家具市場には“溝”がある──オフィスの総サブスク化を狙う「subsclife」のポテンシャルをXTV手嶋氏が解説
投資家やVCが事業のどこに注目し、何を高く評価するのか──起業家にとって、資金を調達し、その先に見据えるミッション実現を目指すうえでも知っておきたいポイントだ。しかし、投資の決定要因が語られる機会は決して多くはない。
そんな閉ざされた世界を解き明かし、急成長するスタートアップを増やしていくべく、連載企画「XTV手嶋氏と迫る、事業家の要諦」が立ち上がった。XTech Ventures共同創業者兼ジェネラルパートナーの手嶋浩己氏が、主に投資先のスタートアップCEOと対談。手嶋氏が投資を実行するまでの経緯から現在に至るまで、事業成長の背景を掘り下げていく。投資家が魅力を感じる事業の共通項や、創業期スタートアップが成功するために押さえるべきポイントを明らかにする。
第3回は、2019年4月にXTech Venturesから約1億円を調達した、主に法人向けにサブスクリプション方式で家具や家電を提供するsubsclife代表・町野健氏との対談を前後編でお送りする。
前編では、事業立ち上げのきっかけや手嶋氏が投資を実行した背景を紐解いていく。市場の“溝”を見つけ、ソリューションを投入し、既存のビジネスモデルをハックして、新参者が一気に駆け上がっていく──手嶋氏が「単なる『家具の会社』にとどまらない、大きなポテンシャルを秘めている」と評する同社のサービスについて話を伺った。
- TEXT BY HUSTLE KURIMURA
- EDIT BY TAKUMI OKAJIMA
どれだけ借り続けても新品で定価以下。所有の常識を覆すサブスク型家具購入サービス
「家具のレンタルサービス自体は昔からたくさんある一方、これまでまったく浸透してこなかった」と町野氏は語る。家具は基本的に数年単位で利用するものであり、一般的に「借りるよりも買ってしまったほうが得」な場合が多い。つまり、ユーザーにとって家具のレンタルサービスを利用するメリットが少ないのだ。
subsclifeはその問題を、「どれだけ長い期間借りても、料金が家具の定価を超えない」という衝撃的なビジネスモデルを構築することで克服し、サービスの拡大を目指す。
町野我々が提供するのは、まったく新しい「サブスク型の家具購入サービス」。ユーザーは3ヶ月から24ヶ月で利用期間を自由に決めて家具を利用し、期間終了後は「継続」、「購入」、「返却」を選べます。利用期間がどれだけ長かろうと、定価以上の金額を請求しないため、ユーザーが損をすることは起きません。
この仕組みにより、ユーザーは部屋の雰囲気に合うかどうかを試したうえで家具を購入できる。さらに、返却する場合は私たちが回収に伺うので、後処理の心配も必要もない。家具を借りたい人にとって既存の家具レンタルサービスより利用しやすいのはもちろん、家具を購入したい人にとっても利用するメリットが大きいんです。
町野氏は日本HPやマクロミルで、経営企画や海外事業立ち上げを務めた後、2012年にグライダーアソシエイツをCOOとして創業。キュレーションメディア「antenna」をスタートし、3年で500万ユーザーを獲得、黒字化を達成した経験を持つ。
異なる領域で複数の事業を立ち上げてきた町野氏は、ビジネスをつくるとき、「どのような業界か」よりも「革命を起こせるかどうか」を重視するそうだ。実際、antennaを立ち上げたときも、メディアビジネスの経験は皆無だった。
では、なぜ町野氏はさまざまな市場のなかから「家具」に目をつけたのだろうか。その背景には、町野氏の「引っ越しを行うにあたり、30店舗の家具販売店を渡り歩く」ほどに無類の家具好きな一面があった。
町野氏はひとりの顧客として家具販売店を回っていた際に、「ユーザー視点から市場の“溝”を見つけた」と語る。
町野複数の家具販売店を回っていると、魅力的な家具はたくさん見つかりますが、異様に高い価格に設定されていることが多かったんです。一方、安価な家具販売店を巡っても、満足できる商品はなかなか見つかりません。この“溝”をいちビジネスマンとして捉えたとき、「革命を起こせる」と確信したんです。
「AWSのようなサービスになれるかもしれない」手嶋氏が見出したsubsclifeのポテンシャル
続けて手嶋氏にsubsclifeの魅力を問うと、AWSによって誰もがWebサービスをつくりやすくなったように、「起業やオフィスのインフラとなるポテンシャルがある」と答えてくれた。
手嶋商品によって商慣習や仕入れ値、サブスクへの適応性などが違うため、どれだけの品揃えを実現できるかは分かりません。しかし、仮にオフィスに置かれるあらゆる道具をサブスク提供できるようになれば、単なる「家具の会社」にとどまらない「起業やオフィスのインフラ会社」になる可能性がありますよね。
