「IPOは目指さなくていい」──ジャフコ出身キャピタリストに訊く、次代のシード起業家こそ押さえたい事業&ファイナンスの鉄則

登壇者
赤浦 徹
  • インキュベイトファンド株式会社 代表パートナー 

ジャフコにて8年半投資部門に在籍し前線での投資育成業務に従事。1999年にベンチャーキャピタル事業を独立開業。以来一貫して創業期に特化した投資育成事業を行う。2013年7月より一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会理事。2015年7月より常務理事、2017年7月より副会長、2019年7月より会長、2023年7月より特別顧問就任。

金子 剛士

学生時代よりSkyland Venturesでのインターンを経験し、新卒でジャフコ グループ株式会社に入社。その後、シード特化の独立系VCであるEast Venturesにてパートナーを務める。East Venturesでは、業種、業態問わず若手起業家の創業したITスタートアップを中心に年間数十社のシード新規投資を実行。

藤井 淳史
  • ジャフコ グループ株式会社 パートナー 

2003年JAFCO入社後、現在までベンチャー投資に従事。IT領域を中心に製造・サービス業まで幅広い分野で投資を担当。2018年3月よりパートナー。Forbes Japanが選ぶ日本で最も影響力のあるベンチャー投資家 BEST10 2021年 1位。

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「日本から世界を牽引するスタートアップを生み出す」──。

2024年5月、VC・ジャフコ主催によるシード起業家向けスタートアップカンファレンス『JAFCO SEED 2024』が開催された。高い志を持つシード起業家がさまざまな出会いを通じ、起業のアイデアや事業を前進させるきっかけを掴もうと集結。

この記事は本イベントにおいてトップキャピタリスト3名が集ったトークセッション「トップキャピタリスト注目のシード領域」の内容をまとめたものだ。

登壇者はジャフコの宮林氏をモデレーターとし、インキュベイトファンド代表パートナー・赤浦 徹氏、East Venturesパートナー・金子 剛士氏、ジャフコグループ株式会社パートナー・藤井 淳史氏。いずれも“ジャフコ出身の投資家”というユニークなラインナップ。

これからシード起業家としてチャレンジを考えている者にとって、そのパートナーとしてのジャフコとはどういったVCなのかを垣間見るよい機会となるはずだ。

  • TEXT BY MAAYA OCHIAI
  • EDIT BY TAKUYA OHAMA
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世界に届くサービスの秘訣は、「セルフサーブ型」

──(ジャフコ宮林氏、以下同じ)まずはじめに、3人がそれぞれ注目しているシード領域、スタートアップ、テクノロジーなどについて教えてください。

赤浦いわゆるディープテック領域に注目しています。特に宇宙系が多く、その他には半導体関連、電池などいずれも「ハードウェア」を主としたものですね。

私は99年に独立してから長らくIT企業に投資してきましたが、いずれの企業も時価総額が1兆円には至っていません。一方、ハードウェアに取り組んでいるイーロン・マスクがテスラで時価総額100兆円まで達している。スペースXはスターリンクを切り離して上場させたら、軽く30兆円くらいのIPOプライスになるんじゃないかと勝手に予測を立てています。

このようにハードウェアの世界では時価総額30兆円〜100兆円の企業がバンバン出てくるので、世界を舞台で戦うにはかつての日本のように「ハードウェア」が鍵になると思っています。

──East Venturesの金子さんからも、注目するシード領域、テクノロジー、スタートアップについて伺えますか?

金子これは難しい問題で、答えとしてはありません。

これまでの経験上、創業直後のスタートアップに投資すると6〜7割の確率でピボットしています。創業期から思い描いていた事業を3〜5年たっても継続しているというのは極めて稀だということですね。

次のピボット先について起業家と共にディスカッションすることはありますが、決めるのは起業家自身です。また、VC側が投資するテーマやジャンルを絞り過ぎてしまうとホットな市場や起業家を逃してしまうとも感じています。

例えば、この5年で日本のスタートアップでもっとも成果を挙げたのはVtuberの領域ではないでしょうか。しかしこの領域が“芽”の時から注目し続け、これだけの規模になることを想定できた人はほとんどいないはず。ですので、ある程度自分の思い描いている「投資したい起業家」の人格や能力さえ当てはまっていれば、あまり事業モデルにはこだわらなくてよいのでは、とすら思っています。

──なるほど。金子さんは昔から注目領域の起業家を探しに行くよりは、理想の起業家像にフォーカスしたシード投資スタイルを貫いているのですか?

