投資も経営も未経験でも、VCで活躍“できる”──投資家・起業家計6人に聞く「事業会社から、唯一無二のキャピタリストになる方法」

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登壇者
西條 晋一

1996年に新卒で伊藤忠商事株式会社に入社。2000年に株式会社サイバーエージェントに入社。2004年取締役就任。2008年専務取締役COOに就任。国内外で複数の新規事業を手掛ける。2013年に数百億円規模のベンチャーキャピタルである株式会社WiLを共同創業。2018年、XTech株式会社、XTech Ventures株式会社の2社を創業、エキサイト株式会社をTOBで全株式取得し、完全子会社化。

手嶋 浩己

1976年生まれ。1999年一橋大学商学部卒業後、博報堂に入社し、戦略プランナーとして6年間勤務。2006年インタースパイア(現ユナイテッド)入社、取締役に就任。その後、2度の経営統合を行い、2012年ユナイテッド取締役に就任、新規事業立ち上げや創業期メルカリへの投資実行等を担当。2018年同社退任した後、Gunosy社外取締役を経て、LayerX取締役に就任(現任)。平行してXTech Venturesを創業し、代表パートナーに就任(現任)。

新 和博

大学卒業後に入社したNTTドコモで、法人営業や事業企画、ベンチャー投資を担当。2011年よりミクシィにてアライアンスや事業買収等を歴任した後、2013年アイ・マーキュリーキャピタル立ち上げと同時にヴァイス・プレジデントに、2015年には代表取締役に就任。2019年にW ventures立ち上げ、主な投資先はモノカブ、レンティオ、スナックミー、YOUTRUSTなど。

根岸 奈津美
  • STRIVE株式会社 パートナー 

東京大卒業後、大和証券にて上場株のアナリスト、アシックスにてIR、野村証券にて非上場株のアナリストを経験した後、2016年にグリーベンチャーズ(現STRIVE)に参画。投資先のラブグラフやノインへの出向経験もあり。現在はパートナーを務める。投資先は他にRadiotalk、カケハシ、ミナカラ、YOUTRUSTなど。

加藤 直人
  • クラスター株式会社 代表取締役 

京都大学理学部で、宇宙論と量子コンピュータを研究。同大学院を中退後、約3年間のひきこもり生活を過ごす。2015年に当社を創業し、2017年に数千人規模のイベントを開催できるバーチャルイベントサービス「cluster」正式版を開始。現在はソーシャル×ゲームの要素を加えて新たなSNSを目指す。経済誌『ForbesJAPAN』の「世界を変える30歳未満30人の日本人」に選出される。

小澤 政生

京大卒業後の2010年、株式会社サイバーエージェントに入社し、採用担当としてキャリアを積み、新卒採用責任者の責務も担う。2018年10月に株式会社TechBowlを創業し、12月にはXTech Venturesと中川綾太郎氏から資金調達。エンジニアを目指す若者が無料でプロに相談でき、キャリア形成にもつなげられる『TechTrain』を運営する。

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スタートアップへ投資し、成長に導くことによって、リターンを得るベンチャーキャピタル(以下、VC)。FastGrowでも、これまでさまざまなVCで活躍するベンチャーキャピタリストたちに取材を実施してきた。ベンチャーキャピタリストになるのは、投資銀行やコンサルティングファーム出身者、そしてイグジットを達成した起業家たちなど、特定の業界で成果を残してきたツワモノぞろいだ、そんな印象があるのではないだろうか?つまり、キャピタリストになるには「狭き門」をくぐり抜けなくてはならない、そんなイメージを、我々FastGrow編集部も抱いていた。

しかし、近年ベンチャーキャピタリストの道に通ずる門は、少しずつ広がってきているのだという。そんな現状を広く知ってもらい、日本のスタートアップエコシステムのさらなる発展に寄与すべく、現役のベンチャーキャピタリスト4名そして起業家2名をお招きし「キャピタリストへの転身ストーリー」そして「良いキャピタリストの本当の魅力」を語ってもらうイベントを開催。本記事はそのイベントをレポートする。

