に行動を起こしている企業と、そうではない企業がいます。これも私たちがサステナブルな活動を進めていく上で、向き合わなければならない大きな課題ですよね。そのギャップはどこから生まれていて、どのように対処していくべきだと考えていますか?

西和田一番のギャップは、「経営陣が気候変動の問題にどれだけ関心を持っているか」です。環境問題に取り組まれている企業の多くは、経営陣の意識が非常に高い。また、欧米では脱炭素に取り組むことで、すでに金銭的なインセンティブを明確に受けられる状況にある。その動向を知っているからこそ、日本の中でも先駆けてやってきたいと思われている企業の方々も増えてきています。

もちろん、まだ当事者意識が低い経営陣の方もいらっしゃいますが、その数は徐々に減ってきている気がします。「脱炭素には共感するけど、何に取り組んだら良いかわからないから、どういう対策があるか教えてほしい」といったご相談は、弊社でも多くお声をいただいている状況です。

日本でも「取り組みたい」と考え、実際に相談にまで進んでいる企業はかなり増えているようだ。しかし、多くの人にとってはまだまだ「本当にそうなのか?」と思うくらい、小さな規模での動きなのではないだろうか。

私たちは「ブランドマーケティング」というブランディングとマーケティングを融合した考え方により企業やブランドを支援していますが、同じように海外の事例を引き合いに出し、戦略策定の支援を行っています。先進事例を知り、分析することは非常に重要ですよね。

一方で、脱炭素の活動は、国内ではまだまだ事例が少ないと思います。調べようと思っても、なかなか良い事例にたどり着けないのではないでしょうか。ぜひ今回は西和田さんから、特に参考になる事例をご紹介いただけませんか?

西和田そうですね、私たちが支援している二川工業製作所様の例をお伝えしたいと思います。保有している水上太陽光発電設備からの電力を、ブロックチェーンを活用したトラッキングシステムを用いてマッチングし、同じ兵庫県にある8箇所の工場に供給する、という取り組みをしています。地産地消を行いながら、従来の電気代よりもコストを下げてCO2の排出量の実質ゼロを実現。また、Appleの様に、自社のみならずサプライチェーン全体のCO2削減・働きかけにも取り組んでいます。

その結果、地元の神戸新聞様に本事例を大きく取り上げていただき、神戸市様が中小企業が再生可能エネルギー100%で事業活動に取り組むことを宣言する「再エネ100宣言 RE Action」のアンバサダーにも参加することになりました。製造業はCO2を排出しやすいため、どのような工夫を行っているか脱炭素の取り組みに関する講演や取材の機会も大きく増えたそうです。業界で先端を走って取り組むことで、企業に対するスポットライトの当たり方が変わるのではないでしょうか。

海外の事例として、Appleのサプライチェーンに対する取り組みが挙げられた。自社のみならず、サプライヤーに対しても再生エネルギー100%を求めることで、業界全体として気候変動の問題に取り組んでいる。

西和田Appleは、自社の工場やオフィスを再生可能エネルギー100%に切り替えるだけでなく、サプライヤーの選定も行っています。再生可能エネルギー100%に取り組まないのであれば、Appleのサプライヤーから外してしまう。価格などに加えて、気候変動の問題に本気で取り組んでいるかどうかが、一つの指標になっています。

2021年7月時点で世界のAppleのサプライヤーのうち、110社以上の企業が再生可能エネルギー100%で電気を調達する国際的なイニシアチブのRE100にコミットしている。さらに、Appleは2030年までにサプライチェーン全ての温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを掲げています。

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時代はDXからSXへ

気候変動問題に対する取り組みは、IT企業にとどまらない。小売やアパレル業界においても、サステナビリティを切り口とした店舗や製品が増えている。

西和田環境に配慮したスニーカーブランド「Allbirds」では、スニーカー1つを製造するに当たり排出したCO2フットプリントを公表しています。また、我々のお客様からも、実質CO2を排出しない形で工場でバッグを作り、気候変動を意識する消費者の方々へのブランディングを意識して、関係性を創っていきたいといったようなお声をいただく機会が徐々に増えています。その流れは今後、日本でも主流になるのではないでしょうか。

世界では、排出される温室効果ガスの指標を元に、投資や融資、炭素税を払う流れに変わり始めています。また石炭火力発電所の新設反対や投融資の引き上げ・撤退の流れもあります。もちろん、直近3~4年はデジタルトランスフォーメーションが主流になる。しかし、今後10年かけて「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」が新たなビジネスを立ち上げる上で重要なキーワードになると確信しています。

