連載FastGrow Conference for SUSTAINABILITY

サステナブルな消費者、実は全体の70%存在?
投資・企業・ユーザー視点で冷静に読み解くと、意外に大きい市場が見えてきた

登壇者
坂 祐太郎
  • ジャフコ グループ株式会社 パートナー 

2012年、新卒で株式会社ジャフコ入社。主な投資先はマネーフォワード、Chatwork、WACUL、GIFMAGAZINE、スマイループス、papelook等。ForbesJapan社主催『日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング』2017年第2位。

小田部 巧
  • 株式会社 博報堂 SDGsプロジェクトEARTH MALL プロデューサー 第3プラニング局 イノベーションプラニングディレクター 

1980年生まれ。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科卒。2004年博報堂入社。マーケティング局、クロスメディアビジネスセンター、エンゲージメントプロデュース部、ソーシャルメディアマーケティング部、2013年より HAKUHODO THE DAY を経て、現職。​国内クライアントを中心に、マーケティング戦略からエグゼキューションまでのトータルなコミュニケーションデザインを行う。電気自動車、ケータイキャリア、シャンプー、通信教育、アパレル、食品・飲料、精密機械など幅広い経験がある。​
個人的にNPO活動にも携わっており、業務でも企業や行政、市民などマルチステークホルダー型のプロジェクトも参画。
最近ではSDGsの17の目標の1つである「持続可能な生産と消費」をテーマにした「未来を変える買い物企画」を推進。​

中島 康介
  • 三井物産株式会社 エネルギーソリューション本部 バッテリーソリューション室長 

1975年生まれ。早稲田大学理工学部土木工学科卒業。1997年に三井物産に入社以来、金属部門でベースメタル・鉄鉱石などの資源に関わるほか、インドの鉄鉱石会社への出向、 リチウム・コバルトなどの二次電池材料ビジネスなども経験。社内横断組織である自動車総合戦略室では、さまざまな部門の担当とともに自動車業界全体を俯瞰しながら新規戦略の企画、事業化を推進。2010年以来一貫してEV関連事業に従事し、 同事業を通じたよりよい街づくりを探る。2020年4月より現職。

関連タグ

SDGsという言葉が広く浸透し、大企業を中心にSDGsに対する取り組みがウェブサイト上に公開されるようになった。消費者もまた昔のように大量に物を購入するのではなく、目の前にある製品がどのように生まれたものなのか、その過程に着目しはじめている。

2021年には、投資家・企業・ユーザーという3つの観点で、明らかな変化が見て取れるようになってきた。では、実際にどのような変化が置きているのか?その答えを知るべく、最前線でSDGsによる変化を感じている企業に聞いてみた。それが、2021年7月に開催したFastGrow Conference for Sustainabilityのセッション「SDGs、何が変わった?“時間軸”ではなく“意思決定軸”で理解せよ!」だ。

登壇したのは、ジャフコ グループビジネスディベロップメント部プリンシパルの坂祐太郎氏、博報堂SDGsプロジェクトEARTH MALLプロデューサーの小田部巧氏、三井物産エネルギーソリューション本部バッテリーソリューション室長の中島康介氏だ。モデレーターは、ジャフコ グループビジネスディベロップメント部プリンシパル西中孝幸氏が務めた。

なお今回はイベントの模様を、文字起こし形式でお届けする。

SECTION
/

SDGsは、全世界を巻き込んだ共通の合意事項

西中本セッションを始めるにあたり、ジャフコ グループによるSDGsの考え方を少しご説明できればと思います。

今回は「サステナビリティ」がテーマですが、SDGsの捉え方は非常に様々だと認識しています。その中で我々は、スライドに記載した「世の中全体がこの方向にいきたいという、価値観の言語化・指標」がSDGsの本質なのではないかと捉えています。

皆さんご存知のように、SDGsの前からCSR(Corporate Social Responsibility)やCSV(Creating Shared Value)など様々な社会的観点で事業が行われていました。その中でも、先進国・途上国を含めた一つの世界で定量的な数字を置き、言語化され、「全世界で合意された」ことが今までと違う点なのではないかと思います。

なぜ言語化が重要なのか。それは、言語化されることで人々の考え方や価値観が変わり、思考や行動、意思決定軸が変わっていきます。ここが一つの重要なポイントだと認識しています。

