XTechから1億を調達したRiLiは、スタイルを定義するコミュニティ作りを描く
開設2年で公式Instagramのフォロワー20万人を突破。ルミネエスト新宿のポップアップストアとして過去最高の売上を達成──今、快進撃を続けるのが「自分らしいスタイルを叶える選択肢」を提案する株式会社RiLiだ。
ファッションやライフスタイルの情報を発信するメディア「RiLi.tokyo(リリ ドット トーキョー)」などを運営する同社の強みは、熱狂的なファンコミュニティにある。代表取締役CEOの渡邉麻翔氏は、このコミュニティにおいて「新たな文化圏・経済圏を築くこと」が目標だと話す。
その達成に向け、2019年3月末にはXTech Ventures株式会社などから1億円を調達。社外取締役としてメルカリなどへの投資実績を持つ手嶋浩己氏を迎え入れ、盤石の体制を築く。
RiLiが目指す熱量のあるコミュニティとはどのようなものか。コミュニティを軸に形成された文化圏・経済圏はなぜ必要なのか。渡邉氏に加え、取締役CTO片山潮美氏、そして今回の調達を機に社外取締役に就任した、XTech Ventures共同創業者/ジェネラルパートナーの手嶋浩己氏にお話を伺った。
- TEXT BY MIKI OKAMOTO
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
- EDIT BY KAZUYUKI KOYAMA
Instagramのフォロワーは20万人を突破。RiLiの成長の軌跡
RiLiは、10代~20代向けにファッションやライフスタイルの情報を発信するメディア「RiLi.tokyo」を運営している。
2019年4月現在RiLi.tokyoのInstagramのフォロワーは20万人超。開設から約2年で多くのファンの心を掴むスピード感に注目が集まっている。メディアと連動したECも順調だ。初月から売上260万円を達成するほか、昨年はオリジナル商品がヒットし、月商は数千万円を超えた。Instagramで集客を行うアパレルコマース事業は競争が激化する中、着実な成長を見せている。
この躍進を裏付けたのが、2018年にルミネエスト新宿で開催したポップアップストアだ。
渡邉ポップアップストアでは、14日間で1,700万円を売り上げ、同会場のイベントとしては歴代最高記録を更新しました。それはひとえに、熱量の高いファンがRiLiに集まっているからです。期間中、Instagramには約2,500件ものRiLiのポップアップショップに関する投稿が集まり、投稿を見た人がさらに足を運んでくれたんです。オンラインでの濃い関係性が、人々の行動へと繋がることを証明できた良い事例になりました。
この成果を元に、2019年3月末にはXTech Venturesと個人投資家から1億円を調達。社外取締役に、XTech Venturesの手嶋氏を迎え、更なる成長へ弾みをつけた。
インターネットを通じて「自分らしい」選択肢を提案したい
代表の渡邉氏は、MARK STYLER株式会社を経て、株式会社Super Crowdsを創業。数々のファッションブランドのディレクションやマーケティングを担当してきた。その経験から抱いた課題意識が、RiLiを立ち上げるきっかけになった。
渡邉アパレルブランドに携わる中、ずっと解決できない課題がありました。それは「ユーザーは既に知っているブランドや商品しかネットではたどり着けない」ことです。世の中にはその人らしい選択肢がもっとたくさんあるはずなのに、現状は最適な選択肢を示す仕組みが社会にない。だから、一人ひとりにあった「自分らしい選択肢」をインターネットを通じて提案することに挑戦したかったんです。
最初は、ユーザーの嗜好に沿った商品を提案する検索エンジンに取り組むも、技術的な壁にぶつかった。別の事業案を検討していた時に起きたのが、いわゆるキュレーションサイトの信用問題だ。当時のRiLiは、勢いの著しかった「MERY」のようなメディアを通じて、様々なアイテムと出会える場としての検索エンジンを開発していた。
しかし、MERYのポジションが空いたことで、より上流からアプローチできると考え、ファッションやライフスタイルに関する情報を発信するメディア事業へとピボットする意志決定をした。
渡邉まず取り組んだのが、Instagramでの発信でした。RiLiが対象とする若い世代は、Google検索をせずInstagramから情報を得ている。タッチポイントとして利用できないかと考えたんです。結果、開設1ヵ月半で1万フォロワーを獲得。メディア事業の可能性を感じました。
