メディアの関心を集め、ローンチ直後のインパクトを最大化。XTV手嶋氏と解き明かす、スペースマーケットの成長戦略
投資家やVCが事業のどこに注目し、何を高く評価するのか── 起業家にとって、資金を調達し、その先に見据えるミッション実現を目指すうえでも知っておきたいポイントだ。しかし、投資の決定要因が語られる機会は決して多くはない。
そんな閉ざされた世界を解き明かし、急成長するスタートアップを増やしていくべく、連載企画「グロース・カンパニーを見抜く投資家の眼」が立ち上がった。XTech Ventures株式会社共同創業者兼ジェネラルパートナーの手嶋浩己氏が、主に投資先のスタートアップCEOと対談。手嶋氏が投資を実行するまでの経緯から現在に至るまで、事業成長の背景を掘り下げていく。投資家が魅力を感じる事業の共通項や、創業期スタートアップが成功するために押さえるべきポイントを明らかにする。
第1回は、2019年1月にXTech Venturesから資金調達した株式会社スペースマーケット代表・重松大輔氏との対談を前後編でお送りする。
シェアリングエコノミーサービスの社会浸透を追い風に、順調に事業を成長させてきたスペースマーケット。主にシードやアーリー投資を行うXTech Venturesが、当時すでにレイターステージであった同社に投資するのは異例とも言える。フェーズが違うにも関わらず投資を実行した背景には、いったいどのような”魅力”があったのか。
前編では、重松氏がサービスを構想した発端と、事業成長のきっかけとなった「法人営業中心のビジネスモデルから、CtoCプラットフォームへのシフトチェンジ」の経緯を掘り下げ、重松氏の事業家としての魅力とスペースマーケットの成功要因に迫る。
- TEXT BY HUSTLE KURIMURA
- EDIT BY TAKUMI OKAJIMA
スペースマーケットの原点は「類似サービスの分析」だった
「スペースマーケット」は、国内外のレンタルスペースを時間単位で貸し借りできるシェアリングプラットフォームだ。2014年4月のローンチ以降、順調にユーザーと掲載スペース数を伸ばし続けているだけでなく、最近では東京メトロや京王電鉄と連携したシェアリングスペースの展開も行っている。
重松氏がスペースマーケットを創業したのは、2014年の1月。前職であるインターネット写真販売サービスを運営するフォトクリエイトでは、広報や採用、新規事業の立ち上げといった複数の業務に携わり、2013年7月のIPOに大きく貢献した。
その後は「創業者として一から事業をつくりたい」という想いに突き動かされ、37歳にして起業を決意。ツアーガイドと観光客のマッチングサービス、野球チームのスコア管理ツール、習い事の月謝をオンラインで処理できるプラットフォームなど、100個近くの事業アイデアを構想した。そしてその末にたどり着いたのが、空きスペースを気軽に貸し借りできるサービス、今のスペースマーケットだった。
重松「Airbnb」や「Uber」などのサービスを分析していたときに、スペースマーケットのアイデアがふっと降りてきました。リサーチしてみると予想通り、海外ではAirbnbの会議室版のようなサービスを展開するスタートアップはいくつか存在し、資金調達している会社もありました。
複数のシェアリングサービスが頭角を現しているだけでなく、日本では貸会議室や貸ホールを運営する株式会社ティーケーピーが成長を続けており、「スペースのシェアリングサービスで成功できるのではないか」と考え始めたんです。
スペースマーケットの構想を、親交のある経営者たちへ相談していくなかで、重松氏の考えは確信へと変わっていく。なかでも「重松さんっぽいね。それに重松さんの営業力は武器になる」という言葉をかけられたことが、起業を大きく後押しした。
なぜなら、まずは貸し借りの対象となる「レンタルスペース」を1つでも多く確保し、サービス初期から盛り上げなければならないからだ。かつて勤めていたNTT東日本で法人営業企画に従事していた重松氏は、その経験を活かし、初期のスペース確保で成功を収めていった。
手嶋クラウドワークス創業者の吉田浩一郎さんも、キャピタリストの田島聡一さんから「向いていそうだから」とクラウドソーシングのアイデアを授けられた。自分のことをよく知っていて、かつ事業家としての素養がある人のアドバイスを聞くのは大切だと思います。
スタートダッシュ成功の要因は「ユニークな利用方法の発信」と「CtoCへのシフトチェンジ」
手嶋氏はスペースマーケットの成功理由を、どのように見ているのだろうか。
その要因を、重松氏がフォトクリエイトの広報に携わった経験を活かし、実績の少ない立ち上げ直後にメディア露出の機会を多く得たことだと見る。ローンチまでの準備について手嶋氏が問うと、重松氏は当時のPR戦略について明かしてくれた。
重松メディアを通じて「古民家、お化け屋敷、お寺など、通常はあまり貸し出されていないような場所を借りられ、ルールさえ守ればどんな用途で使っても良い」というメッセージを、ユニークな使い方の例と合わせて積極的に伝えました。「スペースマーケットを使えば、空きスペースを利用してユニークなイベントや行事を企画できる」と発信しているうちに、徐々にメディアでサービスを紹介してもらう機会が増えていったんです。
ユニークな発信で注目を集め、サービス立ち上げ時のインパクトを最大化したスペースマーケットのPR戦略を、手嶋氏は絶賛する。
