「小売の概念が、流動化する」とは?
goooodsの次世代B2Bコマースから、XTV手嶋がECの未来を読み解く
世界を変える事業家の条件とは何だろうか──。
この問いの答えを探す連載「事業家の条件」。数々の急成長スタートアップに投資してきたXTech Ventures(以下、XTV)代表パートナー・手嶋浩己氏が、注目する事業家たちをゲストに招き、投資家の目を通して「イノベーションを生み出せる事業家の条件」をあぶり出す。
今回取り上げるのは次世代型B2Bコマースプラットフォームを展開するgoooods。メーカーから小売店への仕入れをオンライン化することにとどまらず、小売そのものの概念を流動化させて産業構造を変革するポテンシャルを秘めている。
スマートフォン向け動画広告プラットフォーム『FIVE』を創業しLINEに売却した経験を持つ「2周目起業家」であるCEOの菅野圭介氏と、VCとしてメルカリに投資し社外取締役を務めた手嶋氏がこれからのB2Bコマースについて語り尽くす。
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
B2Bコマースをオンライン化することで「goooodsがあるからこそ生まれた購買体験」を生み出す
菅野僕達のサービスはメーカーから小売店へのB2Bコマースをオンライン化するものです。
現状の卸売の取引は「メーカーが展示会に出展し、バイヤーが買い付ける」という形が主流です。しかし、この展示会は多くの非合理を抱えています。
まず、バイヤーが展示会の期間中に全てのメーカーのブースを回ることは難しいですし、お互いの情報が集約されていません。さらに、取引記録も残りませんから最適な需給のマッチングが実現できていません。さらに、展示会は年に数回しかありませんからビジネスのサイクルも遅い。
僕達がまずやろうとしているのは、この展示会での取引を全てプラットフォーム上でオンライン化してデータを蓄積し、機械学習を用いて正しい信用付与・理想的なマッチングを実現することです。
メルカリがそれまでのフリーマーケットをオンライン化することで起こしたイノベーションに似たものを、B2Bで起こそうとしていると言ったところだろうか。
もちろんgoooodsはただの展示会のオンライン化にとどまらない。メルカリという中古取引プラットフォームの上にそれまで存在しなかったビジネスが生まれたように、彼らも新たなプレイヤーをB2Bコマースに参入させうるという。
菅野サービスが機能し始めると、小規模のメーカー・バイヤーが増えて市場がさらに流動化していきます。ShopifyなどによってB2Cコマースは民主化されて、小規模のショッパーが増えましたが、彼らの仕入れはいまだに民主化されたとは言えません。
そこで、goooodsでは小規模ショッパーでも使ってもらいやすいように、返品と後払いができるようにしています。仕入れたが売れ残ってしまった場合も返品できますし、その代金も売れた後で払えば良いので、小規模のバイヤーにとっての障壁となる在庫リスクはほとんどありません。
最初は展示会の取引がオンラインでつながる程度ですが、いずれはgoooodsがあるからこその売り手と買い手が生まれていくでしょう。
これまでのメルカリは「個人がECで売買する」、BASE・STORES(旧hey)などが「実店舗を持った法人がECで出店する」ことを実現したのに対して、goooodsは「個人が作ったものが小売事業者の実店舗に並ぶ」ことを実現しようとしていると言えるだろう。
さらに、手嶋氏はこのサービスによって新たな売り手と買い手が参入することが全く新しいEC体験の誕生につながるという。
手嶋まだまだ姿も定まっていないサービスではありますが、小売の概念を流動化するポテンシャルがあります。現状のECにもセールや広告などの偶発的な出会いはありますが、基本的には「買いたいものを買う」サービスですよね。goooodsはこのECでの購入体験に偶発性をもたらす可能性があるんです。
例えば、インフルエンサーなどがバイヤーとして参入し、彼らのお気に入りのアイテムを仕入れてファンに売るというような取引が起こりえます。購買行動を喚起することができる顧客基盤を持った人がバイヤーとして参入できるようになって、次第に法人と個人の境目が流動化していきます。
菅野僕は、ECはまだ、接客という機能を取り込めていないと考えています。
価格比較やポイントの獲得といった合理的な消費は実現できていますが、「接客を通してこの人から買う」という購買体験もありますよね。goooodsではみんながバイヤーになって、販売員になることができますから、誰かにおすすめされたものを買うという偶発的なショッピングが行われるはずです。副業でショップをやる人も増えていくでしょうね。
現状のB2B2Cの卸売のDXにとどまらず、小規模のバイヤーの参入を可能にして、彼らがいなければ存在しなかったはずの新たな購買体験を生み出し、ECをさらにアップデートするという未来が見えた。
「ただの卸売DXをやるつもりはない。」
巨大マーケットで産業変革にこだわる理由。
彼らのサービスやポテンシャルについての理解が深まったところで、今度は創業者である菅野氏について深堀っていく。
菅野氏は2008年にGoogleに新卒で入社し、2014年にスマートフォン向け動画広告サービスであるFIVEを創業した。2017年にFIVEを70億円でLINEに売却し、そのままジョインしてカンパニーエグゼクティブとして広告事業の統括を務める。その後、2021年にgoooodsを創業するという、輝かしい事業家キャリアの持ち主だと言える。
VCとしてそばで菅野氏をサポートする手嶋氏は、彼の人柄をこう語る。
手嶋菅野さんはGoogle出身ということもあってか、すごくスマートなイメージです。そこまで表に出たがるタイプではないので、自己顕示欲がドライバーになるタイプではなく、大きなビジョンを掲げてしっかり歩を進めるタイプなんだろうなと思っています。
