連載Unicorn Night 令和から始めるスタートアップ

リクルート、博報堂から“創業直後”のベンチャー企業へ。
草創期にトップVCがみた「スタートアップで働くリアル」

登壇者
渡邊 一正
  • 株式会社エースタート 代表取締役CEO 

京都大学卒業後、リクルートグループに入社し、主に人材紹介部門(現リクルートキャリア)の営業分野でキャリアを積みながら、独学でベンチャーのIPO支援等を行う。 退職後、ネクストジャパンに経営参画し、CFOとして2004年に株式公開を実現。上場後、代表取締役社長に就任。2007年に退任し、ベンチャーへのコンサルティングや投資を行う。 2010年、ライドオン・エクスプレス(現ライドオンエクスプレスホールディングス)のCFOに就任。2013年に自身二度目の株式公開を経て、2015年には東証一部へ上場 (取締役副社長として現任)。 2015年、ベンチャー投資会社、エースタートを設立。代表取締役 CEOに就任。

手嶋 浩己

1976年生まれ。1999年一橋大学商学部卒業後、博報堂に入社し、戦略プランナーとして6年間勤務。2006年インタースパイア(現ユナイテッド)入社、取締役に就任。その後、2度の経営統合を行い、2012年ユナイテッド取締役に就任、新規事業立ち上げや創業期メルカリへの投資実行等を担当。2018年同社退任した後、Gunosy社外取締役を経て、LayerX取締役に就任(現任)。平行してXTech Venturesを創業し、代表パートナーに就任(現任)。

藤井 淳史
  • ジャフコ グループ株式会社 パートナー 

2003年JAFCO入社後、現在までベンチャー投資に従事。IT領域を中心に製造・サービス業まで幅広い分野で投資を担当。2018年3月よりパートナー。Forbes Japanが選ぶ日本で最も影響力のあるベンチャー投資家 BEST10 2021年 1位。

長岡 達弥
  • ジャフコ グループ株式会社 プリンシパル 

工学研究科・航空宇宙工学専攻、2010年入社。東京本社にて投資部配属。入社から一貫してベンチャー投資を担当。主たる業務として、投資候補先の発掘、投資実行、投資先の成長支援を行う。投資先企業に対し、ファイナンス戦略の立案、収益計画作成、営業、人材採用、マーケティング支援など、幅広い業務支援を行っている。投資先分野は、ネットセキュリティ、教育、宇宙、EC。担当先は、アストロスケール、ライフイズテック、Synspective、スタディプラス、Capy等。

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スタートアップで働くリアルは、業界外の人には意外に知られていない。情報が不足しているがゆえに、転職を躊躇するビジネスパーソンも少なくないのではないだろうか。

6月某日に開催されたイベント『Unicorn Night 令和から始めるスタートアップ』では、「VCトップからのメッセージ~ Welcom to startup world!」と題した最後のセッションにおいて、そのリアルの一端が触れられた。登壇したのは、株式会社エースタート・代表取締役の渡邊一正氏、XTech Ventures株式会社・共同創業者の手嶋浩己氏、株式会社ジャフコ・パートナーの藤井淳史氏。聞き手は、株式会社ジャフコ・プリンシパルの長岡達弥氏が務めた。

「ボランティアをしながら、虎視眈々とスタートアップで働くチャンスを狙っていた」「スタートアップでは“スマート化”が進んでいる」など、登壇者ならではの経験談が飛び交ったセッションの様子をダイジェストでお送りする。

  • TEXT BY HAYATE KAWAJIRI
  • EDIT BY MASAKI KOIKE
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原動力は“嫉妬と高慢”。スタートアップ草創期に、一流企業から転じた理由

今回登壇した4名は黎明期から長くスタートアップに関わり、実績を積み上げてきた。なかでも、VCを自ら創業したエースタートの渡邊一正氏と、XTech Ventures・共同創業者の手嶋浩己氏は、大企業からスタートアップの役員に転職し、起業へ至った経歴を持つ。

渡邊氏はリクルートグループを経て、スタートアップへ転職。CFOとして2度の上場を経験している。手嶋氏は博報堂からインタースパイア(現・ユナイテッド)役員に転身。そして二人は現在、経営者兼ベンチャーキャピタリストとして活躍している。