例えば、ユーザーの購買行動や投資家による投資の判断軸、企業の事業展開、国のルールや法律などが変わります。こうのように一つの価値観が変わることで、いろんな観点で変化していくと考えています。

こちらがCSV、SDGs、CSRなどの考え方を整理したスライドですが、課題意識が起点になり、より大きな共通認識が書かれています。今回のSDGsは、まさに「全世界を巻き込んだ合意事項」です。それらがビジネスや様々な業界に認知され、業界慣習になります。当然、社会的責任を果たす「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」の中で、一つのルールに基づいた行動が生まれます。さらに、そういった大きな変化が法律に変わっていきます。

西中最初は小さな課題意識ですが、それが様々に影響し、強制力を生む法律まで変化していきます。まさにSDGsもこういった全体の中で変化が生まれています。

社会と関わる投資家・ユーザー・企業の観点でSDGsを捉えていくために、この3点の切り口からパネラーにお話しいただきたいと思います。なかでも、ステークホルダーの観点からディスカッションしていきます。

ジャフコ グループからは「SDGs文脈で投資の判断をどう見ているのか」を。

博報堂さんは「ユーザーを捉えていく」というのがキーワードです。世の中の価値観が変わることで、企業によるユーザーセグメントの捉え方も変わっていきます。また、仕事に影響していくるだけでなく、コロナによる影響もポイントになるかもしれません。そのあたりもお話しいただきたいです。

三井物産さんからは、すでに取り組んでいらっしゃるビジネスの中で、どのようにSDGsを捉え組み込んでいるのか、をビジネスの視点で語っていただきます。

SECTION
/

投資家の着眼点は、“社会的価値”と“経済的価値”の重なり

西中50分のセッションに対して、てんこ盛りの内容ですが、意味のあるディスカッションにしていきたいと思います。まずはジャフコ グループの投資パートですね。よろしくお願いします。

短い時間ですが、簡潔に意味のある話をできればと思います。

簡単に自己紹介します。10年前にジャフコ グループに入社し、IT系を中心としたベンチャー投資を行っています。よろしくお願いします。

さっそく本題に入りたいと思います。私もよくベンチャー投資の仕事をしている中で「SDGsはどのよう影響があるんですか?」「投資活動の判断軸は変わったんですか?」とご質問をいただきます。実際、投資活動の判断軸は変わってきていると言えます。SDGsによって新しいビジネスが生まれる可能性があると日々思っていますので、今日はその前提でお話させていただきます。

そもそもSDGsから新しいビジネスは生まれるのか疑問に思われている方も多いかもしれません。まずはそれ以前の前提として、市場や事業が形成される要因には2つある、というジャフコ グループの考えを紹介します。

1つは、「技術の発展」です。今まで技術的に困難だった様々な課題が、技術の発展によって解決できるようになりました。

もう1つは、「新たなニーズの誕生」です。ライフスタイルや価値観が大きく変わり、ニーズ自体が新しく生まれています。ビジネスは基本的にニーズにもとづいた課題解決です。今まで世の中に存在していた課題が新しい技術の開発によって解決できることが多いです。

ここから、「技術の発展」と「ニーズの誕生=価値観の変化」に整理していきます。

インターネットが普及し、GoogleやFacebook、Amazonなど、20~30年前には存在しなかった企業が現在、世界でトップになっています。さらに、ここ10年でスマートフォンの普及に伴い、airbnb、Uber、メルカリ、Instagramなどスマホ・ファーストな企業が登場しています。技術の進化によってプレイヤーが大きく入れ替わることが多くなりましたが、新たなニーズを満たしていることだと思います。

また冒頭で西中からも話しましたが、価値観の変化も大きく起こります。技術の変化から価値観が変わってきたと言いましたが、価値観やライフスタイルの変化によって新たなニーズが生まれ、そのニーズを満たすために技術が発展することもあるのではないかと思っています。

ただし、SDGsでよく勘違いされるのが、「VCがNPOなど社会貢献性の高い事業に投資するようになるのか?」という観点です。実はそうではないことを、具体例を交えてお話します。