多くのファンを獲得できたのは、もともと集客ノウハウがあったからではなく、仮説をたてて淡々とPDCAをまわしてきたからなんですよね。拡散の大きなきっかけとなったのが「RiLiオフィシャルメンバー」の存在でした。メンバーに提供してもらったファッションやライフスタイルに関する写真をRiLiに掲載するんです。すると、彼女たちがSNSで拡散してくれる。オフィシャルメンバーを起点にRiLiのコミュニティが広がっていきました。
RiLi.tokyoを立ち上げた半年後には、EC事業へも幅を広げる。マネタイズ策を模索する中、試験的に販売した商品は即完売。ファンからの期待の高さを感じたという。
渡邉EC事業を始めた瞬間から、ユーザーからの「待っていました」というラブコールが殺到したんです。完売した後も「再入荷はしないんですか?」「ほかの商品も見たいです」というお問い合わせが相次ぎました。その反応を見て、大慌てで仕入れ先を探したり、発送フローを整えたりしたんです。
初回販売の翌月から、RiLiはECを中心としたマネタイズ体制を構築。メディアとECを軸とする“メディアコマース”という現在のRiLiが形作られた。
ファッションとテクノロジー、両方への深い知識がRiLiの強み
RiLiの成長を支えてきたのは、ファッションへの深い理解と高い技術力の両輪だ。この技術力を支えるのが、CTOを務める片山氏である。彼女は、株式会社VOYAGE GROUPにエンジニアとして新卒入社後、株式会社Fablicに転職。開発部リーダーとして同社の成長を牽引してきた。2018年よりRiLiに参画し、2019年1月には取締役CTOに就任している。
片山私は学生時代からファッションに関するプロダクト開発に興味がありました。「IT×ファッション」についての情報発信をしていた渡邉のTwitterも大学生の頃からフォローし、当時から「何か一緒にやれるといいな」と思っていたんです。
その数年後、私がFablicのエンジニアとしてイベントに登壇したところ、渡邉から突然声をかけられたんです。ファッション検索に関する登壇だったので、テーマ的にも関心があったのだと思います。ずっとTwitterでフォローしていた人でしたから、びっくりすると同時に嬉しかったですね。そこから定期的にRiLiのオフィスへ遊びにいくようになり、Fablicが楽天に買収されて体制が落ち着いた後、RiLiへの入社を決めました。
片山氏のRiLi参画にあたり、渡邉氏は2年にわたって口説き続けたという。
渡邉ファッションに詳しいエンジニアは多くありません。その中で、片山はその両方に深い知見のある貴重な人材でした。RiLiには、ビジョンを深く理解したうえで、技術面に責任を持てる人が絶対に必要になる。そう思い、声をかけ続けました。
片山氏という力強い仲間を必要としていたのも、RiLiは創業時からデータの活用を視野に入れてサービスを展開していたからに他ならない。入社後、社内の様子を見て片山氏自身、その可能性には大いに驚いたという。
片山RiLiは、将来的に機械学習などを用いて活用することを想定し、画像やそれに紐づくデータを早い段階から工夫して蓄積してきていたんです。例えば、ひとつのハッシュタグに対して画像が複数紐づく形で掲載をしていますが、これは裏を返せば「共通点を持った画像」をデータとして蓄積できている状態ともいえる。また、画像を見ればモデルがどの商品を組み合わせて着用しているかがわかるようなデータベースも構築されていました。
こうしたデータを使えば、トレンド分析やレコメンド、外部企業との連携など、アパレル業界に先駆けて様々な挑戦を仕掛けられる。単なるメディアコマースにとどまらない可能性が眠っているんです。
哲学をもったメディアコマースをRiLiで実現したい
盤石な体制のもと、RiLiは2019年3月にXTech Venturesなどから1億円の資金調達を発表した。このタイミングで、資金調達に踏み切ったのは事業的な展望を踏まえ、アクセルを踏むべきと判断したからに他ならない。
渡邉最終的に目指しているのは、「RiLiらしさ」という同じ価値観を持った人が集まる熱量のあるコミュニティをつくることです。その大きな目標に対して、現在はリソースが全く足りていません。それを考えると今のタイミングでの資金調達は必須でした。
今回の資金投資とともに、社外取締役としての参画を決めたXTech Ventures共同創業者の手嶋氏は、株式会社メルカリやdely株式会社といった注目企業への投資実績を持つ。手嶋氏については、XTech Ventures創業までの軌跡をまとめたこちらの連載をぜひご覧いただきたい。
手嶋氏は、RiLiへの出資と社外取締役としての参画を、ほぼ迷いなく決めたと話す。