金子はい。事業ポテンシャルとしては難しいと思っても、起業家の方が魅力的だと感じ出資させていただくことも多々あります。

──ユニークなアプローチで面白いですね。藤井さんはいかがでしょうか。

藤井最近に限った話ではありませんが、「海を渡れるサービス・プロダクト」には注目しています。

具体的な課題意識は赤浦さんのお話に近いですが、日本の上場スタートアップで時価総額が国内上位に食い込む企業はなかなか出てきていません。売上100億円を超えるラインで区切ってみても、投資先の中でもそこまで多くはありません。この1つの理由に、事業範囲が国内市場に閉じていることがあると思っています。

では海を渡れるサービスとは何か?これは過去いろいろなVCに伺ってみたのですが、答えが出てきません。つまり、それほど成功した事例がないということです。

そこでこれまでの歴史の中で日本が海外で戦えたものを考えてみると、「車」がありますよね。「アニメ」や「ゲーム」もあります。「カップラーメン」もそうかもしれない。そう考えていくと、これらは全体的に「パッケージ化された商品」といいますか、今風に言うと「セルフサーブ型」ということかもしれません。

こうした流れと今の時代性をふまえると、イメージとしては地上戦で戦うのではなく、インターネットを通じて世界に打って出ていけるような“手離れの良い”プロダクトに注目していますね。

──日本の強みを活かして世界に打ち出していけるようなサービスという観点ですね。

藤井はい。海外現地に行って組織をつくり大きな資金を投じて、と地上戦を展開してもどうしても世界の競合企業の方が資金調達力もありますし手強い。そう考えると地上戦ではなく、「日本にいながら」世界に打って出る方が筋がいいのではと思います。

──赤浦さんと藤井さんはいわゆるマーケットアプローチで考えているのですね。East Venturesの中ではそうしたディスカッションはないということですが、金子さんはお二人の意見を聞いてみてどう感じますか?

金子藤井さんがおっしゃった「セルフサーブ型の日本のプロダクトは海外で成功している」という事実にとても腹落ちしたので、明日から真似させていただこうと思いました(笑)。

──(笑)反対に、金子さんのような起業家に託すスタイルは、赤浦さんや藤井さんからはどのように見えますか?

赤浦とても素晴らしいと思うので、明日から真似しようと思います(笑)。

藤井(笑)。起業家の「人」の面と「事業」の面への投資を考えた時に、「人」の面は半分を占める重要な要素です。ですので金子さんのおっしゃることは原点だと思いますね。

──「人に懸ける」という前提は共通していて、加えて「どの領域で」という視点が今こそ問われているのかもしれませんね。

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実績のないシード期こそ起業家の「突出した個性」を打ち出せ

──続いて、皆さんは投資検討時にシード起業家と向き合う際、どんな点をもっとも重視しているのでしょうか。

藤井実績も含めての「事業」、経営者と経営陣も含めた「人」。そしてあとは事業とリンクしますが、「市場」のサイズを考えますね。

ステージがレイターに寄れば寄るほど事業の実績部分を見る割合が多くなりますが、シードでは実績がほとんどありませんので、そうなった時には「人」です。経営者だけでなく、どういう仲間を集めてきたのかという観点。そして市場ですね。大きな市場にチャレンジできる仮説があるのかどうかも重視しています。