「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」とは、CO2削減につながる再生可能エネルギー導入や省エネに取り組むだけではなく、企業全体で持続可能性を重視した経営に転換することだ。日本では経済産業省が「グリーン成長戦略」を打ち出し、既存産業のビジネスモデルや戦略の見直しを図っている。

特に欧州では、コロナ禍で冷え込んだ経済回復と環境問題をセットで考える「グリーンリカバリー」が必須になっている。「日本ではまだあまり浸透していない考え方ですが、気候変動問題に取り組む上で必要なのではないでしょうか」と森氏の考えを述べた。

もはや企業は単にものを売ったり、サービスを提供したする時代ではなくなっていることが伺える。西和田氏は、「CO2削減や気候変動の問題に貢献していることが、製品の差別化につながる」と述べた。

西和田製品の価格や特徴が同じになると、コモディティ化につながります。そのため、営業手法やOperation Excellence、テクノロジー、デザインによって差別化を図ることが多いですが、今後は変わっていくはずです。

脱炭素やCO2削減にどれくらいアクション・貢献しているか?といった観点が、人が製品を購入する決め手となったり、入社する選定軸になる流れが加速するとみています。

とはいえ、日本全体の90%以上の企業はCO2をどれくらい排出しているか認識していない状況だ。今後CO2削減に本格的に取り組むためには、まずはテクノロジーを活用したシステムを利用し、見える化が不可欠であると西和田氏は語る。

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気候変動に対するリテラシーを向上し、本質的な取り組みを

気候変動問題に立ち向かうためには、まず一歩前に踏み出すことが欠かせない。経営陣のみならず、企業で働く一人ひとりの意識が重要だ。言葉にすれば当たり前に思えるが、事例を交えて語る西和田氏の言葉から、より一層その重要性が伝わってくる。

では、いちビジネスパーソンがそうした動きに関われるようになるためには何が必要なのだろうか。そう聞くと、西和田氏が指摘したのは、闇雲に取り組みを行うのではなく、本質を見極めるリテラシーを向上させること、だ。

西和田企業が本質的に気候変動に対して取り組んでいるかどうかは、開示情報、国際的なイニシアチブへの賛同・加盟状況、経営陣の取り組みを見ていればわかります。

まず一歩前に進むことは大事ですが、単に取り組めば良いわけではありません。例えば、Appleでは水力発電をあまり認めていません。水力発電の電気そのものはクリーンであるものの、発電所を建設する時に多くの森林を伐採する必要があるからです。

だから、本質的には何が良くて悪いのか、知見としての気候変動リテラシーを常にアップデートすること。常に最先端の科学的な知見を勉強しながら、経営の舵取りをしていくことが非常に重要です。

経営やビジネス、事業運営を考えていくときに、マクロの視点は確かに重要ですが、そもそも大切なことはまず、人として何ができるのか、ですよね。

リテラシーをアップデートしながら、環境問題の中ではほんの小さなことでも、実際に取り組めること、そこから少しずつでも迫っていくべきです。例えば、このような講演の機会があるだとか、ビジネスの機会創出のきっかけを創るだとか……。そうした動きからこそ、本当に大きなビジネスが生まれると思っています。

今後は、より本質的に気候変動に対するアクションをしているか、ESGの指数が図られるのではないかという。

気候変動問題に取り組む個人や企業が少しずつでも増えていけば、間違いなくこの社会も良い方向に向かっていく。そんな確信を持って、私たちも事業をしています。これからの変化が楽しみですよね。

最後に、敢えて西和田さんに問いかけてみたいのですが、気候変動に限らず、サステナブルな文脈でのビジネスが増えていくと、競争も激しくなって事業運営が難しくなるのでは、という声をお聞きすることもあります。この点、どのようにお考えですか?

西和田もちろん一部の企業とは競合になってしまうかもしれませんが、もっと大きな社会・地球全体の視点で考えれば、同じ志をもってアクションをしている同志です。上手く連携して、次の世代によりよい世界を残していくためにもアクションしていきます。

こちらの記事は2021年11月08日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

大畑 朋子

1999年、神奈川県出身。2020年11月よりinquireに所属し、編集アシスタント業務を担当。株式会社INFINITY AGENTSにて、SNSマーケティングを行う。関心はビジネス、キャリアなど。

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