「起業アイデアは借りたっていい」と後押し。
XTech西條氏・手嶋氏トークレポートを起業家合宿から
「いつかは起業する」
そう志したものの、目の前の仕事から抜け出せずに長い年月が経ってしまった──そんな葛藤を抱える人も少なくないだろう。
そういった人たちが起業に踏み出す機会をつくるため、FastGrowはXTech Venturesから錚々たるメンター陣を招き、2020年1月に「XTech Ventures Next Entrepreneur’s Bootcamp」を開催。2日にわたり、事業づくりを学ぶ合宿を行った。
FastGrowは2019年にも同じ取り組みを行っており、合宿後には参加者によって経営管理クラウドを提供するログラス、イベント開催に特化した採用プラットフォームを提供するMeetyなど、複数の会社が創業された。
今年の合宿には、メンターとしてXTechグループ代表の西條晋一氏、XTech Ventures共同創業者/GPの手嶋浩己氏、XTech子会社であるイークラウド代表の波多江直彦氏、同じくXTalent代表の上原達也氏が参加。
本記事では、合宿で行われたメンター陣によるパネルトークの様子を、西條氏と手嶋氏の発言を中心にお届けする。起業のタイミングを逃し、45歳にしてXTechを立ち上げ、今やグループで300名以上を抱えるほどに事業を拡大した西條氏。事業アイデアの決め方から組織づくり、資金調達まで具体的な起業の手順が語られた。
- TEXT BY TAKUMI OKAJIMA
今の時代、起業のリスクはそこまで高くない。一年でも早く行動を
「2日で起業家になれる合宿プログラム」を謳う本合宿は、参加に高いハードルを設ける。条件は「半年以内に本気で起業する覚悟を持つ者」、もしくは「設立1年未満かつ資金調達額5,000万円未満の起業家」だ。
参加者は持ち寄った事業アイデアにフィードバックを受け、合宿期間中に事業計画をブラッシュアップしていく。最後にはメンター陣へプレゼンし、総評が行われる。参加者の本気度が高いこともあり、メンター陣から高く評価された場合は、投資に至ることもある。
実際、昨年の合宿の参加者が創業したMeetyには、手嶋氏が投資を実行している。詳細は下記の記事を読んでほしい。
合宿中には、事業づくりを学ぶコンテンツも用意される。その一つが、本記事で書くメンター陣のパネルトークである。ここからは、その様子をQ&A形式でお届けする。聞き手はFastGrow事業責任者兼編集長の西川ジョニー雄介が務めた。
「起業前に事業会社やVCで修行したい」という人は多いように感じます。一方で、「起業したいのなら、すぐにすべき」といった意見も目にします。西條さんは、起業に最適なタイミングはいつだと思われますか?
西條起業のタイミング、難しいですよね。個人的には、一年でも早く起業し、経験を積むのがいいと思います。
僕は小さい頃から経営をしたいと思っていましたが、起業したのは45歳。遅れたのは、学生時代には今のように起業できる環境がなく、「とりあえず大企業へ入っておこう」と就職し、辞めるタイミングを失ってしまったからです。
新卒入社した伊藤忠商事を4年で抜けてサイバーエージェントに移り、「とにかく子会社や新規事業をやらせてほしい」と言って、入社した年に子会社社長を任せてもらいました。幸運なことに、半年で月次売上を2,000万円ほどまで伸ばせたんですよ。
最初の事業なのに、ものすごいスピードですね。
西條事業が伸び続けたこともあり、かつ、うまくいきだしたら「また次」という感じで、連続的に10個以上の事業にも関われたこともあり、辞めるタイミングを失ってしまいました。「いつまでに必ず起業する」という強い意志があるか、たまたま仕事を辞める機会でもないと、起業って踏み込めないのでしょうね。
だから、タイミングを待つようではいけない。やると決めて「えいや」でやらないと、長い年月が経ってしまいます。今の時代、起業のリスクはそこまで高くないので、やったほうがいい。
最適なタイミングはないと。最初の事業アイデアはどのように決めればいいでしょうか?
西條とにかく自分が好きなことですね。アイデアが尽きませんし、楽しめるので集中力を維持しやすい。僕の場合は、世の中にないものをゼロから生み出すより、すでに世の中にある大きな市場のうち大きな変化が起こりそうで、“Winner-Takes-All”ではなく複数の企業が生き残れる業種が好きです。
一方、手嶋さんは世の中になかった価値を生み出したメルカリへ投資されています。XTech Venturesで投資を検討される際は、どちらのタイプの事業を好まれますか?