──ということは、1人で起業するパターンより、シードとはいえ共同創業者やベースとなるチームがあることが重要だということでしょうか。

藤井チームになっていれば“なおよい”というイメージです。

もちろん1人でストイックに事業プランを磨き上げているパターンもあります。ただ、市場を攻略していく上では組織として必要な機能、能力を持ち合わせているかが大事です。となると、異なる能力を持った人材が相互補完的に集まっているチームは頼もしく見えますよね。

金子VCになって10年、大成功している起業家の方々とお話する機会をたくさんいただきましたが、その中で感じたことは「皆、全然違う」ということです。

1兆円の時価総額を目指していくとした際、それを達成したことがある日本の起業家というと十数名しかいません。ですので、少ないサンプルから無理に共通点を抽出してシードの起業家に当てはめることは無意味だと思うようになりました。

ただ、大成功された起業家の方とお話させていただく中で気づいたことは、皆さんそれぞれに強烈な凄みや強みを持っているということ。

それを踏まえると、シードの起業家においてもまず「突出した長所があるか」、ここを見るようにしています。

──では赤浦さんからも、シード起業家に対して一番チェックするポイントを教えてください。

赤浦一緒に長くパートナーシップを組んでいくので、相性が合うかどうかですね。

もっと簡単に言うと、自分がその起業家のことを直感的に「好きだな」と思えるかどうかが大事。当然、その人がすごい起業家になるかなど投資時にわかるわけがないので、「この起業家と一緒にチャレンジしたいな」と思えるかどうかを自分の中では大事にしています。

──数字だけではなく、定性的な面の割合が大きいということですか。

赤浦そうですね。一目ぼれするかどうかぐらいの感覚です。自分が好きだと思って交流を重ねていくうちに、だんだん愛が育まれていく感じですね(笑)。

──インキュベイトファンドで投資の意思決定をする時は、「パートナーが起業家に惚れた」ということで投資が通るものなんでしょうか?

赤浦通ります。これは冗談ではなく。

──インキュベイトファンドはパートナーにその権限が与えられている組織なのですね。

赤浦そうです。

ジャフコに在籍していた頃は稟議を通すのが苦手でした(笑)。「稟議を書きたくないな…」と思って独立して、そこからは自分で資金を集めているわけですから好きなように投資しようと思いましてね。

1999年11月1日に最初のファンドをつくって、2000年3月頃には全部使い果たしていました。

──そこまで惚れ込める起業家に出会えていることがすごいですね。East Venturesとインキュベイトファンドはスタイルが少し似ていると感じましたが、これを聞いてジャフコ歴21年の藤井さんはどう思われますか?

藤井2人の話を伺っていて「同じだな」と思うところがあるとすると、先ほどの「市場」や「事業」は起業家との話の材料になりますね。

これらの話をしながらその起業家がどういう方なのかを探っていきます。赤浦さんの話に準えると、起業家がその市場や事業をどれくらい好きなのかを、あげてきた資料やそれをもとにした受け答えを通じて見極めています。

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起業家の思考や熱意は事業計画書にあらわれる

──過去に投資をしてきたスタートアップの中で、フィーリングが合って実際に投資をして、サクセスしたケースがあれば教えていただけますか?

藤井一番成功したと言えるのは「ビズリーチ」を展開するビジョナルですね。

投資した時はまだマンションの一室をオフィスにしていた頃でした。起業当初から事業に対する考え方や準備、仲間集めがずば抜けていた印象がありますね。

最近はどのスタートアップもピッチ資料の最後に「海外の同系統のスタートアップでは既にこういう成功事例があり、このくらい資金調達しています」と書いていますが、ビズリーチの代表・南さんは、2010年当時から海外スタートアップのベンチマークを挙げていらっしゃった。しかもベンチマークする会社の経営者に直接会いに行き、どういう事業でどういう立ち上げ方をしたのかをヒアリングして、それを日本流にアレンジしていたんです。

起業家としてこれから人生を懸けて打ち込んでいくにあたり、インターネットの情報や他人から聞いた話ではなく、現地現物で確かめにいく。当たり前のようでなかなかやれていないことでもありますよね。それくらい慎重に、確実に事業を見極め、組み立てていた印象でした。

──大きなビジョンだけではなく、泥臭いオペレーションまで創業期からつくられていた点で、他の起業家とは異なっていたんですね。赤浦さんや金子さんにもぜひ過去の投資の中でうまくいったケースをお聞きしてよろしいですか?