登壇したキャピタリストは、XTech Ventures(以下、XTV)の代表パートナーである西條晋一氏と手嶋浩己氏、W venturesで代表パートナーを務める新和博氏、STRIVEのパートナー・根岸 奈津美氏。そして起業家は、いずれもXTVが出資する、クラスターの代表取締役・加藤直人氏と、TechBowlで代表を務める小澤政生氏だ。

多彩なゲストが揃い、語り口も幾分なめらかになったイベントの内容を、事業の進め方について、あるいは自身のキャリアについて、考えを深めるのに役立ててほしい。

  • TEXT BY RYOTARO WASHIO
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XTVは「こんな会社に投資したい」が叶えられる環境

イベントは3部構成、2021年2月に2号ファンド組成を大々的に発表したばかりのXTVがその現状や社会認識を明らかにする第1部から始まり、第2部はキャピタリスト4名が転身ストーリーを披露。第3部では、起業家からVCへの期待と、XTVとの関係性が語られた。

イベントの第1部には、XTVの代表パートナーである西條氏と手嶋氏が揃って登場。語られたのは、XTVの歩みとこれからのこと、そして2人が「なぜベンチャーキャピタリストになったのか」だ。

まず語り始めたのは手嶋氏。VC業界におけるXTVの「独特の立ち位置」についてこう説明する。

手嶋日本にはCVCを含めると200ほどのVCがあるとされています。それぞれのVCの代表を務めている方々の経歴はさまざまで、新卒からベンチャーキャピタリストとして活躍しておられる人もいれば、コンサルティングファームや投資銀行出身、事業会社からベンチャーキャピタリストに転身した方もおられます。

XTVの代表パートナーである西條と私は、それぞれサイバーエージェントとユナイテッドで取締役を務めていました。上場企業の経営や、ゼロから事業を立ち上げた経験、あるいはM&Aを実行した経験がある。そういった多様な経験を持った2人が立ち上げたVCであるといった意味で、独特のポジションを取れているのではないかと思っています。

XTVの創業は2018年。1号ファンドでは39社に投資を実行した。特徴は「シードからシリーズAラウンドをメインとしていること」「ほとんどの案件でリードインベスターを務めていること」、そして「投資の対象とする企業の事業内容を限定しないこと」の3点だという。

「スタートアップの成長を創業期から最も近い立ち位置で見守れることが醍醐味」と手嶋氏。

手嶋比較的早めのラウンドから投資をするので、ベンチャーキャピタリストとしての「すごいベンチャーはいかにして生まれ、いかにして成長していくのか」といったことに対する好奇心ややりがいを強く感じられますね。また、リードインベスターを務める事が多いので、起業家から最もよく相談してもらえる立ち位置になることも、やりがいの一つでしょうね。

そして、VCにはそれぞれ投資方針があります。「SaaS企業だけに投資する」「toC事業に集中する」など方針はさまざまですが、XTVのスタイルは「投資をする事業内容を限定しない」。だからこそ、所属するキャピタリスト一人ひとりが、その個性に合わせて「こんな会社に投資したい」という想いを実現しやすいVCになっています。

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2号ファンド組成、若手もガンガン投資

第1部、続いてのトピックは、西條、手嶋両氏が「なぜベンチャーキャピタリストになったのか」だ。西條氏は「大学時代からベンチャーキャピタリストになりたいと思っていた」という。

西條大学生のときに、VCの存在を知り、絶対にベンチャーキャピタリストになりたいと思ったんです。就職活動の際、大手VCから内定をもらったのですが、まずは事業家として力を付けなければならないと考え、内定を断りました。なぜかというと、その時点でおぼろげながら「事業を深く理解して、起業家目線で伴走ができる」ベンチャーキャピタリストになりたいと思っていたから。昔の大手VCでは事業をつくり、伸ばす力は付けられないと思ったんですよね。

いつか力を付けたらVCを立ち上げるぞという想いを持って総合商社である伊藤忠商事に入り、その後、2000年にサイバーエージェントに転職しました。当時のサイバーエージェントにはベンチャーキャピタル部門はなかったのですが、自己資金でさまざまな会社に投資をしていて、リターンも得ていたんですよね。なので、キャピタリストとしての実務を学べたんです。