手嶋エニグモの「BUYMA」も、最初は「ロケットから割り箸までなんでも出品できる」というキャッチコピーで、一気に注目を集めました。BUYMAはその後ファッションに限定して事業を展開しているわけですが、最初のインパクトで強い認知を獲得したからこそ、ビジネス領域を限定しても十分戦っていくことができる。特にマーケットプレイス型のプラットフォームは、最初に大勢のユーザーを集めて活気を生めるかどうかが、命運を左右しますからね。
スペースマーケットは、2016年8月のシリーズB資金調達まで、会議室を法人へ貸し出したり、スペースでのイベントを受託したりするBtoB事業が、売り上げの半分を占めていたという。しかし、2016年から「BtoBからCtoCへとシフトチェンジ」することで、現在まで順調に業績を伸ばしてきた。現在は、売上のほとんどをCtoCプラットフォーム事業が占めている。
重松メルカリのユーザー数や出品数が右肩上がりに増え続けているのは、CtoCサービスを使った方が便利だと、世の中が気付き始めている証拠だと思っています。そういった時流やニーズにも合わせながら、スペースマーケットもCtoCプラットフォームにシフトチェンジしたんです。そのための配置転換も行いました。苦労しましたが、やってもらう仕事内容は変わりつつも、それぞれのメンバーに活躍してもらえています。
今後は、既存のBtoCサービスでは借りられないようなスペースも多く提供し、ユーザーを集め、個人間の取引数をどんどん増やしていきたい。スペースマーケットの認知度はまだまだ低く、それだけ伸び代も大きいはずです。
BtoB事業として立ち上がり、いわゆる”営業ドリブン”な組織体制から、メルカリのようなCtoCプラットフォームへと転換させることの困難は想像に難くない。重松氏は、いかにして体制を転換させることに成功したのか。
手嶋営業型の組織からエンジニア中心の組織体制へと移行するのは、思っている以上に大変です。スペースマーケットの成功要因は、2つほどあると思っています。それは、「重松さん自身の経営者としての器」、そして「覚悟」です。
このような転換を行う時に求められるのは、強いリーダーシップとメンバーとの密なコミュニケーション。前職時代も含めた重松さん自身の経験と人間性が、それを可能にしたのではないでしょうか。
対談後編では、XTech Venturesがスペースマーケットへ異例の投資を行った背景から、重松氏が見据える今後の展望までをお届けする。
こちらの記事は2019年10月08日に公開しており、
記載されている情報が現在と異なる場合がございます。
次の記事
執筆
ハッスル栗村
1997年生まれ、愛知県出身。大学では学生アスリートを取材し、新聞や雑誌の制作・販売に携わる。早稲田大学文学部在学中。
編集
岡島 たくみ
株式会社モメンタム・ホース所属のライター・編集者。1995年生まれ、福井県出身。神戸大学経済学部経済学科→新卒で現職。スタートアップを中心としたビジネス・テクノロジー全般に関心があります。
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
連載グロース・カンパニーを見抜く投資家の眼
8記事 | 最終更新 2019.12.03おすすめの関連記事
そんな事業計画、宇宙レベルで無駄では!?プロ経営者と投資家が教える3つの秘訣──ラクスル福島・XTech Ventures手嶋対談
- ラクスル株式会社 ストラテジックアドバイザー
「スタートアップ支援」の醍醐味を、独立系VC・CVC・銀行などのエピソードに学ぶ──XTV西條・手嶋、みずほ銀行大櫃氏、WiL難波氏、GREE相川氏ら豪華登壇者が集結イベントをレポート
- XTech株式会社 代表取締役CEO
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- エキサイトホールディングス株式会社 代表取締役社長CEO
「小売の概念が、流動化する」とは?goooodsの次世代B2Bコマースから、XTV手嶋がECの未来を読み解く
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
給与データの収集で、一体何が起きる?XTV手嶋が期待する「人材市場の変革」構想を、あの南場氏も舌を巻く豪胆さの元DeNA人事本部長に聞く
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
Web3トレンド、次は社会実装のタイミングを見極めろ──24karatがアップデートする、新時代のブランディングとは
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
Web3スタートアップは、タイミングこそ命──想像以上の盛り上がりを見せるPictoriaの戦略を、手嶋氏と読み解く
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
「何となく作ったプロダクトは応援されない」レッドオーシャンで勝ち筋を作るスタートアップのあり方
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
別に東京で起業することにこだわる必要って無いよね──『エアクル』のローカル課題を起点に全国にサービス広げる戦略とは?