私達が重視している指標は、「経済的価値」「社会的価値」の重なり合う共通価値です。この重なりが大きければ大きいほど永続的な成長ができます。

VCは、基本的に成長企業に投資を行います。社会的価値だけが大きい会社に投資するのではなく、経済的価値の大きさも大事です。だからといって、経済的価値だけを追求しているのではなく、この重なりを見て永続的な会社になるか判断しています。

ユーザーによる購買行動の変化を念頭に置いた上で投資した事例をお話します。

先程、経済的価値と社会的価値というお話をしましたが、これまでユーザーが購買や投資などの意思決定を行う際には、経済的なメリットが多く占めていました。しかし、今後は社会的価値に重きをおく割合が増えてくるのではないかと思います。抽象度が高くわかりにくいと思うので、少し具体的なお話をします。

例えば、カンファレンスに登壇しているビビッドガーデンさんの産直ECサービス『食べチョク』を使うと、生産者さんから新鮮な食品を直接買うことができます。これまでユーザーの選択肢に「スーパーで売っている食品」「産地の食品」があったとき、安くて美味しければいいという価値観でスーパーで購入することが大事でした。しかし、「今後は10回に1回のペースで産地の食品を買ってみよう」と、値段は少し高くても生産者への貢献を考えて産地の食品を選ぶことも多くなるのではないか。我々はそのように考えています。

他の事例で言うと、カーシェアリング電気自動車『REXEV』があります。ガソリン車と電気自動車のカーシェアが同じ値段だった場合、電気自動車のカーシェアを買おうと思ってくれるのではないか。もちろん、これだけで投資の意思決定を行ったわけではありませんが、世の中全体の10~20%くらいの方が行動し始めると、全体に訴求され、さらに多くのユーザーの意思決定に変化が起こるのではないかと考えています。

その他、投資家の判断軸の変化ですね。上場企業の株式投資にあたっては、すでにESG投資がみられるようになっています。環境・社会・企業統治の観点を考慮し、企業に投資をしていく。世界全体における運用資産の約3割がESG投資で運用されています。

先程、経済的価値と社会的価値の重なりが大きいほど永続的な成長していくことをお話ししました。私達がどのように活用しているのか、その例をご紹介します。

宇宙ゴミを除去するアストロスケールという企業に投資をしています。壮大なチャレンジですが、この会社に多くのお金が集まるのではないかと思い、創業後すぐに投資を行いました。これまでに合計218億円を調達しており、スタートアップでは最大級の規模になっています。経済的価値だけでなく社会的価値にも重きをおき、共通価値が大事だと考える投資家が全体として増えていることを見越して、私達は投資をしました。その後、共感してくださった方がたくさん現れました。

西中ちなみに、アストロスケールは投資した段階で、売上のようなわかりやすい経済的価値はあったのですか?

実は、最初はそれがなかったんです。宇宙ゴミを除去する課題は人類全体の問題でありますが、この会社ができた時には「誰がお金を払い、この会社の売り上げが産まれるビジネスなのか」というのが決まっていませんでした。私達が投資をしたあとに、様々なルールが決まり、市場とビジネスが産まれたわけです。

つまり、あとから市場が追いついてきましたが、いずれ経済的価値が出るだろうと、思い切って投資をしたわけです。

西中人類のために投資をしただけではないんですね。

そうですね。人類のためにやることで、経済的価値も生まれると見通しが立てば、投資をします。

最後に、国の変化として障碍者雇用支援サービスを展開するJSHという企業を紹介します。障碍者雇用の機会創出として2016年に、国が法改正し、障碍者雇用が義務化されました。これをきっかけに、「各企業が障碍者雇用に対して真剣に取り組まなければいけない」という状況になり、ニーズが産まれた事例になります。

内容をまとめると、私達は将来的に経済的価値と社会的価値の重なりが大きい会社に投資したいと考えているということです。しかし、アストロスケールのように、まだまだ価値自体が認知されていない企業が多い。そうした企業に対して投資をして、一緒に世の中に知れ渡る状態を作ることが私達の役割の一つかなと思っています。

様々な投資先をみると、SDGsを謳っている企業はまだそれほど多くないと思います。SDGsは一過性のバズワードではなく、新しいビジネスに欠かせない動きです。VCもSDGsというワードにわざわざ注目しているというより、もともと注目していたのではないかと思います。VCの投資先を見ると、将来の動きが見えるかもしれません。