そして、自分が理想とするVCをつくりたいと思い、社内制度を利用してCAキャピタル(現サイバーエージェント・キャピタル)を立ち上げました。その後、サイバーエージェントを退職し、2013年にはWiLの創業に参画。4年ほどレイターステージを対象とした投資を実施し、資金の回収を見届けた上でXTVを立ち上げたという流れになります。

キャピタリストになることを目標としてキャリアを積み、XTV創業前には2つのVCを立ち上げに関わった西條氏。一方の手嶋氏にとっては、XTVが投資会社として所属する初めての会社だ。「キャピタリストになったのは偶然」と語る。

手嶋僕の場合、学生時代にはVCの存在すら知りませんでした。新卒では博報堂に入社し、事業をつくれるようになりたいと思ってユナイテッドに転職したのが、2006年のこと。その後、さまざまな新規事業を手掛けたのですが、世界中で数千万規模でダウンロードされるスマホアプリを生み出し少し話題になった直後、私のもとに相談に来たのがメルカリの山田さん(メルカリ創業者・代表取締役CEO 山田進太郎氏)だったんです。

フリマアプリ事業がどうしたら成功するのかをいろいろと議論するうちに、ユナイテッドからもしっかり投資しようという話になり、3億円ほど入れることになったのですが、その3億円が後に500億円に化けた。これが僕の初めての投資経験。この成功がきっかけで複数の会社に投資をするようになり、たくさんのベンチャーキャピタリストとお会いさせていただくようになった。

そして、メルカリのIPOを見届けてユナイテッドを退職したあと、本格的にキャピタリストの仕事をしようと思って立ち上げたのがXTV。ですので、私はベンチャー投資は10件弱経験はしていたものの、一度もVCで働かないまま、VCを立ち上げたことになります。

そうして創業されたXTVは2021年2月、最大100億円規模の2号ファンドの組成を発表した。「これまでは基盤をつくらなければならなかったため、意図的にチームを拡大させてこなかった」というが、2号ファンドの組成を機に組織の拡大を目論む。

手嶋現在は、代表パートナー2人に加え、キャピタリスト3名とコーポレートチーム2名といった体制。現時点でのべ100億円以上を運用するファンドとしては、かなり手薄な体制だと思っています。逆に言えば、これからジョインしてくる人にも大きなチャンスがある。

特に、若い年齢層の方にぜひチームに加わっていただきたいと思っています。投資を実行するまでに長い下積み生活を送らなければならないVCもありますが、うちでは若手にもがんがん投資してもらうつもりです。2号ファンドを組成し、かなり資金はある状態なので、実際に投資をするチャンスは大いにありますよ。

第1部の最後、手嶋氏は「(メルカリの今の成功に貢献できたことはあまりないので)普段あまりこういうことは話さないのですが」とした上で、VCで働くやりがいを語った。

手嶋僕がメルカリの山田さんとお会いしたのは、創業から6カ月目でメンバーは10人弱といった状態でした。そのメルカリは、いまや日本を代表するスタートアップになり、時価総額は1兆円目前となっています。

出会いから7年。僕はその成長のプロセスを、ずっと間近で見せてもらいました。こんな経験ができる仕事は他にないと思います。将来の偉大な会社の一歩目二歩目を見られるんです。事業会社に入り、偉大な会社をつくり上げるチャレンジをすることも素晴らしい経験になると思いますが、VCであれば複数の会社に関われる。多くの会社と共に成長していく経験ができることは、VCならではのやりがいですね。

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起業してなくても、キャピタリストにアポはとれる

第2部は「パネルトーク of VC」と題し、XTVのみならずさまざまなVCに所属するキャピタリストを招き「VCというキャリア」についてのディスカッションが展開された。登場するのは第1部に引き続きXTV西條氏、手嶋氏に加え、W venturesの代表パートナーである新氏、STRIVEでパートナーを務める根岸氏の4名だ。

