急成長スタートアップ経営陣が語る、CxO人材に求める「経営者」としての姿勢
CxOなんて肩書きに過ぎない──。
こんな挑戦的な言葉で幕を開けたのは、2019年12月7日に開催された『Future CxO Summit vol.2──次世代CxOの条件とは』だった。
時代を牽引する急成長企業のCxO陣が登壇した同イベントは、3部構成で開催された。1部は『時代を創るCxOの資質 −今求められる経営人材とは』と題したトークセッション、2部はFastGrowが注目する企業のCxOによるピッチ、3部では登壇したCxO陣と参加者を交えた座談会がおこなわれた。
本レポートでは、1部のトークセッションを中心に、イベントの様子を紹介する。マネーフォワード 取締役執行役員コーポレートディベロップメント担当 金坂直哉氏、DMM.com COO兼DMM GAMES CEO 村中悠介氏、READYFOR 代表取締役COO 樋浦直樹氏の3名が登壇。モデレーターをFastGrow編集長/事業責任者の西川ジョニーが務めた。
- TEXT BY KAZUYUKI KOYAMA
- PHOTO BY SHINICHIRO FUJITA
CxOは肩書き、求められるのは経営者としての姿勢
樋浦CxOはあくまで経営者です。各々役割やミッションを持ち、その時々のゴールに向けコミットしますが、「これはCFOの役割だから」と経営課題を個々だけの責任にはできません。かつ、解決すべき課題も時期によって変化しますし、全員のコミットが欠かせない場面もあります。社内でも四半期のミッション単位で役割を付ければいいと話すくらい。CxOという名前は、対外的な部分以外そこまで意味を持たないと感じています。
控え室での雑談から議論が白熱していたという登壇者の面々。それが垣間見えたのが樋浦氏のこの言葉だ。
「今求められる経営人材」というテーマに対して樋浦氏が返した言葉に、登壇者たちは大きく首を縦に振る。バックグラウンドもキャリアも異なる三者だが、その覚悟は共有していた。
では、その上でどのようなスキル、スタンス、バックグラウンドが求められるのか。まず掲げられたのは「CxO人材に求められる素養」だ。樋浦氏はフェーズによる変化を挙げた。
樋浦フェーズでも差はあると思います。私のように創業期から入ると、様々な領域を担うので、なんでもやる意識が強いです。一方、フェーズが進んだ後では「専門領域と経営をつなぐ役割」になる。たとえば、2019年にジョインしたCTOの場合、技術者としてのスキルだけじゃなく、目指すべき社会をテクノロジーでどう実現するかが責務になっています。
村中氏は、専門領域を問わず、経験値としての「事業成果」を挙げた。
村中DMMの場合、まずは事業で成果を上げた経験が欠かせないと考えています。DMMには多様な事業があるので、ドメインは何でも構いません。ひとつできればそれが応用できますから、まずはきちんとした成果を残すのがCxOへの入り口ではないでしょうか。
二人の話を引用しつつ、金坂氏はスキルやマインドセットといった具体を語る。
金坂おふたりの話以外で言えば、会社や事業に対するパッションやコミット、覚悟は欠かせません。広範な領域を見られるスキルも当然必要にはなる。その上で、自身の領域を深める意識は欠かせません。CFOであれば、会社の中の誰よりもその会社の財務処理について深く考え、情報をもつ必要はあります。
フェーズや状況が定義する、CxOがなすべき仕事
次に、テーマは「CxOがやるべき仕事」に移る。ここでは、事業フェーズ、管掌領域、事業体も異なるからこそ、各々の経験にもとづく話が展開された。
まずは村中氏だ。DMMは現在40以上もの事業を展開し、自らをプラットフォーム企業と定義づけている。CxOにも、その特殊性に合わせた役割が求められるという。
村中横串の視点は欠かせないですね。現状、DMMの社内は各事業が個別で裁量を持てるよう、縦割りの事業部構造としています。ただ、その分、個別最適が起こりやすい構造的問題もある。横串で40以上の事業を見て、リソースやアセット、ナレッジを共有し、補完し合えるもの同士をつなげる役割が必要になるんです。
最近、農業分野の企業がグループにジョインしたのですが、彼らが向き合う課題には、全く異なる事業がもつアセットで生かせる部分があった。結果、DMM傘下で三つの会社をつなげて、一緒にやろうという話が進んでいます。このような俯瞰したアプローチは、当社の場合はCxOが担っています。