subsclifeを利用すれば、手元にあるキャッシュが少なくても、ハードアセットを一気に調達しやすくなり、起業やオフィス移転・構築の難易度が一気に下がる——。そのようなサービス設計を実現できれば、とても大きな需要がある。その可能性に張っています。
実は手嶋氏がsubsclifeへの投資を検討していた際、似たコンセプトの事業を展開する複数の企業も市場参入を果たしていたそうだ。「事業としては成り立つし、どこかの企業が勝つ」と考えていた手嶋氏が、複数社のなかからsubsclifeの支援を決めたのは、町野氏の豊富な事業経験を魅力に感じたからだ。
手嶋「家具のサブスク」は、「一社総取り」の市場にはならないけれど、継続的に成長して、利益創出できるポジションを確立する企業は現れるだろうと考えていました。そのなかで、町野さんを応援したいと思ったんです。性質の異なる事業を複数立ち上げていて、圧倒的な経験値がありますし、特定の分野だけでしか事業を伸ばせない人ではありません。町野さんならきっとsubsclifeも上手く成長させるだろうと思ったんです。
現在「subsclife」は、家具・家電だけでなく、内装等も含めたオフィスのデザイン全てを事業領域に据えようと動いている。あらゆるものを月額課金制にすることで、“オフィス内総サブスク化”を目指しているのだ。
投資家から多数の反対を受けつつも、成功の確信を持てた理由とは?「ジャパネットたかた」から得たヒント
盤石のビジネスモデルを武器に、競合他社に差をつける「subsclife」。しかしながら、サービス立ち上げ時は周囲からビジネスモデルを理解されないことも多く、苦労したという。
町野事業プランを練り上げた当時は、多くの投資家の方から「家具をサブスクリプションで提供するなんて、無理な話だ」と一蹴されていました。しかし、成功するたしかな自信があった。だから、投資家の方たちを説得するのは諦め、まずはサービスの開始に全力を注ぎました。立ち上げのあとはメーカーさんが次々と仲間になってくれて、そこで投資家からの反応は一気に好転しました。それまでは、メンタルを維持するのが大変でしたね。
手嶋もしかすると、2年前だったら、私も投資に難色を示していたかもしれないです。当時はまだ、サブスクがここまで注目を集めていたわけではありませんでしたからね。
町野antennaを立ち上げたときも、多くの人たちから「記事を作成しないメディアが成立するわけない」と言われた覚えがあります。でも、それだけ反対意見があるということは、裏を返せばチャンスなんです。まだ誰も挑戦していない未開拓領域には、“先行者メリット”がありますからね。
投資家の理解を得られない苦しい状況にもかかわらず、自らの勘を信じてサービス運営を続けた町野氏。その意思を支えたのは、「『モノのサブスク』がアメリカでブームの兆しを見せていた」という事実と、あるテレビ通販番組から得た仮説だった。
町野subsclifeは「レンタルサービス」というよりは、「ジャパネットたかた」に近い。あの通販番組を見ていると、商品紹介の最後に「金利分割手数料無料・月額払いで結構です」という決まり文句を謳っていますよね。
実際、ジャパネットたかた経由よりも、「価格.com」などのサイトで最安値の商品を探して購入したほうが、支払う額は低く済みます。それでもジャパネットたかたのようなサービスが利用されるのは、「人は一括払いよりも分割払いのほうが得をしているように感じるから」だという仮説があった。だからこそ、「subsclifeは成功できる」と信じることができたんです。
対談後編では、業界の常識を破るサービスをPMF(Product Market Fit)させるまでのストーリーから「『資金調達力をつけるため』に新規事業を複数展開すべし」という手嶋氏のアドバイスまで、事業家・投資家双方の視点からsubsclifeが歩んできた道のりと展望を語っていただく。
こちらの記事は2019年11月15日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
ハッスル栗村
1997年生まれ、愛知県出身。大学では学生アスリートを取材し、新聞や雑誌の制作・販売に携わる。早稲田大学文学部在学中。
編集
岡島 たくみ
株式会社モメンタム・ホース所属のライター・編集者。1995年生まれ、福井県出身。神戸大学経済学部経済学科→新卒で現職。スタートアップを中心としたビジネス・テクノロジー全般に関心があります。
編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。
連載グロース・カンパニーを見抜く投資家の眼
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