手嶋前提として、新しいものをつくるには腹を括る必要があるので、本当にやり切れる人は少ないです。利益が出やすい既存市場でポジションを取るほうが、大失敗するリスクは少ないでしょう。とはいえ、どちらが向いているかは起業家のキャラクター次第なので、その人に合った事業であれば問題ないと思います。
起業のアイデアが浮かびにくい場合はどうすればいいでしょうか?
西條他人のアイデアを借りて起業すればいいと思います。たとえば、クラウドワークス創業者で代表の吉田浩一郎さんは、ジェネシア・ベンチャーズ創業者でCEOの田島聡一さんと壁打ちをするなかで今の事業アイデアを着想し、起業したそうです。
そもそもアイデアを考える力と実行力を併せ持つ起業家は少ないです。苦手な分野は、上手く他の人たちに助けてもらえるといいでしょう。
手嶋スペースマーケット創業者でCEOの重松大輔さんも、ご夫人に「営業力を活かせ」と言われ、事業を始めたそうです。この場合、自分のキャラをよく知る人のアドバイスだから、上手くいったのでしょう。
組織のコンセプトを定め、リファラルで採用する
続いて、組織づくりについてお聞きしたいです。創業期に採用すべきメンバーとは?
西條最初の数人は会社のカルチャーの形成に関わるので、かなり厳しい基準で、本当に信頼できる人だけを採用します。
どれだけ忙しくとも、能力がマッチしているだけでは絶対に採りません。僕の場合、なるべく経営者と同じ目線で経営について話せるメンバーを、まず4名ほど集めます。
具体的には、どのようなチャネルから採用しますか?
西條リファラルですね。グループ企業は違いますが、XTechはまだ採用にお金をかけたことがありません。それくらい、リファラルで採用しています。
一号社員の波多江直彦くんも、元々の知人でした。今だったら、Twitterを経由して創業メンバーを探したりするといいかもしれません。
FastGrowで取材をしていると、「ビジネスマッチングアプリの『yenta』で共同創業者と出会った」といったお話をよく聞きます。
西條リファラルに関していえば、僕の場合は30代前半くらいまでの若い層の直接の知人が少なく、採用力がありません。そういうときは良いコミュニティに属している若くて優秀な人を雇い、採用の軸になってもらったりします。
XTechであれば、2018年から働いてくれている廣川航くんという若手がいます。彼はTwitterで3万人弱のフォロワーがおり、多くの若い人と会ってくれています。自分の力でカバーできない場合は、戦略的にメンバーを構築していくといいでしょう。
他に、採用で気をつけられていることはありますか?
西條必ずリファレンスを取るようにしています。優秀そうに見えても、裏取りできない人は採りません。優秀でない人を入れてしまうと、マネジメントコストが取られて大変ですから。
候補者の勤務先の人に話を聞くと、転職活動をしていると知られてしまって申し訳ないので、本人の許可を得て、共通の知人に「あの人、どう?」と聞くことが多いです。
優秀な人材しか採らないよう、細心の注意を払われているんですね。バリューなどは、どのタイミングでつくられますか。
西條組織の規模がある程度まで拡大してからです。ただ、最初から決めておいたほうが採用に活かしやすいとも考えられます。精緻な言葉に落とし込むかはさておき、組織のコンセプトや世界観は決めておくのがいいかもしれません。
僕がXTechを立ち上げるときも、「新規事業」や「スタートアップ」という言葉が好きな人が集まる会社にすると決めていましたし、周囲の人たちに伝えていました。すると、近寄ってくる人たちの性質も変わってきます。
これに失敗すると、自分が採用したい層でない人たちが集まって大変です。さらに、明確なバリューをつくるときは、従業員の評価項目にも「バリューの体現」を入れるようにしています。
そうすると、どのような効果があるのでしょうか?
西條組織が大きくなると、熱心に仕事するけれど馴染めないような人が現れます。たとえば、チームワークよりも個人の売上を優先する人。
そういったとき、バリューに「チームワークを重視する」といった項目があれば、「どれだけ数字が良くても、チームワークを重視しない人は評価しない」と対応できます。
人を引っ張るのが苦手な起業家は、組織に馴染めないメンバーを抑えきれず、反乱にあってメンタルを壊してしまったりします。バリューの構築は、そういった「状況のコントロール」に一役買うんです。
資金調達は、VCや投資家との相性を重視する
最後に、資金調達の手順についてお聞きしたいです。VCに投資の打診をする際には、どういった準備をするべきですか?