赤浦たくさんありすぎますが、直近で印象的だったのはispaceやSansanです。また、ジャフコと一緒に投資したゲーム会社のAimingも大きくなりましたね。

──どれも聞いてみたいなと思うのですが、宇宙銘柄で初めて上場したispaceというスタートアップ。代表の袴田さんの最初の印象はどんな感じでしたか?

赤浦今も変わりませんが、実直で真面目。誰からも好かれて本当に信頼できる、そして尊敬できる起業家ですね。

──最初から壮大な事業プランですが、事業的な視点での評価はどうだったんですか?

赤浦そういうことは全く考えていないです。

そもそもアストロスケールの岡田さん(アストロスケールホールディングス代表取締役社長兼CEO)が、弊社パートナーの本間のマンションの隣に住んでいるお茶飲み友達だったんです。岡田さんに2014年2月にシンガポールで弊社が開催したアジアリーダーサミットに登壇してピッチしてもらった時に私が感銘を受けまして。

事業の説明もそうですけど、「ポカリスエットを月に持っていく」ということで大塚製薬から資金サポートを受けていたと言っていて、後から聞いても結構な金額だったんです。それを聞いてビビッときたんです。

「宇宙って無法地帯だ、何でもやっていいんだ」と思って、岡田さんに出資したいという話をしたんです。

ただ、当時の岡田さんは積極的な資金調達は望んではいなかった。でも私は「なんとかこれを事業化できないか」と思って、「どこかに宇宙に物を運ぼうとする人がいないかな」と思っていたら、実は岡田さんが乗せてもらう予定だった宇宙船を一緒にやろうとしていたのが袴田さんだったんです。

──そうだったんですね。

赤浦袴田さんはGoogleのイベントで懸賞金がかかっている「Google Lunar XPRIZE」(民間による月面探査コンテスト)にプロボノメンバーを集めて計画していた人だということがわかって、紹介してもらって会いに行きました。

そこで、そういうイベントにスポンサーを集めるビジネスをやらないかと思っていたところ、彼は資金調達をしたことがないしよくわからないから、自己紹介で「私は子どもの頃からスターウォーズが好きで、将来宇宙船を作るのが夢です」と言われて。「まずい」と思って。

──(笑)。

赤浦私はスポンサーを集めるビジネスを一緒につくりたくて会いに行ったんですが、「宇宙船を作るのが夢だ」と言われましてね。そこから2時間ほど話をして意気投合し、「スポンサーからお金をいただくビジネスをやろう」という提案を受けてもらったんです。そしてその場で3億円の投資をコミットしました。

──ビジネスアイデアのコアの部分も一緒に考えて出資をしてスタートしたということで、まさにCo-founderというスタートだったのですね。

赤浦袴田さんがどう捉えているかわかりませんが、彼が考えた事業というよりは、懸賞金をもらうチャレンジを事業としてスポンサーを集め、会社をとにかく大きくしていこうという提案をしたんです。

──金子さんはどのような過去の投資成功事例がありますか?

金子電動キックボードのシェア事業をしているLUUPですね。

初めてお会いした時は完全に構想だけという状況だったのですが、今となっては街の至る所でLUUPを見かけます。当時を思い起こすと感慨深いものがありますよね。

法規制や各関係者の思惑の調整も含めて難度が高い事業モデルだと当時も今も考えていますが、このように世の中を動かしていく若い起業家がこれからも生まれるといいなと思っています。

──当初、LUUPのアイデアはそもそもレギュレーションに縛られているプロダクトであり、そこに投資するのはリスキーであるためもう少し様子を見たいと思うのが合理的な気もします。この点について、East Venturesの中ではどんなディスカッションがあったんですか?