今日ご参加の方はSDGsに興味のある方が多いと思います。そういった、企業に興味を持って投資するなどのきっかけになったら非常に嬉しいです。

少し長くなりましたが、私からは以上です。ご清聴ありがとうございました。

西中坂さん、ありがとうございました。投資家の目線としては、社会的価値と経済的価値の両方をみながら投資しているということですね。

SECTION
/

Z世代を巻き込み、商品の“購買”から社会活動の“参加”に

西中まさに経済的価値はユーザーと非常に紐付いてくるので、ユーザーをどう捉えていくかを含め、博報堂の小田部さんにお話伺えればと思います。小田部さん、よろしくお願いします。

小田部小田部です。よろしくお願いします。私のほうから簡単に自己紹介の上、ユーザーの話をしていければと思います。

博報堂でブランドやマーケティングの仕事を長年取り組んでいます。現在、博報堂SDGsプロジェクトにも関わっていて、その仕事をする機会が特に増えています。

博報堂SDGsプロジェクトについて簡単に説明します。先程のお話で、経済的価値と社会的価値の融合があったと思うのですが、僕らも同じことを考えています。ESGのEとSにあたる、利益向上を目指す経済的インパクトと、社会的インパクトの同時達成を目指しています。また、持続可能な経済による幸福な社会の実現をミッションにおいています。

インパクトというと、どうしても強いインパクトなどと捉えられがちですが、大きさに関わらず「影響」という意味で用いています。先程、価値観が変わっているというお話がありましたが、それが大事な理由は今までのポジショニング(=差別化戦略)では限界がきているからです。

インターネットによって競争が激しくなり、似たようなサービスが出ると「明らかな違い」が必要になります。そこで最近ではパーパスとも呼ばれる、実現したい社会や未来像にいかに共感が集まるかがマーケティング上で重要になります。私達はこれを「ソーシャルポジショニング」と呼んでいます。

博報堂SDGsプロジェクトでは、企業に対してSDGsにどう向き合うべきか、コンサルティングプログラムやデータマーケティングなどを行っています。また、最近はカーボンニュートラルが話題になっているので、その領域の支援を始めたり、サステナブル領域の人材育成なども行っています。

今日は、博報堂がハブになる企業・生活者参加型のアクション『EARTH MALL』を中心にご紹介します。サステナビリティやSDGsと言ってしまうと、どうしても距離を感じることがあると思うので、生活者の誰もがやっている活動をSDGs達成の行動に変えられないか。そう考えたときに「みんなが行っている買い物をすればするほど、SDGsやサステナビリティが達成されたら素敵だよね」と考えました。

小田部バリューチェーンで考えた時に、買い物は川下にあります。川上から順に、調達→加工→流通という流れで考えてきたのがこれまでの事業者です。しかし、この矢印の向きを反対にすべきだと考えるようになっています。買い物をする生活者一人ひとりの意思を変えることが大事だからです。生活者が意思を持って買い物をすることで、、作る側が原材料をどこで調達し、どこで作り、どう売るのか、が変わっていくからです。。それを踏まえて「あなたが行っている買い物は、未来を変える活動なんですよ」と伝えることで、買い物に新しい「ワクワク」が加わると考えます。

そこで、私達は「未来を変える買い物」というコンセプトを掲げ、EARTH MALLという名前で様々な企業と生活者をつなぐプラットフォームを展開しています。主にサステナブルな観点でのマーケティング支援を行っています。サステナブルに興味ある人達を束ねたサステナブル共創コミュニティと、生活者のサステナブルDNPを活用し、メディアやEC、リテールで販売したり、生活者に対してどう届けていくのかを考えます。

また、Z世代と呼ばれるこれからを担う人たちもサステナビリティと非常に相性が良いので、つながりをどうつくるのか重要です。

EARTH MALLを通して、「SDGsという言葉をよく聞くけど、どうしたらいいのか?」という企業・生活者の悩みを上手くつないでいきたいと思っています。

私達は環境・社会の観点でSDGsに貢献する商品を認めていこうと、未来を変える買い物について3つの定義をしています。「人権・労働問題の解決や生活の質向上等につながる消費」「地球環境の保全と資源の持続可能な利用につながる消費」「地域社会の持続的発展につながる消費」。これらに貢献することが未来を変える買い物につながると思い、整理しています。