セッションは、各人の「ファーストキャリア」についての議論からスタートした。

左から、株式会社ジャフコ プリンシパル 長岡達弥氏、
株式会社エースタート 代表取締役CEO 渡邊一正氏

渡邊私が最初に入社したのはリクルートグループですが、キャリアについて明確に考えはじめたのは入社後です。社内ベンチャーに関わる中で経営者に会う機会が増えていき、「いずれ自分の手で会社を経営して、IPOさせたい」という想いを抱くようになりました。

リクルートでは営業や管理職系の仕事をしていましたが、退勤後の時間や休日を利用して、ボランティアとしてIPOの手伝いをするようになりました。当時は副業が許されていない時代。こっそりと自分のスキルを磨きつつ、密かにスタートアップで働くチャンスを狙っていたのです。

手嶋私は、仕事をはじめた当初は志が低くて。新卒では、私服勤務が許され、最初に内定をもらえたというだけの理由で、博報堂に入社しました。6年ほどプランナーとして働くなかで、「クライアントを通さずとも、面白い仕事ができるのでないか」と考えるようになったんです。

そして次第に働き方を自問自答するようになり、導いた結論が「ゼロから事業立ち上げのスキルを身に付ける」ことでした。

スタートアップへの関心を抱きはじめた両氏だが、有名企業からの転身に際しては現代とも状況が異なる。彼らが過ごした90年代の終わりから2000年代初期は、「ベンチャー」という言葉すら一般的には馴染みがない。

その状況下で、二人の原動力になったのは何か。

渡邊当時は、ネットバブルが盛り上がりを見せていた頃。サイバーエージェントの藤田晋さんや元ライブドアの堀江貴文さんなど、自分より年下の世代が次々と活躍していく姿が衝撃的で、とにかく悔しかった。「自分は何をやっているのだろう」と。

そんな折、スタートアップの手伝いをしていくなかで偶然出会った会社からCFOのオファーをいただき、そのまま入社したんです。

手嶋2000年代前半は「スタートアップ」や「ベンチャー」といった言葉がメジャーではなく、自分にとっても遠い世界だと感じていました。ただ「自分は面白いことを考える力があって、事業もつくれるのではないか」と自信に満ち溢れていましたね。

そんななかで、サイバーエージェントの元副社長・早川与規さん(現・ユナイテッド代表取締役会長)から同じ博報堂出身だった縁などもあり、私も若くエネルギーもありまして、更にお話するうちに「信頼できる方なので、ぜひ一緒に働きたい」と思うようになり、一緒に会社経営をすることになりました。

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痺れるような緊張感が続く。スタートアップで経験したギャップとは?

大企業とスタートアップでは、設備や体制面で環境が大きく異なる。たとえば、大企業からスタートアップに転職すると、給料が下がるケースが一般的だ。あらゆる障壁を乗り越えて挑戦していくためには、時に“特別な想い”が必要になることもある。

渡邊氏や手嶋氏は、「スタートアップに入社してから知ったこと」を語った。

左から、XTech Ventures株式会社 共同創業者 手嶋浩己氏、
株式会社ジャフコ パートナー 藤井淳史氏

渡邊スタートアップは、想像以上にエキサイティングでした。毎日痺れるような緊張感を持って、仕事ができる。大企業から離れて10数年が経ちますが、成功や失敗を問わず、何事も楽しみながら働いています。

手嶋もともと自信があったものの、やはり0から事業をつくるのは大変でした。自分は役員として入ったので、マネジメントに苦労する機会も多かったです。

当時の自分は20代後半で、スタートアップやマネジメントについては右も左もわからないような時期。役員として、部下に背中を見せ続けることが難しかった。自分の至らない点を克服するためにも、常に成長する意識を求められましたね。

2000年代前半にジャフコへ新卒入社し、現在まで一貫してベンチャー投資業務に従事してきた藤井淳史氏も、入社後に「驚くような仕事ばかりをしていた」と告白した。

藤井今でこそ存在感が出てきたものの、当時のVCは「怪しい金貸し」のような産業といわれていました(笑)。業務内容も泥臭いものばかり。ひたすら企業概要表に載っている会社に電話をかけまくり、手紙を書いて飛び込み営業もしていましたからね。

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東大生でも主体的にスタートアップを選ぶ時代に。15年で起きた「業界の変化」とは?