金坂氏は、現在担当するM&Aにおける重要な役割をCxOが担っているという。
金坂マネーフォワードでは、M&Aでグループに入っていただいた企業の代表と、代表を含めた経営メンバーが密にコミュニケーションを取ります。グループになる以上は信頼関係が要ですから、経営メンバーがコミットする。その意思表示の意味も込め、対峙してもらっています。
樋浦氏は採用面へ言及する。たしかに、FastGrowで取材を重ねる中でもCxOの役割に採用を挙げる経営者は少なくない。採用と企業成長は切っても切り離せないからだ。
樋浦CTOであればVPoE(Vice President of Engineering)など、現場を一任する自分の領域のVPを採用できることは、すごく重要だと感じています。先ほどCTOの話をしましたが、当社はエンジニアリングの組織構築ができるメンバーがおらず、成長のボトルネックになっている部分がありました。
ただ、2019年頭にCTOの町野が入社。すぐにエンジニア組織を束ねるVP人材の採用も進めてくれました。それからは、開発・技術チームが完全に自走するようになり、圧倒的にスピードが変わっていった。この価値は非常に大きいと感じています。
いずれも、それぞれの環境では正解であり、他の会社でも応用可能性は十分にある。ただ、あくまで企業のフェーズや事業構造によって、求められる役割や業務は異なる。冒頭の樋浦氏の言葉のごとく、「肩書き」にとらわれず、必要とされるあらゆる役割を全うする意識が欠かせないはずだ。
CxOに向け取り組むべき「インプット」と「内省」
最後のテーマは「CxOを目指す上で意識すべきこと」。ここまでのマインドセットや素養は不可欠な要素ではあるものの、一朝一夕で養えるものではない。まず、どのように行動を変えるべきか。そのヒントを提示してもらった。
金坂氏、村中氏の両者が強調したのは「インプットの大切さ」だ。あえて伝えるべきテーマだからこそ両者はマイクを取った。
金坂経営層は、インプットがとても大事になります。当社の代表も日々多様な人と会い、新たな情報を得続けている。それらの情報が組み合わさって、新たな視点や視座を獲得していると感じます。
私も、2017年の上場を経て少し落ち着いてから、興味のあるテーマの勉強に時間を取ったり、意識的に人とたくさん会ったりするようになりました。もともと、あまり人付き合いが得意ではないのですが、多様な人から情報を得ると、視野の広がりや新たなアイデアが生まれることを身をもって理解しました。だからこそ、この大切さをあえて伝えさせてください。
村中私もとにかく様々な人と会うことを大切にしています。31歳でDMMの役員になってから生き方を変えようと決め、9年間、夜は必ず誰かとご飯を食べるようにし続けてきました。しんどいときもありますが、それでも続けています。
とくにオススメなのは、仕事とは関係のない業種や仕事の人ですね。全然違う考え方や課題に触れると、いろんなアイデアや視点が獲得できる。様々な方から学びを得るのは、とても大切だと思います。
ふたりの話からインプットの大切さに触れつつ、樋浦氏は内省の大切さに言及した。
樋浦私は内省をオススメしたいです。1年半ぐらい前からコーチングを受けているんですが、方針を決める立場だからこそ、「本当はどんな未来をつくりたいのか」「どう生きたいのか」と自分を見つめる時間の大切さを強く感じています。
向き合うべきことが明確になれば、内発的なエネルギーも生まれる。加えて、お二方が話されていたインプットの目的もはっきりするので、質や解像度も上がるでしょう。自分と向き合う機会は中々取りづらいからこそ、その意識を大切にして欲しいですね。
急成長企業CxOが語る、展望と成長要因
三者のトークセッションの後には、計6社のCxOによるピッチが開催された。
1人目は、自然電力代表の川戸健司氏。東日本大震災をきっかけにスタートした同社は、現在国内だけでなくブラジルやフィリピン、ベトナムなどグローバルで発電事業を展開している。創業8年目でここまで拡大できた要因を川戸氏は「ひとえに“パーパス”のおかげだ」と語る。「青い地球を未来につなぐ。」というパーパスに共感し、国内外から人が集まり、現在は世界30カ国からメンバーが参画。各地域とのつながりを活かしつつ事業を拡大しているという。