このような取り組みを行っていると、「環境・社会に良いだけでは買わないでしょ。マーケットはあるの?」とよく言われます。

私達はある調査を行い、どのような価値観を持って日常で買い物をしているのか、8つのパターンに分けました。実は、スライドの右側3つはあまりサステナブルではないのですが、左側5つの切り口を捉えれば、サステナブルにつながります。こちらをご紹介したいと思います。

小田部1つ目の社会貢献ショッパーは、社会や環境に良いものを買ってくれる人たちです。この人たちは、勉強をよくしており、情報感度が高く、お金もある程度持っています。このような人たちを捉えられると事業が伸びていきそうに思えますが、やはりボリュームとしてはそんなに大きくありません。

その周辺を見ると、安心安全ショッパーがいます。イラストを見れば分かる通り、商品の裏側をチェックする人がいますよね。この人たちは安心安全を重視しているので、原材料や産地を重視しています。第三者認証機関が定めている持続可能な作り方をしている認証ラベルを使うことによりアピールできるのではないか、トレーサビリティを表示することによって買ってくれるのではないかという観点があります。

3つ目は、心地よい暮らしショッパーです。こちらは家族を考え、長く無駄なく使えるシンプルな物を買いたいと考えています。かつ節約志向です。このような人たちには、長く使えるものや子供のために肌に優しいオーガニックコットンなど、心地よい暮らしを提案していく商品が良いかもしれません。

4つ目は、トレンド重視ショッパーです。この人たちは、新しいものやイノベーションが好きだったり、フェアトレード、オーガニックシェアなどに関心が高い。スライドの画像のように、右手に持っているナチュラルワインや廃プラで作られた靴を履いていたりと、話題になっているものから入っていきます。このクラスターは、一定のボリュームがあるので、市場を捉えていく上でも重要です。

5つ目は、コスパ追求ショッパーです。20代を中心とした若い人たちが多いです。ただし、この人たちはお金に余裕があるわけではないので、コスパに厳しい。だから、交換や詰替え、修理、リユースなど、できるだけ長く使えるもの、結果的にコスパの高い商品やアクションを勧めていくことができるかもしれません。

このように考えていくと、縦軸の価格高関与と横軸のエシカル高関与で表したときに、社会貢献ショッパー、安心安全ショッパー、ていねい大切ショッパー、トレンド重視ショッパー、コスパ追求ショッパーを合わせると約60-70%の市場があります。こういった観点から開拓していくと、サステナブルなマーケットはもっと広がっていくのではないかと思います。

もう一つのヒントとして、Z世代のサステナビリティ意識もご紹介したいと思います。こちらもターゲットを意識する上で重要です。いわゆる10代~20代前半のZ世代は、SDGsやサステナビリティを学校で学んでいます。授業の教材にも取り入れられているので、当たり前のように意識をもっています。私達はこれを「サスネイティブ」と呼んでいます。企業で働くときも社会課題に取り組んでいなければ嫌だと思ってしまう。こういった意識を捉える必要があると思います。

さらに、他にもいくつかデータがあります。Z世代は、まだ若いこともあり、経済力が高くないため購買行動があまり見えてこないのですが、社会活動への参加や応援意欲は高いです。困っている生産者や飲食店を支えるために応援消費に参加する意識は全体と同じくらいです。真ん中の日本を活性化する意識も全体より高い。そういった社会活動、特に身近な社会活動に参加・応援意欲があるので、単に物を買ってもらうのではなくファンになってもらう。彼らの行動を応援していくことが、開拓のポイントになります。

小田部もう一点、説明すると、SDGsには17個の目標がありますが、彼らはそのすべてに強く共感するわけではなく、特にダイバーシティやジェンダーなどへの関心が高いです。このあたりも他の世代との違いになっています。。

そして、「社会を良くすることに対しての当事者意識が高い」です。日本や世界をより良くしていくのは自分たちだ、という意識が他の世代よりも高いんです。イノベーションによって社会問題や環境問題の解決は可能だという観点については、先程の技術イノベーションが価値観を変えていくといったお話があるように、同時並行的に起こるのかなと思っています。こういった感覚を持つ人が増えています。