なのですが、2008年の時点でGoogleに新卒で入るというのが一般的な学生とはひと味違う感じがするんですよね。広告に興味がある学生は電通や博報堂などの広告代理店を志望するのが普通じゃないですか。菅野さんは大学生の時点で「広告を掲載する場所を作る」というGoogleの本質を見抜いていたということですよね。
菅野確かに、学生時代から「情報の流通手段としての広告」にすごく興味がありました。本質を見抜いていたというほどのことはありませんが、当時ちょうど新卒採用を開始したGoogleに対して「なんとなく他と違って面白そうだな」とは思っていましたね。
学生の頃から広告のあり方の変化を直感的に感じ取っていた菅野氏のスマートさが垣間見えるエピソードだ。その後FIVEを創業して成功を収めることになるが、この1周目の経験が今の事業に対する想いに影響を与えているという。
菅野自分の中でFIVEはかなり「当てに行った」という印象です。当時は3Gから4Gへの移り変わりタイミングで、Googleでの業務の中でも動画広告のトレンドの到来は肌で感じていました。最終的にある程度の規模まで伸ばすことができましたが、「ただフォーマットが変わるタイミングで良いポジションが取れていただけで、産業や文化を変革することはできなかったのではないか?」という不完全燃焼感もありました。
だからこそ、goooodsでは大きなマーケットにこだわっています。ただの卸売のDXで終わらせるつもりはなくて、産業全体の生産性を大きく上げて社会を変革することを目標にしています。
1周目で感じた不完全燃焼感が彼らの事業スタイルに影響を与えているという、いかにも「2周目起業家」らしいエピソードだ。
メルカリを支えた手嶋氏が語る
「左脳的に気持ち悪い決断」の重要性
ここで、手嶋氏と菅野氏の関係性について話が移った。彼らの出会いと9月にシードラウンドでXTech Venturesなどから5.4億円を調達したことについて、菅野氏はこう語る。
菅野手嶋さんとはユナイテッド時代にFIVEへの投資の話があって知り合いました。結局FIVEでは投資には至りませんでしたが、goooodsでは市場の状況からしてもう少し探索の時期が続くと考えていたので手嶋さんにお願いさせていただきました。
それなりに多くの投資家さんと交流を持つようになりましたが、その中でも手嶋さんは特に、起業家に対してフェアにサポートしようとする印象が強いです。
手嶋僕自身はVCになったのも遅く、どちらかといえば事業家に近い存在です。VCの中でも積極的に営業していくタイプではないんですよね。なので、フェアなイメージに映ったならよかったです。
でも意外でしたね。シードラウンドの彼らに投資したいところはかなり多いと思っていたので、選んでもらえたのは率直にうれしいです。
事業家出身のVCである手嶋氏ならではのスタンスが起業家にとっての助けになっているようだ。
ここからは同社の現在の状況とこれからの事業展開について聞いた。
菅野現在、正式リリースしたプロダクトの中心機能が固まり、GMVは急成長フェーズに入った段階です。XTech VenturesさんにはPMF後の事業の仕組みを整えてスケールさせていくフェーズで、がっつりとサポートしていただきたいです。
手嶋0→1より後ろのスケールさせていく段階の方が、菅野さんの1社目での経験も生きてくるでしょうね。
菅野そうですね。2回目の起業ですが初めての領域なので、今の0→1のフェーズにおいては半年間かけていろいろな人から知見をお借りして、やっと解像度が高まったという感覚です。
現状、ブランド(出品側)のサービス利用は、国内で最もスピードを出せています。バイヤー側は特定のセグメントで強いニーズを確認しています。このセグメントを最大化しつつ、組織として新しいセグメントの探索プロセスを構造化し、高速で続ける段階に入っています。
プラットフォームの両側でニーズの検証が進んでおり、急成長フェーズに入った状況のようだ。PMF後のXTVのサポートを得たスケールに期待したい。
最後に、海外進出の話が持ち上がった。goooodsでは韓国のコスメや東南アジアの雑貨など、海外の商品を輸入して売る商社のようなユースケースも考えられる。ここでは手嶋氏からメルカリのアメリカ進出のエピソードが飛び出した。
手嶋goooodsはtoBですから、toCのメルカリよりは簡単かもしれませんね。
メルカリのアメリカ進出はCEOの山田さんの悲願に近いです。彼は創業初日、いや何ならその前からそれを考えていて、月間のGMVが100万円ほどの時にはすでに具体的な計画を練っていました。上場後のメルカリの経営の観点からすれば難しい決断だったでしょうが、山田さんが強い意志によって始まった挑戦だったということです。
ちなみに僕も山田さんの話を聞いて「早すぎないか?」と感じていた部分も少しありました。でもそれこそが、トップの仕事です。「経営視点では気持ち悪い」くらいの意志を持ち、発信していくことも大事なんです。
菅野さんも経験が豊富なので左脳的な判断が強いと思いますが、どこかでメンバーの反対を押し切ってグローバル進出という「気持ち悪い決断」をしなければいけない時がくるはずです。
菅野たしかに、グローバル展開の可能性は大いにあると考えているので、タイミングはよく見極めていきたいですね。次の資金調達までに、1歩目は踏み出す、それくらいの強い気持ちを持っています。
卸売取引をオンライン化することによって、小売の概念を書き換え全く新しいビジネスを生み出しうるgoooods。グローバル展開も含めて、今後の展開は要チェックだ。
こちらの記事は2023年01月26日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
写真
藤田 慎一郎
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