ブライダル業界の縮小に、歯止めをかける。
「結婚式=画一的」を打破するリクシィの展望
投資家やVCが事業のどこに注目し、何を高く評価するのか── 起業家にとって、資金を調達し、その先に見据えるミッション実現を目指すうえでも知っておきたいポイントだ。しかし、投資の決定要因が語られる機会は決して多くはない。
そんな閉ざされた世界を解き明かし、急成長するスタートアップを増やしていくべく、連載企画「XTV手嶋氏と迫る、事業家の要諦」が立ち上がった。XTech Ventures株式会社共同創業者兼ジェネラルパートナーの手嶋浩己氏が、主に投資先のスタートアップCEOと対談。手嶋氏が投資を実行するまでの経緯から現在に至るまで、事業成長の背景を掘り下げていく。投資家が魅力を感じる事業の共通項や、創業期スタートアップが成功するために押さえるべきポイントを明らかにする。
第2回は、2019年4月にXTech Venturesをから資金調達した株式会社リクシィ代表・安藤正樹氏との対談を前後編でお送りする。今回は、その後編だ。(前編はこちら)
リクシィは、「結婚式における選択肢の多様化」を目指し、2018年6月に業界初となるオンライン結婚式準備サービス「Choole【チュールウエディング】」をローンチ。従来のようにドレスやフラワー、ヘアメイクのそれぞれを各式場が定めたものではなく、一つひとつ自由に選べるのが特徴だ。
しかし、ブライダル業界はシュリンク傾向にあるといわれる。なぜ、XTech Venturesはリクシィへ投資をしたのか。
後編では、安藤氏が目指す「結婚式における選択肢の多様化」について、手嶋氏とともに掘り下げていく。画一的なイメージを拭い去り、潜在的なユーザーを生み出すための課題と戦略に迫る。
- TEXT BY HUSTLE KURIMURA
- EDIT BY TAKUMI OKAJIMA
レガシー産業での新規サービス投入は、”タイミング”が命
Chooleだけでなく、「gensen wedding」、「リクシィキャリア」、「リクシィブライダルコンサルティング」の運営を通じて、多角的にブライダル業界の課題解決へ挑むリクシィ。なかでも最も力を注いでいるのは、 「結婚式における選択肢の多様化」をサポートすることだ。
安藤「ドレスだけはこだわりたい」や「自分の好きなお酒を持ち込んで振る舞いたい」など、さまざまな理由から自由度の高い結婚式が求められています。しかし現状では、ドレスやフラワー、カメラマンなどの結婚式を構成する要素は、各式場が定めた候補のなかから選べないパターンがほとんどなんです。
画一的で選択肢の少ないプラン提供は、近年の結婚式離れの一因にもなっている。結婚を控えるカップルにとっての選択肢を増やし、個性的な結婚式が生まれやすい環境をつくることは、約2.4兆円と言われているウェデイング市場の規模拡大にもつながるだろう。
安藤氏は、新規事業のChoole【チュールウエディング】によって選択肢の多様化による結婚式のパーソナライズを実現し、リクシィのミッションである「ブライダル業界の構造改革、結婚式であふれた世界を創る」を成し遂げたいと話す。
安藤Chooleを通して、式場をはじめとしたブライダルに携わる人たちが、良い結婚式を提供することに集中できる環境をつくっていきます。式場であれば、「スタッフがとにかくフレンドリーなことが売りです」とか「スタッフみんなが盛り上げ上手です」とか、式場ごとの個性が見えるようになってはじめて、「結婚式=画一的」というイメージを払拭できると思っています。
加えて、「結婚式における選択肢の多様化」が進むと、安価なドレスやフラワーなどを優先して選択できるようになるので、現状よりリーズナブルに挙式を行えるようになる。平均で約350万円とも言われる費用がネックとなり、これまで結婚式の開催に消極的だった方々も、より気軽に開ける世界をつくりたいんです。
目指す世界観を実現するため、安藤氏が創業当初から構想していたサービスがChooleである。いきなりChooleのローンチに注力するのではなく、複数サービスの提供を行ったのは、ひとえに「結婚式場をはじめとする業界内の企業と信頼関係を築き上げるためだった」と安藤氏は語る。
安藤Chooleはユーザーのストレスを大きく減らすことができ、「やれば必ず伸びる」と信じている、“肝入り”のサービスです。「Chooleを伸ばせなければ、業界課題を解決できない」とまで思っています。しかし、タイミングを計らずに闇雲に仕掛けても、業界のステークホルダーに受け入れられなければ、サービスが成り立ちません。