2人目は、スペースマーケット代表の重松大輔氏。ちょうどイベントの前月に上場承認がおり、2019年12月20日にマザーズへと上場した同社は、2014年の創業から一貫してスペースシェアリングプラットフォーム『スペースマーケット』の提供を通して事業を拡大してきた。「Airbnbの時間貸し版」と重松氏は解説してくれたが、会場でも5割以上が利用経験があると回答するなどユーザー認知も高い。上場を経て、次のフェーズに向けた動向が注目をされる企業のひとつだ。
3人目は、ナイル取締役の土居健太郎氏。同社はデジタルマーケティング支援の事業を中心に拡大。現在は、そのナレッジやノウハウを活かし『Appliv』などのWebサービスを運営するメディアテクノロジー事業、『カルモ』などのモビリティサービス事業も展開する。「デジタルマーケティングで社会を良くする事業家集団」と企業ビジョンに掲げるとおり、いまの事業展開にも、その姿勢が現れている。
4人目は、プレックス代表の黒﨑俊氏。ドライバー特化の人材紹介サービス『Driver JOB』を展開する同社は、マーケットの規模はありながら参入障壁が高くプラットフォームが存在しない領域として物流を選択。創業から一年半ながら、約600社の企業が利用し2万人のドライバーが登録するサービスまで成長。組織も30人ほどまで拡大している。黒﨑氏いわく「運送業向けのプレイヤーはほぼいない」という。今後は、人材だけでなく車両の調達や案件のマッチングなどへの展開を検討していると展望が語られた。
5人目はメディカルノートCFOの髙岡美緒氏。医師と患者をつなぐデジタルヘルスケアプラットフォーム「Medical Note」を展開する同社は、現在創業6年目、130人ほどのメンバーが在籍し、累計調達額は30億を超える。医療という重厚長大で難易度も高い領域に挑みながらも、現在は月間2,000万ユーザーを抱えるまでに成長してきた。ヴァリューズが発表した「Webサイト&アプリ市場のユーザーランキング2019」でも、前年比でユーザー数が急増したWebメディアとして4位にランクイン。さらなる躍進が期待される企業のひとつだ。
6人目は、リーナーテクノロジーズ代表の大平裕介氏。ATカーニーでコスト削減のコンサルティングに従事した経験から、「より多くの企業に、できるだけ安価にこれを提供できないか」と考え開発したのが、コスト削減を支援するSaaS型プロダクト『リーナー』だ。経費はどの企業にもあるが、費目レベルで「何に、いくら使っているか」を把握できている企業はほとんどなく、またその水準が妥当であるかは判断がしづらい。同社は、それを機械学習と独自のデータベースを用いて実現している。2019年2月の創業で、インキュベイトファンドやクラウドワークス成田氏、ラクスル松本氏などから資金調達するなど、着実に歩みを進めている。200兆円もあるという「間接費市場」をどこまで席巻できるか。今後の動向を注目したい。
冒頭で登壇した3名、そしてピッチに参加した6名を含め、いずれも専門性やスキル面だけではなく、強い経営へのコミットがある人物が肩を並べた。もちろん、CxOの「x」にあたる専門性や知見は欠かせない。ただ、その専門性を突き詰めた先にあるのがCxOではなく、経営者としての覚悟や姿勢が必須条件だ。その上で、いかに必要な要素を積み上げられるかが求められる。
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こちらの記事は2020年01月23日に公開しており、
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編集者。大学卒業後、建築設計事務所、デザインコンサル会社の編集ディレクター / PMを経て、weavingを創業。デザイン領域の情報発信支援・メディア運営・コンサルティング・コンテンツ制作を通し、デザインとビジネスの距離を近づける編集に従事する。デザインビジネスマガジン「designing」編集長。inquire所属。
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藤田 慎一郎
1986年生まれ、東京都武蔵野市出身。日本大学芸術学部文芸学科卒。 「ライフハッカー[日本版]」副編集長、「北欧、暮らしの道具店」を経て、2016年よりフリーランスに転向。 ライター/エディターとして、執筆、編集、企画、メディア運営、モデレーター、音声配信など活動中。
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