西條事業計画とP/L、資本政策は必須です。XTechは事業計画をつくったことが一度もなく、銀行からの融資も受けられましたが、すごく稀なケースだと考えています。
とりあえず3年分はつくるしかないですね。投資家からしても、3年分は出してほしい。ただ、その通りにいくとは考えていませんから、そこまで厳密にはチェックしません。
VCを訪問する基準は、どう決めますか。
西條ファンドはその時々で投資テーマが変わっていくので、ある程度押さえてから会いに行くのがいいでしょう。D2Cの企業へ何社も投資済みのVCであれば、「たくさん投資したし、しばらくD2Cは控えよう」と考えている可能性があります。
そのようなVCにD2C事業のプレゼンをしても、投資を受けるのは難しいでしょう。また、投資家との相性も大切にすべきです。同じVC内でも担当者によって好きな産業や起業家のタイプは異なります。
接触を試みる際は、誰の紹介で、どの投資家に会うかが重要です。ルートを間違えただけで出資してもらえず、せっかくのチャンスを失うことがあります。
手嶋あとは、それなりに準備してから接触するのが吉でしょう。VCの人たちが抱いたネガティブな印象は、なかなか払拭できません。準備が不十分なのに会ってしまって、「まだ会わないほうが良かった」と後悔するのも“あるある”です。
なるほど。資金調達の際、何社くらいのVCに訪問すべきと考えますか?
西條10社くらいを訪ね、調達が完了するケースが多い印象です。多い人だと、エンジェル投資家を含めて40人くらいに会うようです。あれだけ順調にIPOしたラクスルも、資金調達のたびに代表の松本恭攝さんが毎回40社以上を回ったと聞きます。
それは、ベストな条件を引き出したいだけでなく、否定的なものも含めて事業に対する意見を聞きたかったからだそうです。また、ファンドの状況によって投資できないこともよくあるので、仮に断られてもヘコむ必要はありません。
公表されていなくとも、そのステージで出せる金額や、株式構成比の10%以上を取れないなら投資しないといったルールが決まっていたりしますから。XTech子会社の資金調達の際、僕が同行しても断られることだってよくあります。
訪問したうち、何社くらいから投資を受けるとよいでしょうか。
手嶋調達したい額にもよりますが、シードのバリュエーションは2億円以下で、2,000万円から3,000万円ほどを調達するイメージです。とすると、VCが1社から2社にエンジェル投資家が1人から2人くらいでしょうか。
投資家が複数いれば、一対一になる閉塞感が生まれないし、多様な意見を聞けるのが利点です。VCが1社だとしても、意味あるエンジェル投資家に1人か2人、入ってもらえるといいと思います。反対に、投資家が多すぎても大変ですし、ときどき“エンジェル投資家コレクション”みたいなことをしている人もいますが、個人的にはあまり意味がないと思います。
西條100万円ほどの少額でも投資を受けることで、事業について質問できたり人を紹介してもらえたりするならいいと思います。
投資家の立場からは、どれくらいのリターンを想定されているのでしょう?
手嶋基本的に5倍以上を目安にしていますが、投資先のステージによって変わりますね。その後の増資やストックオプション発行による希薄化なども経て、5倍以上実績として出せる案件は現実的には限られます。
ファンドマネジメントの観点で言えば、倍率だけでなく金額も大事です。たとえば1,000万円を投資し、20倍になって返ってきても2億円ですが、5,000万円出して10倍ならば5億円になりますよね。ファンド規模によって適切な金額を投資できることも大切だと思います。
すでにIPOが1年から2年以内に見えているような企業であれば、お金を回収できる可能性が高いので、リターンの見込みが3倍ほどでも投資します。私たちが一定程度プレIPO案件にも投資しているのはこうした理由からです。
このように、ベンチャーキャピタルは出資社からの期待に応えるためにも最終的なファンドのパフォーマンスを数倍以上にはしたいし、そうできるように投資しています。
2年連続で開催された「XTech Ventures Next Entrepreneur’s Bootcamp」。プログラムをアップデートし、2021年にも開催を予定しているので、本記事を読んで「参加したい」と思われた方はぜひチェックしておいてほしい。
今後もFastGrowはメディアという枠組みに収まらず、「イノベーターの成長を支援するコミュニティ」として、ユーザーの方々とともに成長していく。
こちらの記事は2020年05月14日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
執筆
岡島 たくみ
株式会社モメンタム・ホース所属のライター・編集者。1995年生まれ、福井県出身。神戸大学経済学部経済学科→新卒で現職。スタートアップを中心としたビジネス・テクノロジー全般に関心があります。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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