連載事業家の条件
新卒でXTech子会社役員へ就任した廣川航氏に聞く、事業家キャリアの歩みと展望
世界を変える事業家の条件とは何だろうか──。
この問いの答えを探すべく、連載「事業家の条件」が立ち上がった。数々の急成長スタートアップに投資してきたXTech Ventures共同創業者・手嶋浩己氏が、注目する事業家たちをゲストに招き、投資家の目から「イノベーションを生み出せる事業家の条件」を探っていく。
今回は、XTechの子会社であるM&A BASE取締役を務める廣川航氏に話を伺う。廣川氏は在学中に10社ほどでのインターンを経て、2018年4月にXTechへ参画。2019年1月には同社へ新卒第一号として入社し、2019年2月に代表・西條晋一氏とともにM&A BASEを立ち上げた。
新卒入社してすぐ子会社役員に就任するのは、異例といえるだろう。事業家としてのキャリアが短いながらも、廣川氏が今のポジションに就いた背景を探ると、彼のチャンスを手繰り寄せる主体性と、経験の少なさを補う情報収集力に光が当たった。
- TEXT BY RYOTARO WASHIO
- EDIT BY MASAKI KOIKE
East Ventures松山太河氏との出会いで、IT業界へ踏み入った
廣川氏は、XTechにおいてジョイントベンチャーの立ち上げや子会社の事業計画の策定、資金調達の支援などを行っている。
XTechに新卒入社して間も無く経営に携われているのは、複数のスタートアップやEast Ventures、あすかコーポレイトアドバイザリー、トーマツベンチャーサポートなど10社ほどでのインターン経験が活きているからだ。
彼のキャリアの原点は、趣味として株式投資を始めた中学2年生のとき、投資ファンドによる企業買収が描かれたドラマ『ハゲタカ』を観たこと。投資ファンドに強い興味を抱き、「大きな資本を用いて仲間と事業をつくり、イグジットに向かっていく経験を積みたい」という想いが生まれた。
当時から、やりたい仕事を周囲の人々へ伝えていると、夢の実現につながる機会が巡ってくるようになった。契機になったのは、高校3年生で友人に誘われ参加したビジネスコンテストだ。
廣川氏は株式投資を中高生に広げる事業をプレゼンし、入賞。そこで審査員を務めていたEast Ventures代表の松山太河氏と出会った。
廣川当時、VCにはそこまで関心がなく、企業再生ファンドで働きたい想いがありました。どちらも同じ投資ファンドですが、実務はまったく違います。
けれど、「もしかしたら企業再生ファンドとパイプがあり、紹介してもらえるかもしれない」という下心もあり、興味のある事業について太河さんに伝えると、ときどきお茶してもらえるようになりました。
もともと廣川氏は、ライブドア事件などの影響もあり、IT業界に対し「うさんくさい」印象を抱いていた。しかし、松山氏との出会いによって心境が変化し、彼に紹介された企業で最初のインターンを開始。リサーチ業務を手伝うようになった。
未経験のM&A支援事業をつくるため、Twitter経由で人脈を形成
その後、さまざまな企業で働いた後、XTechに参画した廣川氏。その経緯を聞くと、意外にも就職活動に難航したエピソードが明かされた。
廣川志望していた企業の面接で、いつも「企業の買収をしたいです」と本心をそのまま話してしまうんです。面接官からすれば「生意気な学生が来たな」と思われてしまいますよね(笑)。
そんなとき、手嶋さんにお会いする機会があり、お話を聞く中でXTechの環境に魅力を感じました。その後、西條さんにも会わせてもらうと、『ハゲタカ』の話で盛り上がり、お互いにやりたいことも似ていたので、翌日にインターンを開始しました。
手嶋当時はXTechが創業したばかりで、何をする会社なのか世間に知られていませんでした。廣川くんには、未発表だったエキサイトの買収や、XTech Venturesの立ち上げなどの取り組みについて伝えた上で、西條さんと会ってもらったんです。
こういった経緯で廣川氏はXTechにインターンとして参画した。これまでのインターンはやるべきことが明確に決まっていたが、XTechでは「そもそも何をすべきか」から考えなければいけなかった。その環境に戸惑いを覚えることもあった廣川氏は、「幅広い仕事に関わらせてもらったが、特に大きな成果は残せなかった」と話す。
2019年1月には新卒入社するとも決まったが、XTechで何をすべきかが見えてこなかった。「入社は決まっているけれど、どうするの?」と手嶋氏に焚きつけられ、やるべきことを模索していく。
思考を巡らせる中で、「M&A」というトピックに関心を抱いた。Twitterを通じてM&Aに関する仕事をする人とつながり、話を聞いていった。当時は毎日、3人ほどと会っていたという。
かくしてM&A BASEを創業したが、誰からも指示をもらえない環境な上、未経験の事業ゆえに何から始めればいいかも分からない。廣川氏は書籍を読み込み、得た知識をもとにM&Aに携わる人たちと議論するなかで、事業のつくり方を模索していった。
西條氏からは「経営者として幅広い挑戦をする」ようにアドバイスされているという。模索は今も続いており、M&Aの枠に捉われず、幅広いコンサルティングの提供も検討しているそうだ。