金子そうしたディスカッションはほとんどなく、LUUP代表の岡井さんが素晴らしい起業家だったので、その可能性を前提に投資させてもらいました。

当時は『Bird(バード)』というアメリカの電動キックボード企業が世界最速でユニコーンになったのでホットな領域だという認識が市場全体にありました。

でも今やBirdは破綻してしまい、同じ事業モデルで海外で先行していた企業たちも苦戦しているようなので、LUUPによる日本発のポート型のモデルが正解だったというのはとても素晴らしいことだなと感じています。

──岡井さんのことを「良い起業家だな」と感じたポイントはどこでしたか?

金子事業のロードマップを緻密なまでに描いていたことですね。

冒頭、多くの起業家がピボットをするとお話しましたが、LUUPほど当初描いた計画通りに進んでいる会社はないと思います。お見せできないのが残念ですが、創業時からものすごく緻密にロードマップが記されたスライドをご用意されていました。

──シード期の起業家がつくる事業計画書はどこまで重要視しているのでしょうか?

金子あくまでディスカッションの土台ですね。LUUPの事例は稀で、当初描いた計画通りにそのまま事業が進むことはほとんどなく、様々なハードシングスやシビアな意思決定によって常に計画は変わっていきます。

事業計画をもとにディスカッションすることで、「どんなテーマで市場に参入しようとしているのか」「どんな仮説やインサイトを持って事業を始めているのか」などがわかるので、“目の前の起業家を理解する手段”としてみています。

藤井私も金子さんと同じです。事業計画を通じてコミュニケーションを取る過程で起業家の人柄が見えてきます。ディスカッションのなかでわからない点はわからないと素直に言う人もいれば、そうはせず自分を良く見せようとする方も中にはいらっしゃいます。

これは全くもって後者が悪いということではなく、そこから意地でも結果に繋げようとがむしゃらに動く起業家もいます。逆に、何でもかんでも「わかりません」と言うのもそれはそれで困ることでもありますので(笑)。

事業計画をもとに、事業に対してどれくらいの想いや解像度を持っているのかすり合わせていく感じです。

赤浦私の場合、事業計画は起業家と一緒につくりますが、その前段階のピッチ資料はよくチェックしますね。

ピッチ資料を見る際に大事にしているのは、簡単、シンプルでわかりやすいかどうかです。そもそも事業の立ち上げというのは難しいので、複雑なものよりはいかにシンプルで簡単にできそうかが重要。かつ、それを人にわかりやすく伝えられるかどうかという点も個人的には重視しています。

そして、それを実際の事業の数字に落としこんでいく話になった時には、自分なりの知識や経験を活かしてアドバイスするといった具合です。

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シード起業家よ、スモールシードIPOだけは避けるべし

──ここからは参加者のシード起業家から登壇者への質問を受け付けたいと思います。


Q:英語塾を運営しており、これからスタートアップとして資金調達を考えています。これからの教育、EdTech領域は市場性としていかがでしょうか?

赤浦狙い目だと思います。日本の競争力を高めていく上で教育は重要ですよね。

藤井私も素晴らしいと思います。国際競争力を持つ上で教育はどう考えても根本になるところです。

特に言語の問題は日本が海外に打って出る際の障壁の1つになっています。EdTechの難しいところはダイエットや未病予防領域などと同じく、本質的にはユーザーが「やりたくない」と思っているものをいかに楽しく、難なくやってもらうかという点にあります。ですのでその点をクリアしていけることがこの領域では重要ではないでしょうか。

Q:先ほど「どういった起業家に投資したいか」というお話がありましたが、逆に「避けたい起業家」や「こういった領域はそもそも難しい」といったケースも教えてください。

赤浦嘘をつく人は信頼関係を築いていけないので難しいと思っています。

金子「避けたい」という話ではないんですが、過去に「起業家を支えるNo.2」の方をいいなと感じて投資をしたケースがあり、その人が1年ぐらいで辞めてしまったケースがありました…。