手嶋RiLiを知ったのは、ハヤカワ五味さんのnoteからでした。それまではInstagramを集客チャネルとするECは難しいと思っていたんです。しかし、RiLiは成功させている。その理由に、投資家マインドがくすぐられました。すると、ちょうどそのタイミングで共通の知人からRiLiに投資してくれないかと連絡をもらったんです。話を聞き、もちろん事業に関しては可能性を感じました。
ただ、決め手となったのは、渡邉と片山という経営者の組み合わせです。女性経営者同士で性格も合い、強みのバランスもよかった。この二人を核にすれば採用もでき、組織もつくれるだろうというイメージが沸きました。
RiLiを支援する上で、手嶋氏は社外取締役として経営にもコミットする。これは、現フェーズのRiLiにとって欠かせないピースだった。
手嶋スタートアップには「0→1のサービス作り」と「経営」というふたつの異なる力が必要ですが、RiLiはすでにサービスが立ち上がっている。いま必要なのは経営の力であり、自分が参画することでバリューを発揮しやすい。紹介いただいた方にも、「社外取締役として経営に参画してほしい」と言われていたので、二つ返事でお答えしました。
ただ、手嶋氏が「難しいと思っていた」と語るように、RiLiが取り組むメディアコマースというビジネスモデルは決して簡単ではない。「メディアを見る」動機と「商品を買う」動機は異なる。手嶋氏もRiLiの可能性を見いだしつつも、チャレンジングな領域だと捉えている。
手嶋株式会社gumiの国光さんもおっしゃっていましたが、メディアコマースで勝つには「ほぼ日」や「北欧、暮らしの道具店」のように、哲学をもって熱量の高いコミュニティを形成するしかありません。これには時間もかかりますし、難易度も高い。ですが、RiLiのコミュニティは熱量やロイヤリティの高さを感じる。だからこそ、成功事例を一緒に作っていきたいと思ったんです。
目指すのは、従来の街や雑誌の代替となるコミュニティ
難易度は確かにある。ただ渡邉氏は、「同じ価値観をもつ人が集まる、熱量のあるコミュニティの形成を目指す」と語り、価値を理解した上で淀みなくその成功を見据えている。渡邉氏が目指す熱量のあるコミュニティは、なぜ今の時代に必要となると信じるのか。そんな問いを投げかけると、渡邉氏は「ユーザーにとって、コミュニティは街や雑誌の変わりになるからだ」という意外な答えを返した。
渡邉少し前まで、ファッションは「渋谷系・原宿系・丸の内系」などの街や「CanCam系・NYLON系」といった雑誌の名前でカテゴライズされてきました。しかし、利便性や話題性といった経済合理性が優先された結果、最近は街や雑誌がコモディティ化している。ファッションを定義するものがなくなりつつあるんですよね。RiLiはその代替となる存在になれないか──と考えているんです。
これまでファッションを定義してきた街や雑誌が均質化したことで、若者は「自分は何系なのか」というアイデンティティを持ちづらくなっていると渡邉氏は指摘する。情報があふれる社会において、アイデンティティ不在のまま、自分らしいファッションやライフスタイルを選択する難易度は非常に高い。
渡邉RiLiを、同じ世界観を持つ人が集う街や雑誌のようなコミュニティにしたいんです。すでにInstagramでは「#riliっぽベージュコーデ」「#riliっぽネイル」などのハッシュタグがつくられて、そこにユーザーが集まっています。「RiLi系」という概念をつくることで、RiLiのコミュニティに来れば自分らしいスタイルの選択肢が見つかる。そんな居場所をつくりたいんです。
いまは、ファッションを中心に事業展開していますが、今後はコミュニティに集まる人が必要とする様々なものや情報へも編集する対象を広げていきたい。そして、RiLiを新たな文化圏・経済圏として機能させていきたいです。
コミュニティを軸とした文化圏・経済圏を作り上げるという壮大な目標。しかし、確かな技術に裏打ちされた実績を、RiLiは着実に積み上げてきた。資金調達を経て新たなステージに進むRiLiが、そのビジョンを達成する未来は近いのかもしれない。
こちらの記事は2019年04月25日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
1991年生まれ。児童養護施設での学習支援ボランティアを通して、貧困・格差問題に興味を持ち、東京大学大学院で教育社会学を専攻。発達障害等のお子さまをサポートする学習教室LITALICOジュニアで指導員・教室長を経て、現在はフリーライターとして活動。
写真
藤田 慎一郎
編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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