セッションが後半に差し掛かり、話題は「スタートアップ業界の変化」に切り替わった。

90年代後半から2000年代にかけて、政府が規制緩和をはじめとするベンチャー優遇政策を打ち出したり、IT企業が次々と誕生したりと、スタートアップへの風向きも変化していった。楽天、サイバーエージェント、DeNAなども、この頃に生まれた企業だ。

約15年もの時を経た2019年、スタートアップを取り巻く社会状況は、いかにして変質しているのだろうか。

渡邊一番の変化は、「キャリアにおける一般的な選択肢に変わってきていること」だと思います。誤解を恐れずに言うと、昔は起業やスタートアップに行くことそのものは、社会的なステータスになり得ませんでした。社会に適合できず、仕方なく流れ込んだ人も多々見られたのです。

それが今や、東大や京大のような有名大学の出身者でも、大企業ではなく主体的にスタートアップを選ぶ動きが出てきている。海外で先行していた流れが、ようやく日本でも起きはじめたと言えます。

手嶋スタートアップの“スマート化”も挙がるでしょう。インターネットが普及する前は、IT業界も他業種のように、営業活動を前提とした会社が多かった。しかし最近では、営業力に頼らず、高度な技術のみに特化したスタートアップも増えている。

また、全体的な傾向として、働き方改革の呼び声に応じているのか、“ホワイト”なスタートアップが増えてきていると思います。メルカリのように、創業当初から全員が定時帰宅をする会社まで出てきている。スタートアップの母数が増えたことで、希望に沿った会社選びもしやすくなってきています。

藤井私が投資をしてきた会社でも、会社が大きくなるにつれて組織の変化が見られました。具体的には、大企業を選ぶような人材が増えてきているのです。

スタートアップ全体でも、ただ野心家なだけでなく、思想や戦略を兼ね備えたスマートな方々が増えてきた印象です。人材や環境など、スタートアップでの「働き方」全般で変化が起きているのでしょう。

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好きな仕事に打ち込めるのがスタートアップの特権。転職希望者が心がけたいマインドとは?

イベントの終盤には、「スタートアップに向く人材像」について意見が飛び交った。

渡邊スタートアップの特権は「本当に好きな仕事に打ち込めること」に尽きます。極論、ルールすらも自分たちでつくれてしまうほど。ですので、何でも楽しめる人こそ、向いている環境だと思いますね。意欲がある人は、ぜひ飛び込んでほしいです。

手嶋明るく何事も楽しめる性格の人は合いそうですね。心構えで言えば、「運命を自分でコントロールしたい」気概を持った方に、向いているのではないでしょうか。もちろん自分の力だけでなく、ときには人に助けてもらうことも大事です。

とはいえスタートアップでは、常に予想外の出来事が起こります。最悪、社長が辞めても自責思考で現状を打開する気概があると、どんな局面でも楽しく働けるのではないでしょうか。

藤井お二人の意見に賛成です。加えるとすれば、企業のビジョンに共感し、自分の想いとマッチすると良いですよね。人生で睡眠時間の次に長いのが、おそらく働いている時間。であれば、仕事を100%楽しめるのが理想で、辛いことがあっても楽しさを見い出せることが重要だと思います。

大企業からスタートアップへの転職には、思い切った決断が必要かもしれません。ですが、最近では土日や夜の時間を使ってスタートアップに参画する人も増えてきている。人手不足の会社に「手伝わせてください」と申し出るなど、小さくスタートして、フィットすればフルコミットしていくやり方も良いかもしれません。

優秀な人材が集まり、ホワイト化が進むなど、スタートアップはもはや“特別な選択肢”ではなくなってきている。ただ今も昔も変わらないのは、「自分で舵を切れる人」にのみ挑戦の切符が手渡されるという事実だろう。

ビジョンの達成に向けて、人手不足に苦しむ企業も少なくない。もし自分の意志が明確で、理想の企業を見つけられたら、ぜひスタートアップの世界へ足を踏み入れてみてはいかがだろうか。

こちらの記事は2019年08月09日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

川尻 疾風

ライター・編集者(モメンタム・ホース所属)。在学中に、メルマガ・生放送配信やプロデュース・マネジメント支援を経験。オウンドメディアやSNS運用などに携わったのち、現職へ。起業家やクリエイターといった同世代の才能と伴走する存在を目指す。

編集

小池 真幸

編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。

デスクチェック

長谷川 賢人

1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。

校閲

佐々木 将史

1983年生まれ。保育・幼児教育の出版社に10年勤め、’17に滋賀へ移住。フリーの編集者、Webマーケターとして活動を開始。保育・福祉をベースにしつつ、さまざまな領域での情報発信や、社会の課題を解決するためのテクノロジーの導入に取り組んでいる。関心のあるキーワードは、PR(Public Relations)、ストーリーテリング、家族。

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