新氏が率いるW venturesは、toCサービスを展開する企業を中心に投資を実施するVCだ。XTV同様、投資ラウンドはシード・アーリーなど早いフェ―ズがメインとなっている。新氏は新卒でNTTドコモに入社後、ミクシィへとジョイン。それぞれのCVCで投資の実務経験を積んだ後、2019年にW venturesを立ち上げた。

一方の根岸氏が所属するSTRIVEは、事業領域を問わず、シリーズAを中心に投資を実施している。同氏は証券会社の株式アナリストとして新卒入社後、アシックスでのIRを経て、野村證券でIPOを支援する部門のアナリストを務めることになる。そこでVCの存在を知ったそうだ。「野村證券では上場を目前に控えた会社を支援することが多かったが、より早い段階から、事業をつくり上げるサポートがしたいと思い、STRIVEの門を叩いた」という。

事業会社で経験を積んだ後、ベンチャーキャピタリストとなった両者に、VCへの転職を考えている方々へのアドバイスを聞いた。大切なことは「VCに所属している人との接点を確保すること」だという。

新氏のイベント時の様子(右上)

どのVCもそうだと思うのですが、採用枠はたくさんあると言えないのが実情だと思います。W venturesは、次のファンド組成のタイミングで採用も進めようと思っていますが、大量採用することはないでしょう。業界全体でも、年間で20~30人程度というイメージです、まだまだ多いとは言えません。

VCが採用を強化するのは、ファンド組成のタイミング。VCへの転職を考えるのであれば、そういった情報をいち早くキャッチする必要があるので、さまざなVCのメンバーとのつながりを持っておくと良いのではないかと思います。つながりを持っておくことによるデメリットは何もありませんし、VCの人は「お茶をすることが仕事」と言ってもいいくらい、多くの人とお茶をしたり面談をしている。「転職の相談がしたい」と言ってアポイントメントを取ることは難しいことではないと思いますね。

根岸そうですね、キャピタリストの方々と会って「どんな人を求めているのか」「どんな仕事をしているのか」といったことをヒアリングし、解像度を高めておくことは重要だと思います。

先程手嶋さんから「VCにはそれぞれの方針がある」というお話がありましたが、そういった各社の特徴を捉えるためには、中の人から話を聞くのが手っ取り早いでしょうね。最近私も知り合いづたいで「VCに興味がある」という人とお会いし、お話をしていますよ。

「たしかにVCへの転職は狭き門だが、採用に困っているVCが多いのも事実」とするのは西條氏だ。「応募はあるものの、なかなかマッチする人材に巡り会えず採用が進まない」という声を聞くことも少なくないそう。では、「マッチする人材」とはどんな人物なのだろうか。ベンチャーキャピタリストには財務などの専門知識が求められるイメージもあるが、実態どうなのだろう。

うちのファンドは、シード・アーリーフェーズの会社を中心に投資をしていることもあり、財務に関する専門知識までは必要ないと思っています。私も投資先の事業計画の詳細までは見ていませんしね。

財務のざっくりとした全体感さえ分かっておけば、それでいいと思っています。そういった専門知識より、各業界や社会のトレンドをキャッチアップすることや、社会のどんなところに課題が生じているのかをしっかりと感じ取る「アンテナの高さ」といった要素の方が、シード・アーリーフェーズを担当するキャピタリストには求められる。

根岸あとは、事業経験を持っている方を求めているVCは多いと思いますね。インターネットビジネスのイロハを分かっていて、実際に事業をグロースさせた経験を持っている人は、VCでも重宝されるでしょうね。

実際、STRIVEの社内でも「AIなどのテクノロジーを活用した事業を推進してきた人材を採用したい」という話が挙がっています。テクノロジーを活用した事業を展開するスタートアップが増えてきているからこそ、キャピタリストもそういった領域の知見は持っておいた方がいい。もちろん、イチから勉強することも可能ですが、やはり入社時からテクノロジー分野に精通している人が採用できれば、我々としても嬉しいですから。