だから、gensen weddingやリクシィキャリアの提供を通じ、業界のステークホルダーとの信頼関係を築けるまで、ローンチを待ったんです。これからは、Chooleを“爆伸び”させるつもりです。
一方、手嶋氏も投資の段階ではすでにローンチされていたChooleの、「産業を流動化させる」部分に、業界変革の可能性を見出しているという。
手嶋ブライダル業界のサービス提供は垂直統合モデルになっています。「上から下までこれにしてください」と決まっているプランをバラバラにし、ユーザーにとっての選択肢を増やすことで、産業を流動化させようとしている。
僕たちが安藤さんに声をかけてもらったのも、収益や業界内における信頼残高といったChooleのための基盤ができて、これからブーストをかけて伸ばしていくタイミングでした。僕たちもこのサービスが目指す課題解決の方向性に共感していますし、ブライダル業界の縮小に歯止めをかけ、好転させるほどのポテンシャルがあると感じたので、投資を決断しました。
今後は、コンテンツホルダーとタッグを組んでオリジナルの結婚式を企画し、全く新しいブライダル体験を提供することを視野に入れる安藤氏。結婚式を検討しているカップルに対して、これまでにない角度から訴求することによって、ユーザーを増加させるとともに、業界への注目度を上げる狙いがあると話した。
「リピートされない前提のサービス」だからこそ不満が放置されてしまう
ブライダル業界のアップデートのためには、乗り越えなければならない壁がいくつもある。たとえば、結婚式そのものがリピート前提ではないことによって生じる、サービスを提供する側にとっての難しさだ。
手嶋結婚式を終えたユーザーが何かネガティブな感想を持っていることが分かっても、「まあ、しょうがないかな」といって変革の機運を見せないまま、改善されることなく月日が経ってしまう。安藤さんが取り組むブライダル業界の「負」を真っ向勝負で一つひとつ解消していくというのは、経営者としての根気と覚悟が問われますね。
安藤結婚式場としても、毎日目の前の顧客にサービスをする必要があり、顧客が減っている本当の原因まで考えを巡らせるのが難しい状況です。一方、そうしているうちに、どんどん不満の声ばかりが溜まっていってしまう。Chooleの運営などを通じ、まずは一つでも多くの満足していただける結婚式を提供する。私たちは、そうしたアプローチで業界変革に貢献したいと考えています。
特にITスタートアップがリクシィのようにレガシー産業に切り込む際には、ひとつのポイントに留意しなければならないと手嶋氏は語る。
手嶋このような領域で事業を展開するときに気をつけなければならないのが、「ユーザーがそれほど課題を感じていない問題」です。ウェディングはほとんどの人にとって、”人生で最初の体験”です。今まで体験したことのないことに対して、最初から不満を持つユーザーはいません。
安藤なので、いわゆる”ネット的”な手法で業界に参入しようとすると失敗すると思っています。少しずつ社会全体の意識変容を促していくようなイメージで、業界全体の変革を推進しています。
現在はネット広告やオーガニック検索、イベントの開催など、10本ほどの施策を実行に移し、効果検証をするという流れで、認知の獲得に向けた動きを進めています。まだまだ挑戦を始めたばかりの私たちには、認知の獲得は非常に重要なプロセスです。ひとつずつ、着実に壁を越えていきたいと思います。
こちらの記事は2019年10月18日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
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執筆
ハッスル栗村
1997年生まれ、愛知県出身。大学では学生アスリートを取材し、新聞や雑誌の制作・販売に携わる。早稲田大学文学部在学中。
編集
岡島 たくみ
株式会社モメンタム・ホース所属のライター・編集者。1995年生まれ、福井県出身。神戸大学経済学部経済学科→新卒で現職。スタートアップを中心としたビジネス・テクノロジー全般に関心があります。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
連載グロース・カンパニーを見抜く投資家の眼
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