一方で、まだ彼らは未熟といったところもあるので、社会問題や環境問題に対して何をすればいいかわからないと同時に思っています。そういった意味では、気持ちが先行しているところがありますが、上手くガイドを引いたり、ソリューション提供したり、課題解決で提供できるものあれば機会として捉えられるのではないかと思います。

小田部最後に、EARTH MALLでは「未来を変える買い物学校」という教育プロダクトを開発しています。とある中学校で、「社会起業家になってみる」をテーマに授業を行ったのですが、すごく好評でした。非常に関心が高く、アイデアもたくさん出てきて。このように、単に彼らにものを買ってもらうだけでなく、何かをしたいと思える今後の意識を高め、「参加」を引き出すこともブランドアクションの鍵になってくるのではないかと思います。

駆け足でしたが、ご紹介させていただきました。ありがとうございました。

西中小田部さん、ありがとうございました。先程、Z世代のSDGsを考える上で長期視点が出てきました。10年後にはZ世代の購買が主要になってくる中で、教えていただいたセグメントがより大きく変わっていくように感覚的に思われますか?

小田部そうなるでしょうね。

西中これは実際に博報堂が企業にマーケティングしていくなかで、小田部さん自身のリソースも変化していますか?

小田部常に変化しているようにサイクルが短いので、それを捉えながら行っています。

SECTION
/

SDGsにより「言葉化」された「大義」が事業をつくる

西中次はインフラなどの事業を作っている方の目線から、今のSDGsの流れや傾向をどう捉えているのか。体験を踏まえて、三井物産の視点からご紹介いただければと思います。中島さん、プレゼンよろしくお願いします。

中島三井物産の中島です。本日はどうぞ宜しくお願いします。

このセッションのパネリストのメンバーから察するに、私の役回りは「比較的トラディショナルな会社において、SDGsがどのように案件形成に結びついているのか」について説明させていただくことと理解しました。

私はこれまで新規事業の開拓に携わることが多かったので、それら経験を踏まえた自分なりの整理についてご説明させていただきます。

簡単に自己紹介させていただきますと、私はいま三井物産のエネルギーソリューション本部に所属しています。本部のミッションは「脱炭素化に取り組む上で生じる様々な課題を、産業的に解決すること」です。去年4月にできた新しい本部なのですが、モビリティ、電力、エネルギーの部隊から一部チームが合流するカタチで組織されました。私自身はモビリティから来たのですが、「モビリティの電動化」というトレンドを通して、モビリティ産業と電力産業とを結びつけることをイメージしながら、新規事業の形成に取り組んでいます。

新規事業の開拓に取り組む上で意識していることは、「変化」をビジネスチャンスとして捉えることです。良くも悪くも商社の特徴として「カタにはまっていない」という側面があり、テーマは比較的自由に選ぶことができるのですが、テーマを選ぶ上で大事なことは「変化」ではないかと考えています。

自分の周辺ですと、例えば自動車産業では、「変化」を示すキーワードとしてCASE(Connected、Autonomous、Shared、Electric)というコトバが有名です。同様に電力産業でも、4D(Decarbonization、Decentralization、Deregulation、Digitalization)というキーワードを目にします。こういった「変化」のキーワードを意識しながら、将来どういったことが起こるのか想像しながらテーマを考えます。

また、テーマ設定において非常に重要なのが「大義」ではないかと考えています。これは昔から意識していたわけではないのですが、実体験を通して徐々に「大義」を持つことの重要性を感じるようになりました。その背景として、まず「新規事業はそう簡単には進まない」ということが挙げられます。案件を進める中で様々な困難に直面した際、自分を奮い立たせ、最後の力を振り絞るときに、「これは世のため、人のためになっているんだ」という「大義」が心の支えになります。そういった意味でも、「自分は何のためにやっているのか」を意識することは非常に大切です。

中島また、「迷ったとき、立ち返るもの」という点でも重要です。プロジェクトを進めていると、色々な場面で「利益相反」のような状況が生じますが、そうすると時々何をやりたかったのかわからなくなってしまうことがあります。そんなとき「自分たちはこれを目指していたんだ」と立ち返る場所が必要です。そんなときにも「大義」はとても重要になります。