一方で、「この知識を持っていればキャピタリストとして成功できる」といったものは無いと思っています。営業力がある方、ブログなどでの発信が得意な方、とにかく懐が広くて起業家のどんな相談にもとことん付き合う方……。成功しているキャピタリストの方々を見ていると、さまざまなタイプがいるんですよね。「これが自分の武器だ」と言えるものを持っていることが大事なのかなと思います。

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「営業の立ち上げ」すら、VCとしての強みに

一方で、新氏は「事業経験がなくても活躍できるのが、VCの世界」とする。

実は活躍するための明確なハードルや条件が無い職業なのかなとも思っています。金子さん(East Ventures パートナー 金子剛士氏)や河野さん(ANRI ジェネラル・パートナー 河野純一郎氏)は新卒でVCの世界に飛び込んでいますよね。

投資銀行やコンサルティングファーム出身のキャピタリストも多いですが、そういった職歴がないと活躍できないかというと、そうではない。とにかく、好奇心と責任感があれば、一定の活躍はできる仕事なのかなと思いますね。

根岸どんな人が活躍するのかというお話でいくと、営業力を持っていることは重要だと考えています。というのも、私は先程申し上げたようにハンズオン支援がしたくてこの業界に入ったのですが、そもそも投資家から「この人に投資してもらいたい」と思われないと、ハンズオンは始まらないわけですよね。

私はSTRIVEに入るまで、いわゆるIT業界にいなかったので、転職してからの1年は「いかに優秀な起業家と知り合い、『投資してもらいたい』と思ってもらうか」ばかり考えていました。TwitterのDMを送りまくるといった、やろうと思えば誰でもできるようなことをずっとやっていました。

noteを書くといった、VCに転職するまではやったことがなかったこともたくさんやりましたし、自分で自分の道を切り拓こうとするスタンスが重要なのかなと思います。

西條変にプライドを持たずに、「とにかく何でもやってみる」スタンスを持っていることは、キャピタリストにとって重要な資質でしょうね。CAキャピタルを立ち上げたとき、営業出身のメンバーが多かったんですよ。経営経験はないわけですから、経営のアドバイスはできないと。じゃあ何もできないかというと、そうではない。多くのメンバーがそれまでの経験を活かして、「こうやって朝会をやったほうがいい」「KPIはこう立てるべし」などのアドバイスを行いながら、営業組織の構築をサポートしていたことを覚えています。

これは、国内だけではなく、海外の投資先にも大いに喜ばれました。たとえばベトナムの企業では、営業組織の立ち上げをイチから手伝うことで大きな価値を提供できていた。営業じゃなくてもなんでもよくて、とにかく自らの「得意」を活かして、投資先に貢献しようと動けることが重要だと思います。

「ハードルが高い」と思われがちなキャピタリストへの転職だが、現役のキャピタリストの話を聞いていると、多くの人に活躍のチャンスがある職種のように思えてくる。

とはいえ、どんなVCでもキャピタリストとして大きく成長し、活躍できるわけではないだろう。事業会社からVCへの転職を考えている人は、いかにして転職先のVCを選ぶべきなのだろうか。話は「入社するVCの選び方」に及んだ。

根岸氏の登壇時の様子(右上)

根岸私は「人数が少ないところがいいな」と考え、転職先としてSTRIVEを選びました。というのも、以前いたような大きな組織では、自分が携わりたいと思った投資や支援に対して、全てにいつも全力でコミットできるとは限りません。関わる人数が多いからです。一方で、小さな組織ならある程度、自分の裁量でコミット度合いを調整できる、だから私が今やりたいのはこっちだろうと。なので私がアドバイスするなら、今は人が足りていないような組織を選ぶべきかなと言いますね。

もう一つの判断軸は、「実際に自分で投資ができること」。私はSTRIVEが2号ファンドを組成したタイミングで入社したのですが、2号ファンドでは年間投資先が7社ほどで、その7社の枠を勝ち取るのがとても難しかったんですよね。

そういったこともあって3号ファンドでSTRIVEは、若手育成のために3億円の資金を確保し、若手に投資を任せる制度を作りました。投資額は少額ですが、若手に「やってみなよ」と任せる。そういった制度で、3号ファンドのタイミングで入社したメンバーは入社して早々に自らの責任で投資を実行できました。実際に投資を行ってこそ学べることも多いと思うので、なるべく早く投資ができる環境を選ぶべきだと思っています。