藤井私も赤浦さんに近く、嘘をつく、逃げてしまう、トラブルを起こしてしまう人などは避けたいですね。ただこれも結果から振り返ってわかることですので、避けたいなと思って避けられるものではないので難しいですが。

Q:既に売上が出ており直近では資金調達の必要はないが、これから成長していく上でお金の使い方を含めてVCに相談したいと思っています。そうした関わり方はアリなのでしょうか。

藤井もちろんです。既にお金が円滑に回っている起業家でも、例えば「仮に手元に1億円あれば、5億円あれば、10億円あればどういうことができますか」といったディスカッションをさせていただくことは多いです。

金子同じく、そうした起業家と長くお付き合いさせていただく中で出資に至ったケースもありますね。

赤浦私はお金があるかないかではなくて「何をやりたいか」を一緒に相談していくパターンがほとんどです。なので現状がどうかというのはケースバイケースですね。お金がある人の場合ももちろんありますよ。

Q:画像生成AIスタートアップで起業しています。現在、シードフェーズで出資を受けていますが、一般的にシードからシリーズAに移行する際の卒業要件として何が求められるのかを聞きたいです。

赤浦私の場合シリーズAから入ることはないんですが、誰かに投資してもらえるということは大事にしています。

応援する仲間は一人でも多い方がいいので。事業をスタートする時に起業家と共に次の目標を決めて、「ここまで伸びたら次の資金調達に進もう」と定めています。だからケースバイケース、企業によって異なりますね。

金子投資先の起業家とよく議論するのですが、シード、プレシリーズA、シリーズA、シリーズBなどのフェーズの区切りは意外と曖昧で人によって定義が違うことが多いです。

起業家が狙うバリュエーションと調達金額を挙げてもらえたら、「その目標を達成するためにはこれくらいのトラクションが必要です」といったフィードバックはできると思います。私が話している起業家の方で、「時価総額100億円まではシードです」と言っている人も中にはおります(笑)。


──それでは最後に、会場に集まってくれたシード起業家たちに向けて、登壇者の皆さんからエールを送っていただければと思います。

藤井冒頭、「海を越えていく」という話をさせていただきました。

ここから本当に海を越え世代を代表するような、もっといえば日本を代表するような起業家が出てこないと私たちの子どもや孫の代には国が悲惨なことになると思っています。

ですので、より大きく世界に打って出るところまで見据えながら事業プランを考えていただきたいです。そこに対して、VCとしてもよい支援ができるようディスカッションしていきたいと思っています。

金子元々、新卒でジャフコに入社して比較的すぐに辞めてしまったので、自分としては“ジャフコOB”と名乗っていいのかずっと不安でした。しかし今日このような場に呼んでいただき胸を張ってOBを名乗れるなと思いました。とても感謝しています。どうもありがとうございました。

赤浦起業家の皆さん、ぜひ、IPOしないでください。

早く上場してしまうと予実を守ることに意識を向けなければならないし、四半期ごとに結果を開示しなければいけない。また、事業計画に対して10%ずれるとすぐに株主に向けて「ごめんなさい」と説明しなければならない。

そんな窮屈な環境では世界に届く勝負はできません。なので皆さんはすぐに上場するとか考えず、資金力のあるVCからお金を集めて赤字を出しながら、世界に向けてチャレンジすることに専念してください。

繰り返しますが、ぜひ、上場は目指さないでいただきたい。

──VCとは思えない発言で締めとなりましたが(笑)、このセッションはこれにてお開きにしたいなと思います。ありがとうございました。

こちらの記事は2024年07月12日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

落合 真彩

編集

大浜 拓也

株式会社スモールクリエイター代表。2010年立教大学在学中にWeb制作、メディア事業にて起業し、キャリア・エンタメ系クライアントを中心に業務支援を行う。2017年からは併行して人材紹介会社の創業メンバーとしてIT企業の採用支援に従事。現在はIT・人材・エンタメをキーワードにクライアントWebメディアのプロデュースや制作運営を担っている。ロック好きでギター歴20年。

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