昔、自動車メーカーのチーフエンジニアの方とお話しした際、「車を開発するときは、こういう車をつくるぞ」という共通の目標を持つことが大事だとお話されていました。開発を進めていくと、必ず様々な部署の間でトレードオフが生まれますが、そんなときにも最後は「自分たちがつくりたかったのはこんな車ではなかったか」と立ち返ることで、一致団結できる、というお話を聞いて、やはり「大義」が大事だと考えました。

そして、その大義を「言語化」するヒントとして、SDGsはとてもわかりやすい存在と思っています。大義の重要性自体は意識していたので、SDGsが生まれたことによって何かが大きく変わったわけではないのですが、SDGsとして、わかりやすい言葉で表現されたことによって、「大義」に対する周囲からの共感が得られやすくなったのではないかと思います。

これまで「大義」が大事だとお伝えしてきましたが、それだけあれば良いわけではありません。やはり「利益」を出さなければサステナブルではありません。「大義」と「利益」は自転車の両輪のようなもので、どちらか片方だけあれば良いというものではありません。「大義のない利益」はサステナブルではない一方で、「利益のない大義」もサステナブルではありません。したがい、この2つを両立させるために、ビジネスとして「産業的に解決すること」が求められます。

もしかすると、会社によっては、さらに「規模感を出せ」といった注文がつくこともあるかもしれません。

そして、「産業的に解決する」ために自分が意識していることとして、「優先順位を決めること」が重要ではないかと考えています。どこから取り掛かるのが良いか、戦い方や場所を考えながら、できるだけ早く成果に結びつく方法を考えます。その上で、そこからさらに、何か工夫できる余地がないか、ということも考えてみます。

少し具体的にお話ししたほうが良いかもしれませんので、自分の取り組みを例にお話しします。

例えば、新エネルギー車の中では、燃料電池車よりも電気自動車(EV)の方が普及が早いとみて、EVを優先することにしました。次にどのようなタイプの車を選ぶか、という選択の中で、乗用車よりも商用車を優先することにしました。その理由は、EVは「初期費用が高く、ランニングコストが安い」という特徴がありますので、より稼働率の高い車の方がランニングコストのメリットを得やすいと考えたからです。

さらに、商用車の中でも路線バスに優先順位をおきました。これは、EVのデメリットの一つとして、「航続距離に限度がある」という点が挙げられますが、路線バスの場合、1日に走る距離、ルートが計算しやすく、また規則的な動き方をするため、充電インフラの設置場所も限定することができます。これらはランダムな動き方をする車と比べると、ずっと取り組みやすいと言えます。

また、地域に関しては、環境意識の高い国、地域の方がEV導入が進みやすいので、欧州を優先しています。EV導入初期段階では、規制や補助金による追い風も重要になりますが、例えば、ロンドンでは、市内を走る一階建てバスの新規入札は全て新エネルギー車とすることが義務づけられています。このような規制は日本にはまだ導入されていません。マーケットとしては、このような規制がある国、地域の方が、EV導入は早く進むと考えています。

さらに工夫という観点では、例えば「初期費用が高くランニングコストが安い」という特徴を考えると、リース契約にした方が、ランニングコストが安いというメリットを、最初から可視化するのに有効です。また車載用として使い切った電池を他の用途にリユースしたり、リサイクル原料にすることで、価値を最大化する方法を考えたり、さらにアセットの共有、シェアリングという観点では、例えばEVに積まれた電池を電力産業向けに使えないかと考えたり、或いは電池交換式にすることで、同じ電池を車載用にも、定置型蓄電池にも使う、といったことが考えられるのではないかと思っています。

こちらが最後のスライドになりますが、我々が「環境にやさしい街づくり」を目指す取り組みの一例として、イギリスの路線バスのEV化に取り組んでいます。こちらの写真のEVバスは我々が投資している『CaetanoBus』がつくったものです。また、このバスに使われている電池システムは、こちらも我々が投資している『Forsee Power』がつくったものです。また、このEVバスを運行している『Abellio』は、我々がイギリスで運営している鉄道フランチャイズ事業のパートナーになります。

こうした我々の投資先や、事業パートナーとの関係を活かし、「環境にやさしい街づくり」を実現すべく、取り組んでいます。現在はまだ取り組めていませんが、ここからさらに、電池のリース、リユース、リサイクルといった取り組みにも、展開していきたいと思っています。