根岸さんがおっしゃった「人が少ないこと」「実際に投資させてもらえること」は、環境選びの観点としてとても重要だと思いますね。ミクシィでは長い期間、投資担当が私しかいなかったので、案件を担当する数を増やすことができた。こうした環境だったからこそ力が付き、成果も出せるようになったんです。

起業家のみなさんが持ってくる事業計画が、計画通りに進むことなんてほとんど無いんですよね。「こういう事業は、将来的にこういった壁にぶつかるだろう」「このタイプの起業家は、いつか組織的な問題を抱えることになりそう」といったパターンを掴むには、やはり実際に投資して、伴走するしかない。パターンを掴み、問題を未然に防ぐためのアドバイスをすることは、キャピタリストの重要な仕事の一つ。そういった意味で、キャピタリストとして成長するためには「自分の責任で何件も投資できる環境を選ぶこと」が重要だと考えています。

手嶋XTVの2号ファンドは約100億円を運用しようと考えています。そのうち、20億円ほどはファンド運用のためのコストになるので、実際に運用するのは80億円ほどになる。理想的なシナリオとしては、80億円の約半分は私と西條が運用を担当し、あとの半分の40億円ほどは現在在籍しているメンバーと、これから入ってくる人が持ってくる案件にしたいなと思っています。

この40億円の争奪戦になるので、これから入社する人にはがんがんその資金を取りに来てほしい。もちろん西條や僕にも投資に対する考えはあるので、意見を言うこともあるでしょうが、それを乗り越えて、どんどん自分の信じる起業家にベットする挑戦をしてもらいたいと思っています。

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出向でも常駐でも「何でもアリ」の事業支援が面白い

続いて、話題はVCへの転職を考えている人にとっての大きな関心事の一つである、「投資後のハンズオン支援の実態」に移った。キャピタリストたちは、どの程度投資先に入り込み、事業成長に伴走しているのだろう。「ハンズオン支援がしたい」と、この業界に入った根岸氏はその想いを実現できたのか。

根岸投資先であるラブグラフに半年間、完全に出向させてもらった経験があります。STRIVEにそういった制度があったわけではなくて半ば強引に上司を説得し、出向したんです(経緯を綴ったnoteはこちら)。

ラブグラフ以外でも、スポットCFOとして経営者と2~3週間行動を共にさせてもらったり、投資直後の3か月から半年の間、会社に常駐させてもらうといったようなことをしています。

もちろん、そういった張り付き型の支援ではなく「見守ってほしい」という会社もありますし、必ずしも近い距離で伴走するわけではありません。いずれにせよ、目的は投資先を成長に導くこと。そのために自分の持てる力を発揮できるのは、この仕事ならでは面白さだと思いますよ。

キャピタリストがハンズオンで提供できる支援というのは、いま根岸さんがおっしゃったように、資金調達の部分であったり、1歩引いた立ち位置から組織の課題を分析し、解決に導くことだと思っています。

そういった支援をするためには、困ったときにすぐ相談してくれる関係性をつくっておくことが重要。悪いニュースでもすぐに共有してもらえるような間柄になり、さまざまな苦境を共に乗り越えていくことで、より強固な信頼関係を構築する。そして、どんな小さな成功でも一緒に心から喜ぶ。それが、キャピタリストとしてハンズオン支援をする、最大の喜びだと思います。

第2部もいよいよ終盤。最後は、根岸氏と新氏に「キャピタリストとして働くやりがい」を語ってもらった。

根岸これは猪子さん(チームラボ代表 猪子寿之氏)がおっしゃっていたのですが、「歴史に名を残す人とは、人々の価値観を変えた人だ」と。そして、価値観が変わる瞬間や、その前後にこそ、大きなビジネスチャンスがある。