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
知ってる?BtoB企業が殺到し始めた“エレベーター広告”の3つの特徴──XTV手嶋、三菱地所・石井、東京・羅が、起業物語を語り尽くす
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
クリエイターエコノミーは、SaaSの裏返し?──XTV手嶋・Natee小島が徹底解説する、新しい経済のかたち
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
「有料ユーザーの95%が最高額プラン」toCプロダクトの魔力とは?愛猫家の熱狂を生んだ、元研究者/元リクPdM起業家の思考と行動
- 株式会社RABO 代表取締役
“高過ぎる受注率”を経営判断で実現。すぐ売れるSaaSを創った「事業会社に敢えて売らない戦略」とは
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
投資も経営も未経験でも、VCで活躍“できる”──投資家・起業家計6人に聞く「事業会社から、唯一無二のキャピタリストになる方法」
- XTech株式会社 代表取締役CEO
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- エキサイトホールディングス株式会社 代表取締役社長CEO
他社の決算に“感情移入”せよ──ラクスル福島・XTV手嶋の「ビジネスモデル分析対談」
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
「アプリは贅沢」な時代だからこそ、活用したい“アプリマーケ”術──受託からSaaS企業へ超転換したランチェスター田代に聞く
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
「投資家と事業家、二刀流」のプロ。XTech Ventures西條・手嶋が語るベンチャー投資という仕事の魅力
- XTech株式会社 代表取締役CEO
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- エキサイトホールディングス株式会社 代表取締役社長CEO
2021年、今年のSaaSはココに注目。VCに聞く、起業家必読の12問【FastGrow Answers VC特集/後編】
- ALL STAR SAAS FUND Managing Partner
これから伸びる市場は、起業家に教えてもらう。気になる12の質問をトップVCに聞いた【FastGrow Answers VC特集/前編】
- ALL STAR SAAS FUND Managing Partner
JV立ち上げのポイントは「エゴを消すこと」と「コミット引き出す座組み」──アセマネ業務の10倍効率化を目指す、LayerX×三井物産の新会社設立の軌跡
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
ZoomとSlackでは、感情どころか業務内容も伝わらない?テレワークの秘訣は「テレカンでもテキストでもないちょうど良い会話」の有無にあり
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
「資金ショートまであと5日」でも闘う姿勢が投資家の信頼に。D2C最注目企業Spartyに学ぶ“ユーザーからも株主からも逃げない経営”
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
「在庫がないのに注文が入る」というパラダイムシフトで年率2,500%成長!スニーカー売買プラットフォームに隠された急成長の仕組みを解明
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
コアユーザーは「対面」で口説いた仲間。急成長を見据え非効率の連続も厭わないAntaa中山にXTV手嶋が迫る
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
5年連続200%成長を生んだ極意“おせっかい”。決裁者プラットフォームが「出会い」創出、オンリーストーリーの戦略に迫る
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
「若手にVCは無理」なんて幻想だ。20代キャピタリストが志す、VC業界のアップデート
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
「起業アイデアは借りたっていい」と後押し。XTech西條氏・手嶋氏トークレポートを起業家合宿から
- XTech株式会社 代表取締役CEO
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- エキサイトホールディングス株式会社 代表取締役社長CEO
新卒でXTech子会社役員へ就任した廣川航氏に聞く、事業家キャリアの歩みと展望
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
学生時代から活躍する事業家の「共通点」──LayerXの若手エースから溢れ出る、事業をドライブする主体性
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
驚異の「成長率3600%」は不断の修正から生まれた。カンム八巻渉が振り返るPMFまでの道のり
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
タクシーは「月に150万円生む1坪の不動産」。モビリティを攻める“不動産屋”、アイビーアイ金子健作の事業開発論
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
レッドオーシャンに潜む盲点を突く。士業・管理部門特化型エージェントを運営するヒュープロに学ぶ、ニッチトップ独占戦略
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
勝てるD2Cブランドをつくるなら、むやみなABテストはご法度。「ダサい」サプリメントを変革するトリコの戦略
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
急成長スタートアップ経営陣が語る、CxO人材に求める「経営者」としての姿勢
- 株式会社マネーフォワード 取締役執行役員 コーポレートディベロップメント担当
リクルート、博報堂から“創業直後”のベンチャー企業へ。草創期にトップVCがみた「スタートアップで働くリアル」
- 株式会社エースタート 代表取締役CEO
XTechと共に事業価値を最大化させる。ミクシィが踏み切る300億円をかける挑戦
- 株式会社ミクシィ 代表取締役社長執行役員
XTechから1億を調達したRiLiは、スタイルを定義するコミュニティ作りを描く
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
経験を積んだエグゼクティブに働き方改革を。事業も投資もする、新しいタイプのVC
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
ユナイテッドで確立された、経営者と投資家の顔。ブーストさせたのはSkyland Ventures木下慶彦
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
インタースパイアでの苦しい時代を共に戦った、UUUM中尾充宏
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役
エニグモ須田に会えなかったら、今も僕は博報堂にいたかもしれない
- XTech Ventures株式会社 代表パートナー
- 株式会社LayerX 取締役