M&A BASEは初年度から売上が立ったとはいえ、廣川氏は「まだまったく成果を出せていない」とこぼす。まだ満足できる規模ではないからだ。
廣川企業にとっての利益は、人間にとって酸素のようなものであり、なければ死んでしまいます。お金を集められないうちは、まだまだ未熟です。結果につながる行動が足りていないと捉えています。
結果を出している人のお話を聞くと、自分との差の大きさを痛感します。今はとにかく、西條さんと手嶋さんから言われたことを徹底するのが大切です。お膳立てされているような立場である以上、少なくとも、完璧な仕事をしなければいけません。
手嶋氏も評価する、廣川氏の情報収集術
廣川氏は自身を「未熟」と形容するが、キャリアの短さゆえ、経験が少ないのは仕方ない面もあるだろう。しかし、経験の少なさを補うため、情報収集は幅広く、その点を手嶋氏にも評価されているようだ。
手嶋廣川くんは、知識で仕事の質を補うために、休日も仕事のことを考え続けています。若くとも、与えられた役割を果たしてくれるから、責任ある仕事を任せられます。とはいえ、知識だけで戦える限界がいつか来るので、豊富な経験を積んでいってほしいです。
たとえば廣川氏は、「この業界にはどんな会社がある?」と聞かれたときにすぐ答えられるよう、あらゆる業界で目立った業績を残す企業を把握しているという。それができるのは、普段の生活で見聞きした物事から、企業の動向を細かく調べているからだ。
廣川街を歩いていて「カナダグースのダウンジャケットを着ている人が多い」と気づいたとき、同ブランドと独占販売契約をしているサザビーリーグの動向まで調べます。そういった情報収集を積み重ねていくと、仕事におけるコミュニケーションの手札が増えていく気がするんです。
関心はビジネスに留まらず、エンタメの知識を吸収することにも積極的だ。コミュニケーションの種をつくるため、週末には1.5倍から2倍速で5本ほどの映画を観ているという。
先述したM&A BASE創業時のエピソードが示す通り、何か知りたいことがあったとき、インターネットで調べた情報だけで足りなければ、有識者に会って話を聞くことも大切にしている。
このように知識の吸収に力を入れる一方、手嶋氏が話したように、経験が足りないことには引け目を感じているようだ。
廣川多少の知識があるだけでは駄目で、事業経験を積まないと薄っぺらい発言しかできません。情報を集めたり発信するばかりで、事業づくりが疎かにならないよう、注意しています。
信用を借りて結果を出し、自らの信用を貯めていく
廣川氏に今後の展望を聞くと、具体的な答えが返ってきた。将来的にはプライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)に携わりつつ、「必須ではないけれど、人々の生活をより豊かにする」ようなブランドを複数手がけたいという。現時点では、4つほどの事業領域に興味を持っているようだ。手嶋氏は「ここまで明確にやりたいことを言える若者は少ない」と、廣川氏への期待を露にする。
手嶋引き続き僕や西條さんの信用を借り、仕事に邁進してもらいたいです。とはいえ、いつまでも信用を借りっぱなしでは、自分の思い通りに仕事を進められません。いずれは大きな成果を出し、自分の信用を獲得していってほしいです。
XTechがPEファンドを立ち上げる可能性もありますが、それを廣川くんに任せるには、まだ信用が足りません。今の仕事とPEファンドの運営は、まったく別物ですからね。
廣川当たり前に活躍できなければいけませんが、今は何よりお二人に振り落とされないことが大切なフェーズ。着実にレベルを上げていき、西條さんと手嶋さんに恩を返していきたいです。3年後に「廣川を採ってよかった」と思ってもらうには、期待を超え続けるしか道はないと思っています。
こちらの記事は2020年04月14日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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連載事業家の条件
執筆
鷲尾 諒太郎
1990年生、富山県出身。早稲田大学文化構想学部卒。新卒で株式会社リクルートジョブズに入社し、新卒採用などを担当。株式会社Loco Partnersを経て、フリーランスとして独立。複数の企業の採用支援などを行いながら、ライター・編集者としても活動。興味範囲は音楽や映画などのカルチャーや思想・哲学など。趣味ははしご酒と銭湯巡り。
編集
小池 真幸
編集者・ライター(モメンタム・ホース所属)。『CAIXA』副編集長、『FastGrow』編集パートナー、グロービス・キャピタル・パートナーズ編集パートナーなど。 関心領域:イノベーション論、メディア論、情報社会論、アカデミズム論、政治思想、社会思想などを行き来。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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