キャピタリストの仕事というのは、その「価値観が変わる瞬間」を見極める仕事だと思っているんですね。そして「歴史に名を残す人」に投資をし、共にその瞬間を実現していく。ここにとても大きなやりがいを感じています。いま投資している企業とも、これから投資していく企業とも、世の中の価値観を変えるような大きなビジネスを生み出していきたいと思っています。

私がこの仕事に感じる魅力は2点あります。一つ目は、年齢が関係ない世界であること。起業家の世界もそうですが、VCも年功序列ではないですよね。大きな成果を挙げている若手キャピタリストも多いです。若手が年上のプレイヤーと対等に戦える、逆に、年上も若手のことを素直に尊敬できる、そんなフェアな世界であることがこの業界の魅力の一つでしょう。

もう一つは、自分がつくりたい未来をイメージして、その未来を実現できること。たとえば、ある業界に所属していて「この業界のここが問題だよな。どうにかしたいな」と思っている人は多いはずです。

VCではその課題を解決しうる企業に投資し、その会社の成長を支援することで、「なんとかしたい」という想いを形にできる。そして、投資した会社が大きく成長することで、所属しているファンドに利益をもたらせる。自らのイメージする理想の未来を実現することに、ビジネスとしての成功が伴ってくる点がこの仕事の大きな魅力だと感じています。

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起業家が語る「良いキャピタリストはオタク気質」

イベントは第3部に突入。第3部は、XTVが出資している企業の経営者を招き「起業家から見たVCの存在」について語ってもらった。登場するのは、バーチャルSNS『cluster』を展開するクラスター代表の加藤直人氏と、エンジニア向けオンラインコミュニティサービス『TechTrain』を運営する、TechBowl代表・小澤政生氏だ。

まずお二人にお伺いしたのは、「どんなVCからであれば、資金を調達したいと思うか」。起業家目線から「理想的なVC像」を語っていただいた。

加藤氏のイベント時の様子(右上)

加藤僕が経営者として、投資家に対して「ありがたいな」と思ったことは2点あります。1点目は、経営者の先輩など、たくさんの人を紹介してくれること。事業へのアドバイスをもらうこともありがたいのですが、それ以上に人を紹介してくれることの方が嬉しいんですよ。

というのも、経営者との横の繋がりを得たり、近い事業を展開している先輩方と知り合う機会はたくさんあるわけではない。なので、たくさんの経営者とのつながりを持っているVCがそういった機会を提供してくれるのは、とてもありがたいと思っています。

2点目が、その後の資金調達まで丁寧にサポートしてくれたこと。具体的に言うと、XTVから投資していただいたあと、次のラウンドの資金調達を進めようというタイミングで、手嶋さんが土日にもかかわらず、1日かけて一緒に事業計画書をつくってくれたんです。「お金を出す側からすると、こういうポイントは気になるから盛り込んだ方がいいよ」とVC目線の具体的なアドバイスをいただいたことは、とても助かりましたね。

小澤僕は事業のプロフェッショナルたちの知見を借りるために、VCからの投資を受けました。VCが持っている人脈や、キャピタリスト自身の知見を借りられるところが、VCから投資を受ける意味だと思っています。なので、事業運営の知見を豊富に持っているVCは魅力的だなと思いますね。

XTVのお世話になりたいと思ったのは、人脈や事業運営の知見をどのVCよりも貸してくれると感じたから。僕が西條さんと出会ったのは、まだサービスのプロトタイプすらないときだったんです。すでにたくさんのVCには会っていたのですが、ビジョンはあるけど、いかに儲けるのかが定まっていなかったために、なかなか噛み合わなかった。

そういった状況で、豊富な事業経験を持っている西條さんの知見をお借りできたのはとてもありがたかったです。

合わせて、具体的なやり取りについて小澤氏が笑顔で振り返った。

小澤実は今XTVとの関係について言うと、西條さんや手嶋さんではなく、安岡さん(シニアアソシエイト 安岡浩太氏)と非常に密接に連携を取らせていただいています。社内Slackに入っていただいていて、僕から日々の嬉しかったことや悲しかったことを全部シェアしています。返事やスタンプをいつもくれるので、「起業家の孤独」を癒してくれるんです(笑)。