中島なお、ここでは「街」の電動化や脱炭素化についてお話ししましたが、脱炭素化を必要としている「場所」は、「街」ばかりではありません。例えば「鉱山」でも同様に、鉱山会社が脱炭素化に積極的になりはじめています。その場合、鉱山機械のEV化をテーマとして、ビジネスチャンスを描いていきたいと考えています。

このように、様々な「場所」において、電動化、脱炭素化を促進し、「環境にやさしい街づくり」を実現すべく、取り組んでいます。以上です。

西中中島さん、ありがとうございます。一点だけお聞きしたいのですが、事業推進していくなかで大義が大事で、それをSDGsが言語化してくれているとおっしゃっていました。実際にSDGsが登場する大義を使うと事業が進みやすかったり、仲間づくりがしやすかったり、肌感覚で違いを感じていらっしゃいますか?

中島大きく感じているわけではありませんが、多くの方がSDGsという言葉を意識されるようになったことで、我々の取り組みを表現しやすくなったとは思います。

また先程、「共感が得られやすくなった」というお話をしましたが、わかりやすくなったことで、投資しようと思ったり、会社として取り組まないといけないと思うようになった方が増えたように思います。そういう意味では、事業機会がひろがっていたり、或いは仲間を見つけやすくなったといえると思います。

西中SDGsのために事業を行うのではなく、すでに行っている事業の仲間づくりや事業を推進していくために、SDGsの言語を活用してく感覚でよろしいのでしょうか?

中島「悪銭身につかず」という言葉がある通り、「正しくビジネスをするためには、正しい目標があるべき」ということなのではないかと思います。その正しい目標は何か、ということを考える際、「SDGsのどの言葉に一致しているか」を考えてみるというのも、一案と思います。

西中ありがとうございます。

SECTION
/

SDGsの取り組みを可視化し、2030年に向けて誠実な対応を

西中お時間が来てしまいましたので、皆様から一言コメントを頂いて終わりたいと思います。

このカンファレンスでは「ビジネスチャンスをどう捉えるか?」が一つのテーマなので、SDGsを踏まえたビジネスの機会や変化を捉える上で大事にしている視点や、SDGs以外でもお伺いできればと思います。

小田部喋りだすと終わらないのですが、SDGsがわからなくて尻込みしている人は、行動しているように見せかけるSDGsウォッシュとみなされて、叩かれることを恐れていることが多いように感じます。

SDGsウォッシュを意識しすぎて何も言わない・動かないよりも、現時点で対応できていること・そうでないことをクリアにし、2030年に向けて誠実に対応していく。それが信頼を生み、ファンを作ることにつながると思います。SDGsは、今までだとつながりがなかった、様々な人と事業に取り組むチャンスに変えられるので、恐れずフラットにいろいろと取り組んでいくことが良いと思います。

中島やはり仕事に取り組むにあたって、自分の担当業務を超えて、生涯を通して大事にするものが必要だと思います。SDGsを利用して仕事をするのではなく、自分がSDGsで一番共感するものは何か考えて仕事に取り組むことが大事なのではないかと思います。

一見して「SDGsは綺麗事だ」と私自身も思いました。しかし、綺麗事から、世界はたしかに変わっていきます。今日のお話を聞いて、ユーザーの活動と企業の意思決定行動は、やはり変わっているのだと非常に実感しています。価値観の変遷が起こると、新しいビジネスが起こる土壌も整い、様々なプレイヤーがいて、仲間集めも非常にしやすくなります。新しい社会問題を解決するビジネスが20年以内にたくさん生まれるのではないかと期待を改めて感じました。

今日ここに来ているみなさんもこういったところに興味を持たれていると思うので、一緒に社会課題の解決に取り組んでいけたらこのセッションを開催した甲斐があります。私自身、世の中が変わってることを実感するいい機会でした。本当にありがとうございます。

西中きれいな締めのコメントありがとうございます。大きなテーマなので、50分では語りきれないところはあると司会をしながら私自身も感じました。またどこかで延長戦を行えたら嬉しいです。

こちらの記事は2021年11月25日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

記事を共有する
記事をいいねする

おすすめの関連記事

会員登録/ログインすると
以下の機能を利用することが可能です。

新規会員登録/ログイン