毎月定例のミーティングには、必ずうちのTechTrainのTシャツを着て参加してくれます。こうしたちょっとした気遣いも嬉しいですね。

小澤氏のイベント時の様子(右上)

さまざまなVCに所属するキャピタリストとの接点を持つお二人。つづいて伺ったのは「キャピタリストに向いている人物とは」。起業家たちは、どんなスキルや行動特性を備えた人物を求めているのだろうか。

加藤キャピタリストの仕事は「投資判断を行うこと」と「投資した企業を支援すること」の2つに大別できると思っています。前者に求められる力は、正直僕には分からない。投資判断の可否を決める目利きに求められるのは、感性というか、言語化できない力なのではないかと。なので「どんな人が投資判断をする仕事に向いているか」は、正直僕からは伝えられないかなと。

僕らは支援を受ける立場なので、その立場から「投資した企業を支援する仕事」に向いている人はお答えすることができるかなと。向いているのは、好奇心を持って勉強し続けられる人なのではないかと思っています。

キャピタリストはさまざまな領域の企業を担当することになりますよね。僕らが展開しているVRやゲームの領域も、キャピタリストからすると「one of them」になる。それでもこの領域のことを勉強し、知見を得ようとしている姿を見ると、とても頼もしいなと思うんです。

たとえば、手嶋さんは頻繁に「こういうニュースが出ていたけど、これってどういうことなの?」とメッセージをくれる。僕らの領域に興味を持ってくれているのだと、起業家としてはすごく嬉しいんですよね。そういった意味で、さまざまな領域に飽くなき好奇心を向けられる人は、キャピタリスト向きだと思います。

あとは、オタク気質を持った人でしょうかね。キャピタリストの仕事って、自分が好きな会社を「推すこと」じゃないですか。これは“オタク的な行為”ですよね。実際、成果を出しているキャピタリストの方々に会ってみると「オタクだなー」と思うことが多いですね。

小澤「ダメなことをダメ」と言える人が向いていると思います。僕ら起業家からすると、はっきり「ダメ」を言ってくれることがありがたいので。僕にとってTechBowlは始めての起業ですし、何をすべきなのか、何をやってはいけないのか分からないんですよね。一方、キャピタリストの方々はさまざまな企業の成長の過程を見ている。その経験から、はっきりと「これをやらなくてはダメだよ」と言ってもらえると嬉しいんです。

たとえば、僕は個人的に数字を見る力が弱いと感じています。事業としてどの数字を伸ばすべきなのか、KPIを絞る力が弱い。波多江さん(当時XTech Venturesパートナー・現イークラウド代表取締役 波多江直彦氏)はその僕の弱点をしっかりと指摘してくれますし、かなり鍛えてもらっている感覚があって、とてもありがたいと思っています。

もう一つは、「先を妄想できる人」だと思います。僕らのサービスはまだPMF(Product Market Fit)していないので、これから一層サービスを磨き込んでいかなければならないのですが、「このままいくと、こういうことが起こる可能性がある」「サービスのここをチューニングすれば、さらに伸びると思う」と細かくアドバイスしてほしいんですよね。

その予測が合っていなくても構わないので、第三者としての意見をガツガツ言ってくれることはとてもありがたいですし、常にさきまわりして、おせっかいを焼ける人が向いているのかなと思います。

こうして、約1時間半に及ぶイベントの幕は閉じた。

日本におけるVCの歴史はまだ始まったばかりだ。キャピタリストになるという選択肢も、まだまだ一般的であるとはいえないだろう。しかし、その選択肢を選ぶ、あるいは志すビジネスパーソンが少しずつ増えていることも事実だ。

スタートアップエコシステムの発展に伴い、「狭き門」とされてきたキャピタリストへの道は、少しずつ開かれつつある。キャピタリストを志すビジネスパーソンは、これから更に増えていくだろう。事業会社とは異なる魅力とやりがいに富んだVCの世界に飛び込むのは、今が絶好のタイミングなのかもしれない。

こちらの記事は2021年03月29日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。

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執筆

鷲尾 諒太郎

1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。

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